7-6

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#center(){[[<前7-5へ>7-5]]|[[次8スレ目へ>>8-1]]} ---- **魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」7-6 ---- ****829 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 20:16:21.74 ID:W1zfwn6P ――紋様族の館、果樹園 猫目の急使「長っ!! 長っ!!」 紋様族の長「何事です?」 猫目の急使「蒼魔族が動きましたっ!」 紋様族の長「っ!!」 猫目の急使「その数は、約二万五千っ! 氏族全てでは  ありませんが、おそらく戦いうる全ての成人戦士と  大型の眷属を引き連れ進軍中。  帰途ほどではありませんがその速度はかなりのものになります。  蒼魔族の領土内を静粛に進めていたため、発見が遅れ、  感知した時はすでに領土の境界付近でしたっ」 紋様族の長「かまわんっ! 行く先は?  鬼呼族の領土か、無人荒野、まさか火竜山脈か?  それとも、開門都市を狙う腹づもりかっ!?」 猫目の急使「そのいずれでもありませぬっ」 紋様族の長「言えッ!」 猫目の急使「蒼魔族の目的地は、おそらくゲート跡地!  大空洞と呼ばれ始めた通路、すなわちっ!」 紋様族の長「……」ぎりっ 猫目の急使「人間界ですっ!!!」 ****834 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 20:25:58.86 ID:W1zfwn6P ――白夜国首都、白亜の凍結宮 白夜王「ヒィィギィ!? ギヒィィ!!」 近衛兵「護れ! 王を護るのだっ!」 人間衛兵「せやぁぁ!!」 人間衛兵「さ、下がれ魔族っ!!」 蒼魔の刻印王「ふぅむ。なにをしている?  そのようなことをするとお前達の王とやらに」 ザシュゥ! 蒼魔の刻印王「当たってしまうぞ?」 白夜王「ヒギっ! ギャァァァッ!」 蒼魔上級将軍「はははっ。絞め殺される豚のように泣きますな」 白夜王「ギャ、ギャァップ! わ、我の腕がっ」 人間衛兵「王よっ!」 人間衛兵「貴様ぁ!!」 蒼魔の刻印王「……“捕縛術”」 ビキィッ!人間衛兵「……ッ!!」 近衛兵「……ぐ!!」 蒼魔上級将軍「滑稽な。手足をもがれた  その様はまさに芋虫のごとき醜態。人間とはこのようなもの」 ****835 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/25(金) 20:27:40.87 ID:W1zfwn6P 蒼魔の刻印王「フハハハッ」 白夜王「や、やめよっ。な、なにが望みなのだ魔族っ!」 蒼魔の刻印王「喋るのを止めよ。お前のような者が同じ言葉を  話すとあっては、羞恥でこの身が焼けそうだ」 白夜王「我はこの国の王なのだ……ガボッ」 人間衛兵「……ッ!!」 蒼魔の刻印王「そら、お前の手だぞ?  片方ではバランスが悪いか? なるほど、人間も王となると  知恵が回るな。その方の言い分、よく判る」 ザシュ 白夜王「~ッ!! ~ッ!! グブゥ!!」 蒼魔の刻印王「ははははっ! これで両側の重さが釣り合うな!  いい顔色だぞ、王よ。……芋虫だったかな?」 蒼魔上級将軍「あはははは」 白夜王「~ッ!!」 蒼魔の刻印王「随分色白になったではないか暖めてやろう  ほんの少しだけだ。安心しろ。……“燐焔招来術”」 ゴウゥウン!! 白夜王「~ッ!! グブッ! ギャァァアアアア!!!」 蒼魔の刻印王「良いぞ、王よ。必死になれば  踊りも出来るではないかっ! まるで弾けるマメのようだっ!」 ****836 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 20:29:00.62 ID:W1zfwn6P カッカッカッ! バタン! 蒼魔騎兵「上級将軍っ! 城内の反抗勢力の掃討、  終了いたしましたっ!」 