6-1


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」6-1


22 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:47:37.22 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”大きな客間

ガチャ

勇者「……ん、っせっと。っと」
魔王「……すぅ」

勇者「うわ、こりゃまた。……すげぇな。
 良く判らんけど、ベッドに天井ついてるぞ」

魔王「……んぅ」

勇者「そぉっと、そぉっと……。
 うわ、近寄ると余計すげぇ。
 ……下手な宿屋の部屋と同じくらい
 でかいぞ、このベッド。どんな布団だよ」

 ぼふっ

魔王「うー」

勇者「起こしちゃったか」

魔王「……うー」

勇者「気持ち悪いか? トイレ行くか」
魔王「……」きゅっ

勇者「いや、けろけろ吐くなら俺の服には吐くなよ?」
魔王「くっ……」
(メイド長っ。こんな発言にどうやってムードなんて
 作ればいいのだっ!?)
23 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:49:25.05 ID:z6GJxeoP
魔王「むぅ。平気だ。……でも、少しついてて欲しい」
勇者「うん、判った」

魔王「……」くてっ
勇者「結構飲んでたもんな」
魔王「うん。久しぶりだ。楽しかった」

勇者「そりゃよかった」

魔王「勇者」くてん
勇者「なんだ」

魔王「権利保持者的言動をしていいか?」
勇者「ん? いいけど?」

魔王「そうか」にこ「じゃあな」
勇者「うん」

魔王「靴を脱がせてくれ……ないか?」
勇者「へ」

魔王「ぬ、脱がせてくれ。その……ベッドが汚れるか」
勇者「う、うん……」

魔王「早くぅっ、するのだっ」ぱたぱた
勇者「暴れるなよ。汚れるんだろ」
24 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:50:34.69 ID:z6GJxeoP
魔王「んぅ。くすぐったい」
勇者「ったく……。これでいいか?」

魔王「ん。楽になった」くてっ ごろごろ

勇者「転がって移動するなよ」
魔王「広いのだ。立つとふらふらする」
勇者「はいはい」

魔王「勇者は飲んでないのか?」
勇者「いや、飲んだけど。酩酊するほどじゃない」

魔王「そうか、つまらないな」
勇者「なんで?」

魔王「勇者も酔ってれば楽しいだろうに」
勇者「なにが?」
魔王「雇用、実質利子率、および収益率の関係について
 2人で語り合うんだ。面白いぞう。ふふふふっ」
勇者「わかんないよ」

魔王「ぷくくくっ」
勇者「お前、相当に酔っぱらってるだろう?」

魔王「お酒は酔うために生産されたんだ。
 つまり私が酔っていないと云うことは
 酒類生産者の努力を無にしているではないか」ばふばふ

勇者「そりゃそうかも知れないけどさ」
25 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:51:33.70 ID:z6GJxeoP
魔王 ぽむぽむ
勇者「?」

魔王 ぽむぽむっ!

勇者「そこへ来いって?」
魔王「そうだ」

勇者「いいけど」

とさっ

魔王「勇者だ」のしっ
勇者「勇者だよ」

魔王「いいなぁ。暖かくて、触り心地がよい」
勇者「この酔っぱらいめ」

魔王「嗚呼! 自分を褒めたい。
 あの時の私はなんて目利きだったんだろう。
 自分の賢さを再確認できるというのは
 人生における喜びの一つだと私は思うなぁ」

勇者「その喜びはどうやら俺にはないようだ」

魔王「そんなことはないぞ?」
勇者「そうか?」
26 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:52:29.07 ID:z6GJxeoP
魔王「だって、勇者はあのとき、
 私を選んでくれたじゃないか……」

勇者「う、うん……」

魔王「勇者はとても賢い。本当だ。
 本当にするために、私はあらゆる手を尽くすぞ?
 そうしたら、勇者はいつか
 “あのときの俺はなんて賢かったんだろう”って。
 そう云えるようになるだろう?」

勇者「お、おう」

魔王「それでいいではないか、勇者」にこっ
勇者「おう。あんがとな」

魔王「いいんだ。私は、勇者のものだからな」
勇者「う、うん……」(どきどき)

魔王「……」
勇者「……そのぅ近くないか?」

魔王「離れないとだめか?」
勇者「だめ……じゃないんだけど」

魔王「それでこそ勇者だ」くたぁ
勇者「楽しそうな」

魔王「かなりな」
27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:53:33.42 ID:z6GJxeoP
勇者「なんだかなぁ」
魔王「勇者もまったりしないか?」

