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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」11-2


463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:20:54.79 ID:8sofY9MP
――遠征軍、奇岩荒野、湖畔修道会自由軍

 ズギューン!!
 「だ、だめだっ!?」 「どこから撃たれているんだっ」
 「前線が持ちませんっ!」 「このままじゃお終いだぁ」

女騎士「副官殿? 後事を託して良いか?」

副官「拝命いたしました」

女騎士「獣牙の精鋭兵諸君っ! 突撃だ! 騎士団続けっ!」
獣牙双剣兵「おおおーっ!!」
湖畔騎士団「姫将軍に続けっ!」

ダカダッ ダカダッ ダカダッ ダカダッ 
   ギィィン!! うわぁぁぁ! うわぁぁぁ!!

副官「すさまじい速度ですね」
執事「にょっほっほ。性格ですな、あれは」

副官「良し、我々も移動しましょう」
執事「御意」

副官「狙撃部隊! 場所を移動しますよ、右前方の丘へ。
 護衛騎士は周辺を索敵。夜露に警戒をしてください。
 火薬の補給は後方部隊管理っ!」

執事「副官殿は細かい用兵が得意ですな」

副官「大将がずぼらですからね。雑用ばかり身について」
執事「にょほほ。良いことです」

副官「位置についたら各自狙撃位置を確保!
 後方の司令部が立ち直る気配を見せたらこれを狙撃」

ライフル兵「了解ッ!」

執事「これで、この陣地も落ちましたな」
464 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:23:15.90 ID:8sofY9MP
副官「はい……」

執事「気になることでも?」

  ダカダッ ダカダッ ダカダッ ダカダッ
    「我につづけぇ! 降伏したものは敵に非ず!
    伏せたものにはそれ以上の攻撃は無用だっ」

副官「卓越した手腕です。我らだけで襲撃を企てていた時よりも、
 被害も小さく、遙かに早い攻略です。ですけれど……」

執事「焦っているのですね」
副官「はい」

執事「もう少しです。あと2つ」

副官「しかし、落としたとしてもこの軍だけの兵力では」
執事「そうでしょうかね」

副官「?」執事「聖鍵遠征軍の中にも、きしみが出ているのではないですかな。
 にょっほっほっほ。総司令が本軍から出るとは、異例ですぞ。
 あのつるつる将軍もおそらくそれを考えているはず」

副官「王弟元帥が?」

執事「彼がいれば、包囲戦はもっと絶望的だったでしょうからね」

副官「そうでしょうか?」

執事「今指揮を執っている指揮官もきわめて優秀かつ、
 合理的なのでしょうが、その上を行くでしょう。
 格、というものは時に冷酷です。自覚でしょうが」

副官「自覚、ですか?」

執事「ええ。手を汚す、もしくは手を汚さない。
 何が出来て何が出来ない。全て自覚のたまものですよ。
 わたしは少々年が行ってからそれに気が付きましたが」

副官「それが、英雄の資質なのでしょうか」

執事「あるいは、勇者の。かもしれませんな」
465 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:24:39.01 ID:8sofY9MP
――魔界、大空洞近辺、赤い荒野

鉄国少尉「報告しますっ。最後方部隊、大空洞を抜けるためには
 あと一日半はかかる模様」

軍人子弟「よし、先遣隊を先行させるよう指示をだすでござるっ」
鉄国少尉「了解っ」

鉄腕王「どうだい?」軍人子弟「あと一両日で全ての部隊が大空洞を抜けるでござる」

鉄腕王「たいしたもんだ。行くって決めてから一週間で
 ここまで来ちまうとはな」

軍人子弟「それもこれも、多数の協力があってのことでござる」
鉄国少尉「まったくです」こくり

冬寂王「なかなか暖かいな、この装備は」
羽妖精侍女「温イノデス」

将官「商人子弟殿が、これだけの予備の防寒具を備蓄しているとは」

冬寂王「小癪な真似をする男だ。ふははは」

軍人子弟「……感謝でござる」

鉄腕王「しかし、準備が良い割には糧食が少ないな」
将官「ええ、一週間分しかないのでは?」

冬寂王「強引に出てきたからか……」

軍人子弟「これで良いでござるよ。計画通りでござる」
冬寂王「そうなのか?」

軍人子弟「糧食を持てば安心感は増すでござるが、
 行軍速度は著しく落ちるでござる。
 全ての行動を輜重隊の速度を基準に考える必要があるで
 ござるからね。
 今回の遠征では、補給線は軍とは独立して動かすでござるよ」

鉄腕王「こいつが強情で、そこは譲らないんだ」
467 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:26:41.83 ID:8sofY9MP
軍人子弟「出来れば補給は持ちたくないのが本音でござる。
 それに関しては、当てになるかどうだか判らない
 気障ったらしい男がいるのでまぁ、なんとなく」

