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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」9-4


574 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/02(金) 22:19:31.61 ID:iOYUExkP
器用な少年「なんでだよ。相手はあの火を噴く杖を
 持っているんだぞっ! 俺っちたち、殺されちまう」

生き残り傭兵「だが、俺たちはもう傭兵じゃないしな」
ちび助傭兵「うん」

器用な少年「傭兵じゃないか!」

生き残り傭兵「いいや。隊長が残した約束と、
 貴族の旦那の約束を信じれば、俺たちは冬の国の、
 そして白夜の国の騎士なんだぜ?」

ちび助傭兵「そうだ。騎士は逃げない」

器用な少年「なに馬鹿言ってるんだよっ!
 あんちゃんなんか逃げまくりだぞ!?
 あの人貴族だけど、相当逃げ足のプロだぞっ!」

生き残り傭兵「お前は騎士じゃないから逃げろ」

ちび助傭兵「そうだな」
若造傭兵「まだ距離がある。お前は逃げられる」

傭兵弓士「どれくらいあるんだ?」

傭兵斥候「多分、一日二日は平気だ」

器用な少年「そんな……。だってさ」
575 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 22:20:33.34 ID:iOYUExkP
生き残り傭兵「さて、どうする?」

ちび助傭兵「……」
若造傭兵「討って出て戦うか、この砦で待ち構えるか」

傭兵弓士「相手が集まる前に、
 少しずつ削っていくしかないだろう」

生き残り傭兵「だが、相手の数を考えれば
 到底削りきれる数じゃないな」

ちび助傭兵「その時はその時だ。
 隊長みたいに勇敢に歌いながら戦えばいい」

器用な少年「ばっ。ばっかじゃねぇの!?
 ばっかじゃねぇの。
 3回言っちまうぜ。お前らばっかじゃねぇの!?」

ちび助傭兵「おまえ、隊長を馬鹿にするなっ」

器用な少年「するよ、しちゃうね、しちゃうとも!
 こんなところで戦ったって、別に誰も喜ばないし、
 ただの犬死にじゃねぇ。
 そんなの格好悪い騎士だっての。
 もっかいいうけど、ばっかじゃねぇの?」

生き残り傭兵「騎士は逃げない」

器用な少年「なに守るんだよっ。
 もう白夜王国なんて終わっちゃってるんだぞ。
 守るモノ無しで戦おうなんてかっこつけだっての!!」
577 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 22:24:17.28 ID:iOYUExkP
若造傭兵「……」

傭兵弓士「だからといって、逃げてこいつを
 奪われてしまったら困ったことになるのではないか?」

生き残り傭兵「そうだな。貴族の旦那が隠した理由も
 それだろう。この硝石というのは、敵の火を噴く筒の
 秘密に関係があるんだ」

器用な少年「多分、関係あるけどさ。そりゃ……」

生き残り傭兵「だったら、これを奪われるわけには行かない」

ちび助傭兵「そうだな」
若造傭兵「やはり闘うしか、ないか」

ガサッ

傭兵弓士「だれだっ!!」

貴族子弟「やぁ」
メイド姉 ぺこり

器用な少年「あんちゃん!! 帰ってきたのか!!
 ……こっちの人は誰?」
生き残り傭兵「貴族の旦那!」

貴族子弟「こんな事になるんじゃないかとはうすうす
 思っていたけれど。
 済まないね、こんな場所で見張りをさせて」

ちび助傭兵「いや、これは仕事だ」
若造傭兵 こくり
578 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 22:27:26.81 ID:iOYUExkP
傭兵弓士「旦那、どうやら遠征軍が嗅ぎつけた。
 連中はここを目指しているし、これだけの荷物は
 今から馬車を調達しても簡単には運べない」

生き残り傭兵「運び出せても、後ろから追われてしまう」

器用な少年「だから逃げろって云ってやってくれよ。
 あんちゃん頼むよ、後生だからさっ!」

貴族子弟「どうします? 二代目」
メイド姉「……」

ちび助傭兵「二代目?」
若造傭兵「?」

貴族子弟「ああ、この部隊もいつまでも隊長無しでは
 困ると思ってね。で、苦労して探し出してきたんだ。
 ……新隊長だよ」

ちび助傭兵「え? でも。……女じゃないですか」
若造傭兵「冗談だろう?」

貴族子弟「いやいや、冗談じゃないよ」
メイド姉「はい。お誘いを受けました」こくり

ちび助傭兵「俺たちの隊長は1人だけだっ」
傭兵弓士「隊長が居なくても、俺たちはやっていけるっ」

メイド姉「判っています。事情も聞きました。
 しかし、氷の国は、連絡用の名目であっても
 隊長に当たる人物が居ないと困ると言うことなんです。
 たとえそれが肩書きだけであっても」
582 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 22:32:50.39 ID:iOYUExkP
貴族子弟「そして、君たちを預かっている
 このぼくが推薦するのが彼女だ。云っとくがとびっきりだぞ?」

