10-5


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」10-5


681 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:16:24.23 ID:7lABGacP
――開門都市、城壁を囲む聖鍵遠征軍、豪奢な天幕

           ……ォォン!
           ……ドォォーン!

大主教「攻めよ! 攻めるのだ、あの都市を」

従軍司祭長「はっ。灰青王の話では昼夜を分かたぬ砲撃にも
 良く耐えているそうですが、なに。人の心とはそのように
 強き物ではありません。
 一月もたたぬうちに希望の根底もへし折れ、
 頭を垂れて降伏をしてくるでしょう」

大主教「手ぬるい」

従軍司祭長「は?」

大主教「手ぬるいのだ。銃兵を鼓舞せよ。
 あの城門へと突撃させよ。
 何をしている、それが精霊の望みなのだ」

従軍司祭長「そ、それは。流石にっ」

大主教「流石に、なんだ」

従軍司祭長「あの防壁はマスケットや槍程度では
 いかんともしがたく。
 あの都市には火砲はないと確認しておりますが
 それでも投石機や弓矢、防衛兵器は十二分に備えてありましょう。
 歩兵を突撃させるのは、まさしく無謀かと」

大主教「それは、軍の理屈。精霊の理ではない」

従軍司祭長「そ、その……」

大主教「百合騎士団隊長」

百合騎士団隊長「はっ」
684 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:18:02.82 ID:7lABGacP
大主教「汝が鼓舞をせよ。農奴兵を煽り立て、
 あの都市へ突撃されるのだ」

百合騎士団隊長「はいっ。猊下のお心のままにっ」

大主教「ふふふふっ」

従軍司祭長「な、なにゆえに……」

大主教「魔族がいくら死んでも、勇者は現われぬ」

ころり。ころり。

従軍司祭長「は、は?」

大主教「だが、人間の苦鳴に耳を塞ぐことが出来るものかな。
 ……くっくっくっ。鍵は魔王でも、勇者でも良い。
 しかし、戦場で討ち取りやすいのは、勇者。
 我らが精霊の子である以上、勇者は我らを憎めぬ」

従軍司祭長「な、なにを仰っているのか」

大主教「判らずとも良い。……そうであろう?」

百合騎士団隊長「そうです。我らは理解する必要はありませぬ。
 猊下のお言葉と、戦場に溢れる阿鼻の蜜月、
 叫喚の睦言さえあれば他には何もいらぬでしょう?」 とろり

大主教「ふふふっ」

従軍司祭長 ガクガクッ

百合騎士団隊長「出陣いたします、猊下」

大主教「任せよう」
696 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:33:48.35 ID:7lABGacP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、王弟軍

ばさり

メイド姉「お招きくださり、ありがとうございます」にこり
貴族子弟「これは勇壮な軍ですね」きょろきょろ
生き残り傭兵「……」むすっ

王弟元帥(この少女は……。何者だ?)

参謀軍師「では、こちらから名乗らせて頂きましょう。
 我らは聖鍵遠征軍別動部隊。
 こちらは聖王国の王弟元帥閣下です。
 わたしは参謀軍師。お見知りおきを」

聖王国将官「わたしは聖王国将官」

王弟元帥「王弟元帥だ。そちらの身分、および目的を聞こう」

メイド姉「はい。わたしはメイド姉と申します。
 身分は……旅の学士です。
 現在はこの軍を率いる司令官を務めさせて頂いています」

参謀軍師「軍だと……?」

貴族子弟「わたしは貴族子弟」

メイド姉「こちらは傭兵隊長どの。わたしの護衛部隊を
 率いてくれています。強いですよ」
生き残り傭兵「ふんっ。忘れてくれて一向にかまわねぇ」

王弟元帥「して、目的はなんなのだ?」

メイド姉「一つ確認したいのですが、
 この部隊は現在、旧蒼魔族の首都を目指して進軍中ですね?」

聖王国将官「そんな事は見れば判るだろう」

メイド姉「では、兵を引き上げて頂きたく思います」
699 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:38:41.51 ID:7lABGacP
生き残り傭兵「流石に馴れては来たけどよぉ」

王弟元帥「ふふっ。少女よ。いや、司令官だったか。
 いったいどのような権利を持ってそのようなことを云うのだ」

メイド姉「はい。わたしは、現在あの領地を占領しています」

参謀軍師「なっ!?」
聖王国将官「なんだとっ!?」

メイド姉「あの領地を魔王よりあずかっている機怪族は
 我が軍との平和的な交渉の結果、
 領地の支配権を我が軍に全面的に譲渡しました。
 こちらはその書面の写しになっています」

参謀軍師 ばっ! 「……っ。まさかっ」

メイド姉「現在のこの領地の領主として、貴軍に要請します。
 貴軍は現在、旧蒼魔族領地にすでに侵入しています。
 交戦の意図なくば至急軍を返し、領地外に出て行って頂きたい」