鉄腕王「いいのか? 当てにならない男を当てにして」
冬寂王「ここには3万の連合軍がいるんだぞ!?」

軍人子弟「何とかするでござろう。あれでも同期でござる。
 それに拙者、全面戦争で勝てるとは思っていないでござる」

鉄腕王「うむ……」

将官「やはりマスケットには」

軍人子弟「マスケットの一斉射撃に、
 歩兵や騎兵を突入させるには無理がござるよ。
 もちろん幾つか使える策がないわけではござらんが
 相応の犠牲を払う覚悟で行なう、いわばいかさまでござる。
 拙者も前線司令をする限りどのような手でも使うつもりでござるが
 大局的に見て、いかさまだけで勝てる相手でもござらん。
 いかさまはやはり時間稼ぎや、
 局所での戦術的な勝利を得るに留まるでござるよ。
 戦争に勝つとは、大局で勝つと云うこと。
 おそらく、師匠なら……」

鉄国少尉「?」

軍人子弟「いや、何でもござらん。
 肝心の“荷物”は十分に用意が出来たでござるしね。
 負けるぐらいならば、逃げ出すでござるよ」

鉄腕王「わしは負けるなんて考えていないぞ」

羽妖精侍女「急ギマショウ。皆サン」パタパタ

軍人子弟「侍女どの、ではこれから先の地勢を
 教えて欲しいでござるよ」

羽妖精侍女「ハイデス」
471 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:50:21.61 ID:8sofY9MP
――14年前、夏、ある領主の館、広間

裕福な貴族「ほほう、これは賢そうな!」
貴族婦人「ええ、まさに英雄の相ですわ」
貴婦人「可愛らしい黒髪ね、小さな勇者さん」

勇者「えへへ~」

老賢者「何をでれでれしておるのじゃ。きもいわ」
勇者「う、うるさいっ」げしっ

老賢者 ひょい 「甘いわ」 ぼこんっ
勇者「あうっ!」

裕福な貴族「賢者様、そんなにしからないでやってください」

貴族婦人「そうですよ。勇者さまは平和と繁栄の象徴。
 この世界の守護者なんですからね」

裕福な貴族「この年でもうすでに二十四音呪全てを使いこなすとか」

勇者 えへん

貴族婦人「素晴らしいことですわ。そのうえ、剣技においては、
 もはや大国の騎士団長クラスにも達するのでしょう?」

貴婦人「強いのですね、勇者様は」にこり

老賢者「強いか弱いかとは、
 何も技のみにて決まるわけではないですからな。
 この勇者は、いってみればまだ見習いでして。
 人を救う意味がわからない限り
 ケツはブルーのまんまでありつづけて青いあざが取れませんなぁ」

勇者「むー」

貴婦人「そんなことないわよね?」

勇者「うん! おれがんばるもん!」
474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:53:05.69 ID:8sofY9MP
裕福な貴族「ふふふっ。そうだ、勇者どの?」

勇者「はいっ?」

裕福な貴族「武器庫でも見に行ってくるかね?
 これでも我が領地は歴史があるのだ。
 勇者ではないが、伝説の剣士が使っていたという
 名剣もあるのだよ」

貴族婦人「あら、そういえばそうですね」

勇者「行って良いか、じじ……賢者ー」
老賢者「まぁ、良かろう」

勇者「行きたいですっ!」

裕福な貴族「では、侍従に案内させよう」

 侍従「ははっ。こちらでございます、勇者様」
 勇者「ありがとうね、お爺さん」

  ガチャ。カッカッカッ

裕福な貴族「ふむ。あの少年が……」

老賢者「そうですな」

裕福な貴族「どうなのですか、素質は?」

老賢者「まさに勇者です。歴代の中でもことに優れた、
 心根の正しく、優れた若者になるでしょう。
 しかし、それには時間が必要ですな」

裕福な貴族「時間はない。賢者殿もお聞きになられたでしょう?
 教会付きの法術官も高名な占術士も、こぞって告げるのを。
 新たなる魔王が現われたのです。一刻も早く勇者を旅立たせねば」

老賢者「あの子はまだ幼いのです」

裕福な貴族「幼いとは言え、二十四音呪と無類の剣技。
 勇者としての力は十分だ。一刻も早く戦場へ出さねば我ら人間は
 魔族の脅威にいつさらされるのか判らないのですぞ? 賢者殿」

老賢者「そんなことで滅びるぽんぽこぴーなど
 滅びてもちっとも構わないとわたしは思うのですがね」
480 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:56:01.06 ID:8sofY9MP
――14年前、夏、ある領主の館、武器庫

じゃきーん! がちゃー!

