11-3


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」11-3


618 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 20:08:00.68 ID:fsI5836P
老賢者「期待せよ。
 ……いつか始まるお前の物語に。
 そしていつか出会うお前の友に。
 お前は馬鹿だが、けして臆病ではない。
 だから、いつかは“あたりくじ”を引くことも出来ようさ。
 暇があるのならば、守ってやってくれ。
 人々を。――彼らは、馬鹿ではなく、無知で臆病なのだ」

勇者「なんでそんな事言うんだよっ」

老賢者「他に何をお前に云ってやれる?」

勇者「そう言うのは良いから、林檎食おうよ。魚だってさっ。
 肉だって自分で取れるようになった!
 街への買い物だって今なら一時も掛けずに行って帰ってこれる。
 おれ、じじーに恩を返せるようになったんだよっ。
 見てくれよっ」

老賢者「見えておるよ……」
勇者「そうじゃなくてっ」

ぽろぽろ

老賢者「ちゃんと、見ておるよ……」
勇者「そういうんじゃ、なくてさぁ……」

ぽろぽろ、ぽろぽろ

老賢者「……なぁ、勇者。若者よ」

勇者「……うん」

老賢者「わしは、わしで良かったな。
 悔恨と失意に満ちた人生だったが、
 最後になってやっと帳尻があった。
 お前がいて、楽しかったよ。
 ……わしはどうやら、時を得たようだ」

勇者「いやだってば、そんなのいらないってばっ!!」ぎゅうっ

老賢者「はははは。……甘えてばかりでは、ダメだ。
 ねだっても、与えられはしない。
 勇者、最後の教えだ。
 期待は、するな。
 しかし、与えて、勝ち取れ。
 おまえの友を。お前の大事な人々を。
 与えられた時間を有意義に使うが良い。
 ――やがて行く闇の中には
 思い出の他には何も持って行くことは出来ないのだから」
626 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 20:38:18.39 ID:fsI5836P
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線

  「急げ! 王弟元帥閣下の指示だっ」「切り出し運びました」
  「ノコギリのヤスリはどこだっ!」「大天幕を持ってこーい!」

 バサリッ!

参謀軍師「どの位置だ?」
斥候兵「このライン、距離にして、すでに4里に迫っております」

聖王国将官「4里……」

参謀軍師「馬ならば2時間もかかりませんね」

王弟元帥「ふふふっ」

参謀軍師「元帥閣下。迫ってくるのが、南部連合軍と聞いても
 あまり驚かれていないようですね」

王弟元帥「その程度の事は起きるさ。
 これだけの戦だ。
 それにあの娘が“次は戦争だ”と云ったのだ。

 ――ならば援軍ぐらいは現われるだろう」

参謀軍師「……」

聖王国将官「準備は現在の方向で宜しいでしょうか?」

王弟元帥「よい。まずは馬防策だ。
 南部連合となれば、予想される主兵力は歩兵だが、
 騎馬兵力も過小評価すべきではないだろう。
 問題なのは、率いているのが誰か、と云うことだな」

参謀軍師「冬寂王が軍中にあれば、南部連合は完全に本気。
 この一戦に連合の命運をかけているといえるでしょう。
 総司令に鉄腕王、もしくは南部連合のしかるべき王を
 据えているのであれば、これも相当な入れ込みです。
 負けるつもりはさらさらない。
 どこかの将軍であるか、騎士隊長あたりが
 率いているのであれば、とりあえずの出兵。
 防備軍の寄せ集めであれば言い訳のための出兵、
 と云うあたりでしょうか」

聖王国将官「その辺の報告はないのか?」

斥候兵「いえ、斥候ではそこまでは……。
 それに、4里接近の報せを最後に、多くの斥候部隊との
 連絡が途絶しております」
627 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 20:40:34.08 ID:fsI5836P
王弟元帥「いつか見た、あの女騎士将軍である可能性もあるな。
 彼女は湖畔修道会を率いる英雄でもあるという……」

参謀軍師「あれが”鬼面の騎士”、”極光島の白薔薇”ですか」

聖王国将官「確かに非凡な用兵でしたね」

王弟元帥「まぁ良い。監視を……、いや、違うな。
 斥候班を撤収させよ。撤収した斥候からは綿密な聞き取りをいたせ」

斥候兵「はっ! 失礼します」

ばさっ!

