5-1


魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」5-1


8 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/09/13(日) 18:18:24.27 ID:6HXLExsP
――開門都市、自治議会、執務室

東の砦将「こいつぁ……。本当なのか?」
副官「はい」
魔族娘「……あの、ほ、ほ……。本当なんです」

東の砦将「……っ」ぎりりっ

副官「三日ほど前からゲート方向へと移動する
 蒼魔族の部隊も目撃されています。規模は不明なれど
 1000以下ということはないかと」

東の砦将「警告を送ることも出来ないのか」だむんっ

魔族娘「ひっ。す、す、すみませんっ」

東の砦将「いや、すまん。気が立っちまった」

副官「……」

東の砦将「問題はこの手紙の主か……」
副官「はい」

「――魔族に敵対をしていた南部諸王国三ヶ国は
 中央の国家連合と戦争を行う事になった。
 南部諸王国三ヶ国は目下防御が弱体化しており、
 海岸部、および首都の後背は丸裸同然。
 領土を増やし民を“黄金の太陽の大地”へ導くのには
 絶好の好機かと、ご報告申し上げる」
9 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/09/13(日) 18:20:33.52 ID:6HXLExsP
東の砦将「こいつぁよ」
副官「はい」

東の砦将「人間だよな。ああ、人間だよ。
 俺には判る、間違いないね。人間だ。
 この手紙からは、人間くさい匂いが、腐った人間の放つ
 あのいやーな匂いがぷんぷんしやがる」

副官「……」

東の砦将「嬢ちゃん、そいつはどんなやつだったんだい?」

魔族娘「あの。わたしも見ただけで……。
 その手紙は……掏摸の子供から、買ったんです。
 で、でも……。 その商人は、たしかに蒼魔族の人と会ってました……。
 えっと、背は副官さんくらいで……。
 でも、横幅は、細くて、フードかぶっていて……。
 なんか、その……呼吸音が、変で」

東の砦将「変?」

魔族娘「漏れるような……蛇みたいな……」

東の砦将「喉の裂傷か、病か?」

副官「手配しましょう」

東の砦将「もう街に残っちゃ居ないと思うが、そうしてくれ。
 魔族も人間もかまわずチェックだ。
 くそっ。いったい何がどうなってるんだ。
 これ以上ドンパチ続けてどうなるってんだ!」
15 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 18:37:49.43 ID:6HXLExsP
――地下世界への旅

 ヒュバァァァァァ!!

勇者「……魔界?」

「……魔界じゃない。地下世界」

勇者「地面の下に、魔界があったのか!?」

「そう」

勇者「……っ」

「……そもそも転移呪文は、瞬間移動呪文。
 ……次元跳躍呪文では、無い」

 ガクンッ! ガクンッ!
勇者「うわぁっ!?」

「高度を低く」

勇者「何でだよっ」

「地下には引力がない。斥力が代替している」

勇者「引力? 斥力?」
17 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 18:41:03.76 ID:6HXLExsP
「……引力は、大地がものを引く力。この力で、物は落ちる。
 斥力は、物を押す力。地下世界では、碧太陽が斥力で
 万物を地面に押さえている。
 ……押さえないと、浮き上がるかもしれない」

勇者「なんで飛行呪が不調になるんだ? 関係があるのか?」

「……地下世界では、碧太陽に近づくほど斥力が強くなる。
 高く飛ぶことは不可能」

勇者「本当なのかよ」

「本当」

勇者「……訳がわからない」

「判るべき」

勇者「なんでっ?」

「いまは魔王が大事」

勇者「何処にいるんだ? あいつはっ。どうなってるんだ」

「“魔王”になりかけている」

勇者「判らないよっ」

「魔王城、その地下深く」
20 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 18:43:28.39 ID:6HXLExsP
勇者「判った!!」

 ヒュバァァァァァ!!

「……魔王の代わりは」ザリッ!「……わたしがする」

勇者「は? なんか変な音がしたぞっ」
「通信の、距離限界。……人間界の援護は、わたしがする」

勇者「出来るのか?」

「……まかせてちょんまげ」
勇者「……」

「……おまかせくださいこのくそ童貞」
勇者「……」

「……」

勇者「わ、わかった。深くは聞かない。頼んだ」

「了解」

勇者「あのさ」

「……」

勇者「来てくれて、ありがとうな。……すげー助かった」

「……いってきて」 ザリザリッ! 「まってる」
22 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 18:45:06.67 ID:6HXLExsP
 ヒュバァァァァァ!!

勇者「ここかっ。警備兵どもは居るのか? まぁいいさ。
 強行突破だ、このまま行くっ。……“加速呪”っ!」

 キュイィーンッ!