勇者「うっわ、すっげぇ! 格好良いー!」

勇者「いいなっ。いいなっ。これ格好良いなぁ」

がちゃがちゃ

勇者「これなんかすごい良いなぁ。鎧は、結構大きいけど。
 剣なら持てるよな。この剣、魔力あるんだな」

 ペカー! キラキラ! シュォンシュオン! ライドゥ!

勇者「すっげー! 回るよ! 音が出るよ! 光るよ!」 きらきら

  貴族の娘「ねぇねぇ、あれ?」
  貴族の息子「そうだろう」

勇者「ん?」

 貴族の息子 じー

勇者「こんにちは?」 ぺこっ

貴族の息子「お前、勇者なのか?」
貴族の娘「勇者なの?」

勇者「うん、そうだけど。この家の子?」

貴族の息子「そうだ。領主の跡取りだ、偉いんだぞ」
貴族の娘「わたちは姫なのよ」

勇者「そうなんだー。おれ勇者。よろしくねっ」

貴族の息子「ふぅん」じろじろ
貴族の娘「勇者は無敵って、本当?」
481 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:57:05.76 ID:8sofY9MP
勇者「えーっと、強いよ。うんっ」にこぉ

貴族の息子「本当かよ?」
貴族の娘 くすくす

勇者「え?」
貴族の息子「ちょっと向こう見てみな、お前」

勇者「うん」くるっ

ゲシッ! ボカッ!!

貴族の息子「うわー! 本当だ!」
貴族の娘「すっごーい!!」

勇者「い、痛いな。何するのさっ!!」

貴族の息子「剣が刃こぼれしてるよ!」
貴族の娘「ほんとだ、ほんとー!」

勇者「なにするんだよっ」

貴族の息子「怒るなよ。良いじゃないか、怪我しないんだから」
貴族の娘「身体が鉄なんでしょ?」

勇者「違うよ。ちゃんと痛いよっ」
貴族の息子「血も出て無いじゃないか」 蹴りっ

勇者「あぅっ」

貴族の息子「わ、すげー! “がちん!”だって」
貴族の娘「ほんと? ほんと?」

勇者「なんで痛くするんだよっ」

貴族の息子「訓練だよ。兵士はみんなやってるだろう?」

勇者「俺は兵士なんかじゃないよっ」
貴族の息子「兵士だろ? 父様が言ってたぞ」
484 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 22:58:15.66 ID:8sofY9MP
勇者「違う。おれは勇者だもんっ」
貴族の息子「給料が要らないから便利、なんだよな」
貴族の娘「ねー?」

勇者「……ちがうもんっ」

貴族の息子「ふーん。つまんないのっ」
貴族の娘「田舎者ね-。言葉が通じないわ」

勇者「通じてるよ」ぶんぶんっ

貴族の息子「何かぶひぶひ聞こえるねー」
貴族の娘「豚さんじゃないわよ。豚さんはもっと可愛いもの」

勇者「っ!」

貴族の息子「しーらない。おい、勇者、ここ、片付けておけよ。
 あと、いくら金に困ってるからと云って盗むなよ」

貴族の娘「着てる服も、ぼろぼろだもんねぇ」

勇者「~~っ!」

がちゃっ

  貴族の息子「全然言い返せないの。弱虫だ」
  貴族の娘「勇者なんて、ただの田舎者ねー」

勇者「……」

かちゃ、かちゃ

勇者「……」

かちゃ、かちゃ

勇者「馬鹿は相手にしなーい。じいちゃんも云ってたもんね。
 そんなの予想済みだもんねーだ。ばーやばーや。うんこたれー」

かちゃ、かちゃ

勇者「お掃除、片付け。おけー」 ぐいっ
488 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 23:04:02.84 ID:8sofY9MP
――14年前、夏、ある領主の館、廊下

がちゃ。かつーん、かつーん。

勇者「じじーの話は終わったかな。おなかへっちゃったよ」

かつーん、かつーん。

勇者「でも、も、いいや。……早く帰ろう。
 森で修行してたほうが楽しいや。
 貴族の子供って、うるさいし、偉そうだし。馬鹿ばっかりじゃん」

    貴婦人「ええ、先ほどお目にかかりましたわ」
    若い貴族「ほほう」
    貴族の女性「どうでした? 勇者とやらは」

勇者「あ! さっきの綺麗なお姉さんだ♪」

    貴婦人「気持ち悪い。見られただけでぞっとするわ。
     あの黒く磨いたような髪の色。あんなに幼いのに
     二十四音呪を全て使うそうですよ?
     湖の国の魔法学院であれば八の呪をこなすだけで
     教授として迎えられるほどの難関詠唱魔法を」

