5-5


魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」5-5


881 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 13:17:41.28 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”、客室・姉妹

メイド妹「すごいすごーい! お布団ふっかふかぁ!」

 ぼふんっ! ぼふんっ!

メイド姉「こら。いもーと。そんなことしないの」
メイド妹「だって、ふっわふわだよぉ? すっごいよ?」

メイド姉「そ、そう?」
メイド妹「うんっ♪」
メイド姉「そうなんだ……」
メイド妹「お姉ちゃんもしようよっ!」

……ぼ、ぼふっ

メイド姉「わ、すごいっ」
メイド妹「でしょー? これ何で作るのかな? 綿かな、藁かな」
メイド姉「鳥の羽で布団を作るって読んだことがあるわ」

 ぼふんっ! ぼふんっ!

メイド妹「そうなんだ! すごいねぇ。鳥さんの羽で
 こんなふわふわ布団になるのかなぁ。――あ」
メイド姉「どうしたの?」

メイド妹「こっちにドアついてる」

とてて、ガチャ

メイド妹「わぁーっ!」
メイド姉「どうしたの?」
882 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 13:18:33.66 ID:z6GJxeoP
メイド妹「なんかね、洋服が一杯掛かってる。
 あと、リネンとか、お風呂もついてるよー」

メイド姉「温泉? 広間くらい広いの?」

メイド妹「ううん。お屋敷のと同じくらいだよ」
メイド姉「そうよね。メイド長も人が悪いから……。
 大広間ほどのお風呂があるなんて、大げさよ」

メイド妹「だよねっ!」

とてて

メイド姉「でも、とっても素敵なお風呂ね」
メイド妹「うんっ。あ、お姉ちゃん!」

メイド姉「なに?」
メイド妹「この石鹸、薔薇の花の形してるよ?」
メイド姉「わぁ……」

メイド妹「すっごいね!」
メイド姉「うん、うんっ」

メイド妹「後で入ろうね!」メイド姉「そうね。二人で入るには大きいくらい」

メイド妹「お姉ちゃんとお風呂だぁ」
メイド姉「そんなにはしゃがないの」
メイド妹「髪も洗って~♪」
メイド姉「はいはい」 にこっ
887 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 13:34:15.13 ID:z6GJxeoP
――魔王城、最下層、冥府殿の扉

女魔法使い「……」
メイド長「どうでしょう?」

女魔法使い「……反応はない」
メイド長「消失しましたか?」

女魔法使い「……判らない。でも」
メイド長「はい」

女魔法使い「この扉を破ったのは、勇者?」
メイド長「そうです」

女魔法使い「……」
メイド長「……」

女魔法使い「……残留思念の止揚結界も、破壊されている」
メイド長「やはり……」

女魔法使い「おそらく、もう継承は行えない。もしくは」
メイド長「もしくは?」

女魔法使い「……世界全てで無秩序に継承が行われる」
メイド長「では、魔王の霊は?」

女魔法使い「世に、放たれた」
893 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:03:21.90 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”、客室・姉妹

こんこんっ

魔王「おーうい、姉~。妹~」

ぱたぱたっ

魔王「わたしだ」

ガチャ
メイド姉「あ、はい当主様っ」
メイド妹「当主のお姉ちゃん、どうしたの-?」

魔王「なにをしていたのだ?」
メイド姉「いえ、お風呂に入って、着替えようかと」
メイド妹「うん。あのね、あのねっ。石鹸が可愛いんだよっ」

魔王「丁度良かった。お風呂に入るぞ」

メイド姉「はい?」

魔王「風呂は、少し離れた場所にあるのだ。案内に来た」
メイド姉「え? ……そのぅ、別の場所?」

魔王「そうだ。着替えだけ持ってゆこう」
メイド姉「は、はいっ」

  メイド妹「ぱ、ぱんつー。ぱんつどこやったっけー」
  メイド姉「妹のは、こっちの袋っ」

魔王「ふふふっ」
894 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:04:22.81 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”、大温泉

ドドドドドド!

