11-1


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」11-1


4 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:24:04.47 ID:ilMrMHoP
聖国王「そのような事実はあるのか、高司祭」

王室付き高司祭「そ、それは……。一時的な……」

青年商人「実は本日陛下にお目にかかったのは、
 一部にはこれも理由でして。
 西海岸を中心とする商人5千人からの嘆願書でございます。
 教会に預けた金が、返ってこない、と」

王室付き高司祭「証書は必ず現金化するっ」

青年商人「そのような問題ではございません。
 わたし達商人は毎日を血の流れぬ戦場で過ごしております。
 我らが麦を運ばねば、飢えて死ぬ地方がいくつもあるのです。

  証書を現金化できなくて麦が買えなかった商家をご存じか?
 それでもその商家の麦を載せるはずだった船は出るのですよ。
 それが契約ですからね。
 何も乗せていない船が海を南北に動く。
 その損害をいかがお考えか?

  教会の信用? そのような物があるのであれば
 その教会に信用を傷つけられた
 我ら商人の信用はいかがすればよいのですか?」

王室付き高司祭「全ての損害を賠償しようっ」

青年商人「信用が金で買えると?
 ではわたし達も金で買いましょう。
 先ほど仰っていた教会の信用は金貨でいくらになるので?」

王室付き高司祭「そのような物が売れるわけが無かろうっ!
 恥を知れ、この背教者めっ!!」

聖国王「そこらで矛を収めよ」
6 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:27:22.11 ID:ilMrMHoP
青年商人「失礼いたしました」

王室付き高司祭「はんっ。破落戸が」

聖国王「どうしたものか」

国務大臣「国王陛下は司法の長でもあります。
 ここは国王陛下のご判断を仰ぐのが早道かと存じますが?」

聖国王「そうだな。ふーむ。……高司祭よ、
 さきほど損害分は全て払うと云っておったな」

王室付き高司祭「はい」

聖国王「さらに、西海岸の商人の信用を傷つけたことも認めるな?」

王室付き高司祭「商人などという生き物に人間なみの信用があれば、
 でございますが。ええ、認めましょう」

聖国王「損害全てのほかに、その信用をあがなうための
 賠償金の支払いが妥当だろう。どの程度を支払えばよい?
 高司祭、そちはどう思う?」

王室付き高司祭「金貨で10万枚で宜しいでしょう。過ぎた額だ」

聖国王「うむ、そちはどう思う、青年商人?」

青年商人「わたしのみの信用であれば、多額に過ぎる額です。
 さすが聖なる光教会の司祭様の見識、感服いたしました」

王室付き高司祭「所詮金か。卑しい男よ」

青年商人「しかし、先ほど申し上げましたとおり、
 この嘆願書には五千名からの商人が名を連ねております。
 そのため私一人の話では済みません。
 私が責任を持ってまとめますので、彼らの損害額の50%を
 賠償金として上乗せする、と云うことで納得して頂けませんか?」

王室付き高司祭「よかろう」
10 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:29:48.18 ID:ilMrMHoP
青年商人「して、支払いはいつ?」

王室付き高司祭「ここは聖王国だ。
 本日城の帰りにでも教会へ寄り、持っていくが良い」

聖国王「これでよいか? 青年商人」

青年商人「確かに。確約いたしましょう」

王室付き高司祭「では話は終わりだ」

青年商人「金額の方は、金貨にして33億枚ほどになります」

王室付き高司祭「なっ」
国務大臣「!?」

青年商人「まず、証書の額面ですが金貨にしておおよそ2億7500万枚。
 損害率である8を掛けますと」

王室付き高司祭「何故そのような数字が出てくるのだっ!?」

青年商人「現在の木炭の価格をご存じでしょう?
 我ら同盟のメインの取引先である梢の国で購入して
 湖の国の湖上交通を利用して運びますと、
 仕入額のおおよそ16倍の価格になります。
 二国間の関税の額は、いやはや我ら商人の悪夢ですよ。

  全てがこのような消費に回されるわけではありませんので
 その半分の数字8を採用してみましたが、詳しい計算を行なえば
 10を越えることになります。よろしいですか?」

王室付き高司祭「くっ……。好きにしろっ!」

青年商人「では10のほうで……」

王室付き高司祭「8で良いと云っているのだっ!!」

青年商人「はい。では2億7500万枚8を掛けましてに22億枚。
 これに信用毀損の賠償金50%を加えまして金貨33億枚となります」
19 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:33:19.04 ID:ilMrMHoP
王室付き高司祭「きっ、貴様……」

青年商人「もちろん、金貨33億枚を本日中に
 お支払い頂けないとあらば、それに対する損害も発生しますゆえ
 先ほどの計算をもう一度繰り返すことになります。
 すると……
 今度は金貨396億枚になりますね。いやいや、計算が難しい。
 念のために確認しますと、その次は4752億枚ですよ?」
王室付き高司祭「……っ!!」

聖国王「あははははははっ!」

王室付き高司祭「国王陛下っ!」

聖国王「良いのか? 聖王都の教会の資金をかき集めぬと
 2、3日のうちに負債はもっとふくれあがってしまうぞ?」

王室付き高司祭「こっ。これで失礼するっ! 国務大臣っ!!」
国務大臣「……え?」

王室付き高司祭「資金のことで相談がある、付き合って欲しい」
国務大臣「は、はいっ。陛下っ。では私もしばし離席を」

どっどっどっ。
  がちゃんっ!!

