(1) | ブリタニカ・コンサイス百科事典(liberalismの項)より全文翻訳 | ||||
政治的および経済的ドクトリン(理論・信条)であり、①個人の権利・自由、②政府権力の制限の必要性、を強調するもの。 | |||||
<1> | リベラリズムは、16世紀欧州の戦争(30年戦争)の恐怖に対する防御的リアクションとして発生した。 その基本理念は、トーマス・ホッブズとジョン・ロックの著作の中で公式な表現を付与された。この両者は、至上権は究極的には被統治者の同意によって正当化され、神権ではなく仮想的な社会契約によって付与されると唱えた。 経済分野では、19世紀のリベラル(自由主義者)達は、社会での経済生活に対する政府介入の撤廃を強く要求した。アダム・スミスに従って彼らは自由市場に基礎を置く経済システムは、部分的に政府にコントロールされた経済システムよりも、より効率的であり、より大きな繁栄をもたらすと論じた。 | ||||
<2> | 欧州と北米の産業革命によって発生した富の巨大な不平等その他の社会的問題への反動として、19世紀末から20世紀初めにかけてのリベラル(自由主義者)達は、市場への限定的な政府介入と、無料の公共教育や健康保険などの政府拠出による社会的サービスの創出を唱えた。 アメリカ合衆国では、F.D.ルーズベルト大統領により企画されたニュー・ディール(新規まき直し)計画により、近代ないし進歩的リベラリズム(modern liberalism)は、①政府の活動領域の広範な拡張、そして、②ビジネス活動の規制の増大、として特徴づけられた。 第二次世界大戦後、社会福祉の一層の拡張が、イギリス・スカンジナビア諸国・アメリカ合衆国で起こった。 | ||||
<3> | 1970年代の経済的不振(スタグネーション:不況とインフレの同時進行)は殊にイギリスとアメリカ合衆国において、自由市場を選好する古典的な自由主義の立場(classical liberal position)の再興を導いた。 | ||||
<4> | 現代リベラリズム(contemporary liberalism)は、①不平等の緩和、②個人の権利の拡張、を含む社会改革に依然関心を寄せ続けている。 | ||||
(2) | オックスフォード英語事典(liberalの項)より抜粋翻訳(※liberalismは派生語扱い) | ||||
(政治的文脈で)個人的自由、自由交易、漸進的な政治的・社会的改革を選好する(形容詞)。 | |||||
語源(ラテン語) | liber(=free (man):自由(人))。原初的語感は「自由人として適格な(suitable for a free man)」 | ⇒つまり「自由人=奴隷でないこと」 | |||
(3) | コウビルド英語事典(liberalismの項)より全文翻訳 | ||||
<1> | ・リベラリズム(liberalism)とは、革命ではなく、法改正によって社会的進歩を漸進的に行う、とする信条である。 | ||||
<2> | ・リベラリズム(liberalism)とは、人々は多くの政治的そして個人的な自由を持つべきである、とする信条である。 |
リベラリズムの段階・種類・区分 | 時期 | 意味内容 | |
<1> | 古典的リベラリズム(classical liberalism) | 16世紀~19世紀 | ①個人の権利・自由の確保、②政府権力の制限、③自由市場を選好…消極国家(夜警国家) |
<2> | ニュー・リベラリズム(new liberalism) | 19世紀末~20世紀 | 経済的不平等・社会問題を緩和するため市場への政府介入を容認→次第に積極的介入へ(積極国家・福祉国家・管理された資本主義) 社会主義に接近しているので社会自由主義(social liberalism)と呼ばれ、自由社会主義(liberal socialism)とも呼ばれた。 |
<3> | 再興リベラリズム(neo-liberalism) | 1970年代~ | スタグフレーション解決のため自由市場を再度選好。 <2>を個人主義から集産主義への妥協と批判し、個人の自由を取り戻すことを重視 |
<4> | 現代リベラリズム(contemorary liberalism) | 現代 | ①不平等の緩和、②個人の権利の拡張、を含む社会改革を志向 1970年代以降にJ.ロールズ『正義論』を中心にアメリカで始まったリベラリズムの基礎的原理の定式化を目指す思想潮流で、①ロールズ的な平等主義的・契約論的正義論を「(狭義の)リベラリズム」と呼び、②それに対抗したR.ノージックなど個人の自由の至上性を説く流れを「リバタリアニズム(自由至上主義)」(但し契約論的な構成をとる所はロールズと共通)、③また個人ではなく共同体の価値の重要性を説くM.サンデルらの流れを「コミュニタリアニズム(共同体主義)」という。 |
