1-1

「1-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

1-1」(2014/05/02 (金) 17:18:19) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

&u(){}&u(){}&u(){}&u(){}&u(){} &u(){}&u(){}&u(){}&u(){}&u(){} &u(){}&u(){}
**魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」1 ---- ****9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 16:50:11.37 ID:s4r1gUtjP 魔王「どーしてもか?」 勇者「アホ云うな。お前のせいでいくつの国が  滅んだと思ってるんだ」 魔王「南の森林皇国のことか?」 勇者「空は黒く染まり、人々は貧困にしずんでいった」 魔王「考え無しに森林伐採して木炭作りまくって  公害で自滅したんだろう」 勇者「公害……?」 魔王「あー。えーっと。そうか、まだ判らないか」 勇者「誤魔化すなっ! 聖王国の大臣憑依だって  魔族の仕業じゃないかっ!」 魔王「欲の皮の突っ張った大臣が政権奪取と  王族の姫君大集合ハーレムを作ろうとして失敗しただけだ。  そもそも逮捕された後に魔族の洗脳とか言い出すのは  人間の悪人の悪い習慣だと思うぞ」 ****10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 16:55:18.10 ID:s4r1gUtjP 勇者「ごまかすのか……許せん……」 魔王「誤魔化してない」 勇者「南部諸王国と戦争はどうなんだ。俺は戦場で  何百という人間が魔族の軍勢に倒されているのを  この目で見てきたんだ」 魔王「それで?」 勇者「は? 人間世界を侵略してきた魔王、貴様を  許しはしない!」 魔王「どちらが侵略したかという点については見解の相違だ。  こちらにはこちらの言い分はあるが、まぁ、戦争してるのは  事実だなー」 勇者「貴様は悪だ」 魔王「じゃぁ、悪でも良いけど。当然私を殺した後には  南部諸王国の王族も全部抹殺して回るんだろうな?」 ****14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 16:59:14.49 ID:s4r1gUtjP 勇者「は? 悪はお前だけだ」 魔王「人間が魔族を殺していないとでも?  魔族は悪で人間が善だって誰が決めたんだ?」 勇者「……っ」 魔王「そこで『俺が法だ!』とか『俺が神だっ!』とか  『俺がガンダムだっ!』とか云えたら、お前も  もうちょっと生きるのが楽なのになぁ……」 勇者「うるさいっ!!」 魔王「勇者は好きだから、この話はやめてやる」 勇者「好きとか云うな」 魔王「この資料を見ろ」 勇者「なんだ、これ……羊皮紙じゃないのか?  薄くて白くてつるつるだ……」 魔王「プリンタ用紙だ。それはどうでもいい。書いてある  ことが重要なんだ」 勇者「……えっと、需要爆発……雇用? 曲線?  消費動向……経済依存率?」 ****16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:06:53.97 ID:s4r1gUtjP 魔王「わかったか?」 勇者「なんだこれは。邪神の儀式か?」 魔王「違う。経済的視点から見た巨大消費市場としての  戦争の効用だ」 勇者「……効用?」 魔王「そうだ」 勇者「戦争に意味なんてあるものかっ。  貴様ら魔族が人間世界を滅ぼすための侵略だ」 魔王「勇者がどーシテもと云うなら、ちゃんと戦ってやる」 勇者「っ」 魔王「話によっては、討たれてやっても良い」 勇者「その首差し出せ」 魔王「だから、半日ほど話を聞け」 勇者「……」 魔王「これは100年ぶりのチャンスなのだ」 ****18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:11:55.79 ID:s4r1gUtjP 勇者「良いだろう、話せ」 魔王「じゃぁ、説明する。手元の資料の一ページ目を」 ぺらっ 勇者「表だ」 魔王「グラフというのだ。……これは中央大陸のこの  50年の消費量と景気を可視化したものだ」 勇者「……え」 魔王「気がついたように、我らが戦争を始めた15年前  から中央大陸の景気は上昇局面に入った」 勇者「……嘘だっ」 魔王「嘘ではない。2ページ目を見るが良い。  こちらには各種統計資料が添付されている」 勇者「戦争で数多くの死者が……」 魔王「戦争を始めてから人間世界の人口は順調に増加を始  めている」 勇者「そんなのは理屈で考えておかしいだろうっ。  戦争で人が死ぬことはあっても、人が増える道理など  あるものかっ」 ****19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:15:50.07 ID:s4r1gUtjP 魔王「まぁ、一般解はそうだな。  しかし、この世界における戦前の常識では違う。  戦前の――まぁ、この戦前は数百年続いたわけだが  世界では、人間の死因は疫病と飢餓だったのだ」 勇者「……」 魔王「この二つは非常に強大な敵で  人間はこの二つを結局500年以上克服できなかった。  