10-2


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」10-2


205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/05(月) 23:32:57.32 ID:O8aL4rAP
獣人軍人「大空洞とこの都市の間に広がる赤き荒れ地。
 奇岩荒野をゆっくりと前進中だ」

副官「速度は?」

獣人軍人「一日に3里がせいぜいだろう」

人間長老「そのままの速度で12、3日ですか」

火竜公女「都市を目の前にすれば、速度も上がりましょうが」

副官「しかし、その位置では、まだこの都市に目標が
 定まったとは言いきれないでしょう。
 進路変更もあり得る場所だ。
 まずは、紋様族、鬼呼族、および旧蒼魔族領地の機怪族に
 警告を発するべきです。異存のある方は?」

人間職人長「……ありませんな」
人魔商人「即座に発するべきだろう」

副官「では、これを決定とします。書き取ってくれ」
魔族娘「は、はい」かきかき

火竜公女「しかし、やはり最大の目的地はこの都市でありましょう」

副官「ええ。現実的に考えればそれ以外にはないでしょうね。
 この都市は近郊最大の物資集積所にして
 交通の要にもなっています。
 いまや、第二次聖鍵遠征の時よりもさらに栄えている」

人間職人長「……」
人魔商人「たわわに実った果物と云うことか」

獣人軍人「この都市の兵力は少ない。
 同規模の都市に比べても少ないのだ。
 ましてやいまは治安維持のための警備軍1500を残すのみ。
 とてもではないが、抵抗はままならない」

魔族娘「うぅ……」
206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/05(月) 23:35:27.25 ID:O8aL4rAP
副官「……いまは、主力騎士はうちの大将が
 連れていってしまってますしね」

人間職人長「……」

火竜公女「まずは、人間の長老どの。
 市民の気持ちのほうを聞かせて頂きたく思いまする。
 都市に住む人間族の住民の声はどうなのかや?」

人間長老「そうですな。……ふぅむ。
 旅商人などを除き、我ら人間の多くは、
 もはや故郷に帰れるなどとは思ってはいませんでした。
 魔族になりきった、などと云うつもりはありませんが、
 少なくともこの都市の住民でいる自覚はあったのです。

  正直に申せば、今さら……という気持ちが強いですな。
 聖鍵遠征軍が“人間の捕虜を救いに来た”というのであれば
 それはまさに今さらでもあるし、そもそものところ
 そこまで非道な扱いを受けているわけでもない。
 救うくらいなら捨てなければ良いではないか、と」

火竜公女「……」

人間長老「逆に一方、人間族の裏切り者として告発を
 受けるのであれば、それこそ噴飯もの。
 こう言っては何ですが、この都市に取り残された人間は
 あの司令官に対する恨みがことのほか強いのです。

  我ら街の住民には一言も告げずに出て行った司令官にね。
 司令官の一存で取り残され、
 この街で暮らしていくしか生きるすべとてなくなった我らを
 今さら裏切り者として告発するのであれば、
 もはや人間界に対する情も枯れ果てる。

  そう考える人間が多数でしょう」

副官「……」
207 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/05(月) 23:38:03.43 ID:O8aL4rAP
人間職人長「だがその一方で、
 やっと人間界との連絡が取れ初めてもいた。
 通商といっては云いすぎですが、わずかなやりとりが
 復活しつつあったのも事実です。
 徐々にですが、月に一つ、二つの隊商が行き交うようになり
 これからという時だったのですよ。

  それこそ、この都市を気に入り、
 これならばと家族や子供達に手紙を出そう
 そして、もし良ければ招き寄せてこの都市に骨を
 埋めようではないか。
 そう決意した職人や商店主も数多くいました。
 このわたしにしてからがそうなのですからね。

  魔族と人間が共同して暮らし、活気溢れ、学問が新興しつつある
 この都市でならば、骨を埋めて商売を行なうのも良い。
 そう考える市民も数多くいたのです。
 我らの本音を言えば、戦争なんてまっぴらだ。
 そちらから捨てたのだからほうって置いてくれれば良いというのが
 もっとも本音になってしまうのではないでしょうか」

人魔商人「それはこちらとしても同じ事。
 前回であっても同じであっただろう。
 この都市は別に人間界に攻め込もうと考えたことも
 何かを奪おうと考えたこともなかったのだ。
 かつて栄えた神殿の都は、交易都市として再生を
 遂げようとしている。
 ほうって置いてくれればこれに勝る親切はない」

獣人軍人「しかし」

火竜公女「“しかし”なのでしょうね。
 そのようにして興った貿易の富に引きつけられてくる者は多い。
 かつて魔族の間に血で血を洗う戦乱があったように。
 今度は人間が引き寄せられたのでありましょう」
208 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/05(月) 23:39:54.36 ID:O8aL4rAP
魔族娘「あのぉ」
人間長老「なんじゃ?」

