ジュウ×円 2


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  • 作者 497
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619 497 sage 2006/12/23(土) 01:46:20 ID:PFoG3msv
遅れたけど続きを


 ややあって円の激情の波も引き、落ち着きを取り戻すと、あとはただ耳の痛くなるような静寂の中、ジュウは何時の間に
かなんとなく抱き合うような格好になっている二人の体勢に思わず赤面し、先程の勢いに任せた自分の恥ずかしいセリフ
をも思い返して石のように固まってしまった。頭と体が熱くなり、耳で知覚できるほどの拍動が鐘のように頭の中で反響し
、モーター音にも似たノイズと化して鼓膜を圧迫する。
 が、円の方ではそんな事に斟酌するでもなく、やおら彼の肩から顔を上げ、グイと胸を手で押しやるようにしてあっさりと
身を離した。抱いていた仄かな温もりが去って言われぬような寂しさを感じた事に驚きながら、しかしジュウの身体はなお
燃えるような熱を抱えたままだった。
 「……迷惑、かけちゃったわね」
 それが、少しばかり胸から肩にかけて感じる濡れたシャツの感触に対する物なのか、それともそれも含めた今日の全て
に対する物なのか、ジュウには判断が付かなかったので、
 「迷惑なら、俺だってお前に色々かけたからな」
 「……本当に、変な人ね」
 無表情に、じっとジュウの顔を見つめていた円は、不意にフッと困ったように笑うと、そんな風に相変わらず褒めている
のか貶しているのかよく分からない事を言った。
 「それじゃあ、迷惑かけっぱなしのままでなんだけど、今日はそろそろ失礼するわね」
 「もう帰るのか」
 「ええ。このままいても、あまりお互いにとって愉快な事にはなりそうもないしね」
 そこで一旦言葉を切って
 「それとも……さっきの続きでもしたいの?」
 たちまち沈黙するジュウに、
 「まあ、今あなたにそう言われたら私からは断れないけど」
 冗談ともつかないような事を呟く。そして続けた。
 「……みっともない所も見られちゃったし、今更格好つけるでもないけど、この借りは今度きっちり返すから、そのつもり
でいて」
 「いや、別に俺はそんな気にしてないから」
 「私が気にするのよ。……何を笑ってるの?」
 普通に礼を述べる筈が、挑みかかるような口調のせいか、妙に不穏当に聞こえた円のセリフについ笑ってしまったジュ
ウは、鋭い視線で睨まれるが、涙の跡も消えきらない少し赤い目ではいつものような迫力が無くて、彼は苦笑しつつ「すま
ん」と謝った。それをなおも睨んで……はあ、と諦めたように一つ溜め息をつくと、
 「元は私が悪いんだから、別にいいけどね」
 とぼやく。
 まずかったかな、と思いつつも、拗ねた口調が少し可愛らしく思えたが、それを口に出して言うとなお不機嫌にさせてしま
う事は分かっていたので、そしらぬ顔をして横を向き、シャツの胸元を摘んでパタパタと風を起こす。なにか、先程よりも体
が熱いような気がしていた。円が涼しげなのに対して何故自分だけが?と疑問も浮かんだが、とりあえずは場所が悪いの
だろう、とドアを開けて居間に出る。
 「丁度、雨も止んだみたいだな」
 カーテンを引いて窓を開けると、外は既に軒とそれに程近い草木から夕立の余韻が垂れ落ちるだけで、空は既に曇天一
掃されて夕暮の赤光と忍び寄る宵闇とが彼方で混じり合って紫色に変じつつあった。
 「そうね、いいタイミングだわ」
 振り返ると、自分の後について部屋を出てきたらしい円が壁に片手をついてこちらを見ていた。
 「それじゃあ、お邪魔したわね。さようなら」
 一瞬だけ目が合って、しかし彼女はそう言うとあっさり踵を返し、止める間も無くその長い足を玄関の方へと向けて踏み
出して、はたと立ち止まり、黙って振り返った。ジュウを見るその瞳には、やや迷いの色が覗く。疑問符を浮かべるジュウ
に向かって少し口篭もってから、彼女はゆっくりと口を開いた。