参謀軍師「ふむ……。今回の戦は、待ちですか?」

王弟元帥「攻守考えてはいるが、
 我ら後方防備軍3万と都市攻略軍15万。
 この間隙を突くのが奴らの基本戦略だろう。
 奴らの数は3万にすぎぬ。
 全てを相手にするとは悪夢の光景だろうさ」

参謀軍師「そうですね」

王弟元帥「で、ある以上、我らが突出をしすぎて、
 本陣との距離が空けば空くほど、奴らには余裕が生じる。
 実際に本陣から兵が派兵されることはなくとも、
 その圧力を奴らに掛けつつ戦うためには、引きつける必要がある。
 奴らに小細工や攪乱工作を用いらせないためにもな」

参謀軍師「それにしても、3万とは」
聖王国将官「ふざけた数字だ」

王弟元帥「いや、彼らは彼らの国力を精査した上で
 判断したのだろう。
 結成したての南部連合で、大規模な派兵は、
 連合内部の不協和音に繋がりかねない。
 また、本国に兵を残すことで、大陸の国家に対する圧力を
 掛けることも出来る。現実的な判断であるとは思うが
 果たしてその3万で、聖鍵遠征軍に何をしようと思うのか」

参謀軍師「考えが読めませんな」

王弟元帥「矛を交えれば、伝わってくるだろう」
630 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 21:12:43.96 ID:fsI5836P
――遠征軍、奇岩荒野、湖畔修道会自由軍

湖畔騎士団「以上でありますっ!」

女騎士「来たな」

副官「はい。しかも予想以上に早く」
執事「しかし、三万。ですか……」

女騎士「仕方がないさ」

獣牙双剣兵「なんの。三万の援軍があれば、
 十万の兵でも打ち破れもうす」

湖畔騎士団「剛毅だな。お前達は。はははっ」

副官「俗に攻城三倍などといいます。あの開門都市には、
 現在おおむね二万程度の戦闘可能な兵力が残っていますから」

執事「その人数で10万あまりを支えているのですから、
 まさに五倍ですな。お見事という他ありません」

女騎士「さて、どうするか。だな」

副官「後方の南部連合軍と合流するのでは?」

執事「……」

女騎士「今わたし達のもつ7000あまりを加えれば、
 確かに南部連合軍にとっては大きな力になるだろうが
 それでも聖鍵遠征軍全ては十五万を越えている。
 合流してさえもばかばかしい戦力差だ。
 南部連合軍三万。
 都市内部の魔族軍二万。
 我ら七千。
 全て加えても五万七千。
 三倍にもおよび、しかもマスケットを装備した聖鍵遠征軍を
 相手にするにはまだまだ絶望的な状況が続いている」
631 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 21:14:10.31 ID:fsI5836P
副官「……」
執事「それにですな」

女騎士「うん」獣牙双剣兵「あの陣か」

執事「さようです。聖鍵遠征軍後方守備のあの陣地。
 二重に引いた馬防柵は、細いがしなりやすい灌木の枝を
 利用したもの。騎士の突撃は受け止められるでしょう。
 そこにマスケットの銃撃を浴びせかける魂胆かと」

湖畔騎士団「なぜあの防御戦は波打ってるんでしょうね」

副官「それは判りませんが」

女騎士「おそらくは、密を作り出すためだ」

湖畔騎士団「密とは?」

女騎士「あの陣地に突撃をする場合、一定数以上の兵力で
 突撃をすれば、陣の突出部分と後退部分のどちらにも
 兵が入り込むことになる。
 突出部分に性格に突撃した兵は、前方の敵に集中すればよいが
 へこんだ部分に入り込んだ兵は、前方に半円状の敵陣地を
 持つことになる」

獣牙双剣兵「ふむ」

女騎士「あのへこんだ陣は、マスケットを生かすための殺戮部分だ。
 へこんだ部分には、マスケットの射撃線が交わるように
 設定されているのだろう。
 こちらが密集隊形になればそれだけで命中率は跳ね上がる。
 多数方向から銃撃を浴びせかけて、火力を一点集中させる工夫だ」

湖畔騎士団「そんな……」

副官「初めて見る戦法ですね」

執事「ではやはり……」

女騎士「うむ。この間の遊軍合流は、王弟元帥。
 そしてその王弟元帥本人が、対南部連合を意識して、
 後方防御軍の指揮に回ったのだろうな」
632 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 21:16:20.70 ID:fsI5836P
副官「王弟元帥、ですか」

執事「聖鍵遠征軍最大の軍事的才能でしょう」

女騎士「中央諸国家をまとめ、今回の遠征軍成立を働きかけた、
 その張本人でもある」

獣牙双剣兵「敵の首魁か?」
湖畔騎士団「首魁というのとは違うだろうな。
 だが、最大の将軍。もっとも力ある司令官と見て良い」

副官「……なぜか、切迫感を与える陣容ですね」

執事「その感覚は覚えておかれた方が良い。
 司令官自身の気迫が全軍に伝わり、
 緊張感を持った前線となっているのです。
 あの陣地を突破するのためには生半可な手法では間に合いますまい」

女騎士「そうだな」

獣牙双剣兵「しかし、ずいぶん防御的だぞ?」

女騎士「それはおそらく、本陣と引きはなされるのを
 嫌っているのだ。20万に迫る巨大兵力で十分に
 可能だとは言え、聖鍵遠征軍は現在開門都市の攻略と
 後方部隊への対処という、いわば二正面作戦に近しい状態にある。
 これは軍事的に云えば、
 消耗の大きい、あまり褒められない状況だ。
 後方守備軍が突出しすぎれば、数にもよるだろうが
 我が軍に取り囲まれ壊滅の危険もある」

