7-1


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」7-1


182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:11:37.45 ID:OGIpmW2P
――魔王城、深部、魔王の居住空間

魔王「けふっ。けふっ。わたしを病人扱いするな」
メイド長「そんなこといたって、まおー様」

勇者「そうだぞ。お前病人だろうが」

魔王「これは怪我だ。病気ではない」
メイド長「はいはい。それは怪我ですけれどね」

女騎士「少しは大人しく、治癒の法術をうけろ」
勇者「そうだそうだ魔王。反省しろ!」

女騎士「お前もだ、勇者!」
勇者「痛っ。ったったった!?」

メイド長「あらあら、まぁまぁ」

女騎士「勇者だから死ななかったようなものを。
 お前だって魔王に負けず劣らずの重傷だ」

魔王「ふっふっふ。のたうち回るが良い」

勇者「ったく。こんなの舐めておけば平気なんだよ。」

女騎士「治癒の通りが悪いな……」

勇者「密度の高い魔術だからな。このクラスになると
 ダメージと呪いとを一緒に撃ち込まれたようなもんだ。
 回復能力や免疫系まで狂わされる」

女騎士「毎回思うが、勇者の身体は人間離れしているぞ」
183 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:13:52.31 ID:OGIpmW2P
魔王「そう……なのか?」
勇者「元気だからな、俺」

女騎士「風邪を引かない種類の元気さだ」 ペシンッ!

勇者「~っ!」
女騎士「毎回心配で寿命をすり減らす身にもなれ」

魔王「ふふっ。勇者も包帯でぐるぐるまきだ」
勇者「何で嬉しそうなんだよ」

メイド長「おそろいだからでしょう? 単純ですこと」

魔王「ちがうぞっ!
 わたしはただ単純に、勇者と境遇が似通うことにより、
 しばらく親交を深めることが出来るという現在の状況に
 密やかな愉悦を感じているだけだ」

メイド長「同じ事でしょうに」

女騎士「何か忘れているようだが、二人を救ったのも
 わたしの祈祷のお陰だぞ?」

魔王「感謝しておる。女騎士」
勇者「おお。さんきゅな」

女騎士「二人の治療のために、わたしもしばらくは
 魔王城へとやっかいになる」

勇者「え?」

女騎士「仕方あるまい。まだまだ予後が不安定だ」
184 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:15:07.78 ID:OGIpmW2P
メイド長「そうですよ。まおー様。
 いくらなんでも今回は無茶が過ぎましたよ。
 死んだふりするために治癒術を一時的にせよ止めるなんて!」

魔王「すまん……」
勇者「まぁ、今度からそう言う無茶は俺に任せておけ」

メイド長「勇者様もですっ」
女騎士「そうだぞっ!!」

魔王「あやつは……強かったのか?」
勇者「うん。まぁまぁかな」

女騎士(勇者……手加減していたのか? 体調でも悪かったか。
 確かにすさまじい強さだったが、
 勇者の本気ってあんなものだったか?)

魔王「こまったな」
勇者「どうした?」

魔王「これでは、勇者をもふもふ出来ないぞ」
勇者「そうな。まぁしかたないだろ」

女騎士「わたしは出来る」もふもふもふ
魔王「なんだと!?」

メイド長「あらあら。そんな事わたしだって出来ますよ」
 もふもぷぱにょぱにょ

魔王「メイド長までっ! なんていうことをっ!」じたじた

勇者「ちょっ! えっと、すんませんすんませんっ。
 うう、なんか良い匂いするしっ!?」

魔王「は、はなれろーっ!!」

メイド長「ふふふふっ。多少煽った方が
 魔王様は早く完治しそうですからね」もふもふ
193 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:44:25.10 ID:OGIpmW2P
――聖王国南部の開拓地、光の子の村

ざわざわ……。

開拓民「何が始まるんだ?」
痩せた農奴「しらねぇ」
小柄な平民「俺たちは、村の司祭様にここにいけって」
少年農民「ここに行けば、とりあえず一日二回は
 パンを食べさせてもらえるって聞いたのです」

開拓民「それは俺も聞いた」
痩せた農奴「ああ。俺はもう、
 パンさえ食えるなら、なんでも良いよ」
小柄な平民「おれもだ。何で麦を育てている俺たちが、
 パンの一つさえ食えないんだ……」

少年農民「ぼくも。僕が家にいたら、小さな二人の妹が、
 飢えて死んでしまうんです」

開拓民「……」

痩せた農奴「……今年の春は、麦はよく実ったけれど、
 値段はちっとも下がる気配がない」

小柄な平民「俺たちは、あれを食べていたよ」
少年農民「……あれ?」

開拓民「ああ……」
痩せた農奴「“悪魔の林檎”だよ」
小柄な平民 こくり

少年農民「だってあれは!」
194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:46:05.98 ID:OGIpmW2P
開拓民「……仕方ないじゃないか」

痩せた農奴「いくら異端の食べ物だって、
 俺たちはこのままじゃ死んでしまうって云うところまで
 追い詰められていたんだ。
 俺の村、いや俺の国で、一度もあれを食べていない農民なんて
 居ないのじゃないかと思うよ」

