『レディオ・ヘッド リンカーネイション』Ⅰ-Ⅴ


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『レディオ・ヘッド リンカーネイション』

  • 作者 伊南屋
  • 投下スレ 1スレ
  • レス番 444 450-452 456-458 474-475 507-508 512-514
  • 備考 雨が語った前世の話という設定

444 伊南屋 sage 2006/11/03(金) 16:00:47 ID:raYm8cxX
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』

 焦土を、風が吹き抜けていく。
 端々が灼け焦げ、破れた軍旗がそれに煽られ、ばたばたとたなびいている。
 そこに満ちた、噎せ返るような死臭は風が吹けど晴れることはなかった。
 昨日まで此処は戦場だった。幾千、幾万の命が一塊の駒として扱われ、散って逝った。
 その戦場跡には勝者も敗者もなく、等しく死のみが在った。
「また、人が死んだな」
 荒野を見ていた青年が呟いた。所々、泥で汚れながらも金色の髪だけは輝きをそのままに風に揺れている。
「戦乱の世にあって人が死ぬのは仕方の無いことです」
 青年の後方。影のように付き従う少女が答えた。
 その少女は長い黒髪を垂らし、身を包む鎧を血に汚していた。
 今回の戦争の勝者である王が青年であり、戦いで最も武勲を挙げた剛の者が少女であった。
 青年は少女の言葉に溜め息を一つ吐き。その瞳に愁いを込めて零した。
「それでも、やはり哀しいのだ。人の命が喪われるのがどうしようもなくな」
「でしたら」
 少女は応える。
「王が、世を統べれば宜しい。私共はそれを願い付き従っているのですから」
 その言葉に青年は決意とも取れる表情で。
「そうだな」
 と呟いた。
「さあ、皆が待っております。お戻りになって下さい」
「……ああ、分かった」
 一度だけ、青年は焦土を眺め回すと身を返し歩み始めた。
 傍らに少女を従え、重い足取りで一歩毎踏みしめるように。
「俺が、統べる世か……」
 だれにも聴こえぬ声で青年は洩らした。

 それは、一人の王が世を統べる、少し前の話。

450 伊南屋 sage 2006/11/05(日) 16:56:15 ID:qL2oc5oa
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅰ.
 クラウチ大陸東部に位置する小国。ギミア。
 小国、と言うのはかつての事であり。今はいくつかの隣国を武力で平伏し、列強の仲間入りを果たしたばかりの今最も勢いのある国である。
 年若き王は『獣王』と呼ばれ、古くから続く大国には野蛮な侵略国であると疎まれている。
 ただ、実際に武力を振るい他国を侵略したと言えるかは微妙な所であった。


「――以上で、拠度の“防衛戦”の戦果報告を終わります」
 兵卒が手にした目録を読み上げたことを告げる。
 被害、得た領地など今回の戦にまつわる収支である。
 それを質素な、一応は玉座となっている席で聞いていた青年は盛大に溜め息を吐き出した。
「これで……何度目だ」
 傍らに控える少女に声を掛ける。声を掛けられた少女は事も無げに。
「六度になります」
 と答えた。
 ――六度。六度に渡りこの国は侵攻を受けた。
 その全てを退け、逆に攻め入ってきた国を落とし、この国はその版図を広げてきた。
 そして、ただの一度として自ら攻め入るということは無かった。付け加えるならば、本来この国に戦争をするだけの余裕は無いはずだったのだ。
 それでも生き残れたのは、一騎当千の武人であると同時に、無二の知謀を持つ軍師である。今、王の傍らに控える少女に拠るところが大きい。
 そして、そんな綱渡りのような戦争をこの国は繰り返してきた。
「いい加減……俺は疲れたぞ」
 故に青年が漏らしたその言葉は偽らざる本心であったと言えよう。
「今日はもう、休む。後を任せるぞ」
 傍らの少女にそう残すと、青年は立ち上がり私室へと引き返した。