620 497 sage 2006/12/23(土) 01:47:19 ID:PFoG3msv
 「柔沢君」
 「……なんだ?」
 「今日は、色々と、あの……ありがとう」
 照り返す夕日のせいか、赤く染まった顔に、純粋な感謝の微笑みを浮かべた円は、有り体に言って非常に魅力的で、
ジュウは跳ねるように高まる鼓動を感じつつ照れ隠しのように
 「下まで、送って行こうか」
 そう言って彼女の方へ一歩を進め……ようとして、不意にその場に崩折れた。
 「柔沢君?」
 驚きの声を上げる円の事も気にする余裕も無く、ジュウは全身から脂汗を流しつつ酸素を求めて喘いだ。喉が収縮して
息が詰り、ドクン、ドクンと心臓が飛び出しそうに大きく、速くその拍音を打ち鳴らし続ける。ずっと感じていた熱は既に異様
なまでに高まって全身を炙るように苛み、脳をも沸き立たせ、溶かし尽くすような灼熱と化している。目の前が時折真っ白
い光で満ちて、それが苦痛よりもむしろ恍惚と快感を伴っているのにジュウは恐怖した。そして虫の羽音のような物で塞が
れた聴覚に、時折何者かが呼びかける声が響いた。
 ……セ。
 それは、徐々に強く、獰猛な響きを持って近付いてくるように思われた。
 ……カセ。
 それが、知らずしてとても恐ろしい物だと気付いてジュウは耳を塞ごうとしたが、それは明らかに己の内側から響いてくる
声だった。
 ……オカセ。
 その時、丁度彼の肩にほっそりとした優しげな手が置かれた。反射的に、ジュウはそれを掴む。そして顔を上げた。
 目を丸くしてこちらを覗き込んでいる少女と目が合った。最早それが誰なのかすらも思い出せないほどに混濁した思考
の中で、なおも声が叫ぶ。それはまさしくジュウ自身の声であった。
 この女を、犯せ。
 それが、この灼熱に晒され、乾ききった己の求める物なのだと、飢えを満たす物なのだと気づいた時、ジュウの身体は
理性を裏切って少女の体を引き寄せ、床へと組み敷いていた。そしてそのまま、襟元へと手をかけて力任せに引き千切っ
た。ボタンが幾つも飛び散り、裂けたシャツが大きく捲れ上がって、シンプルだが品の良い青いブラジャーに包まれた真っ
白い胸が露出したところで、呆然としていた少女がようやく我に返ったように短く悲鳴を上げた。抵抗しようとするが、両手
首をジュウが掴み、馬乗りになっている状態では何も出来ない。
 だがうるさい。煩わしい。そう思って、ぐいと片手で彼女の両手を纏め上げると、空いた方の手で拳を作り、振り上げた。
びく、と一つ震えて抵抗が止む。こちらを見上げるその見開かれた目に、怯えと共僅かに涙が盛り上がったのを見て、不
意にジュウは拳を止めた。頭を何かが過る。これと似た光景。この娘を泣かしてしまった。もうそんな事は嫌だと思った筈
の、そんな光景がどこかで……。
 衝動と、理性とが再びせめぎあう。頭の傷口が割れそうに痛む。他人には想像も付かないような脳内の地獄変。だが遂
に抗し得ないと判断したジュウの理性は、最後の力で歯を食いしばらせ、唇の端を噛み千切った。鋭い痛みと共に鉄の味
が口の中に広がる。そしてその合間から、縺れた舌が言葉を紡ぐ。
 「な……ぐ、れ……おれ、を……な、ぐ……て」
 その一瞬に、手の力が緩み、そしてするりと蛇のようにそれをすり抜けた感触と共に、ジュウは下から顎を突き上げる
ような衝撃を感じて、それを最後に彼の意識は闇に溶けた。