人口は増えるどころか、時に疫病が猛威を振るい  国単位で滅亡することも少なくなかった」 勇者「疫病も飢餓も人間には御し得ないものだ。  神が人間に与えた試練と行ってもいい。  魔族の侵略と一緒にするなっ!」 魔王「まぁ、降りかかるについてはそうかも知れないな。  しかし、だから克服できないとか、克服してはいけないと  いうものでもなかろう?」 勇者「それは……」 ****22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:23:52.82 ID:s4r1gUtjP 魔王「現に戦争が開始されてからこれら二つの  原因にする死者は30%まで低下した」 勇者「理由は? ……なぜ?  魔族の暴威を見かねた神の恩寵か」 魔王「私は結構長生きしてるが、神など見たことはないよ。  理由は明白だ。最大の原因は中央大陸危機会議の設立だよ」 勇者「……?」 魔王「つまり、魔族との戦争に対して、人間の王国  連合を組んだからだ」 勇者「それで、なぜ死者が減るんだ……?」 魔王「食料の多い国が少ない国へ送ったり、医療の  進歩した国や農業技術の進歩した国が指導を行なった  からだな」 勇者「それこそ人間の手柄じゃないかっ!」 魔王「その程度のことも魔族と喧嘩しなければ  実行できない人間が大きな事を言ってはいけないよ」 ****25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:31:05.78 ID:s4r1gUtjP 勇者「……」 魔王「そんなに悔しがるな。魔族だって大差は  ない事情だった」 勇者「そう……なのか……?」 魔王「戦国だったからな。地方豪族や領主が次々と  王を名乗っては一族郎党血まみれの戦いを送っていた」 勇者「……」 魔王「まぁ、そんな事情で、戦争は人間と魔族を救った」 勇者「……」 魔王「そんなに唇をかむな。血が出てしまうぞ?」 勇者「触るなっ!」 魔王「……君が望まない限り、触れないよ」 勇者「……」 魔王「私の言い分も判ってくれるか?」 勇者「……」 ****27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:35:13.26 ID:s4r1gUtjP 勇者「戦争に意味が……結果的にあったかも知れない」 魔王「そう言ってもらえるとほっとするよ」 勇者「だが続けて良い理由にはなってない。  始めて良い理由にもなっていない。  お前は戦争犯罪人だ。いますぐ戦争を中止して  戦争犯罪者として法廷に立つんだ」 魔王「んー」 勇者「私利私欲でやった訳じゃないってのは  いまの話で、ちょっとだけ判った。  俺が付き添ってやるから投降しろ」 魔王「それは難しいな」 勇者「なぜだ?」 魔王「理由は二つある。6ページ目の資料を見てくれ」 ぺらり 魔王「ここに消費市場としての『南部諸王国』と  『中央大陸』の物流の関係が記してある」 ****29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:41:53.98 ID:s4r1gUtjP 勇者「物流……?」 魔王「まぁ、早い話、物の流れだ。食べ物や着るものや、  生活用品から武器、鉄、木材に至るまで全てだな」 勇者「これは『南部諸王国』でどんどん使ってるのか?」 魔王「そうだ。戦争は何でも大量に消費されるからな」 勇者「……『南部諸王国』はどうやって支払ってるんだ?」 魔王「ん?」 勇者「だって物を買ったらお金が必要だろう?」 魔王「ああ、良いところに気がついたな。偉いぞ」 勇者「撫でようとするなっ」 魔王「うっかりだ。そう、許可がない限り触れない。  私は契約を重視するタイプなのだ」 勇者「どうやって購入してるんだよ」 魔王「中央大陸危機会議決議による、戦時支援基金でだ」 勇者「……?」 魔王「わからないか。つまり、全世界が戦争中の  『南部諸王国』に義援金を送ってるんだ」 勇者「そうだったのか!! 人間の善の心に祝福を!  どうだ魔王、これが人間のもつ優しさだ」 ****31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:46:14.18 ID:s4r1gUtjP 魔王「まぁ、そのお金で中央大陸の数多くの国は  自分の国の品物を買ってもらってるんだ。  つまり、お小遣いを上げて自分の店の商品を  買わせているだけさ」 勇者「……?」 魔王「このランクの説明は多少難しいかな。……つまり、  富をため込むってのは『お金持ち』にはなれても  『豊か』にはなれないんだ。  お金を渡して、使ってもらう。物もお金も流れが  よどみなく太いことが豊かなんだよ」 勇者「……難しい」 魔王「まぁ、そう言う物なんだ。  全部を自分でやったりせずに、得意な分野で協力する。  これは理論的に正しいことだ。  麦と塩、木材と鉄を交換することで国も人々の暮らしも  豊かになる」 勇者「それはまぁ、何となく判る。王立広場の市場みたいな  もんだろう?」 魔王「うん、そのとおりだ」 ****33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:49:30.81 ID:s4r1gUtjP 勇者「でも、この場合、違うだろう」 魔王「違うとは?」 勇者「中央大陸の国家は、戦争で疲弊した『南部諸王国』に  善意からお金を送ってるんだ。