1スレ369


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  • 作者 伊南屋
  • 投下スレ 1スレ
  • レス番 369-370 374-376 381-382 386-389
  • 備考 紅 完結

369 伊南屋 sage 2006/10/11(水) 04:28:15 ID:UPcvsXXA
 真九郎は目の前に意識を集中する。
 揺らぐような動き。微かな予兆。一瞬のタイミング。全て見逃さぬよう。
 構えた腕に力を込める。
 一時の静寂。
 そして――。
「はっ!」
 瞬間、真九郎の腕が跳ね上げる様に振るわれる。
 飛沫を上げ、“それ”が水面下より現れる。
 そのまま手首を返し、今度は腕を下へ薙ぐ。
 びしゃっ。と熱を孕んだ液体が地に飛び散った。
「……どうです?」
 真九郎が傍らに立つ男へ視線を向ける。
 逞しい腕を惜しげもなく晒し、やはり分厚い胸板の前で組んだ男は、その厳めしい表情に更に険を現す。
「……悪くはねえ、だが……」
 真九郎はただ、男の次の言葉を待つ。
「麺を茹でるだけで力み過ぎだぜ、シンちゃん」
 男が苦笑いを浮かべた。
 真九郎はその言葉にがっくりと肩を落とし、腕に握ったザルから麺を丼へと移した。
「シンちゃんはどうも真面目過ぎていけねえ。もっと気楽にやって良いんだぜ? 第一、麺の茹で加減自体は申し分ねえ」
 慰めるように男――村上銀正が真九郎の肩を叩いた。

 ――あれから、真九郎は揉め事処理屋の仕事を減らし、その分の時間をこうして楓味亭でのアルバイト兼ラーメン屋修行にあてていた。
 今は、閉店後の指導。
 と言っても、ラーメン作りに関して真九郎は全く素人同然。そのため初歩として麺茹でから入った。
 とりあえず一通りの指導を受け、最後に簡単なテスト。
 結果は、見ての通りである。
「まあ十分合格だ。後はやっぱ肩の力を抜くこったな」
 銀正は豪快に笑い、厨房の片付けを始める。
 真九郎もそれに習い、片付けの手伝いをする。
「私も手伝う」
 それまでカウンターで一部始終を見ていた銀子も、真九郎の隣に立ち、それに加わる。
「あんた、バカなんだから下手に考えない方が良いんじゃない?」
 銀子が呟いた。
 付き合う事になった今も、こういう所は変わらない。
 しかし、真九郎も言い返す。
「そう言うなよ。お前の為にやってるんだぞ?」
 お前の為に、という部分を強調して言う。
 銀子が、ぼっ。と顔を真っ赤にした。
「うるさい、バカ!」
 偶然洗っていたお玉で額を打ち抜き、銀子は逃げるように店から出て行く。
「言うねえ」
 銀正がぽつりと呟く。
「はい、嘘じゃ無いですから」
「ますます言うじゃねえの」
 そう言って銀正が笑う。

 日常は変わり、真九郎自身も変わりつつあった。
 ――そして、周りも。


370 伊南屋 sage 2006/10/11(水) 05:10:53 ID:UPcvsXXA
「真九郎さん」
 昼休み、たまたま廊下ですれ違った崩月夕乃に真九郎は呼び止められた。
「銀子さんと、お付き合い始めたんですって?」
 別段隠しているわけでもない。真九郎は「はい」と頷いて見せる。
「そうですか……」
 夕乃の表情に陰りが見えたのは気のせいか。真九郎は何となく次の言葉を躊躇う。
「真九郎さん。今日、家に来て下さい。私と、お祖父ちゃんから大切な話がありますから」
「……はい」
 答えた真九郎を見て、夕乃はあっさりと行ってしまう。いつもならもう二、三言葉を交わすのに。
 それでも、そんな事も有るか、と真九郎も歩き出す。
 歩む足取りは新聞部。銀子の下へ。
 手に下げた弁当を揺らさぬよう。それでも一時でめ早くと。
 真九郎は足を早めた。