蒼魔上級将軍「続いて都市制圧に合流せよ!  人間どもは建物に押し込めろ。後で奴隷にする大事な財産だ。  ただし反抗するのならかまわん。見せしめとして処刑せよ!」 蒼魔騎兵「ハッ!」 蒼魔の刻印王「ふんっ」 蒼魔上級将軍「どうされました? 刻印王よ」 蒼魔の刻印王「退屈だ。人間とはこんなにも弱いのか」 蒼魔上級将軍「もっとも弱い部分を着くのが  戦の常道ではありませんか」 蒼魔の刻印王「ふむ。それもそうだな。  ……ここは人間界。得物はいくらでもいるのであったな。  まずは足場を整え、それからゆるり、という具合にゆくか」 蒼魔上級将軍「はっ」 蒼魔の刻印王「協約の相手は?」 蒼魔上級将軍「地上界最大の氏族、聖王国と、  その背後にある教会組織でございます」 蒼魔の刻印王「今しばらく一般兵には伏せよ。死にものぐるいに  なって貰えば、戦の展開が楽というものだ」 蒼魔上級将軍「はっ」 蒼魔の刻印王「隣国は鉄の国と云ったな?  この国の掌握が終わり次第、時を移さず攻略に移るぞっ」 蒼魔上級将軍「御意にございますっ」 ****924 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:12:40.92 ID:pLtZgbkP ――椚の国、街道沿いの農地 奏楽子弟「……ひどいね」 メイド姉「ええ」 ぎゃぁっ! ぎゃぁっ! 奏楽子弟「鴉があんなに。あれは……」 メイド姉「荼毘です」 奏楽子弟「え?」 メイド姉「葬儀通報人が立っていませんから、  おそらく農奴なのでしょう……。 家族だけで葬っているんです」 奏楽子弟「農奴って?」 メイド姉「農作業を行わせるための、奴隷に似た存在ですね」 奏楽子弟「この世界は奴隷がいるのっ!?」 メイド姉「そうです。……今まで通ってきた村や畑にいた  殆どの人間がそうですよ? 事に北のほうでは開拓民が  少ないですから、余計に割合が多いんです」 奏楽子弟「……っ」 メイド姉「怒らないでください。詩人さん」 奏楽子弟「なんで……っ」 メイド姉「怒ってもあの人達は救われない。  わたし達は誰も幸せにならないんですから」 ****926 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:14:38.60 ID:pLtZgbkP 奏楽子弟「でもっ」 メイド姉「怒っちゃダメですよ」 奏楽子弟「……」 メイド姉「わたしも農奴の家に生まれて、農奴でした」 奏楽子弟「え?」 メイド姉「わたしと妹は逃げ出して、運が良く……  本当に奇跡に近いほど恵まれた幸運で、  助けてくれる当主様に拾われました。  当主様の家で仕事を覚え、読み書きや算術も教えて頂きました。  わたしの生まれは、本当はとても卑しいんです。  お父さんもお爺ちゃんも名字なんてありません。  わたしが名乗ってるのだって、当主様がくれた名前ですもの」 奏楽子弟「……」 メイド姉「詩人さんが怒ってくれているのは  わたしや他のみんなのため。  代わりに怒ってくれているんですよね。  それは嬉しいのですが、多くの人々にはそれも判らないんですよ。  農奴って云うのはやはり奴隷だって事や  それがどんなに悲しいことか判らないんです。  だって生まれた時から農奴なんですから。  それ以外のことを何にも知らないで過ごしてきたんですから」 奏楽子弟「そんなの、ないよ……」 メイド姉「でも、現実はそうなんです」 奏楽子弟「……」 ****927 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/26(土) 14:16:23.11 ID:pLtZgbkP メイド姉「泣きそうな顔をしないで下さい」 奏楽子弟「うん……」 メイド姉「詩人さん」 奏楽子弟「ん……」 メイド姉「歩きながら歌える、格好良い曲を教えてくださいよ」 奏楽子弟「……どうして?」 メイド姉「せっかく旅の道連れになったんですもの。  歌の一つや二つは覚えたいです。  それに、この人達は本当に日々の楽しみがないんです。  