結果として、その物流?  が良くなったとしても、送ったお金は自分の物じゃないか」 魔王「ふむ」 勇者「つまり特産品同士を交換してるわけじゃない」 魔王「してるんだよ」 勇者「与えているだけじゃないのか?」 魔王「『南部諸王国』は、中央大陸に安全を  輸出しているんだ。つまり、戦争で血を流して  人間世界を防衛することでお金を得ている。  ――見たことがあるんだろう?  人間世界の『全て』が戦火にまみれていたのかい?」 勇者「……」 魔王「新しく発明された馬車、豊かな光、豊富なご馳走  毎晩のように舞踏会を開いている国はなかったかい?  ブドウ畑で酔いしれている貴族はいなかったかい?」 ****35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:53:30.25 ID:s4r1gUtjP 勇者「……それは」 魔王「つまり、そういうことだ。人間社会は  『南部諸王国』の巨大消費と防衛ラインという存在に  現在依存しているんだ」 勇者「い、ぞ……ん?」 魔王「そうだ、頼っている。溺れているというような意味だな」 勇者「でも、大多数の人間は戦う力なんて持っていないんだ。  そのためには、『南部諸王国』の戦士団や騎士団に  守ってもらい、せめて食料を送るしかない。  その何処がいけないって云うんだよっ!!」 魔王「まぁ、感情的にはそれが真実だろう。  そこまで否定したりはしない。  でも同時に、経済的にこの市場が無くなると  人間社会の物流や為替が破滅するのも確かなことだ」 勇者「破滅……?」 魔王「そうさ。その資料にあるだろう? これだけの  巨大消費がなくなったら、中央大陸の生産者は  大ダメージを受ける。特に鉄鋼業や造船業がね。  このダメージは波及して、数十万の死者がでる」 ****36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:56:58.63 ID:s4r1gUtjP 勇者「そんな……」 魔王「まぁ魔王の云うことだから嘘かも知れないけどね」 勇者「嘘なのか?」 魔王「少なくとも私は本気だ。もしかしたら避ける方法が  あるかも知れないけれど、私は知らない」 勇者「……」 魔王「さて、この物流と依存型のいびつな経済構造が  二つの理由のうち、一つだ」 勇者「まだ……あるのか」 魔王「もう一つは比較的簡単に説明できる」 勇者「……」 魔王「説明が簡単なだけで問題が簡単なわけではないが」 勇者「どういう理由なんだ?」 魔王「魔族との大戦争で人間社会は結束した。  物流が改善されて、医療技術もひろまって  疫病と飢餓は少なくなったと云っただろう?」 勇者「ああ、云ってたな」 ****38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:00:13.15 ID:s4r1gUtjP 魔王「アレは説明の半分なんだ。確かに物流が以前よりは  活発になった。以前は国民の半分が餓死するような国の  隣では大豊作の国があり、協力なんてしなかったからね」 勇者「うん……」 魔王「だが、物流が改善されたとはいえ、この世界の  食料生産そのものが劇的に向上した訳じゃない」 勇者「……?」 魔王「判らないのかい? ……つまり、まだ餓死者は  いるんだよ」 勇者「ああ。旅の途中でいくつもの村で、飢えた子供を見たよ」 魔王「そんな世界で、『大戦争による死者』が居なく  なったらどうなる? 長い戦争で剣を振るう以外に  生きる術を知らない何十万人もの人間が中央大陸に  あふれるんだ。彼らは生きているから食料を必要とする。  人間は増えるぞ? ――でも、食料はそこまで増えない。  この世界にはまだ輪作の概念すらないんだ」 勇者「そんな……」 魔王「それが現実なんだ」 ****41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:04:32.19 ID:s4r1gUtjP 勇者「だって、だって」 魔王「だいたい、何で君は1人でここにいるんだ?」 勇者「……へ?」 魔王「腐っても魔王城だぞ。そりゃ警備をくぐり抜けて  こんな所まで来れちゃう君は突然変異というか、  それこそ冗談みたいな奇跡だけど」 勇者「何を言ってるんだ?」 魔王「戦争を終わらせるのは、軍の仕事だろう?  君は勇者じゃないのか?」 勇者「勇者だよっ。それが俺の天命だっ」 魔王「敵の王の命を単身仕留めるのは  暗殺者の仕事じゃないのかい?」 勇者「……っ!?」 魔王「多分ね。……人間の王たちも判っているよ」 魔王「この戦争が終わったら、勝っても負けても  人間は滅びてしまうって」 勇者「……」 魔王「だから君を1人で送り出したんだよ」 ****44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:07:55.85 ID:s4r1gUtjP 勇者「……」 魔王「一方的なことを云ってしまったけれど、それは  魔族の側も事情は一緒でね。知っていると思うけれど  一口に魔族といっても、その内情は様々なんだ。  有角族や飛翼族、鉄蹄族。スライムや遊びコウモリ  なんていう低級なヤツらも沢山いる。  悪戯好きなだけの種族も多いけれど、有力な氏族は  ひどく好戦的だし、種族中心主義だ」 勇者「そうなのか……」 魔王「うん、そうなんだ。  