小柄な平民「そうだよな……」

少年農民「だ、大丈夫なんですか?」

開拓民「なにが?」

少年農民「だって、異端なんですよ?
 身体に悪魔の印が浮かび出るとか、
 手が山羊の蹄に変わるとか、狂い死にするとか」

痩せた農奴「俺の村ではそんなことはなかった」
小柄な平民「こっちでもだ……」

少年農民 ごきゅり

開拓民「馬鈴薯、美味かったよな……」

痩せた農奴「ああ、たっぷりの湯で茹でて、バターをかけてな」
小柄な平民「薄っぺらい土壁の中で食ったけれど、甘かった」

少年農民「そんな……」 ぐぅぅぅっ

開拓民「仕方ないさ。俺たちは結局」

痩せた農奴「ああ、上の云うことに従うしかないんだ」

小柄な平民「そうでなきゃ、なけなしの財産も
 仕事も食い物も、根こそぎ取られちまう」
195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:47:14.12 ID:OGIpmW2P
ざわざわ……。

開拓民「あ」

司教「……静まりなさい」

痩せた農奴「司教様だ……」
小柄な平民「初めてみた」

司教「この地に集った聖なる光の精霊の信徒に祝福を」

 がばっ、がばっ、がばっ

少年農民「し、司教様だっ! 司教様に祝福して頂いたっ!」

開拓民「なんてことだ。俺たちみたいな農民に司教さまがっ」
痩せた農奴「ありがてぇ、ありがてぇ」ぼろぼろ

しーん

司教「汝ら光の子がこの地に集められたのは、
 来るべき邪悪との戦いに備えるため。
 この村には畑があり、汝らを養うだけの
 食糧が備えられておる。
 また、汝ら悪魔との戦いを指導する教え手もある。
 汝らはこれから半年の間、この新しい村で生活し
 光の精霊の子としての奉仕をせねばならぬ」

開拓民「え……戦い?」
痩せた農奴「俺たちには、そんなことは無理だ」
小柄な平民「でも司教さまの言葉なんだし……」

がやがやがや……。
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:48:46.76 ID:OGIpmW2P
司教「安心するがいい! 光の精霊の子らよ!」

しーん

司教「光の精霊は、汝ら光の子を嘉したもうっ。
 慈悲深き彼の精霊は、決して我が子を見捨てることはない。
 汝らには、汝らを脅かす魔族を倒す武器をお与えになった」

開拓民「……?」
痩せた農奴「武器?」

ガチャ、ガチャリ

司教「その鉄の杖を持つがよい。
 この鉄の杖こそ光の精霊が魔を討つためにお与えになった
 マスケットなる武器。
 この鉄の杖さえあれば、
 汝らであっても歴戦の古強者がごとく、
 戦場をかけることが出来るのだ。――みせよっ!」

精鋭銃兵「はっ!」 ちゃきっ! ジリジリっ!

 ダンッ!! バキンッ!!

小柄な平民「何だ、あれはっ!?」
少年農民「離れた鎧が!」

司教「この武器は50歩離れた鉄の鎧さえ打ち抜く力がある。
 この武器を使えば、相手の爪も牙も、剣も槍も届かない
 距離から敵を打ち倒すことが出来るのだ!
 汝らはこの武器に習熟することにより、この大陸随一の
 精兵となるであろうっ!!」
197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 14:50:58.11 ID:OGIpmW2P
司教「そして聞くが良い、精霊の子らよ! 祝福の使徒よ。
 大主教殿が今回、汝らに助けを求められたわけを」

痩せた農奴「だっ、大主教様っ!?」
小柄な平民「た、助けってどういうことだ?」

ざわざわ……。

司教「汝らも知るであろう、
 南の果て世界の凍える凍土に作られた監獄を!
 魔界と呼ばれる地は精霊に定められた幽閉の檻でもあるのだ。
 知るが良い。そこは教会の言葉に逆らう背教者が送られる
 凍てつく極寒の流刑地。
 魔族とはかつて精霊に逆らった罪人の裔なのだ」

開拓民「教会で何度も教えてもらってる話だ……」
少年農民「魔族はそれゆえ残虐な心しか持っていないのです」

司教「しかし、事もあろうにその背教者達は
 われらが光の子の宝を盗み、
 今の今まで謀り続けてきたのだっ!」

小柄な平民「へ?」

司教「それは、光の精霊様の聖なる遺骸。つまりは聖骸である!
 やつら教えに背いた者どもめらは、光の信徒の希望、復活の象徴
 聖骸を貶め辱めんがために、我らからそれを奪い、
 押し隠してきたのだっ!」

開拓民たち「っ!?」「せ、精霊様をっ!?」「まさかっ」

司教「大主教様は御自ら仰られた! このような過ちを
 我らは見過ごすわけには行かない。
 たとえ自らの命を掛けてであろうと聖骸を奪還すると!
 これは聖なる任務であるっ!
 光の子らよ! マスケットを持ち立ち上がれっ!!
 光の信徒の力を今こそ結集させるのだっ!!!」
204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:21:24.70 ID:OGIpmW2P
――――鉄の国、新興の開拓村

