13-5


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」13-5


429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 18:53:06.86 ID:VaDFVbYP
大主教「この衣を引きはがせるのは勇者のみっ。
 そして勇者が力を失った現在、
 我の力を阻めるものは存在しないっ!」

ガキィッ! ギィン!

女騎士「その力で何を目指すっ!? 過ぎたる力でっ」

大主教「我は“次”へ向かうのだっ」

女騎士「次――?」

ギィン! ギキィン! ガッ!
女騎士「っ!」

大主教「そうだ。“次”だ。“次なる輪廻”だっ。
 この世界はもはや収斂の最後の段階にあるっ。
 これが逆転することはあり得ぬ。
 生きようが死のうが構わぬではないか。
 どうせ全て“無かったこと”になるのだっ。
 思い出さえ残らぬ。思い出す存在も全ていなくなるのだからっ」

ギィン! ガッ! バシィィ! ヒュバッ!

大主教「我はこの世界には未練はない。
 全てが滅びる時まで共にするほどの愛着も感じてはいないっ。
 我は“次なる輪廻”へと旅立つ。精霊の力をもってなっ。
 そして次の世界こそが終末点だ。
 全ての旅の終わり。――それこそが“喜びの野”っ!!
 なぜなら今や魔王と勇者の二つの力を兼ね備えた
 そして“ただの人間”である我の能力は全てを越え
 精霊さえも思うがままにする権能を手に入れるからだっ。
 あの聖骸の熱量を取り込んだ我は“次なる輪廻”にて
 光の精霊の地位を手に入れるっ!
 否! 光の精霊として“喜びの野”へと降り立つっ。
 そして、二度と世界を繰り返したりはしない。
 人は愚かで、醜く、度し難いっ。
 繰り返して救う価値などはないのだ。
 ただそこには永遠に続く我の箱庭さえあればよいっ!」
430 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 18:55:04.44 ID:VaDFVbYP
女騎士「魔王の力を弄び、出した答えが……っ」

大主教「女騎士っ! 跪き、命乞いをせよっ!」

女騎士「だれがっ!」
大主教「戯けがっ」

ビキィィ!

女騎士(これはっ……!)

大主教「小器用な動きで回避を繰り返すが、
 そのような手妻など何ほどのこともないっ。
 我にはそれに対応するだけの膨大な力が、すでにある」

女騎士(まずいっ。これは広域殲滅用のっ……!)

ジリっ! パチパチパチパチ……

大主教「ふふふっ。命乞いをする気になったか?
 われを光の主として崇める気になったか?」

女騎士「黙れ。……私は湖畔修道会の騎士。
 そして剣を捧げた主は、勇者ただ一人!!
 たとえ、全世界が雪を染める黒い煤のごとく汚れていようと、
 お前が全てを焦がし尽くすほどの戦力を持っていたとしても
 二君に仕えるような剣を私は持っていないっ。
 私はっ。
 勇者のっ!!
 勇者だけのっ!! 守護騎士だっ!!」

 ギィィィンン!!!

大主教「よく言った。死ぬが良いっ!!
 24音! 集いて唱和せよっ!! “超高域雷撃滅呪”っ!!」

女騎士「~っ!!」

 ――ズシャァァァーン!!
434 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19:51:36.63 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、遠征軍本陣

ギィン! ドグワァ!!

軍人子弟「後続っ! 立て直すでござるっ!!」
鉄国少尉「あのマスケット部隊を落とさなければ……っ」

ズギュゥゥンっ!

軍人子弟「ライフルの支援があるでござるっ!
 カノーネ部隊まで突撃! 四列縦走っ!」

鉄国騎士「大地のためにっ!」 ガシャン!
鉄国騎士「地の果てまでもお供しますぜっ! 卿!」

軍人子弟「はははっ! 行くでござるよっ! 突撃っ!!」
鉄国少尉「くっ!」

 ドゥン! ドゥン!! ドゥゥン!!

 光の銃兵「く、くるなぁ!! 来ないでくれぇ」
 光の銃兵「撃つぞ、撃つんだぞぉ!」

鉄国騎士「やぁぁぁぁ!!」 ガキィン!
鉄国騎士「はぁっ!」

軍人子弟(すでに損害が20を越えたでござるっ……。
 だが、もうすこしっ……。あと数百歩で、
 カノンにたどり着けるっ)

鉄国少尉「どけぇ!! 我が道を阻むものは、
 鉄国少尉が相手になる。退がれぇ!
 精霊の名を戦に用いる卑怯者っ!! 恥を知れっ!!」

 光の銃兵「ひぃっ! 死にたくないっ」
 光の銃兵「俺たちだって死にたくないんだぁ」

 ドゥン! ドゥン!!

鉄国少尉「っ!! がふっ!」
435 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19:52:58.45 ID:VaDFVbYP
軍人子弟「少尉っ!!」
鉄国少尉「心配……無用です……」

ギィン! ガギィン!!

