11-4


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」11-4


738 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01:34:18.87 ID:quxpU4cP
魔王「……」
青年商人「違いますか?」

魔王「済まなかった。その通りだ」

火竜公女「魔王どの……」
鬼呼執政「魔王さまっ!?」

青年商人「宜しい」

魔王「二分時間をくれ」

青年商人「……」 火竜公女「……」
鬼呼の姫巫女「……」

魔王「――優れた問いか。
 忘れていた。最初の問いは常に
 “いま問えばよいのは何か?”だ」

青年商人「そうです」

魔王「その答えにして次の問いは“わたしはこの戦役の
 着地点をどのような位置にしたいのか?”だな」

青年商人「はい」

魔王「だとすれば、答えは決まっている。
 ……人間にも魔族にもこれ以上の被害を出させないように、
 双方に矛を収めさせる。そして平和条約だ。
 もしこの都市が落ちれば魔族は人間を恨む。
 人間は魔界をただの新しい植民地と見なすだろう。
 それは千年にわたる争いの幕開けだ。
 この開門都市こそはその瀬戸際。
 血に染まった歴史を見ぬためにこの都市を守らなければならない」

青年商人「しかし守るだけでは意味がない」

魔王「そうだ。守りきりさえすればば、
 聖鍵遠征軍が軍を引くというのは希望的観測に過ぎない。
 なんとしてでも、あの軍に我らが希望を理解させ、
 交渉のテーブルにつかせる必要がある」
739 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01:36:06.72 ID:quxpU4cP
青年商人「承りました」
火竜公女 こくり

魔王「は?」

青年商人「このことを話すのは非常に気が重く、
 わたしとしても痛恨の出来事であり、汗顔悔悟の至りなのですが
 とある権謀術柵に巻き込まれた結果、
 現在わたしは魔王を名乗るに至っているのです」

火竜公女「身から出た錆でありまする」

魔王「それは……」

青年商人「ええ、理解しなくても構いません。
 むしろあまり深い理解はわたしを傷つけると察してください。
 ともあれ、そのような事態で、
 わたしにもこの都市を救う義務があります。
 ですから、もちろん救う、などというお約束は出来ませんが
 それでも、この場は――お任せあれ」

魔王「……」

青年商人「この執務室は私と公女が借り受けます。
 ふむ……」

 ぺらっ、ぺらっ

魔王「それらの報告は……」

青年商人「このような報告、庁舎の職員と砦将に
 任せればいいのです。魔王どのには、魔王どのの仕事があるはず」

火竜公女「妾も覚悟を決めました。
 この都市を救うために全てを賭けて戦う覚悟を」
740 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01:38:18.91 ID:quxpU4cP
魔王「しかし、わたしがここでっ」

青年商人「足手まといだと云っているのです」

火竜公女 にこり

魔王「あしで、まとい?」

青年商人「はい。勇者のいない魔王は、足手まといです」
火竜公女「ゆえに妾達が、ここは支えまする」

魔王「――」

青年商人「探しに行ってください。見ていられません」

魔王「しかし。わたしたちは……。
 わたしと勇者は、いずれあの祭壇の前で……。
 それが、契約で……。
 だからわたしと勇者は、もう。
 もう……」

バタンっ!!

伝令兵「魔王様っ!!!」

火竜公女「何事ですかっ! 云いなさいっ!」

伝令兵「ただいま、防壁、南部大門が突破されましたっ!!」

魔王「なぜだっ!? 南側の壁は確かに亀裂が入っていたが、
 それだとしても、一挙に大門まで粉砕されたというのか?
 いったい何があったというのだ!?」

伝令兵「聖鍵遠征軍は、想像も出来ない行為をっ。
 あ、あいつらは、その……。人間を……。人間が……」

青年商人「落ち着いてください」

伝令兵「人間が、爆発したんですっ。
 何十人かのいつもの狂信者が槍で突撃をしてきたかと思ったら
 その身体ごと、巨大な爆発がっ。
 砦将はすぐさま防御軍を結集され南通り一帯は
 市街戦になっています! なにとぞご避難を、魔王様っ!」
806 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 18:54:05.04 ID:quxpU4cP
――開門都市、南大通り、六番街