    若い貴族「それはそれは」

勇者「え……」

    貴婦人「見た目は子供ですけれど、とんでもない。
     こちらの頭の中も服の中までも見通されているのかと
     思うと怖気がとまりませんわ」

    若い貴族「ははは、気にしすぎですよ。
     あれは、王の使う強大な軍事力の1つに
     過ぎないんですから」

    貴族の女性「でも、気持ちは判りますわ」
489 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 23:05:59.09 ID:8sofY9MP
    貴婦人「ええ。考えてもご覧なさい。
     一緒の部屋に自分を一瞬にして
     氷付けにもで消し炭にでも出来るような怪物がいるのよ。
     自分の命も尊厳もそいつの言いなり、指先1つ。
     幼い姿をしていてもそんな存在は、怪物よ」

    若い貴族「確かにそうかもしれないな」

    貴族の女性「わたし達は遠慮して正解でしたね」

勇者「――」

    貴婦人「にこにこと人間のように喋って……
     わたしはダメ。一緒の部屋にいただけで気が狂いそう」

    若い貴族「ははは。これは嫌ったものだ。
     憂さ晴らしに葡萄酒でもどうです? 梢の荘園を
     もつ叔父から素晴らしい一品が……」

かつん、かつん、かつん

勇者「――」

勇者「……ぽんぽこぴーの。……ぽんぽこぴー。
 一般人なんてぽんぽこぴー……♪」

がちゃん。ざっ

老賢者「おろ?」

勇者「あ! じじー。もう話し終わったのかっ? 帰るか?」

老賢者「うむ、そうじゃの。疲れたわい」
勇者「おれもだよー。やっぱ森がいいね」

かつん、かつん、かつん

勇者「……」
老賢者「……」

勇者「あのさ。じじー」
老賢者「なんじゃ?」

勇者「期待なんてするもんじゃないね」

老賢者「それに気が付くとは、成長したではないか。勇者よ」
513 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 23:47:39.25 ID:8sofY9MP
――開門都市、城壁を囲む聖鍵遠征軍、陣地後方

光の銃兵「王弟元帥だっ! 王弟元帥の軍が戻られたぞっ!」
光の槍兵「聖王国の王弟元帥、総司令官だっ!」

カノーネ部隊長「王弟元帥の軍が戻られた!
 これで食料が手に入る!」

カノーネ兵「なんと、王弟元帥の軍は、
 一戦もせずに無傷で食料を手に入れて戻られたらしいぞ。
 流石希代の名将だ。敵さえもその意の前にはひれ伏すという!」

 「王弟元帥っ!」 「王弟元帥っ!」 「元帥万歳っ!」

王弟元帥「現金なものだ」
参謀軍師「それが民草というものです」
聖王国将官「いかがしましょう」

 光の銃兵「王弟元帥万歳!」
 光の槍兵「ばんざーい!!」

王弟元帥「食料馬車50台分を振る舞え。
 医薬品は全て我が軍の天幕へ。
 残りの食料は2/3を灰青王へと届けさせろ。
 1/3は我が軍で押さえておけ」

参謀軍師「そんなにも灰青王へと送って平気なのですか?」

王弟元帥「やつは無能な男ではない。
 上手く配分して長持ちさせるだろうさ。それより問題は後方だ」

参謀軍師「はっ」
聖王国将官「謎の軍によって、我が軍の後方陣地および
 食料集積地点が強襲されている問題ですね」

王弟元帥「残りはいくつだ?」
参謀軍師「現在はすでに残り3かと」

王弟元帥「もはや無いな」
聖王国将官「え?」

王弟元帥「この時点ですでに落ちているだろう」
516 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 23:49:36.52 ID:8sofY9MP
参謀軍師「敵の軍とは……?」

王弟元帥「それは判らぬな。しかし、ここは魔界だ。
 あの都市で打ち破ったという敵の軍勢六万が
 魔界の軍の全てなどと云うことはあるまい。
 未だに十万、二十万の軍を保持しているはずだ。
 今までその軍が出てきていないのは、
 ただ単純に氏族間の力関係の問題であるか、
 集合に時間が掛かっていると云うことに過ぎないのだ。
 また、如何に宗教的な聖地であるとはいえ、
 1つの都市を守るために割ける防衛力には、
 自ずと価値的な限界があるという事実を示唆するともいえよう」