補足説明 | <2>ニュー・リベラリズム(new liberalism)と<4>再興リベラリズム(neo-liberalism)は共に「新自由主義」と訳されるので注意。 もともと<1>古典的リベラリズムに対して修正を加えた新しいリベラリズム、という意味で、<2>ニュー・リベラリズム(訳すと「新自由主義」)が生まれたのだが、世界恐慌から第二次世界大戦の前後の時期に、経済政策においてケインズ主義が西側各国に大々的に採用された結果、<1>に代わって<2>がリベラリズムの代表的内容と見なされるようになり、<2>からnewの頭文字が落ちて、単に「リベラリズム」というと<2>ニュー・リベラリズムを指すようになった。 ところが、1970年代に入るとインフレが昂進してケインズ主義に基づく経済政策が不況脱出の方途として効かなくなってしまい、市場の自律調整機能を重視する<1>の理念の復興を唱える<3>ネオ(=再興)・リベラリズムに基づく政策が1980年前後からイギリス・アメリカで採用されるようになった。そのため今度は、<3>を「新自由主義」と訳すようになった。 |
自由民主党が、 | 「liberal democratic party」だという意味の「リベラル」とは | <1>古典的リベラリズムないし<3>再興リベラリズム(現在使われている意味での「新自由主義」)に近く、一方、 |
民主党が、 | 「リベラル左翼政党」と言われる場合は、 | <2>ニュー・リベラリズムないし<4>現代リベラリズムの意味に近いことが分かります。なお、 |
社会民主党や民主党の旧社会党・旧社民連グループ(菅直人など)が | 「護憲リベラル」などと自称していますが、 | 現実には彼らは「社会主義者」であり、東欧自由化・ソ連解体以降に「社会主義」という言葉にマイナス・イメージが定着したために、<2>・<4>の意味合いで「リベラル」を詐称しているに過ぎません。注意しましょう。 |
<2>ニュー・リベラリズム 及び <4>現代リベラリズム(の中のロールズ派) | を | 「リベラル左派」(左翼の一つ) |
<4>再興(=ネオ)・リベラリズム | を | 「リベラル右派」(真正リベラル) |
進歩重視 | 伝統重視 | |||
親・全体主義 (閉ざされた社会) |
I 左翼 (共産主義、社会主義、リベラル左派) |
⇔親和性高い⇔ (左/右しばしば転向) |
V 右翼 (国民社会主義※1、ナショナリズム) |
反・白人/反・英米的 親アジア傾向、独裁制 |
‡非常に対立的 | II 中間(便宜主義) | ‡反・左翼で一致だが潜在的には対立 | モボクラシー(衆愚制) | |
親・自由主義 (開かれた社会) |
III 真正リベラル (本来のリベラル=リベラル右派) |
⇔親和性高い⇔ (伝統に根ざした自由) |
IV 真正保守 (伝統保守) |
親・文明/親・英米的 デモクラシー(民主制) |
Political Stance | Ultra-Left | Left-Winger | Liberal | Centrist | Neo-Liberal | Conservative | Right-Winger | Ultra-Right | ||||
政治的 立ち位置 |
極左 (急進・過激派) |
左翼 (革新) |
リベラル左派 (中道左派・進歩派) |
中間 (オポチュニズム) |
リベラル右派 (新自由主義) |
保守 (伝統保守) |
右翼 (ナショナリズム) |
極右 (急進・過激派) | ||||
政治制度 | 一党独裁 (全体主義) |
指導政党制 (準全体主義) |
選択的多党制・政権交代を前提 (純度の高い議会制デモクラシー = 自由民主制 liberal democracy)※2 |
指導政党制 (準全体主義・権威主義) |
一党独裁 (全体主義) | |||||||
革命(Revolution)断行 | 革命・クーデターによる政体変更を否認 | 維新(Restoration)断行 | クーデター断行 | |||||||||
経済制度 | 共産主義 | 社会主義 | 資本主義 | 国民社会主義※1 | ||||||||
経済政策 | 国家管理 | 高負担・高福祉 | やや高負担・高福祉 | 功利主義・無定見 | 最小限の介入 | 中負担・中福祉 | 高負担・高福祉 | 国家管理 | ||||
外交政策 | 親大陸(反英米) | 親英米(反大陸) | 反英米・反大陸 | |||||||||
日本の事例 | 社民党(旧社会党) | 自民党 | ||||||||||
日本共産党 | 民進党 | 維新政党新風 | ||||||||||