メイド姉「……」ぎゅ

ちび助傭兵「頼りになるのかよ」
若造傭兵「……」

傭兵弓士「そんなことより、いまはこの場の戦闘を
 どうするかの方が先だ」

器用な少年「逃げるってば!」
生き残り傭兵「それこそ隊長の腹一つだろうよ」

貴族子弟「だ、そうだよ?」

メイド姉「まず第一にわたしは隊長になるつもりはないです。
 ――代行、とでも呼んでください。
 時期が来たらこの騎士団生え抜きの人の中から
 新しい隊長が決めればそれで良いと思います。
 それから、わたしは戦闘は苦手です。
 剣の振り方は多少習いましたが、戦闘指揮なんて
 やったこともありませんし、出来るとも思えません」

傭兵弓士「それじゃなんの役にも立たないじゃないか」

生き残り傭兵「なんのための司令代行なんだよ」

メイド姉「わたしは民間人ですから、騎士団の……。
 ここにいる皆さんが護ってくれると信じています」
583 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 22:35:35.10 ID:iOYUExkP
ちび助傭兵「へ?」
若造傭兵「……」

メイド姉「次に、わたしは皆さんを
 戦闘以外のものから護ります。
 戦闘で護ってもらうのとおあいこですね。
 それからわたしは今から行かなければ
 ならない場所がありますし、どうしても護衛が必要なんです」

ちび助傭兵「訳がわからないぞ」
若造傭兵「……」

傭兵弓士「頭は大丈夫なのか? なぁ、貴族の旦那」

貴族子弟「ああ、保証する。
 保証はするんだが、この娘さんは僕らの兄妹弟子でも
 相当にとびっきりでね。真面目になればなるほど、
 頭がおかしい人と思われてしまうんだ。
 後から考えるとなるほど、と言った具合なんだけどね。
 それ側が師匠の教えを受けた生徒の悪癖なんだなぁ。
 出来れば温かく見守って欲しいな」

メイド姉「お願いします」

ちび助傭兵「そんなこと言われてもなぁ」

傭兵弓士「逃げるか闘うか、それを聞かせてくれ。
 逃げるって言うなら、俺はあんたを認めないぜ」

器用な少年「逃げなきゃ死んじまうよ!!」

メイド姉「なぜ択一なのですか?」

傭兵弓士「……はぁ?」

メイド姉「逃げるけれど闘う。あるいは逃げない上に
 闘わない。そう言った選択肢を選びたいと思います」
588 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 22:59:48.76 ID:iOYUExkP
――人間界、極大陸、凍てつく大地

光の斥候「目視では付近に人影有りません」

光の兵士「あんまり遠くを見るなよ。
 白すぎて目がつぶれちまうぞ」

光の銃兵「そうだな。斥候に任せよう」

光の船乗り「ふぅ。そりの方も大丈夫だ」

光の斥候「思ったよりも、寒さも雪もないな」
光の兵士「足下の凍土だけか」

光の銃兵「この凍土の中を進むんですか?」
光の船乗り「もちろんだ」

光の斥候「ほんの150里ほどです」
光の兵士「ほんの、で済むか。こんななんにもない大地を」

光の銃兵「だが、商人達の使う通商道が近くにあるはずだ」
光の船乗り「それを探すのが先決だな」

光の斥候「もし商人の部隊に遭遇したら?」

光の兵士「俺たちがここに居るのは軍事機密なんだ。
 知られるわけにはいかないさ」

光の銃兵「お前だって久しぶりに、
 あばら肉のたっぷり入ったスープが飲みたいだろう?」
590 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:15:04.09 ID:iOYUExkP
――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場

巨人伯「今日は……最初、おれ……」
碧鋼大将「うむ」

巨人伯「山の穴を三つ……作った……俺たちは……
 工事は……得意だ……」

鬼呼の姫巫女「設計から拳五つの幅のずれもなく
 両側から掘り抜き連結されたそうだな」

火竜大公「ほう! それは見事な」

巨人伯「わが……巨人族……高く、買ってくれ……」
鬼呼の姫巫女「鬼呼の土木組もよろしく願いたい」

火竜大公「ふぅむ。取り急ぎ、我が領地と開門都市のあいだ。
 そして開門都市と旧蒼魔族の領地のあいだの道の補修を
 頼みたい所だな」

副官「それらの資金については、例の札および
 我が開門都市自治員回の補助金でまかなうことが
 可能だと思っております」

巨人伯「……よかった」
鬼呼の姫巫女「うむっ」

火竜大公「よろしく頼むぞ」

碧鋼大将「こちらもそれはありがたい。
 旧蒼魔族の領地の統治には大きな助けになるだろう」
591 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/02(金) 23:16:53.76 ID:iOYUExkP
紋様の長「そうだ。その蒼魔族の様子はどうなのだ?」
鬼呼の姫巫女「うむ」