獣牙双剣兵「ふぅむ」
湖畔騎士団「では、まさにおびき出せば!」

執事「それに乗ってくれるような男ではありませぬ。
 あれで目から鼻へと抜けるような才気。
 幼い頃から周囲の風景さえ違って見えたほどで」
633 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 21:17:38.51 ID:fsI5836P
女騎士「そうなると――。情報戦か」

副官「とは?」

女騎士「現在どちらも決定打に欠ける。
 こちらから突っかかってゆけばマスケットの餌食だが
 向こうも本陣からは離れたくないだろう。
 と、なると、互いに相手の手の内を読み合う戦闘が始まる。
 こちらの手を隠し、相手の手の内を読む。
 そのためには情報が必要だ。
 おそらく、契機は2つ」

副官 こくり

女騎士「1つは、開門都市の防壁がどれほど
 持ちこたえられるのか? この情報だ。
 我らは今、都市の内側と連絡を取ることが出来ない。
 しかし援軍の接近を知らせて彼らの士気を高める必要がある」

副官「その通りです」

女騎士「もう一つは、聖鍵遠征軍内部の物資の量だ。
 主に食料と、火薬だな。
 この2つの量次第で遠征軍の戦術は大きな制約を受けざるを得ない。
 いくら王弟元帥であっても空中から補給を取り出すことは
 出来ないだろうからな」

執事「確かに」

女騎士「この2つの情報を手に入れる必要がある。
 と、同時に、敵の情報を遮断する必要があるな」

湖畔騎士団「斥候の対処ですね」

副官「それならば、我らが適任ですね」

女騎士「頼めるだろうか?」
636 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 21:19:21.41 ID:fsI5836P
副官「お任せを。このあたりの地理はわたし達が
 一番詳しいですし、何より精強な獣牙兵がついています。
 斥候や偵察部隊なら、大規模軍と云うこともないでしょう。
 また、付近には妖精族の者たちも身を潜めているはずです」

執事「では、わたしは敵の陣中に忍びますか」

女騎士「出来るか?」

執事「誰に仰るっ! この老執事今まで夜這いが発覚したことなど
 一度たりとてありませんぞっ。侮辱してはいけませんっ!」

女騎士「……」
副官「……」

執事「あの聖鍵遠征軍の中にどんな娘さんがいるかと思うと
 にょっほっほっほ。……む、胸が苦しくてはち切れそうですぞ」

副官「……あの、この方は」
女騎士「何も云わないでくれ」

 ドグワァッ!!

執事「なっ! 何をするのですか」

女騎士「妄想は良いからとっとと情報を集めてこい」

執事「恋する信者は執事さんのことを思うと
 いけないマスケット兵になっちゃうのかも知れないのですぞ!?」

女騎士「愛剣・惨殺大興奮が
 老人の脳の実態調査に乗り出すぞ」 じゃきーん

執事「ふっ。余裕のない人ですね」
女騎士「良いから行ってこい」

執事「余裕のない逼迫した貧しく悲しいサイズですね」
女騎士「良いから行けーっ!!」

副官「なんだかよく判りませんが、色々お疲れ様です」
644 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 21:37:22.04 ID:fsI5836P
――魔界のあちこちで

「忽鄰塔?」
「そう! 忽鄰塔!」

「人間族がまたもや開門都市に迫ってきているんだ。
 魔王様が立てこもって必死に戦っているんだってさ」

「どこでやるのさ? また平原で?」
「ううん、今度はその開門都市らしいよ」

「もしかして、人間の軍と戦うための忽鄰塔なのかな」
「そうかも知れない」

「忽鄰塔か……。戦は怖いな」
「でも行かなきゃ。魔王様が読んでいる。もしかしたら
 魔王様が助けを求めているのかも知れないよ?」

「ともあれ、伝令を伝えよう」
「銀鱗族へも、羽耳族へも」

「忽鄰塔……か」
「人間って、見たことある?」
「いいや、ないよ」

「人間が作った鍋を、こないだ竜族の商人が運んできたよ」
「人間かぁ。どんな奴らなんだろう?」

「こんなところまで攻めてくるんだ、戦争好きなんだろう」
「じゃぁ、獣牙みたいな感じかな?」
「蒼魔みたいな感じじゃないか?」

「そうかもな」
「ともあれ、忽鄰塔だ。長老にも知らせなきゃ!」
「そうだな、これは一大事だぞ!」
657 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 22:39:31.17 ID:fsI5836P
――開門都市、防壁の上、補修部隊

 ひゅるるる……どぉぉーん!!
   ひゅるるる……どぉぉーん!!

獣人軍人「はこべ! 石灰を運んでくれっ」

土木師弟「まずいな」

巨人作業員「いま、もってゆく……」

 ひゅるるる……ぉーん!!