聖国王「ははははっ! 見ろ。
 尻に矢が刺さったアナグマのようではないか!!」

青年商人「はははは。そうですね」にこっ

聖国王「ははははっ。おかしいな。
 ここまで笑ったのは少年の時以来だった気さえする」

青年商人「それはよかった。
 わたしもそうやって笑わせてもらったことがあるのですよ」
27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:36:27.04 ID:ilMrMHoP
聖国王「さて、商人殿の手腕は判った」
青年商人「は」

聖国王「あの者達を、追い払いたかったのであろう?」

青年商人「いえいえ。あの者達は聖王陛下に
 無礼な態度を取っていましたからね。
 ちょっとお灸を据えてやろうかと思っただけですよ」

聖国王「あれ達は忠実なのだ。……余にではないがな」

青年商人「ふむ」

聖国王「教会に、欲望に、正義に。あらゆる権威に。
 そこには余が含まれていない。それだけのことだ」

青年商人「……」

聖国王「出来る弟を持った凡庸な王とは
 こういうものだよ。商人殿。
 なかなかゆったりして悪くない暮らしさ」

青年商人「それでも、わたしには陛下が必要なのです」

聖国王「わたしが? 勅書、と云っていたな。
 何でも書かなくてはならないだろうな、借金のカタだ」

青年商人「借金?」

聖国王「はははっ。先ほどの国務大臣を見ただろう?
 高司祭は本日中になんとしてでも金貨33億枚を
 支払うつもりなのだ。
 金貨33億枚も途方もない額だが400億枚となれば、
 これは大陸の小麦全ての数年分の金額。
 破滅以外にはない金額だ。金貨33億枚であれば、
 聖都の教会全てと、我が王宮の国庫を空にすれば
 なんとか払える額だろうな」

青年商人「国庫? よろしかったのですか?」
32 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:38:55.78 ID:ilMrMHoP
聖国王「なにがだ?」
青年商人「そのような支払いをお命じになって」

聖国王「なに。二人にはよい薬さ。
 薬効が強すぎてあの二人が首をつっても仕方ない。
 それはまさに身から出た錆。
 ばれないと思っているだろうが
 そもそも国庫にわたしの許可無く手を触れれば死罪なのだ。
 もっとも、処刑人でさえ、今やわたしの声に従うか判らぬが」

青年商人「……」

聖国王「元帥がまぶしすぎるのだろうな」

青年商人「そのようなことはないかと存じます。
 聖王陛下は、私のペテンを見抜いておられた。
 生まれるべきところを間違えただけでしょうし、
 まだ遅いとは思われません」

聖国王「そうかな」
青年商人「はい」

聖国王「で、あれば。その言葉を信じて、
 あの情けない二人を救ってみるとしようか」にこり

青年商人「どのように?」

聖国王「商人殿。
 商人殿は、たったいま、金貨33億枚を手に入れた。
 これを取り戻し国庫を充填せねば、
 あの二人は死罪相当の罪だろうな」

青年商人「はい」
34 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:41:53.94 ID:ilMrMHoP
聖国王「あれらの主として、余は部下の失態の責任を取って
 その33億枚を商人殿から取り戻したく思う」

青年商人「ほほう。良い提案です」にこり

聖国王「商人殿は大金を手にされて浮かれているかもしれん」
青年商人「ふむ、そうかも知れませんね」

聖国王「で、あればその隙をつこう」
青年商人「ほほう」

聖国王「そして、何らかの勅書が欲しいらしい」
青年商人「はい」こくり

聖国王「せいぜい足元を見させて頂く」
青年商人「わかりました」

聖国王「では、望みは? 商人殿」

青年商人「聖王都に湖畔修道会を建築する許可を」
聖国王「……っ」

青年商人「加えて、その修道院の内側で行なわれる取引
 および売買には税を掛けないという、聖光教会にたいして
 為されるのと同じ免税特権をお与えください」

聖国王「それは……」

青年商人「聖光教会と決別を求めているわけではありません。
 両立、平行でよいではありませんか。王家の皆様があの
 古い伝統ある教会に帰依しているのも理解しております」

聖国王「……っ」
青年商人「ここだけの話。じつは、為替証ですけどね」

聖国王「まだ何かあるのかっ!?」

青年商人「本日持参したものは、我が同盟とその友好的な
 商人のもの。もちろん、この大陸中にある為替証は
 そのような少ないものではありませんよね。
 本日の取引、……8倍の1.5倍。つまり12倍。
 この情報が流出した場合、おそらくさきほどの10倍、
 いや50倍では効かない請求が詰めかけましょう。
 聖光教会を助ける選択肢は、
 いまや、勅書をいただけることです」にこり
46 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:51:26.54 ID:ilMrMHoP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、風の鳴る丘

 びゅおおおおーっ。びゅぉぉぉ……

王弟元帥「学士殿」

メイド姉「はい」

王弟元帥「この勝負の一旦の勝敗は、学士殿に譲ろう」

メイド姉「退いて頂けますか?」

王弟元帥「うむ。どうやら後方が騒がしいようでな。
 おちおち細かい交渉をしている暇はなくなったようだな。
 ここは、貴公の勝ちだ」

生き残り傭兵(この姉ちゃんやりやがったっ!!)

