7-6


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」7-6


829 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 20:16:21.74 ID:W1zfwn6P
――紋様族の館、果樹園

猫目の急使「長っ!! 長っ!!」

紋様族の長「何事です?」

猫目の急使「蒼魔族が動きましたっ!」

紋様族の長「っ!!」

猫目の急使「その数は、約二万五千っ! 氏族全てでは
 ありませんが、おそらく戦いうる全ての成人戦士と
 大型の眷属を引き連れ進軍中。
 帰途ほどではありませんがその速度はかなりのものになります。
 蒼魔族の領土内を静粛に進めていたため、発見が遅れ、
 感知した時はすでに領土の境界付近でしたっ」

紋様族の長「かまわんっ! 行く先は?
 鬼呼族の領土か、無人荒野、まさか火竜山脈か?
 それとも、開門都市を狙う腹づもりかっ!?」

猫目の急使「そのいずれでもありませぬっ」

紋様族の長「言えッ!」

猫目の急使「蒼魔族の目的地は、おそらくゲート跡地!
 大空洞と呼ばれ始めた通路、すなわちっ!」

紋様族の長「……」ぎりっ

猫目の急使「人間界ですっ!!!」
834 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 20:25:58.86 ID:W1zfwn6P
――白夜国首都、白亜の凍結宮

白夜王「ヒィィギィ!? ギヒィィ!!」

近衛兵「護れ! 王を護るのだっ!」
人間衛兵「せやぁぁ!!」
人間衛兵「さ、下がれ魔族っ!!」

蒼魔の刻印王「ふぅむ。なにをしている?
 そのようなことをするとお前達の王とやらに」

ザシュゥ!

蒼魔の刻印王「当たってしまうぞ?」
白夜王「ヒギっ! ギャァァァッ!」

蒼魔上級将軍「はははっ。絞め殺される豚のように泣きますな」

白夜王「ギャ、ギャァップ! わ、我の腕がっ」

人間衛兵「王よっ!」
人間衛兵「貴様ぁ!!」

蒼魔の刻印王「……“捕縛術”」

ビキィッ!人間衛兵「……ッ!!」 近衛兵「……ぐ!!」

蒼魔上級将軍「滑稽な。手足をもがれた
 その様はまさに芋虫のごとき醜態。人間とはこのようなもの」
835 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/25(金) 20:27:40.87 ID:W1zfwn6P
蒼魔の刻印王「フハハハッ」
白夜王「や、やめよっ。な、なにが望みなのだ魔族っ!」

蒼魔の刻印王「喋るのを止めよ。お前のような者が同じ言葉を
 話すとあっては、羞恥でこの身が焼けそうだ」

白夜王「我はこの国の王なのだ……ガボッ」

人間衛兵「……ッ!!」

蒼魔の刻印王「そら、お前の手だぞ?
 片方ではバランスが悪いか? なるほど、人間も王となると
 知恵が回るな。その方の言い分、よく判る」

ザシュ

白夜王「~ッ!! ~ッ!! グブゥ!!」

蒼魔の刻印王「ははははっ! これで両側の重さが釣り合うな!
 いい顔色だぞ、王よ。……芋虫だったかな?」
蒼魔上級将軍「あはははは」

白夜王「~ッ!!」

蒼魔の刻印王「随分色白になったではないか暖めてやろう
 ほんの少しだけだ。安心しろ。……“燐焔招来術”」

ゴウゥウン!!

白夜王「~ッ!! グブッ! ギャァァアアアア!!!」

蒼魔の刻印王「良いぞ、王よ。必死になれば
 踊りも出来るではないかっ! まるで弾けるマメのようだっ!」
836 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 20:29:00.62 ID:W1zfwn6P
カッカッカッ! バタン!

