1-4


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」1-4


578 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 14:14:24.81 ID:5kaffl9OP
――村はずれの屋敷、中庭

女騎士「さて、諸君らの手元にあるのは南部諸王国の
 軍において用いられる標準的な武器、ロングソードだ。
 この武器は威力、間合いにおいてバランスが良く、
 鉄の国おいて鋳造された製品で質も良い。
 重量バランス配分がこの種の武器の使い勝手を
 決めるので、手に持って馴染むかどうか、判断の
 参考にして欲しい」

貴族子弟「……」
商人子弟「……」
軍人子弟「ばからしーでござる」

女騎士「何か言ったか?」

貴族子弟「……」ぷいっ
軍人子弟「馬鹿らしいといったでござる。何で拙者が
 女如きに剣を教わらないといけないのでござるか」

女騎士「……」

軍人子弟「白の剣士殿から剣を教わったのは
 別に女に弟子入りするためではないでござるよ。
 女は家の中でケーキでも焼いていれば良いでござる」
581 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 14:20:50.67 ID:5kaffl9OP
女騎士「おい、そこのデブ」
商人子弟「ひゃ、ひゃいっ!? ぼ、ぼく?」

女騎士「剣を両手に持って構えろ」
商人子弟「……ううう」

女騎士「はっ!!」 ギンッ!!

貴族子弟「!?」
軍人子弟「ッ!!」
商人子弟「けけけ、剣がっ!! ま、まっぷた、真っ二つ」

女騎士「はっ!!」 ギンッ!!
商人子弟「み、短くなったっ!?」

女騎士「その気になれば5cmずつ切り取ることも出来るんだぞ」

軍人子弟「ど、ど、どうしてっ」

女騎士「そこのゴザルに云っておく」
583 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 14:25:44.21 ID:5kaffl9OP
女騎士「私は、湖の国の女騎士。かつて勇者と共に
 魔界で千の戦をくぐり抜けてきた女だ」

貴族子弟「ゆ、勇者っ勇者様のっ!?」
商人子弟「!?」
軍人子弟「ま、ま、ま、まさか『鬼面の騎士』!?
 『怪力皇女』!? 『石壁しぼりの女夜叉』!?」

女騎士「色々詳しいじゃないか、ゴザル」

軍人子弟「……」がくがくぶるぶる

女騎士「これは別に怪力じゃない。技だ。
 刃筋を安定させて、力を強度の低い場所に
 集中させれば諸君らでも実行可能だ。
 勇……あー。白の剣士は、素質がありすぎでな。
 なんでも『なんとなーく』でやってしまうので
 教師としては不適当なのだ」

商人子弟「もしかして、白の剣士殿は、女騎士殿の
 弟子だったのですか!?」

貴族子弟「そ、そうかっ!」
軍人子弟「そうでござったか……」
584 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 14:36:22.66 ID:5kaffl9OP
女騎士「う、うむ。そういうような……。
 そ、そういうことだ。とっ、とにかく。
 白の剣士は、勅命を帯びて探索の旅に出ている」

貴族子弟「勅命……王のご命令ですか」
軍人子弟「探索の旅! 男子の本懐でござるな!」

女騎士「そう言うわけで、週に4回の戦闘訓練は
 しばらくのあいだ私が受け持つ」

商人子弟「は、はヒィ!」

女騎士「なに。私は白の剣士とちがって
 理論的かつ実戦的、基本に即した教練方法を
 採用するつもりだ。諸君らの武芸を必ずや
 実用の域まで高めよう」

貴族子弟「勇者の仲間の騎士様に
 剣を教授いただけるとは光栄です!」
軍人子弟「そこまで言われては仕方ない。
 拙者も剣の道を究めるとするでござる」

女騎士「では、手始めに北の森を、走り込みで三周。
 そのあと帯剣して素振りをしながら一周。
 小川へと移動したら、腰まで水につかって
 ロングソードの素振り500回だ」

三子弟「「「ひぃぃぃ!?」」」
587 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 14:41:31.45 ID:5kaffl9OP
――村はずれの屋敷、初夏


ひいぃぃぃ! ひぃぃぃぃ!

魔王「今日も元気だな」

メイド長「まったくです。でも、女騎士さんは
 あれで結構楽しそうですよ?」

魔王「そうなのか? 勇者がいなくなって
 お尻に矢が刺さったアナグマのように怒り狂って
 いたではないか」

メイド長「頼りにされると張り切ってしまう人
 なんでしょう。可愛らしい人ですよ」

魔王「む」
メイド長「まおー様より引き締まった身体ですし」

魔王「むぅ」
メイド長「いえいえ。まおー様もスタイルは
 悪くないんですよ? 出るべきところのボリュームは
 それはたいしたものです。えっちではしたない肉体です」

魔王「メイド長の言い方の方がはしたない」
588 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 14:52:32.71 ID:5kaffl9OP
メイド長「しかし肉体性能は、お色気か癒し系ですのに
 ご本人の性格がお色気とも癒しともまるで無関係なのが
 まおー様の泣き所でしょうか?」