参謀軍師「はっ」

王弟元帥「あるいは……」
聖王国将官「あるいは?」

王弟元帥「可能性は濃いとはいえないが、人間か」

聖王国将官「人間と云いますと」

王弟元帥「南部連合だ。
 南部連合が、魔族の援軍に立つと決めた場合、
 その侵攻ルートからしても聖鍵遠征軍の後衛地は
 全て撃破されるだろうな」

参謀軍師「……ふむ」

伝令兵「伝令です! 王弟元帥閣下!!」

王弟元帥「なにごとだ?」

伝令兵「はっ。本陣後方、つまり南方から接近中の軍有り。
 距離はまだ10里ほどあるはずですが、その数おおよそ4万弱。
 王弟元帥閣下におかれましては、食料調達の遠征より戻られ
 お疲れかとは存じますが、麾下三万を率いて、この軍勢4万に
 当たって頂くようにとの、大主教猊下からの仰せです」

参謀軍師「統帥権は王弟閣下にあるのだぞっ」
聖王国将官「4万……」

王弟元帥「しかし防がぬ訳にも行かぬだろうさ。
 都市攻略にかかり切りの灰青王の軍では再編成が間に合わぬ。
 となれば仕方があるまい。
 行くぞっ! 至急前線の決定と周辺索敵、
 そして軍議の準備をせよっ!」
517 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 23:51:19.69 ID:8sofY9MP
――開門都市、城壁を囲む聖鍵遠征軍、豪奢な天幕

           ……ォォン!
           ……ドォォーン!

伝令兵「王弟元帥閣下、軍を返し最後尾警戒に入られました。
 元帥閣下は早くも前線司令部として天幕を設営、
 周辺に灌木を用いて防御柵を作られております」

従軍司祭長「わかった。何か変事があれば、即座に知らせるが良い」

伝令兵「はっ! 承りました」

           ……ォォン!

従軍司祭長「王弟元帥閣下であれば
 後方の守りは盤石でありましょう」

大主教「丁度良い時に帰ってきた。有能な男よ」

従軍司祭長「はい」

大主教「これもやはり精霊の導き。天意は我にあり」

ころり。ころり

従軍司祭長「そ、その……。大主教、猊下?」
大主教「どうした?」

従軍司祭長「目の……瞳の治療をされねば……」

大主教「よいのだ。ふふふ。
 我らが光の子の同胞、前線の兵士達が
 その命を掛けて戦っている……。
 われも相応の痛みをともにせねばな。ふっふっふっ」

百合騎士団隊長「そのお心、感じ入ります」
518 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 23:52:31.44 ID:8sofY9MP
大主教「ふふふ。それに、われにはもはや俗世の視力など
 必要はない。常に精霊の導きを見ることが出来るゆえ」

従軍司祭長「で、では、せめて包帯を」

大主教「好きにいたせ」

百合騎士団隊長「私がやりましょう」にこり

従軍司祭長「あ、ああ……」

大主教「ふふふ。さて、隊長よ、あちらの準備はどうだ?」

百合騎士団隊長「ええ、大主教猊下。機は熟しました」

従軍司祭長「……?」

大主教「防壁は、崩れそうか?」

百合騎士団隊長「灰青王様の言葉によれば、
 もはやひびの入った欠陥品とのこと。
 巨大な鉄槌の一撃あれば卵の殻のように砕け散りましょう」

大主教「任せる。好きなようにせよ」

百合騎士団隊長「有り難き幸せです」とろん

従軍司祭長「……」

           ……ォォン!
           ……ドォォーン!

大主教「後方を王弟元帥が固めている間に」

百合騎士団隊長「承りました」
従軍司祭長「何を……?」

百合騎士団隊長「精霊の子らの献身を届けるのです。光の根源に」
521 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:08:48.63 ID:fsI5836P
――地下城塞基底部、地底湖

ピィピィピィ! ピィピィピィ!

女魔法使い「うるさい……」

明星雲雀「起きて、起きてご主人。寝ている間に終わっちゃう」
女魔法使い「……」

明星雲雀「ご主人ぼろぼろ」
女魔法使い「……すぅ」

明星雲雀「起きて! 起きてご主人!」
女魔法使い「……揚げちゃうぞ」

明星雲雀「ピィピィピィ! 虐待反対動物愛護!」

女魔法使い「……」

ふわり

メイド長「魔力回路のチェックはただいま急がせています」

明星雲雀「ピィピィピィ!」
女魔法使い「……助かる」

メイド長「あらあら、まぁまぁ」

明星雲雀「揚げられちゃうよ! 食べられちゃうよ!」
女魔法使い「……“捕縛式”」

明星雲雀「ピギャン!」

メイド長「女魔法使い様」

女魔法使い「……?」

メイド長「僭越ながら、お手当を」
522 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:11:52.46 ID:fsI5836P
女魔法使い こくり
メイド長「では、包帯を巻きますので」