蒼魔騎兵「上級将軍っ! 城内の反抗勢力の掃討、
 終了いたしましたっ!」

蒼魔上級将軍「続いて都市制圧に合流せよ!
 人間どもは建物に押し込めろ。後で奴隷にする大事な財産だ。
 ただし反抗するのならかまわん。見せしめとして処刑せよ!」

蒼魔騎兵「ハッ!」

蒼魔の刻印王「ふんっ」
蒼魔上級将軍「どうされました? 刻印王よ」

蒼魔の刻印王「退屈だ。人間とはこんなにも弱いのか」

蒼魔上級将軍「もっとも弱い部分を着くのが
 戦の常道ではありませんか」

蒼魔の刻印王「ふむ。それもそうだな。
 ……ここは人間界。得物はいくらでもいるのであったな。
 まずは足場を整え、それからゆるり、という具合にゆくか」

蒼魔上級将軍「はっ」

蒼魔の刻印王「協約の相手は?」

蒼魔上級将軍「地上界最大の氏族、聖王国と、
 その背後にある教会組織でございます」

蒼魔の刻印王「今しばらく一般兵には伏せよ。死にものぐるいに
 なって貰えば、戦の展開が楽というものだ」
蒼魔上級将軍「はっ」

蒼魔の刻印王「隣国は鉄の国と云ったな?
 この国の掌握が終わり次第、時を移さず攻略に移るぞっ」

蒼魔上級将軍「御意にございますっ」
924 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:12:40.92 ID:pLtZgbkP
――椚の国、街道沿いの農地

奏楽子弟「……ひどいね」
メイド姉「ええ」

ぎゃぁっ! ぎゃぁっ!

奏楽子弟「鴉があんなに。あれは……」
メイド姉「荼毘です」

奏楽子弟「え?」

メイド姉「葬儀通報人が立っていませんから、
 おそらく農奴なのでしょう……。 家族だけで葬っているんです」

奏楽子弟「農奴って?」
メイド姉「農作業を行わせるための、奴隷に似た存在ですね」

奏楽子弟「この世界は奴隷がいるのっ!?」

メイド姉「そうです。……今まで通ってきた村や畑にいた
 殆どの人間がそうですよ? 事に北のほうでは開拓民が
 少ないですから、余計に割合が多いんです」

奏楽子弟「……っ」

メイド姉「怒らないでください。詩人さん」

奏楽子弟「なんで……っ」

メイド姉「怒ってもあの人達は救われない。
 わたし達は誰も幸せにならないんですから」
926 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:14:38.60 ID:pLtZgbkP
奏楽子弟「でもっ」
メイド姉「怒っちゃダメですよ」

奏楽子弟「……」

メイド姉「わたしも農奴の家に生まれて、農奴でした」
奏楽子弟「え?」

メイド姉「わたしと妹は逃げ出して、運が良く……
 本当に奇跡に近いほど恵まれた幸運で、
 助けてくれる当主様に拾われました。
 当主様の家で仕事を覚え、読み書きや算術も教えて頂きました。
 わたしの生まれは、本当はとても卑しいんです。
 お父さんもお爺ちゃんも名字なんてありません。
 わたしが名乗ってるのだって、当主様がくれた名前ですもの」

奏楽子弟「……」

メイド姉「詩人さんが怒ってくれているのは
 わたしや他のみんなのため。
 代わりに怒ってくれているんですよね。
 それは嬉しいのですが、多くの人々にはそれも判らないんですよ。
 農奴って云うのはやはり奴隷だって事や
 それがどんなに悲しいことか判らないんです。
 だって生まれた時から農奴なんですから。
 それ以外のことを何にも知らないで過ごしてきたんですから」

奏楽子弟「そんなの、ないよ……」

メイド姉「でも、現実はそうなんです」

奏楽子弟「……」
927 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/26(土) 14:16:23.11 ID:pLtZgbkP
メイド姉「泣きそうな顔をしないで下さい」
奏楽子弟「うん……」

メイド姉「詩人さん」
奏楽子弟「ん……」

メイド姉「歩きながら歌える、格好良い曲を教えてくださいよ」
奏楽子弟「……どうして?」

メイド姉「せっかく旅の道連れになったんですもの。
 歌の一つや二つは覚えたいです。
 それに、この人達は本当に日々の楽しみがないんです。
 どうせなら悲しい曲じゃなくて、逞しい歌がよいです」