勇者「……魔法使い、おい」

勇者「……おいっ」

勇者「流石に通信限界か。
 ――誰もいないな。
 最下層、目指すぜ。たしか、こっちへ……」

 キュイィーンッ!

勇者「宝物庫を抜けて、回廊を抜けて……三層……」

 ドカッ! ガシャン!

勇者「あとで壊したの謝るからなっ! 五層っ!」

 ガチャン! キュイィーンッ!

勇者「七層っ! なっ、なんだっ!?」

 オオオーン!
  オオオオーン!

勇者「どす黒い……。こんな魔素、はじめてだぞっ。
 魔王……なのかっ。こんなに戦闘能力があるのかっ」
27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:01:36.12 ID:6HXLExsP
――大陸草原、雪の集合地

女騎士「揃ったようか?」
将官「はい、中央征伐軍、どうやら予定数をそろえたようです。
 中央の天幕に主だった貴族、領主が集合。全体軍議を始めました」

女騎士「総数は?」
将官「総数四万近いですね。うち、兵力は二万八千です。
 そのほかは非戦闘要員と見えます。うち騎馬兵力は九千。
 全て望遠鏡部隊により目視確認」

冬国兵士 ごくりっ

女騎士「気にするな。喧嘩にならなければ
 数が多かろうが少なかろうが関係ない。
 いや、少ない方が財布に優しい分、勝ちだ」

冬国兵士「はっ、ははは、はいっ。姫騎士将軍の仰せのままにっ」

女騎士「で、今日の付け届けは?」
将官「はい。氷酒30樽、猪三頭、豚六頭を手配しておきました」

女騎士「ん。それで今晩も宴会だろうな」
将官「はぁ」

女騎士「自信なさそうだな」
将官「いえ。カツアゲされてる気分がちょっぴりわかったり」

女騎士「考えたらダメだ。考えない方が強いんだ」えへん
将官「それはそれでどうかなぁ」
28 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:03:14.49 ID:6HXLExsP
女騎士「次は飼い葉だな」
将官「飼い葉、ですか?」

女騎士「ああ、あれだけの馬が居るとなれば、
 大量の飼料が必要だろう?
 エン麦やカラス麦、干し草なのだろうな。
 もちろん馬車でそれらを輸送してきた領主もいるだろうが
 大半の領主は現地で買い上げるつもりだろう。
 金貨の方が持ち運びやすいのは明らかだ」

将官「はぁ」

女騎士「付近の農家に根回しを続けろ。
 今度はもうちょっと広範囲に広げるつもりがあるな。
 商人風を装え。軍が来ているから、干し草を持っていないと
 嫌がらせをされるかもしれない、と、それとなく云うんだ。
 このあたりの農家は、三ヶ国同盟には同情的だ。
 用意してきた干し草やカラス麦を買って貰え。
 場合によっては、同情した態度で無料で分け与えても良い」

将官「どんな意味があるんです?」

女騎士「ああ。持ってきた飼料は腐り水を吸わせてあるんだ。
 もちろん、馬が死ぬような物じゃない。
 ただ体調は崩すだろうな」
29 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:04:56.20 ID:6HXLExsP
女騎士「馬の体調が崩れれば、開戦日の指定が困難になる。
 もし会戦したとしても、突撃力が明らかに鈍る。
 騎士の取る戦術ではないが、今回は許して貰おう」

将官「なんで飼料にしたんですか?」

女騎士「人間の口に入る物であれば、毒味もするだろうし、
 毒物の選定にも気を遣わざるを得ないだろう?
 そこへ行くと、馬の飼い葉を毒味するやつなんていやしない。
 馬にはちょっぴり可哀想だけどな。
 戦争になれば、死ぬ馬も沢山出てしまう。
 その件で許してもらえれば良いな」

将官「それはまぁ、流れ矢に当たった馬なんて
 息絶えるまで血の泡を吹いて半日以上苦しんでいたり
 軍人のわたしでさえ沈んだ気分になりますからね」

女騎士「よし、指示を伝えてきてくれ」
冬国兵士「はいっ」

将官「これで、数日は稼げますかね」

女騎士「粘るしかないな」
将官「次の手は?」

女騎士「まだ三つ四つは考えているのだが」
将官「ほう?」

女騎士「敵陣の前で熊と素手で戦ってみせるとか?」
将官「それだけは勘弁してくださいっ。イメージが壊れます」
41 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:34:29.89 ID:6HXLExsP
――冬の王宮、謁見の間