巡回軍曹「さ、ここだ」

難民一家の父「ここですか!」
難民一家の母「寒いですね……」ぶるぶるっ

難民一家の娘「でも、ひろいよぉ!
 向こうの丘までずーっと道がまっすぐだよ!」

巡回軍曹「寒いのは仕方ない。南の国だからな。
 がんばって働けば汗も噴き出すさ!
 さぁさ、畑の方にいこう。誰かいるはずだ」

難民一家の父「はい!」

ぎぃっ、ぎぃっ
 ざっざっざっざ

難民一家の父「さぁ、馬よ。ボロ馬車だが頑張っておくれ。
 もう少しでたどり着くからね」

ぎぃっ、ぎぃっ

開拓民兵娘「おーうい! 軍曹さんじゃないかぁ」

巡回軍曹「おーうい! 調子はどうだい?」

開拓民兵「ぼちぼちですよ。
 今週中にも、この丘の根っこは全部掘り返せる」

開拓民兵娘「そうすれば、一面の馬鈴薯畑にできるよ」

巡回軍曹「そうかそうか!
 今日はまた新しい家族を案内してきたんだよ」

難民一家の父「川蝉の領地から来ました、よろしくお願いします
難民一家の母 ぺこり
難民一家の娘「よろしくなの!」
205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:22:54.75 ID:OGIpmW2P
開拓民兵「へぇ! 川蝉! あんな遠くからよくぞ」
開拓民兵娘「ねぇねぇ、奥さんかしら? 顔が真っ青だよ」

難民一家の母「いえ、ちょっと寒くて……」

巡回軍曹「ああ。調子が悪そうだから
 わたしが付き添って、ここまで送り届けに来たんだよ」

難民一家の父「出来れば、妻を休ませてやりたいんです。
 わたしが二人分働きますから、どうかお願いしますっ」

難民一家の母「そんな、あなた……」

開拓民兵「そうだなぁ、まずは集会所にでも」

開拓民兵娘「ったく! なに云ってるのよ! 見なさいよ。
 ねぇ、奥さん。もしかして……お子様が生まれるの?」

巡回軍曹「え?」

難民一家の父「そっ、そうなのかおまえ!?」

難民一家の母「ええ……。はっきりとはしないけれど、
 先月あたりからずっと。そんな気もするの、あなた……」

難民一家の娘「えー!? お母さん、ほんとっ!?」

開拓民兵娘「ほら見なさい! そんな時にこんな寒いところに
 立たせておくなんてとんでもない! ましてや集会所だなんて」

開拓民兵「そ、そういうもんなのか?」
開拓民兵娘「だからあんたはいつまでたっても
 嫁の一人も来ないのよっ!」

巡回軍曹「ど、どうすればいいんだ!?」おろおろ
開拓民兵「そうだよ大変じゃないかっ」おろおろ
206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:24:54.93 ID:OGIpmW2P
開拓民兵娘「これだから男なんてのは!」
開拓民兵「お前だって子供なんて産んだこともないくせにっ!」

開拓民兵娘「女には女の口伝、ってもんがあるのっ!
 ほら、奥様。まずこの上っ張りを羽織ってくださいな」

難民一家の母「そんな。……こんなにちゃんとしたものを
 お借りするわけにはいきませんっ」
開拓民兵娘「これだって、軍の支給品なんだよ。
 大丈夫、ちょっと貸すだけ。羊の毛だから暖かいよ?」

難民一家の父「ありがとうございます……」

開拓民兵娘「ね。村長の所までひとっ走りしてきてよ。
 このご家族は、わたしの家の隣を使わせて貰おう。
 薪と泥炭を運んでおくんだ」

開拓民兵「そ、そうだな! 俺はひとっ走り行ってくるよ」
開拓民兵娘「頼んだからね! それから、着るものと
 食べる物もね! 村長の奥さんにも来てもらうんだよっ」

巡回軍曹「任せても大丈夫かな」

開拓民兵娘「もちろん! さぁ、行きましょう。
 あんまり立派じゃないし小さいけれど、家があるんですよ。
 まとめて建てたばっかりだから、
 どれも同じ形で迷ってしまうけれど、
 何だったら後で何か植えて目印にすればいいです」

難民一家の父「い、いいんですか? こんなに良くして頂いて」
難民一家の母 こくこく

開拓民兵娘「何言ってるんですか。これから沢山沢山、
 この国の人も南の人もみんながおなかいっぱいになるまで
 ここで馬鈴薯を作ってもらう仲間じゃないですか」にこっ

巡回軍曹「鉄の国へようこそ! 開拓兵の一家の皆さん。
 我が国も、我が軍も、あなたたちを歓迎しますよっ!」
211 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:47:59.24 ID:OGIpmW2P
――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場

銀虎公「さて」
巨人伯「……集まった」

火竜大公「お集まりの族長方、ご足労に感謝する。
 さて魔王どのから一時でもその全権を預かった以上、
 その信頼に応えるためにも、一つの失敗もなく
 やり遂げなければならん。そうですな、黒騎士殿」

