駅および記念公園、そして自由市場について


 共和国環状線計画において玄霧藩国に新たに建設されたのは、大きく言えば『駅』である。
 国の象徴たる大神殿のすぐ付近に、新たなる国の象徴となるべく建設されたこの施設は、ただ駅という言葉でくくるには難しい、多様な性質を持っていた。
 その在り様を大きく分けると、3つになる。

 1つ、藩国内大神殿前に設置された、地下鉄共和国環状線の駅。
 2つ、駅地上部に設置された平和記念公園。
 3つ、地下スペースを利用して作られた自由市場。

 それらを大きく括って、『玄霧藩国大神殿前駅』は成立している。


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『玄霧藩国大神殿前駅』

 その仰々しい名前は飾りではない。この駅がただの『玄霧藩国駅』でないことには、立地条件的なものだけでない、深い理由が存在する。

 共和国動乱。いくつかの過ちから起きた、苦しい日々。
 共和国天領との戦いと、政情不安による治安の悪化との戦い。
 内とその更に内、ただひたすらに内側に向けて銃を向けざるを得なかった、悲しい季節。

 悲しみを何とか乗り越えてたどり着いた、ひと時の平穏。
 だから人は、思い返すだけで気が滅入りそうなその過去を、こぞって忘れようとするだろう。

 しかし、それでは過ちから何も学んでいない事になってしまう。それはいけない。
 平穏を享受し、心穏やかにあることはいい。
 だが、過ちを繰り返さないという事は、辛い事から目をそむけるという事ではない。

 そのための大神殿駅なのだ。
 人々の過ちから失われた命を、全て受け入れ、救った、大神殿なのだ。
 そこで無辜の単にのために働いた者達の、全国で事態の収拾のために心血注いだ者達の、そして苦しみの中で、決して諦めなかった者達の、その思いを忘れずに抱き続けるために、
玄霧藩国の新たなる顔となるべきその施設は、大神殿前に作られた。



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 環状線建設の主目的は、共和国内における物資流通手段の不足を補う事にある。
 ターン10以降のルール改正及び市場の停止により、各国は資産を動かす事がかなり難しくなった。
 かの漢の国、リワマヒ国が裏マーケットにライセンス生産を許可した航空輸送機『きゃりっじ』などが存在するため、全く輸送が不可能という事はなかったが、
それとて非常に高いコストを必要とする。人手も必要だった。
 低コストで、人手を使わずに資産の流通を可能とする、共通施設が必要だったのである。

 共通施設を建造するという目的ははっきりしていたが、情勢混乱中の共和国ではそれも難しかった。
だからこそ現在、情勢が安定に向かい始めた所から、各国は環状線の建設に取り掛かることになっている。

 玄霧藩国は、ターン11で深刻な雇用状況の悪化に見舞われていた。
 臨時政策などで緊急雇用を作ったり、農地の大規模拡大を図ったりはしたが、それはあくまでその場しのぎ的な雇用先である。
 情勢の安定と共に、従来の職などに対する労働力の受け入れを進めていかねばならなかった。

 とはいえ、情勢の変化は大きかった。全て元の鞘とはいかない。
 ならばこそ、折りが良かった。
 玄霧藩国内における環状線の建設は、大規模な人手と、恒常的な労働力を求めていたのである。



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   ◎求人情報◎

(中略)

⑰.『玄霧藩国大神殿前駅』清掃スタッフ募集。
  綺麗好きな貴方にお勧めなお仕事です。経験者優遇。時間応相談。保険あり。

  賃金及び詳細な労働条件につきましてては、玄霧藩国ハローワーク内連絡板に記載があります。
 ※作業着・作業具につきましては、管理公社から貸し出しを行っています。お気軽にお申し出下さい。


⑱.『大神殿前駅・貨物搬入口』検品、梱包作業者大募集。
  環状線から降ろされた物資を検品するお仕事です。輸出する物資の梱包などもあります。
  几帳面な貴方に。研修制度あり。経験者優遇。時間応相談。保険あり。

  賃金及び詳細な労働条件につきましてては、玄霧藩国ハローワーク内連絡板に記載があります。
 ※作業着・作業具につきましては、管理公社から貸し出しを行っています。お気軽にお申し出下さい。


⑲. 『大神殿前駅・一般用乗車口』売店スタッフ募集。
  接客が好きな、笑顔が素敵な貴方に。研修制度あり。経験者優遇。

  賃金及び詳細な労働条件につきましてては、玄霧藩国ハローワーク内連絡板に記載があります。
 ※作業着・作業具につきましては、管理公社から貸し出しを行っています。お気軽にお申し出下さい。