621 497 sage 2006/12/23(土) 01:48:32 ID:PFoG3msv
 どう、と自分の体を掠めるようにして前のめりに倒れこんだジュウの体を苦労して仰向かせながらその下から這い出して
、円はふう、と一つ息をついた。ジュウは完全に失神しているようだった。自由になった両手で、斜め下から顎を掌打で打
ち抜いたのだから無理も無いが、下半身を押さえられた状態で咄嗟にそんな真似が出来たのは彼女なればこそだろう。
ついでに言えば、ジュウがやや前屈みの状態で、全くの無防備でいた事も幸いした。
 それにしても、と円は思った。一体彼の変貌はどういった訳なのだろうか。
 ジュウがこんな事をする人間ではない、という事は、円には痛いほどよく分かっていた。それぐらいならば最初の自分の
思惑が図に当っていた筈である。だが、最後に自分に向かって「殴れ」と言った彼はいつもの彼だったように思えた。
 そう言えば、と円は彼の顔を上から覗き込む。唇の端が裂けて痛々しい傷口を見せてはいるが、それよりも心配なのは
頭の傷の事だった。咄嗟の事で気遣う余裕も無かったが、今の打撃で傷口が開いたりはしなかったか、またそうでなくとも
何かしら影響があったかもしれない。病院での検査では異常は無かったが、だからと言ってこう一日に何度も頭部への衝
撃を受けては、喩え丈夫な彼でも危険だ。
 そう思って、穏やかな顔で目を閉じたジュウの額にそっと手を伸ばしかけた所で、彼が不意に苦しげに顔を歪めた。心配
が当ってしまったか、とやや青褪めて急いで携帯を取り出そうとした円の目線は、しかしある一点で止まった。それはジュ
ウの天を衝くように自己主張をするその分身であった。ズボンの上からでもはちきれそうに張り詰めている事が分かるそれ
は、あるいは先程の異常な行動とも併せて頭部の以上の証左なのかとも思えるが、それよりも円には強く、これがそう言
った事とは別の事として、自分のせいである、と思えた。
 ≪円堂≫の家は、紅読者の諸氏には言うまでもない事だが、裏の世界においての名門である裏十三家の一派である。
どの家も、各々凶悪と言っていいような能力を持ち、それを主に血によって引き継いでいる点では共通するが、全てが全
て戦闘を生業とするかといえばそういう訳でもない。≪円堂≫などはその典型であり、それが故に表の勢力と融和する事
にも成功した。
 すなわち、≪円堂≫の女子は、生まれながらにしてその身体そのものを男性に対する最大の武器として備えて生まれる
のだ。その身体で男を蕩かし、骨を抜き精を搾り取り心までも我が物とする。或いはそのまま全ての精を吸い尽くして木乃
伊としてしまう事も出来る。喩えその肉の誘惑から逃れようとしても、その体液は性的興奮の高まる所たちまち男を誘う媚
薬と化し、大気にも溶けて男を獣に変える。美しき食虫花。円がジュウを自分の体で誘って自分の物としようとしたのは、
決して彼女の傲慢でも自惚れでもなかったのだ。
 それが叶わなかったのは、円が≪円堂≫が表に交わった後数世代を数えた為かやや血が薄まっていたせいで、≪円堂
≫の家でもそれは分かっていたので、それを目覚めさせるべく苦心惨憺した。如何に生まれながらの能力とは言え、子供
の頃からあまり無茶な事をする訳にはいかなかったからである。だから、特殊な性教育をまず知識として詰込み、幼い彼
女を洗脳して自分達の都合の良いように育てようとした。だがそれは破れ、円にはその家に対する反発と男への嫌悪感だ
けが残ったのだ。家を飛び出さなかったのは、何処まで逃げても遂に逃れる事叶わず、という確信を持たせる≪円堂≫の
手の長さの故である。そして、途絶した事により中途半端なものに終わった円の自らの体への知識は、その媚薬効果につ
いてはほとんど知らなかった。だから、それがジュウの変貌に関わっている事を確信したのは、ほとんど本能に基づく直
感のような物である。
 ともあれ、円の愛撫は直接体液をジュウの体内へと注ぐ事は無かったが、その全身を舐めつくした。即効性においては
さほどでもないが、全身を覆い尽くすようなそれは徐々に内側へと染み入って、ジュウを獣へと変えたのだ。そして、気を
失った状態でもなおそれは彼を責め、苛んでいる。
 時折苦痛のうめきを漏らして、背を逸らすジュウを見る円の目には、後悔の痛みだけがあった。
 「……ごめんなさい」
 一瞬だけ決然とした光を宿した目を伏せてそう言い、そっとジュウの手を握る。外側はゴツゴツとしているが、掌は存外に
柔かかった。それをそっと、自分の胸へ当てる。
 「ッん……!」
 少しだけの嫌悪が混じった快感の声が吐息のように漏れる。深層心理から来る抵抗の意思が少しだけ彼女を躊躇させ
たが、それもすぐに快楽に取って代わられる。


