5-2


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」5-2


409 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:41:26.07 ID:498vELIP
片目司令官「お前に勝ち目はないっ! あはははっ!
 ぎゃははっ! 素直に命乞いをするかぁ? 許さんがなっ!」

ギィンッ!

(相手と自分の弱点、長所を冷静に比較しろ。
 戦争も剣戟も一緒だ。冷静になれ。
 相手の長所をつぶして短所を攻めろっ。
 お前の長所は何だっ? ――常に考えろ)

 キンッ! ザシュ!ガキン!

軍人子弟「――確かにっ。拙者は長所のない男でござるから
 昨日ならば勝てなかったでござろうねっ」

片目司令官「いい謙虚さだっ!」
メイド姉「っ!」

ギィンッ!!

片目司令官「なっ! なっんだ、それはっ。なぜ手首が落ちぬっ!?」

軍人子弟「鋼鉄の矢でござるよ――。
 籠手代わりに巻いてござった」

 ザギンッ!

片目司令官「っ!」

軍人子弟「“ありがとう”。
 そう言われたでござるよ。
 落ちこぼれで、いつも不平ばかりだった拙者が。
 ――“守ってくれて、ありがとう”と。
 民間人を守る軍人にとってこれほどの誉れが他にあると?
 拙者の覚悟は今日定まりました。
 長所などそれ一つで十分でござる」
416 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:47:40.57 ID:498vELIP
――大陸草原、雪の集合地

中央騎兵「くそっ!」
傭兵弓士「なんだこれはっ」

歩兵隊長「またマメの薄いスープ、それに固くなったパンの欠片」
中央騎兵「パンの欠片? これはクズって云うんだ」

傭兵弓士「何が起きているんだ?」
歩兵隊長「軍資金は十分だと云っていたじゃないか」

中央騎兵「貴族のテントでは毎晩のように饗宴」
傭兵弓士「我らは、この塩味のゆで汁だけかっ」

歩兵隊長「穀物の価格が上がっているとは聞いていたが」
中央騎兵「そうなのか?」

傭兵弓士「そんなことも知らないのか?
 大陸中心部では早くも飢餓の兆候が広がっているらしいぞ。
 だから俺たちはまだ物価も上がりきっていないという
 今回の遠征に参加をしたのに」

従士「隊長方、これはここだけの話ですが……」
歩兵隊長「なにかあったのか?」

従士「どうやら、今回の遠征、軍資金はたっぷりとあるのですが、
 食料は殆ど持ってきていないと云う話があるんです」

中央騎兵「……っ!」

傭兵弓士「なん……だと……?」
417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:48:48.10 ID:498vELIP
歩兵隊長「なんだってそんな」
中央騎兵「司令官達は正気なのか!?」

傭兵弓士「あー、いやだいやだ。お坊ちゃんどもはこれだ」

歩兵隊長「何が言いたい?」

傭兵弓士「考えても見ろ。これだけの人数が居たら、
 食料を運ぶ馬車や従者だけでどれほどの人数になると思う?
 それだけ余計に食料が必要になるだろう。
 食糧補給の望めないような場所にいくならまだしも、
 勢力範囲の中で戦うなら
 金貨を持っていった方が遙かに軽くて運びやすいってこった」

歩兵隊長「それはそうだが」

傭兵弓士「それにおそらく、貴族は焦ってたんだ。
 金貨を持っていても食料がなければ冬は飢えるしかない。
 だから、冬の前に決着をつけようとこの戦争を決意した。
 まだ食料のある南部諸王国を狙ってな」

中央騎兵「そうだったのか……」

傭兵弓士「俺たちだって、隊長のその言葉を信じて
 略奪のしがいのあるこの南の果てまでやってきたってのに。
 くそがっ!」 ぺっ! カランカラン……

傭兵弓士「こんな薄い茹で汁じゃ、戦になんてならねぇっ」

歩兵隊長「じゃぁ、すぐにでも敵陣に
 襲いかかればいいじゃないかっ」
418 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:50:19.13 ID:498vELIP
中央騎兵「いや、数日前から馬の調子が優れないんだ……」
歩兵隊長「なんだって?」

従士「本当です」

中央騎兵「それに、どうやら司令部の間でも意見が
 割れているらしい。湖の国が魔法騎士団を撤退させる、とか」

傭兵弓士「はん。あんな軟弱な学者野郎どもに戦争が出来るか」

中央騎兵「その他にも、いざ南部諸王国を前にして、
 南部諸王国を攻め落とした後の、
 領土分割についてもめ事が起きているんだ。
 どの貴族も、王族も自分の取り分を増やそうと
 派閥を組んでは睨み合っている」

傭兵弓士「ふざけるんじゃねぇっ!」
歩兵隊長「……っ」

傭兵弓士「俺達は戦うために来たんだぞっ。
 戦場で戦って、戦って、戦って。
 真っ赤に染まった剣の血を洗い流して生き残って、
 それで大串に刺した肉をあぶってしこたま強い酒を飲む。
 それが傭兵の戦いだ。
 女の腐ったみてぇに、奪ってもいやしねぇお宝の分け前で
 ぴぃちくぱぁちくするなんざまっぴらごめんだ。
 分け前に文句がありゃぁ簡単だ。
 剣で決めりゃぁいいんだ」
421 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:51:42.80 ID:498vELIP
歩兵隊長「……」
中央騎兵「……」