勇者「へ?」

魔王「まったりして、しばらく喋ったりしよう。
 どうせ戻っても、もう宴もお開きだろう。
 まだ眠くはないし、たまにはいいだろう?」
勇者「えーっと」

魔王「場所開けてあげるぞ。広いし」
勇者「えーっと」

魔王「だめ……か?」
勇者「そう言われるとすごく断りづらいんだよな」

魔王「うむ。学習した。
 その時は肩をぎゅっとすぼめるようにして、
 半分泣きそうな表情でやると
 効果が倍増するという分析も出た」

勇者「……ちょっと用を思い出したので、また」

魔王「わかった! すまん! 謝りますっ
 以後乱用はしないっ。約束するっ!」

勇者「ふんっ。油断の隙もないな」
28 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:55:32.81 ID:z6GJxeoP
魔王「いいではないか。ちょっぴりごろごろするくらい」

勇者「魔王がごろごろするのに文句は言ってないよ」

魔王「いいではないか。ちょっぴり一緒にごろごろするくらい」

勇者「別にごろごろすることそのものじゃなくて
 あっさり魔王の手に乗っている自分自身に
 そこはかとないお手軽さを感じてきついわけだよっ」

魔王「難しい年頃だな」
勇者「簡単に生きたいのに、なんで難しくなる」

魔王「ほら、場所作ったぞ」
勇者「わぁったよ」

ぽふっ

魔王「脚を伸ばしてくれ」
勇者「なんで?」

魔王「靴を脱がせてやる」
勇者「いいよ! 自分で脱ぐよっ!」

魔王「いいではないか。私だって脱がせてもらった。
 くすぐったくて、ぞくっとして、
 正直未知の感覚だが、背徳的常習性を感じたぞ?」
29 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 19:56:48.85 ID:z6GJxeoP
勇者「そんな訳のわからない常習性を感じたくないよ」
魔王「面白いのに」
勇者「面白くないって云ってるのっ!」

こつん、こつん、こつん……

勇者「誰だろう」
魔王「通路だな」

こつん、こつん、こつん……

勇者「……」
魔王「……」

こつん、こつん、こつん……

勇者「……何で息殺してるんだよ。魔王」
魔王「……勇者こそ、何か罪悪感でもあるのか?」
勇者「……少しもないよ」
魔王「……私だって堂々としたものだ」

こつん、こつん、こつん……

勇者「……」
魔王「……やっぱり押し黙るじゃないか」

ギイィィィィ

勇者「っ!?」
39 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 20:36:29.15 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”大きな客間

女騎士「えーっと、7番。……8番」

コツ、コツ、コツ

女騎士「9番目。っと……私の部屋はここか。
 荷物は届いてるって云うけど……」

ギイィィィィ

勇者「っ!?」
魔王「……」
女騎士「……」

女騎士「なっ! 何をしているんだ、2人はっ!」
勇者「な、なにって」

魔王「夜のお茶会だ」
女騎士「魔王のごまかし方はそれだけかっ!」ぽかっ

勇者「いや、落ち着け」
魔王「だ、だって! だいたいっ!
 女騎士こそ何をしているんだ。
 こんな時間にいきなり訊ねてきてっ」

女騎士「いきなりも何も、この部屋は9番だろう?
 私に割り振られた部屋だぞ」

魔王「何を言うんだ。9番は私の部屋だ!」

勇者「そうなのか? 俺も9番だぞ?」
40 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 20:37:37.41 ID:z6GJxeoP
魔王「そんな馬鹿な話がある物か。
 クローゼットを見てみろ。ほら、これは私の鞄だ。
 やっぱり私の部屋ではないか!」

女騎士「いや、その奥のケースは私のものだ。バッグも。
 どうやら私の荷物もこの部屋に運び込まれているらしい」

魔王「じゃぁ、この風呂敷も?」
勇者「……いや、それは俺のです」

魔王「……」

女騎士「3人ともこの部屋なのか……」
勇者「誰が部屋割りしたかは予想がつくけど」

魔王「部屋が足りないわけでもあるまいに。
 なんでこういうことになるのだ」

女騎士「なんか、檻に入れられて戦う、
 コロセウムののライオンのような気分に……」

魔王「……せっかくこちらが攻めていたのにっ」
女騎士「何か言った?」

魔王「ううう。なんでもない」
女騎士「でも、やっぱり部屋割を組み直さないと」

勇者「そうだな。まぁ、2人で寝てくれ。
 俺は何処でも寝れるし。んじゃ、またあした」しゅたっ

魔王「少し待て」 女騎士「ちょっと待って」
41 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 20:39:03.38 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”大きな客間