生活の党 | 公明党 | おおさか維新の会 | 日本のこころを大切にする党 | |||||||||
海外の事例 | 米・露 | ソ連共産党(現:ロシア共産党) | 民主党(米) | 共和党(米) | 統一ロシア(プーチンの与党) | 自由民主党(露) | ||||||
英国 | 労働党(英) | 自由民主党(英) | 保守党(英) | |||||||||
ドイツ | 左翼党(旧東独社会主義統一党) | 社会民主党(独) | 自由民主党(独) | キリスト教民主同盟・社会同盟(独) | ドイツのための選択肢 | ナチス党(消滅) | ||||||
中・台 | 中国共産党(支) | 民主進歩党(台) | 中国国民党(華・台) | |||||||||
国内メディアの 立ち位置 |
赤旗 (共産党支持) |
朝日・毎日・中日・NHK (民主・社民支持) |
読売・日経 (大連立・中道志向) |
産経 (自民支持) |
チャンネル桜 (保守派支持) |
※読売は「保守」ではなく「便宜主義」 ※産経も「保守」ではなく「中道右派」 |
リベラリズムの段階・種類・区分 | 小分類 | 主な提唱者 | 説明 | |
<1> | 古典的リベラリズム(classical liberalism) | (1)コモンロー 歴史的な“国民の権利” |
コモンロー学者・司法官(E.コーク、W.ブラックストーン) スコットランド懐疑派(D.ヒューム、A.スミス) E.バーク |
E.コーク卿
はイギリス国王の横暴な要求に対してH.ブラクトンの「王は人の下にあってはならない。しかし国王といえども神と法の下にある」という法諺を引いて抵抗し“法の支配”の伝統を確立、またマグナ・カルタ以来のコモンローの伝統的解釈を発展させ、イギリス臣民の歴史的権利を確認する『権利請願』(1628)を起草し国王の承認を得た。更にコークは医師ボナム事件の判決においてコモンローに反する法律(制定法)は無効であると判示して制定法に対するコモンローの優位を確立した。 W.ブラックストーン は『イギリス法釈義』を著して英米法体系を明確化した。 D.ヒュームは懐疑主義哲学を唱えて大陸合理論の理性主義・設計主義(一元論・決定論)に反対する多元論的・非決定論的思想を唱導し、また『イギリス史』を著してイギリス史は「意志による政府から、法による政府へ」の発展であったと論評した。 アダム・スミスは『国富論』を著して「神の見えざる手」により経済秩序が自ずから形成される事を主張した。なお「自由放任」を唱えたのはA.スミスではなく後述のJ.ベンサムである。A.スミス自身は政府による最小限の一般ルール策定・監視は必要と唱えている。 |
(2)社会契約説(自然権に基づく権利) | T.ホッブズ、J.ロック | 清教徒革命期にホッブズは『リバイアサン』、名誉革命期にロックは『市民政府ニ論』を著して、それぞれ自然状態から人民が社会契約を互いに結んで国家を創設する、という仮説を立てた。特にロックは前記の著作によってリベラリズムの定礎者と(後世の学者によって記述)される場合が多いが、実際には彼の社会契約説はD.ヒュームによって否定されており、また彼のリベラリズムの学説自体は(1)の流れを引く同時代の多数の人々によって打ち立てられた説を焼き直したものである。 | ||
(3)功利主義 | J.ベンサム、J.S.ミル、H.シジウィック、H.スペンサー | |||
<2> | ニュー・リベラリズム(new liberalism) | (1)初期の提唱者 | T.H.グリーン、L.T.ホブハウス、J.A.ホブソン | |
(2)ケインジアン | J.M.ケインズ、W.ベヴァリッジ | |||
<3> | 再興リベラリズム(neo-liberalism) | - | F.A.ハイエク、K.R.ポパー、I.バーリン、M.フリードマン | |
<4> | 現代リベラリズム(contemporary liberalism) | (1)狭義のリベラリズム | J.ロールズ、R.M.ドゥオーキン | |
(2)リバタリアニズム | R.ノージック | |||
(3)コミュニタリアニズム | M.サンデル、M.ウォルツァー、A.マッキンタイア、C.テイラー |
ソーシャリズムの段階・種類・区分 | 小分類 | 主な提唱者 | |
<1> | 空想的社会主義(utopian socialism) | サン・シモン、フーリエ | |
<2> | マルクス主義(marxism:共産主義 communism) | (1)提唱者 | K.マルクス、F.エンゲルス |
(2)マルクス・レーニン主義 | I.V.レーニン | ||
(3)ドイツ・フランスの修正社会主義 | フランクフルト学派 | ||
<3> | フェビアン主義(Fabianism) | - | ウエッブ夫妻、B.ショウ |