勇者「その件についてだが、
 俺は少数氏族の権利について以外はなるべく
 他の族長達の判断を優先し尊重するように釘を刺されている。
 いってみれば外様だしな」

妖精女王「そのようなことはありませぬが」

紋様の長「魔界の、いや地下世界のことは我らで面倒を見よ、
 と云う魔王殿の意志であろうな」

鬼呼族の姫巫女「うむ」

銀虎公「頼られて撥ね除けるは武人の名折れぞ」

碧鋼大将「今日は、何の話を?」

東の砦将「ふむ」

火竜大公「まず、各々の氏族の中のことは
 今までどおり氏族の中で決めてゆけばよいと思う。
 この会議の目的はあくまで今まで魔王殿が一人でやられて
 いたことの代行。つまり、我らが魔族および地下世界全てに
 関わる問題の解決や、氏族間の利害、意見調整。
 そして一つの氏族では解決できないような問題での協力の
 あり方についてであろう」
212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:49:33.84 ID:OGIpmW2P
妖精女王「ええ、賛成です」
紋様の長「異議はない」

鬼呼族の姫巫女「妥当であろうな」

銀虎公「と、なると」
東の砦将「目下の問題は、蒼魔族についてですな」
巨人伯「……そうだ」

火竜大公「そのとおりだ。蒼魔族はすでにこの会議からも離れ、
 独自行動に移ったようだ。
 物見の報せに寄れば、蒼魔族の領地へと軍を返すために、
 すさまじい速度で進んでいるらしい」

妖精女王「もし仮に蒼魔族が魔族全体を敵に回し
 暴れ回るようなことがあれば、
 我ら妖精族などはひとたまりもありません」

鬼呼族の姫巫女「われら鬼呼族は抗し得るだろうが
 それでも甚大な被害は免れ得ぬであろう」

銀虎公「それは獣人族も同じ事」

勇者「いや、まってくれ」
巨人伯「……なぜ? ……黒騎士?」

火竜大公「何かご意見でも?」

勇者「俺は蒼魔の新王と戦った。あいつの力は半端じゃぁ、無い。
 いまの蒼魔族は強いぞ。おそらく想像以上に、だ」

紋様の長「ふむ……。先の乱世よりも
 その力は上がったと見るべき、ということでしょうな」
213 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:50:33.26 ID:OGIpmW2P
鬼呼族の姫巫女「黒騎士殿が云われるのならば、そうなのだろう」

火竜大公「で、あれば、蒼魔族については
 一層この会議で取り扱わなければならぬ問題と云えよう」

銀虎公「そうだな」

碧鋼大将「他にも問題はあるでしょうが、
 目下もっとも急を要するのはこの蒼魔族の問題でしょう」

巨人伯 こくり

紋様の長「ふむ、まずは問題を整理してみます、か」
鬼呼族の姫巫女「それはよい」

紋様の長「ひとつ。蒼魔族は新しい王を迎えた。
 ひとつ、その新王、および彼に率いられた軍は
 魔王に向かって弓を引き、忽鄰塔を離脱した。
 ひとつ、その新王、および彼に率いられた軍は
 現在、彼らが領土に向かっている。
 ひとつ、その数は約1万数千。
 ひとつ、蒼魔族の新王は魔王候補者の刻印を持ち
 その戦闘能力は極めて高い」

鬼呼族の姫巫女「そのような所じゃな」

碧鋼大将「きわめて的確な要約だ」

火竜大公「と、なると問題は」

妖精女王「蒼魔族全体の意志、ですね」

銀虎公「は? 蒼魔族は裏切り者だろうが?」
214 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:52:21.41 ID:OGIpmW2P
妖精女王「とはかぎりません。特に蒼魔族新王の即位は
 この忽鄰塔中に行われたきわめて異例かつ、急いだものでした。
 今考えると、何らかの陰謀がなかったとも云えないでしょう?」

紋様の長「うむ」

鬼呼族の姫巫女「ことによると、蒼魔族の本国は、
 新王が魔王を裏切ったことをまったく知らぬ可能性もある」

銀虎公「じゃぁ、いっそ蒼魔族の軍が、
 奴らの都に着く前に攻撃しちまえばどうだ?
 そうすれば、もし蒼魔族の都が白でも黒でも問題はない。
 白なら敵が減るし、黒でも敵軍の合流を避けられる」

碧鋼大将「それは名案だが、蒼魔族の行軍速度が速すぎる。
 今から追いかけてはとても間に合わぬ」

巨人伯「……白か……黒、か……」

火竜大公「それは、わしには明らかなように思われるな」

紋様の長「どういうことです? ご老公」

火竜大公「この行軍速度が語ってくれているであろう。
 つまり、蒼魔の軍は我らには是が非でも
 追いつかれたくはないのだ。
 戦闘になれば自らの領土から援軍が来るということならば
 ここまでがむしゃらに自らの都に急ぐ必要はあるまい。
 つまり、きゃつらも己の都を掌握は出来ていないのだ」

妖精女王「一理ありますね」
215 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 15:54:04.24 ID:OGIpmW2P
鬼呼族の姫巫女「と、なると我らが魔族全軍をもって
 蒼魔族の都を包囲するのも逆効果と云えるでしょうね」

銀虎公「なんでぇ。だめなのか?」

鬼呼族の姫巫女「我らが魔族全軍を率いるとなると、
 その数は5万を超えるだろう。
 そこまでの数をそろえてしまうと、蒼魔の一族には絶望が広がる。
 魔王に反逆をしたのが新王だろうと何だろうと、
 すでに自分たちは魔界を裏切ってしまったのだ、とな。
 となると、これは自暴自棄というか、
 もはや新王に協力するしかないであろう。
 蒼魔族は、全て袋の中に猛り狂った狼となり、血を見ずには済まぬ」