奏楽子弟「うん……」

メイド姉「怒る代わりに、彼らに一曲プレゼントしてください」

奏楽子弟「わかった。――これはね。
 獣……を使うのが上手な、荒野の戦士の一族の、
 お酒の歌なんだよ。
 暴れ者のくせに涙もろい連中の歌なの。

  ~♪
 酒をめぐりて相逢へる
 親しき友のよろこびと
 恋され恋する若人の
 互いに寄り添ふよろこびよ。
 ああ、あまつさへ時は春、
 華の王なる春なれば
 花は紅、葉は緑、
 世はいみじくも薫りたり。
 いざ奮ひたて、すこやかに、
 葡萄の酒を乾す者よ、
 今ぞこの地は天の国
 香も馨はしき水の流るる」
928 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:17:58.21 ID:pLtZgbkP
メイド姉「花は紅、葉は緑――」
奏楽子弟「うん」

メイド姉「素敵な歌ですね。わたしは大好きです。
 大地は、こんなにも綺麗ですもの」

奏楽子弟「酔っぱらった良い大人がわんわん泣いたりしてね」

メイド姉「ふふふっ」
奏楽子弟「春なのにね」

メイド姉「ここはなかなかに貧しいところなんです。
 春には小麦が収穫できるはずですが、
 今年はさほど出来が悪かったわけでもないのに、
 様々な要因で一向に値段が下がりません。

  今はよいです。
 春ですから、最悪森に入ればキノコでも野草でもありますし、
 キャベツやにんじん、豆もあります。
 でも、食料を保存しなければ飢える秋までこのままだと
 この冬は多くの餓死者が出るかも知れませんね」

奏楽子弟「……なんだか、辛いね」
メイド姉「ええ」

奏楽子弟「何でこんなに辛いのかな」
メイド姉「……」

奏楽子弟(何でわたしはこんなに胸の内が、
 どろどろでぐつぐつとしているんだろう……)

メイド姉「市門が見えてきましたよ」
930 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:34:59.07 ID:pLtZgbkP
――椚の国、街道沿いの中都市

門衛「騒ぎはおこすなよ」

奏楽子弟「はい、もちろん」にこっ
メイド姉「ありがとうございます」

とっとっと……

メイド姉 じぃっ
奏楽子弟「どうしたんだ?」

メイド姉「いえ、こう言う時は本当に
 旅慣れていらっしゃるな、と思って」

奏楽子弟「あ、それはね。
 そりゃこの地方の知識は少ないけれど、
 詩人と云えば旅だよ。旅歩いて詩想をえないと。
 だから馴れてるのよ」

メイド姉「そうですよね」にこっ
奏楽子弟「今晩はこの街で?」

メイド姉「えーっと。まだ昼前ですよね。
 少しお金を稼ぎたいと思うんですけれど……」

奏楽子弟「どうやって?」
メイド姉「代書をしようかと思います」

奏楽子弟「代書って何?」

メイド姉「代わりに書くんですよ。……文字を書ける人は
 あんまりいませんからね。それから、文字を書くついでに
 相談事にも乗ります」
931 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:40:14.09 ID:pLtZgbkP
奏楽子弟「相談事って?」

メイド姉「代書屋が書くのは主に手紙や書類なんですけれど
 そういうのって、普段みんなの生活にはあまり縁が
 深くないんです。
 たとえば、領主様へのお願い事を書面で出したい時に、
 もちろんお願いしたいことは
 依頼してくる人が考えるんですけれど、
 どうやって書けばお願いを聞いてくれそうか
 相談に乗ったりするんですよ。