メイド姉妹 ぽかーん

女騎士「んぅ。熱くて心地よいな」
メイド長「手前に行くほど浅くて温くなっていますよ」

女騎士「わたしは熱い湯が好みなのだ」
女魔法使い「……茹で騎士」

ドドドドドド!

メイド姉妹 ぽかーん

魔王「何を硬直しているのだ?」

メイド姉「だ、だって。お風呂に滝がありますよっ!?」
メイド妹「お風呂なのに天井がないよぅっ!?」

魔王「そんなことを云われても。それが温泉なのだ」

メイド姉「そ、そんな」おろおろ
メイド妹「湯気で真っ白でふわふわだよぅ」わたわた

メイド長「これ。取り乱さないで落ち着きなさい」

メイド姉妹「はいっ」びしっ
895 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:05:28.33 ID:z6GJxeoP
メイド姉「温かい……」

メイド妹「うん、熱々~」
メイド長「真っ赤ですよ、妹」

メイド妹「でも、平気~」ふらふら

女騎士「こらこら。ふらついているじゃないか」

女魔法使い「……南方寒冷地に住む人々は、
 普段このような熱い湯に長時間つかる習慣がない。
 それだけに耐性が低い」

魔王「そうなのか。風土的なものなのだな」

メイド姉「妹ったら、みんなと一緒のせいではしゃいでるんです。
 ごめんなさい。ちょっとあがってれば平気だよね?」
メイド妹「うー」

女魔法使い「……“氷の息吹”」ひやっ
メイド妹「ひゃうっ!?」
女魔法使い「……回復した」

ざざーん

魔王「うん。久しぶりだが、心地よいな」
女魔法使い「……」じぃっ

魔王「どうした? 魔法使い殿」
女魔法使い「なんでもない」

魔王「同じ一族ではあるが、入れ違いになり、
 あまり話も出来なかったな」

女魔法使い こくり
896 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:07:41.63 ID:z6GJxeoP
魔王「わたしは魔王で、専門は経済学と金融史だ」
女魔法使い「……魔法使い、伝承学」

魔王「そうか。勇者の、仲間だったのであるな」
女魔法使い こくり

魔王「勇者は、どんな人だった?」

女魔法使い「ばか」

魔王「そうか」
女魔法使い「……人を救うばか。損ばかりしている」

魔王「そうか……」

女魔法使い「魔界の勇者」
魔王「ん?」

女魔法使い「――人界の魔王は、好ましい?」

魔王「勇者のことは……。うん、大事な人だ。
 ……勇者は、なぜ王にならなかったんだろう?
 あれだけの戦闘能力、行動力、優しさ、
 そして勇者であるという、その名前の価値からすれば
 王になっていて当然なのに」

女魔法使い「……」

魔王「魔界に勇者がやってくる時、それはわたしの予想では
 まだ5年は先だったけれど、その時はきっと地上の王として
 やってくると思っていた」
897 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:08:37.17 ID:z6GJxeoP
女魔法使い「……ばかだから」
魔王「そうか」

女魔法使い「……」

魔王「勇者が人間の、地上の世界を統べる王となり、
 地下世界に攻め込む。
 わたしは魔族の希望を一身に背負う一人の勇者として
 地上世界にいる勇者を目指して討伐の旅に出る。
 ……そんな物語もあったのかな」

女魔法使い「意味はない」
魔王「ない、か」

女魔法使い「……その旅にきっとあなたはいない」
魔王「そうだろうな。わたしは、戦闘はからきしだ」

女魔法使い「……」
魔王「……」

女魔法使い「……」じぃっ

魔王「どうしたのだ? 魔法使い殿。わたしの内側に、
 何か見えるのだろうか」

女魔法使い「……でかい」
魔王「は?」

女魔法使い「……」
魔王「こっ、これは。い、いや。見ないでくれ」
899 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:11:49.92 ID:z6GJxeoP
メイド長「いえいえ、そうは参りません」すちゃ
女魔法使い「……こっちは美乳」

魔王「なっ」

メイド長「彼我戦力差を考えた上でも、
 ここは物量による飽和攻撃を敢行すべきかと存じます。
 駆け引きや、胸を温めるような幼い想い。
 そのようなものは圧倒的な戦力における理性の蹂躙の前には
 小枝で支えた抵抗線です」