  女騎士「――。――――」
  魔王「――――、――!」

勇者「なんだかなぁ」

魔王「あー。勇者。話がまとまったぞ」
女騎士「待たせて済まなかったな」

勇者「へ?」

魔王「今晩は3人で寝る」
女騎士「そう言うことでよろしく」

勇者「またまたぁ」

魔王「一度あったことだ。二度目は問題ない」
女騎士「教会の正義からすれば問題はあるのだが
 精霊様が細かく諭しておられた分野でもないことだし
 今回はお許し願おう」

勇者「……う、うう」じりじり

魔王「何でそう嫌がる」
女騎士「そうだ、嫌がるなんておかしいぞ」

勇者「別に一緒に寝るぐらいちっとも嫌じゃないけど
 お前達は空気が重すぎるんだっての!」
43 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 20:41:03.84 ID:z6GJxeoP
魔王「それなら安心しろ」
女騎士「今晩の所は休戦協定だ」

勇者「へ?」

魔王「いや、メイド長の作戦に乗って
 毎回のように戦ばかりというのも面白くない。
 だから今日は、喧嘩はしない」

女騎士「うん、私も魔王と喧嘩はしない。
 張り合わない。すこし話をして、寝るだけだ」

勇者「そう……なのか?」

魔王「そうだ。……んっ」ひょい

魔王「このあたりの部屋には、全ての部屋に小さな浴室が
 ついているのだ。汗を流して夜着をきてくる」

女騎士「いいのか?」
魔王「休戦だから信頼しよう。勇者と話でもしていてくれ」

とっとっと、かちゃ

女騎士「そう怯えない。剣の主のくせに」
勇者「お前ら、すごい勢いで喧嘩するからなぁ」

女騎士「それもこれも勇者が原因だ」
44 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 20:42:34.35 ID:z6GJxeoP
勇者「うすうす、判ってはいるんだけど」
女騎士「まぁ、勇者らしいけれど」

勇者「はぁ……」
女騎士「ため息をつかない。
 ……休暇の旅行に来てなんだけど、
 なんとかっていう魔界の会議があるというしな」

勇者「ああ。忽鄰塔とかいう」
女騎士「それだ」

勇者「何か云ってたのか、魔王?」

女騎士「良くは判らないけれど、
 随分厳しいのじゃないか? 何を目指すかにもよるが」

勇者「そういえば、最近は何だか
 相談したそうだった気もするな……」

女騎士「私も知識はないのだがな」えへんっ
勇者「俺だって無いよ」

女騎士「私よりは、魔界の知識はあるだろう?」
勇者「細かい知識はあるけれど、仕組みや、
 組織は良く判らない。地上みたいな意味での国家は
 あんまり感じたことがないな」

女騎士「そういえば、魔界でその種の国境を
 感じたことはないな……」
45 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 20:44:05.64 ID:z6GJxeoP
勇者「氏族とか、種族とか云う言葉、何となくで使うけど
 よく考えると細かい部分が不明瞭だしな」

女騎士「とりあえず、知能がないのが魔物。
 私たちの世界で云う、動物だよな。
 知能があるのが魔族。
 これはあちこちの都市や荒野に住んでいる」

勇者「忽鄰塔は、魔族の族長が集まり、重要事項を
 決定する大会議、って云ってたな」

女騎士「そこでよい決議が出れば、人間との戦争は終わる?」
勇者「それだったらいいんだけど」

からからから、カチャン

魔王「ふぅ」

女騎士「早かったな」
魔王「さんざん風呂には入ったから、汗を流しただけだ」

女騎士「じゃあ、私も借りる」
勇者「いってらー」
魔王「暖まっているぞ」

とっとっと、かちゃ

勇者「忽鄰塔の話をしていたんだ」
魔王「ああ」

勇者「困っているのか?」
魔王「困っている、と言うわけでもないのだが
 状況はあまり芳しくないな」
57 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 21:34:33.16 ID:z6GJxeoP
勇者「んー。そもそもの基本から聞きたいんだが、
 魔族って云うのはどれくらいの氏族がいるんだ?」