魔族娘「ご、ごめんなさいっ」
火竜公女「はっきりと伝えねばなりませぬよ」

魔族娘「……やはり、負けてしまいます…よね?」

獣人軍人「常識的に考えてみて、1500対30万では話にならない」

魔族娘「そ、そうですよね……」しょんぼり

人魔商人「……お前は、抗戦を主張したいのか?」

魔族娘「いっ。いえ、そんな。意見なんて滅相もないですっ。
 ……で、でも」

火竜公女「……」ぽむぽむ

魔族娘「その、……わたくしごとなのですが。
 ……わたし、ほら。何族だかも判らないではないですか。
 蒼魔族っぽい肌ですけれど、竜族みたいに角もあるし
 でも猫目族みたいな瞳でもあるし……雑種って云うんですか。
 血混じりっていうんでしょうか……。
 その」

人魔商人「何を言いたいのだ?」

魔族娘「いえ、すいません。ごめんなさいっ。
 ただ、衛門の一族って、なんかすごく嬉しかったので……」

人間長老「……」

魔族娘「故郷というか、自分の家みたいに思えてきて。
 この街が……、なんだかすごく大切で」

人間長老「ふぅむ」
210 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/05(月) 23:42:15.72 ID:O8aL4rAP
獣人軍人「われら衛門の一族は自由を尊ぶ一族であるか」
副官「そうですね」

人間職人長「それはそれで仕方ないでしょう」

火竜公女「出来れば今すこし余裕を持った
 やり方を選択したくはありましたが、詮方ありませぬ」

副官 ぐるり 「各々がた、よろしいな」

人間職人長「……」 人魔商人「……」
獣人軍人「……」 人間長老「……」

副官「では、我々自治委員会はこの事実をつつみ隠さず
 全ての市民に公表したく思います。
 その上で、抗戦か、降伏か、交渉か、その意見を募りたい。

  議論の期限は三日としましょう。
 その議論の中で逃げ出すものも、人間の軍に降るものも
 いるかも知れませんが、それはそれで、仕方がない」

獣人軍人「とうてい賢いとは云えませんが、仕方ないでしょうね」

人魔商人「魔族には、それぞれ氏族ごとに流儀という物がある。
 流儀を失って賢くあるよりは、衛門の流儀に従おう」

人間長老「異存はありません」
火竜公女 こくり

副官「各々がたも近しい方と十分の論議をして頂くことを
 望みます。どのような結果になってもそれは自分たちが
 選んだと思えるように」

人間職人長「今度は口が裂けても“選択の余地が無く
 捨てられた”などとは言いたくないものだ。
 捨てるにせよ、護るにせよ、それは我らが決めることなのだから」

火竜公女「願わくば、我らが行く手に、碧の光のあらんことを」
227 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 00:10:46.78 ID:bGZgmCoP
――遠征軍、奇岩荒野、野営地中央、豪奢な天幕

王弟元帥「では、勇者の無事の帰還と、その武勇を称えて!
 またこたびの遠征の輝かしい勝利と我らが凱旋を願い、乾杯」

参謀軍師「乾杯!」 聖王国将官「乾杯!」
灰青王「乾杯!」 百合騎士団隊長「乾杯!」
大主教「……精霊の恵みを」 従軍司祭長「我らに光を」

勇者「これ美味いな!」もぐもぐ

王弟元帥「勇者は本当に健啖だな」
灰青王「うむ、一人前の英雄とはかくあるべしだ」

勇者「いや。すまないな。こんなに大食いで。
 思うに魔力の上限が高いと、その補充のために
 食うようになる気がする」

王弟元帥「ふむ、興味深いな」

参謀軍師「勇者殿。これは霧の国産の葡萄酒ですぞ」

勇者「いただきまっすっ!」

聖王国将官「勇者が見てくれている大隊は、他の大隊と比べて
 底なし沼にはまり込んだり、魔物に襲われたりして出る被害が
 二桁も少ないのですよ。本当にありがとうございます」

勇者「いやいや。みんなを護るのも勇者の役目」

大主教「……」
従軍司祭長「……猊下、あの青年はもしや……」
大主教「……」

勇者「あったりまえのことですから」えへん

王弟元帥 ちらっ
大主教「――」
228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 00:12:41.34 ID:bGZgmCoP
灰青王「それに、感心したのはあれだ」

参謀軍師「おお!」

聖王国将官「あれですな」

灰青王「うむ。あれだけの野生馬の大群、
 どのように呼び寄せたのだ? まるで魔法のようだったが
 あのような技は知られてはおらぬだろう」

勇者「あー。あれは、夢魔鶫がね」

参謀軍師「つぐみ?」

勇者「いや。あー。たまたまあのあたりに
 野生馬の群がいたのを知っていたのと、あとは勇者魔法だよ。
 あそこの馬は野生で小型だから軍馬には向かないけれど
 荷馬にするには十分だろう?」

王弟元帥「うむ、早速感謝の言葉が諸侯から届いている」
参謀軍師「ええ、これで荷運びが随分と楽になりますからね」

聖王国将官「傷病者の運送もだ」

勇者「はっはっはっ。大したことはないのだぜ」

王弟元帥「大主教猊下。ぜひ猊下からも、この光の子に
 暖かきお言葉を賜れないでしょうか」

大主教「……百合の」

百合騎士団隊長「はっ、猊下」

大主教「勇者に杯を取らせよ」

百合騎士団隊長「畏まりましたっ」
229 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 00:14:01.95 ID:bGZgmCoP
百合騎士団隊長「勇者殿、猊下からの杯です」すっ