参謀軍師「しかし、食料850台および、医薬品の約束は」

メイド姉「もちろん我が師の名誉に誓って」

王弟元帥「……」メイド姉「……」

 びゅおおおおーっ。びゅぉぉぉ……

王弟元帥「勇者に感謝するのだな。これは学士殿一人の力ではない」

メイド姉「はい、それは初めから」

勇者「はははっ! 昔から、俺をこき使うもんな。
 あの演説の時だってさ!」

メイド姉「それは謝ったではありませんか」くすっ

王弟元帥「これで終わりではあるまい?」

メイド姉「はい、所用を済ませたのち、
 わたしも開門都市にゆきます」
49 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/09(金) 01:56:02.23 ID:ilMrMHoP
王弟元帥「それはぜひ歓迎しないといけないな。
 しかしその時は勇者の影には……」

メイド姉「はい。勇者様にも邪魔はさせません。
 次は、王弟元帥さま。……わたしとあなたで争いましょう」

参謀軍師「っ!?」
生き残り傭兵「ばっ! 何を言いやがるっ!?」

勇者「あはははっ。すげぇぞ。なぁ……魔王」

メイド姉「それから、訂正します。元帥さま」ぺこり

王弟元帥「なにをだ?」

メイド姉「旅の学士、と名乗ったことです。
 もちろんそれは嘘ではありません。
 わたしは学問を学びましたし、旅もしていましたから。
 実をいえば、聖王国へも行ったことがあるんですよ」

王弟元帥「ほう」

メイド姉「でも、旅の学士か、と尋ねられれば
 やはり微妙な気分です。自信もありませんし、
 なんだか、当主様に恐れ多くて……」

王弟元帥「?」

メイド姉「ですから、わたしは王弟元帥さまと聖王国の方々
 そして勇者様と、わたしの仲間の前で名乗りましょう。

  わたしは冬の国に生まれた貧しくてみすぼらしい農奴の娘」

聖王国将官「農奴だって!?」

メイド姉「はい。そして、また。
 ただ人間であることのみを望む無力な一人の娘です。
 しかし、今日、今、このときより名乗りましょう。

  わたしは、今一人の勇者。
 この世界を救おうと決意する、
 あの細い道を歩み始めた大勢のうちの一人です」
400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 19:17:35.95 ID:8sofY9MP
――15年前、春

勇者「おいじじー」
老賢者「なんじゃ小僧」

勇者「さかな取ってきたぞ」
老賢者「焼けばー? 食えば-?」

勇者「なんてつめたいじじーだ」
老賢者「これも修行なのじゃ」

勇者「しゅぎょーっていえば、何でも良いと思ってるだろ」

老賢者「修行なんて言い訳つけなくても、
 何を言っても許される。それが賢者クオリティじゃ」

勇者「……おにじじーっ」
老賢者「むっしゃむっしゃ」

勇者「あ! 魚!?」
老賢者「美味しいのぅ。美味しいのぅ」

勇者「ううう。おれのさかな……」
老賢者「まだ残ってるじゃろうが。くかかか」

勇者「うー。“小火炎”っ!」ぼひっ

老賢者「真っ黒焦げじゃな。かーっかっかっか!」
勇者「……あう」

老賢者「どれこうやるんじゃ。貸してみろ」
勇者「うん」

老賢者「まず塩をふるじゃろ?」
勇者「うんっ」
401 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 19:19:28.66 ID:8sofY9MP
老賢者「そうしたら、後で熱くなっても持てるように、
 木の串にさしてじゃな……」

勇者「うん……」ぐーきゅるる

老賢者「そうしたら、こんな感じで手を離して、
 最初は弱い火力で“炎熱呪”……ほーら、熱くなってきた。
 “火炎”ではなく、“炎熱”で炙るのがコツじゃな」

勇者「なぁ、じじー。なんでおれ、“術”とか“術式”とか
 つかっちゃだめなんだ? “呪”は詠唱無くてむずかしいぞ」

老賢者「戦闘中に詠唱しておるようなぽんぽこぴーの
 一般人に媚びてどうするんじゃ。最初っから無詠唱。
 これが大賢者と勇者の歩む道じゃ」

勇者「そうなのか」くんくん

老賢者「犬のように鼻を鳴らすのではないわ」

勇者「だって良い匂いしてきたぞ?」

老賢者「まだじゃ。ここで焦っては事をし損じる。
 決して魔力を揺るがせず、集中力にて制御する。
 そうすれば、皮の部分がぱりぱりの焼き魚に仕上がるのじゃ」

勇者「そうなのか! もう出来るか?」

老賢者「うむ、完成じゃ」

勇者「美味そうだなぁ!」

老賢者「美味いぞう! むっしゃむっしゃむっしゃ」

勇者「え?」ぽかーん

老賢者「デリィシャスじゃ!」ぐっ!
402 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 19:21:03.17 ID:8sofY9MP
勇者「えぅ」うるうる