女騎士「小枝とか云うな」
女魔法使い「……ちっぱい」ぷくっ

魔王「そうはいっても、わたしはこの胸にそこまで自信が
 持てないのだ。たゆたゆして落ち着かないし、形だって
 ちょっともったりしているというか……」

女騎士「重力に魂を引かれるのがそんなに自慢かっ」じわっ

  メイド妹「お胸のはなし?」
  メイド姉「わたし達は年齢なりだから。
   ほら、向こうで髪の毛洗おうね」

メイド長「いーえっ。男性の好みは女性の美意識とは
 自ずと違うものっ。指ののめり込むような柔らかさの中に
 殿方を引きつけてやまない甘い毒があるのですっ」

女騎士「~っ。一部の大国の専横が価値観を歪める。
 そのような無法がまかり通って良いのかっ!?
 我が湖畔修道院はそのような横暴には断じて抵抗するぞっ!」
901 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:14:17.71 ID:z6GJxeoP
魔王「そ、そうなのか? こんな駄肉でも価値があるのか?」
女魔法使い「……魔王は、だいたい傾城将軍たゆんと同じくらい」

魔王「第3巻で負けたではないかっ」
女魔法使い「……人気に応えて5巻で再登場」

女騎士「虐げられた、貧しい暮らしに甘んじている
 心優しき人々の切なる願いを貴様はむげにするのかっ!」

女魔法使い「……大丈夫。そういう趣味の人もいる」

メイド長「あらあら、まぁまぁ。
 せっかくの機会を設けましたのに、
 審判たる勇者様がいませんと話にオチがつきませんね」

魔王「む、む、胸で人の価値を計るべきではないっ!」

女騎士「おお! 珍しく合意点が見つかったな!! そうだ!
 人間の価値は胸のサイズで計られるべきではないっ」

女魔法使い「……理知の光で真実を照らす。啓蒙主義」

  メイド妹「お姉ちゃん達、難しい話をしてるね」
  メイド姉「そうね。ほら、お耳に水が入っちゃうわよ?」
   ざざー。
  メイド妹「ううっ」ぶるぶるっ
  メイド姉「あのお話は皆様に任せましょうね」

メイド長「こうなっては、決着は次の勝負に持ち越しでしょうか」
魔王・女騎士「勝負?」

メイド長「はい、宴席を用意しておりますから」にこっ
905 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 14:24:09.44 ID:z6GJxeoP
――辺境の森

きつね「きゅーん」

勇者「た、たのむっ。俺の友達になってくれっ!」
きつね ダダダッ

たぬき「もっきゅー」

勇者「お友達からお願いしますっ!」
たぬき ビク

くま「がぁぉ! ぐぉふぐぉっふ」

勇者「この際何でも構わんっ!
 ともだーちーぃ、ぼしゅぅぅぅぅ~ちゅぅ~!!!」

くま びくっ。だだだだっ
925 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 15:32:31.82 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”畳の広間

魔王「勇者は遅いなぁ。冷めてしまうぞ」

メイド姉「どうしたんでしょうか?」
メイド妹「おぃひぃのにね♪ わぁ、こっちのお肉も美味しい!」

メイド長「援軍要請に手間取っているのですわ」
女騎士「宴会に遅れるとは間の悪い」

女魔法使い「……来た」

 とっとっとっと、ガチャ!

勇者「待たせたなっ! ばぁあーんっ!」

 東の砦将「……」
 副官「……」

メイド姉「お帰りなさいませ」
メイド妹「お帰り、お兄ちゃん」

メイド長「あら、お二人ですね?
 すぐ食事とお酒を用意させますわ」

女騎士「勇者、遅いぞ~」
女魔法使い「……もぐもぐ」

魔王「話はともかく、まずはお酒だ。
 せっかくの慰安旅行だからなっ!」
927 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 15:33:59.26 ID:z6GJxeoP
勇者「だよなっ! さぁ、座ってくれ。飲もうぜっ」
東の砦将「ちょ、お、おい」

