魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」6-2
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 18:20:59.62 ID:LAEzTxgP
東の砦将「しかし、魔界は地上と比べれば豊かだよな」
副官「そうですね~」
メイド姉「魔界?」
魔王「しまった」
東の砦将「云っちゃダメだったのか?」
勇者「まだ内緒にしてたんだよ」
メイド長「困りましたね」
女騎士「そんなことか」
勇者「女騎士。そんなことって云うけれど、
なかなかこれはデリケートでさ」
女騎士「わたしに任せろ」ズシャァ
勇者「上手くごまかしてくれ」
メイド姉「魔界って、あの魔界ですか?」
女騎士「そうだ」えへん
メイド長「……」
魔王「まんま認めてるではないかっ!?」
女騎士「ここは魔界ので一番の高級リゾートでな」
メイド長「たしかに一番高級、はあってますね」
女騎士「あちらにいる君たちの主人はこのリゾートの持ち主でもある」
198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 18:23:40.39 ID:LAEzTxgP
メイド姉「ご当主さまが!?」
魔王「ま、まぁな」
女騎士「そんなわけで格安利用できたのだ」
メイド姉「そうだったんですか。ご当主様はどこかの
貴族だと思っていましたが、こんな領地をお持ちとは」
メイド妹「うんうん、美味しかった」
メイド長「微妙なずれが気に掛かりますね」
東の砦将「いや、いくらなんでも魔界だぞ」
副官「あんなにけろっと受け入れられるものですか?」
メイド姉「では、魔界の貴族様なんですね?」
魔王「あ。ああ……貴族というか、なんというか……」
女騎士「有り体に言えば王族なのだ」
メイド姉「それで魔王様ですか。やっと得心しました。
以前から、まおー様とか魔王様などの呼びかけを受けて
らっしゃいましたから、不思議には思ってたんです」
メイド妹「お姉ちゃん、どうゆう事?」
メイド姉「えーっと。うーん……」
メイド妹「?」
メイド姉「ご当主様は、美味しい料理のたくさん出てくる
お城をもってるんだって。で、地元には今の屋敷とは
別の領地もお持ちなのですって」
メイド妹「そっか! お金持ちなんだっ♪」
勇者「大物だっ!?」
199 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 18:25:40.80 ID:LAEzTxgP
魔王「いや、お金はあんまり無いのだが……。
城も代々のお下がりで維持費も馬鹿にならないし。
直轄領からの税収はインフラと領地運営でかつかつだし……」
メイド姉「没落した偉い貴族様なんですって」
メイド妹「没落はどっちでも良いよぉ。美味しい料理が重要だよ」
メイド姉「それでも、ご飯は美味しいのじゃないかしら」
メイド妹「美味しい?」
メイド長「昨日でた宴席料理のような物が基本です」
メイド妹「すっごいねぇ! お金持ちだよ、お姉ちゃん!
ご馳走も出てくるし、料理も上手だよ~♪」
魔王「いやっ。そのっ。なにもわたしが作ってる訳じゃ……」
東の砦将「これはこれで逸材だな。ちびの嬢ちゃん」
メイド姉「そうね」にこにこ
メイド妹「当主のお姉ちゃんは偉いと思ってたけれど
本当に偉かったんだね~。すごいよぉ、また料理教えて貰おう!」
女騎士「……ぷっ。くくくくっ」
副官「あはははっ」
メイド姉「あんまり邪魔をしたらダメですよ。忙しいのですから」
メイド妹「うんっ♪」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
魔王「わたしは料理なんてまったく……」
勇者「魔族ってあたりは何のショックもないんだなぁ」
200 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 18:55:13.04 ID:LAEzTxgP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”滝の温泉
ザザァ、カポーン
女騎士「それにしても……。はぅぅぅん」
女魔法使い「……」
女騎士「食べて温泉、ごろごろして温泉、そして宴会だなぁ」
女魔法使い「……それが温泉宿」
魔王「慰労であるからな」きゅっきゅ
女騎士「うん……。あ゛あ゛」
魔王「なんて声を出すのだ」
女騎士「熱い湯に入ると自然に漏れるのだ。仕方ない」
女魔法使い「……はぅぅ」
魔王「……ふぅぅ」
女騎士「……平和だなぁ」
女魔法使い「……」
魔王「魔王城だからな」
女騎士「やはり、あれか?」
魔王「?」
女騎士「こういう生活を続けていると……肉がつくのか?」
女魔法使い「……なるほど」
魔王「そんなことはないぞ。
わたしだってこんなに温泉三昧なのは初めてなくらいだ。
幼少の時からこっち、研究生活一筋だったからな」
201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 18:56:37.42 ID:LAEzTxgP
女騎士「研究かぁ……はぅぅ」
魔王「言っておくが肉を増やす研究ではないぞ」
女騎士「自慢なのか」
女魔法使い「……コンプレックスとナルシズムの軋む音がする」