碧鋼大将「問題は多い。まずは物資面だ」

紋様の長「ふむ」

碧鋼大将「特に衣料品と食糧が不足している。
 蒼魔軍はこれらの品に関しては
 かなり大規模に持って行ってしまったようだ」

副官「食料に関しては、我が都市の備蓄から
 当面必要な分は移送しましたが、
 おそらくはまだ足りないかと」

鬼呼の姫巫女「鬼呼の地は豊作だったゆえ、
 今年の食糧備蓄は潤っておる。送ろう。
 代金は、金属でかまわぬ。なに、来年以降でな」

碧鋼大将「感謝する」

紋様の長「ほかには?」

碧鋼大将「その他物資面では殆ど不足がない。
 蒼魔の軍は略奪などは行なわなかったので、
 住居や施設が壊されたということもない。
 鉱山などもそのまま残っているので、
 すでに採掘は再開されている。

  だが……」
592 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:18:20.22 ID:iOYUExkP
火竜大公「だが?」

碧鋼大将「精神面では、非情に問題がある。
 元々蒼魔族は厳格な身分制をもつ階級社会だった。
 その身分制度の上位陣は軍人が占めていたと言っても良い。
 残された民間の労働者は、身分制度の下半分を構成していた。
 そう言った社会に慣れきっている彼らは、
 指導階級が居なくなり……」

紋様の長「まさか暴動が!?」

碧鋼大将「いや、暴動ですらなく、呆然としてしまったのだ。
 自分たちが“遺棄された”と言う現実を受け入れることが
 出来ないらしい。
 年老いた労働者の中には、精神が弛緩し、空中を見つめた
 ままになってしまう者もいる」

紋様の長「なんと……」
鬼呼の姫巫女「そのようなことになろうとはな」

火竜大公「ふむ……」

巨人伯「こまった……な……」

碧鋼大将「彼らは命令には従順で、
 特に何らかの武器を用いて脅すと、
 勤勉な勤労姿勢を見せるが、そのような管理は
 我らが魔王殿から与えられた任務に背くし
 もちろん、われら機怪族の好む所でもない」

副官「ふむ……」

碧鋼大将「このような事態には、いささか手を焼いている」
593 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/02(金) 23:20:29.29 ID:iOYUExkP
鬼呼の姫巫女「しかし、それは一朝一夕には
 なかなか解決しなさそうですな」

火竜大公「うむ」

碧鋼大将「何か良い知恵はないだろうか?」
紋様の長「……」

火竜大公「おそらく、何か、かき混ぜるような
 手段が必要じゃろうな」

巨人伯「かき……まぜ、る?」

碧鋼大将「とは?」

火竜大公「厳格な身分制度とは、思考の硬直化を生むのだろう。
 つまり自分の範囲、自分の周辺だけを見させられることにより
 考え方や知識も凝り固まってしまうのだ。
 効率は多少落ちるだろうが、たとえば鉱山労働者に
 農作業をやらせるであるとか、その逆であるとか。
 人材をかき回して、見聞を広げさせるのがきっかけと
 なるだろう」

副官「良いアイデアだと思います。どうでしょう?
 定期的に、隊商を組織して我が都市に品物をお売りに
 なりにこられては?」

巨人伯「そうだ……道路敷設の……参加も……歓迎だ」

紋様の長「そういえば、着任当初に魔王殿が大学を
 建てるなどと云うことを云っていましたね。
 あれも今考えてみると、これを見越してのことだったのかと」
594 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:22:57.04 ID:iOYUExkP
鬼呼の姫巫女「あの魔王殿なら、そう言うこともあろうな」

副官「ところで、その魔王様はどうなんです?
 それからうちの宿六族長は」

巨人伯「どうだろう……」

火竜大公「うぉっほん! それについては、
 会議宛に報告が届いておる」

碧鋼大将「聞きましょう。蒼魔族については、さきほどの
 ご協力を各族長にお願いすれば、目処が立ちそうだ」

紋様の長「うむ」

火竜大公「まず、地上における第一の目標、
 蒼魔族の討伐に関してはこれを成し遂げたとのこと」

副官「おお!」
巨人伯「よかった……」

火竜大公「そして、その争いの際、
 共闘することになった、地上における国家連合の一つ、
 南部連合とは停戦条約を含む合意に至ったとある」

副官「南部連合……」

巨人伯「南部連合……とは、なんだ……」

火竜大公「この報告によれば、地上の大陸なる場所では
 30以上にもわたる国家が乱立しているとのこと」
595 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:25:05.18 ID:iOYUExkP
副官「国家とは魔界で云う氏族のようなモノです。
 ただし、生まれや出自よりは住んでいる場所を
 基準にした集まりですね。
 たいていはひとつながりの領地をもち、1人の王
 ……族長の指導のもと、領地で暮らしています」