傭兵弓士「あぁん!? 俺が言ったことが間違っているって
 云うのかよっ! 文句でもあるのかよ、騎士様方はっ!」

歩兵隊長「それは……」

傭兵弓士「こんな薄いスープで一冬過ごせってのかよっ?」

中央騎兵「大司教様も来られている。話をまとめてくれよう」

傭兵弓士「ああ。はいはい。そういうこったね。
 貴族はいつでもそうだ。
 良いことは自分たちの手柄で、辛いだの苦しい事だのは
 全部精霊様の試練だと? あほらしい。
 ……俺は隊長の所に戻るよ。
 これからのことを話さなきゃならねぇ。
 俺たちだって報酬は金貨で貰ってるんだ。
 このままじゃ飢え死にしちまう。せめて肉かパンで
 給料をもらわねぇとな」

歩兵隊長「……」
従士「……」

歩兵隊長「仕方あるまい。立場が違う」

中央騎兵「ああ、我らは本当に困窮すれば領地から
 多少の支援もあるだろうが、傭兵達は根無し草だからな」

歩兵隊長「だがこのままでは……」

従士「寒くなってきましたよ、皆さん」ぶるっ
425 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:59:34.46 ID:498vELIP
――魔王城、下層、豪華な寝室

メイド長「いえ、良いですからっ!」
魔王「何を遠慮なんかしているんだ」
勇者「下手だけど頑張るから、ちょっとだけ我慢してくれ」

メイド長「いえ、そうじゃなくて。あんっ。だめですって!
 ま、まおー様がまだなのに、下僕たるわたしなんかが
 勇者さまのをいただくなんて、そんな恐れ多いっ」

魔王「勇者がそんなに甲斐性無しに見えるのか?」
勇者「……いや頼りなく見えるのは知ってるけれど」

メイド長「そういうことではなくて、そっ。見えますし」
魔王「見えないのがいけないのだっ。これ! 暴れるな」


メイド長「暴れますよっ」
勇者「ちょっとだけだって。すぐ終わるからっ!」

メイド長「だめですっ! な、何をしてるんですかっ」
勇者「わ。足首……細ぇ……」

メイド長「どっ、どうにかしてください、まおー様っ」
魔王「手間をかかせるものではないっ」

勇者「押さえてるから、破いちゃってくれ。魔王」
魔王「心得た」

 ビリビリィ!!

勇者「大丈夫、綺麗だぞ」
メイド長「あっ」
430 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 01:03:58.32 ID:498vELIP
魔王「どうだ? 腕は治療可能か? 繋がるのか?」

勇者「うん、切り口も綺麗だ。
 これは……指向性の圧縮冷気か?
 氷の刃、というよりは高速水流と冷気の複合技に見える。
 見たことのない技だ」

メイド長「ううっ。じろじろ見ないでくださいっ」

魔王「3代ほどまえに“氷と悪夢の魔王”がいたというから、
 その持っていた技なのかもしれんな」

勇者「何にせよ、傷口が凍り付いたせいで出血も見た目ほどじゃない」

魔王「えっと、こうか?」
勇者「角度を完全に合わせて……。神経接合が始まると
 激痛だからな……。“催眠呪”……“小回復”」

メイド長「熱っ!」

魔王「メイド長、しがみついておれっ」
メイド長「すみませんっ」ぎゅっ

勇者「……いいなぁ、胸枕」

魔王「集中せんかっ!」
勇者「わぁってますよっ! メイド長、辛いと思うけれど
 大きく息を吸って、ゆぅっくり吐きだして」

メイド長「……ぅ。ほぅ~」
勇者「そのまま」

メイド長「……ぅ。ふぅ~……ぅ。ふぅぅ~」
魔王「……」ぽむぽむ
432 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 01:05:59.41 ID:498vELIP
勇者「……催眠はいったかな。行くよ。……“再生術式”」
メイド長「っ! ふぅ~。……んぅ」

魔王「何とかなったのか?」
勇者「ああ、うん。しばらく握力不足とか、しびれが出るかも
 知れないけれど。多分、傷口も残らない」

魔王「ありがとう」

勇者「いや、場所も良かった。間接部とか重要器官だったら
 俺の呪文じゃ間に合わなかったかも知れない」

メイド長「……すぅ」
魔王「寝ておると、あどけないな」

勇者「しばらく寝かせておいた方がいい。
 血液が減ったのはこの呪文じゃどうにもならないし」

魔王「そうだな……」
勇者「うん」

魔王「……」
勇者「ふぇぇ-。ちっと疲れた」ぺたっ

魔王「その」
勇者「?」

魔王「ありがとう」
勇者「あれは、敵の技との相性だよ。酸の技とかは治癒が辛くてな」

魔王「そうじゃなくて、その……。来てくれて、助かった」
勇者「あ……。うん」
435 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 01:08:14.58 ID:498vELIP
魔王「そ、その」
勇者「?」

魔王「疲れたであろう?」
勇者「……うん?」

魔王「おっ……。胸は、その。なんだ。
 メイド長がしがみついているが。膝なら貸せるぞ?」

勇者「は?」

魔王「膝枕などどうだ? い、いまなら特別サービスだぞ」
勇者「……えっと、その。さすがにメイド長もいるし」

魔王「いらないのか?」

勇者「……」(熟考)
勇者「……」(黙考)
勇者「……えっと」(長考)