女魔法使い「……くぴぃ」

女魔法使い「……すぅぅ……すぅぅ」

冬寂王「……」

女魔法使い「……んぅ。……くぴぃ」

冬寂王「あれは一応玉座だぞ?」
商人子弟「ええ」

従僕「変な女の子……」

女魔法使い「くふぅ……」くてん

冬寂王「我が王座に何でかような少女が寝込んでいるのだ」
商人子弟「さぁ……」

従僕「……」そぉっ つんつん

女魔法使い がぷっ

従僕「っ!?」びくっ

冬寂王「危険な刺客かもしれんっ」
商人子弟「……」こくり
42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:36:05.88 ID:6HXLExsP
女魔法使い「っ!」 もそもそ
冬寂王「ぬっ」

女魔法使い「くかぁ……。んにゃむにゃ」 しーん

冬寂王「……」

かちゃ

執事「若。お茶が入りましたぞ。気を取り直して
 書類などあああっっ~!?」

冬寂王「爺、どうしたのだ?」

執事「ま、魔法使いっ。ぬし、いままで何処にっ!」がしっ

女魔法使い「……」ぼへぇ

執事「どこにいってたんですかっ。
 勇者も女騎士もさんざんに心配していたんですよっ。
 多量のよだれを流している場合ではありませんぞっ」

女魔法使い「……ねていた」

執事「あなたって人はまったく。まぁ、勇者が居ないので
 いまはまだ正常のようですね」
45 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:38:12.28 ID:6HXLExsP
――冬の王宮、謁見の間

執事「紹介しましょう。彼女がかつての勇者の仲間、
 3人のうち1人。女魔法使いです」

女魔法使い こくり

執事「この状態の時は安全です」

女魔法使い ぼやぁ

冬寂王「この方も伝説の英雄なのか?」
商人子弟「まさかぁ」

執事「そのとおり。彼女こそパーティーの広域殲滅担当。
 108の呪文を修めかつては“出来の悪い悪夢”“昼寝魔道士”
 と呼ばれた最強の魔法使いです」

女魔法使い「……わたしは“ごきげん殺人事件”っていうのが好き」

冬寂王(小声で)「間合いが取りずらいお嬢さんだな」
商人子弟(小声で)「僕も感じてました」

執事「いや、この娘、やる時にはやり過ぎてしまう娘ですぞ」

冬寂王「……あまり決まってないような印象だな」
商人子弟「凄さが判りずらい感じですね」
48 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:40:20.16 ID:6HXLExsP
女魔法使い「……寝る」
執事「いま寝られると困ります。勇者とは会ったんですか」

女魔法使い「会った」
執事「勇者は?」

女魔法使い「魔界と呼ばれていた場所へ向かった」
冬寂王「……やはり、そうか」

商人子弟「こちらはわたし達だけで持たさなければなりませんね」

執事「それで、勇者は何か? 何を知っておるんですか」

女魔法使い「まお……紅の学士から指示を預かってきてる」
冬寂王「っ!?」

商人子弟「学士様とお知り合いなのですかっ?」
執事「旅に出ていると聞きましたが……」

冬寂王「して、どのような?」

女魔法使い「……おしえない」

冬寂王「なにゆえだっ」
執事「学士様とは知り合いなのですか?」

女魔法使い「……学士は、ゆるいところがあるので。
 胸とは言わない。胸はゆるいというより、たぷたぷ。
 それから、わたしと学士は、同じ一族。親戚。姉妹?」

冬寂王「ご親戚だったのか」
50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:42:22.49 ID:6HXLExsP
女魔法使い「……それに」
執事「それに?」

女魔法使い「……すぅ」
執事「おきてくださいっ」がくがくっ

女魔法使い「……学士は、こちらの状況を、知らない。
 戦争になっていると、思っていなかった。
 ……だから、指示は、かなり。無駄」

冬寂王「そうか……。そういえばそうだったな……」

女魔法使い「……でも、手を打つ」

商人子弟「どんなです?」

女魔法使い「……偶蹄目の動物である家畜を用いて
 その危険性を弱毒化により減少させたウイルスを、
 意図的に患者に罹患させることにより、
 ……近縁種への排他的抵抗性、すなわち免疫を獲得させる治療法、
 およびその一般への啓蒙と頒布、接種体制を確立させる」

冬寂王「?」
商人子弟「……えーっと、判ったか?」

従僕「さっぱり判りませんー」 うるうる

女魔法使い「……」ぽけぇ

冬寂王「もうちょっと判りやすく頼めるだろうか?」

女魔法使い「天然痘の予防体制を成立させる」
52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:48:48.44 ID:6HXLExsP
冬寂王「っ!?」
商人子弟「何を仰っているのか、判っているんですか!?」