東の砦将「隊伍を組めっ! 長槍兵! 戦列を崩すなっ」

竜族軍曹「左右の商店を崩せっ!」
人間衛兵「しかしっ」

東の砦将「いまは防ぎきるのだ! そうでなくても略奪にあう。
 くずせ! バリケードを作れ!!」

竜族軍曹「そうだっ! 弓兵配置は終わったかっ!?」

   耳長弓兵娘「配置完了しましたっ!」

東の砦将「矢の尽きるまで撃ち込めっ! 地の利はこちらにある。
 街路を封鎖して、敵をここで足止めするんだっ!
 全ての通用門封鎖っ! 防備部隊を配置っ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!

光の銃兵「左右へ散開しながら前進っ!!」
光の突撃兵「精霊は求めたもうっ!」

  ゴウゥゥン!! ゴォォン!

東の砦将(展開がにぶい……?)

竜族軍曹「どうやら遠征軍も攻めあぐねている様子」

東の砦将「指揮がなっちゃいないな。どういうことだ」

竜族軍曹「マスケットの砲声も少ないですな」

東の砦将「……。押し戻せ! 何はともあれ、
 連中はまだ統制が取れていないようだっ!
 いまならまだ押し返せる。――短弓で左右の家の上から
 応戦しろ! 小刻みに動けっ」
807 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 18:56:08.50 ID:quxpU4cP
竜族軍曹「足を止めるな!! 槍兵中隊、前進っ!」

ザッザッザッ!

人間槍兵「我らに自由をっ!」
蒼魔槍兵「我が地に平安をっ!」

キィン! ガキィン!!

隻腕の獣人男「うぉぉ!!! どけどけぇぇ!!
 命が惜しければ逃げるがいいや。ここは一歩も通さねぇ!
 のど笛噛みちぎってでもお前達を進めさせはしないぞ」

中年の義勇兵「押せ! 押せ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!
  ゴウゥゥン!! ゴォォン!

東の砦将「八番切り込み隊! 紫神殿通りを迂回して、
 南大通りの左翼から敵に突っ込め!! 射手は援護を!
 獣牙族の動ける範囲を増やせ、屋根の上の自由を奪われるな」

竜族軍曹「動け! 足を止めるな!!
 敵は多いのだ、こちらが遊兵をつくると押し込まれるぞっ」

東の砦将「おい、副官。門の外の状――ちっ!」

人間衛兵「は? 砦将」

東の砦将「なんでもねぇ。不便を実感していただけだ。
 防壁はどうなっている?」

竜族軍曹「南門近くの防御用司令部に遠征軍が
 群がっているようだ。あそこには義勇兵しか居ない、まずいぞっ」

東の砦将「俺が行くっ。鬼呼抜刀隊、ついてこいっ!!」
811 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19:24:28.31 ID:quxpU4cP
――魔界、白詰草の草原、開門都市、西方2里

タカタ、タカタ、タカタ、タカタ

メイド姉「お気を悪くされてはいませんか?」
勇者「なにが?」

メイド姉「いえ、その。わたしが勇者を名乗るだなんて」

勇者「ああ。びっくりしたけどさ。面白かった」

メイド姉「はい。あの……」
勇者「……」

メイド姉「勇者様が、1つじゃなくても良いんだって」
勇者「え?」

メイド姉「昔、仰ったじゃありませんか。
 教会は1つじゃなくても良い。って。
 そして湖畔修道会が冬の国では正式な教会として認められて」

勇者「うん」

メイド姉「だから、思ったんです。
 勇者も、一人でなくても良いんじゃないかって。
 ……すみません。なんだか、何を云えばいいかよく判らなくて」

勇者「勇者の力が欲しかったの?」

メイド姉「いいえ。……むしろ勇者の苦しみを」
勇者「?」

メイド姉「わたしにも背負える荷物があるのではないかと。
 わたしが流せる血があるのではないかと、そう思いました。
 わたし達は、自らの負債を勇者様や当主様に
 押しつけているのではないかって。
 目には見えないから、実感できないから
 罪の意識もなく罪を重ねているのではないかと」