「――ってわけだからさ。今日のバイト遅れるっておじさんに言っといて」
 先の廊下での一件をに伝えると、銀子は一瞬だけ眉根を寄せるたが。
「分かった」
 と言った。
 付き合い始めて以来、銀子も変わってきている。
 銀子も情報屋としての仕事は減らしているらしく。PCを弄る姿はめっきり減った。
 そして、今日の様に弁当を作ってくれたりも。
 朝、手渡された弁当を机に置く。
 本来ならば今渡されるべきだったのだろうが。朝の内に何でもないかのように渡されてしまった。
 それはさておき。とりあえず開けてみる。
 中は派手さはないものの、どれも美味しそうに見えた。
 銀子らしい。と思った。
 卵焼きを箸で掴み頬張る。
 僅かな甘味が口の中に広がる。
 ふと、隣を見ると銀子がじっ、と真九郎を見つめていた。
 無表情ではあるが、内心不安なのだろう。それが分かった。
 だから真九郎ははっきりと言ってやった。
「美味い」
 と。
「――そう」
 親しく付き合ってきた真九郎にしか分からない微かなレベルで、銀子が安堵に表情を緩める。
 それから、互いに言葉を交わしながら弁当を食べた。
 時折弁当を褒めながら。
 その度、銀子がくすぐったそうにするのが伝わって。真九郎も嬉しくなった。

「あ――」
 弁当を食べ終え、くつろいでいた所でチャイムが鳴った。
「……行くか」
 立ち上がり。歩み出そうとした真九郎を、ほんの微かな抵抗が留めた。
 見ると銀子が袖を摘むように掴んでいた。
 それだけで全て伝わる。
 真九郎は一度だけ。軽くキスしてやる。
 ――先の卵焼きの名残か。
 微かな甘みが唇にした。

374 伊南屋 sage 2006/10/11(水) 20:34:53 ID:UPcvsXXA
 放課後。真九郎は崩月の屋敷を訪れた。
「お邪魔します」
 いつも通り玄関から上がる。既に懐かしいとすら思える崩月の家に微かな安堵と。これから話される事を思う。
「いらっしゅい、真九郎さん」
 奥から夕乃が現れる。いつにない凛とした雰囲気に真九郎は一瞬呑まれた。
「あ、夕乃さん……」
「お祖父ちゃんが待ってますから、どうぞ」
 そう言って真九郎を居間へと促す。
 すっ、と床を音少な歩む夕乃は、居間の前に着いた所で真九郎を振り返った。
「お祖父ちゃんが中で待ってますから」
「夕乃さんは?」
「一対一が良いそうです。ですから私からはまた、後ほど」
 それだけ言い、夕乃は去っていった。
 一人残された真九郎は、茫としていても仕方無い、と。襖を開け居間へと入る。
 そこには確かに、崩月法泉が一人。真九郎を待っていた。
「来たか。まあ座れや真九郎」
 その言葉に従い。法泉と向かい合う形で真九郎は腰を下ろす。
「裏稼業、辞めるって? 女の為に」
 いきなりの核心。しかし、真九郎は迷いなく応える。
「はい」
「そうか……相手は村上の所の娘だって?」
「知って……るんですか?」
 法泉が村上の氏を出した事に驚き、真九郎は尋ねる。
「まあな、あそこの爺が有名だし、その息子もある意味じゃ有名だ。銀次の孫娘についても、それなりにはな」
「そうでしたか」
 確かに、あの家は裏稼業ではそれなりに名の通るのだろう。法泉が知っていてもおかしくはないと言える。
「しかし……銀次のせがれに続いてお前も足洗っちまうか。どうにも、あそこの女は男を変えちまうらしい」
 そう言う法泉はしかし、嬉しそうに笑う。
「まあ、別段俺は反対しねえから安心しな。大体そんなのはてめえで決めるもんだ。他人が口出しするもんでもねえ」
 ただ、と置き。法泉は表情を引き締める。
「覚悟はあるのか? 一人との立ち位置を変えれば、それに伴い周りとの立ち位置も変わっちまう。
 例えば九鳳院の嬢ちゃんはどうする? 子供でも女は女。あれはマジだぞ。お前の事」
 そう言われ、真九郎は考え、応える。
「確かに、紫を傷付けてしまうかもしれません。それでも……俺は銀子と居るって決めましたから」
 ただ公平でいられる事は出来ないのだ。人を好きになるという事はそういう事だ。
 それでも真九郎は決めた。あの夜に。
 だからはっきりと応える。
「俺は銀子が好きだから」
「……そうか」
 法泉が笑った。