魔王「いっ、いいではないか。事実だっ」
女騎士「ろくな運動もせずに不摂生をしているから贅肉がつくのだ」
魔王「わたしのは駄肉だっ。まだ贅肉ではないっ」
女騎士「どういう区別で使ってるんだ?」
魔王「そ、それはメイド長が……」
女騎士「?」
魔王「“男を捕まえられない肉は宝の持ち腐れだから駄肉”
だって云っていたんだ。魔族の女性として恥ずかしいと」
女騎士「どうも魔族のそのあたりの文化は直接的すぎると思う」
女魔法使い「……同意」
魔王「わたしが創った文化ではないっ」
女騎士「もっと他にも色々あるだろう。細やかさとか、
気配りとか、家のことを細々と整える能力とかっ」
女魔法使い「……女騎士には一つもない」
女騎士「それ以外にもあるっ。突進力とか剣技とか武勇とか
堅固な守りとか、詠唱能力とかっ」
魔王「魔族の文化だって、破壊力で異性を物にしようというほど
無骨で野蛮ではないぞ」
202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 18:58:11.67 ID:LAEzTxgP
女騎士「愛情とか、貞節とか、誠意とかはどうなんだ」
魔王「そんな物はあっても当たり前だ。当たり前の物が
あるだけではライバルに勝てないではないか」
女騎士「そうなのか?」
魔王「貞節については、地上の方が相当に厳しいと思うがな」
女騎士「ふむ……」
魔王「こちらでは、貞節は貞節で重要とされるが、
それは精神的な関係においてだな。
結婚に関してはまた少し別だ。
特に身分が高い場合、子供を残すことも重要だからな」
女騎士「それは、地上の王族と似たような事情か?
たしかに王族ともなれば、側室を多数かかえるしな」
魔王「その“側室”という言い方がこちら風に云えば
愛情や誠意の部分で問題がある、と云うことなのだろうな。
心の問題を正室、側室などと順番をつけるのは良くない、と」
女騎士「それで重婚するのか?」
魔王「重婚というとなにやら犯罪的だが、まぁそうだ。
複数を相手とする婚姻関係は、さほど珍しい物ではないな。
だがしかしその辺は氏族にもよる。
蒼魔族などは純潔を重視するから、一対一以外認めようとしない。
そのかわり兄妹で結婚することも一般的だ」
女騎士「魔界ってのはいろいろ有るんだなぁ」
女魔法使い「……人間だって、色々」
魔王「そういうことだな」
203 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 19:00:00.40 ID:LAEzTxgP
女騎士「それにしたって」ちらっ
魔王「はぅぅ……」 ばゆん
女騎士「……」 ちょいん
女魔法使い「……すぅ」 ぷにり
女騎士「身長だって大差がないのに、何でこんなに
戦力差があるのだ。寡兵にもほどがあるぞ」
魔王「何を言っているのだ?」
女騎士「なんでもない」
女魔法使い「……すぅ。……すぅ」ごぼ
魔王「湯に入ると実感する。肩が凝るのはやはり
これのせいなのだ。重しが取れて、すぅーっとするようだぞ」
女騎士「……愛剣・惨殺廻天さえあればっ」ぎりぎりっ
女魔法使い「……すぅ」ごぼごぼごぼ
魔王「魔法使い殿も、なかなか可愛らしい割には
ボリュームもあるのだな。着やせというのか。
ところで、なんで水面につっぷしているのだ?」
女魔法使い がぼがぼがぼがぼ
女騎士「その状況で何で寝続けられるんだっ!?」
217 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 19:24:10.46 ID:LAEzTxgP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”中庭
さらさらさら……
メイド姉「……」
さらさらさら……
メイド長「良い風ですね」
メイド姉「あっ。はい……。メイド長」
メイド姉「……」
メイド長「……」
さらさらさら……
メイド長「やっぱり、ショックでしたか」
メイド姉「……」
メイド長「騙していたことになるのでしょうね」
メイド姉「それは、違います。ちょっとびっくりでしたけど。
……妹は本当にけろっとしていましたけどね。
あの娘は本当に強いから」
メイド長「……」
メイド姉「――たとえ当主様が魔族でも、メイド長や
勇者様が魔族でも、わたし達が救われたという事実には
変わりありません。
あのときの一晩の温かさと食事は、
わたし達を死から救ってくれましたけれど、
それだけではないもっと大事な物も救って貰ったんです」
219 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 19:27:30.57 ID:LAEzTxgP
メイド姉「でも、それとは別に、やっぱりショックです」
メイド長「……」
さらさらさら……
メイド姉「わたしは今まで、戦争という物については
よく知らなくて、ただひたすらに恐ろしかった。
鉄の国でわたしに剣を向けたのは、
同じ南部諸王国の兵士の人でした……。
その狂ったような眼差しが忘れられなくて
いまでも夜中に飛び起きる事があるんです。
だから戦争は恐ろしくて、狂っていて
絶対にしてはいけないこと……そう思いました」
メイド長「……」
メイド姉「でも魔族は魔族だから……
そんな風に考えて……。ううん、考えもせずに
ただそういう風に納得していた自分がいました。