勇者「……」
812 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19:26:41.78 ID:quxpU4cP
タカタ、タカタ、タカタ、タカタ

メイド姉「当主様も勇者様も優しいから。
 もしかしたら、払いすぎてはしまわないかと。
 それが心配です。
 あの冬の夜、凍り付くような納屋の中で
 別に特別なことでもなんでもないかのように
 わたし達姉妹を救ってくれたように。

  特別なことでもなんでもないことのように、
 世界を救ってしまうかも知れないのが心配です。

  そんなお二人だから、
 それがあんまりにも当たり前のことのように感じてしまって。
 どんなに大事に思っているか、どんなに感謝しているかを
 伝えることも忘れて、当たり前になってしまうのが心配です。

  当主様も勇者様も、血を流すことに馴れすぎているから」

勇者「そんなことは、ないよ」

メイド姉「それを確認したいんです。勇者になって。
 勇者でいると云うことが、どれだけの痛苦を要求されるか。
 どれだけの恐怖を強いられるか」

勇者「……」

メイド姉「膝がガクガクしますよね。
 喉は干上がって、身体は木で出来たかのように
 思い通りに動かないし、
 頭は熱に浮かされたようにぼやけている割に、視界は鮮やかで。
 みんなの不安そうな顔も苦しそうな呟きも
 いやになるほどはっきり聞き取れて。
 手綱を握る手のひらは、汗で滑って。

  滑稽で臆病ですよね、わたし。
 全然向いてないって、よく判ります」

勇者「相当に場慣れして見えたよ」

メイド姉「それはもう。自分のお葬式に参加してる気分で
 生きていますからね。ふふっ」
815 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19:29:19.10 ID:quxpU4cP
タカタ、タカタ、タカタ、タカタ

メイド姉「止めないで、下さいね」
勇者「……」

メイド姉「チャンスがあるのならば、賭けてみたい。
 わたしはやはり、
 わたし達がそこまで馬鹿だとは思いたくないんです。
 わたし達は自由なのですから。
 縛られたままでいる幸福も、世界にはあるって知っています。
 でも、それでも飛び立ってゆく鳥を留めることが出来ないように
 わたし達は明日を探しに飛び出してゆける。
 本当は誰だって知っているはずなんです」

勇者「うん」

メイド姉「そのために血が必要なら、
 その席を譲るわけにはいきません。
 たとえ相手が勇者様にであっても、当主様にでも。
 その席は、言い出しっぺであるわたしの座るべき場所なんですよ」

勇者「……」

メイド姉「元帥さまだって判ってくれますよ」

勇者「……」

   傭兵弓士「おいっ! 開門都市が見えたぞ!」
   ちび助傭兵「煙が上がっているな」
   貴族子弟「持ちこたえている証拠ですよ」

メイド姉「間に合いましたか」ほっ

勇者「――っ!」 キンッ

   傭兵弓士「え?」
メイド姉「どうしたんですか?」

勇者「なっ。……死? 火薬? 破裂、血、硝煙、破壊」
817 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 19:30:57.09 ID:quxpU4cP
貴族子弟「どうしたんです!? なにが?」

勇者「死んだ。何かが……。な、これっ……。
 気持ち悪いぞ、なんだこの真っ黒なのはっ」

   傭兵弓士「黒煙が発生。大規模攻撃か!?」

   ちび助傭兵「斥候に出るっ! 若造、フォローっ」
   若造傭兵「判った、行けっ!」

生き残り傭兵「何が起きているんだ。どうする、代理?」
メイド姉「進みましょう」

勇者「悪いな」
貴族子弟「え?」

勇者「つきあえるのは、ここまでだ」

勇者「“飛行呪”っ! “加速呪”っ! “雷鎧呪”っ!
 術式展開っ、“天翔音速術式”っ!!」

キュゥンっ!