魔王「ほうっておけ」


がきょ、がちょ

メイド長「なんですか? それ」

魔王「うむ。呼び寄せた職人に依頼していた試作品だ。
 実験して手直しして欲しい部分の指示を
 書き付けておかないとな」

メイド長「何に使う物なのですか?」

魔王「羅針盤といわれているものだ。いま作っているのは
 その改良だな。この二軸のシャフトと、大きなガラス球で
 内部の羅針盤を水平に保つのだ」

メイド長「ふむふむ。改良前はどうやっていたんですか?」

魔王「水の上に磁石を浮かべていたんだ。
 ほら、この内側の、内部に浮かんでいるのと
 おなじ構造だな」
589 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:00:01.62 ID:5kaffl9OP
メイド長「だいたい判りました。でも、随分巨大化
 してしまったわけですね」

魔王「仕方ない。これは試作品だからな。
 実用化されれば、小型化のめども立つだろう」

メイド長「どういう改良なのですか」

魔王「うむ、羅針盤とは方位を知るものだ。
 この内部の水の上に浮かべた磁石が回転して
 北の方角を教えてくれるわけだが……。
 そのためには水面が水平安定する必要があるな」

メイド長「はぁ」

魔王「方位を知りたがるのは船乗りだろう?
 揺れる船の上で、ましてや嵐なんか来たりした日には
 水に浮かべた磁石の方向を安定させるのは至難だ」

メイド長「じゃぁ、いままでどうやってたんですか!?」

魔王「根性だろ」

メイド長「……」
魔王「……」

メイド長「人間ってすごいですね」
591 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:08:37.94 ID:5kaffl9OP
魔王「まぁ、この宙づり自由式であれば
 設置場所に難があるとは云え、揺れる船の上でも
 下部の釣り錘によって水平が保持される」

メイド長「ふむ。根性が無くても出来るわけですね」

魔王「いや。人間であるというのは根性は必須だと
 女騎士殿は云っていたから、根性はやっぱり
 必要なのだろう。
 この改良で軽減されるのは技能だ。
 羅針盤を扱うのは特殊な技術だったからな。
 この簡便な装置で技術者が増えるわけだ」

メイド長「でも、この村には海ありませんよ?」
魔王「うむ。この装置は、売りつける」

メイド長「買ってくれますかね?」
魔王「まともな目利きがあれば、家ほどの
 黄金でも積むだろうな。これで『同盟』と接触する」

メイド長「まおー様の専門ですから、お任せします」
魔王「まかせておけ」

メイド長「ところでお昼は馬鈴薯で?」
魔王「うむ、まことに馬鈴薯の揚げは美味なるぞ」にこっ
595 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:18:25.86 ID:5kaffl9OP
――魔界、黒狼砦

黒狼鬼「うぉろろろ~ん」
黒狼鬼「ろろろぉ~ん」

勇者「うお。何か集まってきたぞ」

黒狼鬼「うろろ~ん! がうっ! がうがっ!」
勇者「おまえらっ。怪我したくなきゃ、引いてろっ!」


ザガッ! ガッ!!

黒狼鬼「ぎゃんっ!?」
黒狼鬼「はっ……はっ……はっ……ギャウッ!」

羽妖精「黒騎士サマー。コッチコッチ!」
勇者「判るのか?」

羽妖精「女王サマ、コッチコッチ」
勇者「まかせろっ! 爆砕呪っ!」
596 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:24:56.97 ID:5kaffl9OP
羽妖精「上~コノ上~!」
黒狼衛兵「行かせぬっ」

勇者「なんだ、言葉がしゃべれるのもいるのかっ!?」


ギンッ! ギギンッ!

羽妖精「黒狼族ノ成体ダヨォ。
 モット大キナノモ、イルヨォ」

黒狼衛兵「心配するな、貴様、ここまでだっ」

勇者「ほあちゃっ!!」


ドビシィッ!!

羽妖精「デコピン!?」
黒狼衛兵「む、無念っ!」


バタリ
599 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:30:57.33 ID:5kaffl9OP
勇者「切りがないな」
羽妖精「一杯来ルヨォ」

黒狼衛兵×15「ガフッ、ガフッ! オロローン!」

勇者「面倒くさいぞ、お前ら」
羽妖精「ダ、ダメッ! 塔ヲ壊シチャダメ!」

勇者「む、そうか。上に女王がいるんだっけ。」
羽妖精「ウンウンッ」

勇者「んじゃ、えいっ!」
黒狼衛兵「片手で岩扉をっ!?」
黒狼衛兵「に、逃げろっ」

勇者「ちょっと距離が必要なんだ、この技は。
 ……あんまりうろちょろするなよ、
 急所に当たると死んじまうぞ-。
 えっと、たしか、こうやって
 背中をひねる感じでぇ……」

羽妖精「眩シイヨッ」

勇者「光の精霊直伝、光の封印槍だっ」
601 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:34:49.61 ID:5kaffl9OP
――魔界、黒狼砦の塔の上