義勇軍弓兵「ま、また来たぞあいつらっ!!」

獣人軍人「~っ!!」

巨人作業員「だ、だめだ。……おれ……こわい」

義勇軍弓兵「無駄だって云うのにっ」

  光の狂信兵「精霊は求めたもうっ!」
  光の狂信兵「精霊は求めたもうっ!」
  光の狂信兵「我らの魂は光の加護があある! 突撃っ!」

人間作業員「くっそう! 気が狂いそうだっ」

蒼魔族作業員「馬鹿な人間どもがっ」

獣人軍人「弓兵! 射撃!!」

義勇軍弓兵「くそったれ!!」

 びゅんびゅんびゅん!! びゅんびゅんびゅん!!!

 「ぎゃぁぁー!!」 「精霊に光りあれっ~!」
   「精霊万歳!」 大主教猊下、ばんざーいっ!!」

どすっ! どすっ! ばた、ばたっ
659 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 22:42:43.62 ID:fsI5836P
義勇軍弓兵「あ、あいつらあんなに……あんなに……はぁ、はぁ」

人間作業員「いくら防壁がそろそろ限界だからって、
 その防壁に槍や剣で突っ込んで
 どうなるもんでもないじゃないかっ。あいつら、おかしいぞっ!」

蒼魔族作業員「なんの意味があるんだ、こんなのにっ」

獣人軍人「心を揺らすな! 監視と補修作業をするんだ」

義勇軍弓兵「おかしい。あいつらおかしいよ……」

 ひゅるるる……どぉぉーん!!
   ひゅるるる……どぉぉーん!!

人間作業員「血が……。防壁にも血がべったりだ」
蒼魔族作業員「気にしたらダメだ。よし、こっちは終わった」

獣人軍人「市内へ行って交代班の編制を聞いてきてくれ」

義勇軍弓兵「はい、了解しました……」 ふらふら

土木師弟(限界だ……。防壁の強度もそうだけれど、
 精神的な疲労もピークに迫りつつある。
 防備軍は混乱しているが、あれは一種の恐怖戦術なのか。
 考えたくはないが……。あいつらは命をなんだと思っているんだ)

蒼魔族作業員「監督、石の配置を」

 ひゅるるる……

土木師弟「おっ。おう。土嚢と混ぜるように、
 壁の欠損箇所を補修していくぞ。おーい! 十人ばかり」

どぉぉーん!! どぉぉーん!!
   どぉぉーん!! どぉぉーん!!

巨人作業員「~っ!」
義勇軍弓兵「近い、下がれ! 待避だぁっ!!」

人間作業員「大将っ!」

土木師弟「なっ。総攻撃っ!? 何を考えてるんだ。
 いきなり火力を集中してきたぞっ!?」
666 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 23:27:54.01 ID:fsI5836P
――聖鍵遠征軍、中核陣地、だらしない天幕の群

         ……ォォン!
        ……ドォォーン!

光の銃兵「はぁ……」
光の槍兵「腹が減ったな」

カノーネ兵「王弟元帥が食料を持ってきて
 くれるんじゃなかったのか?」

光の銃兵「持ってきてくれたさ。現に振る舞ってくれた」
光の槍兵「それじゃなんで……」

カノーネ兵「食料は貴族どもがかき集めちまったって話だ」

光の銃兵「灰青王は何をやっているんだ」
光の槍兵「教会に云われて、どうにもならないらしい」
カノーネ兵「また豆のスープか……」

斥候兵「たまには、温かくて白いパンを食いたいな」
光の銃兵「もうずいぶん長い間食ってないような気がする」
光の槍兵「ああ、そうだな……」

カノーネ兵「……」
斥候兵「……」
光の銃兵「……」

         ……ォォン!
        ……ドォォーン!

光の槍兵「なあ……」
カノーネ兵「ん?」

光の槍兵「このスープ……」
カノーネ兵「うん」

光の槍兵「これって、悪魔の」
カノーネ兵「しぃっ!」
667 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 23:29:35.91 ID:fsI5836P
光の槍兵「えっ? そ、そうなのか?」
カノーネ兵「食っちまえよ」
斥候兵「馬鈴薯さ」

光の銃兵 ご、ごくり
光の槍兵「いいのか? そんな物を食べてっ」

カノーネ兵「黙ってろよ。これは略奪品の中に入ってたんだ」

光の銃兵「い、異端の」

カノーネ兵「いやなら食うなよ。俺が食うから」

光の銃兵「い、いや……」
光の槍兵「これ、美味いんだよ。俺は向こうでも
 食っていたことがある」

光の銃兵「そうなのか?」
光の槍兵「ああ」

         ……ォォン!
        ……ドォォーン!

カノーネ兵「こんな物でも食べなきゃやっていられないじゃないか」
斥候兵「ああ、そうだ」

カノーネ兵「集会に参加すれば、小麦がもらえるらしいけどな」

光の槍兵「いやだいやだ。俺は一度行ったことがあるけれど、
 薄っ気味悪いところだぜ。二度と行きたくはねぇよ」

カノーネ兵「でも、パン……」
斥候兵「ああ」

カノーネ兵「俺は今晩にでも参加してみるよ。
 懺悔集会なんだろう?
 頭を下げていれば、それで小麦がもらえるなんて楽なもんだ。
 いいや、どうせ俺はここに来た時から、
 食わせてもらうためだったら何でもするつもりでいたんだからな」
676 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 23:54:16.64 ID:fsI5836P
――聖鍵遠征軍、中核陣地、百合騎士団の仕官天幕

バサリッ!!