聖王国将官「交戦の意図なくばっ!? ふざけるな、我々はっ」

メイド姉「人間の治める国に侵略するのですか?」きょとん

王弟元帥「……っ」
参謀軍師「なんという……」

メイド姉「我が軍はその構成員の全てを人間で編成しています。
 現在、旧蒼魔軍領土は、人間の治める人間の領地」

参謀軍師「そのような寝言をっ。何が平和裏なのだっ。
 軍を持って、兵力の少ない領地を占領したに過ぎないではないか。
 他国の領土に攻め入った上におこがましいっ」

メイド姉「そのお言葉、そっくり御身に返るかと思います」
706 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:43:07.43 ID:7lABGacP
参謀軍師(どうするのだ?
 いくら何でも大規模な軍が魔界へ入っていたとは考えがたい……。
 どのように多く見積もっても1万から2万。
 ひと思いにかたづけられない数ではないが……)

参謀軍師 ちらっ

貴族子弟「それで足りないならば、そうですね。
 ぼかぁ、じつは氷の国に籍を置いている
 外交特使というやつでして」

聖王国将官「氷の国っ!?」
参謀軍師「南部連合が、こんなところにまでっ」

貴族子弟「はい。旧蒼魔族領地ですか。
 この領地は現在我が軍の統治下にありますが、
 自治政府として再生を図っている途上でもあるわけです。
 もちろん南部連合入りを前提としてですね」

参謀軍師(なんだと……。こ、この男。
 それが真実だとすれば、南部連合との全面戦争を
 引き起こしかねない。
 いずれぶつかるのは確実にしても
 いまこの状態でぶつかれば、無防備な聖王国本国が灰燼に帰す。
 奴らは、自分たちの懐が痛まない魔界の一地方を切っ掛けに
 大陸全土を掌握するつもりだと云うことかっ!?)

王弟元帥「貴公の話が事実だという証拠は?」

貴族子弟「もちろん、いくらでも氷の国に照会を
 取って頂いて結構ですよ。
 ただし、嘘だという証拠も無いわけですよね。
 この場を押し通るおつもりであれば、
 これはもう、氷の国としても大変に遺憾であるとしか
 言い様がない痛恨事だと思います」

生き残り傭兵(おったまげるな、この二人……)
707 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:45:29.92 ID:7lABGacP
参謀軍師「……閣下」

王弟元帥「それは知らなかったこととは言え、失礼なことをした。
 全ては情報の遅れと行き違いだ。謝罪をしよう」

聖王国将官「……っ」

メイド姉 こくり

王弟元帥「とはいえ我ら兵を退くわけには行かぬ。
 この進軍は聖鍵遠征軍として大主教猊下の命令の下
 行なっているもの。ひいては、光の精霊の意志。

  中央の国家と南部の連合の間にはなんのわだかまりもないが
 聖光教会は南部連合諸国家を異端の罪で告発している。
 ご承知だろうが、聖鍵遠征軍と南部連合は
 目下交戦状態にあるのだ。
 そのことをお忘れではあるまい?」

メイド姉 じぃっ

参謀軍師(閣下! それでは、それでは戦争が始まります。
 みすみす南部連合を我ら聖王国に進軍させる
 口実を与える結果になってしまいます。
 どうかっ。それだけは!)

王弟元帥「しかし、我ら聖王国を始め中央の諸国家は
 その事態に関して遺憾に思うことがあるのも事実だ。
 何と言ってもわれらは同じ人間。
 魔族の脅威に剣と槍を並べ、戦った仲ではある。

  その同じ人間に対して、数万のマスケットを向けねばならぬとは
 一人の武将として悲痛な思いだ。
 たとえ聖鍵遠征軍とは交戦状態にある南部連合であろうと
 中央国家の武将の一人としては、けして戦を望むわけではない」

貴族子弟(へぇ……。そういうレトリックも使えるわけだ。
 戦争は教会の意志なので、聖王国に罪はない、と。
 さすが聖鍵遠征軍の頭脳、その中心。才気溢れていますねぇ)
711 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:48:15.89 ID:7lABGacP
メイド姉「そうですね、我ら人間同士が争って
 益のあることは何もありません」にこり

生き残り傭兵(痺れるな……。
 こっちは手のひらが汗でぐっしょりだぜ)

王弟元帥「われらは、大主教からこの地を奪い、
 ぜひ補給線を確立させよとの命を受けている。
 この命に背くことは出来ない。光の子として」

メイド姉「わたしも光の子です。
 いっそ湖畔修道会はいかがですか?
 湖畔修道会は、王弟元帥。
 あなた個人も聖王国も、どちらの参加も歓迎しますよ」

貴族子弟(~♪ 云いますね。さすが住み込み弟子だ)