私はね……見ての通り、腕も細いし、ひ弱で華奢だろ?」 勇者「魔法で戦うんじゃないのか?」 魔王「そりゃまぁ、使えるけれど。  大魔法使いというほどじゃない」 勇者「なら、どうして魔王になれたんだ?」 魔王「要領とタイミングと、なんだろう。  ……多分、偶然で」 ****49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:18:08.19 ID:s4r1gUtjP 魔王「私の一族は変わり者が多くて、魔界の端っこで  長年研究をしていてね。私の専門は経済なんだ」 勇者「経済ってなんだ?」 魔王「信じられないなぁ、人間の文明の程度は」 勇者「なんかむかつく」 魔王「魔族も人のことは云えない。  この戦争が終わったら、たとえ魔族の側が  勝ち残ったとしても、前にも増した乱世が始まるよ。  今度は人間の土地を舞台にして、奴隷を奪い合う  恐ろしい時代が幕を開けるだろう。  有力な魔族は人間の王国を次々と勝手に略奪して  それぞれを自分たちの『植民地』と呼ぶ時代だ。  裕福になった戦闘的な氏族は  その富で弱小氏族を従えたり、より大きな戦力を  調えて魔族統一を目指すだろうけれど  いまよりもっと混沌とした魔界はたやすく統一なんか  出来るわけが無くて、いまよりずっと多くの  血が流れるだろうね」 ****52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:22:11.68 ID:s4r1gUtjP 勇者「植民地?」 魔王「他人の土地に攻め込んで支配して、  自分たちの場所であるかのように利益を吸い上げること」 勇者「許されるわけ、無いっ」 魔王「人間が勝ったら魔族の土地に同じ事をするだろうね」 勇者「人間は、そんなことっ」 魔王「……」 勇者「……」 魔王「しないって、云えないだろう?」 勇者「……」 魔王「まぁ、いろんな世界がそうやって滅びていったんだ」 勇者「世界?」 魔王「ああ、それは私たち一族の研究だよ。  気にしないで。でも、私は……」 ****53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:26:43.76 ID:s4r1gUtjP 魔王「私は、まだ見たことがない物が見たいんだ」 勇者「……」 魔王「勇者になら、判るかも知れないと思ったんだよ」 勇者「何を、だよ」 魔王「言葉では言い表せないけれど」 勇者「お前学者なんだろ?」 魔王「学者……? ああ、うん、そんな物だ」 勇者「じゃぁ、説明しろよ」 魔王「うーん、つまり」 勇者「……」 魔王「『あの丘の向こうに何があるんだろう?』って  思ったことはないかい? 『この船の向かう先には  何があるんだろう?』ってワクワクした覚えは?」 勇者「そりゃ……あるけど。わりと、沢山」 魔王「そうだろう? 勇者だものな!」 勇者「何でそんなに嬉しそうなんだよ」 ****54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:30:05.56 ID:s4r1gUtjP 魔王「だから、そう言う物が見たいんだ」 勇者「……勇者になりたいのか?」 魔王「近い。でも、違う。だって私は学者  なのだろうし、いまのこの身は魔王だ……」 勇者「……」 魔王「やってて幸せとは云えないけれど  責任を感じるし他の誰かに押しつける気はない。  勇者じゃない私が、勇者になりたいなんて  そんな夢物語で時間を浪費するつもりはないんだ。  けれど」 魔王「見たことがない物は、見てみたい」 勇者「……そか」 魔王「だから、もう一度云う。  『この我のものとなれ、勇者よ』  私が望む未だ見ぬ物を探すために  私の瞳、私の明かり、私の剣となって欲しい」 勇者「断る」 ****57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:34:02.22 ID:s4r1gUtjP 魔王「だめか?」 勇者「だめ」 魔王「絶対か?」 勇者「絶対」 魔王「交渉の余地はないのか?」 勇者「ない」 魔王「……」 勇者「……ないぞ? ほんとだぞ」 魔王「あると見た」 勇者「くぁ、なんでそこで上目遣いなんだよ。  学者がとって良い態度かよっ」 魔王「学者であると同時に私は経済屋なんだ。  経済屋は決して諦めない。どんなことにでも  妥協して明日を目指すんだ」 勇者「なんだか俺より勇者っぽい」 ****59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:39:17.01 ID:s4r1gUtjP 魔王「故事によれば『世界の半分』を交渉材料にするらしい」 勇者「へー」 魔王「余裕たっぷりだな」 勇者「そんなので転ぶ勇者がいるかよ。  もしいたらそいつは勇者でも何でもない。  1から出直せって話だ」 魔王「うん、私の知っている故事でも  結末はそうなっていた」 勇者「ださっ」 魔王「私もそう思う。そもそもその魔王だって  世界征服が終了していた訳じゃないだろうに。  自分が所有していない物件の50%を譲渡するなんて  商道徳にてらしても法的観点から見ても  契約の有効性に疑問を持たざるを得ない」 勇者「そういう嘘つきだから勇者にふられるんだよ」 魔王「仰せの通りだ」 ****61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:44:23.58 ID:s4r1gUtjP 勇者「だからといって魔界の50%譲渡とか云ったって  俺は絶対うんなんて云わないからな。  