勇者「なんだよ?」
東の砦将「ちょっとこい」

  勇者「どうした?」
  東の砦将「こっ、ここはまさか」
  勇者「うん? 魔王城」

  東の砦将「だって、お前。
   黒騎士が、珍しく酒を驕るって云うから」

  勇者「おう。おごり、おごり。無料宴会」
  東の砦将「何がどうなってるんだよ。
   ってか、どういう集まりなんだよ」

  勇者「家族旅行みたいなものだよ」

メイド長「まずは一献どうぞ」
東の砦将「は、はい。……おおっと、ありがたい。
 これは……鬼呼族の米の酒ですね。珍しい上物だ」

メイド長「わたくしは、当主様の世話をさせて頂いております
 メイドの束ねメイド長と申します」

東の砦将「はぁ、これはご丁寧に。……やい、黒騎士」

勇者「?」

東の砦将「魔王の側近ってのはふかしじゃなかったんだな。
 こんな美人さんのメイド長がいるのか、
 お前、実はすごいやつだったんだな」
928 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 15:36:26.42 ID:z6GJxeoP
勇者「俺のメイドじゃないって。魔王のだよ」

東の砦将「そうか、魔王か……。
 もちろんあんな場所で執行委員なんてのをやってるから
 疑ったことなんか無かったが、魔王がいるんだよな。
 当たり前だが。

 俺も様々な戦場をくぐってきたが
 あのクラスの美女をメイドとして使う魔王か。
 やっと魔界の広大さが実感できた気がするぜ」

勇者「魔王か? 話すか? おい、魔王。魔王ー」

魔王「なんだ勇者? この魚も美味いぞ」のこのこ

東の砦将・副官「え?」

勇者「話してただろ? こいつが、東の砦将。
 開門都市で自治政府のとりまとめをやってくれてるって。
 こっちはその副官。いつも世話焼いて貰ってる」

魔王「おお! そうであったか! お初にお目に掛かる!
 砦将どの。あの都市の最近の安定ぶり、復興発展ぶり、
 全て聞き及んでいます。確かな手腕をお持ちのようだ」

東の砦将・副官「え?」

  東の砦将「ちょっとまてやぁ!?」がしっ
  勇者「いきなりなにするんだよ。
   魔王城なんだから魔王がいたって仕方ないだろうっ」
  東の砦将「サプライズアタックかよ! 心の準備させろよっ」
  勇者「傭兵だろっ! 出たとこ勝負で行けよっ」
  副官(副官で良かった……)

メイド姉「ほら、こぼしちゃだめよ?」
メイド妹「はぁい♪」
929 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 15:38:28.09 ID:z6GJxeoP
勇者「で、こっちが湖畔修道委員長でもある女騎士。
 時たま暇つぶしに将軍業もやってたりする」

女騎士「お目にかかれて光栄だ。東の砦将殿」

勇者「こっちは魔法使い。あー。眠そうに見えるが
 これでも結構強い。“出来が悪い悪夢”で判るかな」

女魔法使い「……もぐもぐ」ぶい

副官「そ、そ、それって」

東の砦将「救世の勇者の一行じゃないかっ!?
 なんでその英雄達が、魔王城で、し、しかも
 魔王と酒を飲んでいるんだっ!?

  どこの世界の家族旅行がこんな状況になるってんだよっ!!」

女騎士「おい、勇者。何の説明もしていないのか?」

メイド長「あらあら、まぁまぁ」

副官「ゆ、ゆうしゃ?」

勇者「悪い、悪い。おれ黒騎士だけど勇者もやってるんだ。
 いや、正確に言えば、勇者が黒騎士にスカウトされたんだよ。
 魔王倒しに云ったら、一緒にやらないかーって」

東の砦将「……」
副官「……」
937 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 15:54:13.03 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”畳の広間

