9-6


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」9-6


830 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 00:09:36.62 ID:TQ3NwHwP
――鉄の国、職人街、ギルド会館

魔王「よっし。終わったぞっ!」くるっ
メイド長「どうです? 成果は」

魔王「これで女騎士のリクエストに
 応えられる性能を確保できそうだ。射程は3倍になるだろう。
 戦争なんて出来るなら未然に防ぎたいが
 もし衝突があるのなら最小限の損害でやり過ごしたい。
 敵も。そして味方もだ」

メイド長「そうですね」

魔王「勇者は何処だろう? いや。
 この場合は勇者を捜す前に仕立屋に行くべきか?」

メイド長「あらあらまぁまぁ」

魔王「いや。別に特別な意味はないんだぞ?」ぱたぱた

メイド長「そう言うことにしておきましょうね」

女魔法使い ぼへぇ

魔王「うわっ。……お、女魔法使いではないか」

女魔法使い「……」こくり

メイド長「古城民宿以来ですね」

女魔法使い「……図書館族、勢揃い」
メイド長「……」
832 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 00:11:50.64 ID:TQ3NwHwP
魔王「今まで何処に?」

女魔法使い「……山ごもり」
メイド長「?」

魔王「……ふぅ」

女魔法使い こくり

メイド長「どうしたんです?」

魔王「我ら図書館族は、こうして触れあう機会は滅多にない。
 そもそも個体数が少ないし、現世界に出て活動するのは
 滅多にいない。研究室と書架を往復する連中が殆どだ。
 触れあうことは、珍しい。
 わたしとメイド長が例外なんだ。
 ……だから」

女魔法使い「……」

魔王「何があったのだ?」

女魔法使い「……二つある。
 まず『天塔』の場所を知りたい」

メイド長「てんとう?」

魔王「……」

女魔法使い「魔王であれば知っているはず。
 それが口伝なのか記憶転写なのかは判らないけれど。
 歴代魔王は全て、その場所を知っている。
 確証はないけれど、全ての伝承はそれを示唆している。
 勇者の首を捧げる祭壇の場所として」

魔王「もう一つは?」

女魔法使い「勇者は旅に出た。あなたと全てを救うために。
 あなたも、あなたの勤めを果たすべき時がきた」
953 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 21:25:46.50 ID:TQ3NwHwP
――冬越し村、魔王の屋敷、客間

女騎士「お風呂よし、髪の毛よし、肌のお手入れも一応よし」

女騎士「……」

女騎士「よ、よっし」

ぱしぱしっ!

女騎士「気合入ったぞ」

女騎士「……入ったぞ?」

女騎士「うむ。……これはなんだ。いざとなると不安だな。
 後から後から弱気な気分がわいてくる……。
 ええい、湖畔修道会の最終兵器ともあろう私がどうしたことだ」

女騎士「……」

そぉっ。――なでなで。

女騎士(……やはり、これかな)

女騎士 しょんぼり

女騎士「こればかりはなぁ……。魔王の4分の1も無い。
 いや、あるのだ。無いわけではない。無いのでは、けしてない
 つまりゼロではない。小さいだけだ。
 ほ、ほらな? なでれば膨らんでるのは判るぞっ。
 ちゃんとあるではないか!」

女騎士「……」

女騎士「虚しいな」
956 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 21:28:10.25 ID:TQ3NwHwP
女騎士「相手がアレでさえなければ、
 もうちょっと気負わないで済んだのだろうが……」

女騎士(いや、ちがうか。――同じだな。
 相手は問題ではない。自分の気持ちの持ちようだ)

女騎士(……そういえば、老子は何をくれたんだ?
 馬作戦は“こうかは ばつぐん”だったからな)

がさごそ、しゅるる

女騎士「ぱんつか。……まぁ、そんなことだろうと思っていた。
 老師に格上げされても変態は変態なのだしな。
 ……つまり、役に立つ変態と云うことだな。
 ん? こっちは絹の靴下か? 高価そうではあるが」