そんな見知らぬ土地なんかもらったってちっとも  嬉しくない。そもそも賄賂や金品で転ぶなんて  勇者のすることじゃないぞ。  人間ってのは、ベッド一個のスペースと、  毎日腹が満ちる程度の食い物があればそれで充分なんだ」 魔王「清貧の志だな」 勇者「貧しいとか云うな。魔王のクセにっ」 魔王「私としても領土の割譲をテーマに交渉する気はない」 勇者「そうなのか?」 魔王「領土割譲は、後世の統治から見た場合、  民族問題やプライド上の問題があって、紛争の火種に  なることもしばしばなのだ。眼前の交渉が重要とはいえ  後世に禍根を残すのは気が進まない」 勇者「ふぅん……。そういうものなのか」 魔王「そうなのだ。それにだいたい『50%』という  言い方が良くない。それでは結局『こちらとそちら』が  再生産されるだけではないか」 ****66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:50:17.49 ID:s4r1gUtjP 勇者「どうゆうこと?」 魔王「つまり、世界を分割するのが問題だ、ということだ。  その分割という発想は、結局現在の問題である  『人間世界と魔族世界』という対立を  『勇者の支配地域と魔王の支配地域』という対立に  問題をすり替えただけだという話だ」 勇者「あー。もっともな話だ」 魔王「だろう? それは交渉でも妥協でもなく  ただの時間稼ぎに過ぎない」 勇者「ふむ」 魔王「故にその種の論法は却下だ」 勇者「じゃぁ、交渉も失敗だな。時間もちょうど半日だ。  ……戦闘するような気分じゃなくなっちゃったけれどさ」 魔王「いや、ちゃんと提案はある」 勇者「あるのか?」 魔王「半分などとけちくさいことは云わない。  でも大地は私の物ではないから差し出せない。  勇者が欲しい。代価は私にはらえる全て。  つまり、私自身だ。  これだけは私の意志で勇者に捧げられる。  お願いだから私の物になってくれ」 ****68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:55:56.79 ID:s4r1gUtjP 勇者「……お、お、おまっ」 魔王「口をぱくぱくさせると間抜けに見えるぞ」 勇者「なっ何をっ」 魔王「交渉の提案だ」 勇者「何言ってるか判ってるのかっ?」 魔王「判っている」 勇者「しょ、正気かっ!?」 魔王「もちろんだ」 勇者「もうちょっと物考えて発言しろ!  わ、わ、わ、わきまえろっ!!」 魔王「そんなに驚かないでも良いではないか。  人間世界では15にもなれば農夫の息子だろうが  宿屋の娘だろうが、そこら中でこのような睦言と  甘やかな契約を交わして乳繰りあっていると聞く」 勇者「聞くなよっ」 魔王「正確には書物で読んだわけだが。  ――読んだだけで実体は不明で経験もない。  これも一つの『未だ見ぬ物』だな」 ****71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:59:54.23 ID:s4r1gUtjP 勇者「何を」 魔王「優れた提案とは提案した時点で  提案者の目的の一分を達せられるのだ。  『純潔を捧げる願い』を告白するなどと  私の人生に訪れるとは思っていなかった知見だ。  精神的に平静ではいられないなんて貴重だな」 勇者「まるっきり平静に見えるよ」 魔王「ダメか?」 勇者「だっ、だめっ!!」 魔王「絶対か?」 勇者「ぜ、ぜ、ぜ」 魔王「前回よりもさらに余地があるように見える」 勇者「近寄るなっ」 魔王「許可無い限り触れたりしない。私は奥手なんだ」 勇者「契約主義者ってさっきまでは云ってたじゃないか」 魔王「それは真実だ。『奥手』というのは  真実にかぶせる演出上の工夫だ」 ****75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:05:18.00 ID:s4r1gUtjP 魔王「勇者」 勇者「何だよっ」 魔王「んぅ。話づらいな」 勇者「あんだけ悲惨な未来をぺらぺら解説して  やがったじゃないか」 魔王「あれは専門分野の講義だったから」 勇者「どんだけ死にものぐるいな専門分野なんだよ」 魔王「経済というのは血が流れない戦争なんだ」 勇者「おっかないよ。戦闘能力のない魔王を  初めておっかないと思ったよっ」 魔王「怖がらせるのは本意ではないし……。  混乱させたら申し訳ないと思うけれど」 勇者「……」 魔王「少しセールストークをする」 勇者「うー。押されてる」 魔王「私を独占すると色々便利だぞ?」 勇者「たとえば?」 魔王「家計簿を付けるのが得意だ。完璧を約束できる」 ****80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:09:56.32 ID:s4r1gUtjP 勇者「なんだかなぁ。家計簿か」 魔王「それにね」 勇者「?」 魔王「この戦争の向こうに行ける」 勇者「それは出来ないって云ってたじゃないか」 魔王「もちろん、すぐには無理だ。人間の王たちも  納得はしまい。私が投降しても、それは秘密裏に  処理されて、偽魔王が立てられるだろう。  