執事「天然痘と云えば……。この大陸の悪夢ですぞ!?
 年間100万人とも、300万人ともいわれる死者を出す……。
 全身に広がった疱瘡や膿、かさぶたは
 たとえ治癒したとしても、一生その傷跡を残す悪魔の病気。
 罹患者を出した家は焼き討ちされるほどの業病ではないですかっ」

女魔法使い「……知ってる。研究したから」

冬寂王「女魔法使い殿は、学者でもあられるのか」

商人子弟「そうなのですか?」

女魔法使い「……専門は伝承学」

冬寂王「な、なるほど」

商人子弟「もし本当だとすれば、
 これは全人類にとって未曾有のニュースになりますよ」

従僕「ぼくの、お父さんの弟も天然痘で死にましたー」ぐすっ

執事「身内を天然痘に奪われたことの
 ないものなどこの大陸には居ないはずですぞ」

冬寂王「うむ、うむっ」
54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:51:24.01 ID:6HXLExsP
女魔法使い「……治療法ではない。予防法」

冬寂王「それにしたって同じくらい意味のあることだ」

商人子弟「どうするのです?」

女魔法使い「……薬のような物を作って、
 接種という方法で感染させる。
 軽い病気になるけれど、天然痘にはかからなくなる」

執事「なるほど。一度天然痘の治った患者は、二度と
 天然痘にかからないというのと似ているわけですな」

女魔法使い「……同じ仕組みを使う」 こくり

冬寂王「効果のほどは?」

女魔法使い「……約7年」

冬寂王「ふむ、素晴らしい吉報だ」

女魔法使い「を……」

冬寂王「?」

女魔法使い「三ヶ国同盟および協力諸国の国民は
 1人金貨10枚で利用できます」

冬寂王「……っ!」

女魔法使い「そうなったら、いいなー」
56 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:54:04.47 ID:6HXLExsP
冬寂王「それで、風向きが変わるなっ」
商人子弟「ええ、確実に。停戦に向けた動きが可能です」

従僕「す、すすごいやぁ!」

女魔法使い「……そしてわたしは魔族です」

冬寂王「へ?」
執事「何を冗談を言ってるんですか。魔法使い」

女魔法使い「……みたいな」

冬寂王「……」
商人子弟「……」

従僕「?」

女魔法使い「……おね、がい」くてん

冬寂王「つまり、天然痘の予防方法は、
 魔族から技術的に供与されたと?」

女魔法使い こくり

冬寂王「そのように広めてくれと云うことだな?」

女魔法使い こくり
58 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:56:26.35 ID:6HXLExsP
冬寂王「…………」

女魔法使い「……」

商人子弟「王よ……。わたしからもお願いします。
 もう、王にだって、前線の兵士にだって少しずつ
 判ってきているのではないですか?
 確かに魔族は強大で奇怪な姿をしていますが、
 言葉を持つ、知的な種族です」

従僕「……」

執事「……」

商人子弟「進んで友好関係を築くとか、そう言う事じゃないんです。
 でも、一方的に精霊の敵呼ばわりして、
 こちらから反感を煽らなくても良いのではないでしょうか?
 もちろん武力侵攻してくれば戦います。
 そいつらは敵なんですから。

 ただ、人間にも様々な国があるように、
 魔族にも様々な国や派閥がある可能性があります。
 魔族を知らないで、このまま戦ったとしても
 勝つことはおぼつかないのではありませんか」

冬寂王「なぜ……。魔法使い殿はそれを望む?」

女魔法使い「……なぜ?」

冬寂王「なぜ、魔族と我らの仲を取り持とうとする」
60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 19:58:48.13 ID:6HXLExsP
女魔法使い「……すぅ」
執事「いちいち眠り込まないと話も出来なくなったかっ」

女魔法使い「……“出来の悪い悪夢”は飽きた」

従僕「……」

女魔法使い「……眠りには、良い夢が望ましい」

冬寂王「そう……か……」

商人子弟「……」

冬寂王「確約は出来ない。中央はともかく民の反応が気になる。
 だがしかし、冬寂王の命ある限り、その言葉胸に留め置き
 決して無為なる血が流されぬように尽力しよう」

商人子弟「ありがとうございますっ」

執事「魔法使い……」

女魔法使い「……魔族です。本当ですよ」

きゅるるっ

冬寂王「はははっ。腹ぺこ魔族のようだな!
 どうだろう。
 我が城の厨房を襲撃しようではないか。
 ここにいる全員で襲いかかれば、
 何らかの食事にはありつけよう」
86 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:29:03.95 ID:6HXLExsP
――鉄の国、首都周辺、修道院の建物