~♪ ~~♪
  メイド妹「んっみぃはよ~♪ んみぃだよぉ~♪」

女騎士「――飲まれているか? 砦将殿」

東の砦将「先ほど情けのないところをお目にかけました。
 すいません。女騎士様。頂いております」

女騎士「騎士様はよしてくれ。わたしのほうが年下ではないか。
 砦将殿の長年の経験や、将軍としての姿勢を聞かされて
 一度は会いたいと思っていたのだ」

東の砦将「は、はぁ……」

女騎士「さぁ、杯を交わそう。わたしのことは騎士と呼んでくれ」
東の砦将「じゃ、騎士殿」

とくっとくっとくっ

女騎士「……はぁっ!」
東の砦将「良い飲みっぷりですなぁ! ぷは!」

女騎士「そちらこそ、やるではないかっ」
東の砦将「はっはっは。傭兵ですからね。
 剣の腕、度胸、気っ風。その次に大事なのが、酒の強さです」

女騎士「あははははっ。もう一杯行こう!」
東の砦将「はっ!」

女騎士「あの街の様子はどうなのだ?」
東の砦将「開門都市ですか?」
939 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 15:56:17.51 ID:z6GJxeoP
東の砦将「近頃では、随分人も増えましたよ。
 最初は行商人ばっかりでしたけれどね。最近じゃぁ、
 逃げ出した人や新しい人もぼちぼち戻ってきています。
 人間の商人もね」

女騎士「人間の? ゲートは破壊されて大空洞になったのだろう?
 正式な通行許可はどこも卸していないと思うのだが」

東の砦将「商人ってやつは逞しい。
 許可があろうが無かろうが、商売のチャンスさえあれば、
 やってきますよ。
 もちろん見つかりゃぁ密貿易ってことになるんでしょうがね」

女騎士「ふぅむ」

東の砦将「……それにしてもね」

女騎士「ん?」
東の砦将「そうかぁ、勇者だったんですかい」

女騎士「どうしたのだ?」

東の砦将「いやいや。あの黒騎士ってのは、酒を飲むたんびに
 なんでこんなにいい加減なやつが、あんなに強いのかとも
 思ってましたが、勇者だったんですかい」

女騎士「ああ。勇者だ」ふわり
東の砦将「……」

女騎士「……」
東の砦将「……」

女騎士「ん?」
東の砦将「いや、騎士殿は」きりっ

東の砦将「勇者を見つめる時はとても良い眼差しをされますな!」
女騎士「か、からかうなっ!」
943 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 15:58:11.67 ID:z6GJxeoP
東の砦将「ってことは、勇者達はやっぱり戦争を?」

女騎士「したくはないと云うことだ」

東の砦将「そうでしょうなぁ。黒騎士はあの都市でも、
 随分そのことだけは口を酸っぱくしていっておられた。
 “魔族が嫌いな人間は俺の所へ来い。代わりに殴られてやる”
 “人間が憎い魔族は俺の所へ来い。代わりに俺が憎まれてやる”
 ってね」

女騎士「……そうか」

東の砦将「どうしたんで?」

女騎士「いや、地上世界もぐちゃぐちゃでな。
 魔族を許さないと燃え上がる中央と、
 三ヶ国同盟は対立を続けている。
 平和に暮らしたいはずなのに、誰もが手に剣を持っている時代だ」

東の砦将「そいつはぁ、仕方ありませんやね。
 あんな物騒な街に住んでいるから思うのかも知れませんがね。
 誰か偉い人が来て、全員から武器を取り上げれば
 そりゃ平和になるかも知れない。
 けれど、そんなものはお父やお母にゴチンとやられて
 喧嘩を止める子供のようなもんでしょう?
 そんなのは、本当に平和って云うんですかね?
 武器を持ったままでも握手を出来るから
 平和って云うんじゃないですかね」

女騎士「……」

東の砦将「いや、差し出がましい事を云っちまいましたね」

女騎士「出来ると思うか?」
東の砦将「魔族との共存ですか?」
944 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/17(木) 16:00:45.74 ID:z6GJxeoP
東の砦将「それは出来るでしょう」けろり

女騎士「そうかっ」

東の砦将「そんなことは自明ですよ。
 もう穴っぽこだってあいちまってる。
 今はまだ細い流れだけど、この流れが途絶えることは
 もう無いですよ。共存しなきゃ滅ぼしあいだ。
 共存するっきゃないでしょう。
 そんなものは『開門都市』を見ればすぐ判ります。
 ええ、共存できますよ。
 魔族だって人間だって、本当はたいした違いなんて無いんだ」