王弟元帥「ははははっ。お申し出は有り難いが
 それを受け入れるわけにも行くまい。
 我ら聖王国は大陸諸国家の長兄として秩序を護る義務がある」

メイド姉「秩序、とは?」

王弟元帥「安心だ。人々が安心して日々を送る事が
 出来るのは何故だと考える?
 それは、昨日と同じ今日が、今日と同じ明日が続くからだ。
 なぜ夜眠れる? それは朝になれば目覚めると判っているからだ。
 もし寝ている間に死ぬかも知れなければ、
 恐怖で眠ることは出来ぬだろう。
 しかし、我らは経験的に、朝になれば目覚めると知っている。
 それが繰り返しであり、秩序というものだ。

  もちろん、中には不幸な例もある。
 あるいは病で、あるいは押し込み強盗に殺されて
 朝になっても目覚める事はないと云うことがな。
 これは繰り返しが壊れるという意味において、
 秩序の破壊であり、混沌だ。

  我ら聖王国は秩序の守護者として、民草の安寧を得るためにも
 昨日と同じ今日、今日と同じ明日を護らねばならぬ」

メイド姉「いままで聖光教会に従ってきたので、
 そしていままで農奴制度を確立してきたので、
 さらに貴族社会と王権の絡み合ったその構造を護るため、
 ……いまさら変われぬと?」

王弟元帥「早い話が、そうだ。そして民もそれが幸せなのだ」
715 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 00:51:53.00 ID:7lABGacP
メイド姉 きっ

貴族子弟(……敵ながら、肝の据わった男だ。
 この男は欲もあるのだろうが、それ以上の部分がやっかいだな)

メイド姉「では、結論としては?」

王弟元帥「補給線は確立せねばならぬ。
 しかし争いはけして望むところではない。
 大主教の宣言があり、交戦状態ではあるが
 今日このとき、この場所で出会ったことはこちらにとっても
 不測の事態であったのだ。そしてここは魔界。

 お互い人間の軍として、その軍勢を消耗することは
 なんとしてでも避けるべきではないだろうか?
 そこでわたしは提案しよう。

  食料馬車四千台分、および硝石馬車千台分の供出をして貰いたい。
 代金は支払おう。新王国の金貨で、そうだな600枚でどうだろう」

生き残り傭兵(馬鹿云うなっ。そんなはした金じゃ
 武具ひとそろいも買えないだろうが!)

貴族子弟「お断りした場合は?」

王弟元帥「両軍にとって痛ましい事態。
 強制的な補給線の確立と云うことになるだろう」

貴族子弟「南部連合に侵攻すると云うことですね?」

王弟元帥「それは聖光教会の意志だ。
 われら中央国家は、もちろんこの事態に深く心を痛める」

生き残り傭兵「けっ。つまりはドンパチやりたいのか」
参謀軍師「侮辱しようというのか、貴殿っ」

ばさりっ。
   ざっ。

勇者「いや、俺も聞きたいな。ドンパチやりたいのか?
 王弟元帥は。……人間同士の軍で、ドンパチをさ」
822 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 20:05:07.47 ID:7lABGacP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、王弟軍

ばさりっ

参謀軍師「このようなところで軍を停止させざる得ないとは……」
聖王国将官「確かに」

とさっ

王弟元帥「勇者よ」
勇者「ほいよ」

王弟元帥「勇者はあの少女と顔見知りなのか?」

勇者「多少はね」

王弟元帥「あの少女はいったい何者なのだ?」

勇者「んー。聖王国や教会が“紅の学士”と呼ぶ女。
 ……の片割れだよ。
 南部連合に農奴開放運動を巻き起こした張本人とも云える」

王弟元帥「――」

参謀軍師「あの少女が?」
聖王国将官「まさか。まだほんの娘ではないか」

勇者「俺もびっくりしてるよ」

王弟元帥「そうか。それであの弁舌、か。ふふふっ」

参謀軍師「元帥閣下……」
824 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 20:07:11.69 ID:7lABGacP
王弟元帥「勇者はどう思うのだ?」

勇者「何を?」

王弟元帥「この戦についてだ。
 ここまで同行してきてくれた事については
 深い感謝の意を持っている。
 だが、そちらも散々にはぐらかしてきたのは事実だろう?
 そろそろ聞かせて貰おう、勇者の本音を」

勇者「俺の本音は最初から一つだ。この世界を守る」

王弟元帥「我ら人間の世界をか。
 では、人間同士の軍の衝突はどう考えているのだ?」

勇者「ケツの穴のちいせーことを言うなよ。
 王弟元帥。地上最大の英雄のくせに。
 ここまで歩いてきたんだろう?
 この世界つったらこの世界だよ。
 歩いていけるたった一つのこの世界に人間も魔族もあるものか」

参謀軍師「っ!! なんですとっ」 がたっ

聖王国将官「それは異端だっ!!」

勇者「最初っから聖光教会になんか参加してねぇし
 光の精霊なんか信仰してねぇよ。
 俺は個人的に光の精霊に頼まれて、
 その願いを聞こうかなって思っているだけ。
 俺のは信仰じゃないんだよ」