  息子さんが兵隊で、遠くからやってきた手紙を読んで欲しい
 おばあさんと、返事の内容を考えたり。

  時には浪漫的な恋文の代筆をしたりもします」

奏楽子弟「そういうのは、わたしも得意ね!」

メイド姉「そう言う時には一緒に書きましょう」

奏楽子弟「そうだね! でも、代書って随分いろんな
 専門的な知識がいるのではないの? 良くできるね」

メイド姉「なんとなく。あはっ。旅に出てから覚えたんです」

奏楽子弟「そっか。でも、出来るなら良いよね。
 それってどうやればいいの?」

メイド姉「どこかで教会を探して、
 その敷地内でやらせて貰うんですよ。
 ……ああ、あそこに見えますね。ほどよい大きさの教会です」

奏楽子弟「あんまり大きくないけれど、良いの?」

メイド姉「大きすぎると、この街に住んでいる代書屋の人と
 仕事がかち合ってしまいますからね。
 あれくらいが丁度良いと思います」

奏楽子弟「ふぅん」
932 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:41:43.33 ID:pLtZgbkP
さくっ、さくっ

メイド姉「済みません、この教会の方ですか?」
助祭「はい、そうですが」

メイド姉「わたしは旅の学者でして。はじめまして。
 この教会で礼拝させて頂くと共に、
 心細くなった路銀を稼ぐために、
 今から夕刻までの間、しばらくここの敷地で
 代書をさせて頂きたいと考えています。
 こちらはわたしの連れで、旅の吟遊詩人」

奏楽子弟 ぺこり

助祭「これはお美しい二人連れですね。
 わかりました、精霊の庭はいつも開かれています」

メイド姉「ありがとうございます。これは少ないですが
 心ばかりの喜捨、感謝の印です」

チャリンチャリン……

助祭「ほほう。感心ですね!
 あちらに古いですが頑丈な木挽きテーブルがあります。
 そちらでなさられると良いでしょう」

メイド姉「ありがとうございます」ぺこり

助祭「そちらの方は……」
奏楽子弟「はい?」

助祭「見かけない髪の色ですね。それにどことなく……」
934 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:51:56.63 ID:pLtZgbkP
メイド姉「彼女は遠く東南から旅をしてきたんですよ。
 深い森の中で歌と踊りをこよなく愛する民の出身なんです。
 えっと……森ガ族でしたよね?」

奏楽子弟 こくこく
助祭「そうですか。……ふむ」

メイド姉「旅の途中で彷徨う我らは、信仰に迷った子羊と同じ。
 精霊様の慈悲は、遠方の者であるほどに暖かく
 照らしてくださると信じます」ぺこり

助祭「……まぁ、良いでしょう。しっかり励んでくださいね」
メイド姉「重ねてお礼を申し上げます」

さくっ、さくっ

奏楽子弟「えっと、その……さ」

メイド姉「はい?」

奏楽子弟「よくまぁ、あれだけと都合良い言葉がつるつると。
 役者に向いてるかも知れないよ? メイド姉は」

メイド姉「あはっ。……わたしの兄弟子の一人が
 ものすごい洒落者でして。彼に教えて貰ったんですよ」

奏楽子弟「ふぅん。弟子?」

メイド姉「ああ。当主様は、教師をしていたんです。
 拾って頂いたお屋敷ではたらきながら、ほんのちょっぴり
 色んな事を教わったんですよ」

奏楽子弟「そっか……。どこかで聞いたような話」

メイド姉「そうなんですか?」
933 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:45:47.85 ID:pLtZgbkP
奏楽子弟「さっきの、森ガ族って……」

メイド姉「ああ。ちょっぴり嘘をついてしまいました。
 後で精霊様にお詫びしなければなりませんね。
 でも、ひとを出身地で判断したり、
 見かけで決めつけたりするのは良くないことですよ。
 精霊様だって判ってくれます。

  詩人さんは、髪の毛の色が素敵な金枯れ葉色だし
 お耳がちょっぴり長くて異国風ですからね。
 きっとビックリしてしまっただけですよ。

  気にすることはありません」

奏楽子弟「あのさ。もしかして、メイド姉は……
 わたしが……その」

ザクっ

老婆の市民「代書を頼んでもよいかね?」

メイド姉「あ。早速お客さんです」

奏楽子弟「わたしは何をすればいい?」

メイド姉「お客さんの呼び込みです。静かで、落ち着いて
 リラックスできるような楽曲を
 そちらで休みながら奏でてくれれば」

奏楽子弟「わかったよ」
メイド姉「頑張りましょう!」
938 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 15:08:25.00 ID:pLtZgbkP
――大空洞建築現場、作業所