もそもそ

女騎士(あれ? ……上手く履けないな)

もそもそ

女騎士「なんか変だぞ」

もそもそ

女騎士(……これは、もともとこういうものなのか?
 なんだか半分しか履けてないような、ずり落ちてるような。
 ろーれぐ? 何だその解説は。
 張り付いているようで……。は、は、は……)

かちゃ

女騎士「はしたないではないかぁっ!」

魔王「……」

女騎士「ひゃっ!?」
957 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 21:29:29.42 ID:TQ3NwHwP
魔王「……」

女騎士「まっ。魔王。お邪魔しているぞ、早かったな」

魔王「……うん」
女騎士「どうした?」

魔王「うん」
女騎士「……?」

魔王「今日は、中止だ」
女騎士「何かあったのか?」

魔王「勇者は、お出かけしてしまった。
 ……どうやら、タイムリミットらしい」
女騎士「?」

魔王「チャンスを逸してしまったらしい」
女騎士「どういうことだ?」

魔王「私にも良く判らない。
 でも、今のこの流れを変えるために、
 勇者は何かを知って、それをするために旅に出た。
 ……女魔法使いが教えてくれたんだ」

女騎士「……」

魔王「……勇者は、だから、いないんだ」
女騎士「……」

魔王「置いて行かれてしまった」
女騎士「……」

魔王「私は、置いて行かれてしまった」
女騎士「……」
958 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 21:31:00.91 ID:TQ3NwHwP
魔王「……」つぅ……
女騎士「魔王」ぎゅっ

魔王「女騎士?」

女騎士「面倒くさい事を考えてはダメだ。魔王」

魔王「……」

女騎士「勇者はちゃんと帰ってくる。きっと大丈夫。
 わたしは。ははっ。……自慢にもならないけれど、
 置いていかれるのは二度目だぞ?
 でも、大丈夫。勇者はちゃんと戻ってくる。
 だってあのときよりも勇者は優しいし、強いじゃないか」

魔王「……」

女騎士「戻ってきた時に女が増えていたらそれはそれで
 拷問をしなければいけないけれど……ちゃんと帰ってくる」

魔王「……そうだろうか」ぽたっ。ぽたっ。

女騎士「きっとそうだ。だって勇者は守るために行ったのだろう?
 帰ってくるために出かけたのだろう? だから、あの日とは違う」

魔王「……」

女騎士「それよりも、勇者を助けなきゃ」

魔王「助ける?」

女騎士「そうだよ。……きっと何かが起きているのだろう?
 そうじゃなくても、勇者の代わりをしなければならない。
 普段仕事をしないように見えて、
 いなくなると困ってしまうのが勇者なんだ。
 勇者の代わりをするのは、魔王と私しかいないだろう?」

魔王「……」
960 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 21:33:58.75 ID:TQ3NwHwP
女騎士「蔓穂ヶ原の戦いが終って、
 ほっとしたけれど……。
 ずっとどこかで感じていた。
 ああ、少しも終っていないな、って」

魔王「……」

女騎士「これで私たちの戦争は終わり。
 もしかしたら中央が魔界へ攻め入って、
 後は魔界で戦争になるかもしれないけれど、
 それは私には関係ない……
 なんて、考えなかったわけじゃないけれど
 そんなことはないよね。
 勇者は絶対にそんなところで諦めたりはしない。
 そんなところで諦める勇者なら好きにならなかったと思う」

魔王「……」こくり

女騎士「だから、たぶん勇者は、そういうのもこういうのも、
 全部どうにかしにいったんだよ。
 いまならなんとなく感じる。
 本当はあの日にもそれを感じられていれば良かったけれど……。