王弟元帥「ふふふふっ。はははははっ!!!」

勇者「おかしなことを言ったか?」

王弟元帥「いいや、まったく。……たいしたものだ。
 まったく筋が通っている。
 やっと腹蔵無くはなせそうだな。勇者。
 そうだ、初めて話をするような気さえする」

参謀軍師「そんなっ」
826 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 20:10:21.36 ID:7lABGacP
王弟元帥「では、勇者は
 いま眼前にある紅の学士と我らとの争いも、
 魔族と聖鍵遠征軍の争いも
 どちらも等しく嫌悪すると。それでよいのだな?」

勇者「そうだよ」

王弟元帥「どうあっても?」
勇者「どうあっても」

王弟元帥「では、眼前にその事態が発生したらどうするのだ」

勇者「王弟元帥こそ止める気はないのか?」

王弟元帥「無いな――。
 勇者よ。聞いただろう?
 我は民草の秩序と安寧のために戦っている。
 そもそも農奴開放がこの世界に何をもたらしたのだ?
 結局は混乱をもたらしているだけではないか。
 貧しくて飢えた不毛な南の地を釣り得に新しい支配者が
 新しい奴隷を、別の名称で募集したに過ぎない。
 そのような偽りな希望をぶら下げるよりは、
 安定した今までの機構を維持する方がどれだけ有意義かも知れぬ。
 歴史がある、というのは
 今までそれでやってこれたことを示すのだ。
 新しいこと全てが正しいなど、どこの寝言だ。
 違うか、勇者?」

勇者「聖王国の利益を保護しているように聞こえるな」

王弟元帥「そうだ。それが何故いけない?
 自らの利益を追い求める王は悪であるなどとは
 所詮は持たざる者どもの僻みの声でしかない。
 王は富んで良いのだ。国を富ませさえすれば。
 聖王国の利益を求めることと、
 民に秩序と安寧をもたらすことは決して相反することではない。
 我はどちらも最大限に大きくする方向を目指して
 進んでいるだけに過ぎないのだ」
830 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 20:13:17.56 ID:7lABGacP
王弟元帥「中央大陸には長い間安定して発展を遂げた歴史がある。
 それは農奴制と貴族社会、そして王族による統治を
 前提にしたものなのだ。
 その成果を否定することは誰にも出来ない。
 たとえ、その機構に弱点や汚点があったとしてもだ。
 わたしはそれらが無謬であるなどとは云わないよ。
 だとしても、この数百年人間はその中で栄えてきたではないか。

  その発展の歴史と、聖王国の軌跡は一致する。
 我はこの方向こそが正しいと信じるゆえ、これを堅持するのだ」

勇者「まぁ、そうだろな。新しいことは全部正しいってのは
 確かに言い分としてはおかしいわな。
 何かを新しく始めればそりゃ経験もないわ実績もないわ
 転んだって怪我をしたっておかしくはない」

王弟元帥「……」

勇者「だが“人間には失敗をする自由だってあるはず”ってのが
 まぁ、あっちの言い分なのだろう?」

王弟元帥「で、あれば、我にもまた同じだけの自由を持って
 現在の体制と機構を維持したいと願うことが許されるはずだ」

勇者「その言い分も、正しいな」

王弟元帥「理解してもらえるのならば、勇者。
 これは自由な意志を持つ者同士が
 自分の理を通そうとする激突なのだ。
 ――手出し無用に願おう」

聖王国将官「……」
勇者「……」

王弟元帥「ふっ。我に一理の正しさがあることは認めるのだろう?」

勇者「王弟元帥。ってことは、逆にあの娘が今までやってきた
 新しいこと……例えば、農地改革やら農奴開放やらにだって
 一理があるって事は認めているんだよな?」

聖王国将官「それは、どういうことですか?」
834 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 20:22:54.61 ID:7lABGacP
勇者「新しいことが正しいとは限らない。
 それとまったく同じ理屈でもって
 古いことが未来永劫正しいとは限らない、ってことさ」

王弟元帥「理屈の上ではな。そう主張する“自由”はあるのだろう」

勇者「だからこそ、両者はその地平では対等だと?」
王弟元帥「如何にも」

勇者「どちらも人間で、どちらも対等だから、
 勇者である俺には介入するな、と。そう言うことだよな?」

王弟元帥「そうだ」

勇者「で、俺が介入しなかった場合、
 自由な意志を持つ両者の激突でもって事の是非をつけようと」

王弟元帥「我らが絶対善、絶対正義であるなどとは言わぬよ。
 しかし、この世界においては、自らの信じることを
 貫くためには力が必要な時もあるのだ。
 それがもっとも苛烈に試されるのが戦場であり
 その戦場に立った以上、彼女も戦士だ。
 性別や年齢などは考慮されるべきではない」

勇者「そりゃ仰せ、ごもっともだ」

王弟元帥「ならば」

勇者「ならば、の先はこうだ。
 ――王弟元帥。地上最大の英雄。
 “ならば”そのまったく同じ理屈を持って、
 つまりおのれの意を押し通すために、
 戦場で力を示そうとする輩……つまり、攻撃を始める軍を、
 勇者は勇者個人の自由な意志と信条を守り通すために、
 暴力で排除するぞ、とね」