⑳. 『大神殿前駅・売店およびホーム』製作・販売スタッフ募集。
  名物ワサビ弁当の製作と販売スタッフを募集します。
  料理が好きな貴方、笑顔が好きな貴方に。経験者優遇。

  賃金及び詳細な労働条件につきましてては、玄霧藩国ハローワーク内連絡板に記載があります。
 ※作業着・作業具につきましては、管理公社から貸し出しを行っています。お気軽にお申し出下さい。





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 駅の構成は、大きく分けて3つからなる。

 まず1つは、環状線を使って国外へと移動する、逆に環状線を使って入国する、一般客用の乗降口と、その関連施設だ。
 売店や飲食店が駅構内に存在し、列車の待ち時間の退屈を紛らわせるための娯楽もいくらか揃っている。
 出入国管理も行われるために警戒は厳重でもあるが、緊急時でもなければ物々しい雰囲気などはない。
 本人認証と手荷物検査さえ受けられれば、後は基本的に自由である。
勿論、有事には精鋭部隊が迅速に駆けつけられるようにもなっているわけだが。
 尚補足として、駅のホームと線路との間には、(列車停泊時の乗降口部分を除いて)理力シールドによって障壁が張られている事も付記しておく。
 事故も自殺も無し、というのが、藩国及び管理公社のポリシーである。

 もう1つは、国外との資産のやり取りなどを管理する、物資搬入口である。
 国という大きな単位で使用するため、大神殿前駅では非常に多くの物資がやり取りされる。
 それこそ数万t単位なのが当たり前であり、気軽に手荷物としてホイホイ扱える量ではなかったから、当然、専門の設備が建造されることとなったわけだ。
 到着した荷物の数、中身、宛先に誤りがないかどうかを確認するのはこの手の業種では当然であり、量が多ければ多いほど、人手もシステムの整備も重要となる。
 列車テロなどを防ぐ意味合いも含め、大量の人員が正確に業務を完遂するためのシステムの構築には、高いプライオリティーが設定された。

 最後の1つは、所謂ひとつの駅舎である。とはいえ、駅舎はほぼ全て駅の管理公社が使用していたから、直接管理公社と呼ぶ方が通りがよい。
 駅の持つ意味合い、その重要性を鑑みれば、その管理には多大な労力が割かれて当然と思われ、実際、藩国政府は確かに、それを重要と考えていた。
 当然、駅で働く人員の数も非常に多く、駅で働く人々の環境を整えるために働く人々もまた必要だったから、それらを統括して管理する公的企業の存在は、運営上必須だったと言える。
 運営方針に国が大きく関与している事については、『親方玄霧』などと揶揄される部分もあったが、そもそもこれほどの規模の施設を管理しきれる民間企業もない。
優れたスタッフと明確なスタンスによって、管理は概ね上手く行っていると言えた。





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『大神殿記念公園レポート』

玄霧藩国という所に籍を置くようになってから数日。ようやくこの国にも馴染みという物が出来た頃、大神殿記念公園という物が作られた。

この大神殿記念公園……略して記念公園はは先の難民騒動によって起きた悲劇が無事に収束し、被害を極力抑えることが出来た事への記念公園であるらしい。

その悲劇については語るに及ばないだろう。自分がこの国へやってきたのもその悲劇の一端であった。
そう言われるとこの国がいったいあの騒動に対してどのような思想・理念を持っていたのか興味も俄然沸いてきた。

早速行ってみるとまず驚くのはは森林国の特徴でもある緑と人造物の融和である。
公園の中にも外にも緑が満ちており、そこかしこに背の高い木が多く存在している。

公園からは大神殿を望むことができ、その大神殿も緑との融和を考えられて切り開かれているのが特徴的である。

公園の中をゆったりと歩いてみると子供の多さに驚く。カップルなども居るが中に子供用の遊具などが充実しているためか子供同士、或いは親子連れの姿が非常に目立つのが印象的だ。


すれ違う子供の中には白衣を着て楽しそうに駆け回る子供もいたりする。恐らく医師の真似だろう。
耀くような笑顔で白衣を着て走り回る子供達を見ると活気のある国だと再認識させられる。

公園を一周すると公園が円形であることに気づく。これは国の最大の不思議とされている『大水車』をモチーフとしており、昨今本格的に活動した魔法医による魔方陣でもあるらしい。

有事の際はこの公園自体が避難所として機能し、魔方陣により他の場所よりも安全になるようだ。
大神殿に隣接しているのはこれらの技術の提携という面もあるようだ。なるほど、中々に考えられている。