 勇者はきっと魔王と私に、ここは任せて出かけたんだ」

魔王「そう、なのかな……」
女騎士「きっとそう」

魔王「私のやる事は、まだあるのだな……」
女騎士「もちろん」

魔王「……うん」
女騎士「気合入れないとな!」

魔王「う、うん。判った」
女騎士「よっし。じゃぁ、今日のところは解散しよう」

魔王「あ、女騎士」
女騎士「なに?」くるっ

魔王「それでも、そのぅ。云いずらいけれど……
 そのぱんつはさすがに小さすぎると思う」
970 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 22:12:46.10 ID:TQ3NwHwP
――冬の国、王宮前広場、領事館

冬寂王「ここか?」

従僕「ここですよー! 僕は何回も来ているんです」
将官「ほほう」

大工頭領「おう、坊主!」
従僕「こんにちはー!」

冬寂王「どうかね、調子は」

大工頭領「こいつは、王様じゃありやせんか!
 いいんですかい!?
 こんな所におつきの兵隊も連れないでのこのこ出歩いて」

将官「失敬な。わたしがいます」
商人子弟「まぁ、止めてもお忍びで出て行っちゃう王様ですからね」

冬寂王「ははは! 良いのだ。
 ここは我が愛する冬の国。その中心ではないか。
 この街を安全に歩けないようでは、わたしには所詮
 王としての器がないのだ」

大工頭領「はっはっはっは! そう言われちゃかなわねぇ」

商人子弟「工事の様子を視察に来たんですよ」

大工頭領「そうかいそうかい。おろ!」

羽妖精侍女 ぱたぱた、ぺこり

大工「うわぁ!」
人夫「へぇ~」

大工頭領「こいつがもしかして」

冬寂王「こいつなんて云ってはいけないよ」

羽妖精侍女「羽妖精デス。コノ領事館ニ住ミマスデスヨ」
971 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 22:14:10.26 ID:TQ3NwHwP
大工頭領「喋ったぞ!」

羽妖精侍女「オ話好キデス、ハイ!」

大工「うわぁ。浮いてるよ」
人夫「初めて見たぞ、あれが魔族なのか?」

羽妖精侍女「?」ぱたぱた

大工頭領「は、は」
商人子弟「葉?」

大工頭領「はーわいゆー?」

羽妖精侍女「妖精一族ノウチ、羽妖精族ノ、羽妖精侍女デス。
 領事館ヲ作ッテクダサッテアリガトウゴザイマス。
 女王様ニ変ワッテオ礼申シ上ゲマスデス」

大工頭領「な、なんでぇ喋れるじゃないかっ!」

商人子弟「最初から云ってるでしょうに」

従僕「大工さーん。この人は、羽妖精侍女さんでね。
 猫とも喋れるすごい人ですよー。
 この領事館に住む予定なのです」

がやがや  冬の国市民「あれが魔族なのか?」

冬寂王「公表したとおり、魔界の一部との停戦協定の結果だ。
 わだかまりはあるやもしれぬが、ここはわたしの顔を立てて、
 一つよろしくお願いしたい」

商人子弟(どんな反応になるんだ……)

羽妖精侍女「……?」じぃっ
973 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 22:16:24.68 ID:TQ3NwHwP
大工頭領「……ふむふむ。羽があるのかぁ。お嬢ちゃんは。
 それで三階の小部屋には階段がいらないってぇ話なんだなぁ。
 こいつは驚き……だが納得したぜ」

がやがや

大工「小さいなぁ」
人夫「こんな娘っこ相手に俺たちは戦っていたのかい?」

将官「いやいや、魔族って云っても色々いるって事ですよ。
 この街に来るのは、ちゃんと審査をして、友好的に暮らしたり
 連絡や通商の業務を出来る人だけになるんです」