どうせなら悲しい曲じゃなくて、逞しい歌がよいです」 奏楽子弟「うん……」 メイド姉「怒る代わりに、彼らに一曲プレゼントしてください」 奏楽子弟「わかった。――これはね。  獣……を使うのが上手な、荒野の戦士の一族の、  お酒の歌なんだよ。  暴れ者のくせに涙もろい連中の歌なの。   ~♪  酒をめぐりて相逢へる  親しき友のよろこびと  恋され恋する若人の  互いに寄り添ふよろこびよ。  ああ、あまつさへ時は春、  華の王なる春なれば  花は紅、葉は緑、  世はいみじくも薫りたり。  いざ奮ひたて、すこやかに、  葡萄の酒を乾す者よ、  今ぞこの地は天の国  香も馨はしき水の流るる」 ****928 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:17:58.21 ID:pLtZgbkP メイド姉「花は紅、葉は緑――」 奏楽子弟「うん」 メイド姉「素敵な歌ですね。わたしは大好きです。  大地は、こんなにも綺麗ですもの」 奏楽子弟「酔っぱらった良い大人がわんわん泣いたりしてね」 メイド姉「ふふふっ」 奏楽子弟「春なのにね」 メイド姉「ここはなかなかに貧しいところなんです。  春には小麦が収穫できるはずですが、  今年はさほど出来が悪かったわけでもないのに、  様々な要因で一向に値段が下がりません。   今はよいです。  春ですから、最悪森に入ればキノコでも野草でもありますし、  キャベツやにんじん、豆もあります。  でも、食料を保存しなければ飢える秋までこのままだと  この冬は多くの餓死者が出るかも知れませんね」 奏楽子弟「……なんだか、辛いね」 メイド姉「ええ」 奏楽子弟「何でこんなに辛いのかな」 メイド姉「……」 奏楽子弟(何でわたしはこんなに胸の内が、  どろどろでぐつぐつとしているんだろう……) メイド姉「市門が見えてきましたよ」 ****930 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:34:59.07 ID:pLtZgbkP ――椚の国、街道沿いの中都市 門衛「騒ぎはおこすなよ」 奏楽子弟「はい、もちろん」にこっ メイド姉「ありがとうございます」 とっとっと…… メイド姉 じぃっ 奏楽子弟「どうしたんだ?」 メイド姉「いえ、こう言う時は本当に  旅慣れていらっしゃるな、と思って」 奏楽子弟「あ、それはね。  そりゃこの地方の知識は少ないけれど、  詩人と云えば旅だよ。旅歩いて詩想をえないと。  だから馴れてるのよ」 メイド姉「そうですよね」にこっ 奏楽子弟「今晩はこの街で?」 メイド姉「えーっと。まだ昼前ですよね。  少しお金を稼ぎたいと思うんですけれど……」 奏楽子弟「どうやって?」 メイド姉「代書をしようかと思います」 奏楽子弟「代書って何?」 メイド姉「代わりに書くんですよ。……文字を書ける人は  あんまりいませんからね。それから、文字を書くついでに  相談事にも乗ります」 ****931 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:40:14.09 ID:pLtZgbkP 奏楽子弟「相談事って?」 メイド姉「代書屋が書くのは主に手紙や書類なんですけれど  そういうのって、普段みんなの生活にはあまり縁が  深くないんです。  たとえば、領主様へのお願い事を書面で出したい時に、  もちろんお願いしたいことは  依頼してくる人が考えるんですけれど、  どうやって書けばお願いを聞いてくれそうか  相談に乗ったりするんですよ。   息子さんが兵隊で、遠くからやってきた手紙を読んで欲しい  おばあさんと、返事の内容を考えたり。   時には浪漫的な恋文の代筆をしたりもします」 奏楽子弟「そういうのは、わたしも得意ね!」 メイド姉「そう言う時には一緒に書きましょう」 奏楽子弟「そうだね! でも、代書って随分いろんな  専門的な知識がいるのではないの? 良くできるね」 メイド姉「なんとなく。あはっ。旅に出てから覚えたんです」 奏楽子弟「そっか。でも、出来るなら良いよね。  それってどうやればいいの?」 