魔王「判らないな」

勇者「おいおい。把握もしていないのか?」

魔王「増えたり減ったりしているんだ。
 名乗りの問題でもあるからな。
 例えばある若者が新しい氏族だと名乗りを上げるなら、
 それは新しい氏族なんだ。
 もちろん古い氏族から縁を切る必要はある。
 魔族の社会は氏族を中心に動いているから
 “氏族から離れる”というのはなかなかに勇気のいることだ。
 でも、勇気があれば誰にでも可能なことなんだ」

勇者「ってことは、その会議にはおびただしい族長が来るのか?」
魔王「そうなるな」

勇者「良くそんなんで会議になるな」
魔王「大会議に出席するのは八つの大氏族と魔王だけだ」

勇者「そうなのか?」

魔王「ああ。さっきも云ったように、
 氏族というのは莫大な種類があるんだ。
 正確な統計ではないが、おそらく魔族と呼ばれる
 知的種族の4割は、そう言った雑多な氏族だよ。
 残りの6割を八つの大氏族がしめている。
 会議に出席する魔王は、4割の雑多な種族の信任を受けている。
 そういう建前なんだ」

勇者「そういうことなのか」
58 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 21:36:46.53 ID:z6GJxeoP
勇者「で、会議の議題とかは誰が出すんだ?」
魔王「基本的には魔王だな。話の流れで他の族長が
 出すこともあるが、進行は魔王だからな」

勇者「ふむふむ、その辺は人間の会議に似てるな」
魔王「普通だ」

勇者「で、話合う内容について、意見が割れたらどうなるんだ」
魔王「意見が割れないように話合う」

勇者「それでどうにかなるものなのか?」
魔王「意見をまとめるために、長い期間をかけるんだ。
 話し合いで一ヶ月をかけることもある」

勇者「そうか……。ちょっと想像がつかないな」
魔王「数日ごとに会議を繰り返すんだが、
 当然その間には各氏族が意見のことなる氏族に
 個別に交渉を行ったりするんだ。
 贈り物をしたり、婚姻の約束をしたりもする。
 時には圧力をかけることもあるな。
 そうして意見を調整するんだな」

勇者「ああ、そういうことか。多数派工作ってやつだな」
魔王「そうだな。それで、だんだんと意見をすりあわせて
 最終的には全会一致で結論が出る」

勇者「ふぅん……。それでも結論が出ない、
 っていうか、論が割れちゃったりしたらどうなるんだ?」
魔王「最終的には割れたことはないんだ」

勇者「――?」
魔王「300年ほど前の咬竜の焔魔王の治世に行われた
 忽鄰塔において、獣人族の族長が頑として
 同意しなかったことがある」

勇者「そうそう。あるだろう? そういうとだってさ」
魔王「そこで、焔魔王はその族長を消し炭にしてしまったんだ。
 結論は全会一致で素直にまとまったそうだ」
60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 21:39:05.26 ID:z6GJxeoP
からからから、カチャン

女騎士「良いお湯だった」
勇者「お帰り」

女騎士「話の続きはどうだ?」
勇者「いま聞いてたよ、やっぱり地上とは
 いろいろ手続きが違うもんだなぁ」

女騎士「そうか……」

魔王「布団に入るぞ?」 もそもそ
勇者「聞く前から入ってるじゃないか」

魔王「べつに急いで入った訳じゃない」
女騎士「勇者は真ん中」

勇者「えーっと」

魔王「早く入れ。勇者」
女騎士「入らないと、わたしが入れないじゃないか」

勇者「おう」 もそもそ

魔王「ふぅ。なんだかこれはこれでよいものだな」
勇者「天井つきベッドなんて初めてだよ」
女騎士「天蓋って云うのだ」

魔王「まぁ、忽鄰塔の話はそんな感じだ」
女騎士「なかなかやっかいそうだ」

勇者「一筋縄ではいかなさそうだなぁ。
 だいたい魔王だったら“消し炭にしてしまう”なんて
 しないだろう?」

魔王「そんな実力はないし、したくもないな」
61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 21:40:22.17 ID:z6GJxeoP
女騎士「条件面で折り合うとか、説得するとか」
魔王「まぁ、一氏族ごとに地道に行くしかないのかも知れぬ」

