魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」4-4
536 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 23:47:48.34 ID:sQx9tPoP
少女メイド「あ、あの……剥けました……」
肥満領主「ふふっ。おうっ、これは甘いなっ」くっちゃくっちゃ
肥満領主「これだけの金があれば、騎士達への給金も
余裕を持って払えようし、傭兵団を雇うことも
容易かろう……」
肥満領主「700、いや1000の兵をそろえれば、
灰青王の本軍よりもさらに人数で上回ることも
可能かもしれんな。そうなれば司教様の覚えもめでたくなる。
光の白十字章か、いや……伯位も夢ではないかもしれん」
肥満領主「丁度小麦も値あがっていたのだ。
これだけの金貨があればどうとでもなるとはいえ、
ふふふふっ。
最近肥え太っているという、南部の豚料理をいただくのも
それはそれで悪くなかろう」
肥満領主「その宮殿にはたっぷりと
宝物が蓄えられていようゆえな。くっくっくぁっはっは。
今から胸が高鳴るわ。
戦は、ふむ……集合は半月後。
冬ではあるが、年を越して雪が本格的になる前に
けりをつけるつもりか。
これはこれは、灰青王も血気にはやっていると見ゆる」
ガチャリ
家令「返書を手配してまいりりましたっ!」
肥満領主「よいだろう。領内の騎士のリストを持てっ!
招集する部下の選定を始めるぞっ! 武具を確かめよっ!」
630 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 13:12:44.49 ID:Xzdt3noP
――湖の国、富裕街、路地
青年商人「はははは。ではお嬢様も?」
金満貴族「ははっ。ミーの娘ももう年頃なのだがネ。
いろいろヤンチャがオゥバァヒィトでこまるよ。ははっ」
青年商人「いえいえ、女性は花に舞う蝶のようなもの。
そのようなお嬢様に憧れる騎士や貴族の方も
多いかと思いますよ」にこにこ
金満貴族「そういうユーはどうなのかね? ん?
『同盟』の中でもかなりの地位があるのだろう?」
青年商人「いえいえ。わたしなどまだまだ未熟でして。
こうして貴族様とお近づきになれるチャンスがありますと
未だにあがってしまうんですよ」
金満貴族「ははは。謙虚な男だな、君は。
どうだい、今度我が領内で、舞踏会があるのだよ。
何人か貴族の娘もでるはずだ。ご招待しよう」
青年商人「わたくし不調法でして、
とんだ粗相をしないとも限らないのですが……」
金満貴族「はっはっは。気にしないでくれ。
なぁに、新しい冬の別邸のお披露目をかねた
内輪の小さな……そう、100名程度のパァティなのだよ」
青年商人「すばらしいですね」にこっ
631 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 13:14:05.87 ID:Xzdt3noP
金満貴族「ははははっ。今日は本当にナイスな取引が
出来たよ。ふぅむ、北方産の鳩血紅玉が45万とはね。
ふふふふっ。良く手に入れてくれた」
青年商人「勉強させて頂きました。今後ともご贔屓に
お願いいたします」
金満貴族「ああ、貴族仲間にも紹介しようじゃないか。
では、舞踏会の日取りが決まったら招待状を送ろう」
カッポカッポカッポカッポ
青年商人「さ、馬車の用意が出来たようですよ」
金満貴族「そのようだ。では行かせて貰うよ」
青年商人「真にありがとうございました」 ふかぶか
金満貴族「うむっ」
がちゃん、カッポカッポカッポカッポ
青年商人「……」
青年商人「ふぅ。……結構なことだ。
紅玉髄(ルビー)に45万とは。一晩の稼ぎとしては悪くない。
代価は麦でいただけるとは、あの方本人は把握もしてないん
だろうが……。その紅玉、食べれればさぞ美味いだろうな」
ヒュルルルゥーン
632 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 13:15:44.48 ID:Xzdt3noP
青年商人「冷えるな。まぁ、湖の国でももう冬だ。
南はそろそろ雪もきつかろうな。――っくしっ」
青年商人「宿に帰るか。今晩は作戦本部もいいだろう。
馬車は……乗るまでもないな」
カッカッカッ
乞食「おねげぇでございますだ、旦那さな」
青年商人「……」ちゃりん
青年商人「柄にも、ない。か」
どんっ
????「ひゃ」
青年商人「こりゃ済まないな」
青年商人(この夜更けに、フードにケープ? 北方の人か?