老賢者「泣けば済むと思ったら大間違いじゃぞ!
 はーっはっはっは! この世は弱肉強食、食卓弱者差別なのじゃ」

勇者「……」きゅるるるぅ

老賢者「ふんっ。ほれ、焼いたパンとベーコンじゃ。
 食っておくが良いわっ。へたれ勇者くーん。れろれろれろ」

勇者「やた!」 がつがつがつがつっ
老賢者「獣じゃのう、まったく」

勇者「……」がつがつ 「美味ぁ~い♪」
老賢者「そーか。今度また買ってきてやるわい」

勇者「俺も街に行きたい。色んなご馳走食べたいぞ」老賢者「止めておくんじゃな」

勇者「どして?」きょとん
老賢者「勇者は、街には住めぬよ」

勇者「なんで?」

老賢者「羊の群に、狼は住めぬだろう?」
勇者「おれ悪さなんてしないよ? 悪いことすると、
 じじーすごく怒るじゃん。鉄の杖で叩きやがって。
 俺の頭が悪くなったら、じじーのせいだぞ」 むぅ

老賢者「それでもじゃ」

勇者「わかんないよ」

老賢者「羊を食わない狼であっても、狼が羊の巣にいれば
 羊は怯えよう? 怯えた羊は狼に当たるだろう。
 羊の食える狼だったら羊を黙らせれば済むが
 食えない狼は、さぞや切ない思いをするだろうな……」

勇者「難しくて、よくわかんないよ」
老賢者「それでいいのだよ」
406 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 19:23:07.44 ID:8sofY9MP
勇者「飯食ったら何するんだ、じじー」

老賢者「“飛行呪”と“遅滞呪”をつかって、
 低速飛行の訓練じゃ」

勇者「苦手だ」老賢者「出来るようになれ」

勇者「出来るようになったら、偉いか?」
老賢者「偉くはないが、桃を食っても良い」

勇者「そうか! がんばるぞ!」
老賢者「うむ」

勇者「……“遅滞呪”っ! “遅滞呪”っ!」
老賢者「……なんで2回云うのじゃ」

勇者「これおわったら、チチハハのところへ行って良いか?」
老賢者「お前も、あそこが好きなのだなぁ」

勇者「悪いか。じじー。子供は親をだいじにするものだぞ」
老賢者「あれは、中身のない石塚じゃよ」

勇者「いいか? 行っても」
老賢者「良いぞ」

勇者「やった。――“飛行呪”っ!」
老賢者「1回で成功したのぉ」

勇者「馴れた」
老賢者「そうか。もう15の基礎呪文は全て覚えたか」

勇者「おれ、てんさいだもん」
老賢者「天才とはもう少し品がある人物を指すな」

勇者「むぅ」老賢者「ほれ。早く行かないと夕暮れが来るぞ。
 7つの梢のリボンを全て別の枝に結び終えてくるのだ。
 ただし、決して手を使ってはならぬぞ」

勇者「わかったよー。じゃ、いってくるぞ、じじー。いってきます」
老賢者「“いってらっしゃい”。小僧」
416 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:02:19.01 ID:8sofY9MP
――遠征軍、奇岩荒野、湖畔修道会自由軍

副官「では、南部連合の援軍もこちらに向かっているとっ?」

執事「や、それは判りません」

女騎士「いや、ここは向かっているとしておこう。
 伝言は残してきたから、おそらく手配してくれるだろう」

副官「伝言?」

女騎士「“食料とか援軍とか、適当に頼む”と」

副官(っ!? こ、この人はこれで南部の英雄、姫将軍なのか!?
 うちの大将もいい加減だけど、もうちょっとは考えているぞ!?)

獣牙双剣兵「なんにせよ、有り難い。助かった」

女騎士「副官殿はどうしてここに?」

副官「はっ。最初からお話しします。
 先日、と云ってももはや一週間前になりますが
 紋様族および鬼呼族を中心とした魔族連合軍は、
 開門都市を直前とした平野にて、聖鍵遠征軍と激突しました。
 聖鍵遠征軍15万にたいして、魔族軍6万をもってあたり
 ……壊滅を」

女騎士「壊滅……」

副官「魔族軍は遠征軍のマスケット射撃によって、
 その半数3万を失いました。
 撤退戦は熾烈を極めたのですが、
 その戦いのさなか我が主、魔王殿、銀虎公が帰還し
 からくも全滅を免れることが出来ました。
 しかし、銀虎公は魔王殿をかばって戦死され。
 残された軍にも大きな被害が出ました」