 私室に戻った青年は、わき目も振らず寝具へと身を投げ出した。
 数週間にも渡る戦を終え、王ながらも前線に立ったその身には疲れが堆積しておりすぐにでも眠れそうだった。
「お疲れだね、ジュウ様」
「…………雪姫か」
 視線を巡らせば部屋の片隅に、部屋に入る前から既にいたのだろう。少女が立っていた。
 長い髪を後頭部にまとめ、背に垂らした少女は瞳に悪戯な光を湛え微笑んでいた。
「なにをしてる。まがりなりにも此処は王室だぞ」
 ジュウ。そう呼ばれた王は眠りを妨げられた不愉快さも露わに少女を睨む。
 少女――雪姫は苦笑すると、寝具の端に腰を下ろした。
「一応、ジュウ様の事を労いに来たんだけど……邪魔だった?」



451 伊南屋 sage 2006/11/05(日) 16:58:54 ID:qL2oc5oa
 雪姫は王を相手にしながらも対等に話す。ジュウもそれを嫌がるでもなく、対等の言葉で返す。
「邪魔だ」
 その言葉に雪姫はむっ、と頬を膨らませる。
「そんな事言うジュウ様は嫌いだな~」
「別に構わない。だから寝かせてくれ」
「あ~。ウソ嘘、嘘だから。そんなふてくされないでよ」
 余りに素っ気ないジュウの態度に、一度は見せた不機嫌な態度をあっという間に軟化させる。
 ジュウは投げ出した身を起こし、雪姫に改めて聞いた。
「それで、結局何しに来たんだお前は」
「だから言ったでしょ? 労いに来たんだって」
 そう言って雪姫は身を擦り寄せる。ジュウは軽く身を引きながら。
「……夜伽など、侍頭のお前がする事ではないだろう」
 言って、雪姫を制した。
 ――そう、この雪姫という少女は侍頭の地位を与えられた、歴としたこの国の武人である。
 侍頭・斬島雪姫。うら若き女性なれど、この地位まで昇り詰めた実力は確かなものである。
 そのような女性が、今更身を売るような真似をするとは考え憎い。
 そして、それ以上に。
 彼女がふざけているのだとジュウは個人的な付き合いの中から、経験則的に察知していた。
 しかし、結局腹の探り合いに置いては雪姫に一日の長がある。
 ジュウは一言を返した時点で、既に雪姫の術中にはまっていた。


「う……」
 声が上がる。それはジュウが発したものだ。声音には心地良さそうな響きが含まれている。
「ふふ……」
 ジュウの上には雪姫が跨っている。その身を使い一心にジュウへと快楽を与える。
 雪姫は微笑みながら身を屈め、ジュウの耳元に唇を寄せた。
「夜伽が……なんだっけ?」
 その言葉にジュウは顔を赤くする。枕に顔を沈め雪姫には見えぬようにはしているが雪姫は雰囲気でそれを察知したようだった。
 くすくすと笑いながら腕に力を込める。
「ふ……っう」
「どう? 気持ち良いでしょ?」
「……ああ」
 ジュウは与えられる刺激に、心地良さと屈辱感を同時に覚える。
「やらしいねジュウ様は。“労る”って言っただけで夜伽を連想するなんて」
 雪姫が更に力を込める。
「私は、こうしたかっただけなのに」
 ジュウの背中に体重が載せられ、圧迫される。
「ねえ、ただのマッサージなのに」
「分かったって言っただろう!」
 余りに執拗な雪姫にジュウが吼える。先からマッサージの最中。ずっとこの調子なのである。