勇者「……」

魔王「どうした? 勇者」

勇者「あ、いや。魔界で見聞きした色んな人を思い出していた。
 あの人達はどの氏族だったのかなぁ、って」

魔王「様々な氏族の者どもがいるからな」

女騎士「戦った記憶ばかり鮮明だけど、考えてみると
 生活していたり家族がいるんだな。不思議だ」

魔王「こちらだって不思議に思っている。
 殆どの魔族は人間なんて見たことがないんだからな」

勇者「そうだよな」

魔王「……ぅぁぁぅ」

女騎士「眠そう」

魔王「少し眠い」

女騎士「寝るとするか」

勇者「話の続きは、また明日にでも」

魔王「そうだな。勇者」
女騎士「うん、勇者」
62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 21:41:19.33 ID:z6GJxeoP
 むぎゅぅ すりっ

勇者 びきっ

女騎士「我ら二人が喧嘩をしなければ、良いのだろう?」
魔王「うむ。喧嘩さえしなければ勇者を堪能できるわけだ」

勇者「……寝るんじゃないですか」

女騎士「寝るから暖を求めてる」
魔王「落ち着きすぎて眠れないくらいだ」

勇者「すごく辛い気がするんですが」

女騎士「つらいのか? 剣の主。どこが辛いんだ?」
魔王「何か問題があるようだったら、わたしがすぐに解決するぞ?」

勇者「もういいっす」

女騎士「そうかそうか」
魔王「あいかわらず、もふもふだなぁ」

 むぎゅぅ すりっ

勇者「多分幸せなんだけど」

女騎士「それについては早めに結論を出すべきだな」
魔王「そうしないと有利子負債が膨らむばかりだぞ、勇者よ」
79 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 22:17:28.20 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”客室

メイド妹「んぅ……」ぼへぇ
メイド姉「……すぅ……すぅ」

メイド妹「あ。おねーちゃんだ」
メイド姉「……すぅ」

メイド妹「おねーちゃん、おねーちゃん」ゆさゆさ
メイド姉「……くぅん」

メイド妹「朝やよ ごはんつくららいと」ぼへぇ
メイド姉「……んぅ」

メイド妹「パンやからいと、おねーちゃん」
メイド姉「……んぅー。……すぅ」

 ほわぁ

メイド妹「おいしいぱん。ほかほか……においする」ぼへぇ
メイド姉「んー。いもーと。今日は、旅行よ……」

メイド妹「そか」きょろきょろ

メイド姉「すぅ……。すぅ……」

メイド妹「わ! わぁ! あ、朝ご飯があるっ」ずざざっ
80 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 22:18:44.99 ID:z6GJxeoP
メイド姉「すぅ……。すぅ……」

メイド妹「ど、ど、どうしよう?
 作ってないのに朝ご飯があるよっ。
 どうすればいい?
 お姉ちゃん、朝ご飯だよぅ」

メイド姉「……んぅ。……なかったらおなか減る癖にぅぅ」くて

メイド妹「そっか」

メイド姉「……くぅ」

メイド妹「そういえばそうだよね」

メイド姉「すぅ……。すぅ……」

 ほわぁ

メイド妹「良い匂い」じゅるっ

メイド妹「ど、どんなかなぁ……。わ。わ。黒いパンと、
 白いパンと、ベーコンエッグと、黄色い果物と、
 これなにかな。……ジャガイモのポタージュだぁ♪」

メイド姉「んっぅ」のびっ

メイド妹「お姉ちゃん。起きた?
 ご飯だよ! ご飯できてたよっ!」

メイド姉「すごいね」にこっ

メイド妹「食べて良い?」
メイド姉「二人で顔を洗ってからね」
81 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 22:20:18.27 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”午前の岩風呂

ザパーン、ザプーン

東の砦将「おうっ」
勇者「おっす。おはよう」

東の砦将「何だ、顔色悪いな。眠れなかったのか」
勇者「いや、いろいろ……」

東の砦将「そうか。まぁ、色々あらぁな」
勇者「……主に自分が敵だったんだけど」

東の砦将「戦場では良くある事さ。しゃぁねぇな!」

勇者「なんだそれ?」
東の砦将「酒だ。用意してくれたんだ」

勇者「昼から飲んでるのか?」

東の砦将「昼からだから美味いんだろう」
勇者「うーん。一理あるな」

東の砦将「よし、いこうぜ」

トットット……トク、トクッ

勇者「うっす。では一献」
東の砦将「乾杯!」

勇者・東の砦将「ぷはぁっ!」

勇者「肴は何なんだ?」
82 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 22:21:16.04 ID:z6GJxeoP
東の砦将「ああ、焼いた小魚と、野菜の塩もみだ」
勇者「美味そうだな」