勇者「えーっと」どぎまぎ

百合騎士団隊長「さぁ」

王弟元帥「照れているのか、勇者?」

聖王国将官「百合騎士団の団長は、大陸でも有名な美姫ですからね」

勇者「いや、そういうわけではないですよ?」
百合騎士団隊長「さぁ」にこり

王弟元帥「ふっ。隅に置けぬな」

勇者「いえいえ、では頂きます。ははっ」
百合騎士団隊長「お注ぎしましょう」

大主教「……」

王弟元帥(なんだ、この重苦しさ……)

勇者「いや、綺麗な色ですね! これはどこのお酒ですか?」

従軍司祭長「教会直轄領において、乙女が一粒づつ手詰みを
 して作る最高級の琥珀葡萄酒ですな」

勇者「貴重な物なんですねっ!」

百合騎士団隊長「猊下のおこころざしです、さぁ」

王弟元帥(……何か、あるのか?)

勇者「いっただっきまーす!         “消毒呪”」

大主教「……」じぃっ

勇者 ごっきゅんごっきゅん 「美味いっす!」
230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 00:15:56.66 ID:bGZgmCoP
ばさり

料理人「閣下、お持ちしても宜しいでしょうか?」
参謀軍師「うむ、持ってきてくれ」

勇者「お!」

がたり!

料理人「さぁ、どうぞ! 勇者様! こいつはとびきりですよ」

勇者「ありがとうな、料理人! それから牛追いの皆にも礼を」

料理人「いえいえ、とんでもない。光栄なことです!
 こんがり焼き上げた仔牛の丸焼きですよ、
 こいつを作るのにはたっぷり丸一日かかるんでさぁ。
 腕によりをかけたんで、美味しく食って下さい!」

王弟元帥「ん? 料理人と知り合いなのか?」

勇者「いや、数日前に」もぐもぐ 「河のところで、
 香辛料が濡れちまうって云ってたから、少し助けただけ」

参謀軍師「そうでしたか。ああ! 湖面が凍り付いて
 渡河が非常に早く終わったことがあったというのは」

聖王国将官「勇者殿の器の大きさを感じさせますな」

灰青王「ふぅん」にやり

大主教「……勇者」

勇者「はいな?」 もぎゅもぎゅ
233 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 00:17:28.99 ID:bGZgmCoP
大主教「そなたの武勇と献身を光の精霊はご寵愛下さる」

勇者「……そうかなぁ。
 いつも泣きそうな顔してない? あのひと」

百合騎士団隊長「……っ!?」
従軍司祭長「……っ!!」

勇者「いえ、すいません。で?」

大主教「どうだろう、そなたに聖別を施したいのだが」

  勇者(小声)「すまん。聖別って何?」
  参謀軍師(小声)「この場合は聖職者として
   迎えたいという意味ですね」

勇者「あー。無理」ぱたぱた

従軍司祭長「……っ!」

百合騎士団隊長「勇者殿、猊下のお誘いをっ」

勇者「いや、それは、その。すごく有り難いのですが。
 猊下ともいらっしゃいますとね、ほら。
 恐れ多いというか、なんというか。
 神々しくて近寄りがたいというか、なんというか
        ……実際はもう売約済みだしね、うん」

従軍司祭長「では、こうされてはいかがでしょう?
 聖別を受けるかどうかはともかく、勇者殿はしばらく
 聖百合騎士団の、天幕で暮らして頂いては。
 身も心も清らかな乙女との暮らしは
 俗界の汚れが落ちると申しますよ」

勇者「うわー」

王弟元帥(どこまで押すつもりなのだ。教会は)
237 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 00:20:34.42 ID:bGZgmCoP
勇者「それはその。めくるめく誘惑ですね。えー」

百合騎士団隊長「歓迎いたしますよ?」にこり

勇者「でも遠慮します」

従軍司祭長「なにゆえに?」

勇者「いや、ほら。ね。……勇者なんてやっていると、
 肘までどっぷり血にまみれているでしょう?
 これが俗界の汚れなら、今までの俺の為した所行
 これ全て汚れですしね」

従軍司祭長「それゆえ、清らかな光で贖罪を……」

勇者「それに、なんだかんだ理屈こねたところで、
 これからここにいるみんなで“汚れ”を
 大量生産しに行くのでしょ?
 今から清めたところで、また血を浴びるなら、
 それこそ二度手間じゃないですか。

  口清く“罪は洗い清められた”などと云ったところで
 胸の重しが取れるわけで無し。
 それならいっそ、あの生暖かい、ぬるぬると滑る、
 鉄の香りの後悔と痛みを自覚していたほうが
 まだ両足で立てるかと」ひょい、ぱくっ

百合騎士団隊長「……」

王弟元帥(ふふんっ。小気味の良いことを)

勇者「まぁ、それ以外にも。ほら、自分、今回は
 王弟元帥のところの食客ですからね。
 ずいぶん飯を食わせて貰った義理があるわけで」

王弟元帥「いやいや」
244 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 00:23:13.29 ID:bGZgmCoP
勇者「そんなわけで、聖別は遠慮しますが、
 王弟元帥がしばらく教会の生活も味わってみろと
 いうのならばおじゃましますよ。