“魔族との戦争は戦争じゃない”そう考えてるわたし。
ショックを受けているのはその自分です。
魔族は悪だからって信じていたから
そうじゃないって判って、
今まで自分の一部分だった古いわたしが
ショックを受けているんです」
メイド長「魔族が善とは限りませんよ」
メイド姉「でも、悪ではない。
わたしは当主様もメイド長さまも知っていますから、
そんなことは判ります」
さらさらさら……
メイド姉「むかし、わたしは当主様に尋ねたことがあるんです」
220 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 19:30:56.16 ID:LAEzTxgP
メイド姉「“戦争って何ですか?”って」
メイド長「……」
さらさらさら……
メイド姉「当主様は云いました。
“村に2人の子供がいて、出会う。
あの子は僕ではない。僕はあの子ではない。
2人は別の存在だ。別の存在が出会う。
そこで起こることの一部分が、争いなんだ。
戦争は沢山の人が死ぬ。
憎しみと悲しみと、愚かさと狂気が支配するのが戦争だ。
経済的に見れば巨大消費で、歴史的に見れば損失だ。
でも、そんな悲惨も、出会いの一部なんだ。
知り合うための過程の一形態なんだよ”
――って」
メイド長「まおー様がそんなことを……」
メイド姉「とても、哀しそうでした」
メイド長「……」
メイド姉「あのときのわたしは、少しも判りませんでした。
同じ人間なのに、偉い人の命令で戦っているだけだ。
これは“出会い”なんかじゃない。
そんなことを思いました。
当主様が何を思ってそんなことを仰ったのか、
少しも判らなかった」
メイド長「……」
メイド姉「今でも、正直に言えば、判ってはいません。
どのような気持ちで、あんな表情をなされたのか。
でも、判らなくてはならないと思うんです」
221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 19:32:59.30 ID:LAEzTxgP
メイド長「強くなりましたね」
メイド姉「そんなことはありませんっ」
メイド長「あなたも、妹も……こほんっ」
メイド姉「はい?」
メイド長「自慢の弟子です」
メイド姉「あ……」
メイド長「……」
メイド姉「……」じわぁっ
さらさらさら……
メイド長「入りましょう。身体が冷えますよ」
メイド姉「はい」
メイド長「メイド姉?」
メイド姉「はい」
メイド長「世界は広大で、果てがない。
そこには無数の魂持つ者がいて
残酷で汚らしく醜く歪んだ、でも暖かく穏やかで美しい
ありとあらゆる関係と存在をつくっています。
あなたにはすでに翼がついています。
だからいつかそれらを見て理解できると思います。
諦めなければ、きっと」
メイド姉「はい。――先生」
228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 19:51:54.30 ID:LAEzTxgP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”エントランス
東の砦将「よーっし。荷物もまとまったぞ」
副官「たいした物はもってきませんでしたしね」
メイド姉「わたし達もまとまりました!」
メイド妹「お土産いっぱーい♪」
メイド長「まおー様、よろしいですか?」
魔王「ん。準備万端だ」
女騎士「移動時間がないというのは本当に便利だな」
勇者「一応ほら、奥義呪文だしな」
東の砦将「いやー。誰にも信用されないだろうな。
魔王上で温泉に入ってきたとか云ったって」
副官「そうですねぇ、まぁいいじゃないですか」
女騎士「そういや、魔法使いは?」
東の砦将「ん? さっきそこらを歩いていたような」
とてててててっ
女魔法使い「……到着」
メイド長「では、帰りましょう」
魔王「勇者は砦将殿を先にお送りしてくれ。待ってるから」
女魔法使い「いい。わたしがする」
勇者「お、いいのか? 開門都市の場所、判るのか?」
女魔法使い こくり
230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 19:53:25.70 ID:LAEzTxgP
東の砦将「よっし、じゃぁ、魔法使い殿と行くかぁ」
副官「よろしくお願いします」
女魔法使い「……ごきげん」
しゅいんっ
メイド長「ではこちらも」
メイド妹「冬越し村に帰ろう~♪」
魔王「勇者、頼むぞ」
勇者「ああ!」
女騎士「これ以上温泉につかっていると、
色んな事を投げ出してしまいそうだからな」
魔王「帰れば山ほど仕事が待っているさ」
勇者「そうだな」
メイド長「またすぐ来ることになります」
魔王「うむ」
女騎士「え?」
魔王「月が開ければ、すぐにでも忽鄰塔だ」
勇者「情報を集めて、交換条件に使えそうなカードの交渉を
すすめないとな。それから冬寂王や、中央の様子も心配だ」
女騎士「そうだな。帰ろう!」
勇者「任せとけ」
しゅわんっ!
231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 20:00:28.24 ID:LAEzTxgP
――地下世界、大河沿いの街、郊外の庵
奏楽子弟「おーい! おーぅい!」
ガキン! ドグチャ
奏楽子弟「なんてボロ屋なのよ、まったく。
うっわ、こ、これ何っ!? た、食べ物っ!?