622 497 sage 2006/12/23(土) 01:49:14 ID:PFoG3msv
 「くっ……ふぅ、ン……」
 声を出さぬように努めながら、ジュウの手をつやつやとして引き締まった己が腹に、腰に、脚に這わせる。同時に、片手
で器用に彼の腰のベルトを外し、下着まで取り去ると、勢いよく隆起したジュウの物がまろび出た。一瞬息を呑んで、改め
てそれに繊手を添えると、
 「ぅあっ」
 ジュウの叫びと同時、不意にそれは大きく震えて、大量の白濁した液を吐き出した。それは円の手を汚し、ジュウ自身の
腹にまで垂れてようやく止まったが、なおその硬度は全く衰えを見せない。
 うっとりとそれを見つめ、噴き出した物を甘露の如くに舐め取りながら、ジュウの指を下着越しに自らの秘部へと触れさせ
る。
 「ひあっ!」
 電気の走ったような、形容しがたい感覚につい叫んで、しかしそれを恥ずかしがるような余裕も無く、円は小刻みに震え
ながらなおもジュウの指でそこを擦りたてる。くちゅ、と湿った水音が響き、やがてそれが大きくなってくる。ジュウの胸に
顔を伏せて声を殺し、寄添うようにしながら、ひくひくとその身を痙攣させていた円は、やがて気だるげに身を起こし、膝立
ちになるとその下着を取り去る。粘液の糸すら引きつつ取り去られたそれを無造作に放ると、彼女はそっとジュウの体を
跨ぐ。
 ジュウは変わらず治まらぬ勃起に苦しみ、うなされている。放っておけば、その苦しみだけで気がおかしくなってしまうし、
また普通に射精させていては出す物が尽きるまで射精を繰り返し、やがて死に至る。それを防ぐ方法は、一つしか無かっ
た。だが無論円は知識としてそんな事は知らない。ただ自分が原因でこうなったのならば、自分の体でしか彼を救えない、
という事だけは分かっていた。
 ゆっくりと照準を合わせて腰を降ろし、しとどに濡れそぼった部分を勃起に宛がう。
 「んっ、う……」
 何の感慨も、躊躇も無く、そのまま下半身を沈める。一瞬ぷつりと何かが弾けたような感覚と共に、ジュウの物が最奥に
到達し、円は声にならぬ叫びを上げて仰け反った。それは愛液と共に流れ出た一筋の血の痛みではなく、むしろ背骨を通
って脳まで貫き通るような圧倒的な快感による物だった。
 「っは、あ、あん……やあぁぁ……」
 意味の取れないあえぎが口を突いて出る。背を丸め、必死に声を殺そうとするが、彼女の膣はそれを嘲笑うように蠕動し
、ジュウの物にゆるゆると巻き付くように蠢き、またその次にはキツく締まって扱きたてた。それに連動するように、彼女の
腰も本人の意思とは無関係に自然と動き始める。
 「あっ、ふぅっン、くっああ、んぁっ、い……ひン……!」
 当然今のジュウに一たまりのある筈も無く、夢現に絶頂の声を上げて、あっさりと欲望を吐き出した。だがそれまでの絶
頂と違ったのは、それが容易に止まらなかった事である。円の子宮へと直接熱泥の如き白濁が叩きつけられ、それがみる
みるとそこを満たしていくのを感じて、彼女は悲鳴を上げた。
 「あっ、やあ……ダメ、熱、子宮、熱い……!」
 噴出はやがて止まったが、円の子宮口とジュウの鈴口は接着したように離れずにいた。そしてそこから、まるで互いの
性器が溶け出して混じり合っていくような感覚が襲ってきた。二人の間の境目が、ジュウと円の、男と女の、二つの生命の
間の垣根ごと溶けて、一つに還っていくような、それは丸きり未知の快楽で、円は気が遠くなって前のめりに倒れかけ、寸
での所でジュウの顔を両手で跨ぐようにしてつき、体を支えた。涙と涎が吹き零れて、ジュウの顔にぱたた、と降りかかる。
 だが円は絶頂には達していなかった。彼女の自制心は、それを許さない。円にとっての空手は、強くなる事よりもむしろ
自身を律し、制して、己を、円堂円を守る事に眼目を置いていた。≪円堂≫の家の人形とならない為に。それは彼女にとっ
ての唯一の武器であり、また頼りでもあった。