452 伊南屋 sage 2006/11/05(日) 17:03:14 ID:qL2oc5oa
 確かにマッサージは上手いが、これでは身体が休まれど心は休まらない。
「暴れちゃ駄目だよジュウ様。……間違って変なツボ圧しちゃうかも知れないから」
「なんだその“変なツボ”って……」
「んふふ、知りたい?」
「……いや、遠慮しておく」
 雪姫は「残念だな」と呟くと再びマッサージに集中する。
 黙ってさえいればこのマッサージは極上だなとジュウは思った。
 確かに凝り固まった筋肉が解され、詰まっていた血が流れていくような気になる。
 加えるなら、背に跨る雪姫の太ももにしても、柔らかく甘美な刺激となっているのだが。
 それについてはジュウ自身が心中で必死に否定していた。
「はい、おしまい」
 最後に肩の辺りを平手でぱんぱんと叩き、マッサージの終了が告げられる。
 ジュウの背中から雪姫が降りる。
「……一応礼は言う。ありがとうな」
「ん、どういたしまして」
 雪姫はそう言って立ち上がる。
「それじゃ、後はゆっくり眠って疲れを取ってね。王様が体壊しちゃだめだよ?」
 ジュウは、分かっている。とばかりに頷いてみせる。
 それを確かめると雪姫は廊下へ繋がる扉に向かい。取っ手に手を掛ける。
 そこで雪姫は思い出したようにジュウを振り返った。
「言い忘れてたけど」
 そう言って、あの悪戯な笑みを浮かべ。
「夜伽さ。ジュウ様が望むなら、お相手するからね?」
 それだけ言って扉を開け。ジュウが何か答える前に出ていってしまう。
「……あいつは」
 最後の最後でどっと疲れさせられた気気がする。
 残した台詞は考えないことにして、ジュウはまどろみの淵に身を浸す事を選んだのだった――。

続く

456 伊南屋 sage 2006/11/06(月) 19:31:13 ID:pPyBBiTT
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅱ.
 夜の帳をランプの灯りが掻き消す室内。執務机の上、黙々とペンを走らせる音だけが聞こえる。
 その音の主は、常に王の傍らに控えていた少女だ。
 名を堕花雨という。
 本来は騎士団長であり、斬島雪姫同様この国の武の要であるはずの彼女が片付けているのは国政に関する書類の山である。
 元来は王であるジュウが片付けるべきものではあるが、雨が王直々に判断を下すまでもないとしたものは、代わりに雨がその裁量にあたっている。
 今は戦が終わったばかり、細々とした雑務から大規模工事。国の方針決定などするべき事は山とある。
 必然。雨が受け持つ仕事も多くなっている。
 暫くはろくに休めまい。そんな個人的な心配と、国に関するあることを憂い雨は小さく溜め息を吐いた。
「珍しいね。お姉ちゃんが溜息なんて」
 雨に茶を差し出し、雨の妹――光が声を掛けた。
 光は雨の側近として、せめてもの雑用くらいはと雨を手伝っている。そんな側近として、また妹として。稀に見る姉の溜息に心配をしたのだ。
 礼を言いながら茶を受け取り、雨は答えた。
「心配なの。この国は今、とてつもない勢いで大きくなっている。それは良いことなのだけれど……勢いが強すぎるの」
「どういう事?」
「国の基盤が整わない内に、否応なく巨大化しているのよ。このままでは細部に手が回らなくなって国が荒れるわ」
 事実、国政の人員配備は十分と言えず。辺境等は現時点でしても手が回りきっていないのが事実だ。
 雨の言葉通り、このまま国が肥大化を続ければ、いずれ国は瓦解してしまいかねない。
 雨はそれを憂いているのだ。そして「それに」と付け加え続ける。
「地方領主の中には国属を拒否する姿勢の者もいるわ。彼等を説得しなければ税の徴収もままならない」
 ――つまり、この国は肥大化の速度に追いつけず末端が機能していないのだ。
 生物は末端が機能しなければそこから壊死を始める。
 国も同様だと雨は考えていた。
 綱渡りなのはこれまでの戦以上に、国政の現状であった。
「幸いと言うべきか。ある地方領主が巨大な権力を有していて、そこさえ説得出来れば他の領主の多数も従えられるわ。
 だから近い内、そこへ説得に赴かなくてはならないわ」
 そこまで言って雨は二度目の溜息を吐いた。
「またジュウ様には苦労をかけてしまうわ……」