魔王「いらぬのか?」
勇者「あうっ! ……では、その。ちょ、ちょっとだけ」

魔王「うん」

勇者 ちょこん

魔王「何を膝の先っちょの方に申し訳なさそうに頭を乗せている」
勇者「いえ。いや。えっと? ち、違ったのか?」
442 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 01:11:09.78 ID:498vELIP
魔王「勇者ともあろうが、なぜ少年時代の
 ひどい虐めがトラウマになったかのような遠慮をしているのだ」

勇者「す、すんませんっ」

魔王「膝枕というのは、こんな具合におなかに
 頭部が当たるような距離まで深く近寄ってするものだっ」

 むきゅぅ

勇者「……っ。あ、あ、あっ」

魔王「も、文句でもあるのかっ!? ぷにとか言うなよ!」

勇者「いや無いけどっ! そうじゃないけどっ! 静まれ俺の勇者回路っ」

メイド長「……んぅ」すりっ
勇者「ってメイド長の太ももがっ」

魔王「太ももが良いなら頬の下にもあるであろうっ!」
勇者「ごめんなさい、ごめんなさいっ」

メイド長「……んー」

魔王「何を想像しておるのやらっ。勇者のくせに」
勇者「いや、勇者だってその辺の事情と耐性は
 平均的な成年男子と変わらないわけで……」

魔王「……ふん」
勇者「……」

メイド長「……すぅ」
魔王「メイド長の呼吸音が落ち着いてきた」
勇者「ああ、もう大丈夫だ」
446 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 01:15:09.50 ID:498vELIP
魔王「……もふもふだ」なでなで
勇者「……うん」

魔王「どうしたんだ、勇者? 何かあったのか?
 あっちはどうなっている? みんな無事なのか?」

勇者「地上も色々大変だよ。大騒ぎだ」

魔王「……」
勇者「ん?」

魔王「そうか、知ってしまったんだな」
勇者「え?」

魔王「――“地上”と」
勇者「あ。うん……。魔法使いに聞いた」

魔王「彼女か。勇者の元仲間だというので、伝言を頼んだのだが」
勇者「何とかの図書館か?」

魔王「ああ、瀬良の図書館は我が一族の故郷にして本拠なのだ」
勇者「そこであいつ、ずっと魔法の本を読んでいたのか」

魔王「なにがあったのだ? 地上の世界で」
勇者「うん、何から話せばいいかな……」

魔王「……なにからでも。全てを聞こう」
勇者「結局、一通の書状から始まったんだ」

魔王「うん」なでなで

勇者「紅の学士は教会の教えに背いた異端者だってさ」
474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:16:41.00 ID:498vELIP
――大陸草原、雪の集合地、三ヶ国軍天幕

冬国兵士「将軍っ! 姫騎士将軍っ!」
女騎士「何事だっ!?」

冬国兵士「敵軍に動き有りっ!」

将官「なんだって? 会戦日の指定はまだ決着していないぞっ!」

冬国兵士「そ、それがっ。一部の傭兵団のみが移動しています。
 独断で兵を進めている模様っ。望遠鏡と伝令により確認。
 彼らは味方にも隠密で行動している模様っ」

将官「馬鹿なっ! きゃつら戦のルールも判らんのかっ」

女騎士「ルールなどあってないようなものだ。
 彼らの判断は、なにも間違っては居ない」

冬国兵士「いかがいたしましょう」

将官「我が軍も早急に陣ぞなえを変更、三重連隊で
 防御の陣をひき――」

女騎士「不用っ!」

将官「しかし、この戦では防御に徹せよと」

女騎士「大局を見ろっ」

将官「っ!?」
475 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:17:58.34 ID:498vELIP
女騎士「たしかに傭兵どもは中央の考える教会と騎士道の
 規律を破り戦を仕掛けてきた。
 あとでなんらかの処罰があるかも知れないが、
 彼らにも理由が――おそらく食料の不安があるのだろう。
 しかし、その傭兵団との戦いが長引けば、
 救援という名目を中央の軍二万に与える事になる」

将官「……それはそうですが」

女騎士「冬国騎士に通達、直ちに第一種軍装にて会戦用意っ。
 無駄なものはいらぬ、速度を取れっ」

冬国兵士「はっ!」

将官「しかし、それではこちらは200も居ないではありませんかっ」

女騎士「敵だって傭兵団のみだろう?
 で、あるなら騎馬戦力は1000が良いところだ」

将官「無茶ですっ」

女騎士「おい、済まぬが具足と籠手を。盾はいらない」
女修道士「はいっ」

将官「姫騎士将軍っ!」

女騎士「戦ではない。この程度なら、な」

将官「そうではなく、鎖帷子は!? 胸甲はっ!?」
女騎士「重いだろう。つけるのに時間も掛かる」
476 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:19:41.27 ID:498vELIP
――大陸草原、荒れ地の中央部

傭兵隊長「いいか! お前らっ! 良く聞けっ!」

 ざわざわ ざわざわ

傭兵隊長「上の連中は頼りにならねぇ。
 いつまでたっても戦も始められねぇ、とんだ玉なし野郎どもだっ!
 だが俺たちは違うっ! ちゃんと玉のついた男だからよ!
 あんな女子供の率いるへろっちぃ奴らと戦うには
 何のためらいもねぇってもんよ!」

 あはははははっ!