大工「そうなのか」

中年の女性「そうだね! こんな娘っ子に負けたとあっちゃ、
 うちの爺さんだって浮かばれないからね! あっはっはっは」
街の少女「……ぱたぱた、きれい」

大工頭領「あっしも大工だ。細かいことはぐだぐだいわねぇ。
 引き受けた仕事だ、住む人に喜んでもらえるもんをつくりやす」

冬寂王「そうか、ありがたい」

商人子弟「……思ったより冷静だな」
従僕「それはそうですよー」

商人子弟「そうなのか?」

従僕「湖畔修道会では、魔族も光の子って教えていますから」
将官「云われてみれば、そうだな」

羽妖精侍女「ソウナノデスカ?」

冬の国市民「修道士さんはそういってたぞ?
 不幸にして戦うことになってしまったけれど、
 それは人間の国同士でも無くはないことだしなぁ」

痩せた軍人「しかし魔族は信用が出来ない。
 監視を怠るべきではないのではないか」

 がやがや
974 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 22:18:23.08 ID:TQ3NwHwP
中年の女性「色んな魔族がいるんじゃねぇ。
 爺さんは帰ってこないけれど、それもこれも
 恨んだからって帰ってくるわけじゃなし……」

初老の男「なんの。もしまた攻めてきたら、
 極光島の時のように戦えばいいのだ! 騎士将軍万歳!」

冬寂王「……」
商人子弟「ふむ……」

将官「――タイミングが、良かったのかも知れませんね」商人子弟「とは?」

将官「極光島が取り戻せていたからこそ、
 全員ではないにしろ、納得できる人もいる。
 それに湖畔修道会が色々広めてくれたようですし」

大工「それだよ。天然痘の予防も、
 魔界で見つかったって云うんだろう?」

人夫「ああ、俺もそう聞いたぞ」

冬の国市民「俺もちくっとして貰ったぞ」
街の少女「あたいもー!」

冬寂王「予防を受けておらぬものはいないか?
 隣近所にもしっかり話を回すのだぞ?
 もし受けていないものが我が国の国民ではなくても、
 その場合は王宮に届け出れば相談にのる」

商人子弟「そうですよー! ちゃんと接種を受けて下さいよ!」

従僕「家族全員で受けて下さいねー!」

羽妖精侍女「デスヨー?」ぱたぱた

大工「あははっ、声もちいせぇや」
人夫「まったくだ」

大工頭領「よぉっし、じゃぁ、この侍女さんと王様に
 俺たちの作っている領事館の案内をしちまおうじゃないか」
977 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:00:58.02 ID:TQ3NwHwP
――交易船『海の翼号』、船上

ざざーん
 「よーそろー!」「よーそろっ!」

貴族子弟「冷えますね」
メイド姉「はい」

器用な少年「うっわぁ! うっわぁ! すげぇな!
 あんちゃん、俺船は初めてだよっ!」

貴族子弟「あんちゃんではなく、師弟様、とか、師匠とか。
 そういう呼び方で読んで下さい。
 ああ。ご主人様、は禁止します。
 それは見目麗しい少女に呼ばせると決めていますから」

メイド姉「……」

器用な少年「なぁなぁ! あんちゃん!
 あれなんだ? 鳥か!? うっわぁ!
 すっげぇ! 海に突っ込んだぞ、なにやってんだ!」

がちゃ

生き残り傭兵「よぅっ。見張りを交代するぞ」
ちび助傭兵「助かる」

若造傭兵「おはよう」
傭兵弓士「良い天気だな。おーい、船長さんよ」

船長「なんだごろつきども」

メイド姉「すいません、すいません」ぺこぺこ

生き残り傭兵「まぁ、その辺は勘弁してくれよ」

船長「まぁ、たっぷり弾んで貰ったからな。諦めはしたがよ。
 このまま極大陸で良いんだな?」

メイド姉「お願いします」

船長「ふんっ。まぁ、こんな事は今回限りにして貰いてぇな」
980 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:02:38.95 ID:TQ3NwHwP
器用な少年「感じ悪いなぁ」
生き残り傭兵「仕方ねぇさ」

メイド姉「あの方は本来ただの商人さんです。
 遠征軍のように“殴りかかってきた相手”と云うわけでは
 ないですからね。巻き込むのは気が咎めるのですが、
 この場合は他に手段もありませんでしたし……」