参謀軍師「それはっ」
聖王国将官「勇者殿……っ」
839 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 20:27:49.36 ID:7lABGacP
勇者「確かに云うとおり、人間同士、
 意見が異なることもあるだろうが、
 異なる意見を持つという自由はどちらにもあるんだろ?
 その辺は、教会よりも俺はあんたのことは買ってるよ。
 どっちの味方かと云えば、やっぱり王弟元帥がいいや。

  どっちに正義があるかは判らないこの世界で、
 その相違を解決するために話し合いをするつもりならば、
 俺は俺の上限を話し合いまでとさだめるし、
 もし暴力を解禁するのならば俺も暴力を解禁するよ。

  なぁ、王弟元帥」

王弟元帥「……」

勇者「恩着せる訳じゃない。
 どっちかって云うと、飯を奢って貰って恩に着ているのは
 俺の方であるべきだからな……。だけどさ」

聖王国将官 ぞくり

勇者「これは、王弟元帥だから云ってるんだぜ?
 判るだろう?
 聖鍵遠征軍の残り半分はさ。
 暴力を解禁しちまってるんだって事も」

王弟元帥「それは脅迫か、勇者?」

勇者「まさかー」

王弟元帥「勇者、ならばこちらも云わせて貰うが
 ここには数万のマスケットがあるのだ。
 勇者の戦闘能力がどれほどであろうと
 たった一人で軍も歴史もねじ曲げられると考えているならば
 それは思い上がりも甚だしいと云わせて貰わねばならん。
 被害は出るだろうが、我らは勝つ。
 その自信がわたしにはある」

勇者「ったりまえだ。そんな思い上がりはしちゃいない。
 暴力で解決するならば、喧嘩でみんな気持ちが変わるならば
 最初っからこっちは我慢なんかしちゃい無いんだよ。
 こんな面倒くさい問答なんてこっちだって本当は
 一番苦手なんだってんだよ。
 ……本当は飛んでいきたい気持ちなんだ。
 判れよ、この石頭どもめっ」
867 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 21:07:53.38 ID:7lABGacP
――開門都市、防壁を囲む聖鍵遠征軍、遠征軍陣地

    ひゅるるる……どぉぉーん!!
      ひゅるるる……どぉぉーん!!

灰青王「一週間か。よく保つな」

観測兵「被害は観測できるのですが、補修を前提にしているのか
 落としきることが出来ません。せめて門を狙えれば」

灰青王「しかし門を落とすためには左右の突出防壁を
 何とかしないと、カノーネを近づけることが出来ない。
 そういう防御策な訳だ」

観測兵「はい……」
灰青王「判ったことは?」

観測兵「どうやら、あの防壁は石組ではなくて、
 巨大な土塁だと考えた方が良さそうです、
 土ゆえに衝撃を吸収して、基幹部が末広がりのために
 倒壊することもない」

灰青王「そしてあの傾斜か……」

    ひゅるるる……どぉぉーん!!
      ひゅるるる……どぉぉーん!!

カノーネ部隊長「灰青王閣下」

灰青王「どうした」

カノーネ部隊長「その、本日の砲撃のご指示を……」

灰青王「右辺突端部に砲撃を集中させよ。
 しかし、1/4は砲撃を散らして敵に安心感と休憩の暇を与えるな」


カノーネ部隊長「はっ。はい、その……」
灰青王「どうした?」

カノーネ部隊長「実は、カノーネ用の純度の高い黒色火薬が……」
868 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 21:09:52.48 ID:7lABGacP
観測兵「……」

灰青王「後どれくらい残っている?」

カノーネ部隊長「このペースだと、あと3、4日ほどかと……」

    ひゅるるる……どぉぉーん!!
      ひゅるるる……どぉぉーん!!

灰青王「砲撃の手をゆるめるな。
 火薬の件を敵に知らせて希望を与えることは下策だ。
 火薬については、マスケット兵のものを再配分し、
 カノーネ用に供給をし直す。現在のまま砲撃を続けよ。
 右辺突端さえ破壊すれば、正門を崩して流れ込むことが可能だ」

カノーネ部隊長「はっ! 鋭意努力しますっ」

観測兵「……」

灰青王「ちっ。なんというしぶとさだ。
 瀕死の蛇のようにいつまでものたうち回り、見苦しい。
 開門都市など、もう実質的には陥落したも同然ではないか」

観測兵「灰青王閣下っ!」
灰青王「どうしたというのだ?」

観測兵「じつは、百合騎士団隊長が……」
灰青王「あの女が?」

観測兵「そのぅ。夜な夜な、銃兵どもを大量に集めて、
 集会とも、説教会ともつかないようなことをしているようでして」

灰青王「集会?」

観測兵「はい。精霊の宝は開門都市にあると。
 いまこそあの都市を落とさなければならない。
 そのためには光の信徒の心魂を捧げた奉仕が必要である、と」

灰青王「毒をもつ華、か……」

観測兵「いかがいたしましょう」

灰青王「その毒の香りが甘美であるのだから始末に負えぬ。
 ……放っておけ。いずれ俺がけりをつける」
882 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 21:36:16.64 ID:7lABGacP
――開門都市、慌ただしい市内、大通り

