8-1

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#center(){[[<前7-3へ>7-3]]|[[次8-2へ>>8-2]]} ---- **魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」8-1 ---- ****35 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 21:56:21.35 ID:pLtZgbkP ――聖王都、場末の宿屋 奏楽子弟「やぁ、当たって砕けたねぇ」 メイド姉「そうですねぇ」 奏楽子弟「でも、教会ってこういうものなの?」 メイド姉「え?」 奏楽子弟「いや、この大陸も今まであちこち旅してきたけれど  教会ってどこにもある割には、結構いろいろだよね」 メイド姉「ああ、それはそうですね」 奏楽子弟「光の精霊だっけ? 神だっけ?  同じ者を信じているのに、結構バラエティがあるなって」 メイド姉「同じ教えを根にしていても、  その解釈や実践方法において差があって、  だんだんと色んな流れに分かれていったんですよ。  それらは修道院、修道会と云った形で表面化しています。  大まかなところでは一緒ですけれど、細かい部分では  かなり違いがありますね。  たとえば聖日ごとのミサを重要視する修道会もあれば、  地域での助け合いを重視する修道会もあります。  教会って云うと信仰の場のようですけれど、  実際には、学問や医療や人々の生活の難問を  解決する、公共の場所のような意味合いもありますからね」 奏楽子弟「それでみんな教会を大事にしてるんだ」 メイド姉「そうですね」 奏楽子弟「でも、なんか。……ここの教会は、大きい割にはね」 ****36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 21:58:41.52 ID:pLtZgbkP メイド姉「それは、まぁ。ある意味仕方ないかも知れませんね」 奏楽子弟「そうなの?」 メイド姉「聖光教会。中央教会ともいいますが、  これはもう非常に強力なのです。  普通、ただ単純に“教会”といえば、  この宗派を指すぐらいに最大派閥なんですよ。   この大陸にいる光の精霊信者の半分以上は、  この中央教会の影響下にあると思います。  実際の人々は、色んな国や貴族の領地に暮らしていますけれど  その殆どが教会にも所属しているわけですから  彼らの生活の全てを補佐していたり、影響力を持っています。   ここまで大きくなると、国であっても無視できないし、  むしろ気にしながらでないと、民を治めることなんて出来ません。  教会が一言“背教者”と名指しにしただけで、  自分の領地の領民がその日のうちに貴族を血祭りに上げたり  しかねませんからね」 奏楽子弟「結構物騒なんだね」 メイド姉「ええ、そんなわけで、教会。  とくに聖光教会は強大な権力を持っています。  その権力が正しく働けば、横暴な貴族や王族から  民を護る盾のようにもなるでしょうけれど  現実には、貴族や王族と癒着して、農奴や開拓者を  苦しめてしまうこともありますね。  また、そうやって大きな力をもっていますし、  知識や技術などの集積もしていますから、  ……んー。自分たちを優れたものだと考える  聖職者の方もいらっしゃるようなのです」 奏楽子弟「それでああいう横柄な態度になるわけだ」 メイド姉「そうですね……」 ****37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 21:59:49.46 ID:pLtZgbkP 奏楽子弟「どうしよっか。  あの態度は、ちょっとやそっと粘ったくらいで  どうにかなる感じじゃなかったね」 メイド姉「そうですね。わたしもちょっと甘く見ていました」 奏楽子弟「うん、びびった」 メイド姉「すごいですね」 奏楽子弟「すンごいね」 メイド姉「ええ」こくり 奏楽子弟「金ぴかじゃない」 メイド姉「お城よりも豪華でしたよ」 奏楽子弟「お城なんて行ったことあるの?」 メイド姉「あ、いや。見た目だけ」 奏楽子弟「彫刻のない柱なんて無かったね」 メイド姉「目がくらくらしますよ。どれだけ広いんですか」 奏楽子弟「ざっと見た感じ、短い辺が千歩ってとこだったね。  本体は石造、漆喰、伽藍はフレスコ、彫刻した柱は総大理石。  金箔に象眼。絵画に植樹、人工庭園。  あれは当代一の建築家に芸術家に技術者動員しても20年がかりの  仕事だね!」 メイド姉「詳しいんですね! 詩人さん」 奏楽子弟「ま。腐れ縁に土木野郎がいるからねっ」 メイド姉「わたしはもっと、広いだけで質素な、煉瓦造りの  大きな集会場みたいなものを想像しちゃっていましたよ」 奏楽子弟「わたしも。そういう教会、多かったしね」 メイド姉「ええ」 ****38 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 22:02:48.68 ID:pLtZgbkP 奏楽子弟「どうしよっか」 メイド姉「仕方ありませんね」 奏楽子弟「やっぱり諦めるしかないよねぇ。