ぐちゃぐちゃじゃないっ。
おーうい!
いるんでしょー? 起きてよー!」
土木子弟「なんだー」
奏楽子弟「帰ったわよ」
土木子弟「あれ? どこから?」
奏楽子弟「『開門都市』に行ってくるって云ったでしょ!」
土木子弟「そうだっけ? そう言えば、しばらく会ってなかったな」
奏楽子弟「二ヶ月も会ってないのよっ!
ほら、これお土産っ! それに食事もしてないだろうから
こっちは出来合の焼きめしっ。ほら、お茶もっ」
土木子弟「ありがとっ。ふわぁーあぁ」
奏楽子弟「ほっとくといつまでたってもやってるんだから」
232 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 20:01:56.53 ID:LAEzTxgP
土木子弟「仕方ない。工夫と設計、管理と運用。
土木ってのは奥が深いんだ。
師匠が残してくれた本だって完全に理解したと云えるのは
1冊もない。治水からしてまだまだだ」
奏楽子弟「“テキストに溺れる事なかれ”って
云われてるでしょう。
いっくら学んだって実践しなきゃ意味なんて無いじゃないのよ」
土木子弟「そんなこと云われてもなぁ。
そっちの音楽や叙述とちがって、土木ってのは馬鹿みたいに
人でも金も必要なんだよ。一人でやるには限界がある」
奏楽子弟「兄妹弟子がこのていたらくとは、
あたし情けないわよ……」
土木子弟「そういうなよ。やっとここの近くの村は
一通りの潅漑指導が終わったんだ」
奏楽子弟「どうだった?」
土木子弟「ま、生産性は上がったんじゃないか?
土木ってのはすぐには結果が出ないから、
数年のオーダーで改良をしていくべきだと思うけれど、
耕作可能面積は倍近く増えたはずだ。
あとは河が肥料を運んでくれるのを待てば良いな」
奏楽子弟「へぇ、善行したじゃない」
土木子弟「まぁねー」
奏楽子弟「で、報酬は?」
土木子弟「ぼちぼちかな。ほらっ」
234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 20:03:34.61 ID:LAEzTxgP
奏楽子弟「わぉ、すごっ!」
土木子弟「やるよ」
奏楽子弟「ええっ。いいよ、そんなのっ!」
土木子弟「俺の稼ぎがない時は、なんだかんだと
面倒見てくれたじゃないか」
奏楽子弟「そりゃ、ほら。演奏ってのは日銭になるから」
土木子弟「こっちは長い時間かけて報酬が出る。
山分けすれば、同じことさ」
奏楽子弟「そう? ……じゃ、預かっといたげる」
土木子弟「おう、頼んだ」
奏楽子弟「……」
土木子弟「……もぎゅもぎゅ」
奏楽子弟「ここの仕事は、一段落?」
土木子弟「ああ」
奏楽子弟「どうしよっか」
土木子弟「つってもなぁ。次の仕事は決まってないし。
師匠はどこに行っちゃったのかまったく判らないし」
奏楽子弟「うん……」
土木子弟「もっと色んな工事をしてみたいけれど、大規模な
潅漑や堤防の作成、水道や道路の敷設、築城なんてのは
大氏族の族長でもないとやらないし。
俺、平民だからそんなコネはないしさ」
奏楽子弟「まったく稼ぎにならない技術だなぁ」
土木子弟「何を言う。土木は技術の王様なんだぞ」
235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 20:04:58.06 ID:LAEzTxgP
奏楽子弟「へー」
土木子弟「師匠が云ってたんだ」
奏楽子弟「師匠はあれはあれで浮世離れした人だから……」
土木子弟「天才だ」
奏楽子弟「浮世離れした乳だったからなぁ」
土木子弟「天才だ」
奏楽子弟「ま、それはいいとして。ほらっ」
土木子弟「え? なんだよ?」
奏楽子弟「出掛けるよ」
土木子弟「どこへ?」
奏楽子弟「仕事、無いんでしょう?