器用な少年「でも、目の玉飛び出るほどふんだくられたぜ?」

生き残り傭兵「あはははっ。小僧の金ってわけでもないだろう?」
ちび助傭兵「それはそうだ」

器用な少年「でも、もったいないじゃんかよう」

メイド姉「お金なんて生きていなければ使えませんよ?」

器用な少年「――」

生き残り傭兵「やぁ。あはははは。いっぱしの傭兵でも
 チョット言えないような台詞を平気で言うな、代行は」

若造傭兵「うん」

貴族子弟「さぁって、これで大空洞まではいけるだろう。
 この船の荷物も買い取ったから、防寒着や食料も十分だ。
 新型の銃まであるとは驚いたけれどね」

メイド姉「そうですね」

器用な少年「銃って云うのか? あの筒」

生き残り傭兵「使えれば戦力になるかな」
ちび助傭兵「どうだろうな」

傭兵弓士「石弓に似たものだな」
981 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:03:59.51 ID:TQ3NwHwP
貴族子弟「それよりは、いまは今後の予定だな」
メイド姉「ええ」

生き残り傭兵「そいつだ」

若造傭兵 こくり

傭兵弓士「この際、代行の目的やこの遠征のことも
 聞かせて貰いたいな。一応雇われた身分になったとはいえ、
 戦闘は俺たちが引き受けるんだろう? 落ち着かないぜ」

貴族子弟「ああ、そうなるね」
メイド姉「はい」

生き残り傭兵「極大陸から、魔界へ行こうってのは判った。
 それでどうするつもりなんだい?」

貴族子弟「僕たちの目的は殆ど同じだ」

  若造傭兵「だんだん判ってきた」
  傭兵弓士「何をだ?」
  若造傭兵「代行と上手く付き合う方法を」
  傭兵弓士「どうするんだよ?」
  若造傭兵「考え得る材料で一番とんでもない想像をしておくんだ」

貴族子弟「魔界へ先回りして、
 聖鍵遠征軍と魔族の停戦交渉の準備をする」

メイド姉 こくり

生き残り傭兵「……」
ちび助傭兵「はぁ!?」

  若造傭兵「ほら。な?」
  傭兵弓士「あ、ああ」
982 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:05:15.22 ID:TQ3NwHwP
貴族子弟「いや、まぁ。まってくれ」

生き残り傭兵「何を言い出すんだ、俺たちは百人もいないんだぞ?」

貴族子弟「まぁ、まぁ。話を聞いてくれ。
 何も、本気で停戦が出来るとは僕も考えていないよ。
 魔族はどうあれ、聖鍵遠征軍は巨額の費用をかけているし
 大陸の国家の半数以上が参加しているんだ。
 出発はしましたが何もしないで帰ってきました、
 なーんて訳にはすでに行かなくなっている。

  だが、ちょっと待ってくれ。
 戦争をするのは、では仕方ないにしても、
 どこまでやるのかって問題はあるだろう?」

器用な少年「どこまで?」
生き残り傭兵「ふむ」

貴族子弟「本気で相手が全滅するまでやるのかって事だよ」

器用な少年「やるんじゃないか? そういう感じだったろ、遠征軍」
生き残り傭兵「まぁ、な」

貴族子弟「でもそれにしたって限度という物がある。
 たとえば梢の国と銅の国は過去に戦争したことがあるけれど
 最終的には痛み分けだ。お金を払ったり払われるかといった
 形に落ち着いた。
 月砂の国は戦に負けて滅んだけれど、それだって砂丘の国に
 吸収されて終わったんだ。別に皆殺しになった訳じゃない」