ここまで来たのになぁ」 メイド姉「潜入しましょう」 奏楽子弟「え?」 メイド姉「こっそり入りましょう。黒っぽい服あったかな」 奏楽子弟「ええっ!?」 メイド姉「はい?」 奏楽子弟「ほんとにっ!?」 メイド姉「はい」 奏楽子弟「何でそう思い切りが良いの、メイド姉さんはっ」 メイド姉「なんででしょう……。勇者様の悪影響なのかな」 奏楽子弟「?」 メイド姉「いえ、身近に行動力が突出した人が多くて」 奏楽子弟「もうちょっと、慎重にさ」 メイド姉「ええ、慎重に潜入計画を立てないといけないですよね」 奏楽子弟「そう。こういう事には準備がね。  できれば簡単な内部見取り図とか、巡回の把握とか、  目標地点の確認とかもしないと」 メイド姉「しばらく路銀を稼ぎながら情報収集ですね。  ありがとうございます。詩人さんはやはり頼りになりますね」 奏楽子弟「……あれ? いつの間にか潜入することになってる?」 メイド姉「なんだか胸騒ぎがするんです」 奏楽子弟「そう?」 メイド姉「空気がざわざわしているような……」 ****42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 22:20:54.42 ID:pLtZgbkP ――白夜国首都、白亜の凍結宮 蒼魔の刻印王「ふむ。それで引き上げてきたか」 蒼魔上級将軍「どのような罰をお与えになりますか?」 蒼魔の刻印王「いいやかまわん。  どちらにしろ騎馬隊の任務は偵察だったのだ。  鉄の国が峠道を一本つぶしてでも交戦を避けた。  その情報にも意味がある。  多少遠回りにはなるが、より太い街道が何本かあっただろう?」 蒼魔上級将軍「おいっ。ここいらの地図を持ってこい」 蒼魔軍兵士「はっ!」 ばさぁっ! 蒼魔の刻印王「これは、山か。そして森林だな。  この地方の森林は深いのか?」 捕虜の文官「……ぐっ。深い……。原生林だ」 蒼魔上級将軍「軍の動きは著しく制限を受けますな」 蒼魔軍兵士「恐れながら、刻印王様のお力で、敵軍ごと  焼き払うわけには行かぬのでしょうか?」 蒼魔の刻印王「もちろん出来るとも。  お前が勇者の相手をしてくれるのならば  喜んでそうしよう」 蒼魔軍兵士「しっ、失礼を申し上げましたっ!」 蒼魔上級将軍「――と、なりますと」 ****44 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 22:25:10.55 ID:pLtZgbkP 蒼魔の刻印王「この街道を通り、蒼魔騎兵部隊および  歩兵部隊を進める。  重装蒼魔兵部隊を中核に据えるとしてどの程度かかる?」 蒼魔上級将軍「10日から12日、と云うところでしょうか。  こちらの世界は地下と比べて山脈が険しいようですが、  街路の状況は悪くありませんな」 蒼魔の刻印王「騎行部隊を編制せよ。  周辺の地形を探索させるのだ。  人間の民間人に出会った場合は殺せ。  足跡を残すのも面倒ごとになる」 蒼魔上級将軍「決戦は、この平野ですな」 蒼魔の刻印王「蔓穂ヶ原か。――おい、蔓穂とは何なのだ」 蒼魔上級将軍「お答えせんか」 ビシィッ! 捕虜の文官「……蔓穂は、草花だ。白から濃い紫の。  花が咲く……その平野は……開発の手が着いていない……」 蒼魔の刻印王「紫か」 蒼魔上級将軍「吉兆ですな。我らが蒼魔の色」 蒼魔の刻印王「我は勇者との戦いに備えて瞑想に入らねばならぬ」 蒼魔上級将軍「はっ!」 蒼魔の刻印王「後は判っておろうな。この国の掌握に  兵は2000も残せば十分であろう。督戦隊を組織せよ。  例の策を使うのだ」 蒼魔上級将軍「はっ。仰せのままにっ!」 ****50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:01:16.04 ID:pLtZgbkP ――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場 銀虎公「これはっ」がたっ 碧鋼大将「ご回復ですかっ」 鬼呼の姫巫女「ご回復おめでとうございますな」にやっ 紋様の長「ご本復誠に喜ばしい限り」 魔王「え、あ。いや……。その、世話をかけた」 メイド長「さ、まおー様。座ってください」 銀虎公「よっし、魔王殿もこれで回復だ」 碧鋼大将「うむ」 火竜大公「これで肩の荷が下りますかな」ぼうっ 魔王「まず最初にこの場にいる知恵深き長がたに  われ三十四代魔王“紅玉の瞳”は深くお礼申し上げる。  我が不徳から長き間そのつとめを離れたことを  申し訳なく思うと共に、その間のつとめを我に代わって  果たしてくれた長がたの深い知恵と行動を嬉しく思う。   我のいない間の長がたの問題認識とその決断に  至るまでの経緯、重ねた議論については、  これなる黒騎士にして勇者から聞いている。   長がたの下した決断で、  我のほうから不服や不足がある点は一つもない。  どれも熟慮と配慮ある決断であったと考える。   銀虎公、碧鋼大将、妖精女王、衛門の長、  鬼呼の姫巫女、紋様の長、巨人伯。  深くお礼申し上げる。  