鉄国騎士「突撃っ!! 続けっ!」
鉄国騎士「二列、波状にて突貫っ!」

鉄国少尉「今はカノーネをっ!!」
軍人子弟「……ついてくるでござるよっ」

鉄国少尉「ええ。……ええ! どこまでだって!!」

軍人子弟「落馬するなら見捨ててゆくでござるっ」

鉄国少尉「お任せくださいっ。
 わたしはまだまだあなたに
 学ばなきゃならない事があるんです。
 そしてあの素朴な国をいつまでも
 守らなきゃならないんですからっ」

 ドゥン! ドゥン!! ドゥゥン!!

軍人子弟「道を開けよっ!! 開けるのだっ!!」

ダガダッダガダッダガダッ!

鉄国少尉「護国卿……」

軍人子弟「いつまでもこの下らぬ騒ぎを
 続けるつもりでござるかっ! 拙者はっ!!
 拙者はもう、うんざりでござるっ!」

 ギンッ!!

軍人子弟「焦げた匂いもっ!」

 ガギンッ!!

軍人子弟「耳を覆いたくなる悲鳴もっ!!」

 ドガァッ!!

軍人子弟「もうお終いにするでござるよっ!!」
437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19:54:02.21 ID:VaDFVbYP
――開門都市、9つの丘の神殿の鐘楼

ざぁざぁ~っ……

器用な少年「風が出てきたなぁ」

若造傭兵「この高さだ。仕方ない」
生き残り傭兵「気をつけろよ」

器用な少年「まかせとけよぅ。いいのかな」

――ゴォォン――どけぇ、どけぇ――精霊は――

生き残り傭兵「いっちまおう」
若造傭兵 こくり

器用な少年「んじゃ、鳴らすぜ。……重いっ。
 なんて重いんだよ、このやろう。んっせぇっ!!」

若造傭兵「……」
生き残り傭兵 ごくり

器用な少年「よいっしょぅ!!」

――ァン。カラァン! カラァン!! カラァン!!

若造傭兵「よし」

カラァン! カラァン!! カラァン!!
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

生き残り傭兵「他のみんなも成功させたか。
 九つの鐘が鳴っている。ははっ!
 みんなぽかんと見上げてるぜ! 遠征軍も、都市の連中も!」

器用な少年「そりゃいいけれど、
 どーやって逃げ出すんだよ、こっから!」

若造傭兵「そいつぁ姉ちゃんがどうにかすんだろうよ。
 俺たちはほんの一分か二分、
 連中を呆気にとらせりゃそれでいいのさ」
438 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/16(月) 19:55:54.32 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、世界の終わりのような戦場

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

  斥候兵「え?」

  光の銃兵「な……」
  光の槍兵「なんだ、この音は」

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

鉄国騎士「音が……」
軍人子弟「音が降ってくるで……ござる……」

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

光の農奴兵「どこから……」
光の傷病兵「大聖堂の鐘みてぇな……」
光の少年兵「なんて綺麗な音なんだろう」

奏楽子弟「陽が差し込んでくる」

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

獣人軍人「風が吹いてくる……」
巨人作業員「オォ……砲声が、やんだ……」

義勇軍弓兵「静かだ……。戦場なのに」
土木師弟(雲が、切れる……。奏楽子弟……)

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

王弟元帥「なんだっ。鐘の音ではないか。
 貴族軍が占領を達成したのか。この音は、この風はっ」

  ザクッザクッザクッ

聖王国将官「元帥閣下っ。お気を付けくださいっ」

ザクッザクッザクッ

貴族子弟「――」

王弟元帥「……ここで来るか」

メイド姉「お目にかかりに参りました。王弟閣下」にこり
461 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00:41:50.23 ID:Afl8afoP
――開門都市近郊、遠征軍本陣、その中央

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

王弟元帥「約束どおり、というわけか」
メイド姉「はい、お約束どおり」

王弟元帥「それにしては援軍の姿が見えないが?」
メイド姉「いずれ参ります」

王弟元帥「ここは戦場だ、女子供の来るところではない」

メイド姉「勇者だ。と申し上げたはずです」

王弟元帥「……退くつもりはないということか」

メイド姉「退いて頂く交渉をしに来たのですから」

王弟元帥「この期に及んで。この血と硝煙の香りに満ちた
 裂壊と怒号の戦場においてそのような綺麗事を語るか。
 ここは死と鋼鉄がその意を通す場所だ。
 宣告しておいたはずだ。次に出会う時は戦場だと。
 我は我の意志を通すためならば、娘。
 そのはらわたを串刺しにすることも厭わぬ」

聖王国将官「閣下……っ」

メイド姉「王弟閣下はそのようなことはなさりません」

王弟元帥「なぜそのようなことが云えるっ」

メイド姉「この戦場に存在する勢力、軍勢のうち、
 私の麾下にあると観測されるものは一つもないからです。
 で、ある以上、この場で私を殺したとしても、
 それは王弟閣下が、目障りにわめき立てる小娘一人を
 腹立ち紛れに黙らせた、と云うことに過ぎません。
 戦場に満ちる問題を一個として解決することにはならない。
 それは個人的なただの気晴らし。
 ……王弟閣下はそのようなことはしません」

王弟元帥「ずいぶん高く買ったものだな」
463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00:43:42.16 ID:Afl8afoP
メイド姉「そのようなことをするくらいならば
 私を生かしておき出来るだけの情報を絞ろうとする。
 もしくは何らかの勢力に対しての
 外向的な取引材料になるのならば身柄を拘束しようとする。
 その方が妥当です。
 合理的、と云う意味では、中央諸国家で
 もっとも信用に値する方だと思っています」