執事「銀虎公……」
湖畔騎士団「あの勇猛と聞こえた将軍が」

女騎士「状況は理解した」
417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:05:27.31 ID:8sofY9MP
副官「わたしがここにいるのは、砦将の命令です。
 魔族軍が撤退し、都市に引き上げた次の瞬間に下された命令が、
 故銀虎公の残された精鋭部隊5000を率いて
 開門都市から出撃せよ、とのものでした。
 敵の数は膨大で、今や開門都市は
 完全に包囲されているかと思います。
 少人数で抜け出すならともかく
 軍を出撃させることは不可能になる。
 そのことを察した将軍はわたしを臨時の前線指揮官として、
 この部隊を率い、まだ包囲されていなかった
 西の城門から逃しました。
 聖鍵遠征軍がおそらく作り上げている補給路を断つためにです」

獣牙双剣兵「うむ」

女騎士「そうだったのか。
 ……その判断が出来る司令官。名将だな」

執事「“草原の鷹”と云えば、
 傭兵時代から有名な隊長でしたからね」

副官「しかし、やはり多勢に無勢。
 飛び道具もなく、消耗戦は避けられないところでした。
 ご助勢に感謝します」

女騎士「いや、こちらも状況が
 まだつかみ切れていないところだった。ありがたい」

副官「あの武器はなんだったのですか?」

女騎士「ライフル。と云うらしい。
 マスケットの高性能なモノだと思えば良い。
 グリスを塗ったドングリ状の弾丸を飛ばすんだ。
 射程だけで云えば、マスケットよりも3倍はある」

副官「3倍!?」

女騎士「連射性能はそこまで良くないし、
 扱いも手入れもデリケートだ。
 おまけに50丁しかないと来ている。
 だが、相手は戦に不慣れな足跡の兵士達だからな。
 指揮官を落としてゆけば、判断能力が下がって
 パニックになったり動けなくなったりする。
 そういう意味では、有用な武器だな」
418 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:07:37.31 ID:8sofY9MP
執事「そしてこちらは、湖畔騎士団」

湖畔騎士団「湖畔修道会の聖騎士です。
 隊長である女騎士様に従って、
 地の果てまでお供する所存であります」

副官「こちらは、獣牙軍。故銀虎公の残された精鋭部隊だ」
獣牙双剣兵「よろしく頼むぞ、女戦士どの」

女騎士「しかし、われらが合流しても、良いところ七千少しか」

執事「この数で、開門都市奪還というのはさすがに
 少々厳しいですな」

湖畔騎士団「そうですね」

女騎士「双肩遠征軍の様子はどうなのだ?
 被害状況や軍様は。そして指揮や運用はどうなっている?」

副官「指揮は無慈悲なほど的確なものでした。
 先ほども云いましたが、その数は15万」

女騎士「ん? 少なくないか?」

副官「もちろん後方陣地として、
 先ほど我らが襲ったような宿営地を
 何個も残しているというのもありますが、
 どうやら別働隊を動かしたようなのです」

女騎士「別働隊? 規模と司令官は?」

副官「司令官はおそらく王弟元帥、規模はおおよそ三万。
 しかし、その行方となりますと、こちらでも会戦が
 始まってしまったためにつかみ切れていません」

獣牙双剣兵「だが、斥候の報せだと、その出発の様子から
 精鋭兵の部隊だったのではないかと察せられる」

執事「……ふむ。じつは、この魔界には、我らより先んじて
 潜入した軍があります」
419 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:09:37.67 ID:8sofY9MP
副官「それは?」
女騎士「ああ、そうだったな」

執事「氷の国の貴族子弟殿とメイド姉が率いる傭兵部隊100名です」

副官「100、ですか」

女騎士「少ないが、彼らは我らにはない大きな武器を持っている」

獣牙双剣兵「それはなんだ?」

女騎士「時間だよ。我らよりも二ヶ月。
 聖鍵遠征軍がこの魔界へと入るよりもそのさらに前から、
 彼らは活動を開始しているはずだ。
 あるいは情報だけで云うのならば、
 聖鍵遠征軍よりも持っているだろう」

執事「諜報部に接触できれば、その行方も判るかも知れませんが」

湖畔騎士団「開門都市に入り込むのは、当面難しいでしょうね」

副官「ええ、我らもそこまで確認している暇はありませんでしたが、
 おそらく開門都市は、
 現在、聖鍵遠征軍の激しい砲撃に晒されているかと思います。
 開門都市は防壁の建築を急いでいましたが、
 どこまで持ちこたえることが出来るかはわかりません」

獣牙双剣兵「……一刻も早く戻らねば」

女騎士「保つさ」

副官「え?」

女騎士「魔王が都市に入ることに成功したのならば
 おめおめと落ちるなんてありえない。
 今は開門都市の無事を祈って、我らは我らの勤めを
 果たすべきだな」

副官 こくり

女騎士「よし、副官殿。軍を合流させ、補給基地を
 壊滅させてゆこう。援軍が送られぬうちに電撃作戦で
 最低後4つの陣地を落としたい」
423 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:44:25.43 ID:8sofY9MP
――湖の国、首都、『同盟』本部執務室、深夜