特に火竜大公には意見のとりまとめをして頂いた。  見事であったというほかない」 ****51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:02:15.25 ID:pLtZgbkP 銀虎公「いや、そんな頭を下げられるような」 鬼呼の姫巫女「我らは、為すべき所を為したまで」 巨人伯「そうだ……まおう……治って良かった」 火竜大公「はははっ。魔王殿にそう言われて、  我ら一同、胸のわだかまりも労苦も解けて  流れていくようですな」 妖精女王「はいっ」 東の砦将「怪我の具合を聞いても良いかい?」 メイド長「代わってお答えします。  包帯のほうも取れまして、食事の制限も通常に戻っています。  予後治療としてあと一ヶ月程度の治癒術を予定していますが、  戦闘などはともかく、ごく普通の政務であれば問題ないと  考えております」 魔王「と、いうことだ」 メイド長 ぺこり 銀虎公「で、あるならばもはや何の問題もないな」 碧鋼大将「うむ」 火竜大公「魔王殿、ではこの会議はその役目を終え  魔王殿に全権をお返しする、と云うことで宜しいか?」 魔王「いや、それは保留としよう。  現在は問題の規模が大きくなり、  事件と事件の間の距離が開きすぎている」 妖精女王「蒼魔族、ですか」 ****52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:05:20.71 ID:pLtZgbkP 魔王「今回の事件に対応するためには、  この会議の力がまだ必要だと思えるのだ」 火竜大公「……ふむ」 紋様の長「魔王殿は今回の蒼魔族の人間界侵攻、  どのような対応をすべきとお考えか?」 魔王「そうだな。ふむ……。  衛門の長よ。あなたは人間界、魔界の事情の両方に  明るかろう。またその経験から軍事にも秀でておる。  現在の状況について思うところを聞かせてくれ」 東の砦将「ふぅむ」 ぽりぽり 副官「しっかりしてくださいね」 東の砦将「まず、最近色々聞きかじったところに寄れば、  蒼魔族の領地には約16万人の蒼魔族が取り残されたようだな。  キツイ言い方になりますが、こいつらは捨てられた。  ……そういう事になるんだろう」 碧鋼大将「哀れな。捨てられたる哀しみも知らず」 鬼呼の姫巫女「そうであろうな」 紋様の長「ふぅむ」 妖精女王「あくまで隠密裏にですが偵察した結果、  多くの食料は軍が糧食として徴収していったようですね。  また砂金や軍需物資の持ち出しも確認されています」 鬼呼の姫巫女「蒼魔族の領土内には鉱山も多く、  中には魔界最大の金山もあったはず」 妖精女王「どれくらいの持ち出しが為されたかは、  偵察のみではとても把握できませんが」 ****53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:06:58.65 ID:pLtZgbkP 東の砦将「次に蒼魔族の軍部の行動についてだ。  これは明白だろうな。  手詰まりになる前に討って出たということだろう。  現状魔界の全軍を相手に押し切るのは難しい。  ……まぁ、おそらく勇者の存在も効いたんでしょうな。   あの場で魔王を殺し自分が即位してしまえば  逆らう族長は粛正して恐怖政治にて魔界を支配できる  可能性もあったと云える。   その目論見が外れて、しかも蒼魔族以外が団結してしまった。  これがたとえば獣人族や機怪族を巻き込んで、  魔界を二分する大戦にでも出来ていれば、  まだいろいろやりようもあったんだろうが、  この状況になってしまった以上、戦ったところで、  早い遅いの差はあれじり貧だ。   現にこの会議だって、どのような決着にするかについては  考えていたが、負けた場合の事なんて考えてはいない。  蒼魔族の命運は尽きた、その前提での話だったわけだ」 銀虎公 こくり 碧鋼大将「人間界に討って出るとは……」 東の砦将「そのとおり。  蒼魔族そこで人間界に討って出た。  結果から考えると、これはなかなか悪い手ではない。  もちろん蒼魔族にとっては、と云う意味だがな。  小耳にはさんだ話じゃ、蒼魔族は地上に侵攻早々、  白夜国という国の都を落として掌握したって聞く」 火竜大公「一国を?」 妖精女王「そこまでの力を備えていたのですか」 ****54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:08:32.87 ID:pLtZgbkP 東の砦将「ああ、南部諸王国と呼ばれた4国のうち一つ。  様々な理由で立ち後れ、周囲に戦争を仕掛けては  返り討ちに遭い、国力も兵力も衰えていた国がある。  それが白夜国だ。  そんな国に運悪く蒼魔族が現われた。   城は一日も持たなかったそうだ。   結果として、蒼魔は地上に足がかりを作ったことになる。  地上では、魔界とは違った形だが、戦争の気配がってな。  南部の王国と中央が争っている。  正直に言えば、今は魔族の相手などはしていたくはないはず。   その隙を狙って、一番落としやすそうな所を落とした。  その上そう言う案配の地上だもんだから、  全員が一致協力して、この蒼魔族を撃つかどうかは判らない。  