ドッゴォォーン

羽妖精「ケフッ。ケフッ」
勇者「悪いな」

羽妖精「ヒドイヨォ」

妖精女王「何事ですっ」
勇者「お。この人がそうかな?」

羽妖精「女王サマッ!」

妖精女王「羽妖精ではありませんかっ」
勇者「こんにちは、手荒な訪問で済みません」

羽妖精「女王サマ、コレハ人間ノ雄」
妖精女王「みれば判ります」

勇者「人間です」
羽妖精「アタシ頭イー♪」
602 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:39:17.34 ID:5kaffl9OP
妖精女王「速く逃げてくださいっ。
 魔狼将軍が来るといけません」

勇者「倒した」

妖精女王「まさかっ? 人間にそのような力が。
 しかし、それだけではないのです!
 魔狼将軍の背後にはさらなる実力を持つ
 魔界でも高位の戦士、魔狼元帥が……」

勇者「それも倒した。先週」

羽妖精「!? あ、あなたは」
妖精女王「黒騎士人間ダヨ」

勇者「ああ。黒騎士だ。魔王の剣にして、
 絶対忠誠を誓う魔界の執行官」

羽妖精「カックイイヨネ」
妖精女王「そうですか、確かにその鎧の紋章は魔王様の物。
 いえ、もしやその鎧、魔王様ご自身の物では……?」

勇者「……その問いに答える言葉はないぞ」

羽妖精「カッコツケテルー」
605 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:44:54.63 ID:5kaffl9OP
妖精女王「魔王様の命令に背き、人間をさらっては
 無益な殺生と玩弄を繰り返す魔狼族を粛正されに
 きたのですね」うるうるっ

勇者「いや、ついカっとなっ」
羽妖精「……」じー

勇者「ごほん。そうである。魔狼族の横暴、目に余る。
 人間族に慈悲を掛けるわけではないが、魔王の
 命令は絶対である。逆らうことは許されない」

妖精女王「元は人間族でしょうに。何という忠誠心でしょう」

勇者「ふははは。我は黒騎士。絶対不破の魔王の剣」

妖精女王「魔王様の仰せの通りに」ふかぶかっ

勇者(なんか気分良いな! 魔王の部下も!!)

羽妖精「女王サマー」
妖精女王「何です?」

羽妖精「人捜シー」
606 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:48:53.70 ID:5kaffl9OP
妖精女王「人捜し?」

勇者「ああ。そういえばそうだった。
 あーあー。
 魔王の命令により、我は1人の人間をさがすものなり」

羽妖精「女王サマノトコロニ来テタ人間女ー」

妖精女王「ああ。あの術士ですか……」
勇者「いまは何処に?」

妖精女王「素晴らしい魔法の素質を秘めていましたからね。
 彼女は妖精族の魔法を学ぶと、さらなる奥義を求めると
 云って旅に出ました」

勇者「旅? どこへ」

妖精女王「それは判りませんが……」

勇者「一体何処まで努力すれば気が済むんだ、
 あの無表情小娘。いまでも人間界最強のクセに」

妖精女王「そういえば……」
608 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:53:16.00 ID:5kaffl9OP
勇者「そういえば?」
羽妖精「魔界の果て、時の砂の滝が落ちる滝壺に
 一つの古いベンチがあると。そのベンチに座った
 旅人は星の最果て、『外なる図書館』へ行くことが
 出来ると云われています。
 ――彼女は熱心にその伝承を調べていました」

勇者「『外なる図書館』だな? 判った」

妖精女王「しかしそれは伝説の場所。
 詳しい場所やたどり着く方法は妖精族でも知りません」

勇者「そのようなことは問題ではない。
 魔王の命にしたがいどのような場所であろうと
 必ず見つけ出す」

羽妖精「カッコイー!」

妖精女王「ご無事をお祈りいたします」

勇者「妖精族は元の領地に戻り、いままでと同じく
 その民を治めて暮らすようにとの魔王の仰せだ」

妖精女王「魔界を治める魔王様の治世に幸いあれ」
610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:57:46.97 ID:5kaffl9OP
勇者「えー、こほんこほん。
 魔狼族の生き残りにはきつく申し渡しておく。
 元来魔狼族は誇り高い自由不羈の民のはず。
 穏健派を中心に魔王の民として、その誇りを
 まもるような生き方にするが良いだろう」

妖精女王「妖精族は魔狼族からの迫害さえなければ
 異存はありませぬ。遺恨は伝えぬと誓約しましょう」

勇者「……その寛容、魔王に伝えよう。
 では、時間だ。我は探索の旅に戻らなければ
 ならない。縁があればまた逢おう」

妖精女王「このご恩、けして忘れません」

しゅんっ!!