メイド姉「勇者さまっ!」

勇者「縛りプレイだとかそんな事、もう知るかっ。
 俺の目の前で、お前らいったいどれだけっ……。
 やるなって云ってるのにっ。
 なんでお前らはそうなんだ。壊したり、殺したりっ。
 そういうのはさっ!」

 ひゅばっ!

器用な少年「すげぇ、なんだ、それっ」

勇者「いい加減飽きたって云ってるんだよっ!!」
839 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20:15:17.00 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、南部連合軍、丘の上

……オォォン!!
       うおおおっ!!

鉄腕王「なんだっ」
斥候兵「報告申し上げます! 前方遠征軍で大きな動きがありっ」

鉄腕王「見れば判るっ! 詳細をっ」

斥候兵「それは現時点ではっ」

軍人子弟「何か動きがござったな。
 こちらではない、とすると……。
 開門都市防備軍との戦いに何らかの動きが」

鉄国少尉「防壁が破られたのでしょうか」
将官「その可能性はあるな」

冬寂王「いや、前方の陣ぞなえにも変化が」
鉄腕王「なんだと?」

軍人子弟「これは、突撃陣形……」
鉄国少尉「王弟元帥は持久戦を望んでいたのではありませんか?」

女騎士「王弟元帥の望みとは別に、そうせざるを得ないのだろう。
 おそらく、防壁の一部が崩れたのだ。
 前方の遠征軍が市街への侵入を開始した。
 そうなれば、我らは、撤退するか、
 突撃を仕掛けて援軍に向かうかの二択を強いられる。
 あれは、意思表示だ。
 近寄るならば、食らいつき、蹂躙すると云うな」

冬寂王「うむ……」

鉄腕王「仕方あるまい。どだいここまで来て
 一戦も交えぬと云うことに無理があったのだ」
840 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20:16:28.93 ID:quxpU4cP
軍人子弟「鋼盾の準備をさせるでござる」
鉄国少尉「了解しました。……馬車に装甲板を取り付けよ!」

羽妖精侍女「魔王サマ……」

女騎士「何かが、おかしい……」

軍人子弟「どうしたでござるか?」

女騎士「いや、おかしい。違和感がある。ここまで露骨な。
 ……余裕のない動きをする司令官か? 何が起きている?」

冬寂王「何が気になるのだ?」

女騎士「わかりませんが……。
 遠征軍の陣地で、何か大規模な問題が発生していると見えます。
 突破のチャンスなのか、罠なのか……」

冬寂王「チャンスだ」
鉄腕王「気にしたって仕方がねぇ」

鉄国少尉「装甲馬車、第一波準備良しっ!」

将官「――それは?」

軍人子弟「堡塁と車両の両方を兼ね備えた策でござるよ。
 樫で作られた丈夫な馬車を鉄の装甲板で強化したものでござる。
 8輪を持ち、多少の砲撃でも移動可能なうえに、
 その気になれば人力で押してゆくことも出来る。
 この車両20台を弾よけとして押し上げてゆくでござる」

女騎士「ふっ。考えたじゃないか」

軍人子弟「誰一人、死なせたくないでござるからね。
 しかし、それも、騎士師匠が約束を守ってくれていれば、
 の話でござる」
845 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20:22:30.40 ID:quxpU4cP
女騎士「任せて欲しいな。
 ――ライフル部隊! 多少狭いが馬車に乗り込めっ!
 射撃準備をして火薬も持ち込めよっ!」

将官「それは……?」

軍人子弟「あの部隊は、狙撃用の銃兵部隊でござる。
 数は少ないでござるが騎士師匠が鍛えた勇士でござるね。
 その射程距離と攻撃力を生かすためには、
 安心して銃撃が出来る砲座が必要でござる。