王弟元帥「……。自らが云ったように、拘束されると
 云うことは考えぬのか。若い娘の身で」

メイド姉「我が身可愛さをここで出すくらいなら
 そもそもこの戦場に立つ資格はない。
 そう思いませんか?」にこり

 ……ァァン。カラァァン。

王弟元帥「この鐘の音も、そなたか?」
メイド姉「そうかもしれませんね」

 あ、あの娘は……?
  王弟閣下になにを……あの娘……まさか
 まさかって……まさか、魔族?
  い、いや人間に見えるぞ、誰なんだ
 ざわざわざわ……

王弟元帥「よかろう。前置きは終わりだ。
 聞こうではないか。その方の要求を」

メイド姉「戦争の終結。遠征軍の撤退です」

王弟元帥「出来るはずもない」

メイド姉「この都市は都市国家としての主権を持っています。
 また、遠征軍が通ってきた領土は
 この地に済む氏族の支配領域七つを侵犯しています。
 遠征軍が犯してきた犯罪的行為を続けることは、
 遠征軍およびそれぞれの所属国家に
 百年にわたる大きな負債を背負わせるでしょう」
464 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00:45:55.43 ID:Afl8afoP
王弟元帥「この度の遠征は先にも述べたとおり、
 教会の宗教的号令に従って自発的に集った
 自由意志の民衆による聖遺物奪還運動なのだ。
 その運動を国家の責に帰そうとする論には賛成できない」

貴族子弟「そのような言い逃れが通るとでも?」

王弟元帥「どのような道理であろうと、
 道理を守るには相応の力が必要だ」

貴族子弟「どのような理不尽でも暴力が伴えば
 この世界においてまかり通ると聞こえますね」

王弟元帥「真実であろうさ」
貴族子弟「……っ」

メイド姉「力とは……。暴力とは常に相対的なものです。
 “有るか、無いか”などという
 粗雑な議論をするつもりはありません。
 相手との相対的な差違のみが意味を持つのですから
 絶対量は意味がない」

王弟元帥「賢者の言葉だな。だが、それがどうした」

ザカっ!!

参謀軍師「王弟閣下っ!!」

王弟元帥「どうしたっ」
聖王国将官「何があったのです」

参謀軍師「そ、それがっ」ちらっ

王弟元帥「申せ」

参謀軍師「は、はいっ。それが、まだ遠距離ではありますが
 徒歩一日以内の地点に、魔族の援軍、数万が集結を」

メイド姉「――」
王弟元帥「数万だと……」

参謀軍師「いえ、それは最低限でして。
 ……とどまる様子はありません。
 この様子では、数日のうちに十万を超える恐れも」
465 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00:48:16.40 ID:Afl8afoP
メイド姉「――」 にこにこ

王弟元帥「これが。……これがその方の援軍か」

メイド姉「そうとって頂いても構いませんよ?」

貴族子弟(よく言う。……その数は、軍勢なんかじゃない。
 忽鄰塔にあつまってきた非武装の魔族の民だ。
 魔王の戦いを見届けるために集まった氏族に過ぎないじゃないか。
 数はそりゃ確かに十万にふくれあがるかも知れないが、
 所詮は泡だ。マスケットでつつけば、パチンと割れる)

メイド姉「……」
王弟元帥「……」 ぎろっ

聖王国将官「い、いかがいたしましょう」

メイド姉「……」
王弟元帥「……はったりだな」

貴族子弟(なっ!? だからといって、気が付くのかっ!?)

メイド姉「とは?」

王弟元帥「この短期間でそれほどの援軍を組織できるはずもない。
 もし組織できるのであれば、とっくに現われて
 我が軍に一撃を食らわせているはずだ。
 で、有るならば、その軍勢は幻術による偽りか
 なんらかの策……。
 たとえば、偽の軍装によっていつわった烏合の衆なのだ。
 それだけの戦力を温存する理由は、無い」

メイド姉「それでも、構わないのではありませんか?」
王弟元帥「なぜだ」

メイド姉「いま、重要なのは“開門都市を包囲していた遠征軍が
 二週間をおいてもなお都市攻略に成功していない”という事実。
 ここに“包囲していたはずの遠征軍が、十万の魔族によって
 逆に包囲されている”という事実を加えれば……。
 ……軍が本物か、偽りかなどというのは
 些末な違いに過ぎないかと思います」

聖王国将官「そ、それは……」

王弟元帥「軍の士気、ひいては我が掌握能力に問題があると?」
466 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00:50:51.51 ID:Afl8afoP
メイド姉「普段であるならば問題はないでしょう。
 しかし、良くも悪くも王弟閣下の仰ったように、
 この遠征軍の大儀は信仰です。
 精神的支柱を王弟閣下のカリスマだけに
 依存するわけにはいかない。
 それが可能であったとしても、です。
 そして、今のこの乱戦は、信仰の中心が揺らいでいるせい。
 ……ちがいますか?」