何せ蒼魔と戦い始めた瞬間、背後から同じ人間に  攻められるかも知れないわけだからな」 勇者「……」 魔王「……」 東の砦将「現状の把握はこんな所だろう。  またこのさきについて多少考えるならば、  おそらく蒼魔族は地上で版図を広げるつもりなのだろう。  魔界の領土を捨てた以上それ以外に残された道はない。  いずれ魔界へと帰るにしろ、その時は、  何らかの事態の変遷を経て、  魔界と自分たちの戦力差が縮まった時となる」 ****59 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:38:47.39 ID:pLtZgbkP 勇者「正確な分析だろうな」 魔王「考えなければならないのは、内通だな」 紋様の長「内通?」 銀虎公「どういう事だ?」 東の砦将「あまりにも地上の情報に通じている、ってことだ。  白夜国は、度重なる失策で疲弊もしていたし、  何と言えばいいかな。  国家、こちらで云うところの氏族か。  その組織としての輪郭が、あまりにもぼやけていた。  隅々まで統制は行き渡っていなかったし  なんというか、負け犬のような根性になっていたんだろうな。  そこを鮮やかにつかれた。奇襲としては完璧だ。   だが、魔界の氏族に、そのような地上の知識や機微が  どこまであるのか? また狙いをさだめたとしても、  2万からの軍を動かすとなれば地理や気候などを  無視して上手く行くものではない」 火竜大公「人間の中に、蒼魔族に手を貸したものがいる、と?」 東の砦将「そうだ」 魔王「まぁ、そのような内通者などどこにでもいる。  ここにいる族長の方々も程度の差こそあれ、  人間界の事情は何くれとなく気にかけているであろう?   今回の内通とはその規模ではなく、  もし、地上界のどこかの国家が、蒼魔族を援軍として  呼び込んだのだとしたら……。  そこが懸念だ」 ****60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:41:01.01 ID:pLtZgbkP 銀虎公「地上の争いか……」 火竜大公「ふぅむ」 魔王「わたしの把握している情報だと、その可能性が  もっとも高そうなのが、白夜国自身だ」 妖精女王「どういうことですか?」 魔王「つまりその場合は、人間界での自分たちの領土や  権益の回復を目指し魔界と手を結ぼうとしたが  逆に蒼魔に隙を突かれて自滅した。という形だな」 銀虎公「ふぅむ。なんていうか、そこまで落ちぶれた  氏族だったのか? 白夜族というのは?」 東の砦将「あー。そうかもなぁ」 魔王「このパターンは哀れな話ではあるが  ある意味自業自得ではあるし、  この先の問題点は少ないと云えよう。  つまり、蒼魔族は白夜国を滅ぼしたことで、  人間界での案内人を失ったわけだからな」 鬼呼の姫巫女「ふむ」 魔王「わたしが恐れているのは、もう一つの想定だ。  人間界での戦は、単純化すれば『南部』と『中央』との  戦いだと云える。その片方が蒼魔族を招いた場合だな」 銀虎公「そいつらはどんな理由で争っているんだ?」 勇者「はじめはそこまで争っていなかったんだ。  だが『南部』の国は魔界との戦いの最前線だった。  それにたいして、『中央』の国々は後方の安全な場所から  戦争に賛成していたんだな。この辺の意識の違いから  だんだんと溝が深まっていった」 ****61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:42:25.97 ID:pLtZgbkP 魔王「だが今となってはそう言った始まりの原因よりも、  様々な点で国としての方針が合わなくなって  しまったことが大きいな。   『中央』の国々は、魔界との全面戦争を望んでいる。  しかし、それには大空洞に近い『南部』の国を従えるか  制圧しなければならない。そもそも『中央』の国々は  プライドが高く、『南部』が従うのを望んでいる。   しかし、経済や交易などで力をつけた『南部』の発言力は  だんだんと『中央』の制御から離れていった。   現在決定的な意見の相違は二点だ。  『南部』は奴隷を解放したが、『中央』は奴隷を認めている。  『南部』は魔界との停戦を模索しているが  『中央』は魔界との全面戦争、少なくとも遠征を意図している」 銀虎公「面倒だな」 火竜大公「蓋を開けてみれば、より複雑なのであろう」 魔王「それはどこの世界でも一緒だ。多くの人が生きていれば  意見の違いもある。一筋縄では行かぬ」 鬼呼の姫巫女「しかし、そうなると、  蒼魔は人間界にとっても大きな転機になりうるな」 魔王「その通りだ」 銀虎公「人間が最初に魔界に攻め込んだんだ。  人間全部が魔界の富に釣られているって事じゃないのか?」 東の砦将「富の部分は否定しないがね。  まぁ、この件は教会の影響力も大きかった」 ****62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:43:40.44 ID:pLtZgbkP 鬼呼の姫巫女「教会とは、神殿の仲間であろう?」 