傭兵弓士「そう言えば、そうだな」

貴族子弟「戦争に参加していない一般の市民まで殺すなんて
 ナンセンスだ。第一、人数的に見たって現実的じゃない。
 仮に遠征軍が勝っても、負けたとしてもどこかで妥協は
 必要になってくるんだ。
 停戦協定は、その時にきっと役に立つ。
 成立しなかったとしても、その中で作った連絡手段はね」
983 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:07:03.33 ID:TQ3NwHwP
メイド姉「わたしはかなり本気で停戦を
 成立させたいと考えています。
 でも、やはり難しいとも思っています……。

  わたしが考えているのは、貴族さんとは少し違って
 この戦争の危険性と、参加者の意識のずれです」

生き残り傭兵「なんだそれ?」

メイド姉「戦争は痛くて苦しいではないですか?
 人が沢山死にますし、飢えたり寒かったり辛いことばかりです。

  人は自由な生き物ですし、それは国家もまた同様であるべきです。
 わたし個人は戦争を憎みますけれど、
 戦争そのものは否定出来ないかも知れないと思います。
 言葉に出来ないほど悔しいですが……。

  この世界には戦争という行動でしか解決できないことも
 あるのかもしれません。
 しかし今回の戦争には、全員が全てきちんとした
 自由意志で参加しているかと云えばそうではないように思える。

  停戦協定を一度は試みてみるべきだと思うのは
 “本当はやめたい人”にチャンスを提供するためです」

器用な少年「えーっと」

ちび助傭兵「なんだか滑らかな言葉に説得されそうだけど
 それってすげー上から目線じゃねぇか?
 云ってることは“いまならまだ許してやる”に近いぞ?」
若造傭兵「……あー」

メイド姉「ええ、そう言ってるわけです」
989 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:26:18.99 ID:TQ3NwHwP
器用な少年「は、はぁ?」
生き残り傭兵「はぁー!?」

メイド姉「そんなに驚かなくても……。
 平和的な交渉で事態を収拾するチャンスを与えないのは、
 それはそれで狭量ではないですか?」

生き残り傭兵「いや、そうかもしれないけれど。
 そう言う台詞は、武力で圧倒している側が云うんだろっ」

メイド姉「そういえば、そうかもしれませんね。
 でも、聖鍵遠征軍も魔族のほうも全滅の危機ですよ?」

貴族子弟「ふむ」

メイド姉「聖鍵遠征軍も、おそらく魔族の方達も
 わたしから見ると背筋が凍るほど危ない橋を渡っています。
 ……十度渡って一度渡りきるか否かと云うほどの。
 伝える方法がないのが、もどかしいですが」ぎゅっ

生き残り傭兵「どういう事なんだ?」

メイド姉「損耗率です。
 ……これに気が付いているのは
 世界中でも十人もいないかも知れません」

若造傭兵「損耗率?」

貴族子弟「一度の戦闘で参加者のどれくらいが死ぬか、と云う話さ」

生き残り傭兵「そりゃ、なんだ。そんなのは常識だろう?
 千人同士の戦で一日戦って、20人かそこらが死ぬか不虞になる。
 50人、運が悪いと100人は戦闘できなくなるな。
 半年もすれば治る程度だろうが」

ちび助傭兵「そんなもんだろう?」

メイド姉「それは不変ではありません」
991 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:27:49.65 ID:TQ3NwHwP
生き残り傭兵「よく判らないな」

メイド姉「まだピンとは来ませんよね。
 わたしも詳しく実際に調べたわけではありませんが
 マスケットを持った1000人の兵同士が半日戦った場合
 その死者の数は100人を越えるでしょう」

貴族子弟「……青ざめるね」
生き残り傭兵「100人っ!?」

ちび助傭兵「ってことは、あれか?
 いままで一週間かかっていた戦争が一日で片付くって話なのか!?」

メイド姉「もちろんそう言う側面も、あります」

生き残り傭兵「理由は?」

メイド姉「理由は沢山あります。
 まず、マスケットは高い攻撃力をもっています。
 至近距離であれば板金鎧を打ち抜くほどに。
 攻撃力は性能と距離に依存します。
 しかし、マスケットで防御力は上昇しません。
 この船に積まれているのは、おそらく新型のマスケット
 “フリントロック”ですが、これはマスケットの性能を
 向上させて利便性や連射性能を向上させたものです。
 これもまた、防御力という意味ではマスケットと同じく
 “先に倒すことによって身を守る”と云う程度の
 ものでしかありません。
 つまり、防御力に比して攻撃力が突出しているのです」

