きんいろ

きんいろ

  • 作者 70
  • 投下スレ 2スレ
  • レス番 70-71
  • 備考 電波

70 きんいろ 1/2 sage 2007/03/15(木) 11:07:52 ID:ykeVitX4
 嫌な色をした二つの目がわたしを見つめている。顔は陰になっていて見えないのに、濁った光を放つ双眸と弧を描く真っ赤な口だけが鮮明だ。

 ああ、またあの夢か……。

 「私」は夢の中で嘆息する。

 わたしは腕を掴まれていて逃げることが出来ない。目の前に立つ悪魔のような存在が怖くて泣き出す寸前だけど、こんな変なやつに涙を見られるのが嫌で意地になって暴れ続けた。

 ああ、「私」はこの続きを知っている。

 ―――金色。

 ああ、「私」が鮮明に記憶している最後の情景。

 あっという間に悪魔を追い払った金色はまるで絵本に出てくる王子様のようで、わたしは金色が正義の味方に違いないと思った。

 ああ、長い時が流れた今でもこうして夢に見る、「私」の王子様……

 金色は自分は正義の味方ではないという。外国人でもないらしい。けれど、わたしは金色の髪の毛で誰かを助ける人は絵本でしか見たことがない。日本人の髪の毛は黒で、金色は特別だ。だからこの人は特別な存在に違いない。

 ああ、「私」の特別な人。

 金色の

 あなたの

 名前は――



71 きんいろ 2/2 sage 2007/03/15(木) 11:08:39 ID:ykeVitX4
 ぱしぱしと頭を叩かれる感触に意識が急激に覚醒した。

「――――う」

「ようやく起きたか」

 彼の優しい声がかけられる。

「もう時間だぞ。早く支度をしろ」

「……うん。今日は手術の日だっけ」

 手術。医療技術が発達し、視力を与える義眼が開発されたのは記憶に新しい。私はそれの被献体第一号だ。

「やっぱり怖いか?ごめんな、俺は側に付いていてやることしかできない……」

「くすっ。謝らないで。これは私が望んだことだもの」

 そう、私が彼の反対を押し切って決めたこと。彼が気に病む理由はない。

「…そうか。わかった。車の用意をして待ってるからな」

 彼が部屋を出ていく。私はいつものように手探りでクローゼットを開き、服を手に取る。

 早く病院に行こう。目が見えるようになったらやりたいことが二つある。

 彼の絵を描いて、

 彼と桜を見る。

 さあ、行こう。約束を、果たすために。

 怖くなんかない。胸は希望で一杯だ。

 明けない夜は――――――ないのだから。

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最終更新:2007年06月29日 21:55
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