  あの馬車は重装甲でござるが、
 銃眼とよばれる小さな窓がついているでござる。
 いわば、移動用の小さな砦といえるでござろう。
 防御に安心が出来るからこそ、
 狙撃などと云うことが可能になるのでござる」

鉄国少尉「こちらの兵を守る砦になりつつ、武器にもなるのです」

女騎士「数が少ない銃兵を生かして、敵の力を発揮させない
 方策というわけだ。この程度の事はさせてもらわないと」

将官「そうかっ。うむ!」

軍人子弟「そして歩兵部隊には、下部の尖った鉄の盾を運ばせる。
 この杭のように尖った部分は、地面にさして即席の壁を
 作り出すことが出来るでござる」

女騎士「この2つで、こちらの陣地は柔軟に運用する」

冬寂王「……やるな」

鉄腕王「よっし! 鉄腕国、遠征部隊っ!
 および南部連合、連合軍!!
 眼前の聖鍵遠征軍後方防御部隊との間に戦端を開くっ
 命を無駄にするなっ! 敵はマスケットだ。
 鉄壁と装甲馬車を弾よけにしろ! 敵に突撃戦力はないか
 あってもごく少数だ! 第一射を撃たせろっ!」

軍人子弟「皆の味方を信じるでござる!
 この盾も車両も、鉄の国の鉄工ギルドが
 総力を挙げて研究したもの!
 マスケットの弾は20歩離れた場所から撃っても
 貫くことは出来ないでござる! 工兵は縦線塹壕の準備!
 急ぐでござるっ!!」
853 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20:42:44.57 ID:quxpU4cP
――聖鍵遠征軍、本陣上空

ひゅばぁぁぁぁああっ!!

勇者「つぐみっ!」
夢魔鶫「御身の側に」

勇者「魔王は!?」

夢魔鶫「判りません。しかし、防壁の一部が破られ、
 聖鍵遠征軍は開門都市内部に侵入した模様」

勇者「こんな事になったら約束も糞も関係あるかぁっ!」

――転移は禁止。上級呪文も禁止。勇者呪文もダメ。
 とにかく、勇者としての力を使ってはいけない。
 それを狙っている相手がいる。
 最後のその時まで、勇者は力を使ってはダメ。
 そうでないと……止められる人がいなくなる。

勇者「知ったことかっ。招嵐っ!!」
夢魔鶫「これは……」

勇者「気象制御だ。あいにくこれだけの広域となると、
 ごっそり魔力使っちまうが。そんなんどうでもいいっ」

夢魔鶫「ですが、御身が」

勇者「温度低下系は苦手なんだ、離れてろ」
夢魔鶫「はい……」

ぱたぱたぱたぱたっ

(……大気中の水分を凝固させる。
 中心だけ冷やすと、雪や霙になってしまうから、
 全体を攪拌してゆく。
 暖かい空気の流れから水を絞り出すイメージが重要)

勇者「雷鳴よ、大気を切り裂き、黒雲を呼べっ。
 全てを包む豪雨をもって結界とせよっ。“招嵐万雨呪”っ!」
857 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20:50:57.31 ID:quxpU4cP
――開門都市近郊、聖鍵遠征軍中枢

地方領主「行けっ! 突撃だぁ!」
小国国王「防壁は崩れたのだ、数で押せ! 攻めこめぇ!!」

光の銃兵「うわぁぁぁ!! 精霊は求めたもうっ!」
光の槍兵「勝った! 勝ったんだ!! 食い物をよこせぇ!!」

カノーネ兵「撃てぇ! 敵は弱っているぞ。撃ちつくせっ!!」

小国国王「団長、構えて乗り遅れまいぞっ!」
小国騎士団長「ははっ!」

小国国王「開門都市が陥落したとなれば、
 その財貨はいかほどになろうか?
 こたびの遠征には多大な費用がかかっているのだ。
 城にいち早く乗り込み、全ての宝物を略奪せよっ」

ドォオォォン!! ドォォオン!!