王弟元帥「好きに解釈すれば良かろう」

メイド姉「この状況下において戦闘を継続すればどうなります」

聖王国将官「……」

貴族子弟(流れは悪くないのか……。しかし、先が読めない。
 相手が悪い。いくら我が姉弟弟子とはいってもなぁ)

メイド姉「どちらが勝つにせよ、双方に壊滅的なダメージが残る。
 そのようなことは百害あって一理もないではありませんか」

王弟元帥「確かにそうなる可能性が高いだろう。
 しかし、では撤退をしてどうなる?
 この戦を始めたのは教会だ。
 では教会が責任を取るのか? 否だっ。
 責任など取りはしない。
 そして、責任を誰も取らぬ以上、
 この遠征に財をつぎ込み財政難に陥った諸侯は
 秩序を保つことが出来なくなるだろう。
 そうなってしまっては略奪が横行し、
 中央国家群でも小競り合いが頻発することは想像に難くない。
 この魔界で富を。少なくとも、富の予感を手に入れない限り
 中央諸国家のふくれあがった欲望は制御不能なのだっ。
 それはつまり、中央諸国家体制の崩壊。
 その方の云う“壊滅的なダメージ”だ」

メイド姉「そんなっ」

王弟元帥「撤退しても戦っても、我がほうには壊滅的な被害が出る。
 ならばここは戦って魔族や南部連合にも
 ダメージを与えておくべきなのだ。
 そうすれば復興の時間に、外部から侵略をされずに済む。
 違うかな? 学士の娘よ。それが国家の安全保障ではないか」
467 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 00:52:58.61 ID:Afl8afoP
ザッザッザッ

東の砦将「そいつは、族長としていかがなもんかね。
 自滅しながらの巻き添え攻撃のような策略とは
 下策としか言いようがないと思いますぜ」

青年商人「遠征軍の責任者“ではない”以上、
 仕方ない判断かと思いますよ」

聖王国将官「お前達は何者だっ!」

東の砦将「何者かと聞かれてますが」
青年商人「一番乗りだと思ったんですが、ね。
 ですから、あの方の知己にはいつも驚かされる」

東の砦将「このお嬢さんは…」
青年商人「あの方の家で会いました。そうですね?」

メイド姉「はい、ご無沙汰しています」ぺこりっ

貴族子弟(青年商人。同盟の有力商人、十人委員会の一人。
 かつて出会った時よりもすごみをましたなぁ。
 師匠並だぞ、この迫力は)

王弟元帥「貴公らは何者か。
 このような戦場のまっただ中に何をしに来た?」

東の砦将「それがしは。あー。あの開門都市の氏族長。
 人間で云うところの市長を務めている。砦将といいますな」

青年商人「あの都市の防衛軍最高責任者
 その代理というところでしょうか。青年商人と申します」

聖王国将官「っ!? 銃士っ! こいつらをっ!」

王弟元帥「やめろっ!!」

聖王国将官「~っ!?」

東の砦将「良い判断ですな」 ……すっ
470 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01:31:44.78 ID:Afl8afoP
王弟元帥「いつカノーネを鹵獲した?」

東の砦将「いや、一台くらいならね」

王弟元帥「揃ってお出ましとはなんの話だ。
 降伏でもしに来たのか? ふふんっ」

青年商人「馬鹿を云わないでください。スカウトしに来たんですよ」

王弟元帥「は?」

青年商人「聖王国の王弟将軍と云えば、
 中央大陸でも名の知られた英雄。カリスマですからね。
 合理的思考と切れすぎる戦略で
 早くから名を馳せた戦場の風雲児。
 戦術戦略のみならず、外交や財政にも果断な判断能力をもつ
 大陸最大級の人材です」

王弟元帥「ずいぶんと詳しいのだな、人間の事情に」

青年商人「私は人間ですよ。人間が魔族の軍を
 率いていては変ですか?」

王弟元帥「いや……。そうか。
 『同盟』に異端の商人がいると風の噂で聞いた。
 小麦相場で大陸中の金貨をさらったというのは……」

東の砦将「はぁ!? そんなことまでやってたのかぁ?」
青年商人「人聞きが悪いですよ。ほんのちょっぴりじゃないですか」

聖王国将官「――“小麦を統べる商人王”」 がくがくっ
メイド姉「ふふふっ」

王弟元帥「その男が何を求める」

青年商人「ですからスカウト。人材の勧誘と、一つの質問を」
471 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01:33:51.24 ID:Afl8afoP
王弟元帥「――どいつもこいつも、戦場である弁えもなく」

ザッ

冬寂王「であるならば」

王弟元帥「おまえは、冬寂王っ!」

冬寂王「率直な降伏勧告は、我が方のみということかな」

王弟元帥「降伏勧告だと。南部連合に?
 中央大陸の秩序の破壊者に下げる頭など無いわっ」

冬寂王「南部連合に下げろ、とは云わぬさ。
 ……ここに書状がある。修道会からだ」

聖王国将官「修道会、から……?」
王弟元帥「なにを」

貴族子弟「そうきましたか。……ずいぶん思い切りますね」

メイド姉「冬寂王様」
冬寂王「どうした? 学士よ」

メイド姉「……なにとぞ慈悲を」
冬寂王「判っている」 こくり

王弟元帥「何を言っているっ」

冬寂王「まぁ、時間を掛けて読むが良かろう。
 言葉を飾ってあるが、中身はこうだ。
 “人の国に入り込んで戦を行なうようなものは、破門する”
 それだけだよ」

王弟元帥「破門……」
聖王国将官「それは」
472 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01:35:54.16 ID:Afl8afoP
貴族子弟「もちろん、聖光教会を奉じる聖王国にとっては
 直接何らかの影響があるわけではありません。
 もちろんお気づきだと思いますが、この書状の意味は」