女魔法使い「聞かないの?」
メイド長「……」

女魔法使い「この両手の平の刻印を」

メイド長「聞いて宜しいのですか?」

女魔法使い「……」
メイド長「……」

女魔法使い「……」

メイド長「仰る必要はありませんよ」

女魔法使い「……必要だから」

メイド長「はい」

明星雲雀「ピィピィ!」 バタバタ

女魔法使い「騒がしい」

メイド長「18小隊のメイドゴーストを配置しております。
 まもなく、回路の断線部分は全てリスト化されるでしょう。」

明星雲雀「わたしが修理しますよ。するんだったら!」ばたばた
女魔法使い「させる。鳥に」

メイド長「はい」

明星雲雀「わたしは専用なんですからねっ」
女魔法使い「……態度が大きい」

明星雲雀「ピィピィ! 主人、仕事をとってはダメですよ」
女魔法使い「……判ってる」
527 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:18:16.65 ID:fsI5836P
――火焔山脈、紅玉神殿、あてがわれた官舎

カツーン、カツーン

辣腕会計「15番から42番までは小麦」
中年商人「小麦確認。よーっし」

同盟職員「こちらも合致ー」

辣腕会計「ふぅ。欠品は無いようですね」
中年商人「ああ。それにしても。だが」

同盟職員「お茶でも持ってきましょうか?」

辣腕会計「ああ、頼む」

中年商人「街では今頃激しい戦闘だろうな」

辣腕会計「そうですね」
中年商人「俺たちはこうして倉庫の資材管理かー」

辣腕会計「これも大事な仕事ですよ」

中年商人「それにしても、この量はなんだ?
 『同盟』はこれほどの物資を開門都市に集めていたのか?
 どうやって運び出したんだ?」

辣腕会計「これは火竜大公の個人財産ですよ」

中年商人「個人財産!? 馬鹿いえ、べらぼうな量の小麦だぞ。
 俺は魔界でこんな量の小麦を見たのは初めて。
 いや、魔界ってそもそもこんな量の小麦がとれ」

ガチャ

青年商人「ご無沙汰してますね」

中年商人「おい、なんでこんなとこにっ!」
辣腕会計「委員! いつこちらにっ!?」
529 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:20:34.38 ID:fsI5836P
青年商人「たった今ですよ。
 転移符のおかげで、身体中痛くてかないません。
 こんなに衝撃があるとは……。
 勇者のはもうちょっと乗り心地が良かったのですが」

火竜公女「お二人の力が必要です」

中年商人「これは姫君」
辣腕会計「やっとこちらへ避難されたのですか?」

青年商人「いや要らないでしょう」
火竜公女「必要です」

青年商人「ここは穏便に三人で話を詰めてですね」
火竜公女「そのような時間的猶予はありませぬっ」

中年商人「どういう事なんだ?」
辣腕会計「さぁ」

ガチャン!! ざっざっざっざっ

火竜公女「お二人もついてきてくださりますよう!」

青年商人「……」じー

中年商人「あの視線はついてくるなって云う意味じゃねぇか?」
辣腕会計「そうですね」けろり

中年商人「結構趣味悪いな、お前さん」

辣腕会計「口に出して再度要請しないと云うことは、
 “ついてきて欲しくはないが、止めるほどの強い権限はない”
 というところでしょう。で、あれば事態を把握しておく方が
 後々委員のためにもなるかと考えます」

中年商人「ものは言いようだな」
辣腕会計「内勤が長いとは言え、わたしも商人ですから」

中年商人「違いない」
531 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:25:15.84 ID:fsI5836P
――火焔山脈、紅玉神殿、大公の部屋

バターンッ!!

火竜公女「父上っ!!」

火竜大公「むぅ、なんじゃ小桜角。騒々しい。
 いったい何時ついたのだ。探させておったのだぞ」ぼふぅっ

  辣腕会計「“小桜角”ってなんです?」
  青年商人「幼名ですよ」
  中年商人「詳しいんだな」
  青年商人「ありがたくないことにね」

火竜公女「結納とはどういう事ですっ!?」

中年商人「はぁぁぁ!?」
辣腕会計「結納っ!?」

青年商人「……」ふいっ

火竜大公「いや、結納とは、結婚を望む殿方の家から
 花嫁の家に送られる支度金の一種じゃな」

火竜公女「そのような蘊蓄を聞いているわけではありませんっ!」

火竜大公 ちらっ

青年商人「ふぅ……」

火竜大公「そこなる男から、送られてきてな」

火竜公女「それは聞きました。わたしがお聞きしたいのは、
 なぜわたしの意志も確かめずにそのような
 仕儀となったかと云うことですっ」

火竜大公「それこそ、二人で話合えば済む問題ではないか」
532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:26:46.67 ID:fsI5836P
青年商人「あー」ちらっ