<4> | 国家社会主義(state-socialism) | ||
<5> | 戦後西欧の社会主義 |
価値多元論(批判的合理主義) | 価値一元論(設計主義的合理主義) | |||||||||||||||
古代~中世 | 無知の自覚 ・ソクラテス |
中世ゲルマン法の伝統 ・マグナ-カルタ |
キリスト教的自然法論 | 理想国家論 ・プラトン | ||||||||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||||||||||||
16~17世紀 | モラリストの懐疑論 ・パスカル |
コモン・ロー司法官/法律家 ・コーク |
近代自然法論 ・グロチウス |
→ | 社会契約論1 (君主主権) ・ホッブズ |
← | 理性主義(一元論、決定論を含む) ・デカルト ・スピノザ | |||||||||
・モンテーニュ | ・ブラックストーン | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | |||||||||
・マンデヴィル | ・ペイリー | → | 社会契約論2 (国民主権) ・ロック |
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | |||||||||
↓ | ・ヘイル | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||||||||||
18世紀 | スコットランド啓蒙派 ・ヒューム ・A.スミス |
↓ | ↓ | 社会契約論3 (人民主権) ・ルソー |
フランス啓蒙派 ・ヴォルテール ・百科全書派 | |||||||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | |||||||
フランス革命以降 | 近代保守主義 ・バーク |
↓ | フェデラリスト ・ハミルトン |
↓ | 功利主義 ・ベンサム |
ドイツ観念論 ・カント |
空想的社会主義 | 無政府主義 | ||||||||
↓ | ・マジソン | ↓ | ・J.S.ミル | ・フィヒテ | ・サン-シモン | ・バクーニン | ||||||||||
19世紀 | 歴史法学派 | ↓ | ↓ | ・スペンサー | ・ヘーゲル | ・フーリエ | ・プルードン | |||||||||
・トックヴィル | ・サヴィニー | アメリカ的保守主義 | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | |||||
・メイン | ・マーシャル | ↓ | 人定法主義 | フェビアン社会主義 | 新ヘーゲル主義 (プラトン的理想主義) |
ヘーゲル右派(民族重視) | ヘーゲル左派 (唯物論重視) |
↓ | ↓ | |||||||
・ケント | ↓ | ・オースチン | ・S.ウエッブ | ・グリーン | ↓ | ↓ | ↓ | |||||||||
↓ | ・ショウ | マルクス主義 ・マルクス ・エンゲルス ・第一インター | ||||||||||||||
・アクトン | ↓ | ・ケルゼン | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | |||||||
20世紀 | ↓ | ・シュミット | リベラル社会主義(ニュー・リベラリズム) ・ホブハウス |
↓ | ナチズム ・ヒトラー ・ローゼンベルク |
マルクス-レーニン主義 ・レーニン |
西欧マルクス主義 ・グラムシ |
修正社会主義(社会民主主義) ・ベルンシュタイン | ||||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ・ケインズ | ↓ | ・第三インター | ・ルカーチ | ・第二インター | |||||||
第二次大戦以降 | 現代保守主義 ・オークショット |
再興自由主義 ・ハイエク ・ポパー |
→ | リバタリアニズム (自由至上主義) ・ノジック |
・ベヴァリッジ | → | 平等論的リベラリズム ・ロールズ ・ドォーキン |
コミュニタリアニズム (共同体主義) ・サンデル ・ウオルツァー |
・コミンフォルム | ・フランクフルト学派 | ・コミスコ |
価値多元論(value-pluralism)⇒人々を「自由」に導く思想 | 価値一元論(value-monism)⇒人々を「隷従」に導く思想 |
個人主義(individualism) | 集産主義(collectivism:集団主義) |
歴史・伝統重視の思想 | 集産主義ではないが理性による究極的価値への到達を説く思想 |