――天然痘の接種は、受けさせない。

聖王国将官「~っ!」

貴族子弟「そのようなことになれば、5年、10年を待たずに
 国は寂れ、人々は移住し……。交易の順路からも外された
 地方の村のような惨状になるかと」

メイド姉「私はそのような交渉方法を好ましいとは思いません」

冬寂王「もちろんだ。だが、学士よ。
 そもそも、戦争とは好ましいことではないのだ。
 そして、チャンスがあるのならば、
 どんな手段を使ってもそれを終わらせる。
 この交渉の場はな、我が南部連合の兵士の命であがなった
 数少ない空隙だと云うことも忘れて貰っては、困る。
 もはやここに至っては、交戦行為を一刻も早く終わらせることが
 慈悲であると知ってくれ」

王弟元帥「破門を引き下げる代わりに、降伏しろと?」

冬寂王「そうだ」

王弟元帥「遠征軍は我一人の意志で動かせる軍ではない。
 大主教猊下の号令によって動く、複数の国家、
 そして多くの領主の参加する軍だ。
 我のみが破門を免れたとしてどのような責任も取れぬ」

青年商人「逃げ口上はやめてください。
 どう考えても、どう見ても、
 あなたが実質上の意志決定者であることは疑う余地がない」

王弟元帥「ここまで混沌と狂信に染まった軍を
 撤退させる難しさが判らない貴君らではあるまいっ。
 すでに賽は投げられた。一矢は射られたのだ。
 もはや雌雄を決するしかないのが判らないのか。
 時の流れは、人間か、魔族かのどちらか一方を選ぶと
 その意思を表したのだ。
 この世界は、両者を住まわせるに
 十分な広さがないとなぜ判らぬっ。
 世界はそれほど寛大ではないのだっ」
474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01:41:35.63 ID:Afl8afoP
メイド姉「争いを始めるのに精霊を理由に用い、
 今また争いを継続するために世界を言い訳にするのですか?
 ――たしかに。
 確かに“彼女”は間違ったかも知れない」

東の砦将「は?」

メイド姉「確かに“彼女”は間違ったかも知れない。
 わたし達がこんなにも愚かなのは、
 彼女がわたし達に炎の熱さを教えなかったから。
 わたし達はゆりかごの中でそれを学ばずに
 育ってしまったのかも知れない。
 それは彼女の罪なのかも知れない。
 しかしいつまで彼女と彼女の罪に甘えるつもりですか、我々はっ」

聖王国将官「何を……。何を言っているのだ?」

メイド姉「“彼女”に……。
 光の精霊にいつまで甘えているのかと問うているんですっ。
 争いを始めるのに“彼女”の名前をいつまで使うのですか?
 人を殺すのに彼女の名前を用いて正当化するなどと云う
 卑劣な責任回避をいつまで続けるおつもりですかっ。
 “この世界は、両者を住まわせるに十分な広さがない”?
 世界の許可が必要なのですかっ!?
 わたし達が……。
 今! ここにいるわたし達が、今この瞬間に責を取らずして
 どこの誰にその責任を押しつけようというのですかっ。
 確かに民は愚かかもしれません。
 しかし、彼らは望むと望まざるとに関わらず、
 その責任を取るのです。
 飢え、寒さ、貧困、戦。
 ――つまるところ、望まぬ死という形で。
 王弟閣下。あなたは英雄ではないのですか。
 私はそう思っています。あなたもあの細い道を歩く一人だと」

王弟元帥「何を望むのだっ。勇者よ。
 世界を守るというのならば――。
 世界を変えるというのならば、我にその方の力を見せるが良いっ」

メイド姉「望むのは平和。ほんの少しの譲歩。
 そしてわずかな共感と、刹那のふれ合い。
 それだけしか望みません。
 それだけで、わたし達は立派にやっていける。
 その後のことは“みんな”が上手く形にしてくれる。
 私はそれを信じています。
 だって信じて貰えなければ、私は人間でさえなかったんですから。
 あの日、あの夜。あの馬小屋の中で
 虫けらのままで死んでいたんですから」
476 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01:42:24.23 ID:Afl8afoP
青年商人「……」
冬寂王「……」

王弟元帥「その戯れ言を通すだけの力が、
 その方にあるというのか」

メイド姉「私に武力はありませんから」
王弟元帥「お前の援軍とやらは、
 全て集まるのにまだ十日もかかるのだぞ」

メイド姉「では、私が連れてきた本当の援軍をご紹介しましょう」

聖王国将官「なっ!?」 きょろきょろ

王弟元帥「見せてみるがいいさ。
 その方の甘い理想論をかなえる力とやらを」

メイド姉「はい……。王弟閣下、手をお借りしますね」

     ぱぁぁああああああ!!!