東の砦将「そうだな。魔界の神殿組織よりも、  地上世界の教会のほうがずっと組織として整備されているし、  発言力も強大だが、根底は似ている。  教会は国家、つまり氏族の枠に縛られない。  実際問題、人間界ではただ一人の神が信じられているんだ」 巨人伯「一人!?」 勇者「ああ、そうだ。光の精霊という」 魔王「――炎の娘だ」 東の砦将「それで、まぁ、その教会が宣言しちまったのさ。  “魔界は悪だ、殺すべきだ!”ってな。  一応、誤解の無いように言っておくが   魔界に住む魔物の多くは、地上世界の動物よりもずっと  戦闘力が高くて危険なんだ。  その性質は地上に出ると余計に強化される。  つまり凶暴化するんだな」 鬼呼の姫巫女「魔物と魔族を一緒にするでない」 東の砦将「その意見は判るが、  そこは頭の悪い野蛮人だと思って我慢してくれ。  ゲートが開放された時に出た被害者や拡散した魔物、  それから教会の伝えた報告により、地上の大部分の人間は  魔界の実態も知らないままに恐怖した。それも事実なんだ」 紋様の長「ふむ……」 ****63 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:45:06.72 ID:pLtZgbkP 魔王「そんな状況下で、蒼魔族が地上で暴れた場合  魔界と人間界の間の関係に決定的な影響を  及ぼしてしまう可能性が高い」 碧鋼大将「人間界が、再び魔界侵攻をすると?」 東の砦将「……」 魔王「魔界侵攻そのものは問題ではない。  いや、それはそれで憂慮すべき事だが、一つの結果だ。  むしろ問題は、人間界に住む人々に大規模に魔界の  恐怖がきざまれてしまい、もはや共存の可能性が  無くなってしまうことだ」 銀虎公「……ぐるるるる」 碧鋼大将「……」 妖精女王「それは困ります」 東の砦将「そうだなぁ」 魔王「ここにいる長の方々  全てが共存に賛成な訳ではないのも判っている。  しかし、考えてみて欲しい。  地上と地下、二つの領域があったのだ。  人間界の戦力が我らよりも小さい可能性はもちろんある。  だが同様に我らと等しい可能性も、我らよりも大きい  可能性もあるのだ。  そうだろう? 相手が我らよりも劣っているなどと  判断できる理由はどこにもないのだ。   魔王としてこれだけは断言する。  勝てたとしても、負けたとしてもその戦争は  最低でも100年は続くだろう」 ****65 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:47:34.94 ID:pLtZgbkP 紋様の長「逆に聞きますが、  その全面戦争を回避できる策はありますか?」 魔王「確実な策はない」 妖精女王「ないんですか……」 東の砦将「……」 魔王「実際問題、我らは違いすぎる。  肌の色も、姿形も。生活習慣や信じる神、食べている物。  服装や、社会規範から、尊い思う礼節まで。  戦争にならないほうが不思議だ。  自然のままであるのならば、いずれ争いになるだろう」 碧鋼大将「……」 銀虎公「……」ぎりっ 魔王「だがしかし、わたしはやはり回避できるのならば  戦争は回避すべきだと考える。  別に人間族を恐れているからではない。  戦えば、勝つ。勝つための努力をする。  それが魔王だからな。  ――しかし、それでいいのか? 長老方。  わたしには他にも出来る何かがあるような気がする」 勇者「銀虎公」 メイド長「?」 勇者「何か言いたいことがあるんじゃないのか?  云っちまった方がいいと思うぜ。会議なんだから」 ****66 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23:49:41.54 ID:pLtZgbkP 銀虎公「我が一族は、戦闘の一族だ。  だから……人間と戦うのならば、ためらいはない。  100年続くと云ったが、別に悪くないではないか?  100年が1000年でも同じ事。  栄誉と酒の中、雄々しく戦えばよい。   だが、しかし。  その角笛を蒼魔族が吹くのは、釈然とせぬ。  今の話を聞いていると、我らはどうも……。   蒼魔族に騙されて人間と戦うようではないか」 火竜大公「ふぅむ、そうとも云えるな」 東の砦将「……ふむ」 銀虎公「我が獣牙の一族は、  戦う順番としては蒼魔が先だ。そう言いたい」 妖精女王「だがそうなると人間界に攻め込むことに」 碧鋼大将「余計に事態を悪化させるではないか」 東の砦将「いーや、その意見は漢の意見だ!  俺たち衛門一族は、虎の大将に乗っかるぜっ。  叩くのなら、蒼魔族が先だろうよ。  そいつが筋ってもんだ。なぁ! 大将!」 副官「将軍っ!?」 銀虎公「おおっ! 衛門の長もそう言ってくれるかっ!!」 紋様の長「人間世界と100年の全面戦争を始めるおつもりかっ!?」 巨人伯「人間……こわい……」 銀虎公「だが、これは義の問題だっ。  逆に云えば、我らが魔界の裏切り者が人間世界で暴れているのだ。  それを叩くに何の遠慮を必要とするっ」 ****73 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:05:56.75 ID:34eUyEEP 魔王「鬼呼の姫、竜の長。