土木子弟「現場はどうだ?」

人魔族作業員「6番までは無事です!」
人夫「7番の橋は、手すりが一部破損」
巨人の作業員「石橋は……予備石が……くずされた」

土木子弟「けが人とかは?」

人魔族作業員「今、宿舎で手当をしているけれど、
 転んで頭を打ったり、手を切ったり程度で問題はなさそうです」

人夫「ありがたかったな」
巨人の作業員「おう……」

土木子弟「うん、報せに飛んできてくれた妖精族のお陰だ」

人魔族作業員「でも、橋は無事ですけれど、
 現場はめちゃくちゃですね」

人夫「これだけの軍団が通る想定の道じゃないから」
巨人の作業員「まだ……完成もして……なかった」

土木子弟「よーし! 全員撤収だ!!」
人魔族作業員「え?」

人夫「まだまだ陽は高いですよ!?」
939 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/26(土) 15:11:31.67 ID:pLtZgbkP
土木子弟「作業は明日からだ!
 どっちにしろ、多分この報せは街にも届いている。
 中年商人さんは飛んでくる。
 飯も持ってきてくれるさ。
 こう言う時には、腐った気分が敵だ!」

人魔族作業員「は、はいっ」

土木子弟「宿舎に戻るぞ。今日の夜飯は外で食おう。
 大鍋一杯に、馬鈴薯汁を作ろう。肉も野菜もたっぷり入れてな。
 今日は一人三杯までの酒を支給するぞー」

人夫「おおー! 太っ腹だ、大将!」

巨人の作業員「わかった……おら、うれしぃな!」

土木子弟「よーし。手分けをして、そこらの手荷物だけ
 持って帰ろう。怪我した連中へ見舞いもするぞ」

人魔族作業員「わかりました!」
人夫「がってんだ!」

巨人の作業員「おらぁ、荷車……もってくる」

タッタッタ、ダッダッダ、ドスドス

土木子弟(ふぅ……。気持ちが落ち込まなきゃ、
 身体はまだまだ動く。明日は一日片付けにあてて、
 それから作業再開だ。一気に石橋をかけ終えるぞ)

土木子弟(それにしても。宴会か……。
 なぁ、奏楽子弟。お前、今何をしてるんだ?)
941 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 15:34:04.60 ID:pLtZgbkP
――冬の王宮、執務室

冬寂王「なんだとっ!? まさか、一夜にして……っ」
将官「そんなっ……」

伝令「白夜城、陥落との報せですっ」

どさっ

冬寂王「判った、下がれ」

伝令「はっ!」

だっだっだっ

冬寂王「……」
将官「冬寂王、至急鉄の国、氷の国へ連絡を。
 三ヶ国通商の守りを固めなければっ」

冬寂王「それでは遅い」
将官「え?」

冬寂王「軍使っ! 早馬を引けっ!」

軍使「はっ!」

冬寂王「冬越し村へ使者を派遣! 当主にお伝えしてくれ。
 白夜の国、その城が魔族の攻撃により陥落、と。
 それだけであの方は理解し、動いてくれる」

冬寂王「将官っ!」
942 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 15:35:59.30 ID:pLtZgbkP
将官「はっ!」

冬寂王「わたしは騎兵150を率いて出るっ。
 行き先は鉄の国、王宮っ。
 以降、三ヶ国通商会議の本部は鉄の国に移す。
 この状況下で、戦場と本部の距離を開けすぎるのは致命的だ。
 時間のロスがそのまま敗北につながりかねん。
 その方は至急軍をとりまとめよ、領内の巡回衛視を再編成し、
 監視と巡回をなるべく減らさずに、歩兵1500を抽出せよ」

将官「はっ!」

冬寂王「抽出、集合が終わり次第、鉄の国へと向けて出発。
 どれくらい掛かるっ?」

将官「三日後には出発できるかと」

冬寂王「急げよ。季節は春だ。装備は軽くなるだろう。
 輜重部隊の編制を商人子弟に一任せよ。
 歩兵部隊は最低限の糧食を携帯し速度重視で鉄の国へと入れ。
 伝令を目的として少数の騎馬部隊を編制するのも忘れるな」