鉄国少尉「洗浄を急げっ! 水を絶やすなっ!」

軍人子弟「布は煮沸するでござるよっ! もっと布をっ!」

鉄国兵士「市民が支援に名乗り出ていますっ。
 いかがしたらよろしいでしょうっ?」

鉄国少尉「いかがしましょう?」

軍人子弟「もちろん有り難いでござる。
 水の用意を、それから炉をさらに作ってもらうでござる!
 鍋を借りてきて湯を沸かせっ」

即席兵士「搬送入りますっ!」
白夜軽騎兵「うううっ!!」

鉄国少尉「白夜の……」

軍人子弟「考えるなっ!! 傷病者の手当は鉄腕王の裁可でござる!
 分け隔てすることなく、重傷者から判別用ハンカチを結びつけよ!
 軽傷者は野外テントへ搬送っ、市民に手当をしてもらうでござる。
 中傷者は修道院内部へ、止血および蒸留酒による消毒っ」

鉄国兵士「はっ!」

 ザッザッザッ

白夜軽騎兵「うううっ。死ぬっ、もうダメだっ」

軍人子弟「しゃっきりするでござる!
 その傷では死ぬどころか休暇にもならないでござるよっ」
87 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:31:56.43 ID:6HXLExsP
鉄国兵士「報告しますっ!」

軍人子弟「聞こうっ」

鉄国兵士「集計終わりました。
 我が軍は、死者18名、負傷者221名。
 白夜国は死者304名、負傷者892名、捕虜450名。
 なお、副指揮官と思われる死体は確認されましたが
 指揮官と目される片目の男は、死体および収容者の中では
 確認できませんでしたっ」

鉄国少尉「困りましたね」

軍人子弟「帰っていてくれれば、
 それはそれで好都合でござるが……」

鉄国少尉「そういうものですか?」

軍人子弟「下手に隠れられるよりも、少ない兵で
 出直してきてくれるなら、察知もしやすいでござるしね」
鉄国少尉「そう言えばそうですな」

即席兵士「あっ。将軍だっ!」

   ああ、将軍だ! すごいだべ! 完璧だたぜぇ
   そうさ、将軍の命令で一列に矢が飛んでいったんだ!

軍人子弟「は?」

即席兵士「将軍! 大勝利! 万歳!!」
  万歳! ばんざーい!! 万歳っ! ばんざいっ!

軍人子弟「ちょっとまつでござるよ。拙者は将軍では
 ないでござる。ただの街道防衛部隊指揮官でござるよ」
88 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:33:38.24 ID:6HXLExsP
鉄国少尉「まぁ、良いではないですか」

軍人子弟「しかし、違うでござる」

鉄国少尉「一般の市民やこの間まで農奴だった開拓民に
 軍隊内部の階級や呼称なんて判るわけがない。
 あの将軍っていうのは
 “格好良い”っていう意味なんですよ」

軍人子弟「――格好……良い?」

鉄国少尉「ええ、そうですよ。
 開拓民の倅の俺が言うんだから、まちがえっこありません。
 それにね、そんな格好良い、
 英雄みたいな将軍に“ありがとう”。って思った時
 学のねぇ頭の悪い連中や、俺たちは
 万歳って云うしかないんですよ」

軍人子弟「……そ、そうでござる……か?」

鉄国少尉「ええ。“将軍”! 今日の戦いは見事でした!
 俺たちはきっと孫が生まれても語り継ぎますよ。
 そのためにも、まだ続く戦、頑張っていきましょうっ!」

軍人子弟「そ、その……よろしくでござる」

即席兵士「将軍っ。あ、あれ? どちらに?」

軍人子弟「斥候が心配でござる。まだ行動可能な体調なものに
 食事と休憩をてはい、その後再編成して巡回部隊を組織すること。
 拙者、王宮への報告および、見回る場所があるでござる」
94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:48:36.62 ID:6HXLExsP
――ふかいふかい、ねむりのなかで

「なんだ……寝苦しいな……」

「う……うん……」

「まったくべたつくような夜気だな。絞ったタオルでも
 メイド長に持ってきて貰わねば、やりきれ……」

「えっと」

「あれは、誰だ?」

――。

「あれは、わたしじゃないか」

――。

「うわぁ、これが幽体離脱という物なのか。初めてではないか」

――。

「うーん、本体の方がああもすやすや眠っているところから
 推察すると、この寝苦しさは何らかの霊現象もしくは精神的な
 失調と関係があると推測して良さそうだな」
95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:49:37.98 ID:6HXLExsP
――。すぅ

「おお。本体が起きたぞ。
 すると幽体離脱中でも本体の活動は別口なのか?
 興味深い事象だなぁ」

――。

「こうしてみると、わたしも捨てたものじゃないではないか。
 どこぞのメイド長に虐められてすっかり卑屈だったが
 ぷにってるはぷにってるが、こう……よいのではないか?