声は若い女性のようだが……)
????「いや妾こそ」
青年商人「こんな時間に女性の一人歩きは危ないですよ。
お気をつけて宿にお戻りなさい」
????「お待ちくださるかや」
633 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 13:16:42.98 ID:Xzdt3noP
青年商人「は?」
????「お客人」
青年商人「はぁ」
????「一度お会いしました」
青年商人「は? え。流石にそのフードだと」
火竜公女「そうでありましたね、申し訳ない」 はらり
青年商人「あ。ああっ!」
火竜公女「思い出してくださいましたかや」にこり
青年商人「どうしてこんなところにっ」
火竜公女「お客人を探しておりました」
青年商人「なんでわたしを?」
火竜公女「お客人は、商人だと。どのようなものでも
手に入れらるる方だと、あの宴で聞きましたゆえ」
青年商人「それは商人ですが。……あっ」
火竜公女「?」
青年商人「尻尾。……尻尾を」
火竜公女「尻尾が何か?」 ゆらゆら
青年商人「いえ、場所が悪い。移しましょう」
火竜公女「はい。妾も話があります」
641 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 13:57:26.02 ID:Xzdt3noP
――湖の国、富裕街、青年の取った宿
青年商人「胆が冷えました」
火竜公女「なにゆえです?」
青年商人「あー。人間には尻尾がないですからね」
火竜公女「そうでありますな」きょとん
青年商人「茶でも飲みますか?」
火竜公女「あれば火酒を。……ここは寒くてかまいませぬ」
青年商人「そう言えば、あちらよりぐっと寒いですね」
火竜公女「こちらに来てから尻尾の先が暖まったことが
一度もありませぬ。本当に人間界は冷え切った場所」
青年商人「まぁ、今は冬ですから」
火竜公女「冬……」
青年商人「ええ、魔界にはないんですか?」
火竜公女「聞き慣れぬ言葉ですね。いえ、意味はわかりますが。
二つのゲートに近きところは寒く、遠きところは熱い。
それが魔界です」
とぷとぷとぷ……
青年商人「ん……。入りましたよ」
火竜公女「有り難く頂戴しまする」
642 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 13:59:03.80 ID:Xzdt3noP
青年商人「さて、と。どうして公女がここにいるんです?」
火竜公女「お客人に会いにまいりました」
青年商人「そのお客人ってのは止めましょう」
火竜公女「ではなんとお呼びすれば?」
青年商人「商人と」
火竜公女「では、商人様に会いに」くぴくぴくぴ
青年商人「はぁ……。はるばる魔界から。というか、
転移呪文ですか? 魔族の魔法は人間のより
強力なんですかね」
火竜公女「そのようなことはありませぬ。
むしろ人間の儀式法術の方が強力だと、
父様などは云っているくらいで。
魔族は、魔力は品に込めるのが得意なだけ。
人間界へも転移符で来たくらいです」
青年商人「どうやって居場所を? 勇者ですか?」
火竜公女「いえ、我が君には内緒です。
――此度は妾の仕事ですゆえ。
居場所は探知魔法をかけて貰ったのですよ。
通りすがりの魔法使いに」くぴくぴ
青年商人「常識の削られる音がしますね」
火竜公女「削る分があるうちは取り返しがつくというもの」
青年商人「ごもっとも。削って売れれば文句はありません。
常識に元手は掛からないですからね」
643 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:00:30.81 ID:Xzdt3noP
青年商人「して、どのような品物をお求めでしょう、公女様」
火竜公女「塩を」
青年商人「いかほど?」
火竜公女「判りませぬ。必要なだけ」
青年商人「何とも曖昧は注文ですね」
火竜公女「ですから来ました」
青年商人「……?」
火竜公女「この注文をこなせるのは、
商人様しかいないと踏んで出向きました」
青年商人「ふむ」
火竜公女「塩は魔界では貴重品。これを融通して頂きたいのです」
青年商人「……」
火竜公女「……」くぴくぴ
青年商人「……」
火竜公女「……」とぷとぷとぷ、くぴ
青年商人「……」
火竜公女「……暖まります」
青年商人「その壺全部飲んで良いですよ」
火竜公女「聞いていたのかや」
青年商人「ちょっと考え事を」
644 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:05:49.24 ID:Xzdt3noP
火竜公女「……?」
青年商人「これは謎かけでしょうか?」
火竜公女「妾は愚かしき子女ゆえ、考え深い殿御に
とっては謎かけかもしれませぬ」
青年商人「考えすぎだ、と?」
火竜公女「賢きおなごは、万象の識をあつめ
知を尽くして物事に当たります。
しかし、心得を持つおなごは、殿方を立てることにより
何もせずともそれ以上を手にしまする。
それが妾が母上から受けた竜の教え。
商人様に、なるべく多くを手に入れて貰うためならば
謎かけでも何でもいたしましょう。
殿御にお力をふるって頂くのが
子女の誉れと心得ておりまする」
青年商人「塩なら造作もないんですけどねー」
火竜公女「……ああ、尻尾の先まで暖まりまする」こくん、こくん
青年商人「よく飲みますね」
火竜公女「人界の酒は珍しいゆえ」
青年商人「人間世界は初めてですか?」
火竜公女「もちろん初めてです。何もかもが珍しい。
パンという食べ物は美味しいものですね。
聞いていたのより随分高くて路銀で苦労しますが……。
それから教会というのも良い。
賛美歌というのはわくわくする代物ゆえ。
一つの建物が丸ごと楽器などとは、これは仰天の
体験でございます。人界とはまこと興味が尽きぬ」
645 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:08:53.43 ID:Xzdt3noP
青年商人「……しばらく、人界にいますか?」ぽつり
火竜公女「?」
青年商人「当面の塩は手配しましょう」
火竜公女「本当かや?」
青年商人「ええ」
火竜公女「それはかたじけない」
青年商人「ここまで危難に遭わなかったのが不思議ですよ」
火竜公女「尻尾かや?」
青年商人「ええ、まぁ。角も」
火竜公女「隠してはいたのですだ。
人界の人はみな慌ただしいゆえ、注意を払われぬ」
青年商人「……」
火竜公女「……」くぴくぴ
青年商人「あなたは」
火竜公女「?」
青年商人「あなたが。あなたの存在が、
“割り切れぬもの”に繋がるかもしれませんね。
わたしたちは、知らなすぎるのではないでしょうか?」
火竜公女「何を?」
青年商人「おそらく、互いを」
647 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:28:33.88 ID:Xzdt3noP
――白夜の国、白夜王の宮殿
片目司令官「ええい! だから云ったのだ!」
ガッシャァン!