将官「承りましたっ」

冬寂王「我は鉄の国へと向かう。
 連絡、編制、万事抜かるなっ!」

将官「はっ!」
軍使「了解いたしましたっ!」

冬寂王「魔族……。どのような符号なのだ、これは」
961 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:29:03.70 ID:pLtZgbkP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部

同盟職員「作戦開始、ですか?」
同盟職員娘「本部職員揃っています」

留守部長「ああ」

同盟職員「次なる目標は」
留守部長「今度は静粛さが必要だ」

同盟職員娘「鉄、ですか」

同盟職員「最近相場が上がっていますね」

留守部長「おそらく中央、聖王国が戦争準備として
 武器の買い付けを始めている。その動脈を押さえる」

同盟職員娘「そうなると、資金が……」

留守部長「委員会から予算が出ているよ。
 ……おおよそ4500万を予算とする」

同盟職員娘「麦に比べれば小規模ですね」
同盟職員「そもそも鉄自体が効果で流通量が少ないからな」

留守部長「それと同時に石炭を押さえる」
同盟職員娘「あんな代替え燃料ですか? 木炭じゃないんですか?」
963 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:30:18.37 ID:pLtZgbkP
留守部長「いや、これも委員会からの指示だ」
同盟職員娘「どうやら何か嗅ぎつけてるみたいですね」
同盟職員「情報、取ってみます」

留守部長「早馬を使えよ」
同盟職員「はいっ」

留守部長「石炭につけては採鉱権を勅書の形で押さえ
 足止めをかけてゆけ。交渉担当を北方に回せ」

同盟職員娘「了解」

ガチャッ。タッタッタッ

同盟職員「戦争、起きますかね」ポツリ
留守部長「だろうな」

同盟職員「俺たちには止めることは出来ないすか」

留守部長「戦争ってのは、同意が必要ない。
 つまり、片方が、自分以外を殴りつければ戦争だ。
 参加者の中に一人でも戦争をしたいやつが存在すれば
 戦争は起きる。元から非対称な行為なんだよ」

同盟職員「はい」

留守部長「俺としちゃあ、あの若い委員様は結構気に入ってる。
 無理なのは判った上で、それでも諦めないで進むからな。
 戦争を止めることそのものよりも
 止めようとしてみる、って事はあるいは重要かも知れないぜ」
967 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:55:41.17 ID:pLtZgbkP
――楡の国、地方都市、貴族領

弱小貴族「今年の分の税を速やかに納めよっ」
中年騎士「……」

有力地主「それはこちらも云いたいっ。
 このような収穫税をとられては、
 全ての農奴が飢えて死んでしまうっ」

弱小貴族「不当な税を取り立てたわけではない」
有力地主「しかし、今年のような不作では温情を……」

弱小貴族「だまれっ! 何が不作だ! どの所領でも
 多くの小麦、大麦が稲穂をたれていたではないかっ」

有力地主「我が領地にはおいては井戸が涸れ……」

弱小貴族「誰がそのような言葉を信じるっ。」
中年騎士「ははっ」

有力地主「……事実でございますっ」

弱小貴族「何を戯れ言を。
 貴様は去年の冬にはすでにこの春の小麦を売り払い、
 多額の金貨を得ていたのであろう」

有力地主「それは……」
弱小貴族「それを不作であるとはごまかしをするなっ」

有力地主「それでは、先ほどから申し上げるとおり……」
968 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:56:38.04 ID:pLtZgbkP
弱小貴族「なんだ? ん」
有力地主「今年分の納税は、作物ではなく金貨で……」