それくらいこの戦争は、人間社会に必要になって  しまっている」 勇者「……」 魔王「でも、だからこそ、それが『別の結末』を  迎える事ができるのならば、  それは私にとってだけじゃない。  三千世界にとって『未だ見ぬ物』じゃないだろうか?」 勇者「……」 魔王「どうだ?」 ****88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:17:09.59 ID:s4r1gUtjP 勇者「それが」 魔王「ん?」 勇者「おまえなんだ」 魔王「うん、これが私なのだ」 勇者「ずっとそんなこと考えてきたんだ」 魔王「戦争を終わらせるのが軍だとすれば  終わる着地点を模索するのが王の役目だ」 勇者「そのために俺を欲しがったのか?」 魔王「うん、まぁ。そうとも云える」 勇者「……」 魔王「いや、誤解しないでくれっ。  勇者が欲しいのは本当だぞ?  向こう側を一緒に見に行く連れが欲しいだろう?  朝の散歩に一緒に出かけるような気分なんだっ。  それから家計簿も本当だ。偽りはない。  なんだったら賃借対照表や生涯賃金提案書も書けるぞっ。  足りないかっ? 足りないのか?  そうだな。……あまりにも粗末な粗品だが  一緒にいるのも得意だ。私は静かな魔王だからな。  部屋に置いておいても邪魔にはならないことに定評がある  添い寝とかも多分役に立たないほど下手だろうが  セット商品についている細々とした備品程度でいいならな  付けることが出来る」 92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:24:09.48 ID:s4r1gUtjP 勇者「あー」 魔王「契約詐欺にならないようにあらかじめ  告げておかなくてはならないのだが、  私は料理は不得手だ。料理は科学なのだろう?  わたしにはゲル化や乳化を行なうための  洗練された手先の技術が欠けているようで  調理に関して期待してもらっては困る」 魔王「それから、あー。  世間の、ほら。大多数の一般的な性別において  男性を有する成人の人間が望むような外見的  肉体的な美しさには欠けていると思われる。  運動不足だしな」 勇者「そうか? そ、そんなことないだろ」 魔王「いいや、そんなことはあるのだ。  これは侍女たちの用意した魔王のお仕着せであって  欠点が隠れて、と言うか、見えないだけで、  二の腕とかつまめるのだっ」 勇者「泣きそうになるなよ」 魔王「ぷるぷるなのだぞ!?」 97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:29:31.81 ID:s4r1gUtjP 勇者「いや、その……大変美味しそうに見えます。  ……特に胸とかおっぱいとか」 魔王「いや、いいんだ。無用な慰めだ。  それに地味すぎて、こればかりは申し訳ない。  思うに我が一族の頭部は長い伝統で  見てくれよりも中身を重視してきたはずで」 勇者「そうか?」 魔王「私も娘時代、つまり150年ほど前だが  その時代にもうちょっとこう、何というか  身なりやお手入れに気を配っておけば  こんな一世一代の交渉時、リコールにおびえる経営者の  気分を味合わないで済んだはずなのに……」 勇者「用語が難しいな」 魔王「世の中は色々難しいのだ」 勇者「まったくだな」 ****100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:34:36.34 ID:s4r1gUtjP 魔王「とにかく、そう言った外見的な物については  あまり満足のいく案件ではないのだが、経済を  中心にした知識と……知識と……。  それくらいしか誇れないのか、私は」 勇者「……」 魔王「あと誇ることが出来るのは、貞淑さくらいだ。  私は長命種で、学者の家系の出だからな。  それに純然たる契約主義者でもある。  私にとっていったん締結されれば  この種の契約は魂にまで食い込み  過去も未来もその一転において鋼に勝る強度を持つだろう。  ――側近く侍る。健やかなる時も病める時も寄り添おう。  それは約束できる」 勇者「……」 魔王「どうだ? 私の物にならないか?  私はあんまり我が儘は言わないぞ。  『丘の向こう側』に一緒に行ってくれれば  それだけで満足だ」 ****103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:40:31.38 ID:s4r1gUtjP 勇者「沢山殺すことになるんだろうな」 魔王「ああ。……うん。誤魔化さない」 勇者「河が血で染まるほどかな」 魔王「うん、終わるまでは。手を血で汚さない約束は  できない。私も、勇者も、非道なことを  沢山することになるだろう」 勇者「裏切り者と呼ばれるかな」 魔王「それは、正体を隠すことも出来る。  私の誇りにかけて、勇者の伝説は綺麗なままに  出来るはずだ」 勇者「必要なのか?」 魔王「それは違う。このままワルツのように戦争を  消耗を繰り返し、屍山血河の平和を享受することも  この世界に許された選択肢の一つだ」 勇者「それはそれでおびただしい犠牲だろう」 魔王「でも勇者が直接的手を汚さないで済む」 ****104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:46:44.08 ID:s4r1gUtjP 勇者「なんだよ契約したくないのかよ」 魔王「騙して契約したくないんだ」 勇者「そか」 魔王「騙して手に入れたものは、一夜で失われる」 勇者「信義に厚いんだな」 魔王「善悪の話じゃない。