東の砦将「どんどん行こうぜ」 トク、トクッ

勇者「ああ……。ぷはぁ」

東の砦将「で、どうなんだ?」
勇者「なにがさ」

東の砦将「どれが本妻なんだよ」
勇者「へ? 何の話だ?」

東の砦将「おいおいおい。家族旅行だって云っただろう?」
勇者「“みたいなもん”だよっ」

東の砦将「ほぉ」にやり
勇者「ど、どうだっていいだろっ!」

東の砦将「隠すなって」
勇者「隠してないって」

女魔法使い「……興味津々」

勇者「うわっ!?」

東の砦将「ど、どこにいたんだっ」

女魔法使い「……潜っていた」

東の砦将「魔、魔、魔法使いの嬢ちゃん」
83 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 22:22:28.09 ID:z6GJxeoP
東の砦将「どういう人間なんだ」

勇者「こういうやつなんだ。
 とらえどころはないけど、悪いやつじゃない」

女魔法使い「……本妻争奪戦勃発。実録極道物語」

東の砦将「えー」
勇者「……」

東の砦将「嬢ちゃんが本妻なのか?」

勇者「そんなわけがあるかっ!」
女魔法使い「……本妻なんかよりも深い仲?」くたっ

勇者「だいたいなんで魔法使いがここにいるんだ。男湯だぞ」
女魔法使い「……混浴」

勇者「混浴でも何でも問題有るだろう。ううう、なんとかしろ」
女魔法使い「……迷彩魔法で問題なし」

東の砦将「何か肌色をした四角が一杯ちらちらしてるが」
勇者「どこが迷彩なんだっ」

女魔法使い「……最先端の薄いぼかし」

東の砦将「本当にとらえどころがないなぁ」

勇者「これで魔法使いとしての腕は特級なんだ。
 導師クラスだろうが小指でひねれる」

東の砦将「そいつはすげぇな」
女魔法使い「ごきげん」
109 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 22:57:19.79 ID:z6GJxeoP
東の砦将「こうして昼から風呂の使って酒を飲んでると
 浮き世のしがらみが、すーっと抜けていくな」

勇者「うーん」
女魔法使い「……勇者はぬけないの? お尻が青いから?」

勇者「もう青かねぇよっ」

女魔法使い「……赤かったらお猿」

東の砦将「どうした? なんかあるのかい?」

勇者「あー。まぁ」

東の砦将「なんだい」

勇者「忽鄰塔って判るか?」

東の砦将「ああ、大族長会議だろう。
 魔王……って昨晩のあの美人が招集したって云う。
 その話は、今じゃ魔族なら四つの子供でも知ってるぜ」

勇者「そっか」

東の砦将「忽鄰塔がどうかしたのか?」

勇者「出来れば、その族長会議で、人間との共存の道を
 探りたいんだけれど、どうなるか判らないんだよなぁ」

東の砦将「そいつぁ、無理ってもんだろう?」

勇者「へ?」
112 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 22:59:43.56 ID:z6GJxeoP
東の砦将「いや、だからよ。今度の忽鄰塔は人間世界への
 遠征の規模を決めるもんなんだろう?」

勇者「誰がそんな話を?」

東の砦将「世間じゃもっぱらそういう話だ」

勇者「それは誤解だ。魔王はそんなことは望んじゃいない。
 永久和平条約とは行かなくても、何とか停戦というか
 少なくとも荒っぽくない結末を望んでいるんだ」

東の砦将「いや、そいつは昨日話を聞いたから判るけれど。
 今度の忽鄰塔じゃ無理だろう?」

勇者「なんでだ?」

東の砦将「だって、魔族の間に“今度はどこまで攻め込む”
 なんて話がある時点で意識が
 そっちに向かっちまっているってことじゃないか。

 みんなが戦争を望んでいるとは思わねぇが、
 うわさ話がこう流れてるって事は
 戦争したい誰かさんにとっては好都合なんだ。
 そいつはきっとこの流れを利用している」