羽妖精「カッコイー!」

妖精女王「妖精族は救われましたね。
 魔王様にあのような部下がいるとは……。
 ただのお飾り、柔弱で無能な王と云われてきましたが
 何かが変わり始めているのかも知れません。
 魔王様と云えば――あっ」
612 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:01:44.28 ID:5kaffl9OP
羽妖精「ドシタノー?」

妖精女王「魔王様といえば……」

(時の砂の滝が落ちる滝壺――
 一つの古いベンチ
 星の最果て――
 『外なる図書館』――)
妖精女王「『外なる図書館』……」

羽妖精「?」

妖精女王「『外なる図書館』に引きこもる、
 魔族の中でも変わり者の一族がいると……。
 その一族は知識を求め、過去と未来を幻視し
 『外なる智慧』を身につけて、憧れに魂を燃やすと……」

羽妖精「?」

妖精女王「魔王様って、魔王って……
 何なのでしょうか……」
616 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:11:56.87 ID:5kaffl9OP
――南氷海巨大湾岸都市、商業会館

青年商人「ふふぅん、こいつはたまげた。
 全く度肝を抜かれた、まいったな」

中年商人「よう。どうした、呼び出して」

辣腕会計「まだ夕食には早いでしょう?
 どうしたんです?
 湖の国のワインでも暴落しましたか?
 それとも聖王都の為替変動ですか?」

青年商人「まぁ、こいつをみてくれ。
 午前中に届いて、やっと組み立てたんだな、これが」

中年商人「――ッ!!」
辣腕会計「こ、これは……」

青年商人「まぁ、一目でわかるか」

中年商人「これは羅針盤だな? 見たことのない形状だが」
辣腕会計「ですが、見ただけで判ります」
617 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:16:42.64 ID:5kaffl9OP
青年商人「何処のどいつの工夫だかは判らないが
 こいつはたいしたものだ。恐ろしいもんだ」

中年商人「ああ、頭を大石で殴られた気分だ」

辣腕会計「これは……二つの円環で、どんな場所に
 置いても水平が保たれるのですね? さらに
 この重りで安定させるわけですか……」

青年商人「ああ。理屈は見れば判る。
 特別な装置が使ってあるわけでもないが、すごい発明だ」

中年商人「これを見せれば、銅の国の技術士ならば
 もっと小型にも出来るだろう。やったな! おい!
 何処でこんな物手に入れたんだ。
 この功績の価値は、幹部候補生、いや、10人委員会に
 入るのも夢じゃないぞ、お前!」

辣腕会計「ええ、この発明は『同盟』に巨大な利益を
 もたらすでしょう、同志よ!」

青年商人「こいつは世界を変えるな」
中年商人「ああ、世界を変えてしまうだろうな」
620 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:24:36.89 ID:5kaffl9OP
青年商人「さぁて、なかなか」
中年商人「ふむ、たしかに」

辣腕会計「どうしたんです?」

青年商人「いや、なに。これがここにある、
 その意味合いをな」

中年商人「確かに巨大な利益は目の前だ。
 酒樽一杯の蒸留酒のような物。嬉しくてたまらんわな。
 しかし、その酒樽にはもう蒸留酒はのこっていないのかな?
 あるいは罠の可能性は?
 俺たちは商人だ。酔っぱらいじゃぁ、無い。
 そこんところを頭を使わないとな」

辣腕会計「そうですね、ふむ」

青年商人「まず、第一にこれを発明したのは俺じゃない。
 俺にこれをとどけた人間がいるんだ。
 そいつの思惑を考えなければいけないだろうな」
622 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:28:46.83 ID:5kaffl9OP
中年商人「身元はわかっているのか?」

青年商人「まぁ、本人からの手紙にはな。
 『紅の学士』とある。送り主は南部諸王国の西の外れ
 冬越し村というところだ」

中年商人「小さな寒村だな」
辣腕会計「目立った特産品はなかったと記憶していますが。
 ――いや、まてよ」  

がさごそ

青年商人「どうした?」
辣腕会計「確か、報告にその名前が……。
 ああ、ありました。この夏に、湖畔修道会の修道院が
 その村に建築されたようです」

中年商人「湖畔修道会? 湖の国の?
 もうそんな辺境まで勢力を広げたのか?」

辣腕会計「いえ、勢力範囲から遠く離れた場所に突然
 修道院をつくったようです。教化も進んでいないでしょう。
 ですから報告書に特記されていたのでしょうが……」
623 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:32:33.94 ID:5kaffl9OP
青年商人「ふむ。黒だ」
中年商人「関係があると睨んで良いだろうな」

辣腕会計「接触ですか?」
青年商人「それはどうあれ、その必要があるだろう。
 『同盟』がこの羅針盤から得られる利益を
 最大化するためには、この工夫を独占しなければならない」

中年商人「だが、この工夫は、一目見ただけで
 その革新性が判る。革新性が判りやすいってのは
 売る時にはまたとない武器だが、
 真似して作るのも簡単だって云う弱点があるな」

辣腕会計「そのとおりですね」

青年商人「『同盟』がこの羅針盤を部外秘として
 『同盟』所属の船舶だけに装備し、交易優位性を
 あげるにしろ、全中央大陸国家に販売して利益を
 上げるにしろ。発明元のこの学士と交渉する必要がある」