がやがや……
  がやがや……

魔王「どうだ? 不足している物はないか?」

人魔商人「魔王様っ!? こんなところへいらっしゃらないでも、
 庁舎で休んでいてくださればいいのに!」

魔王「あそこにいてもやることなど無いのだ。
 防壁への登り口はこっちか?」

人魔商人「そうです、はいっ」

ひゅるるる……どぉぉーん!!
  ひゅるるる……どぉぉーん!!

土木師弟「泥濘に石灰を混ぜろっ! 上から応急で流し込んでおけ」

巨人作業員「わがっだ……」
蒼魔族作業員「こっちにも石灰をくれ!!」
人間作業員「いま運ぶっ。台車をまわせぇl」

魔王「どうだ?」
土木師弟「はっ。はいっ」びしっ

魔王「緊張しないでくれ。世話をかけているのはこっちだ」

土木師弟「正直、そろそろ限界です。
 いつ破れてもおかしくない場所がいくつもあります。
 疲労が浸透して、基幹部分にもひびが入っている。
 一応それらしく見せかけてありますから、
 敵の攻撃が集中して無くてごまかせていますけれど……。
 東側は特にまずい。工事の時にも一番後回しにした部分で、
 最初から張りぼて同然だったんですよ」

東の砦長「東側、か……」
883 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 21:37:25.82 ID:7lABGacP
ひゅるるる……どぉぉーん!!
  ひゅるるる……どぉぉーん!!

魔王「逆に、まだ強度に余裕があるのはどのあたりだ」

土木師弟「南西の神殿付近ですね。あの辺はまだ攻撃を
 受けてはいないし、最初から防壁の厚さもある。
 あそこならいままでの砲撃を受けても、まだ一週間は耐えられる」

魔王「それでも一週間、か……」

人間長老「魔王殿、このままではこの都市は……」

魔王「沈んだ顔をするな、長老どの。
 まだ決着がついたわけではない。勝負はこれからだ」

人間職人長「しかし、たとえ一週間を耐えても、
 一月を耐えても、いずれは時間の問題で……」

魔王「大丈夫だ。まだ……。まだ、手はある。
 火竜公女!」

火竜公女「はい」

魔王「すまぬが、これを火竜大公に渡してきてはくれぬか?」

人間長老「それは……?」

火竜公女(この書状は……白紙……!?)

魔王「援軍の要請だ。魔界は広い。この都市を救うだけの兵力は
 いくらでも残っている。我らはそれまでの時間を稼げばよい」

火竜公女(そんな兵力があるわけはないではありませぬか。
 たとえあったにしても……。
 半日で三万の屍を築いたあのマスケットの前に、
 どのような長が兵を送ることが出来ましょう。
 だから魔王どのは白紙の書状を……)

東の砦長「済まないな。兵を全部おっぽり出しちまって。
 義勇軍のみんなには苦労をかける」
885 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 21:39:20.57 ID:7lABGacP
人間の義勇兵「まぁ、いいってことよ。
 こうやって防壁の修理や
 投石機でたまにお返しをするぐらいしか、
 俺たちは役に立てないんだからな。
 剣を振ることも馬に乗ることも出来ない俺たちには」

竜族の中年女「そうだねぇ! あっはっは。安心おしよ!」

竜族義勇兵「夜になったら、
 また防壁にうまった砲弾を掘ってきてやろう。
 連中達は自分が撃った砲弾が
 投石機で投げ返されてさぞや悔しいだろうよ!」

魔王「うむ。もう少し辛抱してくれ」 にこにこ

人間長老「はっ。魔王様。お心のままに!」

人魔商人「よぉっし。わたしも倉庫を整理して、
 どんな食料が出せるか見てみようじゃないか」

人間職人長「兵隊さん達が出ているから、
 食糧の備蓄は十分ですね。二ヶ月でも三ヶ月でも保ちましょう」

ひゅるるる……どぉぉーん!!
  ひゅるるる……どぉぉーん!!