ザー

青年商人「ひどい雨だな……」

ザーーザーーザザザ

青年商人「嵐でも来てるのか。……さて」

青年商人(聖王国への湖畔修道院の進出は認めさせた。
 できれば主要都市全てに同時に建築を開始したいな。
 大主教が戻る前に、既成事実とする。
 ……と、同時に、湖畔修道院の敷地内には『同盟』の
 小取引所、および銀行を併設してゆく。
 これは修道院の建築費と引き替え取引で達成できるだろう。
 湖畔修道院の修道院長とも、面識が無いわけでもないしな)

ザーーザーーザザザ

青年商人(と、なると当面は戦争の結果待ち。
 ……それから資金面の手当てか。儲けの皮算用はその後に。
 しかし、な。戦争――か)

青年商人「ふむ」

ザーーザーーザザザ

青年商人(勝敗。……勝敗ね。
 そもそも何を持って勝敗とするかだ。
 魔界の全面的な征服など、現実的な意味でもって
 想像が出来る人間などいるのかな……。
 いくら地底にあるとは云っても、
 世界丸ごと1つを戦って所有権を得るなどと。
 ――“征服”。
 なんだかまるで夢物語みたいだな。
 そもそも魔界の全土征服など、誰が望んでいるんだ。
 まったく愚かしい)
424 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:51:26.56 ID:8sofY9MP
青年商人(今回の遠征に参加した王族や領主は合わせて40あまり。
 彼らに1つずつの新しい領地を与えるために
 40の都市を占領してそれぞれに防御部隊を
 置いたとしたらどうなる?

 遠征軍参加者が30万。その全てが戦闘員だとしたところで
 ……1つの都市に7500人でしかない。
 ばかげた話だ! 1つの都市を7500人で征服し続ける?
 7500の兵士、しかも勝手のわからない異境で
 分散された防備軍など、都市から逃れた魔族の兵や民によって
 あっという間に分断され、小部隊ずつ殲滅されてしまうだろう。
 それが判らぬ聖光教会でも王弟元帥でもない。
 彼らには別の目的がある。

  それはおそらく、中央大陸の意思の統一。
 第一次聖鍵遠征軍から始まった物語だ。
 魔族という敵を得た中央中枢国家群は
 中央大陸の権力の掌握に大きな一歩を踏み出した。
 しかしその流れは途中で大きく変更を受けてしまう。
 忠実な前線兵だったはずの南部諸国の“反乱”によってだ。
 あの“反乱”は彼らのストーリーには存在しなかった。
 南部は己の意識など持たない木偶人形として、
 永遠に中央の指揮の下に戦場で踊り続ける哀れな奴隷だったはず。

  しかしその筋書きは“なぜか”失敗してしまう。
 自分たちの意志を持った南部は三ヶ国通商同盟を結成。
 着実に経済力や防衛力をつけて、中央の制御から外れ始めた。
 このままでは流れが止まり、中央諸国家には南部に同情的な
 国家や領主も増えるだろう。
 ……事実その傾向は見え始めていた)

ザーーザーーザザザ

青年商人「お茶を誰……。誰もいる時間じゃないか」
427 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:54:19.49 ID:8sofY9MP
ザーーザーーザザザ

青年商人(中央諸国家にとっては、大陸の意思を統一する上で
 “共通の敵”だけではもはや足りなくなっていた。
 その“敵”でさえも、南部諸国家では情報統制が崩れ、
 真実の姿が見えかけていたからだ。

  そんな中枢が考えた戦略は2つあっただろう。
 1つは大兵力もしくは権謀術数を持って南部連合、
 特にその主要国である旧三ヶ国通商を瓦解させること。

  しかし、おそらくはその戦略は凍結された。
 ――種痘のせいだ。三ヶ国は滅ぼしたいが、あの技術は欲しい。
 大方そのようなところだろうな。
 本当であれば、湖畔修道会への調略工作は熾烈を極めたはずだ。
 しかし、調略して裏切らせるには、湖畔修道会は素朴すぎ
 その頂点は清廉でありすぎた)

青年商人「そこが“らしい”。あの勇者のお仲間ですから」

ザーーザーーザザザ

青年商人(もちろん武力制圧も検討しただろう。
 しかし、そのするには、湖畔修道会および南部連合は
 平和的な態度を徹底してしまった。
 異端指定をしてきた聖光教会すら否定しなかったのだ。

  聖光教会は自分たちの影響下にある国から、湖畔修道会の
 建物全てを撤去させ、追放した。
 焼き討ちを許し略奪を行なった土地さえある。
 しかし、一方南部連合の三ヶ国は、領内の聖光教会の活動を
 禁止さえしていない。
 この状態で南部連合に戦争を一方的に仕掛けるというのは
 あまりにも“大義名分”がなさ過ぎた。

  そもそもの発端、あの“異端指定”の時からがそうだったのだ。
 中央は南部諸王国を挑発し、武力で歯向かうように仕向けていた。
 そうすれば大義名分を持って南部諸王国を討てたからだ。