白夜王「やつらはなぜ生きている!?
なぜ地上の光を浴びている!?
背教者だぞ? 我らが密告を受け、異端審問まで
行ったというのに、なぜのうのうとこの世にはびこっているのだ」
片目司令官「くくくくっ。ははははっ」
白夜王「何がおかしいっ!」
片目司令官「悪魔だからに決まっておるではないかっ!
豚に向かって“貴様は豚だ!”と言ったところで
何の意味があるのだっ。
ふんっ。屠殺しなければ終わるものではないっ」
白夜王「何を賢しらなことをっ!」
片目司令官「我は最初から剣で事を決しようと
云ったではないか、それを策謀にて進めようとしたのは
白夜王、あなたであろう?」
白夜王「うるさいっ! 我が国をみよっ!
今年は麦が高騰を続けているのだ。
中央からの義援金は例年よりも多く入ってきた。
四カ国に送る予定だったのだからな。
普段の二倍近い。
しかし、それで買える麦は普段より
少ないくらいでしかない位でしかないのだぞっ」
649 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:32:33.89 ID:Xzdt3noP
白夜王「そのうえ……」ぎりぎりっ
白夜王「昼も夜も絶えず、農奴どもが国境を越え、
鉄の国へと流れておる。三カ国がなんだというのだ!?
所詮は農奴を騙す新しいお題目を唱えているだけだというのに
冬寂王、あやつにだけなぜ人々が味方をするっ」
片目司令官「それはな、あやつが天を欺いておるからよ」
白夜王「~っ!!」
片目司令官「クカカカカッ」
白夜王「このままでは我が白夜は。我が白夜だけが……ッ」
片目司令官「なぁ、白夜王」
白夜王「……」
片目司令官「奪えば良いではないか? ほら、見ろ。
鉄腕王の国、氷雪の女王の国。
たっぷりと身の詰まった果物のように熟れておる。
いずれにせよ、背教者。
遠からず人間世界で腐って落ちよう?
それなら、その前に奪って食って悪い道理があるものか」
白夜王「……いけるのか」
片目司令官「中央の兵達は、戦になれば呼び集められる
招集の騎士と歩兵。誇り高いが実戦経験で劣る。
この国にいるのはなんだ?
世界で最高の経験を経た常備軍だと抜かしていたではないか」
661 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 15:17:37.23 ID:Xzdt3noP
白夜王「しかし、我は手勢の多くを極光島で失った。
一年の訓練は施したが、同じ南部諸王国が相手では
練度で劣るやもしれぬのだっ……」
片目司令官「あはははっ! 中央も、貴様も!
そしてその冬寂王とか云う小せがれもまったく判っておらんな!」
白夜王「なに?」
片目司令官「常備軍の強さというものを」
白夜王「それはなんだというのだ」
片目司令官「奇襲だよ」にぃっ
白夜王「それでは野盗と同じではないかっ!
人間同士の戦でそのようなことをしてどうする。
教会の非難に遭えば国が危ういのだぞっ」
片目司令官「その教会の敵が相手なのだ、相手は獣と同じ」
白夜王「!!」
片目司令官「野盗? 結構っ! 国境の盗賊どもに
金を払い、鉄の王国を荒らさせるのだ。
防備が分散した時点で騎兵による強行奇襲をかける。
畑も家も燃やし、一気呵成に鉄の国を落とすのだ」
白夜王「ふふふっ。それしかないようだな」ぐびっ
片目司令官「この片目の闇を、鉄の国にぶちまけてくれよう」
673 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:50:54.18 ID:Xzdt3noP
――冬の王宮、謁見室
ガチャン!