王弟元帥「そ……それはっ……」

メイド姉「――“ひかりのたま”です。
 これは、彼女の残した恩寵。
 光の精霊自らがこの世界へと残した、忘れ得ぬ炎」

聖王国将官「ま、ま、まさかっ」

――な、なんだあの光は!? ――ま、まさか精霊さま!?
 あの娘っこは、精霊様の使いだったのか!?
 間違いない、この光は……
 なんて優しい、綺麗な光なんだ……。
 身体の痛みがみんな、何もかんも無くなっていくようだ。
 精霊の巫女様に違いねぇ……

メイド姉「はい。勇者の名において。
 これが“聖骸”であると、ここに告げましょう。
 そしてこの聖遺物を……。王弟閣下に贈ります」

東の砦将「っ!?」

青年商人「……ははっ! ははははははっ!
 これはすごい。すごいなっ!」

王弟元帥「なぜっ!? 何をしている、なぜそうなるっ!?」
477 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01:44:14.24 ID:Afl8afoP
メイド姉「私の援軍は、あなたです」

王弟元帥「!」

メイド姉「王弟閣下が、私の援軍です。
 魔族が人間に、ではありません。
 開門都市が、聖なる光教会に、でもありません。

 わたしが、あなた個人に“聖骸”を贈ります。

 あなたであれば、この“聖骸”を守り、
 正しく用いてくれると信じるからです。
 あなたであれば、聖鍵遠征軍を退けるに当たって
 私のもっとも有力な援軍になってくださるからです」

東の砦将「……こいつぁ。奇襲なんてものじゃねぇや」

参謀軍師(何と言うことを考えるのですか、この娘は!!
 確かに、この衆人環視の中、これだけ多くの将兵が見つめる中で
 聖遺物を取り出されては……。
 我々の大義の上で、無碍にするわけにはいかない。
 この“聖骸”を求めてはるばるとやってきたという
 それが目的の組織である以上、こうして贈られてしまえば、
 これ以上開門都市を攻略、攻撃をするという理由自体が
 消失してしまう。
 その上、この清らかなる光、偽物であるとはとても云えない。
 何よりも将兵達は一瞬で納得してしまった。
 この宝玉が“聖骸”であると信じてしまった。
 その“聖骸”を個人間であろうが、こうして贈られるというのは
 ある意味で、開門都市が頭を下げたに等しい。
 国家としては礼を返さぬ訳には行かぬ。
 しかも狡猾なのは、たとえ我々が礼を尽くさなければならぬと
 しても、開門都市も魔族も実際には一歩も譲ってはいない、
 何ら妥協も譲歩も、実際にはしていないという点だ。
 これは個人間の贈答に過ぎないと娘は明言している。
 ……多くの将兵は満足感を得るが、領地や賠償金などのやりとりは
 発生しないようになっている。この娘、そこまで計算をして……)

冬寂王「重いな。……王弟殿」
479 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 01:45:22.50 ID:Afl8afoP
参謀軍師(そうだ。まさにその通りだ。
 その上、これはとてつもなく重い決断を迫られる贈答物でもある。
 この“聖骸”を受け取ったとして、聖王国の取り得る道は三つ。

 第1の案は“聖骸”を聖光教会に献上する、というものだ。
 しかし、それはもはや政治的にそこまでのうまみはない。
 聖光教会はおのずの領分を越えて国家への干渉を強めている。
 また、この学士という娘は“正しく使ってくれると信じる”と
 断言した。つまり、それは、この“聖骸”を教会に譲るなど
 という手段に出ればそれ相応の報復を覚悟しろと云う
 恫喝であると云えなくもない……。

  一方、この“聖骸”を聖王国そのものが管理すると
 云うことも考えられる。これが第2の案だ。
 ……その場合、“聖骸”を所有する聖王国王家は
 光の精霊由縁の血筋を持つ王家として、
 中央諸国家の数多の王家とは別格の正当性を持つだろう。
 まさに、支配権を天より携わった選ばれた王家だ。
 この正当性は、旧来の秩序を維持したいという聖王国の政策上
 巨大な、余りにも巨大な利点だ。
 民衆も歓呼の声を上げて歓迎するだろう。
 ……しかし、この方法は二つの注意点がある。
 一つには、贈り物は、贈り物であると云うことだ。
 この“聖骸”の由来を語る時“魔界で贈られた”という縁起に
 触れざるを得ない。つまり、この方法を採るのならば、以降
 魔界とは何らかの形で友好的な関係を構築する必要がある。
 もう一点は、もし聖王国がこのようにして“聖骸”を
 管理するのだとすれば、教会との確執は免れないという点だ。

  第3の管理方法として、修道会と接近しそこに管理を委託する
 という事も考えられる。その場合、種痘の優先的な割り当てなど
 利点を得られる。これは国の民意を高める上でも有効だろうが、
 聖王国の目指す旧来型の権力構造に、修道会とその背後に控える
 南部連合からなんらかの圧力がかかる可能性は十二分に検討する
 必要がある。また第2の管理方法――聖王国の直接管理と
 同じように、教会との確執は避けられない。