銀虎公「面倒くさいことになって来やがったな……」

碧鋼大将「そもそも蒼魔族は厳格な身分制度を持つ
 軍政を引く一族だ。このような事態もあり得る展開だった」

巨人伯「ふぅ……む……」

東の砦将(また一方、最悪の場合、
 蒼魔の新王が軍人以外の自らの氏族の命さえ人質に取る、
 などという展開もありえるってこったな。
 通常でならばとうてい想像さえ出来ぬような卑劣な手段も、
 毒殺、暗殺さえも決意した連中だ。
 追い詰めたならばあり得るかも知れねぇ。
 こいつはショックすぎて魔族の皆様には言えねぇが……)

火竜大公「まず、蒼魔の軍が自らの領地に帰り着くのは
 避けられまい。これはすでに過ぎたこととしよう」

妖精女王「はい」
紋様の長「そうですね」
221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:17:02.35 ID:OGIpmW2P
火竜大公「そのうえで。で、あればこそ、
 蒼魔の軍から目を離してはならぬ。今もっとも恐ろしく
 こちらがして欲しくないことは、蒼魔の軍が蛇のように、
 この魔界の中を動き回り、哀れな犠牲者に噛みつくことだ」

鬼呼族の姫巫女「そうだな」

火竜大公「蒼魔一族の領域の外には偵察を張り巡らせ、
 蒼魔の軍の動きをいち早く監視する必要があるだろう」

妖精女王「では、その役目は我ら妖精の一族が受けましょう。
 我らは小さく力も弱いですが、夜の闇をも見通し、
 小さな音も聞き逃しません」

紋様の長「もし妖精の一族が何かを見つけたのなら、
 我ら人魔が一族がその情報をここまでとどけましょう。
 人魔一族は氏族の中でもっとも数が多い。
 古来よりこの魔界の中に伝令の“駅”をつくり
 換え馬による情報のやりとりをしてきました」

火竜大公「各々がた宜しいか?」
東の砦長 こくり
紋様の長 こくり

火竜大公「では、この件は妖精の一族と、
 人魔の一族に頼むとしよう。
 手助けできることあれば遠慮無く申し出て欲しい」

妖精女王「承りました」
紋様の長「お任せを」
222 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:18:27.41 ID:OGIpmW2P
火竜大公「さて、一方蒼魔族が軍を発してきた場合」

銀虎公「それも決めておかなければ始まらねぇな」

碧鋼大将「どうする?」

銀虎公「先鋒は俺たち獣牙だ」

巨人伯「……むぅ」

銀虎公「俺たちは今回の件では大きな不名誉をおった。
 是非先陣を務めさせて頂きたい」

火竜大公「よろしいか? 姫巫女どの」

鬼呼族の姫巫女「ふっ。……お見通しだな。
 よかろう、先陣はゆずるとしよう。
 しかし、蒼魔と一番長い国境を接しているのは、
 我らが鬼呼族の地。ゆえに我らが第二陣だ。
 また、蒼魔族が我らの地に突っかけてきたら
 先陣を保証することは出来ぬ。その時は諦めてくれ」

銀虎公「承知した」

火竜大公「獣人、鬼呼の二氏族ならばおさおさひけは取るまいが
 蒼魔族はなにやら得体が知れぬ。十分に気を引き締めて
 かかって欲しく思う」

紋様の長「心得た」
銀虎公「任せるが良い」

火竜大公「さて、我ら竜族も相応の義務を果たさねばなるまい。
 お役目をお願いした四氏族には、我ら竜族から食料や
 必需品を運ばせよう」

銀虎公「かたじけないなっ!」
224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:19:59.10 ID:OGIpmW2P
紋様の長「そのようなところ、ですか」

東の砦長「もう2点お願いしたいことがある」

火竜大公「なんだ? 衛門の族長よ」

東の砦長「そいつは流民のことだ。
 いっくら蒼魔族が他と交わらない、
 内部統制で上意下達の氏族だと云ったところで例外はあるだろう。
 あちこちの街に少数暮らしている連中がいるはずだ。
 そいつらの保護をお願いしたい」

銀虎公「何故そのような細々としたことを。
 たいした人数でもないではないか。
 形勢に影響を与えるとも思わん」

東の砦長「戦に関しちゃその通り。
 だが、こいつは戦が終わった後のためだ。
 俺たちの方が蒼魔族をよってたかって滅ぼしたのでは“無い”
 ってことを、誰かに証人になって貰わなきゃ困る」

巨人伯「……ふむ」

東の砦長「今回の戦にしたってそうだ。
 この世界から蒼魔族を一人残らず、女子供も皆殺しにするっ
 ていうのならそんな気を遣わないでも済むが、そうはいくまい?
 俺たちは皆殺しとは行かないが、そんな無法は通らないからな。
 だが残された蒼魔族は恨むぜ? 事と次第によっちゃぁ、
 “何もしていない蒼魔族を恐れた他の氏族が
 よってたかって蒼魔族を攻撃した”って子々孫々まで語り継ぐ」

鬼呼族の姫巫女「そのようなことも、無いとはいえんな」
225 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:22:35.33 ID:OGIpmW2P
勇者(……こいつの統治センスってのは、切れ味あるな)