女騎士「うん」

女魔法使い「……問題は損害許容限界」
東の砦将「そうですな」

女騎士「どういうことだ?」

東の砦将「いずれ共存は出来ますよ。それは保証できる。
 問題は、それまでに、どれだけの血が流れるかって事です。
 その共存は五年後か、十年後か、百年後かは判らない。
 それまでに流れる血は年月に比例して大きくなるでしょう。
 もしかしたら、人間か魔族かどちらかの血を
 全て流し尽くすほどの血が必要かも知れない。
 共存は出来るでしょうが、それまで人間や魔族が
 『保つ』かどうかは別問題です」

女騎士「……」

東の砦将「キツイでしょうが、それが傭兵の見立てです。
 明日は来るけれど、今日流れる血の量は判らない」
947 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 16:11:06.40 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”畳の広間

副官「美味しいですね、これは何でしょうね?」
メイド姉「これは、野菜?」
メイド妹「にんじんだよぉ」

副官「にんじんはこんなに甘いのですか!?」
メイド妹「多分、蜜で煮てあるの」

副官「初めて食べましたよ」
メイド姉「わたしもです」
メイド妹「わたしも~♪」

副官「やぁ、なんかすごいメンバーですねぇ」
メイド姉「そうですか?」
メイド妹「お兄ちゃん? お姉ちゃん?」

副官「いやいや。皆様すごいですよ」
メイド姉「あまり気にしたことはありませんが……」

メイド妹「ねーねー。これ! これすごく美味しいよっ!!」

副官「どれです?」
メイド妹「この赤い枝みたいなの」

副官「ああ、これは大沢カニですよ。割ると中身が美味しいです」
メイド姉「へぇ……わたしも」
メイド妹「うんうんっ。たべよう!」

 ぱきっ! ほじほじ。 ぱきっ! きゅりきゅり。

副官「何か落ち着きますねぇ」
メイド姉「はい」
メイド妹「美味しいもんねぇ~」
949 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 16:18:45.22 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”畳の広間

~♪ ~~♪
  東の砦将「んっなみぃがおっどるぜぇ♪ っぽをたてろ~♪」

魔王「うむ。勇者」
勇者「どした?」

魔王「飲んでるか」
勇者「飲んでるよ」

魔王「わたしも飲んでいる」
勇者「知っているよ」

魔王「いや、知っていると云うことは知っている」
勇者「な、なんだそれ」

魔王「しかし、わたしは
 わたしが知っていると云うことを知っているか
 勇者が知っているかについて確認したかったんだ」
勇者「こ、こんがらがってきた」

魔王「そんなことはどうでも良いんだ」
勇者「魔王が言い出したんだろうっ!?」

魔王「多数の耐久財、資本財がある経済でしか成り立たない
 限定解などこの場合どうでも良い」
勇者「どうでもよさが難解になったっ」

魔王「勇者っ」
勇者「は、はいっ」

魔王「勇者、勇者、勇者っ」
勇者「さ、三連突撃ときたっ」
954 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 16:22:52.29 ID:z6GJxeoP
魔王「ほ」
勇者「ほ?」

魔王「ほーわこうげきっ!」 のしっ!
勇者「っ!?」

魔王「う。ダメだ。ここは譲らぬ、ぞ……。くぅ」
勇者「……えっと」
メイド長「あらあら、まぁまぁ。膝枕が気に入ったんですかねぇ」

魔王「……すぅ」
勇者「寝ちまったのか? 魔王」

魔王「……すぅ……すぅ」
メイド長「寝てしまいました?」

勇者「そうみたいだ」

メイド長「よっぽど思うところがあったのでしょうね。
 ……たぬき寝入りかも知れませんけれど」

          ぎく
勇者「?」

メイド長「いえ、勇者様。魔王様を寝室に連れて行って
 差し上げていただけますか?」

勇者「うん、ああ」
メイド長「では、よろしくお願いします」にこっ



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最終更新:2010年05月14日 16:01
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