火竜公女「……」ぎゅっ

東の砦長「姫さん、今晩にでも」

火竜公女「……え?」

東の砦長「爺様の元へと行くんだろう? “安全に届けよ”って
 魔王殿にも云われている。数は少ないが護衛をつけよう」

火竜公女「はい……」

魔王「さぁ! 暗い顔をするな! 
 ここは自由の街開門都市ではないか!
 この街を護りきるのだ! 明日のためにっ!!」
892 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 22:14:38.90 ID:7lABGacP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、野営地

傭兵弓士「苛々するなぁ……。もう5日だぞ」
ちび助傭兵「うん」

メイド姉「根を詰めては持ちませんよ」

傭兵弓士「そうは云ってもな……。神経がすり減るよ。
 こっちは、だって100名もいないんだぜ!?」

ちび助傭兵「それで3万の聖鍵遠征軍を足止めして、
 あの領地を守りきるだなんて、頭がおかしくなりそうだ」

メイド姉「別に100名が千名でも1万名でも、
 負ければ全滅しちゃうんだから同じですよ」にこり

ちび助傭兵「爽やかな顔で絶望的な事言うなよっ!」
若造傭兵「やれやれ」

生き残り傭兵「まぁ、もう勝ったようなもんだがな」
メイド姉「はい」

傭兵弓士「そうなのか!? だって結局交渉では譲って
 食糧の無償供給までしちゃったじゃないか」

貴族子弟「それはあまり関係ありませんよ」

生き残り傭兵「考えても見ろよ。
 もしも俺たちがれっきとした大国の軍勢の
 一部だったとしてだぜ?
 たかが百騎で300倍の軍を五日も足止めしたんだ。
 あいつらが今からどこへ行こうと一週間は行軍に遅れが出る。
 これが勝ちじゃなくてなんだってんだ」

貴族子弟「そうゆうことです」

メイド姉「機怪族の皆さんの待避も進んでいるでしょうね」
893 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 22:16:30.38 ID:7lABGacP
生き残り傭兵「5日もあれば、ずいぶんましだろう。
 食料の持ち出しや隠蔽、
 鉱山の閉鎖などもやってくれているはずだ」

器用な少年「すっげーハッタリだな」
貴族子弟「外交なんてそんなものです」

メイド姉「ハッタリだけじゃありませんよ?
 信じた気持ちの強さが言動になるんです。
 自分の命を掛けないと他人を説得は出来ません」

器用な少年「すげぇ格好良いけれど、それってある意味
 “キチ○イだから無敵です”に聞こえるよなぁ」

貴族子弟「師匠もおおむねそんな感じでしたしねぇ」

メイド姉「あらあら。自分には実感ないんですが」
傭兵弓士(小声)「実感があったら余計にマズイだろう」

メイド姉「でも、あの方とは戦をしたくないですね」

貴族子弟「王弟元帥と?」
メイド姉「はい」

生き残り傭兵「ってことは、代行の姉ちゃんにも
 怖い相手がいるのか?
 さすがにあの威厳と意志の硬さは、歯が立たないか」

メイド姉「いえ、それは怖いですけれど……。
 怖いけれどためらう理由にはならないですよ。
 負けるのならばそこまで悩む必要さえないんですから。
 ただ、あの方にはあの方なりの正義があるのでしょう。
 わたしの決意とは道が違いますけれど
 でも、だからと云って、
 わたしにはあの方の正義を間違っていると云えるだけの
 資格は無いんです。
 あるいはあちらの正義の方が
 世界にとっては良いのかも知れないんですから」
894 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 22:17:42.12 ID:7lABGacP
傭兵弓士「……」

メイド姉「わたしは別に聖鍵遠征軍が憎いわけでも
 壊滅させたいわけでもないです。
 出来れば、聖鍵遠征軍の人にだって死んで欲しくはない。
 本当はもっと別の形で争えれば良かった。
 戦以外の形で。
 戦をしてしまうと、喧嘩が続きません。
 片方が死んでしまいますから。
 あの方には喧嘩友達が必要なのじゃないかと思います」

貴族子弟「……」

メイド姉「生意気なことを云ってしまいましたね」くすっ

傭兵弓士「いや、判らないじゃないよ」

生き残り傭兵「そうだな」

器用な少年「そうなのか? さっぱり判らないぞ」

貴族子弟「少年には、早いかも知れませんね」

生き残り傭兵「まぁ。俺たちは傭兵だからな。
 戦場がなければ、食いっぱぐれちまうし、
 仕事が無くなっちまうってのはもちろんあるんだが、
 それ以上に、なんていうか、要らないやつになっちまうんだよ。
 だから何となく判るのさ。
 自分の居場所を定めたやつは、その自分の居場所では
 自分を曲げるなんて事は出来ないし、やっちゃいけないんだ」

器用な少年「要らないやつ?」

貴族子弟「あの方はあれでもまぁ……。
 どうにも始末に負えないながらも
 聖王国の屋台骨ではあるのでしょう。
 現在の中央諸国家は
 長く続きすぎた歴史の中で、若い人材が払底している。
 彼もまがりなりにも英雄と呼ばれる男ですからね。
 ああいう風な生き方でもしない限り自分が立たないのでしょう。
 あの方なりに守るものがあるんですよ。
 要らないやつにならないためにも」
903 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 22:48:54.14 ID:7lABGacP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、王弟軍

バサッ! バササッ!