公園内には露天が多数存在している。一息入れようと思い、玄霧饅頭とナッツクッキーで迷った結果ナッツクッキーを一つ購入し、ベンチに腰を下ろして一休憩してみる。


遠くでは木からぶらさがったブランコや大きな滑り台、アスレチックなどが一緒になった遊具スペースで子供達が遊んでいる。

ちなみに木にぶら下がったブランコは公園の中に数カ所用意されていて、その大きさは大人二人が並んで座れるほどなので別の方を見ればカップルが仲睦まじくクッキーの食べさせあいをしていた。おのれ。



円の中心点でもある中央には記念公園のシンボルでもある銅像がある。




先の難民騒動の際、国境を越えて人を助けた結果藩国の英雄、或いは難民の英雄と称された猫野和錆が人を助け起こしている所をモチーフに作られた物であり、それらを嫌味無く国民が受け止めていることからも猫野和錆がどれほどの働きをしたか、推して知れるだろう。

「あ、あぶない!!」

「ん?」

子供の声が突然響き渡った。思わずそちらを見た瞬間、こちらに迫るボール。顔に迫るボール、ボール、ボール?

ゴガン!

「ご、ごめんよおじさん」

「おじさんじゃない、お兄さんだ……っていうこと自体がおじさんの証明になりそうだから気にしなくて良いぞ、坊主」

どうやら間違えて投げたボールに直撃したらしい。一瞬記憶が混乱したが、それでも何とか持ち直した。

拾ったボールを投げ返してやる。すると子供は笑ってそれを受け取った。

「おじさん、鼻赤いし東屋に行く?」

「? 東屋?」

少年の申し出に訳もわからず、それでも何かあるのかとついて行くことにした。

するとついたのは東屋……というよりも医療テントと言った方が良いような物だった。なるほど、この公園における東屋はここを指すらしい。

東屋の中には数名の医師と、子供達が居る。ボランティアだろうか? 子供達は医師達に指示をもらいながら動き回っているようだ。

「すいませんー、このおじさんにボールぶつけちゃったんで見てもらえますか?」

「あー、はいはい。良いよ。こっち来てくださいね」

中にいた医師に促されるまま、椅子に座る。すると医師達と一緒に居た子供の一人がこっちにやってきた。

「ふむふむ……なるほど、かすり傷ですね。一応消毒とかしておきましょうかね」


医師は私を見てそう判断すると子供に指示を出していく。子供はそれを聞いて医療テントの中から消毒液や絆創膏などを用意していく。本当に簡単な処置で済むことは道具を見れば何となく予想は付いた。

「あ、すいません。ボランティアの子に処置させて良いですかね?」

子供が離れている間に小声で訪ねてくる医師に少し驚きながらも、何となく目的が判って微笑み返す。

「構いませんよ。ボランティアの子に処置もさせるんですか」

「えぇ。この公園はね、助け合いの精神の大切さ、命の尊さなどを学ぶための場所でもありますから。大丈夫、ちゃんと私が横で見てますよ」

「なるほど、なら安心ですね」

二人でそんなことを言っている間に子供が道具を用意してやってきた。

「先生、よういができました」

「うん、それじゃ君がやってみようか。まずは消毒からだよ?」

「は、はい……っ」

子供は明らかに緊張しながらも、消毒液をつけたガーゼを私の顔にあてて処置を始める。

助け合いの精神の大切さ、命の尊さ、そして何より、有事の際の正しい応急処置を教える場としてはなるほど、この記念公園ほど正しい場所はそうは無いと思った。

緊張しながらも医師の指示に従い、処置を終えた子供に対して医師は「よくできたね」と褒めて頭を撫でる。
すると子供はにっこりと、それこそこちらの心が明るくなるような笑みを浮かべてまた作業に戻っていく。

「……健気な子ですねぇ」

「素直に育ったんでしょう。将来が楽しみです」

医師はそういうと、楽しそうに笑った。

「おじさん、だいじょうぶだった?」

「ん……あぁ、平気だよ」

治療を終えてテントから出るとボールを当てた子供と、恐らくその遊び相手だったのだろう子供が待っていた。

「ごめんなー。それでさ、おれいじゃないけど面白い所教えてあげるよ」

「? 面白い所?」

子供の突然の申し出にはて、面白い所……と考えてみる。何とはなしにははぁ、と納得した。

「秘密基地かな?」

「うん、そうそう。他のおじさんとかには内緒だからねっ」

「あぁ、当然さ。秘密基地だからね」

悪戯小僧その物の笑顔をした子供に導かれて向かってみると公園から少し外れた所に一際大きな木が立っている。

「こっちこっちっ!」

言われるまま見てみると公園から影になってる部分に子供がひっそりと入れるような穴があった。

「この中か……流石に入れないな」

穴を見て、自分では入れない事にすこし落胆しつつもなるほど、これは確かに立派な秘密基地だ。

「ちなみに中はどうなってるのかな?」

「電車の上にでるんだぜっ!」

「なかずっと歩いていくと大神殿につながるんだよ」

「ほうほう……」

電車の上、という発言を聞いてあまりにも危ないと思ったのだが、よくよく話を聞いてみるとどうも違うらしい。

中にはヒカリゴケが生えており、電車の上というのも線路の上は上だが、どうにもかなり頑丈な作りで補強されているらしく、またたまにではあるが道をふさいでいる岩が動くとか何とか。