辣腕会計「真似はできても、あちらが他の様々な
 組織や国家に同様の売り込みをしないとも限らない。
 ……そうですね?」

中年商人「場合によっては……」
青年商人「そう言うことにはならんで欲しいな。
 我らは商人なのだから」
625 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:39:19.13 ID:5kaffl9OP
――冬越しの村、夏

小さな村人「ほーぅい、ほーぅい」
痩せた村人「ほーぅい」

小さな村人「なんて良い天気なんだろう」
痩せた村人「まったくだなや、大麦さんもそだっとるよ」

小さな村人「修道院が出来てから、色々教えてもらえるしなや」
痩せた村人「おや、修道士さんだべさ」

修道士「こんにちは、精が出ますね」
小さな村人「こんにちは」ぺこり
痩せた村人「こんにちはだなや」ぺこり

修道士「今日はどうされています?」
小さな村人「わしは川でマスを釣ってきただぁよ」
痩せた村人「わしは薪をつくってただぁ」

修道士「それは良かった」
小さな村人「修道士さんは?」
627 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:42:35.55 ID:5kaffl9OP
修道士「ははは、実はですね。
 試しに作っていた作物が、早くも二回目の  収穫を迎えたんですよ!」

小さな村人「なんだか、修道士さんも嬉しそうだなや!」

修道士「ええ、嬉しいです。大地が恵んでくださった。
 これは光の精霊様が頑張れとおっしゃってくれて
 いるわけですよ。それで、この収穫の報告に
 学士様への所へ行こうかと思いましてね」

小さな村人「そうかそうか、そうだったんだべ」

修道士「ええ。この作物、馬鈴薯というのですが
 甘くてほくほくして大層美味しいのですよ」

小さな村人「そうかぁ、一度食べてみたいだなやー」
痩せた村人「どんな味なんだろう」

魔王「招待するぞ?」
修道士「ああ、これは学士様!」

小さな村人「学士様、こんにちはですだよ」
痩せた村人「こんにちは、学士様。良い天気ですだ」
629 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:44:34.64 ID:5kaffl9OP
修道士「いま、ご報告にうかがおうかと」
魔王「ああ、ありがとう。そろそろかと思っていたのだ」

メイド姉妹 ぺこり

修道士「計画通りに取れました。いやいや、好調ですね。
 荷車二台分はたっぷりと取れたかと思います」

魔王「土壌採集は?」

修道士「指示通り、六カ所でそれぞれ
 樽一杯分づつを保存してあります。それにしても
 我が修道会も農業技術の集積は進めてきましたが
 前代未聞の方法ですね」

魔王「結果が出てくれれば嬉しいのだがな。
 ふむ、これか」

修道士「ええ、良く育っています」

魔王「よし、振る舞いをしよう」
修道士「振る舞い、ですか?」

魔王「こいつを広めるためには、何はともあれ、
 皆に食べてもらわねば始まるまい?
 それには、宴でも開いて振る舞うのが一番だ」
630 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:47:57.94 ID:5kaffl9OP
小さな村人「ほんとうですか? 学士様」
痩せた村人「良いのでございますか」

修道士「どうです?」

魔王「もちろん本当だ。修道士どの、いかがだろう?
 修道院の前庭を借りることが出来ようか?」

修道士「もちろんですよ。でも、この馬鈴薯は売って
 資金に充てるのかと思っていましたよ」

魔王「金はもちろん欲しいが、独り占めするつもりはない。
 飢えなく、皆が豊かになる方法を考えないと、
 先が続かない。そのためには村の皆の手助けが必要だ」

小さな村人「うわぁ、食べてみたいですだ学士様」
痩せた村人「おらのところの畑でも作れるようになるですだ?」

修道士「ああ。もちろんさ。
 作ってみたが、小麦と比べて世話が大変と云うこともない。
 もちろんいくつか気をつけなければならないことは
 あるけれど、それは修道会で教えてあげることが出来る」
632 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:52:32.61 ID:5kaffl9OP
小さな村人「さっそく家内におしえてやらにゃぁ!」

魔王「おお、そうだ。宴の支度に手が足りないかも知れぬ。
 奥方の手が空いていれば来ていただけると助かると
 思うぞ。なあ、修道士殿」

小さな村人「あーれ。学士様。奥方なんて照れるだよ。
 うちのはただの母ちゃんだよ。でも、そう云われると
 なんだか母ちゃんも悪い気はせんかもなぁ。
 こっぱずかしいな。でも直ぐに行かせるから!」

修道士「そうですね、ご報告もしたということにして
 私も帰って他の修道士、騎士院長にも伝えて参ります。
 ああ、そうだ。その、料理はどうすればよいでしょう」

魔王「心配ない。いってくれるな?」

メイド姉「はい」ぺこり
メイド妹「いきまーっす」

修道士「それは助かります。まだこの馬鈴薯の調理方法を
 研究した訳じゃありませんからね」

魔王「あー。くれぐれも云っておくが、
 揚げ馬鈴薯だけは必ず作るのだぞ?」
675 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:18:50.82 ID:5kaffl9OP
――冬の国、王宮