 選ぶとすれば、2……だろうが。だとしても魔界には礼を尽くし
 この戦争はなんとしてでも終結させなければならない。
 戦争を続けるためには1しかないが、それでさえ
 “相手から聖骸を与えられておきながらも虐殺の限りを尽くした”
 という余りにも外聞の悪い戦争継続方法になり、
 士気はどん底にまで落ち込むだろう……)
482 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 02:12:03.56 ID:Afl8afoP
王弟元帥「我の――我のっ。
 我の何を信じるというのだとっ」

冬寂王「能力だろう?」

聖王国将官「それは……」

貴族子弟「能力であれば一級品なのは判りますからね。
 実際容赦のない攻撃ですよ、本当に」

メイド姉「そうですか? 私は人柄も加味しましたよ?」

東の砦将「世間話みたいな雰囲気で、いけしゃぁしゃぁと」
青年商人「そういう一門なんですよ、彼らはね」

王弟元帥「巫山戯た事をっ。このような茶番をっ」

青年商人「ではお尋ねしますが、王弟閣下。
 王弟閣下こそ茶番をしているのではないのですか?」

王弟元帥「……なにを」

青年商人「なぜ無能な兄王を、殺さないのですか?
 なぜ元帥という位置になど留まり続けているのですか?
 全ての貴族に望まれ、何度となくその示唆を受け、
 唆されながらも、王よりも巨大な名声を得てしてもなお、
 なぜ元帥などという茶番を演じているのですか?」

聖王国将官「それは……」
王弟元帥「……っ。そのようなことっ」

青年商人「それが茶番でないのならば、
 彼女の言葉も茶番ではないのですよ。
 そして彼女の行為を茶番だと貶めるのならば、
 貴方のやっていることも茶番に他ならない。
 己の選んだ細い道。彼女はそう言いましたが
 貴方が貴方自身の掟に従い守るべき対象があるように
 彼女にもそれがある。
 そしてそれは茶番などと云う安っぽい言葉で
 片付けられるようなことではないっ」
484 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/17(火) 02:17:13.81 ID:Afl8afoP
東の砦将「……」

青年商人「さて、どうするんですか?
 もう一押ししなければなりませんか?」

王弟元帥「……その玉を、受け取ろう」

メイド姉「ありがとうございます」

冬寂王「これで、やっと……」

王弟元帥「それが我が国の国益に叶い。
 もっとも我の影響力を最大化できる手法だから選ぶまでだ。
 善意や好意などからでは断じてない。
 ……大陸は、教会の影響を受けすぎていたのだ」

聖王国将官「……閣下」

貴族子弟(素直さに欠けるね、まったく)

メイド姉「そうであっても構いません。
 いえ、だからこそ。それだからこそ手を取り合う意味があります。
 突発的な善意や好意からではなく、わたし達は利益を共有できる。
 それは二つの種族が今後もこの狭い世界の中で過ごすために
 必須の条件なのですから」

――損得勘定は、我ら共通の言葉だと。

青年商人「……そうでしたね。貴女はいつもそう言っていた」

 ぱぁぁぁああああ!!!!

東の砦将「なんて華麗な輝きなんだ」
メイド姉「この宝玉も、新しい持ち主を歓迎しています」

ゆらぁ、がさっ。がさっ。

百合騎士団隊長「ゆるさない。ゆるさない。
 そんなのはゆるされない。
 そんなのは、精霊の救いじゃない。
 そんなものは、赤き救済ではない。
 そんな結末は認めない。
 そんな救われかたはなかった。
 なかった。
 私にはなかった。
 貴女は精霊の巫女じゃない。
 それが聖骸であるはずがない。
 悪魔。――悪魔の使い。貴女は、悪魔のっ」

ゴゥゥゥーン!!
510 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17:39:56.74 ID:G90fcMMP
――光の塔、その道程

……シャゴォォォン!!! ……ィンィンィン……!!

女騎士「っ! ……はぁ。……はぁ」

大主教「しのぐのか。ふはははっ。それはなんだ?
 結界祈祷か? 見知らぬ術だな。
 ……修道会の秘術とみえる。光壁系の派生祈祷だな?」

女騎士「……はぁ、はぁ。……全周囲の衝撃相殺奇跡だ」

大主教「しかし、衝撃や物理的圧力だけではなく
 電撃まで防ぐとは……。見事な術だな」

女騎士(くっ。このままじゃ……)

大主教「だが、いつまで続く? いくつ躱せる?」

女騎士「云っただろうっ!? 限りなくだとっ」

大主教「よかろうっ! 今一度っ!
 24音! 集いて唱和せよっ!! “超高域雷撃滅呪”っ!!」

女騎士「間に合えっ! “光砦祈祷”ッ!!」

バチバチィ! ギュダン、ズシャァァァ!!

だんっ。ずしゃぁっ!

女騎士「かふっ……。がはっぁ……」ばたっ
大主教「空間の電位擾乱までは無効化できないようだな」

女騎士「これくらい……。げふっ……かはっ……」
大主教「喀血か。肺が灼けたか。ははははっ」

女騎士「これしきの傷……っ」

こつん

女騎士(これは……。なんでこれがここにっ!?)