623 497 sage 2006/12/23(土) 01:49:54 ID:PFoG3msv
 だからこそ、風呂場でジュウに押し倒された時、いや、それよりも先に自らがジュウを押し倒した時も、肉欲に溺れて本
能の赴くままに快楽を貪っている、それを受け入れようとしている自分自身に恐怖し、怯えた。自分の修行の日々は、何
だったのか。全てこの身の内の忌々しい血の前では、無駄な努力だったのか。考えてみると、その事ばかりではなく今日
の自分は全く自らを律せていない。まるで何も知らなかった、あの無力な子供の頃のようだ。
 忌まわしい記憶と共に快楽に止め処も無く襲われて、波の中の小船のように円の意識は揺さぶられ、持ち上げられ、
叩きつけられてその中へと沈みゆく。
 「だめぇぇ、ダメ……うああぁぁんっ!」
 白い、上質な陶器のような喉を反らして泣き叫ぶ。もうダメだ、と心の片隅で思った。自分は壊れてしまう。その心に纏
った鎧ごと壊されて、剥き出しにされて、そうしたら自分は人形になってしまう。男の都合の良いように弄ばれ、道具として
使われる人形に。
 助けて。誰か助けて。
 心中の叫びに応えるように、見下ろしていたジュウの瞼がゆっくりと開き、霞んだようなぼうっとした目で円を見上げた。
だがそれは、円にとって今の自分の姿を一番見られたくない相手だった。
 「見ないで……!」
 泣きながらそう言った円は、直後不意にジュウの腕が頭の後ろに回されるのを感じた。


 ジュウは、夢を見ていた。
 最初は、闇黒淵の中で何か得体の知れないモノに責められ、弄ばれる夢だった。それは快楽を伴いながら、けして満た
されぬ渇きだけをジュウに与え、もどかしさに気も狂わんばかりになってジュウは悶えたが、やがてそれは眩いような光と
共に一変した。万華鏡の如き華美なる光景が明滅し、幾つも自分の周りを流れてゆき、天来の福音が耳を打ち、ふわふ
わとその中で浮きつ流れつ、ジュウは恍惚の中にいた。そしてその果てに……。
 (ここは、何処だ?)
 手足を縮こまらせて、ジュウは自問した。狭苦しい、だが何故か居心地の良い、そこは水で満たされていた。その中でプ
カプカと浮かびながら、しかしジュウは息苦しさを感じなかった。それが、母の胎内なのだ、と気づいた時、ジュウは泣きた
いような笑いたいような気持ちになった。
 自分は、ここに環りたかったのか。あんな横暴な、暴力的な、身勝手な、気まぐれのような優しさしか振り撒かないような
あんな母親の中に……。
 だが、それも長くは続かなかった。彼はその居心地の良い場所から引きずり出された。ジュウは泣いて嫌がったが、抗し
難い力で外の世界の荒渦へと放り込まれた。そしてその中で、揉みくちゃになりながら、ふと声を聞いた。それは遠く、微
かな泣き声だった。誰かが泣いている。そちらへと泳ぎだして、ひょいと水槽でも見るように覗き込む。
 泣いていたのは、母だった。
 傲慢な母が、強い母が、あの不敵な母が、自分を抱き締めて泣いていた。
 それは一体何時の記憶か。一体何があったものか。ジュウには全く覚えが無い。或いは夢の中の、幻影だったのかもし
れない。しかし、その光景は酷くジュウの心を痛めた。
 泣かないで。お母さん、泣かないで。ジュウはどうすればいいのか分からなくて、何時の間にか覗き込んでいた自分が
子供の自分の視点と同化している事にも気付かず、ただ母を抱き締め返した。自分の思いが通じるように。お母さんが泣
き止みますようにと。


 ジュウは目を開けた。目の前に、泣いている女の子がいた。それが誰だかは分からなかったが、何故だか彼女が泣いて
いると胸が痛んだ。だからそっと彼女の事を抱き締めて、そして言い聞かせるように言葉を紡いだ。
 大丈夫だよ、泣かないで。
 身悶える彼女の耳元で囁く。
 守ってあげるから、もう泣かないで。
 恐れるような、喜ぶような、或いは赤子の産声のような嬌声を彼女が上げた。そして、ジュウは不意に彼女の名前を思い
出した。
 好きだよ、円。
 そう言うと、彼女は顔を起こしてジュウを涙で一杯の目で見つめ、不意にその唇をジュウのそれに重ねた。