  しかし、中央中枢の思惑を大きく越えるほどに、
 南部の盟主、冬寂王の政治的バランス感覚とカリスマ性は
 ずば抜けていたわけだ)
428 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:57:40.08 ID:8sofY9MP
青年商人(こうして、中央諸国家は南部連合を
 直接的に攻撃するという戦略を放棄せざるを得なかった。
 南部連合は降りかかる災厄、白夜王の侵攻や魔族の介入を
 全て振り切り、その上で内政を疲弊させることも
 最小限にして着実に発言力を伸ばしてきていた。

  そこで中央中枢はもう一つの選択肢、
 魔界への侵攻を検討し始める。
 ここまで考えれば、彼らの狙いは明白だ。

  彼らにとって大陸の意思統一のためのテコはすでに
 “共通の敵”だけでは不十分なのだ。
 時代は転換してしまった。
 中央が中央の意志を固く1つにまとめるためには、
 新しいテコ、つまり、強力な報酬が必要なのだ。
 魔界への侵攻は、その餌。“新しい領土と無限の富”。
 しかしそれも実際には与える必要のない餌だ。

  農業技術の進化や極光島に代表される魔族撃退を受けて
 今や大陸の生産力は確実に上がっている。
 諸侯や諸王国も富と資源、そして兵士を蓄えて、
 外へ向かって進出する力を水面下ではつけ始めている。
 その野心を刺激された諸王国はこれからも
 甘言に乗せられるだろう。
 何度失敗しても、いや、失敗すればするほどに
 新しい領土や富への欲求は身を焦がして彼らを飢えにも似た
 欲望へと追いやるだろうに……)

ザーーザーーザザザ

青年商人「戦争、ですか……」

青年商人(聖鍵遠征軍が30万、そしてマスケットが如何に
 優れた兵器だとしてもとうてい魔界の全土征服など
 可能だとは思えない。

  もし、可能だとすれば、それは30万をそのまま運用して
 補給などは現地略奪に頼り、出会う魔族は一人残らず抹殺。
 そして都市を征服しても占領もせずに焼き討ちにして、
 次の都市へと向かう。
 つまり虐殺的な手法だ。
 しかし、そんな風にして荒廃させた領土の価値を回復させるには
 どれほどの時間と資金が必要なことか)
429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 20:59:50.98 ID:8sofY9MP
青年商人(かといって、都市を占領し、魔族を支配して防備軍を
 置くとすれば、その上限数は、自ずと5つやそこらになるだろう。
 それを越えればその後は拡散してゆくだけとなる。
 あの広い魔界の中で、20万だろうが30万だろうが
 まるで水に入れた湯のように、
 その熱を放散させて、やがて溶けて消える……。

  だとすれば、やはり中央中枢の目的は
 幾つかの都市を陥落させて、いわば“美味しい餌”であることを
 諸侯や諸王国に印象づけることか。
 それで次回、その次の遠征軍へと望みをつなげ
 南部連合をも既成事実と“餌の魅力”で切り崩しをはかってゆく。

  ……だとすれば、魔界の全土は当面無事といえるし、
 現在の我ら『同盟』の戦略方針は間違えていない。

  でも、なんだろう。この違和感は……)

青年商人「……」

ゴゴンッ

青年商人「?」

ザーーザーーザザザ

青年商人「誰か来たのですかー?」

ズル、ズルッ、ズルッ

青年商人「今日はもう会議も打ち合わせもありませんよ。
 こんな夜は宿舎で酒でも飲んで寝た方が」

ガチャリ。ぽたっ。ぽたっ。ぽたっ。

火竜公女「……」
青年商人「公女……?」
443 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 21:42:43.75 ID:8sofY9MP
火竜公女「……」

青年商人「転移符ですか!?
 どこから歩いたんですか、まったく。
 ……ぐしょ濡れじゃないですか。
 雨とは云っても冬なんですよ? 死にますからね、まったく」

火竜公女「……」

青年商人「公女はこういう事をしない人だと思ってたんですが」

ザーーザーーザザザ

火竜公女「……助けてください」
青年商人「え?」

火竜公女「商人殿に頭を下げるのはいやでありまする。
 この胸が玻璃の様に粉々に砕ける思いさえしまする。
 しかし、妾にはもう他に頼るべき人もおりませぬ……。
 開門都市が陥落しようとしております。
 なにとぞお力添えを。
 なにとぞ……」

青年商人「……」

火竜公女「開門都市は遠征軍二十万に包囲され、
 その火砲の脅威は昼と夜の別なく、
 市民を責めさいなんでおりまする。
 聖鍵遠征軍は狂気のごとく都市防壁に押し寄せては、
 命も省みずに突撃さえ繰り返す有様。
 開門都市は魔王殿の指示の元良く耐えていますが」

青年商人「魔王? 魔王殿が開門都市に?」

火竜公女「そうでありまする。
 この都市は失うわけにはいかない、と」

青年商人(なにゆえに? 一度奪わせて奪い返す方が、
 遙かに容易なはず。戦争のことは詳しくはないが
 補給線を伸びきらせるだけ伸びきらせ、
 魔界の奥深くへ誘い込み戦うのが定石なのではないか?
 あるいはマスケットの力を見誤ったのか?)