巨人伯「西巨人族と北巨人族のように……
 わかれては……いないの……だな……」

火竜大公「南部連合とは、その中で7つの国といくつかの
 都市を抱え込んだ第2の連合と云うことだ」

副官(三ヶ国通商はそこに着地したのか)

碧鋼大将「そこと停戦条約を結んだのか」
紋様の長「ふむ」

火竜大公「しかし、中央諸国と聖なる光教団はどうやら
 魔界へ三度目の侵攻を企んでいる模様、
 十分な注意が必要である……。こう結んである」

副官(……やはり一筋縄ではいかないようですね)

巨人伯「中央諸国? ……聖なる光教団?」

副官「それは地上の大陸で最も勢力のある教会と国家群ですね」
596 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:26:09.47 ID:iOYUExkP
碧鋼大将「勢力とは?」

副官「20あまりに国が参加した巨大な軍でしょう。
 南部連合ですか。それが成立するまでは、
 唯一にして無二の勢力だったわけです。
 魔族会議に少し似ていますね。

  その会議が、第二回の……つまり、我が開門都市が
 人間に攻められた時のような聖鍵遠征軍を組織して
 魔界に攻め込むという決定を下したと。

  その辺のことは詳しくは書いてないのですか?」

火竜大公「そなたの所の族長から、そなたあてに
 書状が同封されておるぞ。ほれ」

ペラッ

副官「ふむふむ……。おい。……あちゃぁ」

ペラッ

副官「……」

紋様の長「何が書いてあるのです?」

副官「えーっと、こちらは数字入りの詳しい戦況解説です。
 まず、先ほど解説した、聖鍵遠征軍ですね。
 これは中央諸国が聖なる光教団の指示のもと招集した
 軍なわけですが、すでに成立して出発しています。
 かれらは、白夜の国」

碧鋼大将「蒼魔族が占領したという?」

副官「そうです。その白夜の国を蒼魔族から奪い返し、
 自分たちの領土としてしまったようです」
597 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:28:01.25 ID:iOYUExkP
碧鋼大将「それは、人間の世界では良くあることなのか?」
紋様の長「他の氏族の領土を奪うという」

副官「あまりあることではありませんが、
 全く聞かないと云うほどのことでもありませんね。
 しかし問題なのはむしろ、これらの行動はどうやら
 意図的だったということのようです。
 白夜の国は、極大陸へ航海する場合への
 玄関口になり得ます。

  どうもうちの大将は、聖鍵遠征軍は港を欲しいがために
 白夜国を落としたのじゃないかって勘ぐっているようですね。

  軍の規模は、約20万。さらに増えていますが……。
 その全軍を持って魔界へ侵攻するというのが
 彼らの目的であろうとのことです。
 20万は、第二次の倍ですよ」

巨人伯「……人間が……くるのか」

碧鋼大将「攻めてくる人間と停戦条約をするとは
 魔王殿も解せぬことを」

鬼呼の姫巫女「人間とひとくくりには出来ぬ。
 そう言うことだろう。我らと蒼魔族のようなものよ」

副官「そうですね。その南部連合に含まれている国々は
 この書状にもありますが、冬、氷、鉄、湖、葦、梢、赤馬。
 数こそ七つと少ないですが、どれも特産品があったり
 面積が広かったりとなかなかに強力な国々です。

  もしこの停戦協定がなかったとしたら、
 魔界に攻め込んでくる軍勢は30万になったかも知れない」
600 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:35:13.39 ID:iOYUExkP
巨人伯「……そうか」
碧鋼大将「ふむ」

鬼呼の姫巫女「いや、それ以上だろう。
 もし、その七つの氏族を中立に出来なければ、
 攻め込んでくる軍勢の数が増えるばかりか
 その軍勢は背後の敵を気にせずに向かってこれる。

  南部連合とやらが魔族と停戦をしたからには、
 聖鍵遠征軍とやらは南部連合の動きにも
 注意を払わねばならぬのが道理だ。

  銀虎公、そして衛門の族長。
 何より魔王殿は戦うことなく10万の敵を討ったに
 等しい働きをされたと思うぞ」

火竜大公「その通りだな」

副官(魔族でも族長ともなれば、
 なんて早い飲み込みをするんだ……)

巨人伯「だが……それでも……20万……」

碧鋼大将「戦になるというのは確実なのか?」

副官「それはわたしには判りません。
 おそらくそうならないように魔王様は
 お残りになっているのかと思うのですが」
601 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:36:54.91 ID:iOYUExkP
巨人伯「どうすれば……よい……?」
碧鋼大将「ふむ」