傭兵隊長「だがな、連中の数は数で、
 ド田舎の三流国とはいえちょっとしたもんだ。
 とくに対魔族の常備軍って事で、
 槍兵、石弓兵あたりは随分鍛えられていると聞いている。
 そこでだ、俺たちは風のように襲いかかり、
 奴らの天幕をメチャクチャにして、さっと逃げる。
 先方は、おい、槍騎兵。おめえだ!」

傭兵槍騎兵「はいっ! お任せくださいよ、叔父貴っ!」

傭兵隊長「よーし、よしよし。
 切り裂いて、めちゃくちゃにしろ!
 何でも構わねぇから踏み荒らしてやるんだ。弓騎兵!」

傭兵弓騎兵「はっ!」

傭兵隊長「火矢も使え。天幕を燃やしてやれっ!」

傭兵弓騎兵「わっかりましたぁ!」
477 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:22:08.57 ID:498vELIP
傭兵隊長「だがしかし、おめえら!
 俺はこの激突で長居をするつもりはねぇ。
 さっと攻めて、さっと引き上げる。角笛が鳴ったら退却だ。
 あいつらの数を俺たちだけで引き受けるのはちと辛い。
 奴らの陣地をメチャクチャにして
 体面に泥を塗ってやれっ!
 そうしたら引き上げてこちらの陣地まで引き寄せるんだ。

  やつらはきっとケツにつっこまれたアナグマみてぇに
 怒り狂って追いかけてくるだろう。
 中央の貴族どもも巻き込んでやれ! そうすりゃ乱戦だ。
 これだけの人数差、俺たちが負けるわけはねぇ!!」

  あはははっ! 冴えてるな叔父貴っ!
  お前が大将だっ! 戦の開始だ! わかったぜ叔父貴っ!

傭兵隊長「なぁに。騎士道が何たらだと抜かす連中だって
 本当はこのままじゃ埒なんて開かねぇってことは
 判ってるんだ。
 この件は何人かの貴族様にも司教様にも話は通してある。
 悪いようにはしねぇってなっ!」

  おう、それでこそ俺たちの叔父貴だっ!
  悪知恵が働くことにかけちゃ叔父貴に叶うやつはいめぇ!

傭兵隊長「この腐れ豚野郎どもっ。こいつは悪知恵じゃねぇよ。
 がはははっ。なんつったかな、そうだ。チリャクってんだよ!
 戦の駆け引きだ。経験をつんでねぇ領主のぼんぼんどもに
 遅れは取るなっ! 行くぞ、お前らっ!」

  おうっ! おうっ! はいやっ! 行けっ!

傭兵騎兵「俺たちも行くぞっ! ――ん? あれは、なんだ?」
傭兵槍騎兵「~っ! 敵だっ! 敵襲~っ!!!」
479 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:23:47.81 ID:498vELIP
――大陸草原、荒れ地の中央部

女騎士「では、打ち合わせどおり一撃翌離脱で行くぞ。
 諸君!! 南部諸王国の勇士の力を期待する! 突撃っ!!」

冬国騎士「「「「オオオオーッ!!」」」」

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!
  ガキィィーンッ!!

傭兵騎兵「なんだっ!? こ、こいつら、どこから現われたっ」
傭兵弓騎兵「ぎゃぁぁぁっ!」

女騎士「戦果にこだわるなっ! 退けっ、右回転。槍交換っ!」
冬国騎士「はぁっ!!」

傭兵騎兵「なっ。なんて速度だ、反転っ! 後ろに居るぞっ!」
傭兵槍騎兵「いや、右だっ!」
傭兵弓騎兵「何処だ、見えないっ!」

女騎士「第二突撃、つっこめぇっ!!」
冬国騎士「「「姫将軍に勝利をっ!!」」」

傭兵騎兵「ギャァァッ!!」
傭兵槍騎兵「なんて突破力だっ。ば、化け物めっ!」

傭兵隊長「馬鹿野郎っ! 相手は少数だっ!
 取り囲め!  広がって押さえちまえっ!」

女騎士「離脱っ! 陣形直せ! 16番集合っ!
 直ちに第3陣形開始っ!」

冬国騎士「退けっ! 姫将軍の退却命令だっ!」
冬国騎士「イィィーヤッホゥ! お前らに捕まるかよっ!」
480 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:25:12.61 ID:498vELIP
傭兵隊長「追えっ! 見たところ相手は300がいいとこだっ!
 追いつけば一ひねりに出来るぞっ!」

傭兵槍騎兵「はっ! 追え追えっ!」
傭兵弓騎兵「つけあがりやがって、あの女っ!」

  将官「第3陣形っ!」

傭兵騎兵「っ!?」
傭兵槍騎兵「ど、どうしたっ」

傭兵隊長「どうした、追えっ!」
傭兵騎兵「そ、それが、敵が二手に分かれました。
 ど、どちらを追えばっ」

傭兵隊長「ただでさえ少ない兵を二つに? 狂ったか。
 どうせ女のやることはそんなもんだっ。お前は右を追え!
 俺は左を追うっ!」
傭兵騎兵「はっ!」

  女騎士「ふむ、追ってくるか。可愛らしいものだ」
  冬国騎士「ははははっ! 馬が本調子でもないでしょうにっ」
  女騎士「そろそろ、行くぞっ!」
  冬国騎士「了解っ!!」