ゲーム理論で証明された  商道徳レベルでの話だよ」 勇者「よし、お前の物になる」 魔王「いいのか?」 勇者「いいんだよ。……あー、いっとくけどなっ」 魔王「?」 勇者「おっぱいのためじゃないからなっ!」 魔王「こんなものがいいのか?」 ふにふに 勇者「自分で揉むなっ」 魔王「勇者」 勇者「何だよ、魔王っ」 魔王「触れたい。触って良いですか?」 ****110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 19:57:12.81 ID:s4r1gUtjP 勇者「……」 魔王「信用してないな?」 勇者「口調がいきなり丁寧でびっくりしただけだ」 魔王「少しだけだから、触らせてくれ」 勇者「判った」 魔王「……」 おずおず 勇者「魔王、手がひんやりしてるな」 魔王「冷たいか? 済まない」 勇者「いや、気持ちよい」 魔王「私は、勇者のものだ」 勇者「俺は魔王のものになる」 魔王「契約成立だ」 勇者「契約成立だな」 魔王「嬉しいぞ」にこっ 勇者「……。くぁっ。は、はなれろっ」 魔王「そうか?」 勇者「で、最初の一手はどうするんだよ」 魔王「そうだな……まずは、麦から手を付ける」 勇者「麦か……。長い旅になるな」 魔王「もちろん。わたしは勇者と一生離れる気は  ないんだからなっ」 ****133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 23:39:08.74 ID:s4r1gUtjP ――冬越しの村 勇者「うぉ、寒くなってきたな」 魔王「これから冬に向かっていくからな」 勇者「こんな中途半端なところで良いのか?」 魔王「中途半端とは?」 勇者「いや、だからさ。魔王の話によれば  いまの人間、中央大陸にとって麦は食料として大事だ。  ってことを基本にしてるんだろう?」 魔王「ああ、そうだ」 勇者「だったら、もっと農業大国の湖の国とか  紫旗女王国とかさ、そっちに行った方が良いんじゃね?」 魔王「話が聞いてもらえるならな」 勇者「あー」 魔王「勇者もしばらくは姿を見せない方がよいと思う」 勇者「そうか?」 魔王「ああ。あんな風に私の所へよこされたんだ。  誰かが勇者を疎ましく思っていたのかも知れない」 勇者「んなことないって」 ****137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 23:45:31.80 ID:s4r1gUtjP 魔王「それに何処に行って紹介するにしたところで  説得力を出すためには実際の実験と資料が必要だ」 勇者「そりゃそうだ」 魔王「この村でそのための手はずを整える」 勇者「そう、なのか?」 魔王「うむ。手の者を忍び込ませているのだ」 勇者「手回しが良いな」 魔王「何事も根回しと調整が必要だ」 勇者「この村か」 魔王「ああ、何の変哲もない村だろう?」 勇者「うん、こんな村は沢山知っている」 魔王「『南部諸王国』辺境部では典型的な開拓村だな。  複合的な大規模農業を中心に小作農や職人たちが  緩やかな村を形成している」 勇者「魔王軍との戦いもあるだろうになー」 魔王「それでも大地にしがみついて生きてゆくんだ。  人間はそこがすごいところだ」 ****139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 23:49:39.59 ID:s4r1gUtjP 勇者「で、手の者ってのは」 魔王「ああ。小さな一軒家を用意してもらってるんだが。  どこなのだろうな。この村としか聞いてないんだが」 勇者「あー。そうなのか? 探せば判るんだろうけれど  そろそろ陽も暮れるし、こんな寒い中をうろつき回るのは  ぞっとしないなぁ」 魔王「うむ、もっともな指摘だ」 勇者「だよなぁ」 メイド長「まおー様ぁ~まおー様ぁ~♪」 勇者「ば、ば、ばっ」 魔王「おお。この声は」 メイド長「まおー様~♪」 魔王「おお、紹介しよう。勇者!」 勇者「この馬鹿っ。一応人間の村だぞっ!  まおーまおー叫んでどうするっ!」 魔王「む。そう言えばそうだ。以後注意するように」 メイド長「はい、まおー様!」 ****142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 23:55:53.42 ID:s4r1gUtjP 魔王「まぁ、大丈夫だ。そんなに怒ってくれるな」 勇者「むー」 メイド長「怒りすぎると皺が取れなくなりますよ」なでなで 勇者「こいつは何なんだ?」 魔王「これは私の側近で、メイドを束ねるメイド長だ」 メイド長「ご紹介にあずかったメイド長です。  まおー様のことは幼い頃から世話をさせていただいて  おりますわ。この度は勇者様とまおー様のご結婚  まことに喜ばしく、お見守りさせていただいてきた  この身、この胸の内も震えんほどです」 勇者「突っ込みどころはたくさんあるんだけど、  最大のものは結婚なんてしてないって事だぞ」 メイド長「そうなんですか?」 魔王「期間無制限の相互所有契約だ」 メイド長「あらあら、まさに結婚じゃないですか」 魔王「白詰草とクローバーほどに違う」 メイド長「それじゃ同じものじゃないですか」 ****145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:02:31.05 ID:AIDyRnsCP 魔王「あえて名前を変えることによる風情の違いがある」 メイド長「ああ、そうでしたか!  