375 伊南屋 sage 2006/10/11(水) 21:17:25 ID:UPcvsXXA
「俺の話は終わりだ。後は道場に行け、夕乃が待ってる」
 法泉の言葉に真九郎は立ち上がった。
 一礼して居間から出る。
 と、廊下に出た所で法泉が真九郎を呼び止めた。
「……一つ言い忘れた。
 “角”な、使い時はお前が決めろ。封印するんだろうが、もしかしたら使わざるを得ない時が来るかも知れねえ。
 そん時は迷うな、全部失ってからじゃ、遅いぞ」
「……はい、先生」
 再び、深く一礼して真九郎は道場へ向かった。


 道場に着いた真九郎を迎えたのは紅袴を着た夕乃だった。
「夕乃さん、その格好……」
「真九郎さんが似合うと言ってくれましたから」
 にこり、と笑みを浮かべ夕乃が答える。
「いや、あの……」
「真九郎さんがっ! 似合うって! 言ってくれましたから!」
 急に、夕乃が声を張り上げる。
 真九郎は戸惑いながら、夕乃に一つの異変を感じ取る。
「夕乃さん……泣いてるの?」
 目尻に浮かぶ微かな涙が、夕乃が泣いてるいる事を知らせる。
「泣いてます。……なんでか解りますか?」
 真九郎は黙する。言葉が見つからない。
「好きだからですよ。真九郎さんが。銀子さんに、負けないくらい」
 震える声でそう言うと、夕乃は構えを取った。
「真九郎さんも構えて下さい。――稽古をつけて差し上げます」
 真九郎は、両腕を掲げ、構えを取る。
 言葉での応えは求められていないと、解ったから。
 この“稽古”は、所謂けじめなのだろう。互いにとっての。
「参ります」
 すぅ、と夕乃の顔から表情が消える。流れる涙はそのままに、ただ表情だけが消える。
 一つの結末が、始まりを告げた。

 たん。
 軽い音しかしなかった。
 それだけで夕乃は真九郎との距離を零に詰める。
 貫手の形を取られた右手が振るわれる。
 真九郎は後ろへ飛ぶことでそれを回避。しかし僅かに及ばず胸元を夕乃の手が掠める。
 たったそれだけで真九郎の胴着と胸板の薄皮が斬り裂かれる。
 ちりちりとした緊張が首の後ろを走った。
 思わず、真九郎は呻きを上げた。
 立ち止まる暇はない、逐一立ち位置を変え、間合いを計り、機を窺う。
 僅かな、ほんの一瞬にも満たない僅かな隙を突き夕乃が距離を再び詰める。
 右の貫手を放つ。真九郎が半身になりそれを避わしたと同時。夕乃の脚が払われ、文字通り足元を掬われた。
 バランスを崩した所に両の掌が叩き付けられ、地に打ち付けられる。



376 伊南屋 sage 2006/10/11(水) 21:53:10 ID:UPcvsXXA
 追い討ちの掌を、地を転がり避ける。その勢いのままに全身のバネを使い、跳ねるようにして立ち上がる。
 背後へ跳びすさり、距離を置く。
 ぜぇぜぇと息が乱れる。先の掌が効いている。肺が軋みを上げているようだった。
 ジリ貧になっていけない。こちらからも攻めなくては。
 脚に力を込め、不規則に跳ね、攪乱しながら距離を詰める。
 間合い。真九郎は身を沈め、足払い。
 夕乃は後退しこれを回避。しかし真九郎は止まらない回転の勢いは殺さず、むしろ加速するように身を起こしながら、その勢いで裏拳を放つ。
 ぶん、と風を纏った一撃が夕乃を襲う。しかしそれも夕乃の手に受け止められ、逆に腕を取られた真九郎は投げられてしまう。
 全身を床に叩き付けられ、真九郎は息を詰まらせる。
 身を起こした真九郎は、再び接近。掌を夕乃目掛け打つ。僅かに首を傾げるだけでそれを避けた夕乃はカウンターの一撃を放つ。
 しかし今回は真九郎もそれを見越していた。腕でそれを受け止める。
 ずしん、と肉と骨を伝う衝撃に耐え、カウンターのカウンター。即ち後の後を取る一手。胴目掛けての膝。
 確かな手応えと共に膝が夕乃に突き刺さる。
 女性とは言え夕乃も崩月の人間。手加減はしていない。
 しかし、夕乃は何事も無いかのように真九郎へ更に掌を打つ。
 顎を下から撃ち上げ、胸を刺し貫く様な一撃を入れる。
 更に足払い。真九郎が地に這わされる。
 それで、決着はついた。