灰青王「百合のっ!」
百合騎士団隊長「あら?」にこり

灰青王「どういう事だ」
百合騎士団隊長「どうとは? 灰青王さま」

灰青王「なにゆえ、あのように無防備で
 意味のない突撃をさせるっ!?」

百合騎士団隊長「意味のない?」

灰青王「あの防壁は、マスケットや騎馬突撃で破れる強度ではない。
 ましてや、剣や槍でどうしようというのだっ!?
 歩兵の集団突撃など愚の骨頂ではないか!」

百合騎士団隊長「いけませんわ。灰青王さま」

するんっ

灰青王「っ!」

百合騎士団隊長「あれらの献身は、精霊様に対する信仰の証し。
 それを愚の骨頂であるとか、無駄などと云っては。
 それは背教者の言いざまです」

灰青王「信仰など知ったことかっ!」 ダンッ!!

百合騎士団隊長「聖鍵遠征軍は信仰の軍なのです」

灰青王「だとしても、その前線指揮は
 現在わたしが預かっているのだっ。
 前線に無用の混乱を引き起こし、士気を瓦解させるような
 戦術は司令官として見過ごすわけには行かないっ」

百合騎士団隊長「これは大主教猊下直々の御指図なのです」
677 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 23:57:37.96 ID:fsI5836P
灰青王「~っ!」

百合騎士団隊長「そのように驚きになられなくても宜しいでしょう?
 猊下は前線で苦しむ兵士の姿を拝見になられ
 その苦しみの何分の一かでもその身のお引き受けになろうと
 自らの両目をお抉りになったのですよ?」

灰青王 ぞくっ

百合騎士団隊長「ふふふっ。あのような血と脳漿の中で
 天に召された兵士達は、必ずや光の精霊の安らかなる胸の中で、
 永遠の至福を味わっているはず」

灰青王「そのような戯れ言っ」

百合騎士団隊長「ふふふっ」

 ちゅく。

灰青王「っ!?」

百合騎士団隊長「そんな表情をされなくても。
 初めてではないくせに。もうお忘れに?」

灰青王「俺は何かをごまかすために、自分の意を通すために
 心も寄せてない女を抱いたことは、一度もない。
 これまでも、これからもだっ」

百合騎士団隊長「わたしにはあるのです」とろり

灰青王「……っ」

百合騎士団隊長「もはや私たちは、1つの船に乗っているのです。
 この聖鍵遠征軍という船に。あの都市を落とせなければ、
 あなたもわたしも漆黒の炎で焼かれるさだめ。
 ふふふふっ。
 あの都市を炎の中に沈め、わたし達の未来を照らす
 かがり火にしようではありませんか。
 精霊は祝福されているのですから。うふふっ。
 くすくすくすくすくすくすっ」
697 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:18:49.24 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、南部連合軍

女騎士「来てくれたのか!」

軍人子弟「当たり前でござるよ!」
鉄国少尉「お久しぶりですね! 騎士将軍」

女騎士「少尉も立派になられたな」
鉄国少尉「ははははっ。そんな事はないです。まだまだですよ」

軍人子弟「騎士師匠の軍は?」

女騎士「先行偵察で散っている」
軍人子弟「このあたりはどうでござる?」

女騎士「このなだらかなうねりを持った荒野が四方に続いている。
 魔界では比較的豊かな土地だが、戦火で荒れ果てているし、
 潅漑がされていないからな」

軍人子弟「……見晴らしが良いでござるな」

鉄国少尉「ええ」

女騎士「至近距離での奇襲など成功できる土地じゃないな」

軍人子弟「そうでござるね」

伝令「軍人子弟殿、後方部隊のとりまとめが済んだよし、
 伝令であります!」

軍人子弟「よっし、護衛部隊とともに出発!」

鉄国少尉「我らは先行しても平気ですかね?」

女騎士「ああ、この辺に敵の小部隊は出ていない」

軍人子弟「では、王も呼んでくるでござるよ」
698 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:22:49.99 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、南部連合軍、丘の上

ビョオオオー!