これは後ほど公園の設計者であるイクに確認を取ってみた所、どうにも子供の秘密基地を作ってあげたい、という所から始まった遊びの部分らしい。

子供達の秘密基地自慢を聞きながら、先ほど買ったままにしておいたナッツクッキーを子供達と分け合い、しばしの時間をそこで過ごすことにした。



公園での散策も気がつけばかなりの時間が経っていたのか、夕時になっていた。

ゆっくりと子供達が帰って行く。徐々に子供がいなくなり、今度は大人達がゆったりとした時間を過ごし始める。

昼間の喧噪とは打って変わり、そこは静かで穏やかな時間が流れる。




大人達は今ある平穏を楽しみ、公園でそれぞれの思いをはせている。

見てみると同僚である人間も何人か来ているようだ。仕事を終わりにして、彼らにゆっくりと今までの話などを聞かせてもらうことにしよう。




「癖毛爆男の手記より抜粋」



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「こちらが売る予定の商品でして。この通り形が悪いですけど、そのぶんこの値段で・・・」
「ふむふむ、なるほど。味を見て良いでしょうか?」
「ええ、どうぞどうぞ。形は不揃いでも味は一級品ですよ!」


                        72708002 自由市場での出店審査を受ける商売人と審査員


玄霧藩国大神殿前駅。
その駅の構内にある市場(通称・自由市場)は、管理こそ国が仕切るものの、その実個人個人の戦いの場であった。

この市場は、条件である「連続契約は基本的に不可」「殺傷能力のあるものの販売は不可」などを守れば、誰でも(商売がきちんと出来るならば、それこそ子供でも。もちろん、護衛はつけるが)商売が出来る。
条件にある連続契約の不可は、広く商売のチャンスを得るためと、商品のマンネリ化を防ぐため、殺傷能力については言わずもがな、安全のためである。
それ以外のチェックは特にない。しいて言えば、品質と値段のチェックが入るだけで、玄霧藩国の国籍があるものでもないものでも、条件に納得し、契約を交わせば自由に商売が出来る場なのである。
もちろん、国民への優遇はある。藩国籍を持つものなら、場所の契約は無料。
国外の商売人には、場所契約の料金を頂く。その代わり、駅構内は関税をかけずに商売が出来るというメリットがある。

※補足すると、駅構内は治外法権なので関税が掛からないわけではなく、要約すると『国内にて駅構内の自由市場で他国より出店する店舗には関税をかけることなく値段設定が出来る』という国内法(通称「自由市場法)が発令されたからである。

但し、その品質と値段のチェックはキッチリされる。
といっても、品質と値段がつりあってさえいれば、不恰好で普通の市場では売れないような作物でも、輝くようなみずみずしさを持つ一目で高級と分かる果実でも販売できるのだ。
勿論、値段が安い分には何も言われない。まぁ、「安く売って大丈夫なのか?」という確認は取られるが。

契約と条件の確認と、品質と値段のチェックが終われば、次は分類わけである。
食品、衣類、酒類、工芸、交易品、といった具合に大まかに分類され、さらにその中でも「食品(果実)」などに分類わけされる。
これは、市場では店は常に入れ替わることがあることと、数の多さに一店ずつの屋号を着けていると重複の問題等が出るためである。
その混乱を回避するために、基本的に出店させる場合に屋号などは付けさせない。
そうなると、お目当ての商品を見つけるのに買い物客が困るための処置である。

分類わけが終わると、駅構内の掲示板や市場内部の掲示板に分類ごとのスペースが書かれる。
この列からこの列の途中までは食品(野菜)、此処から此処までは食品(穀物)、このスペースは工芸(細工物)。といった具合である。
買い物客はこの掲示板だけを頼りに買い物をすることとなる。
少々不親切ではあるが、その分各店舗の商売力を試されるのである。
この分類わけで人の流れが集中することもあるが、そこはそれ。雰囲気の違いを楽しむのも買い物と言うものだろう。