紋様の長「どう思う、副官殿は」

副官「それがしは一介の副官に過ぎませんが……。

  この書状には、その聖鍵遠征軍の持つ新しい武器
 マスケットなるものについても書かれて居ます。
 詳しくはまた説明してくださるとも思いますが
 強力な新兵器だとか。やはり、ここは戦争の
 対策を練らざるをえないでしょう。
 当面は軍の再確認と装備などの補充、練兵、
 指揮系統の確認。
 その後戦場となる可能性のある地域の測量、
 および連絡体制の強化。物資の貯蓄量の確認ですか。

  その後のことについては、魔王様が戻ってくると思います」

鬼呼の姫巫女「戦場となる可能性のある地域、か」

火竜大公「おおよそ大空洞の近くであろうな。
 殆どは荒れ地だが、候補となると……
 わが竜族の領域、開門都市、鬼呼族の辺境、
 そして旧蒼魔族の領域か」

巨人伯「……監視」

碧鋼大将「そうですな。監視網を引き続き充実させるべきです」

紋様の長「妖精の一族の女王は地上におられますが、
 妖精族は引き続き監視を行なってくれています。
 伝令も我が一族が受け持つでしょう」

鬼呼の姫巫女「では当面はそう言った雑事を片付けるとしよう」

火竜大公「うむ。おのおの方も気付いたことあれば
 すぐにでも知らせて欲しく思う」
606 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:47:06.63 ID:iOYUExkP
――霧の国、地方都市、閑散とした市場

ざわざわ……

咳き込む乞食「げふっ。旦那様……。旦那様……。
 道過去の哀れな乞食に、パンの一切れを……」

痩せた市民「……」カッカッカッ

咳き込む乞食「奥様……奥様……。げふっ、げふっ
 どうか……もう四日もなにも食べていないのです……」

中年の婦人「おおいやだ! 疱瘡もちじゃないか。
 近寄らないでおくれよっ!!」

咳き込む乞食「げふっ、げふっ。どうか……どうか……」

ざわざわ……

  痩せた市民「では、新金貨10枚でどうだい?」
  旅の商人「それでは、半袋がいい所ですね。旦那」

  痩せた市民「なんて値段だ! うちには6人の子供が
   いるって云うのに」
  旅の商人「うちにだってメシを待ってる子供がいるんでね」

ざわざわ……

穀類商人「入荷~! 入荷~! うずら豆にエンドウ豆!
 つやつや張ったまめが入ったよぉ!」

中年の婦人「エンドウ豆、一袋でいくらだい?」

穀類商人「へぇ、金貨6枚と半分で」
607 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/02(金) 23:47:58.61 ID:iOYUExkP
中年の婦人「相変わらず高いね」

穀類商人「このご時世、何処も値段が高くって。
 仕方がありませんや。お買い上げで?」

中年の婦人「はぁ……。一袋。綺麗なまめを
 取り分けておくれよ。病人に食べさせるんだから」
穀類商人「へぇ」

中年の婦人「困ったもんだねぇ。おや、もう日暮れだ」
穀類商人「そうでございますよ」

中年の婦人「教会の鐘は鳴ったかい?」

穀類商人「ご存じないんで?」
中年の婦人「なにをだい?」

痩せた市民「ああ、鐘の話だろう?」
穀類商人「教会塔の鐘は、召し上げられちまって
 融かされちまったんでさぁ」

中年の婦人「融かされた?」

穀類商人「ええ、中央教会にね。精霊のお心に
 叶うためには、今は一つでも多くの武器が必要だって
 云うんで、金は溶けて、魔族を討つ武器になったって
 話ですよ」

中年の婦人「魔族ねぇ……。
 そんなもの、見たこともありやしない」

痩せた市民「どうにかして腹一杯食べさせてくれる。
 精霊さまもそんな恵みを下されればいいのに」
645 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 14:13:44.50 ID:F.ztGjEP
――蔓穂ヶ原にほど近い、森の中、擬装騎士団

生き残り傭兵「たいまつが接近していく。
 俺たちはまだ砦にいると思い込んでいるな。
 距離はおおよそ四半里」

ちび助傭兵「まだまだ引き寄せられる」

メイド姉「いいえ、無用です。火矢をお願いします」

生き残り傭兵「いいのか? 一網打尽に出来るぜ」

貴族子弟「……」

メイド姉「その場合は生き残りが少なく、
 厳しく事情を聞かれてしまうと思います。
 詮索が厳しくなって、目的に沿いません。
 ……それに、大打撃を与えたいわけでもないですし、
 五百人、千人倒した所で戦争が終わるわけでもないですから」

生き残り傭兵「……」

メイド姉「お願いします」

生き残り傭兵「よし、やろう。弓士!」

ぎりぎりぎり

傭兵弓士「ていッ!」 ひゅるひゅるひゅる……ぼっ

生き残り傭兵「着火確認ッ!」
646 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 14:15:41.48 ID:F.ztGjEP
ちび助傭兵「いくか?」