――そんな顔をするな。勇者。
 ほら、荷物は置け。
 鎧も脱げ。今更関係ないから。

女騎士(置いて行ったのかっ。あの馬鹿ッ!
 何でこれをっ!? 重さなんて関係ないのにっ。
 何でこいつまで……。あの馬鹿勇者ッ!
 それじゃ。それじゃぁあいつ、丸腰じゃないかっ!?)
512 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17:41:34.50 ID:G90fcMMP
大主教「どうした? 青ざめて。
 追いつかれたか、絶望に?
 ……良かろう。古のあの言葉を贈ろうではないか」

女騎士「何を言う気だ、化物」

大主教「――世界の半分を与えよう。我が膝下に屈するがいい」

女騎士「……っ」

大主教「その方の剣技はまさしく世界最高峰の一角。
 今この場にいるのも都合がよい。
 新しく生まれ変わり“喜びの野”を統べるにあたり
 我にはこの両腕に変わる“手”が必要だろう。
 ――世界の半分を与えよう。
 その苦痛と恐怖を終了させ、我が配下となるがいい」

女騎士「ははっ」
大主教「……?」

女騎士「そうかそうか。
 ……本来はこういう言葉なんだな、勇者。
 こうして下卑て響くのが、本物。
 だとしたら……。
 やっぱり、その魔王は……奇跡だ。
 当たり前か、わたしの親友だもんな」

大主教「何を言っているのだ?」

女騎士「空々しいよ。なんて虚しく響くんだ。
 お前の言葉は。最初から中身なんか無い。
 お前はわたしに興味なんてさっぱり無いよな。
 ただ単純に、便利な人形が一つ欲しいだけだ」

大主教「その何処がおかしい?」

女騎士「いいや、おかしくはない。
 その要求は判るよ。そう言う手下も欲しいだろうさ。
 大魔王なんだから」

大主教「やっと認めたか」
513 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17:42:36.80 ID:G90fcMMP
女騎士「ああ。大魔王だ。……魔王じゃない。
 魔物の王ではなくて、魔物の王から生まれた変異。
 魔物の王のすらも見下ろす、異常体だ。
 その力は精霊にも匹敵する、史上最悪の化物」

大主教「自らの分をわきまえたか」

女騎士「だけどね」 ジャキッ
大主教「――っ」

女騎士「わたしは魔王の方がよほど好きだっ。
 お前は、大魔王かも知れないっ。
 でも“王”じゃないっ。
 民を思わない孤独な人形遣いだっ。
 はぁぁっ! せいやぁっ!!」

ギンッ! ギキンッ! ジャギィンっ!!

大主教「何をしているッ?
 そのような攻撃で“やみのころも”は解けはしないっ」

女騎士「お前はお前の思うとおりの世界を弄びたいだけだっ。
 “新世界”? “次なる輪廻”? “喜びの野”!?
 虚ろな目をした人間がお前をあがめる芝居小屋じゃないか。
 そんな所に君臨するのが楽しいのか。そんな空虚な世界がっ」

ギィィン!!

大主教「なぜそれを否定するっ。それこそが!
 まさにそれこそが炎の娘、光の精霊が願った
 完全なる調和の世界だッ!
 お前も聖職者であれば判るだろうっ。
 そこにどれほどの幸せがあるのか。
 民の苦痛も不安もなく安寧と平安が支配する
 これほどの慈悲があるか?
 だれも憎まず、争わず、永遠にあり続ける。
 いいや、ありえんっ。
 それが最高の楽園でなくてなんだというッ!!」

女騎士「お前の歪んだ欲望と、
 “彼女”の祈りを一緒にするなぁっ!!」

――その珠を、受け取ろう。

ザシュゥッ!!
514 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17:44:19.21 ID:G90fcMMP
大主教「!?」

女騎士「はぁっ。はぁっ……。行けるじゃないか」
大主教「なぜ。なぜだ!?」


女騎士「はぁぁっ!! 切り裂けぇっ!!」

ザシャッ! ザシュゥ!!

大主教「なぜ“やみのころも”がっ。
 絶対の防御がっ。
 ……馬鹿な。誰がッ!?
 だれが“ひかりのたま”を見つけだしたというのだ!?
 あの失われた聖遺物を。
 何処の誰が掲げたというのだっ!?
 あれを扱えるのは勇者のみのはずっ」

女騎士「霧が晴れてきた……ぞ。
 かはっ、かはっ……。
 ……やはり本体は、細いじゃないか。
 経ばかり唱えている、やせこけた、身体だッ」

大主教「……っ。それがどのような影響がある。
 我にはまだ無限の法術と、再生能力がある。
 “やみのころも”は大魔王のもつ力の一つに過ぎぬっ」

女騎士「だからどうしたっ」

ヒュバッ! ギィン! ギキィン!
 キンッ! キンッ! ドカァッ!!

大主教「はぁっ! “光壁祈祷”っ! “斬撃祈祷”っ!
 “光波雷撃呪”っ!! “六連”っ!」

女騎士「っ!!」 バシンッ! グシャッ

ドンドンドンドンッ!! ガキィッ!!

大主教「“やみのころも”が晴れたからどうしたというのだ!?
 現にお前はそこに虫けらのように転がっているではないか。
 認めよっ! 認めて屈するがいいっ!!」



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