女騎士「あれが、おそらく王弟元帥の引いた防衛線です」

冬寂王「むぅ」
鉄腕王「ふんっ。何とも小憎らしい」

軍人子弟「見事な防御戦でござるね。馬防柵に所々の土嚢、
 簡単とは言え、物見櫓。消火用の砂山……」

鉄国少尉「その進撃速度から、電撃作戦を好む好戦的な
 司令官だと思っていたのですが、そう言った雰囲気は
 感じられませんね」

冬寂王「そこがかえって恐ろしいな」
鉄腕王「あの軍にもマスケットが配備されているのか?」

女騎士「確実に」 こくり

冬寂王「やり合うとなれば、相当の被害は避けられぬな」
鉄腕王「そうなるか」

軍人子弟「今回は先方に主導権を取られているでござる。
 我らには戦場決定の自由がない。そして陣地を築くのは
 向こうの方が早く、こちらに有利な条件は少ない」

鉄国少尉「……」

女騎士「そして、おそらくあの司令官はこちらを
 甘く見ることも油断することもないだろう」

将官「では、こちらの勝機は薄いのですか?」

女騎士「薄いな」
700 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:25:04.12 ID:quxpU4cP
冬寂王「ふむ……」
鉄腕王「どうするのだ?」

冬寂王「どうする、とは?」

鉄腕王「今回わしをあえて戦闘の全権将軍にしたのは
 何か思惑があるのだろう? 
 責任を逃れるためにそのようなことにするような王でもあるまい」

女騎士「……」

冬寂王「思うところはないではないが、まずは、魔族だ」

鉄国少尉「まずは、とは?」

冬寂王「そもそも今回の戦は、
 魔界へと聖鍵遠征軍が攻め入って始めたもの。
 攻め入ったのは人間、中央諸国家。
 そして攻められたのは魔族の土地だ。
 妖精族の領事館を通して支援要請があったとはいえ、
 正式な宣戦布告をしたわけでもない。
 どちらに味方をするかと問われれば、それは魔族だ。
 これは南部連合会議の結果であり、変えることは出来ない。

  しかし“どのように”助けるかと問われれば、
 それは魔族側からの要求を第一に考えるべきだろう」

軍人子弟「……魔族、でござるか」

女騎士「魔王……」

冬寂王「その魔王だよ。
 わたしは魔王がどのような人物なのかそれに興味がある。
 これだけの魔界をまとめ上げ、
 そしてあの人間界側から戦争を持ち込んだ
 第二次までの聖鍵遠征戦争を経験しながらも、
 対等な平和条約を結ぼうと努力できるその精神に興味があるのだ」

鉄腕王「では、このまま待つと?」
702 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:27:14.95 ID:quxpU4cP
冬寂王「そのつもりだ」

軍人子弟「そうなのでござるかっ!? 魔界まで来ながらっ!?」
鉄国少尉「まさかっ!?」

冬寂王「最大限犠牲を少なくなる手法を議会で確約しただろう。
 我らは軍装を持ってこの魔界へと入ったが、聖鍵遠征軍ではない。
 最初から相手を殲滅する意図を持って行動するのは
 我ら南部連合の流儀ではないはずだ。
 わたしは魔王の話を聞きたい。
 その意志が、もはや聖鍵遠征軍はこの地上に存在すべきではない。
 そういうのならば、人間としてその決定には一言言う必要がある。
 また、もし聖鍵遠征軍が魔王の声を無視してただいたずらに
 領土と血の供物を求めるのであれば、その行いを正す必要もある」

軍人子弟「しかし、そのための実力が我が軍にあるかと申しますれば」

冬寂王「だから、将軍を任せたのさ。将軍をしていては、
 綺麗事を吐く時に口が鈍る」

鉄腕王「なっ。冬寂王っ」
軍人子弟「勝つ算段は現場でやれと!?」

冬寂王「どちらにしろ、今は時間が必要だろう?
 それは現場も上も同じ事のようだ。ほら、見てみろ」

鉄腕王「あれは……」

軍人子弟「望遠鏡を貸すでござる」
鉄国少尉「はっ」

軍人子弟「カノーネ、でござるね。
 こちらに向けて、あんな風に姿をさらして」

冬寂王「寄らば撃つ。あれは示威だ」

女騎士「どうやら向こうもとりあえずは硬直を望んでいるようだな。
 もし早めにけりをつけたいのであれば、あそこに構えたカノーネは
 隠しておき、我らの突撃にあわせて不意に発射すべきだった」

冬寂王「魔王殿の意志が判るまでは、戦闘による被害をなるべく
 押さえながらこの位置で圧力をかけ続けると云うことになるな」
708 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:51:44.06 ID:quxpU4cP
――5年前、梢の国、魔物の現れ始めた洞窟

パチパチ、メラメラ。

女騎士「なぁ、勇者」
勇者「なんだ?」

女騎士「勇者ってさ。どんな子供時代だったんだ?」

執事「そうですなぁ。そう言えば、聞いたことはありませんでしたな」
女魔法使い「……すぅ」

勇者「どうって……普通だったと思うぞ」

女騎士「そうなのか?
 なんかすごい英才教育を受けたりはしなかったのか?
 毎日すごく苦い強壮剤をバケツ一杯飲まされたから強くなったとか」

勇者「どんな虐待家庭だよ」

執事「たしか、聖王国で暮らされていたんですよね?」

勇者「聖王国って云っても、国境の深い森の中に、オンボロ家だよ」

女騎士「ふぅん。森暮らしだったのか?」

勇者「うん。まーね」

執事「剣技や魔法は、どのように身につけたのですか?」

女騎士「興味があるな。勇者の剣は一件めちゃくちゃだが
 よく見ると、めちゃくちゃだ。……ちがった。
 よくよく見ると、有るか無きかの品というか、
 本格的な型があるように見える」