火竜公女「聖鍵遠征軍も、執拗なほどの執着を見せて
 開門都市の一帯は、今は魔界最大の戦場となってしまいました。
 すでにして死者は三万を遙かに超え、
 大地は血の供物を飲み干すばかり……」

青年商人「王弟元帥……」
444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 21:44:16.46 ID:8sofY9MP
火竜公女「王弟元帥なる敵の総司令官は、会戦が始まる前に
 なにやら別働隊三万を率いて軍から離れた模様であります。
 未だその動きは知れませぬが……」

青年商人(本軍15万に、王弟元帥がいない……?)

火竜公女「……」
青年商人「辣腕会計は?」

火竜公女「待避しました」ぽつり
青年商人「そうです。『同盟』の商館は待避するように
 司令の手紙を出したはずです。公女はなぜ残ったんです?」

火竜公女「妾は竜の公女ゆえ」きっ
青年商人「……」

火竜公女「同胞を見捨てることなど出来ませぬ」

青年商人「そう……でした。すみません。
 公女のことをよく考えもせず、わたしは退避命令を出した」

火竜公女「……辣腕会計どのも、中年商人殿も、
 それ以外の職員達も我が父の居城へと、
 会戦が始まる前に移動しております」

青年商人「……」

火竜公女「何とぞ、お力添えを」ぎゅっ
青年商人「わたしは商人です。なんの兵力もない」

火竜公女「それでも、商人様ならば」
青年商人「出来ません」

火竜公女「報酬ですか? 報酬ならば何でも。
 妾に払えるのならば、どのようなものでもっ」

青年商人「商いの道を歩むのならば、
 “何でも”なんて手形を出してはいけませんよ」
445 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 21:46:37.14 ID:8sofY9MP
火竜公女「やはり、わたしには商いの道は無理です」

青年商人「……」

火竜公女「商人殿と世界を渡るのは楽しかった。
 あちらでは鉄を買い、こちらでは塩を売る。
 まだ見ぬ場所に乗り込み、初めて顔を合わせる人と渡り合い、
 交渉し、妥協点を探り合う。
 互いの利を手渡して、まだ見ぬ商いを考える。
 それは、とても、とても楽しかった。
 狭い世界で生きてきた妾にはまぶしかったのでありまする。

  しかし、妾は竜の公女。
 やはりともがらは裏切れませぬ。
 それに妾は――あの都市が愛おしい。
 壊滅の中から産声を上げて、人と魔族がすれ違うあの都市が。
 楽園ではなくて、そこではだましや裏切りや
 詐欺などがあったとしても、
 それが出来るだけの多様性と自由を持つ
 あの都市の行く末を見届けたい。

  商人殿にこれを云うのは、切ない。
 胸の奥が帰するように悲鳴をあげまする。

  商人殿は、取引相手としての妾を買っていてくれて
 気を許してくれてはいぬにせよ
 ……すこしは、意味を感じていてくれたと思うゆえ。

  このように情にすがり、取り乱し、弱い妾はきっと軽蔑される。
 そう思うと膝が砕けて立ってもいられぬ心持ちがします。
 一度膝を屈した妾を、商人殿は決して、決して対等の相手とは
 もはや見てくれなくなるでしょう。それが妾には切ない。
 でも、妾に支払えるモノは多くなく、
 商人殿に軽蔑される事くらいしか」

青年商人「聞きたくありません」

火竜公女「そうで、ありましょう……な……」
446 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/11(日) 21:48:50.19 ID:8sofY9MP
青年商人「魔界は聖鍵遠征軍に全土征服はされない。
 たとえ魔界が都市の5つや10失ったところで、
 その市場性と価値は揺るぐことはない。
 これからは聖王国を中心とした聖光教会文化圏と
 南部連合と、そして魔界。
 3つの経済圏が複雑に絡み合った新しい世界が開かれる」

火竜公女「……」

青年商人「それがわたしと『同盟』の予測にして野望。
 その世界でなら、3つの文化圏の間を自由に商取引をする事が
 出来る商人は、今の何十倍も飛躍的に力を広げることが出来る」

青年商人「なぜ魔王は、開門都市を手放さなかったのですか?」

火竜公女「わかりませぬ。……ただ、未来のため、と。
 魔族自身の誇りと、人間族のためでもある。と」

青年商人「それを、魔王が?」

火竜公女 こくり

青年商人(我らのあの都市に対する価値判断が間違っていたのか?
 あの都市には我らが考えていた以上の軍事的、経済的な
 価値があると? ……それは考えづらいだろう。
 だとすれば、文化的、宗教的……。あるいは象徴的な意味での
 価値がある、のか?
 ――その可能性はどうなのだ?

  なぜあの都市を失うことが出来ないのだ……。
 あの都市を失って、何が失われる。
 なぜ魔王はこのタイミングで、あの都市に戻り、死守をしようと)

火竜公女「……」

青年商人(“人間族のためでもある――”とは?)

青年商人「っ!」 がたりっ

火竜公女「商人殿?」

青年商人「魔王はっ! 魔王殿の瞳は紅いのですかっ!?
 磨き抜いた葡萄の酒のようにっ!?」



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