メイド姉「どこかで教会を探して、  その敷地内でやらせて貰うんですよ。  ……ああ、あそこに見えますね。ほどよい大きさの教会です」 奏楽子弟「あんまり大きくないけれど、良いの?」 メイド姉「大きすぎると、この街に住んでいる代書屋の人と  仕事がかち合ってしまいますからね。  あれくらいが丁度良いと思います」 奏楽子弟「ふぅん」 ****932 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:41:43.33 ID:pLtZgbkP さくっ、さくっ メイド姉「済みません、この教会の方ですか?」 助祭「はい、そうですが」 メイド姉「わたしは旅の学者でして。はじめまして。  この教会で礼拝させて頂くと共に、  心細くなった路銀を稼ぐために、  今から夕刻までの間、しばらくここの敷地で  代書をさせて頂きたいと考えています。  こちらはわたしの連れで、旅の吟遊詩人」 奏楽子弟 ぺこり 助祭「これはお美しい二人連れですね。  わかりました、精霊の庭はいつも開かれています」 メイド姉「ありがとうございます。これは少ないですが  心ばかりの喜捨、感謝の印です」 チャリンチャリン…… 助祭「ほほう。感心ですね!  あちらに古いですが頑丈な木挽きテーブルがあります。  そちらでなさられると良いでしょう」 メイド姉「ありがとうございます」ぺこり 助祭「そちらの方は……」 奏楽子弟「はい?」 助祭「見かけない髪の色ですね。それにどことなく……」 ****934 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:51:56.63 ID:pLtZgbkP メイド姉「彼女は遠く東南から旅をしてきたんですよ。  深い森の中で歌と踊りをこよなく愛する民の出身なんです。  えっと……森ガ族でしたよね?」 奏楽子弟 こくこく 助祭「そうですか。……ふむ」 メイド姉「旅の途中で彷徨う我らは、信仰に迷った子羊と同じ。  精霊様の慈悲は、遠方の者であるほどに暖かく  照らしてくださると信じます」ぺこり 助祭「……まぁ、良いでしょう。しっかり励んでくださいね」 メイド姉「重ねてお礼を申し上げます」 さくっ、さくっ 奏楽子弟「えっと、その……さ」 メイド姉「はい?」 奏楽子弟「よくまぁ、あれだけと都合良い言葉がつるつると。  役者に向いてるかも知れないよ? メイド姉は」 メイド姉「あはっ。……わたしの兄弟子の一人が  ものすごい洒落者でして。彼に教えて貰ったんですよ」 奏楽子弟「ふぅん。弟子?」 メイド姉「ああ。当主様は、教師をしていたんです。  拾って頂いたお屋敷ではたらきながら、ほんのちょっぴり  色んな事を教わったんですよ」 奏楽子弟「そっか……。どこかで聞いたような話」 メイド姉「そうなんですか?」 ****933 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 14:45:47.85 ID:pLtZgbkP 奏楽子弟「さっきの、森ガ族って……」 メイド姉「ああ。ちょっぴり嘘をついてしまいました。  後で精霊様にお詫びしなければなりませんね。  でも、ひとを出身地で判断したり、  見かけで決めつけたりするのは良くないことですよ。  精霊様だって判ってくれます。   詩人さんは、髪の毛の色が素敵な金枯れ葉色だし  お耳がちょっぴり長くて異国風ですからね。  きっとビックリしてしまっただけですよ。   気にすることはありません」 奏楽子弟「あのさ。もしかして、メイド姉は……  わたしが……その」 ザクっ 老婆の市民「代書を頼んでもよいかね?」 メイド姉「あ。早速お客さんです」 奏楽子弟「わたしは何をすればいい?」 メイド姉「お客さんの呼び込みです。静かで、落ち着いて  リラックスできるような楽曲を  そちらで休みながら奏でてくれれば」 奏楽子弟「わかったよ」 メイド姉「頑張りましょう!」 ****938 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 15:08:25.00 ID:pLtZgbkP ――大空洞建築現場、作業所 土木子弟「現場はどうだ?」 人魔族作業員「6番までは無事です!」 人夫「7番の橋は、手すりが一部破損」 巨人の作業員「石橋は……予備石が……くずされた」 土木子弟「けが人とかは?」 人魔族作業員「今、宿舎で手当をしているけれど、  転んで頭を打ったり、手を切ったり程度で問題はなさそうです」 人夫「ありがたかったな」 巨人の作業員「おう……」 土木子弟「うん、報せに飛んできてくれた妖精族のお陰だ」 人魔族作業員「でも、橋は無事ですけれど、  現場はめちゃくちゃですね」 人夫「これだけの軍団が通る想定の道じゃないから」 巨人の作業員「まだ……完成もして……なかった」 土木子弟「よーし! 全員撤収だ!!」 人魔族作業員「え?」 人夫「まだまだ陽は高いですよ!?」 ****939 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/26(土) 15:11:31.67 ID:pLtZgbkP 土木子弟「作業は明日からだ!  どっちにしろ、多分この報せは街にも届いている。  中年商人さんは飛んでくる。  飯も持ってきてくれるさ。  こう言う時には、腐った気分が敵だ!」 人魔族作業員「は、はいっ」 土木子弟「宿舎に戻るぞ。今日の夜飯は外で食おう。  大鍋一杯に、馬鈴薯汁を作ろう。肉も野菜もたっぷり入れてな。  今日は一人三杯までの酒を支給するぞー」 人夫「おおー! 太っ腹だ、大将!」 巨人の作業員「わかった……おら、うれしぃな!」 土木子弟「よーし。手分けをして、そこらの手荷物だけ  持って帰ろう。怪我した連中へ見舞いもするぞ」 人魔族作業員「わかりました!」 人夫「がってんだ!」 巨人の作業員「おらぁ、荷車……もってくる」 タッタッタ、ダッダッダ、ドスドス 土木子弟(ふぅ……。気持ちが落ち込まなきゃ、  身体はまだまだ動く。明日は一日片付けにあてて、  それから作業再開だ。一気に石橋をかけ終えるぞ) 土木子弟(それにしても。宴会か……。  なぁ、奏楽子弟。お前、今何をしてるんだ?) ****941 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 15:34:04.60 ID:pLtZgbkP ――冬の王宮、執務室 冬寂王「なんだとっ!? まさか、一夜にして……っ」 将官「そんなっ……」 伝令「白夜城、陥落との報せですっ」 どさっ 冬寂王「判った、下がれ」 伝令「はっ!」 だっだっだっ 冬寂王「……」 将官「冬寂王、至急鉄の国、氷の国へ連絡を。  三ヶ国通商の守りを固めなければっ」 冬寂王「それでは遅い」 将官「え?」 冬寂王「軍使っ! 早馬を引けっ!」 軍使「はっ!」 冬寂王「冬越し村へ使者を派遣! 当主にお伝えしてくれ。  白夜の国、その城が魔族の攻撃により陥落、と。  それだけであの方は理解し、動いてくれる」 冬寂王「将官っ!」 ****942 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 15:35:59.30 ID:pLtZgbkP 将官「はっ!」 冬寂王「わたしは騎兵150を率いて出るっ。  行き先は鉄の国、王宮っ。  以降、三ヶ国通商会議の本部は鉄の国に移す。  この状況下で、戦場と本部の距離を開けすぎるのは致命的だ。  時間のロスがそのまま敗北につながりかねん。  その方は至急軍をとりまとめよ、領内の巡回衛視を再編成し、  監視と巡回をなるべく減らさずに、歩兵1500を抽出せよ」 将官「はっ!」 冬寂王「抽出、集合が終わり次第、鉄の国へと向けて出発。  どれくらい掛かるっ?」 将官「三日後には出発できるかと」 冬寂王「急げよ。季節は春だ。装備は軽くなるだろう。  輜重部隊の編制を商人子弟に一任せよ。  歩兵部隊は最低限の糧食を携帯し速度重視で鉄の国へと入れ。  伝令を目的として少数の騎馬部隊を編制するのも忘れるな」 将官「承りましたっ」 冬寂王「我は鉄の国へと向かう。  