  人間界に出てみれば女性の胸は大きくても良いと云うではないか。
 腰回りも無駄でなければ、多少肉がついていた方が
 女らしいわけで……母性本能や癒しが足りないと云われれば
 それはそうだが、こうやって客観的に見ると色気だって
 おい。おっ、おいっ!」

――。

「わたしの身体っ! 色っぽいのはかまわないが
 何でそういやらしい仕草をするんだっ。
 色んな方面への謝罪対応に追われるような表情をするなっ。
 わっ、わたしの身体なんだぞっ!
 調査しなくても知っているではないかっ!

  ど、何処を触っているんだっ。
 っていうか、たのむ、その姿勢は止めてくれっ。
 胸が揺れすぎるからっ」
99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:53:14.78 ID:6HXLExsP
――しゃ。

「は?」

――ゆうしゃ。

「はぁぁぁ!?」

――ゆうしゃ。

「どっ、どこからとりだしたぁ、そのイメージっ!
 いや、わたしの中からだろうという想像はつくが
 どういうつもりだ身体っ!
 わたしをのけ者にして何をするつもりだ、はっきりとした
 返答をして貰おう期限は二秒だ12終了だ、応えろっ!」

――ゆうしゃ。

「待てっ。その手を止めろっ。
 いくら身体が相手だろうがわたし自身が相手だろうが
 それはわたしの所有物だぞ、
 一切手を触れることまかり成らんっ。
 いまこそ云ってやろう!!

 この駄肉っ!

 そのえろっぽい手をどけろっ!
 それはわたしのだっ!
 わたしが先にもらったんだ!
 おまけにわたしは、それのものなんだっ!
 駄肉風情が駄肉を捧げて手に入れられるなどと考えるなぁっ!!」
102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:58:58.12 ID:6HXLExsP
――冥府殿、闇の奥底

 きぃいっぃぃっいぃぃいっぃん!!

メイド長「勇者ッ!」

勇者「どっけぇぇ!!」

メイド長「む、無茶ですっ! 勇者っ!
 この中は魔王しか入れない玄室っ!
 歴代魔王の残留思念がうずまいているんですよっ!?」

勇者「無茶を通せない勇者なんて、存在の意味があるかぁっ!!」

 ズガァアーン!!

魔王「――」

 オオオン!!
  オオオオン!!

勇者「おいっ! 魔王っ! 魔王っ!」がくがくっ

メイド長「だ、大破壊!?」
106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 22:01:45.12 ID:6HXLExsP
魔王「――我の」
メイド長「勇者様っ! 殴って!!」

勇者「へ?」

魔王「――我の玄室へ」
メイド長「急いでっ!」

ぼぐっ

魔王「――」くたっ

 オオオン!!
  オオオオン!!

勇者「なんだってんだ?」

メイド長「昔の魔王の悪霊に取り憑かれちゃい
 かけてるんです! 中身が別物というか……」

勇者「ああ、そういうことか。理解した」

メイド長「いや、汚染でした。どうすれば良いんですかっ」

魔王「――我ヲ」

勇者「おい、魔王っ! 魔王っ! 正気に戻れ」 ぼぐっ

魔王「――」くたっ
116 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 22:07:33.06 ID:6HXLExsP
勇者「おい、魔王っ! 何が“魔王にしかできない”だよ。
 強がりやがって! 自分を生け贄にして天災静めようとか
 そういう聖人じみた行動とってんじゃねぇよっ
 しまいにゃ食べてまうぞ、このぷに肉っ!
 おまえが柄でもなくこんなところで身を捧げたから
 偽者だったはずのメイド姉の方だって
 勢い余って聖人になっちまったんだぞっ!」

 ばしっ! ばしぃっ!

魔王「ゆウしゃ」
勇者「もどったかっ?」

魔王「――本物ダ」
勇者「嘘つけ、この旧世代っ!」

魔王「この我のものとなれ、勇」勇者「断る!」

魔王「我と共に来れば、貴様にはこの世の半」勇者「断る!」

魔王「ナ――ぜ――」

勇者「良いか、良く聞け時代遅れのポンコツ魔王っ!
 何が半分だこの詐欺師! そもそもお前のものでも無いくせに
 勝手に譲渡しようなんて片腹痛いんだよっ。
 そういう誠意の無い態度で勇者が口説けると思ったら大間違いだ!