  俺個人は、職人さんやら料理人のおっちゃんと一緒に
 馬車でゴロ寝旅が良いんですけれどね。

  ですので、俺の寝床については、王弟元帥と相談して
 決めて下されば、それで結構ですよ」

王弟元帥「いやいや、義理堅いな。流石民の規範」

参謀軍師(義理堅い? ……ちがう。狡猾なのだ。
 大主教と王弟元帥閣下の間に自分をぶら下げて
 “欲しいほうが力尽くで取れ”と宣言したに等しいぞ。
 ……閣下は判っているだろうが)

灰青王「ははは。騎士隊長。ふられてしまいましたね」にやっ
百合騎士団隊長「これも、全て精霊の御心。しかたありません」

聖王国将官「勇者ともなりますと、貫禄ですな」

勇者「いやー。旨い飯さえあればどこででも働く男ですよ、俺は。
 世界の平和のために戦っている聖鍵遠征軍の中枢なんて
 こちらが申し訳ないくらいですよ」

王弟元帥「では、この話は我らと猊下で詰めておくとしよう。
 まぁ、そのようなことは些末時。
 勇者、子牛肉が冷めてしまうぞ?」

勇者「お。そうだった。やっぱり王弟元帥は物がわかっているな!」

灰青王「ではわたしもご相伴させて貰おうかな」
勇者「うん、食べよう食べよう。皮のところが美味しいと思うぞ!」

従軍司祭長「……ちっ」
278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 01:44:18.30 ID:bGZgmCoP
――冬の国、首都冬の都、商人街

のっしのっしのっし

大きな衛兵「ここか?」

ちび羽妖精「ココー」

大きな衛兵「すまん。はいるぞ?」

ガラス職人「いらっしゃいませー」

ちび羽妖精 きょろきょろ

大きな衛兵「主人はいるか?」
ガラス職人「私がそうでございますよ」

ちび羽妖精「ココ、がらすノ瓶ハアリマスカ?」

ガラス職人「わぁっ!?」がたんっ

ちび羽妖精「ワァッ」びくっ

大きな衛兵「驚かせて済まない。しかし、話は聞いているだろう。
 この小さき物は、街の南の領事館に住む、職員。
 妖精族のちび羽妖精だ」

ガラス職人「はっ、はいっ。は、始めておめ、おめ、おめに」

ちび羽妖精「初メマシテ」ふわふわぺこり
ガラス職人「初めまして」ぺこり

ちび羽妖精「がらす瓶アリマスカ?」
ガラス職人「ご、ございますよ」
280 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 01:46:01.06 ID:bGZgmCoP
ちび羽妖精「コレ?」
ガラス職人「こちらは全てでございます。どのような用途に
 おつかいでしょうか?」

ちび羽妖精「ヨウト?」
大きな衛兵「使い道だな」

ガラス職人「はい」

ちび羽妖精「がらす瓶ヲ作レル人ヲ買イタイデス」
大きな衛兵「ああ……」
ガラス職人「は?」

ちび羽妖精「ソウイウ人ヲ欲シイ氏族ガイマス」
大きな衛兵「うーむ」

ガラス職人「ふぅむ、職人の募集ですか」

ちび羽妖精「ダメデスカ?」
ガラス職人「そう言うわけではありません。
 新しい街へ職人を募集するなどと云うことは開拓村では
 良くあることですから。ただし、行く先はそのぅ、
 魔界なんですよね?」

ちび羽妖精「ハイ」

ガラス職人「では、ギルド会館にご案内しましょう」

ちび羽妖精「ぎるど?」

ガラス職人「ええ。職人はみなそこに登録をしているのですよ。
 若くてチャンスを待っている僕の後輩や、まだ徒弟の年季が
 開けたばかりの者もいます。何が出来るか見てみましょう」
282 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 01:50:20.33 ID:bGZgmCoP
――遠征軍、奇岩荒野、野営地、開門都市まで12里

従軍司祭長「残すところあと12里まで迫りましたな」
百合騎士団隊長「はっ」

王弟元帥「もはや一息。開門都市へは斥候をだしています」

灰青王「そうですな」

大主教「……精霊の御心のままに。
 このまま速度を上げ、到着と同時に一斉攻撃を仕掛けよ
 光の教徒の全力をもって陶片のような魔族の抵抗を打ち破り
 あの都市に教会の旗を立てるのだ」

王弟元帥「それについては」

従軍司祭長「我ら、最強の聖鍵遠征軍は、
 三日後の夜を待つことなくあの都市を平らげるでしょう。
 各々がたも、よろしいな?」

王弟元帥「お待ち下さい」

従軍司祭長「何か異論でも?」

百合騎士団隊長「これは託宣ですぞっ!」

王弟元帥「しばしおまちを。報告を」

参謀軍師「はっ。我らは魔界へと侵攻を果たしてから
 約10日の行程を踏破して参りました。
 ここまでの行軍にて兵の疲労は頂点に達しています。
 また思ったよりも時間がかかりましたゆえに、
 糧食の控えは後一月分もございません。
 また今回の戦、敵地へ限りなく
 奥深く入り込んでいることを片時も忘れるわけには行きません」
285 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 01:52:49.90 ID:bGZgmCoP
参謀軍師「ここまでの行軍路の途中には幾つか陣営地を残し
 糧食の保管および警備にあたらせて、
 輜重隊の動きを助けさせていますが、
 補給線は限りなく伸びきりとっさの動きには
 対応しづらいのが現実です。

