魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」3-3
554 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:33:13.07 ID:CkBATQ0gP
女騎士 すっ
勇者「な、なんだよっ」
女騎士「いや、髪の毛を確かめているだけだ。
額環は、碧色が良いな。きっと似合う」
勇者「そかな」
女騎士「うん。わたしは切らないが、
それくらいなら許してくれるだろう?」
勇者「うーん。切った方が絶対早いんだけどな」
勇者「……」
女騎士「……」
女騎士「なぁ、勇者」
勇者「ん?」
女騎士「勇者は、魔王の物なんだろう?」
勇者「え。あ。……うん。そうだ。所有契約だ」
女騎士「そうか……」
勇者「まぁ、いろいろあったんだよ。そこに至るには」
557 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:38:06.50 ID:CkBATQ0gP
女騎士「魔王は勇者の物なのか?」
勇者「うん、まぁ。成り行き上、一応」
女騎士「じゃ、魔王がもし酷いことになったら保護しないとな」
勇者「そりゃするよ。でも俺は勇者だろう?
たいていのやつが困ってたら保護するんだぜ?」
女騎士「ああ、それはよく判ってるよ」
勇者「なんだかなぁ、心臓にストレスがキリキリと」
女騎士「そうなのか?」
勇者「そうなんだ。俺の勘は根拠はないけど良く当たる」
女騎士「勘じゃなくて、もうちょっと空気を
読む能力を身につけてくれると周囲が助かるんだがな」
勇者「なんだ、それは?」
女騎士「いや、気にしないでくれ。こっちの愚痴だ」
559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:43:34.04 ID:CkBATQ0gP
女騎士「でも、やっぱり一方的なのは悔しいな」
勇者「?」
女騎士「わたしも勇者に何かあげたいのだ」
勇者「額環くれるんだろう? もてもての」
女騎士「うん、貰ってくれるか?」
勇者「もちもち。もてもてアイテムか~。
女騎士に貰えるものなら何でも貰うぜ?」
女騎士「そうか。……そう言ってくれると嬉しい」にこり
勇者「大げさだな-。女騎士らしくもない」
女騎士「勇者」
ザッ
勇者「なんだよ、女騎士っ」
女騎士「黙って立ってろ」
勇者「何でいきなり跪くんだ?」
562 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:51:36.08 ID:CkBATQ0gP
女騎士「我は……
湖畔の国に精霊の恩寵を受け、生を賜りし光のしもべ。
勇者と共に旅をした長きにわたるこの剣を
女騎士の全てと共に勇者に捧げる」
勇者「……」
女騎士「我が剣、我が力、我が身体。
我が魂からの忠節と純潔は、勇者のもの。
勇者こそ我が魂の主人にして、我が希望の宿り主」
勇者「まてよ、女騎士っ」
女騎士「またない。勇者、この剣は勇者のもの」
勇者「立てって」
女騎士「立たない。勇者が貰ってくれるまで、動かない」
勇者「なに子供みたいな事言ってるんだよ」
女騎士「子供になって勇者に貰って貰えるならかまわない」
570 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:58:46.33 ID:CkBATQ0gP
女騎士「勇者が魔王の持ち物なのは、判った。
仕方ない。……わたしが、遅かった」
勇者「……」
女騎士「魔王はすごい。魔王は賢くて、懐が広くて
夢があって、ずぅっと遠くを見てる」
勇者「……」
女騎士「だから、わたしは勇者のことを欲しがったりはしない。
それは魔王のものだから、仕方ないと云えば、仕方ない。
もちろんその……魔王がいらなかったり隙があれば
遠慮なんかするつもりはないけれど」
女騎士「でも、だからといって、わたしはわたしのものだ。
せめて、わたしを勇者にあげたいんだ。
騎士に生まれて、今まで剣を捧げてこなかったわたしは、
騎士にしたって半端者だった。
剣を捧げるなら、勇者が良い。
始めに勇者に剣を捧げて、以後、主を変えない。
わたしは、そんな騎士でいたい」
勇者「……良いのかよ、こんなので。
こんな思いつきみたいな場所で。
そ、それってすげー大事な事じゃないのかよ」
574 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 23:03:59.22 ID:CkBATQ0gP
女騎士「どこだって、何時だって同じ事だ。
わたしだって何かがしたいんだ。
勇者たちが未来へ出掛けるなら、
わたしの居場所だってその近くに欲しい。
もう…… もう、おいて行かれるのはいやだ」
勇者「……悪かった」
女騎士「剣を取って、我が主。大丈夫、わたしはあなたに叛かない」
勇者「……」こくり
すっ
女騎士「よし。……反対にして、返して」
勇者「うん」
びゅんっ! びゅんびゅんびゅっ!! しゃきんっ!