王子「じぃ、じぃ~」
執事「なんでございましょう、若」

王子「若はやめろ。俺はもう二十歳だ」
執事「どうしたのでございます?」

王子「じぃは馬鈴薯なる物を知ってるか?」
執事「ははぁん。若も馬鈴薯を食べたので?」

王子「ああ、食べた。美味いな!」
執事「何でも旅の学者がこの地へもたらしたとか」

王子「うまいうえに、俺たちの貧しい国でも
 もっぎゅもっぎゅ……栽培できるらしいな」
執事「さようでございますなぁ」

王子「情報はあるのか?」
執事「ございますとも」
678 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:24:10.25 ID:5kaffl9OP
王子「ふむふむ」
執事「こちらの書類は関連項目でございます」

ぺらり

王子「では、湖畔修道会が主導で栽培を
 推し進めているのだな?」

執事「そうなりますな。また、この湖畔修道会は
 合わせて様々な改良を施しているようで」

王子「ふむ、どのような?」

執事「まずは、四輪作といわれるものですな。触れ込みに
 よれば大地の恵みを目減りさせずに、四年周期で麦作を
 行なう手法です。以前の三輪作にくらべて、小麦はもと
 より豚や羊などを安定して供給できるようですな」

王子「冬のあいだにもか?」

執事「冬のあいだには、家畜にカブを食べさせるそうです」
680 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:30:04.11 ID:5kaffl9OP
執事「それから、えー。農機具の改良、修道学院の設立」
王子「学舎か、ふむ」

執事「さらにこの度作られたのが、『風車』です」
王子「それはなんだ?」

執事「『水車』に似たものですが、川の流れではなく
 風の流れをくみとって、動力にしているようですな。
 修道会が雇い入れた船大工の一派が工夫して作った
 そうですが。我が国北部の高地には、充分な水源が
 ありませんから、普及すれば便利でしょう」

王子「……ふむ」
執事「お気になりますか?」

王子「まぁな。税収が上がっているのは嬉しいが……。
 まぁ、それで戦争を終わらせられるわけでなし。
 しょせんイモでは我が国を救うことも出来ないが
 ……まぁ、なんでも目は通しておかんとな」

執事「そうですね。税収は荘園ごと、村ごとに納め
 させますから、一概にどのくらいの効果があるかは
 判りませんが、修道会が関与すると5%ほど税収が
 上がるようですな」

王子「大きいな」
執事「小さく考えてはいけませんよ。1年足らずの
 あいだにそれだけの改革を見せたわけですから
 来年以降どうなるか判りません」
682 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:35:40.50 ID:5kaffl9OP
王子「冬小麦の収穫はこれからであるしな」
執事「その馬鈴薯なる食物は、年に数回収穫できる
 そうですな」

王子「そうなのか?」
執事「驚きですが、事実のようです」

王子「ふむ」
執事「税収の形には表れないものの、農民の暮らしには
 大いなる恩恵を与えていると云って良いでしょうな」

王子「じぃの云うことならば信じぬ訳にはいかないな」
執事「ありがたいことですなぁ」

王子「何らかの施策をするべきだろうか?」
執事「そうですなぁ。まだ始まったばかりのようですから
 傍観していても良いのではないでしょうか」

王子「ふむふむ」
執事「修道会はこの運動で、我が国を始め、南部諸王国に
 確固たる地盤を築く狙いがあると思います。
 運動の結果を出せれば、向こうから王宮に接触を
 持ってくるかと思いますな」
683 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:41:15.79 ID:5kaffl9OP
王子「そうか。修道会の指導者は……」
執事「女騎士ですな」

王子「挨拶くらいしなくて良いのか? 顔見知りではないか」

執事「まぁ、向こうは現役の時から思い込んだら
 動かない高潔なる気位の持ち主でしたからなぁ。
 私も恨みに思われているでしょうな。
 いわば裏切り者ですから」

王子「そうか……。すまない」
執事「もったいないお言葉ですな、若」

王子「今年は魔族の動きが鈍い」
執事「おそらく、勇者の噂は真実でしょう」

王子「その勇者を、手を下したわけではないとは云え
 死地に追いやったのは我々だ……。
 勇者が生還したという情報はないのか?」

執事「ございませんな」

王子「この戦争、終わるわけには行かぬのか」

執事「いま戦争を終えれば、真っ先に消滅するのは
 我が国でしょう」
687 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:46:23.82 ID:5kaffl9OP
王子「……」

執事「この冬の国、それをいえばおなじ南部諸王国である
 氷の国、白夜の国、鉄の国はそれぞれ気候も厳しく、
 充分な食料も取れません。最下層の国々です。
 いま現在は魔族との大戦争の前線として
 中央大陸全土からの資金援助と食料援助がとどいている。
 中央大陸の盾と云えば聞こえは良いですが
 詰まるところ走狗になっているに過ぎません。
 援助がとどこおれば、人々は全て飢えて死ぬでしょうな」