東の砦長「だから、そうではないってあたりを
 今から意識しておかなきゃまずい。
 蒼魔の一族だけなら、全面戦争になれば勝てない
 相手じゃないのだろう? だったらなおさらだ。
 なーに、面倒なことになりそうだったらまとめて開門都市に
 送ってくれてもよい。
 あそこは氏族も人種もごちゃごちゃだから、
 迫害も大きくはないさ」

碧鋼大将 こくり

火竜大公「して、もう一点は?」

東の砦長「こちらの方が、ある意味重要でな。領民の安堵だ」

妖精女王「ふむ」

東の砦長「これも今云った話と関係あるのだろうが、
 いったい今起きていることは何なんだ?
 仲間内の利権沙汰のごたごたなのか、
 それとも戦争なのか、小競り合いなのか。
 どうすればこの状況は解決するんだ? ってな話だよ」

銀虎公「そもそも蒼魔族が不意の裏切りで
 我らを攻撃してきたことから端を発したのだ。
 この戦はその間違いを糾弾するのが目的であり、
 そのようなことは自明であろうがっ」
碧鋼大将「そのとおり、そのような問い自体、
 我らに向けられるべきではない」

鬼呼族の姫巫女「しかし、それでは領民の不安はどうする。
 蒼魔族の責任を問う。それはそれで正論なれど、
 我らが領民のその疑問に、蒼魔族が答えてくれるはずもない」
226 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:24:43.40 ID:OGIpmW2P
東の砦長「そう言うことだ」

銀虎公「……っ」

巨人伯「領民に……大きな声で……おしえる」
火竜大公「ふむ」

東の砦長「俺もそれが必要だと思うぜ。
 今回の戦は、忽鄰塔中に乱心した蒼魔族の新王が父親を殺害し
 一族の軍を率いて他の氏族を攻撃した、ってな」

銀虎公「父を殺害!? それは本当なのかっ!?」

東の砦長「いや、事実は知らないが。そのほうがいいだろう?」

火竜大公「……そうだな」
妖精女王「結果的に間違った推測では無いと思います」

紋様の長「それを領民に語って聞かせる、と云うのか」
鬼呼族の姫巫女「面白い考えだ」

東の砦長「俺たちの街は今必死で畑も作っているが、
 度重なる戦で神殿も農地も壊されて、
 すっかり疲れ果てちまっていたんだ。
 戦も辛いが、民にとって一番辛いのは
 何をやっているか判らないことだというな。

 自分たちの国や軍が何をやっているか判らないと、
 自分たち民では何の手も打てない気分がして、
 自分が無力で取るに足りないちっぽけば存在に過ぎないと
 いう気分で、だんだんと腐ってゆく。

 こいつは町も人も産業も腐らせるぜ?
 何せ心の根っこが腐ってゆくんだからな。
 そうなったら、街は酷い有様になる」
227 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:27:01.55 ID:OGIpmW2P
鬼呼族の姫巫女「……」
勇者「……」

東の砦長「そいつをどうにかするには、
 何が起きたからこうなって、この状況はどれくらい酷くて、
 またどれくらい希望があって、どういう風になれば
 解決するんだってことを、教えてやらなけりゃならない。
 まぁ、事が戦だ、全部教えるってわけにも
 全部真実って訳にもいくまいが……」

銀虎公「ふむ、つまりはこういう事だろう?
 全ての民も戦場に出ないだけの戦士だと。
 将軍ならば士気を鼓舞するのもその手腕である、と」

東の砦長「そうそう、そういうことだよ。虎の旦那」

銀虎公「だが、ふぅむ」

銀虎公「そうとなると、いよいよ、我らが蒼魔族との一戦に
 どのような決着を望んでいるのかが重要になるだろう」
妖精女王「……決着」

紋様の長「そうだな。蒼魔族が自分の領地から
 出てきたところを叩く。
 それだけでは、永遠に決着などつかぬ。
 何も攻め込んで征服しようと誘うわけではないが、
 最終的にはどのようになればいいのか、と云う話にも通じる」

鬼呼族の姫巫女「そうだな」
 (あるいは魔王殿は、我らが望む未来の我らを
  我ら自身に考えさせたかったのであろうか……)
228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:29:01.42 ID:OGIpmW2P
東の砦長「……それは俺には難しいな。
 新参者の俺には、蒼魔族との戦が、
 様々な氏族にどのような利害関係があるのか
 感情的にはどのようなもつれがあるのかは判らねぇ」

鬼呼族の姫巫女「我ら鬼呼族は先の乱世において
 蒼魔族と長い長い戦闘を続けてきた。
 我ら氏族には蒼魔族とに対する恨み辛みが根付いている。
 だがそれは領土や支配権に関わる問題で、
 当時の魔界では日常的に起きていた抗争なのだ」

銀虎公「俺たちも人魔族との争いが絶えなかった」

紋様の長「当時は大小様々な氏族が入り乱れ、
 この会議の席には来ていない、中氏族や戦闘氏族を
 如何に取り入れるかと云う謀略も日常でした」

勇者「そうだったのか……」

火竜大公「ふむぅ」
巨人伯「まずは、知らせる……」

火竜大公「そうだのぅ。まずは、先のこと。
 “蒼魔族の新王が裏切り、忽鄰塔を襲った”と云う事実を
 領民に告げるとしよう。そして戦に怯える領民のために
 蒼魔族は領地へと戻ったために、当面みんなが住まう場所は
 安全であると云うことを伝えるのだな。
 念のために警備兵の増強なども進めてゆくという、
 いわば根回しを領民にするにはよい機会だろう」