弱小貴族「まぁ、よかろう」
有力地主「そうであるならお支払いできます。
 早速金貨1500枚を手配しまして」

弱小貴族「何を言っているのだ? 租税は金貨4700枚であろう?」
有力地主「は?」

弱小貴族「4700枚だろう? この書状にあるとおり」

有力地主「しかし、それは旧金貨ではありませんか。
 新金貨はご存じの通り、旧金貨3枚分の価値があり……」

弱小貴族「そのようなことは話しておらぬ。
 新旧など、どこの証書に書いてある。
 布告どおりお前の持つ土地の面積における租税は
 “金貨にして4700枚”だ」

有力地主「領主殿は我らが農民に死ねと仰るかっ!」

弱小貴族「都合の良い時だけ弱者面するでないわっ!」ダムンッ

有力地主「そのようなことを仰られても、
 税が足りなければ中央に送るまいないにも事欠きますぞ?
 我らは結局一蓮托生。払う意志はあるのです、
 ただその額を再考願いたいと……」

弱小貴族「くどいっ」 ジャキッ!!

有力地主「ヒィッ!」
969 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:59:10.84 ID:pLtZgbkP
中年騎士「領主どの、お待ちあれ」
弱小貴族「ちっ」

中年騎士「このような輩、斬り殺したところで何にもなりませぬ」
有力地主「ひぃっ。騎士殿、お助けをっ!」

弱小貴族「ならばなんとするっ」

中年騎士「このような状況は、友領でも聞くところ。
 解決する方法は、もはや一つしかないと存じます」

弱小貴族「……それは?」

中年騎士「侵攻です。海岸線沿いに冬の国へと入り略奪を行う」

弱小貴族「それでは野盗ではないかっ!」

中年騎士「野盗にやらせれば宜しい。
 我々はそれを黙認して、上がりを得る。
 これは盗みではない。私掠です。
 野盗ではなく、私掠団と名付けるべきかと考えます」

有力地主「それならば……」

弱小貴族「ふむ」

有力地主「わたし達の土地にも、多くはありませんが野盗が
 出没します。彼らを手懐け、その騎馬が背教者の国へ向き
 その上なお儲かるということであれば……。
 彼らの武装などに関しては援助しても良いかと」

弱小貴族「ふむ。一考の価値がありそうだな。
 話をつけられそうか?」

中年騎士「早速、無法者の一団に渡りをつけましょう」
979 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 18:44:17.34 ID:pLtZgbkP
――聖王都、辺境の村、村はずれの小屋、深夜

メイド姉「……」

奏楽子弟「ん……ぅ……」

奏楽子弟(ううっ。うにゅ……。まだ……深夜?)

メイド姉「……」

奏楽子弟(メイド姉さんってば起きてるのかな……)

メイド姉「……くっ」ぽろり

奏楽子弟(泣いてるの……?

メイド姉「……。っく……。……ううっ」ぽろぽろ

奏楽子弟(なんで……?)

メイド姉「……ごめん……なさ。……わたしも……おなじなのに」
奏楽子弟(……)

メイド姉「……っく。……むしは、だめ。足で、手で……。
 這ってでも……。だって、止まっちゃだめだから……」

奏楽子弟(……メイド姉さん)
980 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 18:46:10.20 ID:pLtZgbkP
――聖王国辺境、秘密の場所、光の子の村

光の軍兵少尉「行軍はじめっ!」

 ザッザッザッ!!

光の軍兵少尉「構えっ!」

 ジャギッ!

壮年農奴兵士「……ん」
少年農奴兵士「よしっ」

光の軍兵少尉「撃てぇ!」

スダン! ダン! ズダダーン!!

光の軍兵少尉「下がれっ! 清掃と、装填急げっ!」

聖王国将官「どうだ?」

光の軍兵少尉「はっ。順調に訓練は進めておりますっ」

聖王国将官「結果は出ているか?」

光の軍兵少尉「行軍訓練では、一日4里を目標にしております」
聖王国将官「ふむ」

光の軍兵少尉「いかがでしょう」

聖王国将官「もう少し鍛えてみよう。
 通常速度としては問題ないが、
 戦場では速度が死命を決することもある。
 重装備をさせて8里を二日連続で課してみよ」
981 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 18:49:22.69 ID:pLtZgbkP
光の軍兵少尉「はっ。達成できない場合は死罰を?」