457 伊南屋 sage 2006/11/06(月) 19:33:22 ID:pPyBBiTT
「良いのよ、どうせ飾りの王様なんだから。こういう時くらい役に立ってもらわなきゃ」
「光ちゃん」
 光の言葉を雨が強い口調で遮る。
「あの方は決して飾りなどではないわ。たしかに今は未熟な王だけれども。いずれは、この戦乱の世を平定するに足る大器をお持ちよ。
 ……だからこそ私はあの方に仕えているのだから」
 そう強く語る雨の想いは真っ直ぐで。例え妹である光といえどそれ以上は何も言えなかった。
 雨は執務机に向き直ると。
「今日はもう遅いわ。光ちゃんは先に眠りなさい」
 と言って、自分は再び書類と格闘を始めた。
 光は無言でそれに従い寝室へと向かった。
 光が去り、雨一人となった室内。
 ただ、ゆらゆらとたゆたうランプの炎だけが、雨を照らし続けていた――。

続く


458 伊南屋 2006/11/06(月) 19:55:09 ID:pPyBBiTT
『レディオ・ヘッド補足授業』

「作者が未熟なので本文で追い切れていない設定について補足する本コーナー。司会兼講師の堕花雨です」
「……早速だが質問だ」
「なんでしょうジュウ様?」
「前世の話なのに名前なんかが全く一緒なのは何でだ?」
「実は前世は言語体系など全く違う文明の国です。ですから前世は前世で名前があるのですが名前が違うと誰が誰か混乱する為に現世の名前を本文では用いています」
「なるほど」
「というのは建て前で本当は名前が思い付かなかっただけらしいですが。
 ちなみに私はレイン・フォールブルームと言う名前が用意されていたそうです。まんまですね」
「……」
「他に質問はありませんか?」
「はいはいはいっ!」
「雪姫、どうぞ」
「実際ジュウ君が治めている国はどんな国なのかな?」
「本文内の文明レベルは中世ヨーロッパ……という事ですが一概にそうは言えないようです。
 特にジュウ様が治める国は柔軟に他国の文化を受け入れ様々な思想、文化が入り乱れています。
 そのあたりは現代日本みたいですね」
「私の前世が侍頭だったり雨の前世が騎士団長みたいに色んな体系がごっちゃになってるけど?」
「それも上記の理由ですね。前世世界において戦国日本に似た国がありますからね。
 そこから大和式戦術とでも言うべきものを吸収したのでしょう、騎士団は昔からあったようです。逆に侍衆は最近出来た部隊ですね」
「お姉ちゃんが国政をやってるみたいだけどやっぱりアイツは飾りなんじゃないの?」
「それはやはり間違いですよ光ちゃん。実際、国政の深くに関わる部分はジュウ様が直に裁量を下しています。
 私の前世がやっているのはそれこそサインをするだけの書類や私が裁量を下しても問題にならない程度のものです」
「ふーん」
「さて、今日の補足授業はこの辺にしましょうか」
「まだ質問があるんだが……」
「いけません。あえて今回は一部ぼかした部分もありますからこれ以上突っ込んだ質問をされると作者的にはネタバレとなってしまいます」
「そ、そうか……」
「申し訳ありませんジュウ様」

「(伊南屋)と言うわけでレディオ・ヘッド リンカーネイション。今暫く……長くなりそうではありますがこれからも宜しくお願いします。次回はレディオ・ヘッド続きかリクエストになるかと思われます。それではまた。
 毎度、伊南屋でした」