紋様の長「妥当な対応でしょうな」
鬼呼族の姫巫女「戦の決着については、それぞれの氏族が
 よく考えて、その考えを持ち寄る必要がありますね」
230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:30:28.63 ID:OGIpmW2P
銀虎公「では、当面の蒼魔族への対応はそのようで」
東の砦長「おう」

銀虎公「さっそく領地へと戻るとするか」
碧鋼大将「ふむ……。衛門の長どの、後で時間を。
 商取引に関する話がある」

東の砦長「判った」

巨人伯「……かえって、声の大きいモノに、噂を広めさせる」

火竜大公「それで宜しいか? 黒騎士殿」

勇者「おお。見事にまとまったな。
 大公殿、これからもよろしくお願いする」

火竜大公「なんのなんの! はぁっはっはっは」

紋様の長「そういえば、魔王殿の様子は?」

勇者「ベッドからでる事は出来ないが、
 口先だけは元気になってきているよ」
東の砦長「そいつぁ、良かった」

勇者「今日の会議の結果も、早速伝えよう」

銀虎公「お願いいたす、黒騎士殿」

火竜大公「では、今回の会議はこれで終了とする。
 何もなければ次の会議は40日の後、ということに。
 蒼魔の動きは途切れず報告を入れ合うとしよう」

一同「心得ました」
233 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:54:09.68 ID:OGIpmW2P
――魔王城、深部、魔王の居住空間

女騎士「ほら。口を開けて」
魔王「……」

女騎士「何で嫌そうな顔?」
魔王「このシーンは、わたしと勇者が行うのが常識だろうに……」

女騎士「勇者は会議に出たり忙しいの」
魔王「だからといって……」

女騎士「あーん」
魔王「くっ」

女騎士「……あーん」
魔王「ううう。……」ぱくっ

女騎士「それでよし」
魔王「……なんだか屈辱的だ」

女騎士「友達だろうに。気にする方がおかしい」
魔王「そうか? そういうものなのか?」

女騎士「うん、そうだ」
魔王「女騎士は……。わたしやメイド姉妹と話す時は
 言葉が少しだけ優しいな」

女騎士「……そうかな?」
魔王「うん、そうだ」
234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:55:15.98 ID:OGIpmW2P
女騎士「これでも一応軍を率いていたりするからな。
 男に舐められないようにしようとすると、
 やっぱり言葉遣いもそうなってしまうんだろうな」

魔王「そういうことか」

女騎士「……やはり女らしくないと好かれないよな」
魔王「そんなことはない。女騎士は女らしいと思うぞ」

女騎士「……」ちらっ
魔王「?」

女騎士「魔王が言っても説得力がない」

魔王「む。そう言うことではない。わたしは……その。
 確かにここのサイズは大きいが、包容力とか、母性とか、
 細やかな気遣いとか……色気とかにかけていると
 よく指摘されるのだ。女らしさでは、女騎士に大きく劣る」

女騎士「そんなことはないと思うけれど」
魔王「そもそも、女らしさとはどういうモノなのかよく判らぬ」

女騎士「うん」

魔王「書物にあるらしい耳かきや添い寝なども試してみたが
 勇者に大きな感銘を与えたようにも思えぬ。
 ……そもそもちょっと隙を見せると、すぐに襲いかかってきて
 場面は暗転、結ばれるのが男女ではなかったのか」

女騎士「わたしも相当に偏っている自覚があるけど
 魔王はその比じゃないな」

魔王「ふむぅ……」
235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 16:57:33.41 ID:OGIpmW2P
女騎士「……よく判らないけど」
魔王「うん」

女騎士「わたし達は、ある側面では勇者に避けられてるんだ」
魔王「……」

女騎士「……」

魔王「この話は、止めよう」

女騎士「うん」

魔王「ああ。メイド妹の料理が懐かしいな」

女騎士「そうだな。もちろんこの城の料理だって最高だが」
魔王「そうだが、メイド妹の料理には、
 最高の料理にも無いような、特別な味わいを感じるのだ」

女騎士「ああ。その気分は判るぞ」
魔王「パイが食べたいな」

女騎士「あははははっ。気持ちはわかる。
 けど、いまはこれだ。ほら、あーん」魔王「むぅ……」

女騎士「ふふふっ」
魔王「やはり屈辱的だ」

女騎士「健康になってから復讐すればいいさ」
魔王「もちろんだ。このお礼は勇者にする」

女騎士「え?」
魔王「女騎士にはそれが一番よく効くって判っているからな!」
242 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/23(水) 17:14:13.25 ID:OGIpmW2P
――聖王国、国境沿いの貿易の街

小麦の卸人「小麦! 小麦~!