  もちろん最初の一撃で戦を決めることが出来れば……
 いいえ、一撃とは言いません。
 二週間で決めることが出来れば問題はないかと存じます。
 あの都市には大量の食料もあるでしょうから。
 しかし、それ以上かかりますと、
 追い詰められるのはこちらかと」

従軍司祭長「遠征軍は最強ではなかったのかっ?」


王弟元帥「それは適切な準備を行ない、
 油断も慢心もなく戦った場合のこと。
 九分九厘勝てるであろう、などという甘えは戦場では禁物です」

聖王国将官「この件では、戦場の意見にも耳を
 傾けて欲しく思います」

灰青王「ふぅむ……」 ちらっ

大主教「申してみよ」

王弟元帥「本隊をもう10里進めて、本格的な宿営地を作ります。
 出来れば、木材を切り出して見張り塔程度は作り上げたいところ。
 付近の地形を測量し、カノーネの威力を最大限に生かせる
 布陣を作りつつ、兵には十分な休息を取らせますな。
 断続的な砲撃にて、防壁は数日で崩れ始めるでしょう。

  またその一方、マスケット兵および騎馬部隊を中心に編制した
 遊撃部隊15万にて西進。旧蒼魔族領地を強襲します」

従軍司祭長「……旧蒼魔族領地?」

百合騎士団隊長「なにゆえに?」
287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 01:56:25.55 ID:bGZgmCoP
王弟元帥「魔族どもは一族ごとに暮らしているというのは
 すでにお聞き及びかと思います。
 旧蒼魔族領地はここから往復で20日程度の距離ですが
 その領地に侵攻、全土制圧を行ないます。
 蒼魔族の軍勢は地上にて討ちやぶり
 我々が独自に入手した情報によれば、
 かの領地は今は少数の混成軍で護られているとのこと。

  開門都市に砲撃を加えつつであればそれが牽制となり、
 魔族は連携を取ることすら出来ず、
 旧蒼魔族領地を見捨てる決断となってそれは現われましょう。

  軍は失いましたが、蒼魔族の農奴たちは
 自らの領地に残り耕作しているはず。そこで食料を入手します。
 また、蒼魔族は多くの鉱山を持ち、その中には硝石を
 算出するものもあります」

百合騎士団隊長「硝石……?」

参謀軍師「聖鍵遠征軍の主力、銃兵がもちいる火薬の原料です」

灰青王「それは是が非でも入手の必要があるね」

大主教「火薬は少ないのか?」

参謀軍師「聖鍵遠征軍30万が全力で戦った場合、
 8日分が現在確保している量です」

大主教「なんの問題もない。それだけあれば開門都市を
 落とすことは可能だ」

従軍司祭長「8日あれば魔族を一網打尽に出来ましょう」

百合騎士団隊長「確かに」

王弟元帥「しかし、完全に、ではない」

従軍司祭長「くどい。これは猊下のご意向。
 ひいては精霊のご意志ですぞっ!」
288 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 01:59:26.22 ID:bGZgmCoP
王弟元帥「しかしお考え下さい。
 開門都市を落としてもまだ終わりではないのです。
 ここはまだ魔界の玄関口に過ぎません。
 この後魔界の全土を転戦するためには、
 旧蒼魔属領の豊富な鉱物資源、とりわけ硝石が必須です」

灰青王「ふむ」ぽりぽり

百合騎士団隊長「そこまで硝石とやらが重要でしょうか?
 われらは猊下のご意志に従う光の戦士です。
 兵の疲労? そのような甘えは純然たる信仰と
 陛下の祝福に吹き飛びましょう」

大主教「ふふふ。……判っていないのはそなただ。
 ――目の前には開門都市。“門”たる祭壇と“鍵”たる勇者は
 我らが手の内にある。魔界全土で戦う必要などどこにある」

王弟元帥「は?」

参謀軍師「斥候の報告によれば、開門都市は長大な防壁を築き
 近隣諸氏族の軍をも率いれ、我が軍との激突姿勢」

従軍司祭長「それこそ好都合。会戦にてけりをつければ
 遙かに簡単に魔族の心根を砕くことができましょうぞ」

参謀軍師「っ」

聖王国将官「――それです」

従軍司祭長「は?」

聖王国将官「我ら聖鍵遠征軍は、
 確かに強大な戦力と兵力を有しますが
 それだけに兵の末端にまで指令を行き渡らせるのは至難の業。
 一斉攻撃は確実に巨大な攻撃力を有しましょうが
 いまだかつて10万を超えるような兵力を投入した戦場は
 歴史上存在しません。
 その混乱ぶりは想像を絶するでしょう。
 もとは農奴の兵士がどのような行動を取るかどうかも判りません。
 最悪、遠征軍は瓦解する可能性もあるのです」
292 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 02:02:57.07 ID:bGZgmCoP
従軍司祭長「……っく」