474 伊南屋 sage 2006/11/10(金) 18:48:11 ID:ekNWcoY5
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅲ.
「何故、私が……」
 がたがたと揺れる馬車。御者が、不服たっぷりに呟いた。
 森の中、殆ど野道のような通りを馬車が走っている。向かうは東方。とある地方領主の治める集落である。
 朝早くから城を出た馬車だったが今は日も暮れ掛けている。
 その長い時間。ジュウは御者が漏らす割と短い間隔で聞こえてくる呟きを聞き続けていた。
「しょうがないよ。騎士団長は国を離れられないんだしさ」
 今回の遠征に護衛として同行している雪姫がもう一人の同行者たる御者に慰めともつかぬ言葉を掛けた。
「私が交渉の同行をするのは良い。だけど国政は王にやらせて団長が交渉にあたればいいって言っているの」
 ぶっきらぼうに答える御者――騎士団副長・円堂円に雪姫は溜め息を交え言った。
「だから~……ジュウ様が直接交渉にあたる事で誠意を見せて少しでも説得を確かなものにする。そう雨に三回、私からは十回以上説明したよね?」
 道中何度もこのようなやり取りが繰り返されている。
 ジュウはそれを聞きながら、そう思うのも仕方ないかと思った。
 自分は未熟者。加えて円は自分を、いや男というものを嫌っている。
 雨が国政を行っているのだから雨に王権を譲れと、本気で迫られたこともある。
 と、そこまで考えて自分が敬意の対象になりえていない事実を思い出す。
 円然り、雨の妹の光も自分を嫌っている節がある。雪姫は友好的ではあるが、それは敬意には程遠い。
 唯一雨だけがはっきりと自分に対して敬意を払ってくれている。
 しかし、ジュウは第一に自分が敬意を払うに値する人間だとは思っていないので、この状況を別に悲観するでもなく受け止めていた。
「なにぼーっとしてんの? ジュウ様」
 遠く思索に耽っていた意識が引き戻される。
「なにか考え事?」
 覗き込み、訪ねる雪姫に対して、ジュウは事も無げにさらりと。
「お前達の事を考えてた」
 と答えた。
「……」
 暫くの沈黙。しかしそれは長く続かない。
「やぁーっだ! ジュウ様何言ってんの、やだ恥ずかしい~!」
 実に嬉しそうに身を捩らせながら雪姫がジュウをばしばしと叩く。
「そんな事さらっと言うからダメなんだよ~?」
 自分が言った言葉の破壊力に気付かず、ジュウはただ痛みを訴え戸惑うばかり。
「あ~ん、も~。雨や光ちゃんにも聞かせてあげたい~。ジュウ様ったら凄いカッコイい~」



475 伊南屋 sage 2006/11/10(金) 18:49:29 ID:ekNWcoY5
 異様な雪姫の反応にジュウは更に戸惑いを深める。
「……これだから男は」
 呟く円の棘のある言葉も、何故そんな事を言われるのか分からない。
「なん……なんだ?」
「ねえ、ジュウ様」
 戸惑うジュウなどお構いなしに雪姫がジュウに言った。
「今日一緒に寝よっか?」
「なんでそうなる!?」
「あ、一緒に寝たらむしろお互い眠れないかも」
「だからなんで!?」
「……優しくしてね?」
「いや、聞けよ!?」
「バカなこと言わないでよ。特に王」
「俺かよ!」
 そんな風にして一向を載せた馬車は東へ東へと進んでいく。
 馬車からは絶えず馬鹿馬鹿しい会話が漏れ聞こえたという――。