王子「しかし、それを知らせず、兵をただ消耗させるのは
 兵達に対する裏切り行為だ。茶番ではないか」

執事「ええ、茶番ですとも。
 しかし茶番をする存在が、王族です」

王子「……戦場で雄々しく散るのは良い。
 それは氷海の戦士の直系たる我が血にふさわしい。
 だが民を欺き、その命を代価にして生を購うのは……」

執事「若、辛抱ください。
 どうか、民を見捨てずにいてください」
689 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:55:15.92 ID:5kaffl9OP
――魔界、紅玉神殿

勇者「……うー。疲れた。だるい。腹減った」
火竜大公「や、やるな。黒騎士よ」

勇者「いい加減タフだな、火竜大公」
火竜大公「……退くわけには、行かぬっ」

勇者「おまえ、十回くらいしっぽも腕も切られてるじゃん」
火竜大公「何度でも生やすまでだ!」

勇者「うぁー。どうすれば良いんだよぅ、この変態」

火竜大公「我が命を絶てば良かろう。
 その実力を持っているクセに何を悠長なことをしておる!」

勇者「別に殺したくてやってるわけじゃない。
 編成中の軍勢を退かせてくれれば済む話だろう」

火竜大公「それは出来ぬ。火竜の勇士によって
 『開門都市』は奪還する必要があるのだ」

勇者「あー。やっぱしそれかよぉ」
691 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:58:39.54 ID:5kaffl9OP
火竜大公「貴様もだ! 貴様も魔王様直属の執行官で
 あるのならば、人間どもに奪われた魔界の都市を
 奪い返すのが筋という物であろうにっ!」

勇者「それは云うとおりなんだけどさ」

火竜大公「何を躊躇う。人間を皆殺しにすべきではないかっ!」

勇者「とりあえず、魔王は『開門都市』奪還の命令を
 発してはいないんだよ」

火竜大公「魔王がふぬけなのだ!
 わが竜族から魔王が出ていれば、あのような柔弱な弱腰の
 魔王などいただかぬでもすんだろうにっ」

勇者「つまり、魔王に弓引くのか?」
火竜大公「……」

勇者「それは盟約に背くよな。さんざん諸侯が争って
 滅亡寸前まで何回も行った魔界が、なんとかやっと
 つくった協定らしき協定だもんな」
694 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:07:55.39 ID:5kaffl9OP
火竜大公「魔王は『開門都市』奪還の命令を発してはいない」
勇者「うん」

火竜大公「だがしかし、禁止の命令を発したわけでもない」
勇者「あー。気がついちゃってるよ、このおっさん」

火竜大公「諸侯に檄を発して、魔王の名をかたり
 『開門都市』奪還を目指すなら、それは盟約に触れようが
 我が部族だけで向かうのであれば、
 それは王である私の決定だ。
 誰に口を挟まれる云われもないっ!」

勇者「俺に勝てればな」

火竜大公「ならば殺すが良いっ!
 魔界の溶岩の中で生を受けた火竜大公、逃げも隠れもせんっ!」

勇者「なんかもー。難しいなぁ。
 気に入らないヤツ、刃向かうヤツをかたっぱしから
 ぶっ飛ばせた勇者生活が懐かしい……。
 あの頃は殺さないように話をまとめる苦労なんて
 全然しなかったぞ……」
697 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:15:45.78 ID:5kaffl9OP
勇者「火竜大公」
火竜大公「何だ、黒騎士」

勇者「では、俺があの街に先乗りをしよう」
火竜大公「……」

勇者「あの街、『開門都市』は
 魔族があがめる片目の神の聖地だ。
 そこを人間に支配されるのは苦痛だろう。
 それは判る。しかしまた、その聖地の守りを忘れ
 人間世界を攻めるに酔っていた竜族の罪もあると知れ」

火竜大公「それは……」

勇者「言い訳無用。……人間が憎いのは判るが
 あの都市は彼らが戦争で奪ったのだ。
 争いの勝者は神聖だ。その魔界の不文律を忘れるな。
 特にその敗北が油断から成されたのなら、なおさらだ」

火竜大公「……ぐぐ」
701 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:21:37.65 ID:5kaffl9OP
勇者「それに、火竜大公の軍で攻めたところで
 あの街はこの魔界で唯一人間が暮らす街だ。
 たやすく奪還できるとはかぎらない。
 精鋭たる聖鍵遠征軍が守っているのだからな。
 悪くすれば、火竜の民は全滅だ。
 それを望むのか、火竜大公」

火竜大公「そのようなこと、やって見ねば判らぬ!」

勇者「次の春まで時間をくれ」
火竜大公「……」

勇者「黒騎士が、魔王の名にかけて誓おう。
 『開門都市』を取り戻し、魔王の直轄地とする」

火竜大公「魔王の、直轄地に!?」

勇者「火竜の一族の関心は誇りだろう?
 魔王の軍勢が取り戻し、直轄地になるのであれば
 問題なかろう。魔王はその柔弱という評判を払拭できる」
703 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:25:30.11 ID:5kaffl9OP
火竜大公「しかし、もし約束をたがえれば」