お二人の意見は如何に?」 火竜大公 ちらっ 鬼呼の姫巫女 こくり 火竜大公「我ら二人は、魔王殿に賛意を投じます」 鬼呼の姫巫女「無法を討つ。この理は人界でも通用すると考える。  もしそれさえ通じぬとあらば、もはや人間と  我ら魔族は判り合うことはないのだ。戦争も致し方あるまい」 紋様の長「巫女殿っ! ご老公っ!」 魔王「長がたよ。何事もせずに手をこまねいていても、  自体は刻一刻と悪化を続けているのだ。  で、あれば銀虎公に賭けてみるのも一つの方策であろう?」 碧鋼大将「……仕方あるまい」 銀虎公「魔王殿っ! それではっ!?」 魔王「長がたに異存なくば、魔王軍初の遠征とする」 火竜大公「そして初の親征となりますな」 魔王「だがしかし、遠征としてはあまりにも遠い地ゆえ  大軍を率いて行くわけにも行かぬ。銀虎公っ」 銀虎公「はっ!」がばっ 魔王「精鋭八千を率いて我が傍らで右軍将軍として  我が意に従い指揮を行え」 銀虎公「ははぁっ!!」 ****76 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:08:03.60 ID:34eUyEEP 魔王「碧鋼大将」 碧鋼大将「はっ」 魔王「難しいことを頼むが、長ならば必ずや  やり遂げるものと思う。   旧蒼魔族領地に入り、その金山、鉱山、工房を封鎖し凍結せよ。  また、その領民を掌握し、安堵せしめよ。  これより旧蒼魔族領地の鉱物資源の管理は  機怪一族に任せる。  機怪一族がその異形ゆえ迫害されてきた歴史は知っている。  その一族の悲しみを他者に味合わせてはならぬ。  長と軍に見捨てられた蒼魔族を救えるのは  同じ悲しみを知る長の一族だけだ。頼む」 碧鋼大将「承りましたっ。必ずや」 魔王「巨人伯、鬼呼の姫巫女、紋様の長」 巨人伯・鬼呼の姫巫女・紋様の長「はっ」 魔王「長がたの下した決断をわたしは重んじたい。  この魔界を栄えさせるためには、三氏族の力がどうしても必要だ。  世界が戦になろうと平和になろうと、街道と開墾は  必ずやその力になる。建設に総力を挙げてくれ」 鬼呼の姫巫女「はい、必ずや」 紋様の長「承りましてございます」 巨人伯「……まかせろ」 ****79 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:09:28.26 ID:34eUyEEP 魔王「火竜大公」 火竜大公「判っております」 魔王「うむ。この会議が魔界の束ねとなろう。  わたしが人間界に行っても、代わらず皆を導いてくれ」 火竜大公「この老骨が砕けぬ限りはお約束いたしましょう」 魔王「砦将殿。人間の世界が舞台となる。  開門都市に兵の蓄えが少ないことは承知だ。  好きなだけの手勢を率いてわが左軍将軍となり  その知謀を貸してくれ」 東の砦将「判った。まかしとけや」 妖精女王「あ、あの……わが一族は?」 魔王「妖精の女王よ」にこっ 妖精女王「はいっ!」 魔王「あなたが今回の遠征の要だ」 妖精女王「とは?」 魔王「わたし達は蒼魔族を討ちに行く。  そのためには人間世界、つまりは人間の国々を  通り抜けなければならないだろう。魔界でも同じだが  武装した集団が氏族の領土に侵入してきたら戦争と  取られても仕方ない」 妖精女王「はい……」 魔王「女王には特使として、  人間の国々からの許可を取って頂きたい」 ****92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:26:29.16 ID:34eUyEEP ――聖王国、深夜の大教会、聖堂地下 コツン、コツン、コツン 奏楽子弟「ん。……いいよ」 メイド姉「はい」 コツン、コツン 奏楽子弟「この匂いは……」 メイド姉「古くなった羊皮紙ですね」 奏楽子弟「ここはどうやら、あまり人の出入りがないみたい」 メイド姉「今は有り難いです」 コツン、コツン 奏楽子弟「……しっ」 メイド姉「っ」 しーん 奏楽子弟「大丈夫。あけるよ?」 メイド姉 こくり ぎぃいいぃ…… 奏楽子弟「あ……油くらい差そうよ。心臓止まるかとおもったよ」 メイド姉「まったく」 奏楽子弟「どっちかな」 メイド姉「多分、下です」 ****94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:27:53.40 ID:34eUyEEP コツン、コツン、コツン 奏楽子弟「ここが書庫だね」 メイド姉「はい」 奏楽子弟「どうする?」 メイド姉「え?」 奏楽子弟「ここまで来たんだ。『聖骸』は後回しでもいいや。  何か探したいものがあるんでしょう? 付き合うよ」 メイド姉「では、この間の物語を」 奏楽子弟「あれ?」 メイド姉「ここになら、もっと詳細な物があると思うんです」 奏楽子弟「ふむ。わかった」 メイド姉「ここに明かりを置きますね」 コトっ 奏楽子弟「朝までは……」 メイド姉「あと6時間ほど」 ペラッ。しゅるん…… 奏楽子弟「時間はないね」 メイド姉「はい」 しゅるるん……ぺら…… 奏楽子弟(この娘……。