勇者「……っ」

東の砦将「戦ってのは、武器だの人数だの練度も大事だけど
 こういう数字には出せないような“雰囲気”ってのも
 大事なんだよ。
 雰囲気を持ってかれちまった軍は大抵負けるな。
 傭兵生活が長いと、この匂いをかぎ分けるようになる。
 負け戦の軍に傭兵が居着かないのはそのせいさ」

勇者「……うん」
113 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 23:01:08.91 ID:z6GJxeoP
東の砦将「その上、八大氏族だ」
勇者「ん?」

東の砦将「人魔族、蒼魔族、巨人族、竜族」
女魔法使い「……獣人族、鬼呼族、妖精族、機怪族」

勇者「それが八大氏族なのか?」

東の砦将「知らなかったのか?
 まぁ、とにもかくにも。
 この八大氏族のうち、人間との和平……というか、
 共存を望んでいるのは妖精族だけだ」

勇者「へ?」

東の砦将「妖精族だけなんだよ。共存を望んでいるのは」

勇者「だって開門都市には色んな氏族の人たちがいる
 じゃないか。それをいうなら火竜公女だって」

東の砦将「それは時勢、ってやつだ。
 もし共存と決まれば、そりゃ共存するしかないだろう?
 開門都市では少なくとも、当面共存と決まった。
 だとすればその中でどう生きるかって話だよ。
 俺たちは本当は共存なんて望んじゃいなかったんだ、
 なーんて泣き言を言っても始まりゃしない。

 それと同じように、共存を望んでいない派閥だって
 もし共存になったらと考えて、色々手は打ってるさ」

勇者「そうなのか……」
114 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 23:02:18.16 ID:z6GJxeoP
東の砦将「公女の嬢ちゃんの話によれば、
 火竜の一族は頭は固いが馬鹿じゃないって事らしい。
 竜族は大体のところ山岳部に住んで、
 あまり他の魔族とも関わらない孤高の種族なんだ。
 共存に反対って云うよりは放っておいて欲しいって事だな。

 だが、竜族の住む山にはえてして鉱山物資が眠っている。
 魔界では少ない純度の高い鋼の取れる山も竜族のものだ。
 そういう場所に住んでいて、トラブル無しとは行かない。

 だから、娘の一人には、出来る限りの学をつけて
 人里に送り出したんだ。
 もちろん公女の嬢ちゃん本人の性格もあるけどな」

勇者「そうだったんだ」

女魔法使い「……それぞれの氏族も内側は複雑」

東の砦将「まぁ、そうゆうこともある」

勇者「そうなのか?」

東の砦将「枝族といってな。
 氏族の中も小さな氏族に分かれているんだよ。
 たとえば公女の嬢ちゃんは竜族のなかの、火竜族、
 その名門大公家の娘だ。
 竜族はほかにも飛竜族だの土竜族だのがいる」

勇者「複雑なんだなぁ」

東の砦将「まぁ、生きてるんだから仕方ない」
117 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 23:05:10.01 ID:z6GJxeoP
勇者「……」
東の砦将「どうした」

勇者「でも、どうにかしなきゃ」
女魔法使い「……」

東の砦将「ふぅむ」
勇者「……」

東の砦将「黒騎士だの魔王の力でどかんと……やっちゃまずいか」
勇者「ああ」

東の砦将「そいつは親父のげんこつと一緒だもんな」
勇者「そうだ。出来れば俺たちは手を出さないで事が
 うまく運べばいいのに」

女魔法使い「……」

東の砦将「俺にもなんて云って良いのかは判らないが
 例えばさっきの竜族みたいに“共存にしたい訳ではないが
 あえて云えば中立”みたいな氏族も他に探せばいるかも知れない。
 あいにく公女みたいな知り合いは俺には他にいないから、
 詳しい事情はわからんがよ」

勇者「ああ」

東の砦将「そういう氏族をきちんと調べてみるのが
 手がかりかも知れねぇな」

勇者「そうだな」
119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 23:07:24.85 ID:z6GJxeoP
女魔法使い「……典範」