連絡、編制、万事抜かるなっ!」 将官「はっ!」 軍使「了解いたしましたっ!」 冬寂王「魔族……。どのような符号なのだ、これは」 ****961 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:29:03.70 ID:pLtZgbkP ――湖の国、首都、『同盟』作戦本部 同盟職員「作戦開始、ですか?」 同盟職員娘「本部職員揃っています」 留守部長「ああ」 同盟職員「次なる目標は」 留守部長「今度は静粛さが必要だ」 同盟職員娘「鉄、ですか」 同盟職員「最近相場が上がっていますね」 留守部長「おそらく中央、聖王国が戦争準備として  武器の買い付けを始めている。その動脈を押さえる」 同盟職員娘「そうなると、資金が……」 留守部長「委員会から予算が出ているよ。  ……おおよそ4500万を予算とする」 同盟職員娘「麦に比べれば小規模ですね」 同盟職員「そもそも鉄自体が効果で流通量が少ないからな」 留守部長「それと同時に石炭を押さえる」 同盟職員娘「あんな代替え燃料ですか? 木炭じゃないんですか?」 ****963 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:30:18.37 ID:pLtZgbkP 留守部長「いや、これも委員会からの指示だ」 同盟職員娘「どうやら何か嗅ぎつけてるみたいですね」 同盟職員「情報、取ってみます」 留守部長「早馬を使えよ」 同盟職員「はいっ」 留守部長「石炭につけては採鉱権を勅書の形で押さえ  足止めをかけてゆけ。交渉担当を北方に回せ」 同盟職員娘「了解」 ガチャッ。タッタッタッ 同盟職員「戦争、起きますかね」ポツリ 留守部長「だろうな」 同盟職員「俺たちには止めることは出来ないすか」 留守部長「戦争ってのは、同意が必要ない。  つまり、片方が、自分以外を殴りつければ戦争だ。  参加者の中に一人でも戦争をしたいやつが存在すれば  戦争は起きる。元から非対称な行為なんだよ」 同盟職員「はい」 留守部長「俺としちゃあ、あの若い委員様は結構気に入ってる。  無理なのは判った上で、それでも諦めないで進むからな。  戦争を止めることそのものよりも  止めようとしてみる、って事はあるいは重要かも知れないぜ」 ****967 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:55:41.17 ID:pLtZgbkP ――楡の国、地方都市、貴族領 弱小貴族「今年の分の税を速やかに納めよっ」 中年騎士「……」 有力地主「それはこちらも云いたいっ。  このような収穫税をとられては、  全ての農奴が飢えて死んでしまうっ」 弱小貴族「不当な税を取り立てたわけではない」 有力地主「しかし、今年のような不作では温情を……」 弱小貴族「だまれっ! 何が不作だ! どの所領でも  多くの小麦、大麦が稲穂をたれていたではないかっ」 有力地主「我が領地にはおいては井戸が涸れ……」 弱小貴族「誰がそのような言葉を信じるっ。」 中年騎士「ははっ」 有力地主「……事実でございますっ」 弱小貴族「何を戯れ言を。  貴様は去年の冬にはすでにこの春の小麦を売り払い、  多額の金貨を得ていたのであろう」 有力地主「それは……」 弱小貴族「それを不作であるとはごまかしをするなっ」 有力地主「それでは、先ほどから申し上げるとおり……」 ****968 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:56:38.04 ID:pLtZgbkP 弱小貴族「なんだ? ん」 有力地主「今年分の納税は、作物ではなく金貨で……」 弱小貴族「まぁ、よかろう」 有力地主「そうであるならお支払いできます。  早速金貨1500枚を手配しまして」 弱小貴族「何を言っているのだ? 租税は金貨4700枚であろう?」 有力地主「は?」 弱小貴族「4700枚だろう? この書状にあるとおり」 有力地主「しかし、それは旧金貨ではありませんか。  