傭兵騎兵「なっ! また二手にっ!?」
傭兵剣騎兵「どっ、どうするっ。どっちを追うっ」

傭兵騎兵「っ~! 舐めるな、もう数えるほどではないかっ!
 再分割だっ! おまえは左の森の法へ追えっ!
 俺は右を追うッ!」
傭兵剣騎兵「判った! 遅れは取るなよっ!」
傭兵騎兵「女子供に馬鹿にされてたまるかぁっ!」
482 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:27:17.70 ID:498vELIP
――大陸草原、荒れ地、16番集合地点

ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

将官「何番隊だ?」

冬国騎士「8番隊です。ただいま集合しました」
 伝令騎士「集合した隊は隊員を把握! 報告せよっ」

女騎士「どうだ?」

将官「はい。全ての隊が集合完了。
 ただいま報告させていますが、軽傷者や骨折者が多少出た以外
 大怪我を負ったものも脱落したものも居ない模様」

女騎士「二回撃ち込んだだけだからな。
 敵の被害もさほどでもないだろう。……その敵は、どうだ?」

冬国騎士「はっ。迷走させましたので、
 随分広い範囲に広がってしまっているかと思います」

女騎士「諸君っ! どうだ、疲れたかっ!?」

  おおおお! 我らまだ意気軒昂! 姫将軍、ご采配を!

女騎士「よしっ。呼吸も整っているようだな。
 では、再侵攻を開始する。今度は一丸となって行くぞ。
 先頭はわたしが受けもとう」

冬国騎士「そんなっ」 「そのような軽装で万が一があれば……」
冬国騎士「姫騎士将軍は、シスターの服ではないですか」
冬国騎士「せめて騎士団中央部にっ」「我らが戦いますっ」
483 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:29:10.09 ID:498vELIP
女騎士「そう思うなら戦果を挙げよっ!」びしっ

冬国騎士 びくっ

女騎士「ただし、今度は倒す必要はない。
 出来るだけ落馬させよっ! 敵を殺すのは本意ではない!
 彼らもまた精霊の教え子。
 いまひと時は対峙しているが我らが同胞だっ。
 やむを得ない時をのぞいて、なるべく殺さぬよう。
 落馬させて戦意を奪えばそれで十分。
 あまり倒してしまうとわたしが勇者に……いや、とにかく落とせ!」

冬国騎士「「「はっ!」」」

女騎士「敵の数は多いが、いまや散開につぐ散開を繰り返し
 一つ一つの部隊の数は我ら以下、
 おそらく半分にも満たないだろう。
 一気に襲いかかり突進力で落馬させ、
 残った相手は小刻みに移動しながらたたき落とせっ!」

冬国騎士「「「了解いたしましたっ!」」」

将官「行きますか」
女騎士「ああ、移動開始だ」

ザッカッ ザッカッ ザッカッ

冬国騎士「あ」  冬国騎士「おお」

将官「ん……?」
女騎士「来てくれたか」

将官「援軍ですか?」

女騎士「ああ。……雪だよ」
488 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 12:47:35.56 ID:498vELIP
――初雪

 ちらちら……
  ちらちら……

「雪だ……」
「ああ、雪だっ」

「このままで戦闘が……」
「うむ、司令部で動きがあるかも知れん」

 ちらちら……
  ちらちら……

「なんだって? ……そうか」
「招集! 招集! 梢の国の騎士よ! 士官用テントへ集まれ!」

 ちらちら……
  ちらちら……

「王弟元帥がご決断為されたっ!
 慈悲深きかの陛下は雪深きこの戦場で
 騎士や従士などがひもじい思いをしているかと思い、
 哀れみをおかけになられたのだっ!
 一部の中流兵をのぞき、今回の征伐軍は春まで延期となるっ!」

「帰れる!」 「俺たちは故郷へと帰れるぞっ!」
493 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:00:19.88 ID:498vELIP
――冬の国、官庁街、高級宿屋

タッタッタッタ。ガチャン!!

辣腕会計「委員っ!」

青年商人「どうしました?」
火竜公女「何か起きましたかや?」

辣腕会計「まったく。……昼からお酒を召し上がるなどと」

火竜公女「寒くて他にすることもありませぬゆえ」
青年商人「ご相伴していただけですよ」

辣腕会計「それより、委員。雪ですっ」

火竜公女「雪……」

青年商人「雪はご存じですか?」
火竜公女「ええ、ゲート付近では目にします」

青年商人「中央は退きましたか?」

辣腕会計「ええ。中央の征伐軍は、短期決戦を諦めた模様。
 ある程度の兵を、現在の平原から少し進めて残し、
 そこに簡易的な砦を作り、南部諸王国を睨みながらも、
 大部分の兵は春になるまで、一旦国元へ戻る様子です」

火竜公女「戦争は回避されたのかや?」
青年商人「当面だけ、です」
495 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:02:27.34 ID:498vELIP
辣腕会計「どうされます?」