勇者「宣戦布告があったって!?」
執事「勇者、来ていただけましたかっ」
冬寂王「そうだ。
これが今朝届いた書面による正式な宣戦布告だ。 そのうえ同時に教会からは破門状も送られてきた」
勇者「早すぎる」
将官「もうしわけありませんっ。小官が甘い予想を」
冬寂王「いや、それは仕方ない。――事態が変わったのだ」
勇者「事態……?」
冬寂王「うむ、おそらく向こうも苦しいのだろう。
小麦を初めとして全ての物価が上昇しているのだそうだ」
勇者「物価が? 食い物が買えなくなるのか?」
冬寂王「そうらしい。詳しいことは商人子弟にでも聞いてくれ。
わたしもその構造や原因はわからぬ。だが、例年の二倍
以上にはなっているようだ」
執事「恐ろしい冬にならねば良いのですが」
674 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:52:52.01 ID:Xzdt3noP
冬寂王「おそらく、その物価の上昇が教会か中央の首脳を
刺激してしまったのだろう。
もしくは手に入った多量の金貨を用いて、
短期決戦を決意したのやもしれぬ。
それがこのような急を告げる知らせになった」
勇者「そうか……」
将官「王よ、詳しい書状の話を」
執事「それは私から。えぇー。ごほんっ。
冬の1月め、第四兎の日に南部草原にて会戦、
との宣戦状であります」
冬寂王「ふんっ。一応体裁だけは取り繕ったわけだ」
勇者「あと十日か」
執事「出向かなければどうなります?」
将官「今までの戦でいえば、我らがこの宣戦状を無視すれば
中央軍はそのまま進軍。向こうから見れば、攻城戦となりますね。
――しかし、我が国を始め、南部諸王国は
魔族に備える砦は多くとも、領土の北部、大陸中心部方面
つまり今回中央軍がやってくる方向には、警備のための
塔がいくつかある程度で砦らしき砦はありません。
と、なれば、いずれかの首都決戦になってしまうかと」
冬寂王「そうだな。この会戦を受けぬという選択肢は、無い」
勇者「くっそぉ。戦いたくないのにっ。
――戦いたくないんだ、俺はっ!」
676 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:54:28.79 ID:Xzdt3noP
冬寂王「これは、我ら愚かしい人間の戦だ」
勇者「だって、これは俺の、俺やあいつが撒いた」
冬寂王「違う。
“農奴の権利を認める”と判断したときから
これは人間の手による、人間の戦になったのだ。
勇者。
勇者が背負う必要など、どこにもない」
将官「そうですよ、勇者殿っ!」
執事「我らは今のこの時を、感謝こそすれ、けっして
恨みに思っていたりはしませんぞ」
勇者「ちがう……。違うんだ」
執事「勇者……」
勇者「うまく言えないけれど、これは違う。
こんな物が、あいつの目指した物であるはずがない。
これが結末だなんてあり得ないっ」
将官「……」
冬寂王「確かにここで戦力を消耗するのは、
我らにとっても益のないこと。
我らにとってもはや戦は国力を増す手段にはならぬのだから。
なぜ中央はその道理を判らぬ」
勇者(戦を望むのは、独占者。
限られた世界の中で、“豊かさ”ではなく“優越”を
求めるために寡占しようとする者。
……そこは間違っちゃいないはずだ)
677 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:55:48.59 ID:Xzdt3noP
勇者(どうすれば良いんだ?
どうすれば止められる?
聖王の、暗殺? ……馬鹿か、俺は。
それじゃ魔王のところに行ったときと同じじゃねぇか。
せめて。
せめて、あと半年。いや、3ヶ月の時間があれば……)
勇者「せめて、いましばらく……」
勇者(この物価の上昇は、あの商人がやっているはずだ。
あいつなら、これくらいのことはやる。
きっとやる。……そういう目をしていた。
あいつだけじゃないかもしれないけれど、
あいつはきっと、中枢に噛みつけるような場所にいる。
……なんでだ? 何で小麦の値段や物価を上げる?
あー、もう判らねぇよっ!
なんで魔王はこう言う時にいねーんだよっ。
あいつだったらさくっと解決しちまいそうなのにっ)
(そうだろう? 勇者だものな!)
勇者(何でこんな時に思い出すんだよ……)
(“あの丘の向こうに何があるんだろう?”って
思ったことはないかい?
“この船の向かう先には何があるんだろう?”って
ワクワクした覚えは?)