新金貨はご存じの通り、旧金貨3枚分の価値があり……」 弱小貴族「そのようなことは話しておらぬ。  新旧など、どこの証書に書いてある。  布告どおりお前の持つ土地の面積における租税は  “金貨にして4700枚”だ」 有力地主「領主殿は我らが農民に死ねと仰るかっ!」 弱小貴族「都合の良い時だけ弱者面するでないわっ!」ダムンッ 有力地主「そのようなことを仰られても、  税が足りなければ中央に送るまいないにも事欠きますぞ?  我らは結局一蓮托生。払う意志はあるのです、  ただその額を再考願いたいと……」 弱小貴族「くどいっ」 ジャキッ!! 有力地主「ヒィッ!」 ****969 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 17:59:10.84 ID:pLtZgbkP 中年騎士「領主どの、お待ちあれ」 弱小貴族「ちっ」 中年騎士「このような輩、斬り殺したところで何にもなりませぬ」 有力地主「ひぃっ。騎士殿、お助けをっ!」 弱小貴族「ならばなんとするっ」 中年騎士「このような状況は、友領でも聞くところ。  解決する方法は、もはや一つしかないと存じます」 弱小貴族「……それは?」 中年騎士「侵攻です。海岸線沿いに冬の国へと入り略奪を行う」 弱小貴族「それでは野盗ではないかっ!」 中年騎士「野盗にやらせれば宜しい。  我々はそれを黙認して、上がりを得る。  これは盗みではない。私掠です。  野盗ではなく、私掠団と名付けるべきかと考えます」 有力地主「それならば……」 弱小貴族「ふむ」 有力地主「わたし達の土地にも、多くはありませんが野盗が  出没します。彼らを手懐け、その騎馬が背教者の国へ向き  その上なお儲かるということであれば……。  彼らの武装などに関しては援助しても良いかと」 弱小貴族「ふむ。一考の価値がありそうだな。  話をつけられそうか?」 中年騎士「早速、無法者の一団に渡りをつけましょう」 ****979 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 18:44:17.34 ID:pLtZgbkP ――聖王都、辺境の村、村はずれの小屋、深夜 メイド姉「……」 奏楽子弟「ん……ぅ……」 奏楽子弟(ううっ。うにゅ……。まだ……深夜?) メイド姉「……」 奏楽子弟(メイド姉さんってば起きてるのかな……) メイド姉「……くっ」ぽろり 奏楽子弟(泣いてるの……? メイド姉「……。っく……。……ううっ」ぽろぽろ 奏楽子弟(なんで……?) メイド姉「……ごめん……なさ。……わたしも……おなじなのに」 奏楽子弟(……) メイド姉「……っく。……むしは、だめ。足で、手で……。  這ってでも……。だって、止まっちゃだめだから……」 奏楽子弟(……メイド姉さん) ****980 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 18:46:10.20 ID:pLtZgbkP ――聖王国辺境、秘密の場所、光の子の村 光の軍兵少尉「行軍はじめっ!」  ザッザッザッ!! 光の軍兵少尉「構えっ!」  ジャギッ! 壮年農奴兵士「……ん」 少年農奴兵士「よしっ」 光の軍兵少尉「撃てぇ!」 スダン! ダン! ズダダーン!! 光の軍兵少尉「下がれっ! 清掃と、装填急げっ!」 聖王国将官「どうだ?」 光の軍兵少尉「はっ。順調に訓練は進めておりますっ」 聖王国将官「結果は出ているか?」 光の軍兵少尉「行軍訓練では、一日4里を目標にしております」 聖王国将官「ふむ」 光の軍兵少尉「いかがでしょう」 聖王国将官「もう少し鍛えてみよう。  通常速度としては問題ないが、  戦場では速度が死命を決することもある。  重装備をさせて8里を二日連続で課してみよ」 ****981 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 18:49:22.69 ID:pLtZgbkP 光の軍兵少尉「はっ。達成できない場合は死罰を?」 聖王国将官「いいや、これは訓練だ。  