百合騎士団隊長「灰青王さま?」
灰青王「はい」

百合騎士団隊長「兵については、掌握が出来るのでしょう?」
灰青王「それは、そのための前線司令官ですからね」

聖王国将官「灰青王陛下っ!」

百合騎士団隊長「昨日ゆっくりと話してくださいましたよね?
 マスケット銃の運用の仕方について……。
 期待させてくださっても構いませんわよね?」くすり

灰青王「まぁ。お任せ下さい。としか云えんでしょうね」

参謀軍師(取り込まれたかっ)

大主教「これでもまだ不安か、王弟元帥」

王弟元帥「ええ。不安ですね」

大主教「ふっ。ふははははっ。臆病ではないか? 王弟元帥」

王弟元帥「我が身の使命は猊下および中央大陸の権益と
 その体制を保ち永遠を護ることだと考えております。
 そのためには、臆病で丁度良いかとも思いますが?」

参謀軍師「……閣下」

灰青王「いやいや。硝石が必要というのも判ります。
 そもそも魔族の軍の陣容や人数だって判ってはいない。
 しかしね、あの都市の駐留軍を併せても5万を大きく
 越えると云うことはないでしょう。
 それにたしかに20万は多すぎです」
294 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 02:06:32.82 ID:bGZgmCoP
大主教「……」

灰青王「ここは軍を二分しましょう。
 二正面作戦は定石から云えば悪手ですが、
 幸い聖鍵遠征軍にはそれを可能にするだけの兵力がある。
 いままでの駐屯地や補給線の防衛に回した分を
 差し引いても未だ18万の兵力は温存している訳ですよ。

  王弟元帥には5万の兵力を率いて、蒼魔族の領地を落として頂く。
 王弟元帥の仰るとおり手薄な領地であれば、
 5万の兵力であっても十分でしょう?

  そして開門都市攻略千には15万の軍を率いて当たる。
 カノーネをこちらに残して頂ければなお結構。
 それであってもおそらく魔族の4倍。悪くて3倍。
 蹂躙するには不足がない。……いかがです?」

大主教「よかろう。開門都市を落とせば光は見えるのだ」

従軍司祭長「……宜しいでしょう」

百合騎士団隊長「期待していますわ。灰青王さま」

王弟元帥「……」

従軍司祭長「宜しいですな、王弟元帥閣下」

王弟元帥「承知した」
参謀軍師「……」

灰青王「明朝には?」
大主教「明朝には出発だ。兵には行進速度を速めさせるよう」

従軍司祭長「精霊は欲したもう」

百合騎士団隊長「全ては精霊の御心のままに」
349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 20:18:16.53 ID:bGZgmCoP
――火焔山脈、その麓

ヒヒィーン、ブルブルブル

生き残り傭兵「どう、どう」
ちび助傭兵「どうだった」

傭兵弓士「うん、この先がどうやら火焔山脈だな。
 山門には“焔璃天”と書かれていた。
 この山道の先が火竜一族の城と云うことで間違いないらしい」

メイド姉「助かりましたね。比較的あっさり見つかって」

傭兵弓士「いいや、問題はここからだろう。
 山門には衛兵が詰めていたが、どれも一騎当千といった印象で、
 微塵の油断もなかったぞ。数十の手勢で突破できるような
 場所じゃない」

ちび助傭兵「まさか! そんなあほな!
 突破なんてしていたら命がいくつあっても足りない」

傭兵弓士「どうするんだ?」

メイド姉「ここに限ってはどうにかなる策があるんですが」

生き残り傭兵「ふむ。いけそうなのか?」

メイド姉「おそらく」
生き残り傭兵「聞こうじゃないか」

メイド姉「いえ、聞かせるような策でもないんですけれど……」

生き残り傭兵「?」
351 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 20:20:47.94 ID:bGZgmCoP
――火焔山脈、山門

竜族衛士「止まれっ!」
竜族衛士「汝ら、何者だ! 名を名乗れっ」

メイド姉「あー。こほん。わたしだ」

竜族衛士「まっ!? 魔王様っ!!」
竜族衛士「なんだって!?」
竜族衛士「間違いない。魔王様だ。
 俺は忽鄰塔でお目にかかっているんだっ」

  傭兵弓士「魔王って云ってるよ。本当に魔王に化けられるのか」
  生き残り傭兵「ちょ……。あの姿、なんだってんだ」
  ちび助傭兵「魔法使いだったのか!? 代行はよっ」
  若造傭兵「驚かない。俺は何が起きても驚かない」

メイド姉「火竜大公に取り次いでくれないか。
 内密、かつ急ぎの用件だと云って貰えば良い」

竜族衛士「しかし、この人間達は……?」

メイド姉「彼らは人間界から一緒に旅をしてきたわたしの護衛だ。
 出来れば別館で馬の世話を見てもらえぬか。
 長旅で蹄鉄などがすり減っているやも知れぬからな。
 我らの旅は、これからも長い。
 ねぎらってやってくれると助かる」