地方領主「進め! 進めぇ! 今回の遠征第一の功は我らのものだ!
 王弟元帥閣下と大主教猊下に覚えて頂くためにも、農奴どもよ!
 死にものぐるいで進め!
 死体なぞ放っておけ、そいつらは犬の餌にもなりはせぬ!
 進んで進んで、火薬の尽きるまで魔族どもを撃ち殺すのだっ!!」

ドォオォォン!! ドォォオン!!
   ゴォォォォン! ズドォォーン!!

農奴槍兵「もう、ダメだ……。俺は我慢できないっ」
農奴突撃兵「なっ。どうするつもりなんだよ?」

農奴槍兵「このどさくさに紛れて、領主様の糧食を盗むんだ」
農奴突撃兵「えっ!?」
農奴歩兵 ごくり

農奴槍兵「領主様だけは毎日肉やミルクやパンをどっさり
 食っている。俺たちから巻き上げた食料でだ。
 王弟元帥閣下が奪ってきてくれた食料を奴らは俺たちから
 取り上げて、これ見よがしに浪費しているんだ」
859 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 20:52:48.98 ID:quxpU4cP
農奴突撃兵「そ、それは、反乱っじゃ……」ごくり
農奴歩兵「おい、い、いいのかっ」

農奴槍兵「反乱なんかじゃない。
 だってこのままじゃ、俺らは突っ込まされて、
 結局は戦いで死ぬだけじゃないか。
 死ぬくらいなら、最後にパンを食って死にたい……」

農奴突撃兵「……」

ドォオォォン!! ドォォオン!!

農奴槍兵「それに、いま領主の騎馬部隊は
 開門都市に突撃をしていて、食料をたっぷり詰め込んだ
 天幕も馬車も、見張りを数人置いているだけだ。
 これは反乱なんかじゃない。
 褒美を前払いしてもらいたいだけなんだ」

農奴突撃兵「う、うん」

ドォオォォン!! ドォォオン!!

農奴歩兵「そうだ。食料を奪って配ろうじゃないか」

農奴突撃兵「えっ!?」

農奴歩兵「だって、開門都市はもう陥落するんだろう?
 そうすれば、食料だってどっさり手に入るはずだ。
 だとすれば、俺たち兵士が少しくらい食ったって
 問題ないじゃないか。
 どうせ俺たちだけじゃない。みんなだって腹が減っているんだ」

農奴槍兵「そうだなっ。精霊様だってお許しになるはずだ」

農奴突撃兵「奪って、食料をばらまきながら軍の反対側に抜けよう」

農奴歩兵「そうだな。それなら他の奴らにも、声を掛けないと」
866 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21:25:08.46 ID:quxpU4cP
――開門都市近郊、聖鍵遠征軍本陣内、豪奢な天幕

ちゅぷ、くちゃぁ。ころり、ころり。

大主教「……動いた」
従軍大司祭「は?」

大主教「至急、司祭を集めよ。全てのだ。
 かねてから用意させていた祈祷を行なわせる」

従軍大司祭「対黒騎士の、ですか?」

大主教「急がせよ」

従軍大司祭「は、はいっ! ただいま!」

大主教「司祭よ」

見習い司祭「はっ、はいっ!」

大主教「天幕の布を二重に。雨が降る」

見習い司祭「え? 今日も良い天気ですけれど」

大主教「いいや、降るのだ」

ちゅぷ、くちゃぁ。

見習い司祭「は、はいっ。そ、そ、それは?」 がくがくがく

大主教「精霊の光を見せてくれる、わしの眼だ。
 口蓋は脳と通じる髄液を出すという。
 舌の上でころがす度に、
 我が心は清澄なる恩恵の光で満たされるだよ。
 くっくっくっ。ふぅっふっふっふ」

見習い司祭「す、す、すっ。すみませんっ」

大主教「やはり、これだけの“死”に我慢しきれずに
 誘われいでたか。……黒騎士よ。
 魔王の首で門を開けることになるかと思ったが、
 もはやどちらでも構わぬ。
 いや、“勇者”であればさらに都合がよい。
 その力も我が使いこなして見せよう。
 必ずや捕縛祈祷で捉え……その力の全てを奪い取るのだ」
871 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21:31:35.37 ID:quxpU4cP
――聖鍵遠征軍、本陣上空

ゴォォォオオオオ!!