 結局、真九郎は一撃しか入れられず、それすら有効打とはなり得なかった。
 それが悔しい。弱い自分が。
 こんな事は初めてだった。
 今まで夕乃にどんなに打ちのめされても、実力差を感じても悔しい事はなかった。
 しかし、今は弱い自分が情けなかった。
 こうして地を這う自分が情けなかった。
「真九郎さん」
 見上げれば夕乃が居た。真九郎を仰向けに寝させ、額から瞼にかけ、濡れタオルを当ててやる。
 視界を覆うタオルが、心地良かった。
「これは、倒れている真九郎さんに、勝手に私がする事です。ですから真九郎さんは悪くありません」
 タオルに隠れた視界の向こうで夕乃がそんな事を言った。
 不意に、唇に柔らかいものが触れた。
「……大好きでしたよ。真九郎さん」
 余りの事に茫然とする真九郎を残し、足音が道場から去っていく。
 一人残された真九郎は、唇に残る感触と、銀子に逢いたいという事で頭が一杯になっていた。

381 伊南屋 sage 2006/10/12(木) 21:13:44 ID:NPBYUogr
 どれくらい経っただろう。
 一人残された真九郎は立ち上がり、道場を後にする。
 体の至る所が悲鳴を上げ、思い通りに動かない。
 ふらつく体を引き摺り、庭へ出る。井戸の水を汲み上げそれを体に掛けると、痛みに伴う熱が引いていくのが分かった。
 二度、三度と頭から冷水を浴びる。
 ろくに拭いもせずに、空を見上げる。
 陽はまだ落ちきっていない。にも関わらず、目を凝らせば月が見える。
 薄紫の空に紛れる様な月を眺めていると、銀子の事を思い出した。
 夕乃を傷付けた。きっと紫も、これから傷付ける。
 その代償に手に入れた彼女を想う。
 無性に逢いたくて、どうしても逢いたくなかった。
 相反する感情を持て余してしまう。
 どうするべきか。この後楓味亭へ向かうのは気が引けた。
 傍らに置いてある着替えと共に、携帯電話も置いてある。
 それを取り、アドレス帳から銀子を呼び出す。
 数度のコールの後、スピーカーから銀子の声が漏れ聴こえた。
「もしもし、真九郎?」
「銀子。今日は楓味亭に行けないっておじさんに言って置いてくれ。明日は行くからって」
「分かったけど……なにかあったの?」
 鋭いな、と思う。まるで銀子は真九郎という人間を全て把握しているかのような、そういう鋭さを見せる。
「いや、ちょっと崩月の用事が長引きそうだから。銀子が心配する事はないよ」
 勿論、嘘だった。
 全ては終わっていて、取り戻せない。取り戻そうとも思わなかったが。
「……そう」
 銀子はまだ何か言いたげではあったが、一応の納得を見せる。
「そういうことだから、じゃあ。また明日、学校で」
「……うん」
 終話ボタンを押し、電話を切る。
 真九郎は服を拾い上げ、庭から屋敷へと入る。
 銀子の事を想いながら、真九郎は着替えを始めた。
 それを終えると、居間の法泉に帰ることを告げる。

 ――夕乃は、最後まで現れなかった。


382 伊南屋 sage 2006/10/12(木) 21:45:59 ID:NPBYUogr
 屋敷を去った真九郎だったが、真っ直ぐ五月雨荘には向かわなかった。
 宛てもなく街を歩き、時間を潰す。
 静かなあの部屋には、帰りたくなかった。色々と考えてしまいそうで。
 コンビニで立ち読みしたり。ゲームセンターに入り、何をするでもなく煌びやかな光と音の渦に身を置いたり。
 ただ、何も考えないようにと街を歩いた。
 気が付けば、時間は十時を回り、一層夜は深まっていく。
 そこで漸く真九郎は足を五月雨荘へと向ける。
 部屋に着いたら眠ろう。それだけを考えて。