貴族子弟「ええ、離れるとしましょう」
メイド姉「はい」

器用な少年「なんでぇ、見ていかなくていいのかよお?」
貴族子弟「まぁまぁ。少年離れますよ」

がさがさ

生き残り傭兵「これで大丈夫なのか?」
メイド姉「硫黄、硝石、木炭です。はい」

生き残り傭兵「硫黄と木炭はあんなもんで良かったのか?」

メイド姉「当主さまの話によれば、
 原材料の重量比で云う七割五分は硝石ですし、
 そこまで攻撃力を求めているわけでも有りませんから。
 極端に云えば、騒ぎを起こして
 硝石を“使い切る”事ができれば良いわけです」

ちび助傭兵「でも、遅いな。もう燃えたかな」
若造傭兵「燃えてるんじゃないか?」

傭兵弓士「油と藁に着火するのは確認した」

器用な少年「なんでぇ。
 俺っち、あの敵の武器みたいに派手な音が
 するのかと思ってたぜ」

メイド姉「すると思います」

器用な少年「え?」

メイド姉「すると思いますよ。早く離れましょう」
648 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 14:18:04.79 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「でけぇ音がするとなると
 途端に見たい気持ちが湧いてくるなぁ」

ちび助傭兵「いいや、離れるべきだろう。
 中央の聖鍵遠征軍小部隊の間もつまってきている。
 俺たちの人数じゃ、早めに行動しないと発見される」

若造傭兵 こくり
傭兵弓士「そういうこったな」

器用な少年「ちぇーっ」

貴族子弟「あんまりがっかりしないで済むと思うよー」
メイド姉「はい」こくり

生き残り傭兵「?」

ゴッコォォォオオオオオォォォォオオオオオン!!!!

ちび助傭兵「!!」 若造傭兵「っ!」
傭兵弓士「!?」

器用な少年「なっ、なっ、なっ」

貴族子弟「いたた。耳痛いな」
メイド姉「はい」キーン

器用な少年「なんじゃそらぁぁ!! べっくらこくわぼけぇ!」

貴族子弟「騒がしいよ、少年」
649 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 14:20:10.36 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「おったまげたな、ありゃなんだ」
ちび助傭兵「耳がうまく聞こえない」

メイド姉「これで、認めてくれますか?」

   ドォォーン……  ドン、ドドォーン

生き残り傭兵「……」

メイド姉「わたしを、代行だと認めてくれますか?
 わたしはどうしても自分の脚で
 行かなきゃならない場所があるんです。
 そこにたどり着くために越えなければならない障害は多い」

生き残り傭兵「……」

ちび助傭兵「……はぁ」
若造傭兵「俺は認める」
傭兵弓士「仕方ないな」

器用な少年「おいおい」

生き残り傭兵「心意気に感じるってのが、
 俺たちが隊長から受け継いだ大事な宝もんだ。
 そりゃぁ、しかたねぇ。これだけ派手にこなしてくれる
 お嬢さんだ。代行だってつとまるだろう」

メイド姉「それじゃぁ」ぱぁっ

生き残り傭兵「ああ」

ちび助傭兵「仕方ない。よっしゃ、光のなんちゃらとやらの
 装備を引っぺがすぞ! そんでもって白夜国へ潜入だ。
 そうなんだろう? 代行」

メイド姉「ええ。そうして情報を集めて、
 そのあとは。……船をぶんどりましょう」にこりっ
658 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 14:50:16.83 ID:F.ztGjEP
――魔界(地下世界)、辺境部、銀砂河

ひゅいんっ!

魔王「よし、ここだ」
メイド長「ええ、まおー様」

勇者「こんなところで良いのか?」

魔王「うん。ばっちりだ。ここからならさほど遠くない」
メイド長「ここまでで結構ですよ、勇者様」

勇者「そっか」

魔王「悪いな。別に秘密というわけでもないんだが」

勇者「図書館、か」
メイド長「はい」

魔王「我が一族の本拠地は一族以外は入れなくてな」

メイド長「まぁ、よろしいでしょう? 乙女の私室にはいるのは
 いま少し経験を積まれてからの方が」くすくす

勇者「そんな良い場所なのか?」

魔王「あー。大したことはないな」
メイド長「本が沢山あるだけです」

勇者「そっか」

魔王「連絡が取れなくなってしまうが、適当に迎えに来てくれ」

勇者「適当って?」
659 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 14:51:18.56 ID:F.ztGjEP
魔王「おそらく調べ物に三日ほどかかるだろう。
 わたしの情報開示レベルだとその程度で済むと思う」

勇者「ふむ」

魔王「もし調べ物が早く終わったら、
 この場所あたりまで歩いてきているし、付近を探してくれ。
 三日目にいなかったら、五日目だ」

メイド長「そうですね」

勇者「ん。判った。何を調べるんだ?」

魔王「冶金技術と、工学系だな。今回は技術的な問題に的を絞る」

勇者「魔王にも判らないことがあるのか」

魔王「判らないことだらけだよ。今回は専門でもないしな。
 本は持ち出せないから、資料作成もしなければならない。
 鋳造で作れるような形状ではないし、確か随分高度な
 加工になったと思うんだが……」