一方、個人ではなく企業の出店依頼も中にはある。
企業となると、正確なチェックが出来る保証がなく、また、ブラック企業などの疑い等もあるため、基本的に受け付けては居ない。
但し、納得にいたる理由(例えば、他国藩王または摂政の紹介文がある等)さえあれば、特設スペースを別に儲け、そこでの販売を許可している。
国内企業の出店も、上記の理由から厳正な審査を通れば可能である。
企業の審査は多岐にわたり、ここでは書ききれないほどである。
そのため、企業用スペースは今の所はやや小規模であるが、国交や各国の経済事情が回復するに至り、にぎわうことになるだろう。
ただ、一点のみ謎なのが、企業スペースの入口にある「北斗七星お断り」という看板である。
これは藩王以下政庁勤めのメンバーからの強い要望により設置されたが、謎の看板として有名になっている。


さて、この市場であるが、先ほど少し書いたように駅の構内にある。
そのため、改札をくぐる必要があり、国内外問わず、毎回改札をくぐる際に金を払っていては大損である。
それを回避するため、契約を済ませた商売人にはパスを配布することとなる。
このパスは、改札を通した国でしか出れないようになっているもので、電車に乗って別の国に行くことも出来るが、駅からは出られないようになっている。
所謂入場券の定期パスである。もちろん、別の国の駅でお金を払えば降りれるようにはなっているようだ。
この説明が一番厄介であるが、混乱を避けるために一通りの説明は行なうらしい。


これらの説明が終われば、遂に出店である。
与えられたスペースから通路や左右の店舗に侵入しない限りは大よそ売り込みや装飾は自由である。
ただし、あからさまな客引きや、脅しまがいの売りつけを行なった場合は即座に通報され、調査される。
この場合、あまりに悪質な場合は契約解除となる場合もある。
そのため、たまに熱の入りすぎで騒ぎになることもあるが、基本は騒動なく売り買いを繰り広げることになる。

なお、出店スペースであるが、個人契約を基本とするため、一人に当てられるスペースは正直余り大きくない。
確実に人が集まるようなものならば前もって広いスペースを当てるが、大体にして6畳から8畳のスペースが基本となる。
通常は契約者を店長とし、丁稚(売り子)1~2人が作業出来るのを目安にスペースをとっている。
ただ、それでは商品によっては店における最大量が少なくなるため、駅構内の倉庫スペースも連動して貸し出される。
いくつかの店ごとに数人の倉庫番がつき、倉庫への搬入や商品の仕出し等を行なうのだ。
中には店員と仲良くなり、売り子の手伝いを頼まれ。そのまま店に就職するものまで居るらしい。


以上が、玄霧藩国大神殿前駅構内市場、通称自由市場での契約および出店の手順となる。

商魂溢れる商売人の諸君。藩国内で商売をしているが、売り物にしにくい者を抱えている諸君。
商売力が問われるこの場所には無限の可能性がある。是非、挑戦して見てはどうだろうか。



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「自由市場レポート」

玄霧藩国大神殿前駅と大神殿記念公園、そしてもう一つの目玉がある。

それは玄霧藩国大神殿前駅構内にある自由市場である。

大きな木で作られた駅の入り口を通り、地下へと降りていく。
今回の環状線開発によって大規模に開発され、有事の際は更に拡張などをしやすくしてあるのだがそれによって駅構内にかなりのスペースが出来た。

それによって発生したのが自由市場である。

駅の改札を通り、ホームとは別方向に地下を進んでいくと徐々に活気と熱気が強くなっていくのを感じる。

地下と言うこともあり、幾ら空調が効いていてもやはり大勢の人が熱気を出せばその熱も活気も、こもるのだろう。
それらの熱気は一つの歓迎の印である。熱気を振り払い、足を前に進めるとそれまで何人かが一緒に進める程度の地下道から一気に開けて大自由市場が開催されていた。

「どうぞー、ただいま自由市場会場記念としてこちらのおまんじゅうをプレゼントしていますー」

自由市場について最初に目に入ったのが胸に「スタッフ」のパスを付けてこの国の名物でもある「玄霧饅頭」を配っていた係員だ。
この饅頭は様々な中身、つまりくじ引きであることでも有名でもあるが、私に饅頭を手渡してきた係の人が楽しげに笑った。

「食べる前におまんじゅうをばっくりと割っちゃってください。中に良い物が入ってるかも知れませんよ?」

「ん、それじゃ早速……」

言われるまま饅頭をばっくりと割ってみると中から一枚の紙が覗いている。
それを手にとってなんとあるか見てみる。

『5にゃんにゃんお買い物券』

「……あぁ、なるほど。つまり本当にくじ引きな訳ですか」

「はい。お一人様一個までとなってしまいますけど、それは自由市場内のどの店舗でも使えますのでお楽しみください」

餡で少し汚れたお買い物券を懐にしまい、係の人に笑みを返して中を歩き始めた。

さて、入り口付近で見たマップによれば、自由市場は大きく分けて二つのスペースに別れている。

一つは自由参加の個人スペースである。

店名などは書いて無く、主な商品の分類でスペースを分割されている。個人の出店なので店名が無いのは当たり前だろう。

参加は自由で、申請さえすれば場所を一定期間提供、そこで自作や転売の商品を売ることが可能らしい。
参加費用は藩国民が、それともそうでないかなどで少し違うようである。