 そんな化石化した台詞はなっ
 “今時の魔王が言っちゃいけない台詞集”にも
 ばっちり収録されてるんだよっ!!」

魔王「ナっ――」
122 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 22:12:31.22 ID:6HXLExsP
勇者「それになっ!」 ぎゅむっ

魔王「!?」

勇者「これは以前から俺の売約済みなんだっ。
 俺のものなんだ。契約をしたんだよっ。
 お前が占拠しようが、汚染しようが、俺のものなんだよっ!」

魔王「――何ヲ」

勇者「そうだよな、魔王っ!」

魔王「――云ッテ」

勇者「そうだよな、おいっ。聞いてるのか魔王っ!!」

メイド長「まおー様っ!!」

魔王「――何ヲ巫山戯タ」魔王「黙れ」

……オオオン!!
  ……オオオオ……ン!!
    ……オオ……オオ……ンッ

魔王「黙れ、駄肉め……。
 これでは甘やかな再会が台無しではないか」


勇者「甘いもなにもあるかっ。この強情魔王っ」

魔王「待たせたな――わたしの勇者」
勇者「寝坊しすぎだぞ――俺の魔王」
396 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:30:03.82 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、職人通り

片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」

 ズキィッ!

片目司令官「ッ!! ぐっふぅ、がふっ! がふっ!
 疼く、疼くぅ……。ここまで我を苦しめるか。
 砦将よ、冬寂王よっ。いや、この汚濁全てが我が目を喰らうのか。
 ~ッふ! ガフッ! アハッ! ギャハッ!」

 ズルン、ズルゥン

片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」

片目司令官「だがな、作戦は最後まで秘すべきものだ?
 そうだろう? 白夜王? ここに魔女が居る。
 はぁっ、はぁっ。ふはっ。ギヒッ。
 ここに、世界にあの地下牢で見た闇をぶちまけて、
 暗黒に引きずり落とそうと企む背教者が……。
 ギャハッ! ガフッ!」

……コッコッコッ

   通りすがりの職人「将軍の凱旋だっていうさ」
   通りすがりの徒弟「大勝利かぁ!」
コッコッコッ   通りすがりの職人「怪我をした人も多いらしい」
   通りすがりの徒弟「ああ、今度こそお手伝いしなきゃな」

コッコッコッ……

片目司令官「……ぎひひひっ。……行ったか」
397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:31:09.42 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫

ガチャ、ズチャ……

「おねーちゃん。もう遅いよぉー」
「もうちょっとだけ、ね?」

片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」

「それにこの姿の時は、お姉ちゃんなんて呼ばないの」
「ぶーぶー。もういいじゃない」
「だーめ。一応あの演説を聴いちゃった人だっているんだし。
 当主様が帰るまではこの姿で居た方が、
 すこしでもみんなのためになると思うの」

片目司令官 にたり

「はいっ。次これでしょ?」
「あら、よくわかったわね?」
「覚えるよぅ。左の棚からねぇ。f、u、d、a、r……。ね?」「よく出来ました」「えへへ~」

片目司令官「……紅の魔女にも、家族が居るのか。
 ふふふっ。背教者が人並みの家族だと? 聞くに堪えん。
 その絆もろとも闇淵へ沈むが良い」

「ん~」
「できたぁ?」
「ん。できました。――新しい活版よ」
「刷ろう! 刷ろう~」
「それは明日、職人さんが来ないとね」
「そっかぁ。じゃぁ、ご飯買って帰ろう?
 わたし、親方さんに云ってくるね♪」
398 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:32:31.96 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫

メイド妹「今日のご飯はなんだろー♪ 温かいスープに
 ちょっぴり黒パン、お豆の入った内臓煮込み~♪」

メイド妹「お宿のベッドはふかふかで~♪
 おうちに帰るの待っている~きゃうっ!?」

片目司令官 にたぁり

メイド妹「ごめんなさっ!? ……お、おじさんは
 ……だ、だ、だれですか?」

片目司令官「……」にやにや

メイド妹「工房の人ですか? 工房の人は、
 もう夜だからいませんよっ。お、親方に用ですかっ。
 親方は母屋だからこっちにはいませんよっ」

片目司令官「我らに光と精霊の加護がありますように」

メイド妹「あ。修道会の人ですか?」ほっ

 ガシィッ!