 大麦もあるよ、今朝入荷! 早いもん勝ちだ!
 ふっくらパンにも、オートミールにもぴったりだ!
 一袋、新金貨7枚だ」

太った市民「旧金貨じゃ駄目なのかい?」

小麦の卸人「だめだめ。そんな金貨は聖王国じゃもう使えないよ。
 そんなものが使えるのは、南の蛮族の国だけだ」

旅の商人「まだまだ市中には旧金貨が残っているというのに」

小麦の卸人「市の宿舎に行くんだね。そこで旧金貨と
 新金貨を取り替えてくれるよ」

太った市民「だが、取り替えると行ったって旧金貨を350枚
 持っていっても新金貨を100枚だけじゃないか……」

旅の商人「タイミングを逃したからさ」

小麦の卸人「さぁさ、おろしたての小麦! 小麦はどうだい?」

太った市民「……くそっ。そんな小麦、金持ち以外
 食えるわけが無いじゃないかっ」

旅の商人「まったくだ」

がやがや……がやがや……

酒場の店員「そう言えば聞いたことがあるかい? あの噂を」

太った市民「噂?」
243 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 17:15:58.88 ID:OGIpmW2P
旅の商人「ああ、光の子の村の噂かい?」
酒場の店員「ああ、それだ」

太った市民「なんだい、それは?」

酒場の店員「なんでも、この聖王国を中心に、
 大陸のあちこちに新しい村が作られているらしいのさ。
 多くは森の中や山中や古く滅びた村があったような
 戦場らしいんだが。
 それらの村には沢山の小麦が集められていて、
 食うには困らないらしいんだ」

太った市民「なんだいそりゃ、すごい話じゃないか!」

旅の商人「ああ、どうやらその噂は噂じゃないらしい。
 教会が特別な任務のために、農民や開拓民を集めて
 訓練を行っているそうなんだ」

酒場の店員「そいつが最新の話さ。
 どうやら、その話のおおもとの所は『聖骸』にあるらしい」

太った市民「『聖骸』……?」

酒場の店員「そうさ。聞いて驚け。
 なんと、光の精霊様のご遺体だ!」

太った市民「ええっ!?」
旅の商人「なんだって!? そんなものが本当にあるというのか?」

酒場の店員「さぁなぁ。噂だから俺にも本当のところは判らない」

太った市民「俺は精霊様って云うのは、もっとなんか、
 風とか光みたいなものだと思っていたよ」

旅の商人「うーん」
244 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 17:18:19.64 ID:OGIpmW2P
酒場の店員「だが、教会はその『聖骸』は
 魔族に奪われたと云っているんだ。
 魔族から『聖骸』を奪い返すために今までにない
 精鋭兵が沢山必要とされる。
 そのための『光の子の村』で訓練するんだって話だぜ」

太った市民「ふぅむ……。でも、飢えなくて済むんだろう?」

旅の商人「ああ、それはそうらしい。別の街でも聞いた話だ」

酒場の店員「光の精霊の恵みなんだとさ。
 その村では、一日二回のパンの食事と、昼にはこってりした
 にんじんのシチューが出るらしい。しかも夜のパンは
 真っ白いふかふかのパンだって云うじゃないか」

太った市民「白いパンが出るのか!?」

旅の商人「何とも豪勢な話じゃないか」

酒場の店員「ああ」こくり 
 「この話からつまり教会は
  どうやら随分本気なのじゃないかって云われているな」

旅の商人「本気……?」

酒場の店員「ああ、ここだけの話だが、こんなにも小麦が
 値上がりしているのは、教会が買い占めを行って、
 その『光の子の村』へと送っているせいじゃないかと。
 そんな話があるんだ」

太った市民「!!」
旅の商人「そうか、そう言うこともあり得るよな」
酒場の店員「だろう?」

太った市民「でも、だとすれば、本気で戦争をするんだな」
旅の商人「そうだなぁ、だが、光の精霊のためなのだろう?
 ならば、それはそれで仕方がない」
245 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 17:19:31.43 ID:OGIpmW2P
酒場の店員「ああ、まったくだ。精霊の恵みあれ」
太った市民「恵みあれ! 我が暮らしにもせめて黒いパンを」

旅の商人「だがそう言うことになると、見てみたいな。その村を」

太った市民「俺は見るよりも住んでみたいよ。
 だってそうだろう? 光の精霊様のご遺体を取り返す、
 つまり正義の戦いをするだけで、食事がもらえる。
 飢えなくて済むなら俺だってそんな村に行きたいよ」

教会職員「無理な話ではありませんよ」
旅の商人「へ?」

教会職員「すみませんね、耳に入ってしまいました。
 ……その『光の子の村』は増えているんです。
 何せ卑劣な魔族との戦いの時が迫っていますからね。

 教会へ毎晩の懺悔にやっていらっしゃい。
 近いうちにまた『光の子の村』へと送られる優秀な人々への
 祝福が始まると思いますよ。
 最近教会は、この特別の祝福を求める方で
 ごった返しているのです」

酒場の店員「本当ですかい? 司祭様!」
太った市民「本当なんですか!?」

教会職員「わたしはまだ司祭などという身分ではありませんが
 云っていることは嘘偽りはありませんよ。
 今晩にでもまた新しい隊が荷物をまとめてこの街を発つでしょう」

太った市民「俺も行ってみたいぞっ」がたっ
旅の商人「それを言うなら俺だって!」

教会職員「では是非教会へといらっしゃい。
 司祭さまが、あなたたちの献身を待っていらっしゃいますよ」



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