507 伊南屋 sage 2006/11/25(土) 14:13:35 ID:0v0a0v87
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅳ.
 夜――。
 辺りは暗く。月は隠れ、地を照らすのは星灯りだけ。
 重い緞帳を落としたような闇の中、一向の馬車は足を休まざるを得なかった。
 予定していた街に辿り着けず、仕方無く街道の脇で野宿をする事になった。
 焚き火の爆ぜる音、橙の炎を囲み、三人は腰を下ろしていた。
「下らない足止めを食ってしまったわね」
 呟いたのは円だ。つい数刻程前の出来事を思い出し、忌々しげに毒づく。
「山賊なんて、数ばっかり揃えた烏合の衆に時間を取られるなんて……」
 円は最後に、これだから男は。と付け加えた。
「数ばかり居て手間取るんだよね~。ましてやこちらは三人しかいないし」
 応えて呟いた雪姫に、ジュウが反論する。
「……なんで俺が頭数に入ってるんだ」
 言ったジュウは、所々にかすり傷が目立つ。先の襲撃ではジュウもその身を危険に晒しながら戦ったのだ。
「良いじゃん、戦争の時だって前線にいるんだし」
「まあ……それはそうだが」
 しかし、だからと言って一応は王なのだ。その辺の三流武人に遅れは取らない、ましてや山賊なら楽に倒せる程度には戦えるとは言え、それも精々が一対三あたりまで。
 それ以上となればある程度は捨て身になり、それなりの怪我は覚悟しなければならない。
 今のように、十五人を相手に一人当たり五人などと言って、更にその五人を倒しても、無傷で息一つ上がらない円や雪姫とは訳が違うのだ。
 それでも、そこまで口にしないのはジュウの、プライドや意地と呼ばれるものからだった。
「ただ、一つ気になるんだよね」
 珍しく声に真剣さを帯びさせた雪姫が言った。
「あいつら、山賊にしては動きが整いすぎじゃなかった?」
「それは私も感じたわね」
 雪姫と円は、山賊の動きがそれらしからぬ事に気付いていた。
 それ自体はおかしくはない。敗戦国の残党が徒党を組んで山賊行為に走るのはよくある話だ。それならば山賊でも統制の取れた動きは納得がいく。
 しかし、二人は更に彼等の動きが妙に戦い慣れたものであると思った。
 しかも、それはエリート兵卒の、研ぎ澄まされた刃のように洗練された動きではない。
 むしろ、使い慣らされた鉈のような、野戦に合わせた動きであると感じた。
 そんな戦い方をするのは大方、傭兵と呼ばれる人種だ。
 しかし傭兵ならば、この戦乱の世。戦争のある国に雇ってもらい、そこで戦った方が収入は多い。



508 伊南屋 sage 2006/11/25(土) 14:17:18 ID:0v0a0v87
 つまり、傭兵ならばわざわざ山賊に身をやつす必要はないのだ。
 となれば、考えられる事は限られてくる。それは例えば――。
「山賊に見せかけた、私達を狙っての襲撃?」
 円の弾き出した答えもその一つ。ジュウと領主の会談を快く思わないもの。もしくは領主その人からの差し金か。
 いずれにせよ会談を阻止せんと何者かが暗躍している事になる。
「もしくは、なんらかのトラブルのとばっちりを受けたって所かな?」
 雪姫の答えもまた、可能性の一つ。狙いは自分達ではなく他の誰か。
 その理由が何にせよ、自分達はただの巻き添え。
 もっとも、これらの答えのどちらかが答えだとすれば、いずれにせよ不穏な気配は変わらない。いつ再び襲われないとも限らないのだ。
「まったく……今日は寝ずの番でもするか?」
「そうね、呑気にキャンプ気分で野宿って感じではないわ」
「じゃあ三人交代ね。出発は日の出と共にしよう」
「って、また俺が頭数に入ってるのかよ」
「当たり前でしょ。自分の身は自分で守りなさい」
 あっと言う間に段取りが定められる。
 ジュウが反論する間もなく見張り番も定められた。
 もっとも、ジュウも反論する気はさしてないので不満はない。第一、一応文句は言ったがどの道見張り番はするつもりだったのだ。
 焚き火を消し、最初の見張り番となった雪姫を残し、ジュウと円は馬車の幌に入り、眠る事にした。
「なんかしたら殺すわよ」
「なんもしねぇよ」
「ジュウ様、私と一緒の時は襲って良いからね!」
「見張ってろ!」
 一通りツッコミ終えたジュウは、何事もなければ良いと、切実に願いながら眠りに落ちる。
 月を隠す雲はさらに広がり、星も隠し始めている。
 更に闇は深くなりつつあった――。