火竜公女「……」

青年商人「どうやら天の機嫌も南部諸王国に
 味方している様子ですね。
 巨大市場を形成するなら、ここが好機でしょう」

辣腕会計 こくり

青年商人「すでに中央大陸中心部の貨幣の流れは
 自壊のプロセスに入っています。
 貨幣の再鋳造を始めたら一層の加速をするでしょう。
 再鋳造の応急処置としての意味はあったかも知れない。
 でも、応急処置は応急処置です。

 根本的な農民の貧しさ。
 通貨のぶれに対する信頼性の低下。
 戦争と略奪に依存した未熟な生産性を
 転換するだけの体質改善が本当は必要だったのに。

 ここで貨幣に手を加えるには……」

辣腕会計「“信用”が低下しすぎていた、と」

青年商人「光の精霊を奉じる中央聖教会は
 無限の信用と尊敬を受けている。受ける事が出来る。
 無条件で全員が従うのだと、己の権威を過信していましたね」

火竜公女「では、ここまでですね」

辣腕会計「は?」
496 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:05:08.36 ID:498vELIP
火竜公女「これは戦であったのでしょう?
 で、あるならば収めるべき矛というものがありましょう」
辣腕会計「しかし、この状況下ではまだ搾り取れるっ」

火竜公女「――天が下のすべての事には季節があり
 すべてのわざには時がある

 生まるるに時があり 死ぬるに時があり
 植えるに時があり 植えたものを抜くに時があり
 殺すに時があり いやすに時があり
 こわすに時があり 建てるに時があり
 泣くに時があり 笑うに時があり
 悲しむに時があり 踊るに時があり
 石を投げるに時があり 石を集めるに時があり
 抱くに時があり 抱くことをやめるに時があり
 捜すに時があり 失うに時があり
 保つに時があり 捨てるに時があり
 裂くに時があり 縫うに時があり
 黙るに時があり 語るに時があり
 愛するに時があり 憎むに時があり
 戦うに時があり 和らぐに時がある」

青年商人「あなたは……そう思うのですね」

火竜公女「思うに、商人殿は商人としては純粋だが
 時に危うくも見える。純粋なる鋼の脆さのように。
 時にその非情を悔いておるようにも。
 だからこの国へ来たのではないのかや?
 最後の決断をするために。妾にはそう見えてならぬ」

青年商人「商いの道には情は禁物です」

火竜公女「流される情であるのならばそうでもありましょうが
 情を武器に出来るだけの器量を持ちながら
 怯えるなどとはらしくもない」
497 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/15(火) 13:07:11.53 ID:498vELIP
青年商人「……」
火竜公女「どちらに転んでも良いように準備していたのであろう?」

青年商人「……」
火竜公女「強情な殿方だの」

青年商人「強情ではなく慎重なのです」
火竜公女「妾は助けぬぞ。我が君、勇者のようには」

青年商人「……」
火竜公女「塩は欲しいが、それとこれとは別ゆえな」

青年商人「なかなか、心やすくは行きませんね」

火竜公女「当たり前であろう。
 火の粉が飛んでくる距離が良いと云ったゆえ
 ここも戦場なのだ。心して戦わねば」

青年商人「判りました。聖教会の救援に向かうとしますか」
辣腕会計「……助ける、のですか?」

青年商人「商人なりのやり方でね。
 そのそも二大通貨体制、拮抗体制は視野に入っていました。
 対立二つがあるからこそ、
 その間に入って“利”を得ることが出来る。
 いま一気に搾取するよりも、持続的な商売を採用する。
 そういう判断ですよ」

辣腕会計「はぁ……」

火竜公女「我が君を裏返したような殿方よな」

青年商人「商人子弟殿に冬寂王への面会を依頼してください」
辣腕会計「はっ」

青年商人「南部の英雄と話を固めるとしましょう」
501 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:31:44.21 ID:498vELIP
――聖王都、八角宮殿、西の対の宮、奥深い一室

軍閥貴族「口ほどにもないではないか」

蒼魔上級将軍「ふんっ」

軍閥貴族「何が魔族一の軍勢だ。凍土を越えることも
 叶わず引き返すとはっ」

蒼魔上級将軍「そうは言うが、ご自慢の中央の精鋭兵とやらは
 そもそも戦もせずに、食糧難でとって返したと云うではないか。
 われらが南部諸王国の後背をついたとしても、
 それでは軍略にならぬ。我らを陥れるおつもりだったのか?」

軍閥貴族「貴様、云わせておけばっ」

暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる」

蒼魔上級将軍「騎士侯爵だなどと勇ましいことだ」

軍閥貴族「貴様ッ。そのような侮辱捨て置けぬ。
 ここで銀剣の錆にしてくれても良いのだぞっ」

カーテンの影「……」

王室つき司教「おのおの方、その辺で一旦矛を
 収めてはいかがですか?」
502 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:33:31.91 ID:498vELIP
蒼魔上級将軍「……ちっ」
軍閥貴族「はっ」

王弟元帥「良い。初めから一筋縄でいくとは思っていない」

王室つき司教「さようで」

軍閥貴族「しかし、この冬の飢餓を考えれば
 再軍備の目処もなかなかに厳しく、
 また冬の間にきゃつらの巻き返しがあるやもしれぬのですぞ?
 王侯や貴族の中には、南部に尻尾を
 振る事を考える連中も出る始末」