藩国民の場合は無料で、国民でない場合は多少の出店費用を必要とするとのことである。
それでも参加費用が高いと言うほどでない。ただし、個人の場合は長期の契約は不可能であるらしい。
その事からも流通の回転の良さを狙った物であろう事が容易に伺えた。

そちらの方へ歩いていくと様々な国の民芸品などが売られていること、意外なことに店番に子供が多い事に気づく。
そこで思い出したのが先の難民騒ぎの際の移民した人達のことだ。

移民してきた人達の中には今現在でも定職にありつけず、生活に窮している人も居るそうだ。
ここはそういった人達へ商売のチャンスを与えると同時に、後述する企業スペースでは職業の案内も行う為の機能があるようだ。
その為、大人達は商品を作り、また同時に定職を探す作業をしながら子供達がそれを売るというスタイルが生まれたのだろう。

「これ、もらえるかな?」

「うん、良いよ。5にゃんにゃんです」

試しに通りがかった店で見つけた不思議な民芸品を買ってみようとした所、丁度先ほどもらったお買い物券と同額を求められた。

「これで大丈夫かな?」

「うん、大丈夫だよ。後でね、ちゃんと交換してもらえるから」

「それじゃ、これで」

少し餡で汚れてしまっているお買い物券を渡すと、その不思議な民芸品を手渡しで渡してもらえた。
領収書などは当然無い。ここは自由市場、一種のフリーマーケットである。個人参加ならば当然のことだろう。

「また来てくださいー」

子供に手を振って別れる。市場の中は様々な人でごった返しているので歩くのも中々に一苦労だ。

「こちらで簡単なお食事を振る舞わせてもらってます-! どうぞ、お気軽にご利用くださいー!」

喧噪の中、一際大きな声を聞きつけて言ってみるとそこは食料配給所の様な場所だった。

かなりの人が並んでおり、今か今かと食事を待ちわびているようだ。その中には見てからに移民である子供、大人などもかなり並んでいる。

先ほど饅頭を食べれたせいか腹はそれほど減ってない。ただ、興味が強く沸いた。
人混みを謝りながら通り抜け、受付までようやく進んでいく。

「あ、駄目ですよ-。ちゃんと並んでください。じゃないとあげませんっ」

「あ、いや、違うんですよ……私、癖毛爆男と言いまして……」

「え……あ、はいはい! 話は聞いてますよ! 少しだけ待っててくださいね?」

「え、あ……は、はい」

受付のお姉さんが楽しそうに私にそういうと作業に戻っていく。
あまりにスムーズに進むので訝しんでしまうのだが、しばらくしてその人が戻ってきた時に説明を受けた。
どうも先に雅戌さんから「もしかしたら私が取材に来るかも知れない」と言うことを連絡されていたらしい。

なるほど、抜け目が無いなぁ、と笑いながら思ったよりもスムーズに取材が出来ることに感謝をして話を聞いてみる。

ここで配給されているのはおにぎりや玄霧藩国の食料倉庫などでよく取れると言われる茸をメインとした汁物。またブドウなどの果物も多く採れることからフルーツジュースなどを振る舞っているようだ。

「一応、これで栄養はかなり取れるんですよ? ……ちょっと、食べ合わせが悪いですけど」

あはは、と気恥ずかしそうに笑う受付のお姉さんに笑いを零しながら、更に話を聞いていく。

「難民騒動の時、やっぱりみんな困ったのが食料だったんです。でも、それは今でも全部が解決してるわけじゃないです。だから、こうして皆さんが来る所で食料を振る舞えたら素晴らしいな、って」

「でも、そうすると結構な量が必要だったりするでしょう? 食料の備蓄とかは大丈夫なんですかね?」

「大丈夫! ……だと思いますよ? 私も詳しいこと判らないですけど……でも、みんあお腹いっぱいになって笑顔になれたら、嬉しいですよねっ」

「……そうですね」

あまりにまっすぐな意見に自分の捻くれた部分が露呈したような気恥ずかしさを覚えてしまい、私は受付のお姉さんに挨拶を済ますと早々にその場を後にしてしまった。

「今度は食べていってくださいねー」

私に声をかけてくるお姉さんは楽しげに言うと、作業に戻ったようだ。

さて、個人商店についてはもはや百万の言葉を用いなければその様子を忠実に伝えることも出来ないだろう。
何しろ毎日同じ店が開いている保証もなく、商品も一定の基準さえ満たせば自由に販売できるのだ。毎日来ても中々に飽きることはないだろう。