勇者「いいのか?」

魔王「今回の場合はな。あまり高度な技術は伝播しても
 広まらないが、今回は世界全体に
 影響を与えるのが目的ではない。
 かえって伝播しなくても良いかも知れない。
 もっともボルトやナットの原型がある以上、
 いずれは発明されるのだろうが」

勇者「よく判らないが、そっちは任せた」

魔王「わたしのいない間、頼むぞ」
勇者「おう!」

メイド長「では参りましょう。まおー様」
勇者「おー! メイド長もお役目頼むなー!」

魔王「いってくる」
メイド長 ぺこり
668 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 15:27:22.55 ID:F.ztGjEP
――冬越しの村、厨房

勇者「じゃーん!」

勇者「本日の勇者クッキングの時間がやって参りました!」

しーん

勇者「まずはー! パンを切ります」

ぎこぎこ

勇者「斜めになっちまったけど、まぁいいや」

勇者「ここに、チーズを切って塩をふって挟みます!」

勇者「チーズパン完成ー!! どんどんぱふぱふー!」

もそもそ

勇者「……もそもそする」

もそもそ

勇者「しょっぱい気分になって参りましたっ!
 さぁて、次のレシピはなんだこんちきしょー!
 メイド長のやつ俺を見くびってるんじゃあーりませんかー!?」

女騎士「いや、正当な評価だろ」
669 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 15:29:23.77 ID:F.ztGjEP
勇者「っ!? いつから居たんだ、お前!?」
女騎士「“どんどんぱぷぱふー”くらいからだぞ?」

勇者「……負けた」がくり

女騎士「よしよし」なでなで

勇者「……」ぴきっ

女騎士「びっくりさせたか。
 ……そうか、突然さわるのもだめなんだな。
 そう言えば当たり前か」

勇者「この間から、なんだか女騎士がおかしい」
女騎士「そんなことはない。全て順調だ」

勇者「この落ち着きがおかしい」

女騎士「これ持ってきてやったぞ?」
勇者「……くんくん」

女騎士「ベーコンとキャベツとあばら肉の、壺煮シチューだ」
勇者「おおっ!!」

女騎士「まだ火はあるだろう?」
勇者「いや……。メイド長が火を使う料理は作るなって」

女騎士「何処の子供だっ。勇者は!」
675 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 15:36:05.15 ID:F.ztGjEP
勇者「いや、おれだって頑張ったんだ。
 頑張ったんだよ! ちっきしょー!!」

女騎士「無駄に青春風味になってるなぁ」

勇者「暖かいものが食いたい」
女騎士「うん。……ほら、手のひらに小さく火炎出せ」

勇者「“小火炎呪”」
女騎士「でかい」

勇者「“半分小火炎呪”」
女騎士「で、この壺もって、しばらく我慢」

ほわぁ~♪

勇者「うっわ、いい匂いだぞ!」
女騎士「葡萄酒で煮込んだからな。
 妹には敵わないがなかなか悪くないと思うぞ?」

勇者「いやいや。ありがとうな」

女騎士「もういいだろう。ほら、食べろ?」

かぽっ。とろーり。

勇者「おうっ! もっきゅもっきゅ」女騎士「……」

勇者「お前は食わないのか?」
女騎士「ん? ああ。じゃ、一口だけ」

勇者「いっぱい食べればいいのに」
女騎士「修道院で食べてきたからな」

勇者「そっか。……ああ、美味いなぁ♪」
女騎士「ご機嫌か?」

勇者「ご機嫌だぞ」
709 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 19:44:53.65 ID:F.ztGjEP
女騎士(そうか。……世間の女子が料理を重んずるのは
 このように餌付けを行なうためだったのか……。
 なんて簡単なことを見落としていたんだ、わたしはっ)

勇者「……ふぅ。ひとここちついたわ」
女騎士「よく食べるな」

勇者「俺は燃費悪いんだよ」
女騎士「あれだけ魔力持ってるから仕方ないのかな」

勇者「うーん、そうかもな」
女騎士「どれ。レシピをよこせ」

勇者「へ?」

女騎士「メイド長からもらってるんだろう? 食料とレシピ」
勇者「うん」

女騎士「魔王とメイド長が居ない間は面倒を見る」

勇者「いいのか?」

女騎士「今更遠慮するな」

勇者「そうか? これだ」

女騎士「……パンと水。
 チーズサンドと水。
 キャベツの酢漬けとパンと水。
 薄切りのハムとパンと水。
 パンを買いに行く。
 買いだしたパンとハムと水。
 チーズサンドと水……」

勇者「……」
女騎士「……」
710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 19:47:30.30 ID:F.ztGjEP
勇者「なんか横暴だよな!?」ガクガクガクッ
女騎士「横暴というか、なんというか……」