『開門都市』は今すごく景気がよいみたいなのよ。
城壁の修理とか道路の敷設とか、そんな話しもでているしさ。
だんだん交易が戻ってきたから税収も上がってるんだって。
おまけにあそこはどこの氏族にも支配されていない独立都市。
わたし達みたいな妖精族と鬼呼族の若造でも
何とか仕事にありつけるわよ」
土木子弟「そりゃ、いい話だな」
奏楽子弟「いける?」
土木子弟「師匠の本の他にはもっていく物もろくにない」
奏楽子弟「じゃぁ、旅立とう♪」
土木子弟「でかい仕事にありつきたいもんだ」
奏楽子弟「あたしだってサーガの一本も書き上げたいわよ」
258 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:01:59.48 ID:LAEzTxgP
――冬の王宮、執務室
執事「そうではなくて、お茶は濃いめ。砂糖は二つ」
宮殿女官「は、はぁ」
文官「生産物税の書類はどこに仕舞ってあるのでしょうか?」
執事「去年の分までは商人子弟殿の執務室。
それ以前は文書館ですな」
宮殿女官「冬の女王への親書の文面が出来ました」
文官「それは若にお見せしてご裁可を頂くように」
ばたばた
ばたばた
冬寂王「忙しそうだな」
執事「おお、若」
冬寂王「やはり大変か?」
執事「いえいえなんの。せっかくのお役目ですからな」
冬寂王「やはり少し心配だが」
執事「心配めさるな、若。これでも爺は若い頃は
ちょっと無茶するダンディーでならしていたのですぞ」
冬寂王「余計に心配だ」
執事「とはいえ、このお役目、他にこなせる人もおりますまい?」
冬寂王「それはそうなのだが」
259 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:03:06.03 ID:LAEzTxgP
諜報局武官「局長。選抜隊準備整ってございます」
執事「よし、乙種兵装で待機」
諜報局武官「はっ」
冬寂王「魔界の奥となると連絡もままなるまいな」
執事「そうともいえますまい。何とか手立てを見つけます。
潜入偵察とは腕が鳴りますなぁ。
若い頃を思い出して、うきうき心が弾みまする」
冬寂王「くれぐれも若い娘に手を出さぬようにな」
執事「……」
冬寂王「しっかと申しつけたからな」
執事「はぁ……。しょんぼりでございますなぁ……」
冬寂王「爺の役目は調査と、和平の可能性の模索だ」
執事「畏まってございます」
冬寂王「出来れば、今魔族との間に戦争は起こしたくはない。
国内が流入した民であふれかえり、産業が興っているこのとき
中央との確執だけでも手一杯だ」
執事「はっ」
冬寂王「領民の反応を考えると、
軽々な言質を与える事など出来るわけもないが
わたしとしては、何らかの停戦協定なり
秘密協定などを作ることも視野に入れている。
いや、その方がどれだけ助かることかと思っている」
執事「さようでございますなぁ」
260 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:04:25.54 ID:LAEzTxgP
執事「魔界では、いや地下世界では活発な動きがあるようです。
『開門都市』は魔族に奪還されたと云うことですが、
皆殺しにされたと中央が弾劾していた、
商人を中心とした民間人の人間が生き残っているようで」
冬寂王「ふむ……」
執事「どれくらい生き残っておるかは判りませぬが
渡りがつけられれば情報のとっかかり程度にはなりましょう。
魔界には何度も渡りましたが、姿形は人間と変わらぬ
種族も沢山おります。
変装をして偵察する分にはさほど怪しまれたりもせぬでしょう」
冬寂王「出来る限り情報を集めてくれ」
執事「命に代えましても」
冬寂王「いや、それは代えんで良い」
執事「もう歳なのですから格好つけさせてください、若」
冬寂王「爺がいうと冗談にしか聞こえぬ」
執事「にょっほっほっほっ」
冬寂王「それにしても……」
執事「はい」
冬寂王「魔族とは何なのか……。
魔王とはどのような男なのか、最近よく考える……」
執事「ふむ」
冬寂王「世界を統べて、他と戦うとは、
あの世界ではおそらく並び立つもののいない英雄、
征服者と尊敬を受けているのだろうな」
執事「さようでございましょうな」
286 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:50:22.89 ID:LAEzTxgP
――氷の宮廷、小広間
貴族子弟「――と、そんなわけでして」
氷雪の女王「随分働いたようですね」
貴族子弟「いえいえ、食っては寝ての放蕩三昧でしたよ」
氷雪の女王「状況をとりまとめると、どうなりますか?」
貴族子弟「国の単位で三ヶ国通商への参加を希望しているのは、
湖の国、梢の国、葦風の国。この3つですね」
氷雪の女王「ふむ……」
貴族子弟「もっとも、表だって参加を唱えられそうなのは
湖の国だけ。他は“参加はしたいが教会は怖い”という 状況でしょう」
武官「やはり領土問題で?」
密使貴族「でしょうねー。赤馬の国をどうやっても無視できない」
氷雪の女王「もっともですね」
貴族子弟「逆に云えば、赤馬の国と……まぁ、あとはついでに
白夜の国ですか。この二つを説得できれば“挟み撃ち”は
無くなるわけですから、どの国も我が方へ参加を表明しや
すくはなるんでしょうね」
氷雪の女王「農奴の件はどうなのですか?」