蒼魔上級将軍「裏切り者か? 粛正すれば良いではないか。
 戦うまえから投降を考えるような敗北主義者を
 生かすような柔弱な姿勢が信念の所在を総括させぬのだ」

暗殺者「ふぅーっしゅっしゅっしゅ。
 流石魔族の若君。云うことが血なまぐさい。歓喜の音色」

王弟元帥「いい加減にせぬか。
 ――確かにあの雪の草原で南部三ヶ国同盟を打破できれば
 それに勝る事はなかったが、
 かといってこの敗北で我らが失った物は多くない。
 我らにはまだ大量の臣下、領土、物資、兵士が温存されておる。
 考えてみれば、あの戦で失ったものなど、
 たかが数百人の傭兵のみ」

王室つき司教「さようですぞ」

軍閥貴族「はっ」
蒼魔上級将軍「ふぅむ」
503 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:35:05.85 ID:498vELIP
王弟元帥「通貨の高騰は『同盟』の仕業と判明しておる。
 所詮奴らは時流になびくだけの商人よ。
 甘い蜜、勅書、教会の権威を振れば尻尾を振ろう。
 すでに新貨幣鋳造の準備は整っておる。
 ――そうであるな?」

暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる……。御意に。
 魔界より開門都市を通して……砂金の調達も続けております」

王弟元帥「軍資金はこの新貨幣でまかなえばよい」

軍閥貴族「はっ」
蒼魔上級将軍「我らには無縁のこと」

王弟元帥「蒼魔族との約定は先の通り。
 我らの悲願が達成された暁には、南部三ヶ国の領土を与えよう。
 人間界に領土を持つ唯一の魔族として、
 汝らは覇業へとのりだすのであろう?」

蒼魔上級将軍「いかにも。
 そしてその後もずっと『教会の敵』をも演じましょう。
 あなたたちが君臨し、君臨しつづけるためにもね」

軍閥貴族「……腰抜けが」

蒼魔上級将軍「口を控えて貰おう」

暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる」

王室つき司教「考えてみれば、南部諸王国などと云う
 無力な防衛のためにずいぶんな金を支出したものです。
 制御できる脅威であれば十分でした物を」
504 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:37:05.66 ID:498vELIP
軍閥貴族「しかし、それもこれも、
 南部の跳ね返りものどもを始末しなければならぬ前提」

蒼魔上級将軍「その通りだ。珍しくもな」

カーテンの影「……教会は常に……一つ」

王室つき司教「さようで。我が教会は常に一つの教え、
 一つの聖書、一つの頂点により構成されねばなりませぬ。
 人を導くとはそう言ったもの。
 我らが教会は堅固にして盤石。
 その信仰心は金剛石よりも確か」

軍閥貴族「では……」

暗殺者「ふーっしゅっしゅっしゅ」

王弟元帥「第三回聖鍵遠征軍を招集する」

軍閥貴族「おおっ!」

王室つき司教「聖鍵遠征軍は貴族だけではなく、
 聖なる教会の信徒全てに直接呼びかける人界最強の軍。
 その軍を持って、三ヶ国同盟を打ち砕き、そのまま開門都市、
 さらには魔王を目指す」

軍閥貴族「希有壮大な……」

暗殺者「ふしゅーるしゅるしゅっしゅ」
505 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:40:10.47 ID:498vELIP
蒼魔上級将軍「ふふふ。その方が我らにとっても好都合。
 魔王さえ死ねば次の魔王を選ぶための儀式が
 早々に始まりますからな」

王室つき司教「その時の魔王は……。ふふふふ」

蒼魔上級将軍「われら蒼魔族のもの」

軍閥貴族「しかしあの広大な魔界の版図を如何に渡るか」

王弟元帥「今回は魔族の側にも協力者が居る。
 詳細な地図の用意も出来た。そのうえ。ふふっ。
 我が手には切り札がある。
 ……あれを持て」

小姓「こちらにご用意してございます」 すちゃ

軍閥貴族「これは?」

蒼魔上級将軍「見慣れぬ鉄杖ですな」

王弟元帥「――マスケット。ふふふ。
 魔力のないものでも中級炎弾を生み出す機械よ」

蒼魔上級将軍「――機械?」

王弟元帥「ブラックパウダーを推進力に変えて敵を討つ。
 その最大の特徴は訓練だ。
 弓兵を育てるには一年以上の教練が必要。
 ましてや、中級炎弾を使う魔道士となれば5年以上が掛かる。
 しかし、このマスケットは違うのだ。これさえあれば、
 奴隷であっても二週間の訓練で軍を編制できる」

軍閥貴族「なんとっ!?」
506 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/15(火) 13:42:12.28 ID:498vELIP
王弟元帥「ふふふっ。これも異端の技。
 鉄の国に住むとある腕の良い鉄職人がな……ふふふっ。
 あの異端の魔女、紅の学士の依頼と指示を受け
 昨年よりずっと開発していたものよ」

軍閥貴族「そのようなものが……」

王弟元帥「これの生産に成功すれば戦が変わる。
 戦に用いることの出来る兵が十倍にもなるのだ!!
 我らにもはや不可能などはない」

蒼魔上級将軍「……寝返りか」

王室つき司教「寝返りではありませぬ。
 彼は光の精霊への正しい信仰に目覚め、
 新たなる帰依の念を深くしたまで。
 いまは精霊の愛に包まれて至福の境地にありましょう」

