日中~植林作業と国の現実~


 早朝早く、陽の照りつけがさほど強くもない時分。枯れた大地、緑を失った丘に、荷車と共にやってきた影が十個ほど。
 積荷を降ろし、中からあれこれと道具を取り出して、三人一組になって散らばってゆく。
 周辺の測量をしながら大地に何か手を加えようとしている彼らは、玄霧藩国政府が推進している植林事業の作業班だ。

「Bの杭を五本とビニールテープ、それと養生シート、取ってもらっていいですか?」
「あいよ。ちょっと待っててくださいねー」

 一際遠くまでやってきた三つの影は、しじま・天狐・影法師の三名だ。
 技族であるしじまが丁寧に地形を調べ、土壌を確認し、影法師がそれを手伝い、天狐は荷物を運んでいる。
 それぞれ植林の専門職というわけではなかったが、各々の得意分野を生かした役割分担を考えているようではあった。

 この荒れ果てた国土に、再び緑を芽吹かせるための仕事を始めて少し。まだこれといって大きな結果は得られていない。
 まとめて運んできた木箱を開き、頼まれていた機材を用意しながら、影法師は考える。
 何かと悪いこの情勢に、自分達の努力はどこまで通じるのだろうかと。

 植林と一言で言っても、ただ木を植えればいいという程簡単なものではない。
 木を植えてもすぐに枯れず、しっかりと緑が根付く場所を探し、その場所の土を掘り起こして活力を与え、周辺の保水力が高まるまでは定期的に水をやる。
 最初から判っていたつもりだが、それでもいざ作業を始めてみると、その進みが亀の歩みに思えてしまい、焦る気持ちを持たざるをえない。
 眼前に広がるのは土色の世界。以前の緑豊かな森国の姿がここにない事を、自分達はずっと、見せつけられているのだ。

 もっともっと、大規模に人を動員する事が出来れば違うのかもしれないと考える事はある。
 しかし、現状ではこれが精一杯。失った信用は、未だ取り戻すには至らない。

「赤の一番から茶色の五番まで確認取れました。耕してOKです」
「はーいお疲れです。じゃあ、俺は赤一からやってきますね」
「りょーかい。俺は茶の五からやるんで、しじまさんは次の測量お願いします」

 鍬を持つ。肉体労働が得意な口ではなくても、別に嫌いなわけではない。
 そうだ、別に、見失っている訳じゃない。
 額の汗を拭いながら、一区画の土を整備しを終え、顔を上げた。遠く、国の中心近くが見える。

「ふーん。……まあまあ、実感得られたかな」

 足跡を振り返るが如く望んだ彼方には、荒れ果てた土のみが広がる中に転々と続く緑の姿。
 全体からすればほんの僅かに過ぎないその木々は、しかし確かに、自分たちの努力によって得られた結果である。
 この絶望したくなる情勢の中で、少しだけ輝いた緑色の光。
 今は、これを守り、広げていくのが自分たちの頑張る意味かもしれない。

「どうしたんですか、影法師さん?」
「ああ。ほら、あっち見てくださいよ」
「あっち? ……ああ、今まで植えてきた所ですね」
「おー、思ったより綺麗に見えるなー!」

 今、自分たちが見ているもの。これがもっと多くの人々の目に映った時。
 彼らも、今の自分と同じ気持ちになってくれるだろうか。
 この現実に立ち向かう勇気を、その幸せを、感じてくれるだろうか。

「そういうわけで、そろそろ昼にしませんか。
苗を植え始めると中々休めないですし」
「そうですねー。じゃあ、皆にも声かけて集まりましょっか」
「折角だから緑の見える場所で食べたいですね」
「少し戻ることになるけど……まあ、そうですね。そうしましょう」

 昼と決まると活き活きとする影法師。願いを込めて、笑みを浮かべた。