勇者(なんであいつ、生きるの死ぬののって云う時に、
のど元に剣を突きつけられて、あんなキラキラした
瞳してやがったんだよっ)
679 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:56:53.39 ID:Xzdt3noP
(だから“そう言うもの”が見たいんだ)
勇者(あんなに無防備にっ)
(でも、だからこそ、それが“別の結末”を
迎える事ができるのならば、
それは私にとってだけじゃない。
三千世界にとって“未だ見ぬもの”じゃないだろうか?)
勇者「~ッ」 ガツンッ
将官「勇者殿っ」
勇者「冬寂王、戦になったとしてどれくらい被害を
出さずに戦える?」
冬寂王「相手の戦意と数次第だな。
この種の戦は、平野に両軍が終結し、時間指定も為される。
その後合図……大抵はホルンによって騎士は騎乗し、
正面から衝突することになる。
両者の戦意や数、戦略に大きな食い違いがなければ
これが一日につき1~2回、数日の間繰り返されるだろう。
指揮官が虜囚になるなどのアクシデントがあれば
一方が加速度的に崩れることもある。
はっきりした形で決着がつけば、負けた方は降伏するな」
勇者「犠牲は出したくない。味方にも、中央の軍にも」
冬寂王「……」
勇者「これは甘さじゃない。今後の展開上、必須だ」
680 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:00:06.76 ID:Xzdt3noP
冬寂王「……」
将官「冬寂王……」
冬寂王「天気次第、だな」
勇者「――雪かっ」
冬寂王「そうだ。こちらではもう積もっているが、
あの平原にはまだ降雪はないだろう。
山脈が雲から雪を搾り取るのだ。
あの平原が雪に覆われるのはどれくらい先か
雪が降れば戦意も下がるし、戦は停滞せざるを得ない。
10日先に降り始めていればよし、天気が続くようならば
会戦には問題が無くなってしまう。
逆に本格的な降雪が始まれば、雪の降る間は
戦を避けることが出来よう」
勇者「……」
冬寂王「おそらく、四週。
早ければ、二週持ちこたえれば雪は降るはずだ。
それだけの時間を凌ぐ、と云うことか」
勇者「できるか?」
冬寂王「……引き受けよう。
わたしは、冬の戦ならば負けぬ。この名にかけて」
686 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:23:48.74 ID:Xzdt3noP
――魔王城、最下層、冥府殿、魔王の回想
魔王「ふわぁぁ」
メイド長「何をしているんです? 魔王様」
魔王「む」
メイド長「だらけていますね」
魔王「ちょっと疲れたのだ」
メイド長「やれやれ。魔王になってもあまり変わりませんね」
魔王「変わってたまるか」
メイド長「ふふふ。そうですね。
お変わりなくて、本当に良かった」
魔王「あんなに運動をしたのは初めてだ。
もう一生分の運動をしたから、
あとは研究三昧で勇者が来るのを待ちたいものだな」
メイド長「変わったのは、呼び名ぐらいですね。魔王様」
魔王「それだ」
メイド長「はい?」
魔王「その、“魔王様”というのが良くない」
メイド長「そうですか? だって魔王になられたじゃありませんか」
688 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:26:28.16 ID:Xzdt3noP
魔王「背中がむずむずする。どうにかならんか」
メイド長「とはいえ、もう名前も剥奪されたわけですしね。
旧名でお呼びするわけにも行かないでしょう?
では、いっそ“胸ばかり太った無駄な肉、略して駄肉”
というのはいかがですか?」
魔王「おぬしはわたしを嫌悪しているのではないかと
思う時がある。たまに、より多い頻度で」
メイド長「困りましたね」
魔王「せめて、もうちょっとこう。明るく」
メイド長「そうですか。ふむ。まぁ、そう仰られるのなら」
魔王「出来るのか?」ぱぁっ
メイド長「我がメイド術に死角はありません」
魔王「おおっ!」
メイド長「こほん。――まおー様♪」きらきらっ
魔王「な、なんだ!? いま背後に花が見えたぞ!?」
メイド長「メイド術でございます」
魔王「それはそれで気色悪いな」
メイド長「まおー様。なんでそんなこと仰るんですか
こんなにお慕い申し上げていますのに。まおー様ぁ♪」
魔王「ううう。何でそう甘ったるい声を出す!?」
メイド長「この術の要点ですので」すちゃ
魔王「うううっ。早まったかもしれん」
690 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:28:23.80 ID:Xzdt3noP
メイド長「それにしても」
魔王「なんだ?」
メイド長「いいんですか、こんなに『図書館』に引きこもって」
魔王「まぁな、統治するならこっちの方が都合が良い」
メイド長「判らないではないですが」
魔王「魔界にはこれだけの資料も情報素子海もないからな。
プリンタもなければ汎用機もない。原始の世界だ」