たぶん、特別なんだ。  意志を持って歩いている。わたしもそうだけど……。  わたしが音楽を選んだように、何かを選んだ娘なんだ) ****98 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:32:05.68 ID:34eUyEEP ――宝珠の伝説  見よ炎に生まれし娘有り。  かつて無きその聡き額に見えない王冠はかがやき  幼き頃からその慈愛遍く万物を照らす。  見よ大地に生まれし少年有り。  異境より訪れし女と精霊の間に生まれた忌み子。  大地の魔峰を黒く汚し災いをもたらさん。  幼き恋は精錬の炎により鍛え上げられ、誓いは胸を焦がす。  願うは翼。風に乗り大空を舞う。  大いなる神鳥に愛されし少年は、人間の血ゆえ  精霊にとっては罪となる宝をその胸に秘める。  罪の名は――。  魂の翼にして希望の言葉。時に自らを縛る鎖。  砕けたるは黒き大地のオーブ。  贖罪の子にして黒き羊の少年は、その禁じられし恋ゆえに  その従兄弟にして大地の精霊王と  呪われし魔峰にて互いを滅ぼし合う。  落ちるはその身体。  死せるはその命。  しかしその悲哀、砕けし宝珠の威力もて、大地は引き裂かれる。  精霊は相争い、五家の結束は永遠に失われ、和合すること無し。  互いに争い激しい戦火を交え滅びの闇に沈む。  救世を願うは少女。  炎に生まれし、いと聡き娘なり。  少女の選びし答えは世界。  愛しき少年の指先を離し、全ての命の守り手となることを願い  残る全てのオーブをかき抱き、その身を光に変える。  生きとし生けるものの守り手、我らが恩寵の主なり。 ****99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:33:42.59 ID:34eUyEEP ――聖王国、聖堂地下、古代の文書保存庫 奏楽子弟「これ……かな?」 メイド姉「ええ」 奏楽子弟「なんだか、悲しい話だね。  恋をしたのが禁じられた掟のために選べない相手で、  それでも結ばれたいと願ったら世界が壊れちゃうなんて」 メイド姉「……」 奏楽子弟「こんな伝説があるのなら、あんな乱世でも  仕方がないのかな……。  世界を滅ぼした少年の子孫はいつまでもいつまでも  迫害を受けるのかも知れないね……」 メイド姉「本当にそうなんでしょうか?」 奏楽子弟「え?」 メイド姉「少年と少女が掟破りをしたくらいで、  精霊様の五つの家が仲違いなんて初めて  戦争になんかなるんでしょうか?  この話って本当なんでしょうか?」 奏楽子弟「それは判らないけれど……。伝説だし」 メイド姉「そもそも、精霊様は一人です。  少なくともわたしが教わってきた精霊様は光の精霊様一人で」 奏楽子弟「それは、この炎の精霊が最後に光になって……」 カツン、コロコロ メイド姉「あ」 奏楽子弟「同じ筒に撒いてあったみたいだね。それは?」 ****101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:36:39.42 ID:34eUyEEP メイド姉「いえ、何でしょう。  古い受領書? 契約、でしょうか」 奏楽子弟「神殿かな」 メイド姉「建築みたいですね。四代目“琥珀の焔”と  大主教の……転移門?」 さぁぁぁぁあ!! 奏楽子弟「なっ」 メイド姉「青い……水っ!?」 奏楽子弟「うううん、濡れてない。これ、何っ!?」 メイド姉「わたしにも何が何だか」 さぁぁぁぁあ!! 奏楽子弟(やだっ。真っ青で……。溺れそうっ) メイド姉「こんなっ……」 さぁぁぁぁあ!! 奏楽子弟「金色の砂……海鳴りの降る……」 メイド姉(……なんだろう、この光っ) 奏楽子弟「メイド姉さん、手をっ」 メイド姉「え? はっ、はいっ」 チリン…… ****103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:47:59.25 ID:34eUyEEP ――光に満たされた夢 光の精霊「……よ」 女魔法使い「……ん」 光の精霊「……ゆ……よ」 女魔法使い「……やっと呼ばれた」 光の精霊「……ゃよ」 女魔法使い「……手、ある。足、ある。……身体は揃ってる。  勇者から聞いていたとおり。これが精霊の夢」 光の精霊「……しゃよ」 女魔法使い「……なに?」 光の精霊「……勇者よ」 女魔法使い「違う」 光の精霊「……勇者よ。……救ってください」 女魔法使い「……」 光の精霊「……勇者よ。……この世界を……」 女魔法使い「……」 光の精霊「……勇者よ。……この」 女魔法使い「いいかげんにせぇよっ」 光の精霊「……勇者よ」 女魔法使い「じゃかしいわぁっ!!」 ドグワッシャァーーン!!! ****106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00:50:35.91 ID:34eUyEEP 光の精霊「……ゆ……ゆ……ゆ」 女魔法使い「哀れを誘う声でぴぃぴぃ泣きくさって  勇者の優しさにつけ込んだかぁ、このへたれっ!  お前のその執着がっ。  