メイドと召使いと側女と寝室奉仕奴隷のようなものですね」 魔王「それも風情か?」 勇者「……」 メイド長「風情は大事ですよ。男女間の機微の80%は  風情で構成されていると言っても過言ではありません」 魔王「なんと! それでは殆ど具材がないではないか?」 メイド長「そこがミソなんですよ」 勇者「あのー。寒いんだけど」 メイド長「おやおや、まぁ!」 魔王「勇者が寒いと云っているんだ。どうにかならんか?」 メイド長「では、こちらへ。ご案内しますわ」 魔王「おお、首尾はどうだ?」 メイド長「さほど大きくはありませんが、  村はずれの古い館を改修してございます」 魔王「でかしたぞ、メイド長」 ****147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:12:08.05 ID:AIDyRnsCP ――古びた洋館 勇者「なんだよなんだよ。充分でかいじゃないか」 メイド長「とんでもない。魔王城の1/100以下です」 勇者「あれはダンジョンだろ。一緒にするな」 魔王「いや、私はあそこに住んでたんだがな」 勇者「ああ、そっか」 メイド長「こちらへどうぞ。  ただいまお茶をお持ちしましょう」 魔王「すまんなー」 勇者「側近って、どんな関係なんだ?」 魔王「うむ。ああ見えてメイド長はわたしの親戚なのだ」 勇者「学者なのか?」 魔王「んー。学者というと語弊があるな。  学者一族と云うより『好奇心を抑えられない一族』なのだ。  しかも専門ジャンルを追求してしまう類の。  彼女は、私から見ると年上なのだが、  なんだか『メイド道』とやらに目覚めてしまってな」 勇者「ふむ……」 ****149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:17:39.88 ID:AIDyRnsCP メイド長「殿方における騎士道と似たようなものですわ」 魔王「早いな」 メイド長「紅茶でございますよ。  蜂蜜をたっぷり入れておきましたから」 魔王「まぁ、そんなわけで、ずっと一緒に育ったし  魔王軍の指揮なんかを任せたこともある」 勇者「おいおい、メイドってそんなことも出来るのか!?」 メイド長「主人のどのような求めにも応える。  それが私の『メイド道』ですわ」 ****152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:25:10.69 ID:AIDyRnsCP 魔王「これは、この館はどういう物件なんだ?」 勇者「そうだ、気になってた」 メイド長「さる貴族の別邸だったらしい建物でございます。  その貴族……騎士家だったそうですが、その家そのものは  跡継ぎを戦争で亡くされ、この館は手放されたとか」 魔王「正規の手段で手に入れたのだろうな?」 メイド長「ええもちろんです。  修繕を依頼した職工の方々への支払いも現金で行ないました」 魔王「うむ」 勇者「……穏当だな、以外に」 魔王「いずれ実力行使でなければ意を通せない相手も出てくる。  穏やかに通るところで無駄に暴力は使いたくない。  ……嫌われると困る」 勇者「?」 魔王「なんでもない。  ……で、我らはこの館に逗留して。んー身分は  どうしたものかな」 ****153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:32:06.31 ID:AIDyRnsCP メイド長「村長以下主立った方々へのご挨拶は  すませております。聖王都の神学院で研究なされた  高名な学者の姫君だと」 魔王「そんなんで通るのか」 勇者「格好さえどうにかすれば余裕だろう?」 魔王「この白衣とローブではだめかな」 勇者「ダメっぽいんじゃね?」 メイド長「ダメでしょうね」 魔王「着心地が良いんだが」 勇者「姫君ってのは着心地度外視で服選ぶんじゃねぇかな」 メイド長「そうですね。視線を意識せざるを得ない服で  緊張感を維持しているのかと思われます」 魔王「緊張感がないと!?」 メイド長「そうは申しておりません。しかし……」 魔王「なんじゃ」 メイド長「お耳を拝借いたします」 魔王「ふむふむ……」 ****158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:35:41.98 ID:AIDyRnsCP 魔王「勇者、勇者」 勇者「どうした?」 魔王「緊張感のない肉は駄肉か?」 じわぁ 勇者「なんで半べそなんだよ」 魔王「そう言われたのだ」 勇者「あー」 魔王「駄肉か? 駄肉なのか!?」 勇者「あー。そのー」 メイド長「お茶のお代わりはいかがでございましょう?」 魔王「ゆるんでぷにってしまうのか?」 勇者「コメントしづらいな」 メイド長「冬場は特に運動が不足しますからね」 魔王「うううう」 勇者「……その、たまには着飾るのも良いんじゃないか?  目先が変わって。その、風情とか云うヤツだ」 メイド長「さようでございますよ、まおー様」 魔王「そ、そうか……」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[次1-2へ>>1-2]]} ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。