さて、人混みをかき分け、一休憩。煙草を吸おうかと思ったのだが地下なので当然禁煙である。おのれ。
仕方なくまた足を動かしていけば今度は企業スペースに出てくる。

そちらは個人スペースに比べれば活気や熱気などは多少なりとも衰えるが、その分客層が違うことが見て判る。
環状線の完成によって国外の企業などもこのスペースに出店しているようだ。

企業スペースは個人に比べると通貨価値などの問題もあり、商品チェックなどが厳しいようだが、その分個人に比べて長期にわたる出店が可能らしい。

様々な国の人間がそこに並べられた商品を見ている。その目はプロの目であり、やはり先ほどの自由市場とはやや趣が違うことは否めない。
と思えば別の店では恐らく藩国の人間であろう、カップルが普通に商品を眺めていたりとやはり雑多な感は否めない。

通しで見てみる。素人目でしかないがやはり個人スペースに比べて大分品質は安定しているが値段も安定している印象が強い。
個人と企業はそう言った意味では基本的に違った思想・理念で動いているためであろう、対照的に見えるその光景はひどく面白く見えた。

企業スペースを歩いていると目に付くのが忙しそうに駆け回る人間である。

ある店から出てきたと思うと、別の店へと駆け込んでいく。様々なやりとりをした後、自分の店へと戻っていく。
そういったやりとりがいくつか見受けられる。

運良くある店の店主に話を聞くことが出来た。それによると彼は一種の職員採用試験の途中でもあるらしい。

先に少し話したとおり、移民した人達の中には未だ定職を持っていない人間も居る。
そういう人間達の就職活動の一つとして、この出店で様々な作業を手伝ったりしてもらいながら仕事を覚えてもらい、お互いに納得いくようであれば契約をして正社員などになってもらうという事らしい。

「人のいる場所はね、やっぱり楽しいというのもありますが色んな人が来て面白いですよ。雇う側としても普段より色々と見れますしね」

店主のおじさんは笑いながら使いの人が出ていくのを見ながらそんな事を言っていた。

「所でお兄さん。折角ですからどうですか? ほら、こちらのアクセサリ-。彼女さんが居れば贈り物にピッタリですよ」

と思いきや、すぐさま商品をちゃんと勧めてくる当たりはやはり商売人だろう。彼女なんて居ないので丁重に断らせてもらったが中々に素敵なアクセサリーなども取り扱っていたので、興味のある人は探してみたらどうだろうか?

店名はあえて書かない。広大な販売スペースの中から目的の物を見つけるのも自由市場の楽しみの一つだろう。

しばらく自由市場を歩き続けたが、どうしても煙草が吸いたい。世の中、愛煙家には厳しくなったがやはり煙草は一つのたしなみである。

係の人に尋ねて、道を教えてもらい、迷い、また係の人を捕まえて今度は案内してもらった所でようや喫煙スペースに到着できた。

自由市場とは少し離れた部分であり、煙草を吸ってる人間も国の特徴なのかそれほど居ない。

「あ、駄目ですよ。ここは指定煙草以外禁止です」

「う……そうなのか」

胸ポケットにしまっておいた煙草を取り出そうとした所で先手を打たれてしまった。
仕方なく、喫煙所内に売っていた煙草を買って吸ってみる。それは私のよく知る煙草とは別だが、ハーブの香りがする緑豊かな味をもたらす物だった。

「木にね、悪いんです……愛煙家の人には申し訳ないんですけど」

「いやいや、問題無いでしょう。吸えるだけ楽園ですよ」

ここまで案内してくれたお兄さんに笑いながら答える。ゆっくりと煙草を吸っていると落ち着いたのか、お兄さんの動きがキビキビというか、妙にしっかりしている事に気づいた。

「……もしかして、私服警官の方?」

「……当たりです。でも、秘密ですよ?」

「えぇ、判ってます。ちょっとね、目に付いた物で」

「あはは。自分、まだこの仕事始めたばかりで……精進、ですね」

駅構内は無数の人がいるのにどうして治安を保っているのか不思議だったが、こうして疑問は解けた。

スタッフの中に私服警官が混ざっていて、治安を守っているのだろう。恐らく、スタッフ以外の人間、或いは出店している人間の中にも。

「それでは、自分は仕事に戻りますので。良い買い物を」

「えぇ、どうもありがとう」

お兄さんはにこりと笑うとまた自由市場へと戻っていく。それを何とはなしに眺めながら先ほど買った民芸品を見た。
それは何か人形のような、不思議な品である。見たことのない品物であり、どこか懐かしさと温かさを感じる。