王弟元帥「この冬は我らにとっても恵みとなろう。
 マスケットを量産するのだ。
 職人を集め、宮殿に巨大な高炉をつくりだせ!
 一切を秘密のうちに数千の武器を作りだし、
 魔界をも駆け抜けようぞっ! 聖鍵遠征軍こそ我らが剣!」

王室つき司教「全ては精霊の御心のままにっ」

軍閥貴族「御心のままにっ」

暗殺者「ふーっしゅっしゅっしゅるしゅる」
507 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:43:33.16 ID:498vELIP
カーテンの影「声が……。聞こえる……」

王弟元帥「……っ」ざざっ

王室つき司教「御お言葉を、お言葉を……」ざざっ
軍閥貴族「猊下っ」ざざっ

カーテンの影「呼ぶ声が……」

王弟元帥「……」

カーテンの影「鍵を……手に入れよ。魔王の……身命を……」

カーテンの影「そして、開門都市にて……我が悲願を……」

蒼魔上級将軍「……」じぃっ

カーテンの影「我らが、教会の……悲願を……」

王室つき司教「必ずや! 必ずやっ!!」

カーテンの影「我らが千年の万年の……」

暗殺者「ふしゅーっしゅっしゅっしゅ! ふしゅーっしゅっしゅ!」

カーテンの影「……光の……精霊の……聖骸を……
 必ずや、必ずや……手に入れるのだ……」
530 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/15(火) 18:48:46.50 ID:498vELIP
――冬の王宮、広間、対策会議

青年商人「お初にお目に掛かります。
 南部諸王国の王侯の方々。
 わたしは『同盟』所属の商人。
 あらかじめ商人子弟殿を通して
 ご紹介して頂いたとおりのものであります」

辣腕会計「補佐を務める会計と申します」

鉄腕王「ご挨拶痛み入る」
氷雪の女王「雪の国の女王です。以後お見知りおきを」

冬寂王「畏まることはない。我らは王族とは言え、
 もはやこの三ヶ国同盟において農奴は解放されたのだ。
 もちろん我ら自身の誇りと名誉によって民のために
 身命賭ける覚悟はあるが、我らはもはや王という
 支配者ではない。同名の管理人にすぎぬ」

商人子弟(それこそが王の資質なんだと、
 僕なんかにゃ見えてるんですがねぇ……)

青年商人「かたじけなきお言葉を賜り有り難く存じます。
 では、時間も差し迫っていることかと思いますので、
 手早く交渉に移りたいと思いますが……」

冬寂王「……」ちらっ

商人子弟 こくり

冬寂王「よろしくお願いする、青年商人殿」
532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 18:49:56.19 ID:498vELIP
青年商人「まずは第1の話題です。
 わたしども『同盟』は三ヶ国同盟が国家備蓄として
 保持している馬鈴薯の全て。また春までに生産される
 追加分全てを引き取りたい、と云う意向を持っています」

鉄腕王「全て……!?」
氷雪の女王「とてつもない量になりますよ?
 船で運ぶのなら何十隻を必要とすることかっ」

冬寂王「何に使うつもりなのだ?」

青年商人「中央の諸国家に売ります」

鉄腕王「馬鈴薯は聖教会によって異端食物の指定を
 受けているんだぞ?」

青年商人「中央は現在深刻な穀物不足です。
 もっともわたしが『不足』などと表現すると、
 色々問題もあるような気がしませんでもありませんけれど。

  だがしかし、飢餓が目の前に迫っているのは現実。
 この状況を打破するためには多少劇薬が必要でして」

冬寂王「それが馬鈴薯か?」

青年商人「飢えた腹で食べる馬鈴薯はさぞや旨かろうと思います」

氷雪の女王「……っ」

青年商人「飢えて死ぬよりは、馬鈴薯を食べますよ。
 人間そこまで割り切れて生きれる物じゃぁ、無い。
 意地っ張りも居ますが、この件では多数派ではないでしょう」
534 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 18:53:25.81 ID:498vELIP
冬寂王「しかし、中央諸国を全て救うほどの馬鈴薯は……」

青年商人「その辺はご心配なく。
 高価格を維持する程度にコントロールして麦を放出します。
 飢餓を起こすことが『同盟』の目的ではない」

冬寂王「我ら三ヶ国通商同盟に肩入れをしてくださると?」

鉄腕王「ふむ? 肩入れとはどういう事だ?」

青年商人「いえ、馬鈴薯を食べた国民が、
 その味を理解しそれが悪魔の果実などではないと云うことを
 自らを持って体験してしまう。
 その結果、いくつかの国々が三ヶ国通商同盟の方へ傾く。
 そんなことが仮にあったとしても、別にそれは
 『同盟』が三ヶ国通商に好意を持っているという話では ありません」

氷雪の女王「……」

商人子弟「だがしかし、そうであってもわたし達には追い風です」

青年商人「それはもちろん。で、あればこそ交渉の余地がある」

冬寂王「『同盟』の意図はこの場合何処にあるのかね?」

青年商人「……」

冬寂王「もちろんそれが『同盟』の機密であるなら
 聞くわけにも行かないだろうが……」

商人子弟「いえ、おそらくそれが今日の交渉の一つの本題」



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