  中年商人「こんどこそ“出て行ってくれ”のサインじゃないか?」
  辣腕会計「そのようですね」しらっ

火竜公女「どのような意図なのですか。商人殿」ぎらり

青年商人「説明しましょう。
 これは高度に政治的判断に基づく先行投資とでも呼べる行動で、
 将来のあり得る行動オプションの幅を確保するための
 自衛的な防御策です」

火竜公女「妾の家に贈り物をするのが?」
青年商人「あー。そうですね、結果的にそうなります」

火竜公女「妾との婚姻をお望みでしょうか?」

  中年商人「ド直球だな」
  辣腕会計「姫ですから」

青年商人「いや、決してそう言うわけではありません」
火竜公女「では結婚するつもりは全くないと」

青年商人「そのように取られても困ります。
 未来は、全周囲的に広がっているわけですからね。
 特定の契約において将来的な契約の幅を狭めるのは
 感心できない取引手法です」

火竜公女「どうあってもしらを切るつもりでありまするか」

青年商人「それは心外です。わたしは誠実な取引相手です」

火竜公女「曖昧な態度は商人殿の器量の底を策見せまする」

青年商人「機に臨んで応変なんです」
534 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:29:52.65 ID:fsI5836P
火竜公女「……」
辣腕会計「……」

火竜公女「判りました」
青年商人「判って頂けましたか、感謝いたします」

火竜公女「この二人と父上では、証人が足りないと仰せなのですね」

青年商人「そのようなことは云っていませんっ。
 だいたいのところ、開門都市を助ける算段の中で、
 商人ゆえ兵力がないという話だったではありませんか。
 兵力はないが兵力になりそうな物資の話に及んだから
 その存在をお教えしただけで、
 どうして話がそこまでこじれるのですか」

火竜公女「こじれるもなにも、商人殿が逃げ回っているのです」
青年商人「逃げていません」

火竜公女「では、開門都市を救ってください」
青年商人「わたしはただの商人ですっ」

火竜公女「違います。勇者、もしくは魔王です」

  辣腕会計「は?」

火竜公女「妾は黒騎士殿と約しました。幸せになると。
 はっきり言います。黒騎士殿を振りました。
 振られたのかも知れませぬ。
 あれは魔王殿のものですから」

青年商人「知っています。いまさらですが
 ……気が付きましたからね」

火竜公女「ですから、妾は幸せになる必要がありまする。
 黒騎士殿が悔し涙を流すほどに。
 ですから、妾と添い遂げる殿御は勇者もしくは魔王に
 準じるほどのお方でないと約束を違えます」

  中年商人「むちゃくちゃな話だ」
  辣腕会計「剛速球も良いところですね。
   言いがかりじゃないですか」

火竜大公「はーっはっはっはっ。
 わしもどうせ嫁にくれてやるなら相手は
 その程度の大器であって欲しいものと思うておった」
538 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:32:28.58 ID:fsI5836P
青年商人「二人で何を無茶なことを言っているんですか!?」

火竜公女「商人殿が魔王になってくださるのならば、
 この件での追求は取りやめましょう」

  中年商人「おいおい」
  辣腕会計「委員がこんなに追い詰められているのは始めてみましたよ」

火竜公女「いかがかや?」

青年商人「いったいなんですか。論理が捻れているではないですか。
 なぜわたしが魔王にならなければならないのですか!?」

火竜公女「魔王であれば、妾も幸せになれますし
 あの都市を救ってくれるはずであるまする」

青年商人「それは間尺に合いませんよ。
 魔王になれば、仮に、ですよ。
 仮に魔王になればあの都市を救えるかも知れない。
 でも、実際救うかどうかは別でしょう?
 取引をするのであれば“魔王になる”か
 “あの都市を救う努力をしてみる”かのどっちかですよ!
 それが等価交換というものです。
 1つの弱みで無限に譲歩を引き出すとはどんな悪辣なやり口ですか。
 商人としての仁義にもとりますよっ」

火竜公女「では、商人殿はどちらなら引き受けるのです?」

青年商人「どちらかと云えば……」

  中年商人「二重拘束だ」
  辣腕会計「は?」
  中年商人「無茶な選択肢を2つ突きつけて選ばされてる。
   選んでいるようで、追い詰められてるだけだ」
  辣腕会計「ずいぶん交渉術を覚えましたね」

青年商人「選びませんからね。そもそも魔王は一人でしょう?
 こんな茶番には意味なんて無い。
 名乗ったからって実力がつくわけもない」

火竜公女「いえ、選んでくれまする」
青年商人「……」

火竜公女「妾は確信しておりまする」じぃ
541 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 00:39:33.26 ID:fsI5836P
青年商人「はぁぁぁ……。失着手でした」
火竜公女「お選びください」