メイド長「逆です。この空間が特殊なんですよ」
魔王「それはそうだがな。よいしょっと」
メイド長「どうされました?」
魔王「いや、多少はな。テコ入れしないと、
統治もままならないと思ってな。計画書を作っているのだ」
メイド長「ふむ」
魔王「魔界は部族や氏族が入り乱れて戦乱状態だ。
それは精霊五家の罪もあるから仕方がないが、
逆に云えばそれだけ戦える豊かさがあると云うことでもあるしな。
戦争が貨幣経済や流通網の発展を加速する側面がある以上、
一方的に非難するわけにもいかんのだが」
メイド長「はい」
魔王「とりあえずは、これだ!」
692 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:30:27.48 ID:Xzdt3noP
メイド長「これは紙ですね。随分粗いですが」
魔王「そう。図書館製ではなく、魔界製の『紙』だ。
森歌族に命令して作らせた」
メイド長「はぁ。これでどうなるのです?」
魔王「戦争の記録を義務づけるんだ。
勝敗から場所、日時、敵味方の人数や被害、
おおよその用意した物資、かかった費用、参加した武将」
メイド長「よく判りません」
魔王「目的はいくつかある。
まずは“記録を取る”という事に馴れて貰う。
専門職が育成されることもあるだろうが
長い目で見れば識字率の向上にも役立とう。
もう一つは自分たちのやっていることを理解して貰う」
メイド長「理解、ですか?」
魔王「戦を一方的に否定する気はないんだが
本当に必要な戦と、気分や遺恨でやってる戦を
混同するのも困る。自分たちがやっていることは
果たして支払った代価に見合った効果が得られる行為なのか
自覚して欲しいのだ」
メイド長「気の長い話ですね」
魔王「勇者が来るまで、そう時間はないから急ぎたいがな」
693 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:32:15.30 ID:Xzdt3noP
メイド長「勇者……ですか」
魔王「見るか? 新しい画像が手に入ったんだ」
メイド長「はぁ」
魔王「ほら、もう立てるようになったらしいぞ?
可愛いだろう? すごいだろうっ?
うーん、声を聞いてみたいなぁ」
メイド長「会いたくてたまらなさそうですね」
魔王「それは会いたいさ。
ゲートが封印されてさえなければお忍びで出掛けて
しまいたいくらいだ。
ほら、こっちの画像は寝ているところだぞ?」
メイド長「わんこと大差ありませんね」
魔王「そうだ! そこが良いんだよっ」
メイド長「まったく呆れたものです。まさに盲目ですね」
魔王「?」
メイド長「まおー様は可愛いですね」
魔王「馬鹿を云うな。可愛くなんて無いぞ。
勇者とわたしは、この世でたった二つのLiving Singularityだ。
勇者と出会えば、何かが変わる。
概念と概念が衝突し、化合し、反応して何かが始まる」
メイド長「多分それは戦闘かと思われます」
695 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:34:30.70 ID:Xzdt3noP
魔王「新しい視座が得られるんだ」
メイド長「はい……」
魔王「頭でっかちで、引きこもって、
無駄に長生きしてしまったわたしに、何かが起きるんだ。
その時になれば、わたし達は言葉を交わし
ほんの一瞬でも、何かを感じられる」
メイド長「……この件だけはロマンチックですね」
魔王「ロマンなど感じていない。
これは純粋な経済学的な市場拡大に対する欲求だ」
チカ、チカ、チカ
メイド長「そういう物でしょうか……おや」
魔王「どうした?」
メイド長「連絡です。失礼して」
魔王「部下も増えたな、メイド長。良いことだ」
メイド長「――。――――。――?」
魔王「早いところ啓蒙思想くらいは広めておかないとなぁ。
思想史くらいは広めたいんだが……NDC130番台かな?
あんまり機械文明を広めると、勇者が来た時揉めそうだしな。
海とか云うのさえあれば、色々やりようもあるのになぁ」
メイド長「――!? ――!!」
696 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:35:52.96 ID:Xzdt3noP
メイド長「魔王様っ」 くるっ!
魔王「どうした?」
メイド長「ゲートの封印が、解除されました」
魔王「は?」
メイド長「大規模な儀式法術により、封印が解除されたようです」
魔王「馬鹿な!?
勇者は言葉もまだろくにしゃべれないんだぞっ?
早すぎるっ。誰が封印を解除したんだ。
こちらから中和術式を呪核に注入できるわけがっ」
メイド長「いえ、人間です。人間界からです。
ゲート解除後、約1500名ほどが転移にて侵入。
――第一次聖鍵遠征軍。
そう名乗って付近の魔族の降伏を求めています」
魔王「至急使者を。急がせろっ」
メイド長「はっ」
魔王「わたしたちも、魔王城へ戻るぞっ」
メイド長「もちろんでございますっ」
魔王「なんでだ。何で人間がこっちに来るんだ!?
――勇者の誕生で結界強度が下がっていたのか?