女騎士「これで、わたしの剣は勇者のものだ。
わたしの身も心も、勇者に捧げたって訳だ。
うん、なんだかそこはかとなく充実感があるなっ!」
579 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 23:11:22.35 ID:CkBATQ0gP
勇者 ぞくっ
女騎士「どうした? 勇者」
勇者「いや、なんか寒気がした。あのさ、あのさ。女騎士」
女騎士「ん?」
勇者「その、返品とかって出来るのか? 契約解除とか」
女騎士「出来ると思うのか」にこり
勇者「……」
女騎士「大丈夫だ。その悪寒の件はわたしが対処する。
わたしたちは親友になったんだ」
勇者(親友~!?)
女騎士「ちゃんと正面から話せば判ってくれるはずだ」
勇者(ちょ、なんでそう力勝負ばっかりっ!)
女騎士「勇者のことは、わたしが守るッ」
勇者「いや、まじほんと」
女騎士「ん?」
勇者「俺から云いますんで、一つ勘弁して」
593 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 23:20:30.64 ID:CkBATQ0gP
――冬越しの村、湖畔修道院
修道士「たっ! 大変だ!」
修道士「どうしたっていうんだっ!?」
修道士「大変だ、恐ろしいことが起きたっ。
も、もうだめかもしれないっ!!」
修道士「水を飲め、説明するんだ」
修道士「それどころじゃないっ。修道院長は?
女騎士様を呼べ、いや、探せっ! 一刻を争う!
早く女騎士様を捜すんだ!!」
――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室
辣腕会計士「急報です、委員っ!」
青年商人「何ですか、慌ただしい」
辣腕会計士「一大事です。こ、これを……っ
とにかく、この報告書を……」
ガサリ
青年商人「……まっ、まさかっ!? 選挙の影響なのか。
迂闊、迂闊だった。この展開を見落とすとはってて。
――確認を、至急確認の船を出してくださいっ!!」
598 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 23:25:50.51 ID:CkBATQ0gP
――冬の国、冬の宮殿、謁見の間
ガタンッ!
冬寂王「なんだとっ!?」
使者「お聞こえになりませんでしたかな?
ではもう一度繰り返させて頂きます」
冬寂王「……」ぎりぎり
使者「冬の国にて学者を開きし『紅の学士』を名乗りしもの
彼のものについては、以下のような疑惑有り。
ひとつ。彼のものが湖畔修道会を利用して、罪なき
農民に広めている馬鈴薯なる作物は、魔族によって
栽培される悪魔の実である。
ひとつ。彼のものが進める農法、指導および肥料の
方法は精霊の教えたもうたものにあらず。そこには
邪なる異界の関与が認めらるる。
ひとつ。彼のものがその学校で教えている学問の数々。
これらは教会の権威をないがしろにし、侮蔑するものである。
ひとつ。聖王都の神学院は、彼のものが名乗るような
『紅の学士』なるものを輩出した記録はない。
告発と以上のような疑惑に基づき、
『紅の学士』なるものは異端であると疑いが十分である。
即刻身柄を引き渡すべし。
中央聖光教会 異端審問司教。
――この通り、署名もそろっております」
604 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 23:30:02.52 ID:CkBATQ0gP
冬寂王「そ、それは……間違いないのか、使者殿」
使者「言葉を控えた方がよろしかろう! 冬寂王どの。
それが真実かどうかは、異端審問の場で審議が為されること。
もっとも光の精霊の教えを受けたる司教どのが
千に一つ、万に一つも過つことがないことなど
敬虔なる信徒である冬寂王ももちろんお解りだろうが」
冬寂王「……」
執事「こ、このような……」
使者「もちろん聡明なる司教殿は、こうも仰せられた。
おそらく冬の国、および湖畔修道会は、この異端の学士の
奸計に巻き込まれた、いわば被害者であろうと」
冬寂王「っ!」 ぎりっ
執事「……」
冬寂王(……中央の妬心か。それほどまでにっ。
それほどまでに南部諸王国が首輪から外れるのを
嫌われるのかっ。聖王国よっ、聖教会よっ!
南部諸王国が貧しさを脱し、自らの意志を持つことを
そこまで憎まれるかっ。このような手まで使って
足止めを狙うほどにっ)
606 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 23:33:46.85 ID:CkBATQ0gP
使者「ご返答は如何に、冬寂王」
冬寂王「……」
執事「……」
使者「この世界において、教会に逆らうと云うことの意味は
わかっているでしょうな? 若き王よ。
信仰は光、教会は世界。それに背くと云うことは、
背教の輩、すなわち人類全てを敵に回すと云うことですぞ」
冬寂王「……く」
使者「大主教は、『破門』と云う言葉は口に出されませんでした。
ただ、“同じ信徒として異端に与するものが居たことは
非常に悲しい”とだけおっしゃった。
そのご厚情を無にするおつもりか、冬寂王っ」
冬寂王「そ、それは……」
執事「若……」
冬寂王「使者殿の、お言葉……痛み……いる……」
使者「では?」
冬寂王「軍を……出そう。しかし、冬越し村は、遠い。
時間を頂くことに……なる」
使者「よいでしょう。ただしお気をつけて、冬寂王。
もし、紅の学士を取り逃がすことなどあらば
あなたもこの国も湖畔教会も、背教のそしりを
免れないでしょうからなっ!」
最終更新:2013年06月07日 20:47