勇者「つか、素直に居酒屋で食ってきて
 良いって言えばいいじゃんな!!」

女騎士「まぁ、その通りなんだけど……」

勇者「このあいだ魔王と2人で食い歩きに行ったのを、
 メイド長は根に持ってるんだ」
女騎士「そうなのか?」

勇者「そうに違いない」
女騎士「そうなのかなぁ……」

勇者「だから、なんか作ってくれ」
女騎士「まぁ、いいけれど。
 すごく上手な料理は期待するなよ?」

勇者「おう! チーズサンドじゃなきゃ何でもいいよ……」
女騎士(そんなに寂しかったのか……)

勇者「食った食った!」
女騎士「よし、休憩したら剣でもやるかー」

勇者「へ?」
女騎士「食事を作った代金だ。
 少し稽古を付けてくれても良いだろう?」

勇者「それくらいなら、かまわないけど」
女騎士「終わったらブラシしてやるからな」
717 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 20:02:55.52 ID:F.ztGjEP
――銅の国、農村部

痩せた老人「……ふぅ」
飢えた農奴「腹が減ったなぁ……」
農奴の女性「秋なのに、なんで小麦も大麦も食えないの?」

作付け頭「そりゃ、兵隊さん達に送らなければ」

痩せた老人「兵隊か、この村もすっかり人がいなくなって」
飢えた農奴「これじゃ秋まき小麦の世話もおぼつかないよ」

農奴の女性「でも、やらなけりゃ春に飢えてしまうわ」

作付け頭「ほーら、手を動かせ」

痩せた老人「へぇへぇ……はぁ」
飢えた農奴「力が出ないな」

農奴の女性「ああ……。もう気の滅入る匂い」
作付け頭「ん?」

農奴の女性「荼毘の煙よ」
作付け頭「ああ。南の小屋ごと燃やしているんだ。
 あそこの疱瘡にかかった一家が腐り始めてしまうからな」

痩せた老人「天然痘か……」
飢えた農奴「おお、怖い」

農奴の女性「そんな事を云うのはおよしよ。
 あたしらだって何時かかってしまうか判ったものじゃない」

作付け頭「まったくだ、うちの息子だって」

飢えた農奴「そんな事言うなら、どの村だって疱瘡には
 やられちまっているってこったよ」
718 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 20:04:54.17 ID:F.ztGjEP
片腕の農奴「いや、そうでも無いさ」

飢えた農奴「え?」

片腕の農奴「俺は片腕を失って帰ってくるまでにずいぶん
 歩いたけれど、葦の国では疱瘡の薬があるって話だ」

農奴の女性「クスリ?……。治るのかい!? 疱瘡が!?」
作付け頭「まさか、そんな話は聞いたことがないっ!」

片腕の農奴「その話が広がっちまうと、
 農奴が逃げ出すから伏せてあるのさ。
 だが本当のことだ。
 まぁ、薬と云っても、治るという話じゃないらしい。
 疱瘡にかからなくなるんだと。
 それに梢の国では疱瘡にかかった人は修道院の人が
 世話をしてくれるって話だ」

痩せた老人「そんなクスリが……」
飢えた農奴「修道院で世話? そんな話があるのか!?」

片腕の農奴「俺だって家族がいなければ、
 居着いてしまおうかと思ったよ」

農奴の女性「……」

作付け頭「葦の国かぁ。遠いのかねぇ。
 なんとか薬を分けてはもらえないだろうか」

飢えた農奴「薬だなんて。兵隊と金儲けに関係ないことに
 貴族が金を出すわけがねぇさ」

痩せた老人「……そりゃそうだ。……はぁ。
 わしらを哀れんでくだせぇ、光の精霊様……」
727 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:03:10.27 ID:F.ztGjEP
――魔界、開門都市、仮設作業所

 「よいせっ!」「おっこらせっ!」

  人魔族作業員「おーい! コロもうひとつ」
  人間技術者「いいぞー回せ-!」
  巨人の作業員「ほうい……! よっせ やっせ!」

中年商人「これはこれは!」
土木子弟「やあ! 商人さん」

中年商人「結構な人出じゃないですか!」
土木子弟「そうですね」

中年商人「どうやってあつめたんです?
 とてもこれだけの人数を集めるほどの資金は
 お渡しできていないでしょう?」

土木子弟「ええ、まぁ」

火竜公女「妾の手柄ゆえ」
中年商人「これは姫さま」

火竜公女「それはいうな」
中年商人「ははははは。で、どうやって?」

土木子弟「この方が、街の人を紹介してくださってね」

火竜公女「いやいや。土塁や防壁を作ると言っても
 それは予算や自治委員会が動かないと、なかなかに
 資金も集まらぬゆえ。
 神殿の修復と言うことで街の衆には手助けを頼んだのだ」

中年商人「神殿の?」



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