だが、人間がこちら側に何の用があるって言うんだっ」
707 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:23:17.58 ID:Xzdt3noP
――大陸草原、雪の集合地
肥満領主「おお、寒い。なんて寒さだ!」
家令「さようですな」
肥満領主「何をしておる、もっと薪をくべんか」
小姓「はいっ」
肥満領主「夕飯はまだか? このような旅のテント暮らしでは、
せいぜいが精のつく物でも食べんとやっていられん」
家令「はぁ、では尋ねて参りましょう。少々お待ちを」
肥満領主「ふぅぅ。寒いな」ぶるるっ
ガサ、ガサッ
近衛兵士「失礼しますっ」
肥満領主「どうした?」
近衛兵士「我が領内の全騎士、全兵士そろいましたっ。
今回の出兵、我ら合計650でありますっ」
肥満領主「ふむ、思ったより少ないな。まぁ、よい。
傭兵団を加えれば1000は優に超えよう」
近衛兵士「はっ!」
708 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:24:55.35 ID:Xzdt3noP
肥満領主「他の陣幕はどうなっておる?」
近衛兵士「灰青王は近衛騎士団、斧騎士団を率いて到着。
山の国の重装騎士団、梢の国の弓騎士団もそろっておりますが
全体としては、まだ参集は進行中であります」
肥満領主「どれくらい掛かりそうなのだ」いらいら
近衛兵士「はっ。あと二三日はかかるかと……」
肥満領主「今日が参集日時ではないかっ。
何をしているのだっ!!
うすのろどもが、勝利が欲しくはないのかっ」
近衛兵士「騎士および兵士の配置はいかがしましょう」
肥満領主「このテントを中心に円陣の形態に天幕をはれ。
やれやれ、この分では戦までもうしばらく待つ必要が
ありそうだ」
近衛兵士「申し訳ございません」
肥満領主「よい。腰抜け領主どもめの仕業だ。
敵は? 南部の豚どもはどうしている」
近衛兵士「敵軍総数は、約2500程度。
森林の縁に張り付くように布陣しております」
肥満領主「ふっ。世界の辺境に張り付くように
生きていた野ねずみども、平原の中央に出るのが
恐ろしくて仕方ないと見えるな」
709 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:27:05.78 ID:Xzdt3noP
ガサ、ガサッ
傭兵隊長「領主の大将、いるかい?」
肥満領主「おお。隊長か? 数はどうであった?」
傭兵隊長「ご注文どおり、古強者どもを400そろえたぜ」
肥満領主「それはありがたい!
これで総数は1000を越える。圧勝は間違いのないところだな」
近衛兵士「ですなっ」
傭兵隊長「報酬の方は忘れて貰っちゃ困るぜ」
肥満領主「無論だ。金貨ははずもう。
また、活躍次第ではたっぷりとした恩賞も
期待してくれてかまわないぞ」
傭兵隊長「まぁ、そいつはいいとして、
もう一つの約束の方が大事さね」
肥満領主「無論覚えておる。冬の国に入った暁には、
最初の村とふたつめの村で二日間の略奪を許そう」
傭兵隊長「へっ。そいつが聞けりゃ十分だ。
石弓兵も用意してある。用があれば声をかけてくれ」
710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:28:14.38 ID:Xzdt3noP
パサッ
家令「領主様。夕飯のお支度が調いましたようで。
よろしければ、いまからでも召し上がって頂けると」
肥満領主「よしっ」
家令「それから、なんでも付近の地主から樽酒の献上品が
あったそうです。なかなか上質の氷酒でして、それが
20樽もだそうです」
傭兵隊長「ははは。農民ども。よほど自分たちの農地が
荒らされるのが恐ろしいらしい」
肥満領主「まったくだな! 地に這いつくばるものの
せめてもの知恵か。ふふふっ。頂こうではないか。
そう言えば、隊長は夕飯はまだなのであろう?」
傭兵隊長「おう」
肥満領主「2,3日は戦闘も始まらぬようだ。
晩餐というわけにはいかんだろうが、一緒にどうだ。
ふむ、そうだ。傭兵の隊の方にも酒1樽を差し入れに
いってはいかがか?」
傭兵隊長「そいつはありがてぇな。寒さが紛れるってもんだ」
肥満領主「ははははっ。宮殿料理というわけにはいくまいが
今宵は、我らが勝利の前祝いと行こうではないかっ。
ふはははははっ!」
713 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:54:37.33 ID:Xzdt3noP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部
ガヤガヤッ
3ポイント上昇。買い指示だっ。強気で行け
銅の国、銅を積んだ船を発見
押さえろ。倍値でかまわんっ!!
青年商人「……物珍しいですか」
火竜公女「はい」 きょろきょろ
青年商人「まぁ。情報は交換の約束ですからね」
火竜公女「取引は公平でなければゆけませぬ」
青年商人「いいんですか? こんな場所で。
わたしは忙しいですが、腕の立つ護衛くらいは
手配出来ますよ? 市中の案内くらいされては。
魔界の情報を色々貰いましたからね、遠慮せずとも」
火竜公女「いぇ、いいのです」
青年商人「はぁ」
火竜公女「ここは商人様の仕事場なのでしょう?