東の砦将「ん?」
勇者「なんだ、魔法使い」

女魔法使い「……」

東の砦将「は?」
勇者「……調べればいいのか?」

女魔法使い こくり

勇者「よく判らないけど、
 テンパンってのを探せば良いんだな?
 たはぁ。捜し物ってのは苦手なんだよな」
東の砦将「ふはははっ。お互いな」

女魔法使い「……」

東の砦将「まぁ、いいさ。そいつは俺の副官にでも言いつける」

勇者「悪いな」

東の砦将「いや、良いってことよ。
 戦争は避けられないかも知れないが、
 そうやって努力しておけば無駄にはならないさ。
 出兵する氏族が一つでも減るかも知れないし
 もし戦争になっても、
 いざという時に情けが刃に乗るかも知れない。
 俺だって、てめぇがいつか助かるために
 あがいてるにすぎないんだからな」
180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 17:56:18.27 ID:LAEzTxgP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”テラス

メイド姉「お茶を入れました」
メイド長「ありがとう」

メイド姉「いえ……。静かですね」
メイド長「ええ」

メイド姉「……」こくっ
メイド妹「~♪」

メイド長「メイド妹は何をしているのです?」

メイド妹「日記を書いてますー」

メイド長「日記?」

メイド姉「最近は良く書くんですよ」
メイド妹「へへ~」

メイド長「それは感心です。文字は毎日書くにつれ
 理解が深まると云いますからね」

メイド姉「……えーっと」
メイド長「?」

メイド姉「絵が入ってても良いんでしょうか……」
メイド妹「これは、無いと、ダメなのっ」

メイド長「絵が入ってるんですか?」
181 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 17:58:19.26 ID:LAEzTxgP
メイド妹「じゃぁん♪ これは昨日食べたスープ!」

メイド長「あらあら」
メイド姉「そんなに気に入ったの?」

メイド妹「うん、美味しかった! 酪が入ってまーす」
メイド長「あら。レシピまで? 誰に聞いたのかしら」

メイド妹「黒っぽいもやもやのおねーさんに教わりましたー♪」

メイド長「……」
メイド姉「え? え?」

メイド妹「ほかにも、酪を塗って漬け込んだお肉を焼いたの
 の作り方はこれでーす」 かきかき

メイド長「……はぁ。時々この子には驚かされます」
メイド姉「わたしなんて毎日ひやひやです……」

メイド妹「できたー!」

メイド長「ふふふっ。美味しい料理の研究ですか?」
メイド妹「はいっ。美味しいものは毎日書くの」

メイド長「料理以外のことも書くと良いですよ」
メイド妹「そうなのですか?」

メイド長「味の記憶は、印象ですからね。
 その日起きた印象深い事を書いておけば、
 後で味の記憶を思い出す時に役に立ちます」

メイド妹「そっかー! じゃぁ、女騎士のお姉ちゃんが
 謳ったことも書いておこう♪」

メイド姉「あれは忘れたいんじゃないかしら……」
194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/18(金) 18:19:17.44 ID:LAEzTxgP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”広間

メイド妹「これ、牛さんなのっ?」
メイド長「ええ」

東の砦将「牛なんて固くてまずくて食えたものじゃないと
 思っていたけど、これは美味いな」
副官「ええ、豚よりも歯ごたえがあって、爽やかですね」

メイド妹「ね、どーしてっ? どーして柔らかいの?」

メイド長「普通の牛の肉が固くなるのは、
 一杯働いているせいですよ。これは仔牛ですから」

勇者「へぇ、それで違うのかぁ」
女騎士「ふむ、こんな味だとはなぁ」

東の砦将「俺は気に入ったな。
 これ、串焼きにしたら美味いんじゃねぇのか? 岩塩かけて」
副官「いいですね、わたしはこっちの団子が好きですよ。
 スープに浮かべたり、ああ、煮込むのも良いかもしれません」

メイド姉「でも、あまり食べた事がないのはなぜかしら?」

魔王「それは生産性と関係がある。
 馬と比べて気性が大人しい牛は、
 農作業の大切なパートナーなのだ。
 畑を耕したり、牛車で樽を運んだりとな。
 馬車より遅いが、扱いは難しくない。
 それに肉を食べるよりも、乳を搾る方が多くの農民に
 取っては魅力的なのだろう。
 豚に比べて子供の数も多くはないから、一家に乳を提供する
 牛は家族の一員として扱われることもある」

勇者「そっかぁ」
女騎士「何にでも、子細はあるのだなぁ」



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