勇者「気圧低下……。こっから冷却して……っ」

ゴォォォオオオオ!!

勇者「招雨っ!! 来たれぇ!!」

ザアァァァァアア!!!

勇者「よっしゃ。――んじゃま、今度は落雷でもサービスすっか」

勇者(……当てたくはないな。適当な鐘楼とか、地面とかにでも)

ビギィン!!

勇者「なっ。んだ……これっ」

ギリギリギリっ

勇者「力が……。吸われ……っ」

夢魔鶫「主上っ!! 主上っ!」

勇者「逃げろ、つぐみ……」

夢魔鶫「主上っ。このままでは落下してしまいますっ。
 飛行を、魔力をっ!! このままでは、嵐に巻き込まれてっ」

ギリギリギリっ

勇者「……だめ、っぽ。……うっわぁ、二回目。
 かっこわる……。痛いなんて……もんじゃ……」

夢魔鶫「主上~っ!!」

勇者「……魔王。……だって……こんな……」
874 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21:35:54.77 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、後方戦線

軍人子弟「急げ! まだ馬が使えるっ」

ザッザッザッ

鉄国少尉「まだマスケットは届かないぞ!
 落ち着いて作業と進軍を進めろっ!」

女騎士「マスケットの射程ぎりぎりまで装甲馬車を進めよう」

軍人子弟「了解したでござる」

鉄国少尉「馬車と馬車の間は五十歩の間隔を守れ。
 前線に到着したら鉄盾の配置を忘れるな!
 命を守る盾だぞっ」

ザッザッザッ

将官「医療部隊の配置完了」

女騎士「……」

鉄腕王「どうしたい? 騎士将軍」

軍人子弟「まだなにか?」

女騎士「いや。なんでもない。ただ……」

軍人子弟「?」

女騎士「胸の奥がざわざわするんだ」

ゴゥゥン!!
878 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 21:40:51.64 ID:quxpU4cP
伝令兵「前線接触!! 遠征軍のマスケット銃撃が始まりました!
 しかしまだ遠距離なことと我がほうの装備もあり、実質被害無し」

軍人子弟「威嚇でござる! 進め!
 いまのうちに有利な位置を取るのでござる!」

  冬寂王「はじまるな」
  鉄腕王「ああ。大丈夫だ。あの男は、人一倍小心者だ。
   だから勝つためならこすっからいことでもやる」

  冬寂王「ずいぶん褒めるではないか」
  鉄腕王「女に弱いところ位だな。ダメなのは」
  冬寂王「はっはっはっ。貴君と一緒だな」

ゴォォン! ドオッォン!

軍人子弟「よしっ。車止めにて固定っ! 合図を」
女騎士「……」

軍人子弟「宜しいですか、騎士師匠」
女騎士「ん。ああ。すまない」

軍人子弟「……師匠っ」
女騎士「なんだ?」

軍人子弟「采配をよこすでござるよ」
女騎士「え?」

軍人子弟「……大丈夫でござる。ここは任されたでござる」
女騎士「子弟……」

軍人子弟「今は駆け出す時でござるよ。
 心配で心配でたまらぬのでござろう?
 今ならば騎士団を都市の反対側に迂回させることも
 不可能ではござらん。ここはいいでござる。騎士師匠」

女騎士 こくり

軍人子弟「ご武運をっ!」びしっ

女騎士「感謝するぞ! 我が弟子よっ!」ばっ
 「お前は、まだまだだっ。終わったらまたしごいてやるから
  死んだりしては駄目だからなっ」

軍人子弟「それはお互い様でござるよ。
 ……街を人々を頼むでござるっ。そして再びっ」



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