王弟元帥「どうした?」

参謀軍師「本陣から早馬による急使です」
聖王国将官「内容は」

参謀軍師「それはまだ。書状ですので」

王弟元帥「読もう」

ガサッ。シュルシュル……

王弟元帥「……。……ふむ」
参謀軍師「いかがしましたか?」

王弟元帥「都市攻略の遅れだ。
 魔族軍が開門都市内部に撤退してからすでに一週間。
 火薬と食料が徐々に切迫してきた。
 食料は後方陣地から順次送ればまだまだ持つだろうが、
 連続してカノーネを使うのは、莫大な量の火薬を消費する」

参謀軍師「はい。前の早馬によれば、
 昼夜を分かたぬ連続砲撃により、住民の交戦意欲そのものを
 へし折ると、そのように云ってましたが」

聖王国将官「古来、城塞の攻略は力で攻めるのは下策であり、
 これに篭る人の心を攻めることをもって上策とする。
 と云います。灰青王閣下の判断は間違いではないかと」

王弟元帥「間違いではないが、間違えでなければ
 それで勝てるとも限らぬのが戦だな」

聖王国将官「確かに。……苦戦でしょうか?」
904 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 22:51:39.05 ID:7lABGacP
王弟元帥「しかし、これは灰青王の手落ちと云うよりも、
 カノーネの連続砲撃を一週間にわたり凌いだという
 開門都市の魔族軍の手柄、と褒むべきかな。
 この目で見ていないこともあって信じがたいが……。
 いったいあのカノーネの砲撃をどのような防壁と
 どのような指揮を持って一週間もの間
 凌ぐことが出来るのかとな」

参謀軍師「まことに。100門のカノーネは、平均的な城壁を
 数時間で破壊することが出来るというにもかかわらず」

聖王国将官「やはり魔界の技術ですか」

王弟元帥「いいや、それにもましてこの場合驚くべきは
 開門都市に籠もった軍と民衆の士気の高さだろう。

  一週間にもわたる砲撃で、周囲との連絡も絶たれ
 補給もままならず、しかも直前の開戦では
 軍の半数あまりが壊滅したのだぞ。
 おそらく街中には負傷者や半死人が溢れているはずだ。
 士気は悪化して、降伏論や自決論も出るだろう。
 争いや喧噪が絶えず、絶望感が蔓延し、
 次第に立ち上がる気力さえもなくなっていくのが
 攻城戦、都市攻略線の常の姿だ。

  いくら強力な防壁があったとしても、
 それで軍と市民の士気を維持できるほど
 攻略戦、防御戦は生ぬるいものではない」

参謀軍師「書状にはなんと?」

王弟元帥「一刻も早い帰還を望む、とのことだ」

聖王国将官「都合の良いっ」 だむんっ!!

王弟元帥「手持ちのカノーネ用火薬の半分以上を使い切ってしまい
 焦りも出てきているのだろう。
 硝石さえあれば、残りの硫黄や木炭はなんとか都合が
 つかなくもないが、硝石だけは貴重品だ。
 もし今砲撃をゆるめようものならば、
 物資の不足を魔族に悟られて希望を与えてしまう。
 それですぐさま勝敗が逆転するというものでもないが
 士気が上がったあの都市はさらに落とし難くなるだろうからな」
906 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/08(木) 22:53:55.92 ID:7lABGacP
聖王国将官「しかし我らも硝石を手に入れるどころか、
 旧蒼魔族領地の辺境部でこうして
 無為な時間を過ごしているわけですし」

参謀軍師「無為とは言葉が過ぎるぞ。聖王国将官どの。
 我らがこうして勇者殿とあの学士を相手にどれだけ
 微妙な舵取りを要求される交渉を続けているかも知らずに」

王弟元帥「こうして我らの足止めをしていると云うことも
 あの学士の目的の一つなのだろうがな……。くくくっ」

参謀軍師「それは……。しかし」

王弟元帥「いいや、これは痛み分けと云えるだろうさ。
 こちらにも兵力を全面で使えない代わりに、
 向こうも譲歩せざるを得ない。
 現に食料を馬車200台分に渡って無償供与を約束させた。
 そして我らがここにいることで、
 あの学士の軍――南部連合の秘密遠征軍も
 その動きが封じられている。
 魔族との平和条約を締結した以上、
 南部連合が魔族に援軍として現われる可能性は
 無いとも云えないのだから。
 そしてそれ以上に、勇者は、この場所を離れることが出来ない」

聖王国将官「しかし、その判断も、灰青王閣下の遠征軍指揮により
 開門都市が攻略が速やかに成れば、の話」

王弟元帥「仕方あるまい。こちらが向こうに頼りたければ
 向こうもこちらに頼りたいのだろうさ」

参謀軍師「本軍は我らが持ち帰る硝石と補給を必要とし、
 我らは本軍があの都市攻略を成功させれば、
 その既成事実を足がかりに、有利な交渉展開、
 もしくは勇者の制止をも振り切った強攻策が取れるのですが」

聖王国将官「千日手、ですね」

王弟元帥「……広範囲斥候の報告次第では移動を開始するぞ。
 硬軟両面に備えて準備を進めるのだ」



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