竜族衛士「はっ。判りましたっ。
 おい、至急大公に取り次ぐんだ。
 それから、おつきの方々は衛士宮にお望みの施設がありますゆえ」

メイド姉「頼む」

生き残り傭兵「良いんですかい、お嬢……魔王どの」
メイド姉「“心配ない”」

竜族衛士「では、おつきの方々はこちらへ」
メイド姉「話し合いで片がつく。で、無ければあがいても意味はない」
357 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 20:31:46.34 ID:bGZgmCoP
――火焔山脈、紅玉神殿、応接室

竜族衛士「こちらでございます」

メイド姉「ありがとう」

竜族衛士「大公様! 火竜大公様! 魔王様をお連れしました」

  火竜大公「入って下され」
メイド姉「ここからは内密の話だ。下がっていてくれ」

竜族衛士「はっ。承知しました」

がちゃり

メイド姉「……ふぅ」
火竜大公「ぬ」ぼうっ

メイド姉「お初にお目にかかります」ぺこり

火竜大公「お前は何者だ? その姿は確かに魔王殿だが
 人間の匂いがするな……」

メイド姉「はい。人間です。わたしはメイド姉と申します」

 きらきらきら……

火竜大公「幻術の指輪か……」
メイド姉「はい」ひゅるんっ

火竜大公「ここに忍び込んだのは、どのような用件だ」
メイド姉「まずは、このように訪れたことをお詫びいたします」ぺこり

火竜大公「ふんっ」

メイド姉「……あまり驚かれないし、お怒りになられないのですね」

火竜大公「この数年で無礼な闖入者には馴れたわ。
 勇者を皮切りにどいつもこいつも人間と来ておる」ぼうっ
359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 20:34:56.01 ID:bGZgmCoP
メイド姉「申し訳ありません」
火竜大公「その礼の尽くしかたは、メイド長に学んだか」

メイド姉「はい。わたしの先生です」
火竜大公「そうか」

メイド姉「わたしはメイド長さまと魔王様に学びました。
 生徒、と云うか師弟……のようなものですね。
 もっともわたしは正規のそれではなくて、
 魔王様のお世話をさせて頂きながら、
 聞きかじりをしたに過ぎないのですが……」

火竜大公「ふむ」

メイド姉「と、言っておいて申し訳ないのですが、
 今回伺わせて頂いたのは魔王様の命令や伝言、あるいは
 書状を携えて参ったわけではありません。
 現在わたしは魔王様のもとを離れて活動しています」

火竜大公「誰か、もしくは何らかの組織の指示を受けているのか?」

メイド姉「いえ。わたしの意志です」

火竜大公「ならばよかろう。ふはは」ぼうっ

メイド姉「?」

火竜大公「腐ってもこの火竜大公。魔界の大氏族、四竜が長。
 使いごときと問答する口は持ち合わせぬ」

メイド姉「ありがとうございます」

火竜大公「礼には及ばぬ。気に入らぬ事をさえずるならば
 そのそっ首を食いちぎれば済むだけゆえ
 話をさせているに過ぎぬ。
 魔王の姿まで借りてここに来た用件を言うが良い」

メイド姉「竜族に伝わる宝をお借りしに参りました。
 いえ、返せない可能性もあるので、
 お譲り頂けると嬉しいのですが……」

火竜大公「何が望みだ? “ふぶきのつるぎ”か?
 それとも“女神の指輪”か?」

メイド姉「“ひかりのたま”です」
火竜大公「っ!?」
362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 20:58:36.65 ID:bGZgmCoP
火竜大公「何故その名を人間であるお前が口にするっ」

メイド姉「……」

火竜大公「答えよ。それは我が竜族の秘事に関することぞっ。
 なんとなれば、それこそは我らが竜族永遠の宝。
 魔王との最初の契約にまで遡る、伝承の礎。

  我ら竜族が何故魔族の中でもっとも古く、
 もっとも偉大でもあり、最も高く重要な位置を占めているのか。
 それは、“ひかりのたま”が伝えられているからなのだ。

  伝説は伝える。
 “ひかりのたま”を失った我らが一族の王が
 如何にして狂い、歪んだかを。
 如何にして死んだかを。
 その宝を貸す事さえ慮外であるのに、
 与えて欲しいとは何を言うっ」 ごぉぉっ

メイド姉「それでもお願いします」

火竜大公「答えよ、何故その名を知るっ!? 人間」

メイド姉「……夢で見ました」
火竜大公「夢で?」

メイド姉「おそらく」
火竜大公「雲を掴むような話ではないか」

メイド姉「遙か時の彼方、古の昔……」火竜大公「――」

メイド姉「精霊に五つの氏族有り。後の世に云う五大家。
 全ての魔族は祖先を辿れば、精霊に行き着くと云いますね。
 精霊は争いのない理想郷に住む祝福された存在でした。
 何故それが魔族としてこの地へおりることになったか。
 それは五大家の一つ、土の家に汚れしものが生まれ、
 炎のカリクティス家との激しい争いを行なったから。
 その憎しみは精霊の世界を汚染して、
 世界は叩きつけられた水晶球のように無数の破片に砕けた」
363 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 20:59:28.93 ID:bGZgmCoP
メイド姉「炎の宗家に生まれた一人の娘は、
 その命を、哀れな民を救うことに捧げ、天に召されます。
 彼女は光の精霊になることによって精霊の民の生き残りを救い、
 世界には人々という種子がまかれた。

  “ひかりのたま”は彼女の残した贈り物の一つ。
 でも、なぜ?