貴族子弟「ほかにもある。マスケットの登場によって
 戦場には非常の多くの歩兵が存在できるようになってしまった。
 見ただろう? あの聖鍵遠征軍のおびただしい数を」
992 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:30:01.01 ID:TQ3NwHwP
傭兵弓士 こくり

貴族子弟「彼らはマスケットを討つ訓練を受けた農奴なんだ。
 君たちは傭兵として長いから判っているだろう?
 戦場で生き残る大事さと、大変さを。
 生き残りさえすれば、戦場ではいずれ手柄をあげられる。
 チャンスは生きてさえいれば巡ってくるんだからね。
 だが彼らは生き残ることよりも、
 敵に射撃をすることを教えられて送り出されている。
 “生き残る訓練”をしていないんだ」

生き残り傭兵「……それは、判る」

メイド姉「先ほどは“いままで一週間かかっていた戦争が
 一日で片付く”と云っていましたが、もちろんそれは一例です。
 例えば、それとまったく同じ理由により
 “司令官がちょっと目を離した隙に取り返しが
 つかないほど多くの兵が死ぬ”と云うこともあり得ます。

  さらに最悪なのは“一時的な怒りに駆られて
 本来殺す必要がなかった人々まで一時に殺せてしまう”
 と云うことです。

  たとえば、鎧と剣を装備した二人の騎士が
 打ち合う場合、腕が互角であればなかなか勝負がつきません。
 疲労もするでしょう。
 今日のところは引き分けと云うことになれば
 もしかしたら明日は仲直りするチャンスがあるかも知れない。
 それが出来なくても、嫌いな相手として顔を合わせないように
 過ごすことも出来るでしょう。

  でも、マスケット以降の戦いではそうはいかない可能性が
 高くなって行くんです。
 ――“仲直りする前に相手を殺していた”。
 それは言葉に出来ないほど恐ろしいことです。

  それに……。魔族も、マスケットは持っています」

生き残り傭兵「そうなのかっ!?」
993 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/04(日) 23:32:17.90 ID:TQ3NwHwP
メイド姉「仮に持っていなかったとしても、
 その技術を入手できる位置にいる事は確実です。
 いえ、もしかしたらそれ以上の武器さえも。
 当主様は決して争いを好みはしませんが。
 それでも
 ――殺しあいをするには、危険すぎる線上の綱引きです」

ちび助傭兵「……傭兵には荷が重すぎる話だ」

メイド姉「時代の曲がり角が要求する血の量は、
 もしかしたら、魔族と人間の血の全てあわせたよりも
 多量なのかも知れない。だとすれば、それは世界の終焉です」

貴族子弟「?」

メイド姉「いえ。……こちらの話です」

生き残り傭兵「それで、その損耗率の話で互いを説得できるのか?」

メイド姉「おそらく魔族側は説得の必要があまりないと
 思うんですけれどね」こくり

貴族子弟「そうなのかい?」

メイド姉「ええ。知己がいます。話のわかる」

貴族子弟「それは有り難いな。
 交渉ってのは顔見知りかどうかが重要だからねぇ」

若造傭兵「まぁ、その交渉のために、俺たちは代行を
 魔界の旅の間守り抜けばいいわけだ」

メイド姉「ええ、そのためには幾つか策も必要なものも
 あるのですが……。いずれにしろ名前のないわたしが
 突然聖王国の指導者にお会いできるわけもありませんしね」

ちび助傭兵「常識的なことを云うとかえって不気味だな」

メイド姉「とにかく、魔界へとたどり着くことです」



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