「…………さて、と」

煙草の火を消すと、私はもう一度自由市場へ足を向けた。もっと面白い物があるかもしれない。そんな期待を胸に抱いて。



「癖毛爆男の手記より抜粋」




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「和錆弁当レポート」

さて、今回の駅開通記念に伴い様々な物を紹介してきた本レポートであるが、最後に……正に通好みというか通しか食えねえよ!! 的な物を紹介しよう。

以前紹介した大神殿記念公園に建てられた銅像。そのモチーフとなった猫野和錆であるが猫野和錆を題材に藩国の悪たれ……もとい、悪ガキ……じゃない、彼を尊敬する一部の人間が秘密裏に開発した今回の裏目玉である。

それがこの『名物 和錆弁当』である。

開通記念に伴い、難民達への医療行為などを称えられた猫野和錆をモチーフとしているのは三大目玉である玄霧藩国大神殿前駅・大神殿記念公園・自由市場全てに難民騒動にたいする何らかのモチーフを貫き通しているのである意味当然の結論でもある。

購入しに行ってみると、他所で販売していたように個数限定や先行発売、などと言った言葉が無いにも関わらず、既にかなりの数の人が並んでいた。

これはもしや売り切れになるんじゃないか? と心配になってみたが何とか購入できた。

ただし、これはお昼の時間帯の直前であり、自分が並んだ場所と帰りに見た最後尾ではかなりの長さの差が合ったことを付随しておく。

何とか手に入れたそれを持って大神殿記念公園に移動。
飲み物も買わないと、と思ったのだが弁当にはお茶もセットで付いてきていたので必要無いことに気づいた。

昼食時が近いせいか、様々な露天が声を高らかに売り込んでいる中、どうにかこうにか大神殿記念公園内の空きベンチを見つけ、腰を下ろした所で弁当を開けてみた。

中は……黒と緑だった。

普通のお弁当箱と変わらぬその中には寿司屋などで涙巻きとも呼ばれるワサビを撒いた海苔巻きと、これまたワサビ風味の強い付け合わせが入っている。ワサビだらけである。

ツン、とした匂いに驚きながらも一巻きを口に運んでみた。

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気がついた時、私は涙を驚くほど流していた。

山葵巻きを涙巻きと言うには当然理由がある。当たり前のことだが山葵は辛いのである。
口の中に広がる痛烈な辛みはいっそ愉快であり、涙が零れてくるのをぬぐうことすら忘れる程である。

だが、さすがは名物というか。上質な山葵を使った涙巻きの特徴をご存じだろうか?

それは飲み下すと今度は爽快なまでに山葵の風味が口の中に残り、不思議と後を引くのであるから驚きである。

涙巻きというとどうしても辛くて食べれない、という点もあるのだがこれはその点、十分に考えられているというかこれで3にゃんにゃんは確実に原価が割れてないか、おい。

一緒に付いていたお茶で口の中をゆすぐと既に辛みは取れ、腹の中から山葵のさわやかな風味が立ち上り、鼻を刺激する。

それによってまた手が止まらなくなる。山葵を巻いてあるだけの海苔巻きがどうしてこうも美味いのか?
こんな事があるから口コミや勢いで作った物というのは侮れない。

とはいえ、食べれば辛い。辛いから涙は出る。でも美味いから手は止まらない。

このように制作者側の掌で完全に踊らされていることが判っているにも関わらず、どうしても涙が止まらない。

「ねぇねぇ、お母さん。あのおじちゃん、泣いてるよ?」

「しっ! 見ちゃいけません」

…………何だか別の意味で泣きたくなったが、ぐ、とこらえた。

この弁当は3にゃんにゃん。
確実に原価割れしている事を確認すると関係者一同が黙るという恐ろしい値段設定である。
数に限りは無いがワサビの鮮度の問題とお祭り騒ぎで人が多い事から完売する可能性もありますのでご購入の際はお早めに。
興味のある方は是非ともお試しアレ。

ただし。子供やお年寄りなど、刺激物に弱い方はご遠慮ください。

ちなみに子供・お年寄り用にはカッパ巻き弁当が販売しているので、そちらをご購入ください。


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 玄霧藩国大神殿前駅は、過去から学び未来を紡ぐ、希望の架け橋の入り口である。
 経済的・政治的意味合いなどよりもずっと重要なそれは、確かにここにあり、そして続いていくのだろう。
 共和国全土、そしてtera全域、更にはオリオン・ペルセウスアーム。やがては、全ての世界まで。
 和合によって結ばれたその世界へ、ここは繋がっていくはずなのだ。




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作業者:

イラスト:アポロ・M・シバムラ/イク/しじま/千隼/マイム/猫野和錆
文章:雅戌/癖毛爆男/玄霧弦耶
編集:雅戌/アルト