壁に掛けられたあの大きな地図は、この世界ので
ございますね?」
青年商人「そうです」
火竜公女「では、街を見回るよりここに一日いましょう。
お邪魔はしませぬ。声も立てませぬ。
街と人々の暮らしに興味は尽きませぬが、
おそらくここは世界の中心の1つ。
――そうでございましょう?」
714 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:55:34.78 ID:Xzdt3noP
青年商人「……」
火竜公女「わたしは異境からの旅人ですが愚か者ではございませぬ」
青年商人「そうですね。これも取引です」
火竜公女「ええ、公平です」
青年商人「だがもう決して明け方に潜り込むようなことは
しないでくださいよ」
火竜公女「あれは何かの間違いでござりまするっ!
わたしには我が君とお慕いする殿御がいるというのにっ。
傷物にでもなったらどうするのです。いかが心得ますっ」
青年商人「被害者ぶっても通用しません」
火竜公女「この話は終わりと云ったはずですっ!!」
青年商人「かしましいですね、本当に」
カチャッ
職員「委員。昨晩の動きです」 バサッ
青年商人「了解、目を通します。――梢の国の買い付けは?」
職員「進んでいます! 小麦の相場は+165、一昨日付」
青年商人「……鈍化してきたな」
715 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:57:08.57 ID:Xzdt3noP
ガチャッ
辣腕会計「征伐軍、集合を継続中。遅れが出ているようです」
青年商人「遅れ?」
辣腕会計「士気が低く、どうも軍規に乱れがあるようで」
青年商人「驕っているのか……。冬寂王の策略か」
辣腕会計「策略だと見ますね」
青年商人「なぜ?」
辣腕会計「迂回されてはいますが、
冬の国の商人に氷酒が随分売れたようです」
ダッダッダッダ、ガチャン!!
職員「委員ッ!! 緊急ですっ!!」
青年商人「報告を」
職員「教会がバックにつき、
聖王国が金貨の再鋳造を計画しているようですっ!。
未確定ですが、現行の金貨28枚を新金貨10枚へと交換っ。
現行金貨は法によって所持も使用も禁止するとの
見方が強まっていますっ。
会わせてこの新金貨、交換比率を超えた数
鋳造されるとの情報もあります。確認急がせますが……」
719 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:58:51.32 ID:Xzdt3noP
青年商人「……ふふっ」
職員「い、委員……?」
青年商人「なかなか気の利いた手ではあるのでしょうが。
……勝負をかけてきたのは認めます。
新金貨は、現行金貨の2.8倍の価値を持つはずですが
その価値、守れるでしょうかね。
教皇ですか。それとも王かな。
本当に、本当の自分の国を知っているんですか?
知ることが出来るほど愛してるんですか?
大地から麦を得ると言うこと、岩を切り出し、
木炭を焼き、鉄を鍛え、パンを焼き、家畜を育てる。
それらのことを、どこまで理解しているんでしょうね。
我らは卑しい商人ですが
卑しいからこそ、そのことを忘れた日はない。
忘れれば、その炎はすぐさま我ら自身を焼き尽くすんですから。
いまこそ云えますよ。
“損得勘定こそ我らが共通の言葉”
――その意味するところは
“誰もが、少しでも幸福になりたい”ということ。
他者の幸福を認めると云うことだと」
青年商人「その一手で、民衆が幸せになれるのならば
わが『同盟』の負け、と云うことですがね」
720 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:59:58.70 ID:Xzdt3noP
辣腕会計「どうされます?」
青年商人「おそらく戦場は膠着します」
辣腕会計「はっ」
青年商人「“小麦引き渡し証書”なんてね……。
早すぎたんですよ。こんな物に頼って溺れようだなんて。
手元にない物を売るだなんて、自分で考えついて何ですがね。
それは、信用を売買するのと同じ事」
辣腕会計「……」
青年商人「信用に応える力があるのか無いのか。
連中、勘違いしてやしませんかね。
王侯や貴族、領主に教会。そんなものに信用があるなどと。
信用の源泉は大地。求められたものを生み出す事、
それを相手に必ず渡すこと。取引を凍てつかせないこと。
結局は大地からの収入が信用なのに。
信用を奪うことは出来ても、増やすことが出来ない
その農民を痛めつけるだけとは、商人とは云えませんね」
辣腕会計「彼らは、商人ではないんです」
青年商人「ええ。我らは商人の義を通しに行きましょう」
辣腕会計「はいっ」
青年商人「公女。冬の国へと行きます」
火竜公女「お供しましょう」
最終更新:2013年06月07日 20:52