貴族子弟「それの前にまず、そのほかの領主のご説明をしましょう」
氷雪の女王「続けなさい」
287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:51:57.04 ID:LAEzTxgP
貴族子弟「えーっと、領主は。……どこにやったかな」
ごそごそ
貴族子弟「ん。……こちらとの通商を望んでいるところは
なんと! 24にものぼりますね。
その多くは自治都市を預かっているいわゆる都市領主ですけどね」
氷雪の女王「やはりその立場ですと、交易が気になりますか」
貴族子弟「ええ。小麦を始め物資が高騰して
“売れない”と云うのも確かに痛いのでしょうが、
それよりなにより“荷が動かない”と云うのが痛いようで」
氷雪の女王「どういう事です?」
貴族子弟「物資の値段が高かろうと安かろうと、
自治都市を預かっている領主にとっては
直接影響が大きい訳じゃなかったんですよ。
特に交易だけで考えた場合はですね。
金貨2枚で買った物を3枚で売っても
金貨5枚で買った物を6枚で売っても、儲けは同じ金貨1枚でしょ」
氷雪の女王「ふむ」
貴族子弟「しかし、今回の事件で、物資の値段が上がってしまった。
あがったなりに売り買いがあれば良いんでしょうが、
物が売れないから荷が動かない。
荷が動かないと通行税も市門税も取れないんです。
歌船河のほとりのある都市の領主は、
河船税が去年の1/10になってしまったと嘆いていましたよ」
氷雪の女王「そういうことですか」
288 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:53:42.77 ID:LAEzTxgP
貴族子弟「彼らの立場からすれば、
いま一番荷が動いているように見えるのは南部です。
南部と関われば、物資の流れが生まれて税金が取れる。
何も自分の所で物を生み出さなくても
物が流れる通路になればお金が落ちてくると云う思惑です」
氷雪の女王「それはそれで、頼りがいがありませんね」
貴族子弟「ええ、まぁ。
……例えば武器の輸出をしたとなれば
あとから聖教会に睨まれるって事もあります。
でも、“武器とは知らず、荷の行き来の途中にあっただけの都市”
であるだけなら、どうとでも言い逃れは出来ますからね。
通商を望んでいる、とは云ってもこちらの傘下に入りたい、
同盟したいと云うほど強く望んでいるのはいくつある事やら」
氷雪の女王「……」
貴族子弟「だが一方、彼ら都市領主は農奴の権利解放については
そこまで目くじらを立ててはいませんよ。都市に住む職人や
ギルドの関係者の殆どは農奴ではないわけですから」
氷雪の女王「そうですね」
貴族子弟「農奴の解放について神経を尖らせているのは、
耕作面積や教会の発言力が大きい国です。
麦の国や楡の国が代表格ですね。湖の国も本来大きいですが、
あそこは湖畔修道会発祥の地だけあって、農奴解放の報せが
早く浸透しました。下からの突き上げもあって、湖の国の
女王はこちらに親しい方へ傾いています」
氷雪の女王「ふむ」
貴族子弟「全般的に云うと、貴族には自信がないのでしょう」
290 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:56:11.95 ID:LAEzTxgP
氷雪の女王「自信、ですか?」
貴族子弟「ええ。貴族の暮らしは税金によってまかなわれて
いるわけで、暮らしの物質的側面以外は、
身分制度によって支えられてるんですよね。
つまり、王によって“お前は有能だ!”と保証されて
農奴や家臣からは“あなた様に従います!”と崇められて、
それで精神的には満たされているわけですよ」
氷雪の女王「……」
貴族子弟「それにたいして、農奴という最下層の、
いわば“身分制度の底”を失ってしまうとどうなるか。
自分自身も世界もがらがらと崩れてしまうのじゃないか?
その辺が不安でならないんでしょう。
見て判るとおり、農奴の解放を達成しつつある
我が通商同盟でだって、
開拓民や農民は、相変わらず税を納めている。
もちろん徐々に仕組みは変わっていっていますけどね。
貴族が居なくなったわけではないのです。
別に農奴解放=貴族は全員死刑なんてことはない。
でも、彼らは自信がないんでしょうね-。哀れなものです」
氷雪の女王「それにしては……」
貴族子弟「はい?」
氷雪の女王「貴族子弟は、貴族なのに随分余裕が
あるように見えますね」
貴族子弟「ああ、それはもちろんですよ」
氷雪の女王「?」
貴族子弟「ぼかぁ、雅を信じていますからね。
連中は貴族のくせに、雅も文化も信じていやしないのです」
292 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 22:58:09.59 ID:LAEzTxgP
氷雪の女王「文化……」
貴族子弟「歌だの踊りだの芸術だのってのは
決して馬鹿にした物ではないのです。
犬がドレスを着ますか? 猫が絵を描きますか?
熊が詩作をしますか? 豚が歌劇を演じますか?
そんなことをするのは魂を持つ我らだけですよ。
これぞ人間らしいと云うものです。
無駄に見えても、ちゃぁんと意味があるんです。
わたし達がわたし達であり、
わたし達の今日をわたし達の明日につなげるために
文化と洗練は続いていくんですよ。
貴族に生まれたのなら、
それくらい信じないでどうするんでしょうね?