青年商人「判りました。魔王の方で。しかし良いですね、
 こんなのはお遊びに過ぎませんからね。
 わたしが魔王を名乗ったところで、現実には何一つ変わらない。
 なんの実力がついたわけでもないし、それと開門都市を救う
 とか云うのは全くの別問題なんですからね?」

火竜大公「くくくっ。はーっはっはっはっは!
 未だかつてこのような場所で、これほど安易に
 魔王を名乗った男などいなかったであろうになっ。
 はっはっはっはっは!!」

火竜公女「承知しておりまする。では妾が勇者ですね」

青年商人「は?」
火竜公女「残り物ですが、それも縁起がよいと申しまする」

  中年商人「何を言ってるんだ、姫は」
  辣腕会計「わたしに判るわけが無いじゃないですか」

火竜公女「確認いたしまするが、魔王になられたからには
 あの都市を救う力があるのですよね?」

青年商人「それは判りませんが、もしその必要があれば
 微力を尽くしましょう。
 おそらくは、あの都市はわたしが考えていたよりも、
 大きな意味合いを持っているのでしょうから。
 しかし、わたしはあの都市のために何かをすると
 決めたわけではありません。
 貴女の詭弁に乗って見ただけに過ぎませんからね」

火竜公女「ええ、商人殿。この件では永久に感謝しましょう。
 さて、父上。しなければならぬお願いがありまする」

火竜大公「申すが良い」

火竜公女「忽鄰塔開催を。その権利は魔王のものなれど
 父上は魔王の権威を議長として預かったはず。
 で、あれば魔王殿に変わり忽鄰塔を招集することも可能でしょう」

火竜大公「忽鄰塔を?」

火竜公女「そうです。魔界の全部族をあの地に。
 忽鄰塔であれば、魔王殿の力を存分に発揮できるはず。
 ましてや二人もいるのであれば。
 ――妾とて望みを叶えるためにならばどのような
 あがきもして見せまする」
612 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 20:03:11.25 ID:fsI5836P
――11年前、冬、深い森の広場、木の根もと

勇者「おい、じじー」

老賢者「……」

勇者「林檎持ってきたぞ」

老賢者「……うむ」

勇者「……」
老賢者「……」

勇者「何を見てるんだ」

老賢者「……星を」
勇者「星?」

老賢者「あれは、なんだろうな」
勇者「星だろう?」

老賢者「星とは、なんだろう」
勇者「……うーん」

老賢者「不思議だ」
勇者「そうかなぁ?」

老賢者「……歳を降るごとに不思議が増える」
勇者「うーん」

老賢者「……」
勇者「……」
613 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 20:04:09.72 ID:fsI5836P
勇者「じじーは、最近静かだ」

老賢者「……うむ」

勇者「林檎、食べないのか?」

老賢者「うむ」
勇者「食べちゃうぞ?」

老賢者「食べるが良い」
勇者「……。むしゃ」

老賢者「……」
勇者「……むしゃ」

老賢者「……」
勇者「なぁ、じじい」

老賢者「……」
勇者「食べようぜ? 林檎」

老賢者「――勇者」
勇者「ん?」

老賢者「わしには、もういらないのじゃ」
勇者「……」

老賢者「……」
勇者「……やだな」

老賢者「どうした?」
勇者「そんなのは、いやだな。
 ……なんか変じゃん。間違ってるよ」

老賢者「自然なことだ」
勇者「そんなことないっ」

老賢者「時が来たのだよ」
勇者「嘘だっ」
616 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/12(月) 20:05:32.55 ID:fsI5836P
老賢者「勇者」
勇者「っ」

老賢者「こうして耳を澄ましておると、
 世界の至る所にある小さな呟きやさざめきがきこえる。
 清澄さを増した闇の中を、遠い遠い音信のように伝わる。
 この世界は豊かだ。
 小さな者どもの、睦言がさざ波のように波紋を広げている」

勇者「判らないよ」

老賢者「……わるくない。そう言ったのだ」

勇者「余計わからないよ……」

老賢者「勇者」

勇者「……」ぎゅっ

老賢者「期待をするのは、馬鹿のやる事よ」
勇者「うん」

老賢者「しかし、期待することを諦めるのは唾棄すべき所行だ」
勇者「――」

老賢者「期待せよ」
勇者「なんで、いまさら。そんなっ」

老賢者「そなたには、その力がついたのだから」
勇者「勇者の力なんて欲しがった事、一度もないっ」

老賢者「それは勇者の力とは別だよ」
勇者「判らないって云ってるじゃんっ!」

老賢者「……上手くは、教えて、やれぬなぁ」にこり

勇者「――っ」



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最終更新:2010年05月15日 16:03
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