ある町の公園のある子供の喧嘩の話

●「出来ぬ堪忍」
それはある日の町の空き地での、子供の喧嘩の光景である……。
ジャイアンとノビタは最初は男同士の殴り合いに終始していた。最初の突撃にややひるんだジャイアンも後は体力に任せて殴り返し、ついに小柄なノビタの顔面を捉えてぶっ飛ばし、何ラウンド目かには幾つかのクリーンヒットをノビタの顔面とボディに飛ばして有利な展開となってきた。普段ならばこそでへたれて撃沈するはずノビタではあるが、その日のノビタは何故だか倒れても倒れてもカウントのエイト、ナインでも必ず立ち上がり、ファイトポーズを崩さない。これは少し不思議な事ではあったが、その喧嘩が自己のみの事ならず、やや離れた所でシズカが見守っていてくれていた戦いであったからだろう。
ともあれかくしたノビタの気迫にややびびるジャイアンであったが、ふざけるなと一層の連打を浴びせ掛ける。
しかしノビタはかくした男同士の殴り合いにはいくら殴っても必死に歯を食い縛って耐え、涙を目尻に潤ませながらも決して倒れずに逆に殴り返して向かって来るのである……。ノビタの気迫にやや恐れをなし、またたまの反撃の痛打の痛みに耐えきれず、ジャイアンはそこでルール違反をなし、見守っていたシズカにまで手を出し、それならこれでどうだとか弱い彼女までを思い切り殴りつけたのである。シズカはぶっ飛ばされながらも痛みを押し殺し涙を堪え、健気にも鼻血を流しながらもノビタに「私の事は氣にしないで戦って」「負けないで」とエールを送った。
既にノビタは立っているのがやっとではあったが、シズカに手を出されては無い力を絞らねばならず、決死の覚悟でシズカの前に大の字構えで立ちふさがったのである。
そこには自己を守ると言うディフェンスの観念は全くなく、ひたすらシズカを守らんする捨身の構えであった。自分には大したことは出来なくともシズカを一分一秒でも守りたいと言う必死の思いであったに違いない。「僕をどれだけ殴っても良いからシズカちゃんだけは殴らないで」と心の中で必死に称えたに違いない。
ジァイアンは笑って何度も決死のノビタを殴りつけたが、殴りが五千発近くになっても死を覚悟した決死のノビタは倒れない。顔をはらし、顔面が殴打に二倍にも膨れ上がってもノビタは微動だにしない。かくした必死のノビタには流石のジァイアンも「クレイジー」と言って驚き、かつびびった。そして殴った拳が痛くなりこれ以上は何とも、より以上に殴る事も出来ない立場にも追い込まれたのである。
これ以上の事は……とやや逡巡するジャイアンではあったが、ここでこれまでの普段の喧嘩では決してありえない、人類史上初めての飛んでない事を、追い詰められたジァイアンは遂に犯してしまったのである。つまり何とジャイアンは次にまたより以上のルール違反を犯し、ポケットのナイフを取り出し、ノビタを押し退けて、か弱いシズカを襲い捕らえてその弱い体にナイフを突きたてたのである。
ナイフは深々と突き刺さり、血が吹き出た。
夫れまで如何に殴られても自己の痛みには何とか耐えていたノビタもシズカを痛めつけられては如何せん。彼女を護りきれない自己のふがいなさを恥じ、堪えきれずに涙が滂沱と流れ出てただろう。そして間を置かず、シズカの体の別の場所に深々とナイフを突き刺された時、「僕はどんなことでもするからシズカちゃんだけは助けて」とノビタはついに白旗を掲げた……。

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