  なぜ彼女は人間の世界で信仰を集め、
 この魔界では知られていないのでしょう?

  それなのに何故、地上の教会にも魔界と同じ物語の
 痕跡が残っているのでしょう?

  あの人はあの青い海の中でそれを教えてくれた。
 わたしは人間として最初からそれを知っていた。

  わたしたち人間は、理想郷を滅ぼした土の氏族の末裔だから。
 そして魔族は光の精霊が救おうとした、理想郷の末裔だから。

  あなたたちの先祖は彼女が神ではない事を知っていた。
 彼女は勇気はあったけれど全能とはほど遠い存在だと
 知っていた……。
 ただ人々の救済を願った一人のか弱い精霊だと知っていたから。
 だから魔族は彼女を崇めなかった。
 ただ尽きせぬ感謝を込めて伝説へと……物語へと残した

  わたし達の先祖は耐えられなかった。
 自分たちがあんなにも胸焦がすほど愛していた理想郷を
 打ち砕く切っ掛けになってしまったことにも耐えられなかった。
 そしてそれを全能でも全知でもない一人の少女が
 命を捨てることによって救ったことにも耐えられなかったから。
 だから彼女を神としてまつることしかできなかった。

  しかし時は流れ、わたし達は長い旅路の果てに起源を忘れる。
 雪にふりこめられ自分の足跡を見失うように。
 後悔と贖罪の気持ちは同じだったはずなのに、
 耐えられなかった痛みを忘れ、永久の感謝を忘れる。

  誰も悪いわけではないけれど
 何を間違えたわけでもないけれど
 それでも道を違えた地上と地下は、遠く遠くすれ違う」
365 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 21:01:05.33 ID:bGZgmCoP
火竜大公「そのような話聞いたこともないっ」
メイド姉「はい」

火竜大公「お前は詩人の絵空事を信じよと云うのか」

メイド姉「出来れば。でも、信じて頂きたいのは
 “ひかりのたま”を貸して頂きたいからではありません」

火竜大公「ではなぜだ?」
メイド姉「一人の胸に納めるには悲しいお話ですから」

火竜大公「お前は怖くはないのか、命が惜しくはないのかっ」

メイド姉「怖いです。恐ろしいです。
 ……わたしは貧しい生まれです。死が首筋を撫でるのを
 感じたことが何回もあります。雪の夜に膝を抱え、
 夜が明けるまでわたしは生きられるだろうかと
 何万回も問う夜を過ごしたこともあります。
 ……でも、それでも、死よりも恐ろしいものがある」

火竜大公「それはなんだ」

メイド姉「死よりももっとひどいこと。です。
 何もしなければ、わたしの大事な人も大事な場所も
 大事な思い出さえも砕かれ、踏みにじられ、虚無に沈む。
 その確信があるから。いまは怯えている暇は、ありません」

火竜大公「それゆえ、竜の宝を欲すると?」

メイド姉「……“ひかりのたま”は
 彼女の残した思いでだとわたしは思います。
 竜の氏族に託された宝物ではあるけれど、
 同時にそれは、ありてあるものの一つに過ぎません。
 永遠ではないものです。

  本当はご存じのはずです。
 永遠でないものは、永遠ではないんです。
 それを用いて何を為すかを試されるために
 あらかじめ与えられた物。

  ですから、それをお与え下さい。わたしが使うために。
 地上のみんなに思い出して貰うためには
 “ひかりのたま”が必要だと思うんです。
 みんなが“自分の分”の血を流すために」
366 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/06(火) 21:02:41.45 ID:bGZgmCoP
火竜大公「……汝の言葉は、あるいは正しいやもしれぬ」

メイド姉「……」

火竜大公「しかし、汝が汝の言葉の正しさを
 貫くだけの力があるかどうかどうして我に判ろうっ。
 ここは竜の領域、われは竜族の束ね、火竜大公。
 歴史ある氏族を司る者として
 汝を信用するわけには行かぬ。
 魔族として汝は何ら証を立ててはいないのだ」

メイド姉「……ですがっ」

火竜大公「今や魔界へと人間の軍が侵略の手を伸ばしてきた
 汝もそれは知るであろう?」

メイド姉「はい」

火竜大公「その細腕で、平和を望むのか?」
メイド姉「はい」

火竜大公「どいつもこいつも、途方もない夢を語る」
メイド姉「この胸に芽生えた声なき声のせいです」

火竜大公「では、証明して見せろ」

メイド姉「証明……?」

火竜大公「あの軍勢のどれだけでもよい。
 汝が退かせて見せよ。

  我ら魔族は、行動を持ってそのものの勇を見定め
 信おけるかどうかを判断する。

  その一事を持って、汝が宝玉を持つ資格ある者と認めよう。
 欲に駆られて血走り濁った瞳を持つ餓狼の群。
 その前に一人立ちはだかり、何が出来る?

  女に身である汝には無理だ。諦めるが良い」



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