下からおだてられないと貴族を続けていけないのなら
とっとと商人にでも軍人にでもなってしまえばよいのに。
生まれただけで貴族面しているから、これっくらいのことで
動揺するんですよ。
“事はすべてエレガントに運べ”と祖母も云ってました」
氷雪の女王「……ふふふっ」くすくす
貴族子弟「女王陛下だってそう思いますよね?」
氷雪の女王「ええ、本当に。ああ、おかしい。くすっ」
貴族子弟「今後はいかがしましょう」
氷雪の女王「赤馬の国を頼みます」
貴族子弟「では」
氷雪の女王「ええ、もちろん。
事はすべてエレガントに運びなさい」
314 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 23:48:26.86 ID:LAEzTxgP
――鉄の国、王都宮殿、護民官詰め所
軍人子弟「うわぁぁぁあああ!?」
鉄国少尉「ど、どうしたんでありますか? 護民卿!」
軍人子弟「限界でござるよう」 がたがた
鉄国少尉「しっかりしてくださいよっ」
軍人子弟「拙者軍人なのにっ。軍人なのにっ」
鉄国少尉「わたしだって軍人ですってば」
軍人子弟「落ち着くでござる。拙者落ち着くでござるよ」
鉄国少尉「ゆっくり深呼吸でも」
軍人子弟「ひっひっふーひっひっふー」
鉄国少尉「それは妊婦では?」
軍人子弟「ひぃぃぃ、書類がぁ」がくがく
鉄国少尉「錯乱しすぎです、護民卿!」
軍人子弟「その“護民卿”というのが諸悪の根源でござるよっ。
拙者一介の軍人にて、街道防衛部隊指揮官だったはずなのに」
鉄国少尉「軍人が功を上げて階級が上がるのは当然じゃないですか」
軍人子弟「それがなんで卿なんてつくでござるかっ!」
鉄国少尉「それは、ほら。
鉄の国は軍人貴族で構成されてますから。
基本的に行政職は全員軍人ですし。
将官以上は全員部署を持って国の仕事しませんと。
“軍人は戦争の時しか仕事していないので、
平時は行政の仕事をすべし”というのが鉄の国のモットーです」
軍人子弟「ひぃぃ、騙されたでござるぅ!?」
320 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 23:53:55.40 ID:LAEzTxgP
鉄国少尉「まぁまぁ、現実をみすえてくださいよ」
軍人子弟「書類怖い書類怖い」ぶるぶる
鉄国少尉「そんなに怖い物ですかねぇ」
軍人子弟「書類間違えるとぶたれるでござる。
騎士殿が拙者を剣の腹でぶつでござるぅ。
学士どのが鉄定規でぶつでござるぅ。
椅子に座れなくなるでござるよ。
トイレで泣くでござるよ」ぶるぶる
鉄国少尉「何か過去にあったのかなぁ……」
軍人子弟「そっ、そんなことはないでござるよっ」がばっ
鉄国少尉「まぁ、落ち着いてくださいよ。茶でも飲んで。
書類が怖いのなら、俺が読んで聞かせますから。
なんせ子弟殿にほれこんで、あの峠からずっと
ついてきたんですからね」
軍人子弟「有り難いでござる。拙者挫けそうでござった……」
鉄国少尉「んで、まぁ。死ぬほど沢山書類があるわけですが」
軍人子弟「ぐふっ」
鉄国少尉「目下のところは、これ。
これ一枚解決すれば書類の半分は解決しますよ」
軍人子弟「……どういう案件でござるか?」
鉄国少尉「ぶっちゃけ、“人が増えてるからどうにかしろ”
という王様からの命令書ですよ」
322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 23:57:17.77 ID:LAEzTxgP
軍人子弟「はぁ? 人が増えたら良いではござらんか」
鉄国少尉「まぁ、良いことですけどね。
人が増えれば食べ物だって一杯作れるし、
戦争した時だって強いですから」
軍人子弟「で、ござるよね」
鉄国少尉「でも、とりあえずの所は問題が山積みな訳です。
そもそも何でこの国にここまで移民が来ているかって云うと
食料が豊富で農奴の解放が進んでいる三ヶ国通商同盟のなかで、
中央に対して国境線が比較的近いのが
冬の国と我が鉄の国だからですよね」
軍人子弟「そうでござるな」
鉄国少尉「しかし、そこでやってくる移民っていうのは
殆どが逃亡農奴や、貧しい開拓民で、
財産なんてろくに持っていなかったりするわけです。
たとえ財産を持っていた場合でも、一家族で他国へとやってきて
いきなり食っていくのは相当に難しいですよね」
軍人子弟「そう言えばそうでござるなぁ」
鉄国少尉「今まではそういた移民は冬の国や氷の国にも
お願いしたり、あちこちの村にちょっとずつ
引き受けて貰ったりして分散の処理してきたんですが、
それも限度を迎えているわけで」
軍人子弟「ふむふむ、それでどうしたんでござるか?」
鉄国少尉「そこで護民卿が解決すると」
軍人子弟「ほほう! ……それって拙者じゃござらんかっ!」
330 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 00:05:14.66 ID:GDf918.P
鉄国少尉「そもそも護民卿ってのは民を護る役ですからね」
軍人子弟「ううう」
鉄国少尉「まぁ、さっきの話も問題ですが、
貧しくなって食い詰めた開拓民が溢れれば、