512 伊南屋 sage 2006/11/26(日) 21:10:32 ID:OZntjXEf
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅴ.
 闇の中、なお影に沈む森を駆ける足音。息荒く、地を踏みしめる足はただ前を目指す。
 より速く、より遠く。逸る気持ちは汗を滲ませ、心の中で焦れていく。
「くそっ!」
 漏れるのは悪態。苛立ち紛れの、誰に向けたわけでもない言葉。
 いや、向ける人間はいた。今、一歩でも遠ざかろうとする追手。
 どれくらい引き離したのか。振り返る事は出来なかった。
 まるで、すぐ後ろ。肩に息が掛かるほどの距離に、敵がいる気がして。
 違う。耳にかかる息は、背に負った少女だ。自分が守ると決めた少女だ。敵じゃ、ない。
「もうすぐ、街道だ……」
 街道に出れば、後は領主を頼る為に街道を進むだけ。そうすれば、或いはこの少女を救えるかもしれない。
「見えた……っ」
 闇の中に浮かぶ、僅かに薄い闇。常人には気付けない明度の差から、森の出口を悟る。
 一息に駆け抜ける。壁のような左右の樹が消える。現れるのは、雲に覆われた空。
 闇から闇に出た。
「っはぁ!」
 足を止める。まだ走れる。なのに足は震えていた。
「こんな時にっ!」
 膝を叩きつけ、頭を上げる。見えたのは馬車。
「こんな所に……?」
 何故、馬車が。いや、それよりこれは天の助けかも知れない。
 乗せて貰えれば自分の脚より速く、領主の下へ向かえる。
 幌の中で野宿をしているだろう主に声を掛けようと歩み寄る。
「大丈夫なのか?」
 背から、声。心配そうに少女が呟いた。
 言われて気付く。先回りした追っ手かもしれない。気付いて身が強張る。一度は止まった震えがぶり返す。
 その時、風が吹いた。
 風は雲を運び、雲の切れ間を作る。
 そうして月が夜空に曝された。
 月光に浮かび上がる。馬車の傍らに佇む人影。
 朧気な人影は女性のものだった。
 その姿は段々とはっきりし、少女の姿を象る。
 そして、少女は言った。
「君、如何にも普通じゃないけどさ……」
 笑みを浮かべ。
「君は敵かな?」

 ***

「君は敵かな?」
 雪姫は、森の向こうから現れた人影に向かって言った。
 丁度、雲の切れ間から月灯りがその姿を照らす。
 自分達と同年代だろう。
 どことなく、初めてとは思えない雰囲気を感じる少年だった。
 その背には、まだ十にもなっていない、精々が七つか八つの幼い少女。
 二人とも何かに怯えているようだ。
 少なくとも自分と、それ以外の何かに。


513 伊南屋 sage 2006/11/26(日) 21:12:43 ID:OZntjXEf
 答えない少年に、再び雪姫は尋ねた。
「君は、敵なのかな?」
「……それはこっちの台詞だ」
 強がり。雪姫には分かる。その態度が虚勢だと。しかし、だからと言って油断することはない。気を抜けば、急鼠猫を噛む。手痛い反撃を喰らいかねない。
 何故ならば、少年の怯えた雰囲気とは裏腹に、佇まいには隙がない。闘いと言うものを知っている者の姿だ。
 ならば虚勢はそうと悟らせる芝居。油断をさせる構えか。
 故に雪姫は穏やかに応えた。
「多分、敵じゃないと思うよ。私達はここの領主に仕事で会いに来ただけだし。昼間、山賊だか傭兵だかに襲われたから一応警戒してるんだ」
「山賊……?」
「分かんないけどね。事実としてあるのは、私達が襲われたって事だけ」
 少年はしばし思案して問いを返した。
「その中に、無駄にえばり散らした奴と両腕にガントレットをしたデブを見なかったか?」
「随分な言い方だね。……見てないよ。少なくとも私達を襲った連中にはね」
「そうか……」
 再び思案に耽ろうとした少年を、雪姫は制する。
「今度はこっちの質問に答えてよ」
「……答えられる事なら」
「うん、じゃあ追われてるんだよね? なんで追われてるの?」
 少年は背負った少女を振り返る。暫くそうして考えたのだろう。再び雪姫に向かい答えた。
「悪いが、答えられない」
「う~ん、そっか……。じゃあ理由は良いとして、誰に追われてるの?」
「悪いがそれも……」
「困ったな~。こういう時に雨が居れば効果的な質問が出来るんだけど」
 呟きながら腕を組み頭を傾げる。
「ん~……じゃあ名前、名前は? あ、あたしはね雪姫って言うの」
 少年は一転して無関係になった質問に目をぱちぱちさせた。
 余程拍子抜けしたのか口まで開いている。
 少女は自分でそれに気付き、慌てて表情を引き締めた。
 そうして、少年はようやく質問の答えを一つ答えた。
「俺は、真九郎。紅真九郎だ」