しかし、中隊編制において目標を達成できた隊には  2日の休暇を与えよ。  一度最大距離記録を作らせておけば、  いざという時のよりどころにもなるだろうさ」 光の軍兵少尉「拝命いたしましたっ」 聖王国将官「射撃訓練のほうはどうだ」 光の軍兵少尉「はっ。こちらはそのぅ」 聖王国将官「問題でもあるのか」 光の軍兵少尉「支給されるブラックパウダーの量がきびしく」 聖王国将官「予想はされていたが……」 光の軍兵少尉「整備訓練などの時間は取れるのですが、  実際の整備もやはり発砲直後に行われるわけですし、  今少しのパウダー支給を上申したく思います」 聖王国将官「わかった。約束は出来ぬが、諮ってみよう」 光の軍兵少尉「ご厚情に感謝いたしますっ」 聖王国将官「おい」 光の軍兵少尉「はっ?」 聖王国将官「この村はこの近郊では、一番の成績を上げている。  そう言って、夕食に少し色をつけてやれ。実際成績は良い。  農奴達に光の使徒としてのプライドを持たせないとな」 光の軍兵少尉「はっ! ますます一層励むでありましょう」ビシッ ****986 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 19:24:18.51 ID:pLtZgbkP ――鉄の国国境付近峠 斥候「接近中! 騎兵約2000!」 軍人子弟「2000……」 鉄国少尉「少ないですね」 軍人子弟「情報に寄れば、白夜城を攻略した魔族は総数約3万弱。  目撃に寄れば十分な騎兵を備えていたとも聞くでござる。  2000とはいかにも少ないでござるが……」 鉄国少尉「しかし、我らにとっては好都合ではないですか」 軍人子弟「……」 鉄国少尉「どうされました?」 軍人子弟「距離は? どれくらいで会敵するでござる?」 斥候「峠二つをはさんでいます。およそ5時間後には!」 軍人子弟「他の防衛戦にも変事、襲撃の確認をっ!」 鉄国伝令「はっ!」 斥候「斥候に戻りますっ」 軍人子弟「頼んだでござるよ」 鉄国少尉「……」 軍人子弟「これは、おそらく威力偵察でござるね」 鉄国少尉「威力偵察?」 軍人子弟「意図的に小規模な交戦を行い、  敵の能力や装備、戦術の情報を収集する手法でござるよ。  一晩で白夜城を陥落させたとの情報でござったが、  どうやら油断や思い上がりはしてくれていないようでござるね」 ****987 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 19:25:57.84 ID:pLtZgbkP 鉄国少尉「と、なるとあの部隊は被害を押さえて?」 軍人子弟「退くでござろうね。  もっとも魔族の云うところの“被害を押さえる”が  我らで云うところの殲滅戦に匹敵する可能性も、  ないではないでござるが」 鉄国少尉「5時間ですか……」 軍人子弟「そこまでの時はないでござろう」 鉄国少尉「……」 軍人子弟「投石機は?」 鉄国少尉「そりゃ、一個二個は持ってきてあるはずですが」 軍人子弟「投石機準備っ!」鉄国少尉「こんな峠でつかったら崖崩れの恐れもありますよ!?」 軍人子弟「かまわんでござるよ。我が国の軍は  世界一道路を作り馴れているでござろう?」 鉄国少尉「そんなところばっかり優れていてもなぁ」 鉄国兵士「準備できましたっ。どちらへ運びますか?」 軍人子弟「前へ押し出すでござる。目標は右の崖!  崩しても構わんでござる。林ごと埋め立ててしまうつもりで  準備でき次第投石開始!」 鉄国兵士「はっ!」 鉄国少尉「荒っぽい守りですね」 軍人子弟「こちらの覚悟をみせるでござる。  今回の戦、白夜国の全土が魔族の手に落ちた以上、  このような国境では決着がつく事はあり得ないでござる。  小競り合いで兵力を消耗するは愚策でござるよ」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[<前7-5へ>7-5]]|[[次8スレ目へ>>8-1]]} ----

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