勇者を苦しめていると何故思わんっ!」 光の精霊「……この世界……を  か弱き……罪なき……人々……を……」 女魔法使い「万巻の伝承をひもとき、  ようやくたどり着いたこの光の夢で  よもやこんな泣き言を聞かされようとは思わなかったっ。   精霊――っ!!  確かに世界はあんたに救われたけど、  それって本当に救うべきだったんかっ!?  救うべきでないものを救ったん違うかっ!?  あんたの愛は正しいと保証できるんかっ。   あたしは……。  多分勇者の隣に立つことはないけれど  勇者を想う気持ちで、――っ。  あんたに負けるなんて夢にも思いつかんっ。   来るだけ無駄だったけれど、一個だけ云っておく。  この天地が砕け散ろうと、絶対にっ。  絶対にあんたの思い通りにはさせんからなっ」 光の精霊「……救って……この……昏い世界を……」 女魔法使い「……それが」ふぅ 女魔法使い「……お節介だというのです」 ****201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 19:20:39.77 ID:34eUyEEP ――氷の国、外れの交易村 開拓民「止まれ~!! 誰かそいつを止めてくれぇ!! 器用な少年「止まれと云われて止まる馬鹿がいるかよぅ」 開拓民「そいつは泥棒だぁ!! 誰かぁ!」 器用な少年「ははっ! 追いつけるもんなら追いついてみなぁ!  へっへーんだ。こちとら食ってないんだ最軽量だぜぇ!」 メイド妹「えい」ひょい 器用な少年「え?」 グルグルグル、ズッデーーン!! 器用な少年「何しやがるんだ、この雌ガキっ!!」 メイド妹「泥棒はいけないことだよっ?」 器用な少年「うるせぇ!!  だったら死ねって云うのかよっ!  こっちは命がけで食ってるんだよっ!」 タッタッタッ 開拓民「捕まえてくれぇ~」 器用な少年「来やがったな! 邪魔すんな、あっち行けドブスっ!」 貴族子弟「おやおや。淑女――の卵になんて口を聞くんですか」 ****202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 19:23:39.95 ID:34eUyEEP 器用な少年「邪魔すんなよ、洒落者の旦那。  ってか、あんたも財布をおいていくか?」チャキッ 貴族子弟「そんなちっぽけなナイフで何をするんです?」 メイド妹「ううっ。貴族のお兄ちゃん」 器用な少年「はんっ! でかい口聞くなよっ」 貴族子弟「エレガントさが足りませんよ、君」 ヒュバッ!! 器用な少年「え?」 メイド妹「ひゃっ!!」 器用な少年「あ、あ、ああっ!!」じたばたっ 貴族子弟「早くその下半身を隠しなさい。むさ苦しい」 器用な少年「お、お前が切ったんじゃねぇか」 貴族子弟「えい」 ぼくっ 器用な少年「#’〒☆♭()ッ!!!」 貴族子弟「つまらぬ物を蹴ってしまった」 メイド妹「泡吐いてるよ? この子」 開拓民「はぁっ! はぁっ! き、貴族様でしたか。  ありがとうございます!! こいつは泥棒なんですよっ!」 貴族子弟「いえいえ、こっちの都合もありますからね。  このあたりに詳しそうな道案内が一人欲しかったんです」 ****206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/27(日) 19:46:18.11 ID:34eUyEEP ――鉄の国、王宮、大広間 鉄腕王「……そんな訳で、魔族との一端の交戦は  我が国守備部隊により、峠道において回避された。  だが、我が鉄の国と白夜の国は山と大河を隔てて  長い国境線を接している。  人も通わぬような辺境地帯を抜けて、  今も魔族の侵攻が進んでいると見て間違いないだろう」 氷雪の女王「……」 女騎士「鉄の国の軍備はどうなのだ?」 鉄腕王「数字だけで云えば6万に迫る数だが、  その多くは開拓民や難民など、名ばかりの軍人に  過ぎないし、訓練らしい訓練など、まだやっと手をつけたばかり。  戦場に出せる数は、全てかき集めても1万がやっとだろうな」 氷雪の女王「我が氷の国は3000と云ったところ」 冬国士官「冬の国は7500が良いところでしょう」 冬寂王「それでも、三年前に比べれば倍にも増えているが」 鉄腕王「だが、どの国も急激にふくれあがった人口の治安維持や  国境警備に必要な部隊もあろう。  それらを差し引くならば、動員したとしても三ヶ国合わせて  半数の1万に届くか、届かぬか」 氷雪の女王「問題は、魔族の軍勢がどの程度いるかですが……」 冬寂王「我が手の者の情報に寄れば、  今回魔界から突如侵攻してきた魔族は、  蒼魔族と呼ばれる魔界でも随一の過激派、  好戦派と云える部族だそうだ。  率いるは刻印王とよばれる若き王で前王を抹殺の上、  軍を掌握し、その精鋭を率いて人間界へ流れ込んできた。  その数は2万と5千」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[<前7-6へ>7-6]]|[[次8-2へ>>8-2]]} ----

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