 ***

「紅真九郎くんか……」
 雪姫と名乗った少女は真九郎をまじまじと見つめながら呟いた。
 その視線にどこかくすぐったいものを感じてしまう。まるで品定めされているようだとも思う。
「それで、その娘は?」
 視線が真九郎の背後に移る。肩越しに少女達の視線が絡んだ。
「真九郎、降ろしてくれ。このまま名乗るのは失礼にあたる」
 その言葉に従い、背中から降ろしてやる。しっかりと確かめるように足を踏み締める。



514 伊南屋 sage 2006/11/26(日) 21:16:09 ID:OZntjXEf
 彼女はずっと負ぶわれていたので久方振りの地面なのだ。
「しっかりした娘だね」
 微笑みを浮かべる雪姫。その一瞬、真九郎はあることに気付く。
「私は……」
 今まさに名乗らんとする所を、真九郎は遮った。
「こっ、この娘は俺の妹で紅……紅紫だ」
「真九郎?」
 振り返り、訝しげな表情を浮かべる少女に、真九郎はしゃがみ込み耳を寄せる。
「……お前の名字は出さない方がいい……」
「……相手は悪い人間ではない。真九郎も分かるだろう?」
「……それでもだ。お前が九鳳院の人間だとは悟られない方がいいんだよ」
 真九郎の言葉に一応の納得をしたのか、紫は不承不承頷く。その渋い表情も一瞬で消し去り、改めて名乗った。
「紅……紫だ」
「紫ちゃんか、よろしくね?」
「……よろしく」
 雪姫と紫、互いに微笑みを浮かべる。割とこの二人、仲良くできそうだ。
「さて……次の質問と行きたい所だけど」
 雪姫が言った。
「ちょっと長話が過ぎたかな?」
 言葉と同時、気配。
「なっ……?」
 気配の数は、二十前後か、取り囲むように配置され逃げ場はない。
 驚くべきは今の今まで存在を察知させなかった手腕。一人一人が手練であると分かる。
「山賊まがいの傭兵に、隠密暗殺部隊。どうやら予想は私が当たったみたい。……嬉しくないけどね」
 雪姫が真九郎には分からない言葉を漏らす。溜め息を一つ吐くと馬車の中に居るらしい仲間を起こす。
「起きて! ジュウ様、円! 敵襲!」
 中に声を掛けると真九郎の方へ向き直る。
「紫ちゃんを馬車の中に!」
「あ……ああ!」
 急ぎ、紫の手を引き馬車に駆け寄る。辿り着くと、馬車の中に紫が引き込まれる。
 入れ替わりに出て来たのは、金髪の少年と、ショートカットの少女。
「……誰?」
 本当に眠っていたのか疑いたくなる程はっきりと少女が雪姫に尋ねる。
「説明は後、こいつら片付けてからね」
「また、戦うのか……」
 金髪の青年はいかにも起き抜けといった風情で、欠伸を噛み殺している。
「ほら、しゃんとする!」
 雪姫に言われ、背筋を伸ばした少年に、真九郎は何か近しいものを感じた。
 似た者同士の共鳴というか、とにかくそういった物を。
「さあ、来るよ!」
 雪姫の声に、真九郎は身を緊張させる。
 包囲の輪は狭まり、戦闘態勢は完成している。
 刹那の静寂。
 風が吹いた。
 それを合図にそれぞれが駆け出す。
 闘いが、始まった。
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