窃盗や略奪などの問題も起きてきます。
色んな国からやってきた人々は、文化も生活習慣も違いますから、
地元民とトラブルを起こすケースもありますよ。
ここにある山のような書類は、そういった苦情が多いんです。
もちろん、我ら護民卿の部隊が、酷い物については
対処しているわけですが、受け皿を作らないと苦情の量は
減らないんですよ」
軍人子弟「それは、その通りでござるな」
鉄国少尉「……」
軍人子弟「……」
鉄国少尉「どうです?」
軍人子弟「うーん。……師匠の教えでも、いくつかのケースは
学んだんでござるが……。開拓民、でござるかぁ」
鉄国少尉「……」
軍人子弟(確かにやっかいでござるねぇ。
場合によっては暴動なんてことも起きかねないでござるし、
何よりも、無秩序に開拓を行った場合、防衛上の飛び地が
無数に出来る恐れもあるでござるし……)
331 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 00:07:32.41 ID:GDf918.P
軍人子弟「ギルドはどうでござるか?」
鉄国少尉「ギルドですか?」
軍人子弟「鉄工ギルドは、徒弟として受け入れてくれたりは
しないでござるかね?」
鉄国少尉「はぁ、それは聞いてみますね。
ギルド評議会で良いのかな。
……それにしても徒弟ですから、
多くて5人とか10人の世界じゃないでしょうかね……」
軍人子弟「で、ござるか。とすると、そもそもの工房を
こちらで用意して、職人を招聘して教えて貰うとか。
……工房よりも大規模になるでござるかねぇ」
鉄国少尉「工房ですか?」
軍人子弟「いやいや、違うでござるね。……うーん。とりあえず」
鉄国少尉「とりあえず?」
軍人子弟「希望者は全て軍で雇用するでござるよ」
鉄国少尉「はぁ!?」
軍人子弟「だって、“軍人は平時は行政の仕事をする”のでござろう?
それなら兵科を新設するでござる。工兵の下に。
平時は農業を営む、半農半軍の組織を作るのでござるね。
軍務は、とりあえず5年。5年つとめれば、適当な金額と
農地を与えると云うことで設立できるでござろう」
鉄国少尉「軍で、ですか」
334 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 00:09:13.10 ID:GDf918.P
軍人子弟「妻子連れであっても受け入れ可能なように、
年齢規制も広げるでござる。
氷の国に近い荒れ地や森林に送り出して開墾を
お願いするでござるよ。
あのあたりであればそうそう戦にも巻き込まれぬ内側だし
河もあれば丘もあるでござろう? 人手さえあれば
優良な放牧地とのうちになるはずだと聞いてござった」
鉄国少尉「支援体制は? 食料などはどうするんですか?」
軍人子弟「軍人でござるから、当然国家からの支給を
すべきでござろうね。
この件については直接、鉄腕王に奏上するでござる。
ただ、馬鈴薯の生育速度を上手に使えば3年で
十分に元は取れるでござろう」
鉄国少尉「はぁ」メモメモ
軍人子弟「軍内部にも開拓民出身、開拓民の子弟だった
軍人は多く在籍しているでござろう?」
鉄国少尉「それはもう。わたしがそうだったくらいですからね」
軍人子弟「7人ばかり集めて、この計画の問題点と、
課題を洗い出しておいて欲しいでござる。
それから修道院への協力要請を。
前回も思ったでござるが、やはり従軍の医療者を
どうにかすべきでござるね。
医療兵、という科の新設も検討するでござるよ。
そうすれば、新しく開拓をした村を結ぶ巡回路を
設定するだけで、疫病を早期発見したり傷病者の元へ
訪れる事が出来る仕組みも作れるはずでござる」
335 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 00:12:11.63 ID:GDf918.P
軍人子弟「加えて、街道整備でござるね」
鉄国少尉「街道、ですか?」
軍人子弟「街道の有無で、行軍スピードに
倍の差がつくことも珍しくはないでござる。
特に我が国および、三ヶ国は歩兵が多いでござるからね。
物の流れも、人の流れも街道に左右されるでござろう?
この際、街道を新設したり、古い街道の拡張をすべきでござろう」
鉄国少尉「どこにそんな金が?」
軍人子弟「これについては、
氷の国と冬の国に無心しにいくでござるよ」
鉄国少尉「はぁ……?」
軍人子弟「鉄の国だけではなく、まずは大街道の整備を
三ヶ国横断でやるでござる。そうすれば、交易も便利になるし
人同士の交流も自然に起きるでござろう?
鉄の国の財布も楽でござる」
鉄国少尉「それはそうかも知れませんが」
軍人子弟「さらに前後して、鉄工所を作るべきでござるか」
鉄国少尉「鉄工所……?」
軍人子弟「大規模な鉄工房でござるよ。職人を育てるにも
働きながら育てられた方が良いでござろう?
国営の機構を作って、武具の補充も目指すべきでござろうね」
鉄国少尉「お気づきでしょうが」
軍人子弟「なんでござる?」 きょとん
鉄国少尉「莫大に仕事が増えましたね」
軍人子弟「ひぃぃ、騙されたでござるぅ!?」
最終更新:2010年05月14日 16:08