聖王国将官「いいや、これは訓練だ。
 しかし、中隊編制において目標を達成できた隊には
 2日の休暇を与えよ。
 一度最大距離記録を作らせておけば、
 いざという時のよりどころにもなるだろうさ」

光の軍兵少尉「拝命いたしましたっ」

聖王国将官「射撃訓練のほうはどうだ」
光の軍兵少尉「はっ。こちらはそのぅ」

聖王国将官「問題でもあるのか」

光の軍兵少尉「支給されるブラックパウダーの量がきびしく」
聖王国将官「予想はされていたが……」

光の軍兵少尉「整備訓練などの時間は取れるのですが、
 実際の整備もやはり発砲直後に行われるわけですし、
 今少しのパウダー支給を上申したく思います」

聖王国将官「わかった。約束は出来ぬが、諮ってみよう」

光の軍兵少尉「ご厚情に感謝いたしますっ」

聖王国将官「おい」

光の軍兵少尉「はっ?」

聖王国将官「この村はこの近郊では、一番の成績を上げている。
 そう言って、夕食に少し色をつけてやれ。実際成績は良い。
 農奴達に光の使徒としてのプライドを持たせないとな」

光の軍兵少尉「はっ! ますます一層励むでありましょう」ビシッ
986 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 19:24:18.51 ID:pLtZgbkP
――鉄の国国境付近峠

斥候「接近中! 騎兵約2000!」

軍人子弟「2000……」
鉄国少尉「少ないですね」

軍人子弟「情報に寄れば、白夜城を攻略した魔族は総数約3万弱。
 目撃に寄れば十分な騎兵を備えていたとも聞くでござる。
 2000とはいかにも少ないでござるが……」

鉄国少尉「しかし、我らにとっては好都合ではないですか」

軍人子弟「……」
鉄国少尉「どうされました?」

軍人子弟「距離は? どれくらいで会敵するでござる?」

斥候「峠二つをはさんでいます。およそ5時間後には!」

軍人子弟「他の防衛戦にも変事、襲撃の確認をっ!」
鉄国伝令「はっ!」

斥候「斥候に戻りますっ」

軍人子弟「頼んだでござるよ」
鉄国少尉「……」

軍人子弟「これは、おそらく威力偵察でござるね」
鉄国少尉「威力偵察?」

軍人子弟「意図的に小規模な交戦を行い、
 敵の能力や装備、戦術の情報を収集する手法でござるよ。
 一晩で白夜城を陥落させたとの情報でござったが、
 どうやら油断や思い上がりはしてくれていないようでござるね」
987 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 19:25:57.84 ID:pLtZgbkP
鉄国少尉「と、なるとあの部隊は被害を押さえて?」

軍人子弟「退くでござろうね。
 もっとも魔族の云うところの“被害を押さえる”が
 我らで云うところの殲滅戦に匹敵する可能性も、
 ないではないでござるが」

鉄国少尉「5時間ですか……」

軍人子弟「そこまでの時はないでござろう」
鉄国少尉「……」

軍人子弟「投石機は?」
鉄国少尉「そりゃ、一個二個は持ってきてあるはずですが」

軍人子弟「投石機準備っ!」鉄国少尉「こんな峠でつかったら崖崩れの恐れもありますよ!?」

軍人子弟「かまわんでござるよ。我が国の軍は
 世界一道路を作り馴れているでござろう?」

鉄国少尉「そんなところばっかり優れていてもなぁ」

鉄国兵士「準備できましたっ。どちらへ運びますか?」

軍人子弟「前へ押し出すでござる。目標は右の崖!
 崩しても構わんでござる。林ごと埋め立ててしまうつもりで
 準備でき次第投石開始!」

鉄国兵士「はっ!」

鉄国少尉「荒っぽい守りですね」
軍人子弟「こちらの覚悟をみせるでござる。
 今回の戦、白夜国の全土が魔族の手に落ちた以上、
 このような国境では決着がつく事はあり得ないでござる。
 小競り合いで兵力を消耗するは愚策でござるよ」



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