執事「剣はまだしも、魔術はある種の学問ですから、
 我流で身につけるわけにも行かないでしょう?」
710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/13(火) 00:53:10.33 ID:quxpU4cP
勇者「……んー」
執事「?」

女魔法使い「……すぅ。……すぅ」

パチパチ、メラメラ。

女騎士「どうしたんだ?」

勇者「内緒なのだ。勇者72の秘密の1つだ。ぽんぽこぴー」

執事「そうなのですか」
女騎士「うーん。残念。……勇者は自分のことは話さないからな」

勇者「別に過去が無くたって、戦えるじゃん?
 どこで覚えた技だって、役に立てば問題ないってなもんだ」

女騎士「それはそうだけど」

執事「そう言うことにしておきますか」

勇者「ふわぁーぁ。もう、眠いよ。明日もあるし、寝ようぜ。
 魔法使いなんてメシ食ったら30秒で寝てるじゃないか」

執事「はははは。彼女は眠るのが趣味ですからね」

女魔法使い「そして、爺さんはおさわりが趣味、と」

執事「それはもう良いではありませんかっ」

勇者「じゃ、俺も寝るよ。あそこの端っこの木陰、もらうな。
 んじゃな! 見張りの交代になったら起こして良いからなー」
713 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:54:55.77 ID:quxpU4cP
パチパチ、メラメラ。

女騎士「また、失敗してしまったかな」

執事「そんな事はないでしょう」

女騎士「勇者、聞かれたくなかったんじゃないかな。
 でも、勇者は時々辛そうで、あんまりにも頑張り屋で。
 みていられないんだ……」

執事「そうかも知れませんねぇ」

女騎士「……」

執事「でも、それでも良いのではないでしょうか。
 世の中には、本人は尋ねられたくないことでも
 尋ねた方が良いこともあると思うのです」

女騎士「どういうこと?」

女魔法使い「……古い」

女騎士「起きてたのか? 魔法使い」

女魔法使い「……古い思い出は、時に取り出して
 空気に当てて、埃を払う必要がある。たとえ、痛くても。
 自分がどこに立っているか、思い出すために」

女騎士「?」

執事「判らないでも宜しいでしょう。女騎士も、勇者も
 それに女魔法使いも、まだとてもお若いのですから」

女魔法使い「……としより」びしっ

執事「にょっほっほっほ。わたしは年寄りなんですけどね~」
714 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:56:36.04 ID:quxpU4cP
パチパチ、メラメラ。

女騎士「わたしは、自信がないんだ。
 わたしは湖畔修道会で騎士になり、
 剣技も祈祷も人よりもずっと早く身につけてきた。
 みんなはわたしにとても良くしてくれた。
 天才だともてはやされもしたよ。
 勇者の再来、いや、真実の勇者だとも云われた。
 自分でも思っていた。
 わたしは出来るじゃないかと。
 相当にすごい力なんじゃないかって」

執事「……」

女騎士「でも、勇者に出会ってそんな考えは吹き飛んだ。
 わたしがどんなに早く動いても、どんなに強く剣を振っても
 勇者はその先にいっているんだ。
 わたしが高速詠唱をする間に、勇者は無詠唱攻撃呪文を
 2つは放っている……。
 勇者の戦闘センスの鋭さはわたしのそれよりも高すぎて、
 時には勇者がどんな連携を望んでいるか判らなくなる。
 勇者の見ている世界が判らないんだ。
 わたしは勇者に追いつきたくて必死だけど、
 勇者はいつでも寂しそうで、わたしに優しくて
 わたしは自分の無力さに押しつぶされそうになる」

執事「そうですね……」

女魔法使い「……かんけーない」
女騎士「え?」

女魔法使い「……それでも、一緒にいればいい。それだけ。簡単」

女騎士「……」

女魔法使い「……最後まで一緒にいれば、勝ち。
 今は判らなくても、いずれ判れば、勝ち」

女騎士「そう、かな」

女魔法使い「……勝つ気がないなら酒場に帰ればいい」

女騎士「そんなことはない」むっ
715 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 00:57:42.47 ID:quxpU4cP
女騎士「最後までたっているのは得意だ。
 重装甲に身を包んだ教会の騎士は全兵科のうち
 もっとも装甲の厚い、鉄壁の防御力を誇るのだからな」

執事「ぜっぺ」

ひゅばっ!!
女騎士「なにか?」

執事「いえ……。おほん、おほん」

女騎士「こう言っては悪いが、ただ立っているだけで、
 あっちへふらふら、こっちへふらふらしているような
 寝不足魔道士はわたしのような克己心や自制心は
 望むべくも無いだろう」えへんっ