メイド妹「っ!?」

片目司令官「修道会? あんな異端と一緒にしないで貰おうか。
 我は栄光ある第二回聖鍵遠征軍、駐屯司令官だよぉ。
 ~ッふっふっふ! あはははっ! ギャハハッ!」
400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:33:48.45 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫

メイド姉「妹~? 妹~? 片付け終わったわよ~。
 おなかすいたんでしょー? 宿屋に戻りますよ~?」

カツン、カツン、カツン

メイド姉「もう、親方さんのところで
 何かご馳走になっているのかしら?
 うーん。あの要領の良さだけは、本当にすごいんだけれど」

ガゴンッ! ゴゥーン

メイド妹「~ッ! ~ッ!」
片目司令官「お初にお目に掛かりますな、学士殿っ」

メイド姉「だっ、誰ですっ!」

片目司令官「は? あはははは。ひゃっはっはっは!!
 そうか、そうであったな。失敬失敬。
 我を知っているはずもないのか。農奴出身の売女よ。
 ――我はな。お前の死神だよ。あははははっ!」

メイド姉「なっ」

メイド妹「~ッ! ~ッ!」
片目司令官「何をするつもりかって? 知れているだろう?」

メイド姉「妹を離してくださいっ」

片目司令官「はっはっはっは。そのような顔をせずとも。
 なぁ、異端者。くぁっはっはっはっは!」
401 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:34:43.81 ID:498vELIP
メイド姉「……」きっ

片目司令官「まずは跪くが良い。精霊に詫びるのだ」

メイド姉「わたしは精霊様を信じています。跪くくらい
 なんでもありませんっ」 ぺたっ

メイド妹「~ッ! ~ッ!」

片目司令官「お前のような下賎な商売女が精霊様の
 名をかたるなっ! 跪けっ! 許しを請えっ!
 己の罪を告白し、恥辱に涙を流せっ!」

ドガッ!

メイド姉「……なんのっ。ことですっ」
メイド妹「~ッ! ~ッ!」

片目司令官「この位倉庫の中が貴様の懺悔室だと云うことだ。
 くぅっくっくっぅ。あっはっはっはっは!
 だがしかぁし、そこに許しはないがなぁ」 ジャキンッ!

片目司令官「どうだ? 学士? この剣は。
 貴様の二つ名と同じだよ。
 紅の名にふさわしいだけの血を吸ってきている。
 そうさ。ギャハハっ!
 貴様にはここで、精霊の許しも得られず、
 惨めにのたれ死ぬという裁きがくだされるのだよっ。
 我が瞳の中の赤黒い地獄に賭けてなっ!!」

 ヒュバンッ!!
404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:39:19.25 ID:498vELIP
メイド姉「っ!!」
メイド妹「~ッ!」

ギキィン!!

片目司令官「何者だっ!?」
軍人子弟「ただの軍人で、ござるよ。うぉぉぉっ!!」

ズダンッ!

メイド妹 ずるっ、びりっ「お姉ちゃんっ!!」
メイド姉「妹っ!」

片目司令官「そこをどけぇ!!」

ビュッ! ビュゥッ! シャッ! ジャッ!

軍人子弟「――っ。はっ! やっ!」

メイド姉「あ、あっ」
メイド妹「弟子のお兄ちゃんだぁ!」

ズシャァッ!

片目司令官「見れば青二才ではないかっ! 貴様などとっ
 くぐり抜けてきた地獄と苦痛が違うわぁっ!」

ザシャァッ!

メイド姉「あっ! 腕をっ!」
407 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:40:24.23 ID:498vELIP
片目司令官「ふふふっ。なんだ、貴様?
 はぁん。英雄気取りか? あ?
 この商売女を助けに飛び込みそれでどうにかなるとでも
 思っていたのかっ!?
 あははははっ。この小坊主がぁっ!」

 ギィンッ!

軍人子弟「拙者、ただの軍人でござるよ。
 ――英雄でも勇者でもないでござる」

じりじりっ

片目司令官「ならば上官に道を譲るが良いっ!」

ギィンッ!

軍人子弟「指令系統の違い理解せぬのは
 ――単一独裁になれすぎた悪癖でござるねっ」

ギィン! ギィンッ!!

片目司令官「猪口才なっ! どうした、左手が痛むかっ!
 防御が甘いぞっ! それっ! それっ! アハハハッ!!」

軍人子弟「――っ!」

メイド妹「お兄ちゃんっ!」

(重心を崩すなっ。相手の爪先を観ろっ。視線を観ろ。
 ――ちがうっ! この不器用者っ!
 見るんじゃない、観るんだよっ!
 それじゃお前が隙だらけになってしまうだろうっ!)



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最終更新:2010年05月14日 15:54
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