624 497 sage 2006/12/23(土) 01:50:36 ID:PFoG3msv
 円の舌がジュウのそれと絡み合い、そこから二人の熱が一つになって、繋がり合い、円の涙も、ジュウの言葉も、全てが
ただ一個の炎熱と化した。
 円の背に震えが走って、合わせた唇の間からくぐもった声が漏れた。それは生まれて初めての、彼女の心からの快楽
の声であった。それは長く、長く続き、そして二人の唇が離れてもなお続いた。
 「イクぅ、イクイクイクっ!もうダメ、柔沢君、もう……!」
 円の顔は恍惚に蕩け、しかしそれは女としての幸福を確かに表していた。ジュウはそれを単純に、綺麗だ、と思った。
 「あぁぁぁあっ、イクぅぅっ!」
 そして二人は同時に目の前が真っ白になったのを最後の思考としたまま、夢も見ず深い眠りに就いた。


 翌朝早く。ジュウは目を覚ました。
 「ようやくお目覚め?」
 「ん……あれ?円堂?」
 寝ぼけ眼で声のした方を見やると、円がテーブルに頬杖をついてこちらを半眼で見ていた。
 「なんだ?一体何が……」
 「貴方の服、借りたわよ」
 言われて見ると、円の着ている服は確かにジュウの物だった。混乱して、一体何があったのか聞くと、円は何故か少し
安堵したような顔で説明してきた。どうやら昨日円を見送ろうとした所でジュウは貧血で意識が朦朧として倒れかかり、そ
れを支えようとした円の服に、頭部の傷口が開いて漏れ出た血が付いたらしい。そんなに血は出なかった筈だが、とジュ
ウが首を捻ると、円は平然と
 「一部に血が集まりすぎてたからじゃない?」
 などと言ってきたので、かえってジュウの方が赤面した。
 ともあれ、自分のせいで服を汚してしまったからには弁償を、と彼が申し出たが円は、借りはこっちにあるから、と取り合
わない。そうしている間にもジュウは何か引っ掛かる物を感じ続けていたが、それが形を成す前に円が
 「それじゃあ、柔沢君も起きたみたいだし、そろそろホントに帰るわね」
 と言ってきたので、慌てて立ち上がろうとして、ヨロめいた。
 「まだしばらくは寝てた方がいいわよ」
 何か頭よりも腰に力が入らないようだ、と思いつつもジュウはその声を無視して立ち上がり、円の方へと歩き出した。彼
女は既に背を見せて歩み去りつつあり、玄関まで行ってそれに追いすがる。
 「一晩も付き合わせちまって、悪かったな。ありがとう、円堂」
 「大した事じゃないわ。でもまあ、どういたしまして」
 肩越しに、片頬と片目だけ覗かせて円はそう言った。声の調子は柔かいが、何故か此方を真っ直ぐ見ない彼女。考えて
みると、起きてからこっち一度もまともにこちらに顔を向けようとしない。一晩も面倒をかけられていたのなら、もう呆れて自
分の顔など見たくなくなっても仕方ないのかも知れないとは思うが、なにかそういう感じでもないような気がする。
 「なあ、円堂」
 「……なに?」
 靴を履きながら、答える円。
 「なんで、こっち見ないんだ?」
 「……見てるわよ」
 白々しくそういう彼女に何となく気になって、ジュウはその肩に手をかけた。
 「なあ」
 「……っ!触らないで!」
 反射的にそれを振り払って、その勢いに思わず自分から手を離した為に勢いあまって振り返ってしまった円と、ジュウの
目が合った。
 瞬間、白蝋のような頬に薄く朱が差す。それを呆然として見つめつつ、ジュウは思わず口走っていた。
 「円……」
 「……!名前で……」
 何故だか泣きそうな顔で、円は叫んだ。
 「呼ばないでっ!」
 物凄い勢いで円の蹴りが正面から腹に炸裂し、ジュウは数メートルも吹っ飛んで壁に激突した。円はその間に、振り返り
もせずにドアを開けて走り去っている。
 ゆっくりとドアが閉まるのを見送りつつ、ジュウは、やっぱり女は分からない、と思った。

<終?>
ツールボックス

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