勇者「そのときは魔王がまさに弱腰と云うことだろう」

火竜大公「容赦はせぬぞ?」

勇者「ああ、魔王は魔王にふさわしくない。
 そのときは魔王の位を譲り渡そう。黒騎士が約束する」

火竜大公「……」
勇者「どうだ?」

火竜大公「よかろう」
勇者「おー! よかった」

火竜大公「おぬしには男気がある! だれか、だれかある
 公女を呼んで参れ!」

火竜公女「おとうさま、私はここに」
勇者「えーっと」

火竜大公「約束を見事果たした暁には、この公女を
 くれてやる! 妻にでも妾にでもするが良い! がはははは」
718 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:34:44.87 ID:5kaffl9OP
――冬越しの村、村はずれの屋敷

魔王「こっ、これでいいかの?」
メイド長「ええ。あらあら、まぁまぁ。見違えましたね」

魔王「何だ、そのコメントは」
メイド長「勇者様がいなくなってから
 まったくお召し物に頓着なさいませんでしたからね」

魔王「『いなくなって』などと不吉なことを云うな。
 ちょっぴり出張しているだけではないか」

メイド長「ええ、もちろん。まおー様が捨てられた
 女であるかのような印象を持たれてしまったのならば
 その誤解、このメイド長一生の不覚ですわ」

魔王「……」

メイド長「今日は綺麗ですよ、まおー様」

魔王「むぅ。釈然としない」

メイド長「とはいっても、交渉事ですからねぇ。
 多少は見栄えを良くしないと」
720 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:41:44.31 ID:5kaffl9OP
魔王「それにしても、なんというか」
メイド長「?」

魔王「ちょっとビラビラしすぎではないか? このドレス」
メイド長「素敵ですよ?」

魔王「それに襟ぐりが随分深いような気がする」
メイド長「それくらいがお洒落なんですよ」

魔王「ううう」
メイド長「みっともない駄肉なので恥ずかしいですか?」

魔王「ええーい、うるさい! そ、そんなに駄肉ではない!
 女騎士殿もグラマーですとくれたし、みなそういってる。
 ちょっぴり母性的なだけではないかっ」

メイド長「人格的母性のない肉を駄肉というのです」
魔王「ううう。今日のメイド長は厳しい」

メイド長「ちょっと気が立ってるんですよ。
 警備体制を整える関係で」

魔王「どうなっている?」
722 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:49:36.34 ID:5kaffl9OP
メイド長「妖霊と夜精霊を配置しています。
 まぁ、軍でも出てこなければ充分でしょうが……」

魔王「心配か?」

メイド長「相手が貴族や軍人ならばともかく、
 『同盟』の商人ですからね。その点に関しては
 まおー様におまかせするしかないわけで」

魔王「信用なさ過ぎだな、わたしなのか」
メイド長「いえ、お手伝いできないことが不安なのです」

魔王「しかたない。これは避けては通れない関門なのだ」
メイド長「せめて勇者様がいてくだされば」

魔王「勇者に役目が渡るとすれば、それは交渉が
 失敗した時だからな。そうなったら逃げる段階だ。
 だから意味はない」

メイド長「あんまり強がると殿方は不安だそうですよ」

魔王「へ?」
725 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 21:55:31.94 ID:5kaffl9OP
メイド長「まぁ、それはいいですわ」ひらひら
魔王「あしらうな」

メイド長「そろそろでしょうか」

メイド妹「お客様を客間にお通ししました~。
 いまお姉ちゃんがお茶を入れてます~」

メイド長「語尾を不必要に伸ばさない」
メイド妹「はーい♪」

メイド長「まおー様? 準備はよろしいですか?」
魔王「ああ。このボタンをはめてはダメなのか?

メイド長「そのボタンは飾りボタンです。
 はめる目的ではありません」

魔王「上から実験用の白衣を羽織るとか! 学者らしく!」
メイド長「お笑い芸人じゃないんですから」

メイド妹「当主様、おっぱい格好いいよ♪」

メイド長「まったくこの娘は。さぁ、まおー様」
魔王「ああ、しかたない。出陣だ!」
727 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:02:32.75 ID:5kaffl9OP
――冬越しの村、客間


かちゃり

青年商人「やぁ、これは!」
辣腕会計「ほほう」

魔王「お待たせして済まないな。私がこの館の当主
 といっても無位無冠の学士だ。紅の学士と呼んでくれ」

青年商人「はじめまして。私は『同盟』の南氷海西方を
 担当しております青年商人です」

辣腕会計「今回のご挨拶に同行させていただいた
 会計でございます。以後、お見知りおきを」

魔王「いや、ご丁寧なご挨拶、痛みいる」

青年商人「正直驚きが隠せません! 学士にして発明家
 農業への造詣も深いとのことで、
 言葉は悪いですが、ご高齢の老師かと想像していたのですが
 こんなに麗しいご婦人にお目にかかる事ができるとは!」



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