女魔法使い「……胸も、態度ほど大きくなればいいのに」

女騎士 かちん

執事「ま、ま! ここはひとつっ」

女騎士「ふっ。そうだな。光の神のしもべは
 くだらないことは気に掛けないのだ」

女魔法使い「……ゆずらない」

女騎士「ふんっ。それはこっちの台詞だ」

執事「これに気が付かないのですから信じられません。
 それこそが勇者の資質なのかと疑うくらいですよ」ぼそぼそ

女魔法使い「……寝る」もそもそ

女騎士「何をしているんだ!? 勇者の次の見張りはわたしだ。
 そこはわたしの場所だぞ」
女魔法使い「……けち」

執事「先が思いやられますなぁ」
732 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01:24:49.30 ID:quxpU4cP
――開門都市、庁舎、執務室

鬼呼の姫巫女「――殿、――殿っ!!」
鬼呼執政「……どのっ」

鬼呼の姫巫女「魔王殿っ!!」

魔王「っ。すまない。続けてくれ」

鬼呼の姫巫女「……限界と見えるぞ。魔王殿。
 睡眠し、食事を取らなければ」

鬼呼執政「お顔の色が真っ青ですよ」

魔王「元から戸外生活は苦手の屋内派なのだ」

鬼呼の姫巫女「そんな冗談を言っている場合ではない」

鬼呼執政「ええ。このまま魔王殿がお倒れになられては、
 それだけでこの開門都市は陥落してしまいます」

      ……ォォン!
魔王「……眠れなくてな」

鬼呼の姫巫女「あの大砲か。確かに恐ろしげな音だな」

庁舎職員「無理もありません」

魔王「……会いたい人に会えない。それだけだ」

鬼呼の姫巫女「――」

魔王「いや、忘れてくれ」
鬼呼の姫巫女「それは……」

こんこんっ

魔王「誰だろう?」

庁舎職員「見て参ります」
733 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01:26:48.84 ID:quxpU4cP
かちゃり
火竜公女「魔王どのっ。ただいま帰参いたしました」

魔王「公女。わたしは、あなたには落ちて頂こうと」

鬼呼の姫巫女「ふふふっ。こうなると思っていた。
 公女、良く帰ってきてくれたな!」

青年商人「ご無沙汰していますね」

魔王「商人殿ではないかっ」 がたりっ

鬼呼の姫巫女「この方は?」

魔王「ああ、この方は」

火竜公女「人間界有数の商人の組織『同盟』の幹部の一人にして
 人界の魔王とよばれるかた。商人殿でありまする」

魔王「え?」

青年商人「魔王とか勘弁してください」
火竜公女「妾の良人と紹介すればお気が済むのかや?」

青年商人「……この件が終わったら苛烈な報復を決意していますからね」
火竜公女「どのような仕置きでも受けましょう」

魔王「どういう事なのだ?」

火竜公女「魔王殿に頼まれていた、援軍でございまする」

青年商人「それにしても、しょぼくれていますね。
 学士殿。
 あの日のわたしに詰め寄ってきたあなたからは
 想像もつかないほどだ。
 手元にあれば、水でも掛けるところです」
736 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/13(火) 01:31:16.08 ID:quxpU4cP
魔王「商人殿。それはないであろう。
 いまや、開門都市の危急の際なのだ。
 そもそも身なりに構ったことなど無いのだ、わたしは」

青年商人「そういう話ではありませんよ。
 あまりにも狼狽しすぎていて、みっともないと云ったんです」

鬼呼執政「み、みっとも!?」

魔王「っ!」
青年商人「怒りましたか? 早く回転数を上げてください」

火竜公女「何を、商人殿……?」

青年商人「あなたが魔王をさぼっているから、
 わたしのところにまで案件が持ち込まれているんですよ。
 いい加減に本気を出して仕事をしてください」

魔王「している。しているではないかっ」

青年商人「出来ていません」
火竜公女「っ!?」

青年商人「そもそも魔王の仕事はなんですか?
 都市防備の指揮ですか? 前線司令ですか?
 ただでさえあなたはそういう資質がないというのに。
 人がいないというのならばともかく、
 いながら使っていないだけではないですか」

魔王「……っ」

青年商人「あなたの持ち味は、無限にも思えるほど
 遠くを見渡す視界の広さと、味方も敵もないほどに
 透徹したバランス感覚。その冷たい論理とはうらはらに
 呆れるくらいにお人好しで理想家で、本当は全員を助けたいと
 死にものぐるいで願っている決死さだったのじゃありませんか?

  あなたは二番目に強力な絆は損得勘定だと云った。
 それは一番が神聖だったからではないのですか?
 正直、少しがっかりしました。
 もっと回転をあげて思考速度を早めてください。

  大事な臣下を失って、その痛みにすくんでいるのは判ります。
 だからといって、あなたの歩いている道から
 犠牲者がいなくなるなんて事はない。
 その数を数えているくらいなら、
 一人でも減らすために仕事を始める頃合いじゃないんですか?

  あなたのやるべき事は、目先の軍を防ぐことではない」



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