 真九郎が五月雨荘に着くと、自分の部屋の前に人影があるのが見えた。
 それは、良く見覚えのある少女だった。
「銀子……?」
 少女の名を呼ぶ。銀子はこちらに気付くと、真九郎に歩み寄る。
「……おかえり」
「……ただいま」
 そのやりとりに不思議な安堵を感じる。
「待ってたのか?」
「うん」
「どうして?」
「……あんな弱々しい声聴かされたら、心配になるに決まってるでしょ。バカ」
 心配かけてしまう程に声に現れていたのか。真九郎は心配をかけまいとして、それが裏目に出たことを知らされた。
「……とりあえず、入るか?」
「うん……」
 ポケットから鍵を取り出し、中に招き入れる。灯りをつけ、真九郎は座るように促した。
「……何があったの?」
 電話でも尋ねられた事を、再び銀子が尋ねた。

 真九郎は、崩月の屋敷であったことを全て話した。夕乃の事も、包み隠さず。
「そう」
 全てを聞いた銀子が言ったのはそれだけだった。
 代わりに、身を寄せる。
 俯く真九郎に声を掛ける。
「こっち向いて。真九郎」
 言葉通り、顔を上げた真九郎の唇に銀子のそれが重ねられた。
 永く、永く重ねられる。やがて銀子が、舌先で真九郎の内を割開く。
 抵抗する間もなく、舌が絡められた。
 ぎこちない舌の動きは、それでも真九郎を深く求め蠢く。
 頭の中に、くちゅくちゅという音が響く。
「……はっ」
 永い口付けから銀子が離れる。
「銀子、お前……」
「知ってるでしょ? 私が負けず嫌いなの」
 だって、と繋ぎ銀子が言う。
「崩月先輩と同じラインだなんて我慢出来ないもの」
 そして銀子は真九郎をじっと見つめ、呟いた。
「真九郎に覚悟があるなら、抱いてよ。私の事」
 真九郎は銀子の口の端から伝う唾液を見ながら、ゆっくりと、頷いた。

386 伊南屋 sage 2006/10/14(土) 18:56:03 ID:fS6Nk2Pf
 灯りの消えた部屋の中。照らすのは月光だけ。銀色の光だけ。
 その中に浮かぶのは、最愛の人。
 ただ、美しいと思った。
 優しく口付ける。啄むように何度も、何度も。
 徐々に熱を帯びていく口付けは、やがて互いを深く求め、舌先を絡めるそれへと変わっていく。
 頭の中に響く水音に。海の中に居るみたいだと思った。
 互いが溶けて、一つになる感覚。
 唇を離すと。つ、と糸が引いた。
 それが月光に照らされ銀色の橋のように光る。
 何も言わず抱き締める。好きな人の体温を直に感じる。
 それだけでこんなにも心地良いものだと、真九郎は初めて知った。
 指先を、銀子の服。その胸元のボタンに掛ける。
 銀子に視線を送ると、頷き肯定を示してくれた。
 一つ、一つ外していく。銀子の白い肌。華奢な躰が露わになっていく。
 そして、白い布に覆われた小振りな胸も。
「がっかりした? 小さくて」
 銀子がそんな事を聞いてくる。
 そんな事、あろう筈もない。真九郎は銀子に軽くキスして。
「綺麗だよ」
 と言ってやった。
 露わになった肌へ指を這わす。
 時たま体を震わせる銀子が、くすぐったがっているのではないと、すぐに気付いた。
 感じてくれているのだ。
 それが嬉しくて、またキスをしてやる。
 指先が胸元に辿り着く。布地の上から触れただけで銀子は体をぴくりと震わせた。
 自分と隔てる布地が煩わしい。
 真九郎は銀子の胸元を隠す下着を外した。
 改めて指先で触れる。
 ふに、と柔らかい、男には有り得ない感触に真九郎は恍惚となった。
 銀子を見ると、紅潮した顔で自らの胸元を這う指を潤んだ瞳で追っていた。
 真九郎は力を込め、弾力の中に指先を沈める。
 また銀子の体がぴくりと跳ねた。
 加減など分からないなりに、指先を使い銀子の胸をこね回す。
「……あっ」
 耐えきれず銀子が声を漏らした。
 その声を引き出すために、更に強く刺激を与える。
「は……っ、あ……ん」
 徐々に昂まる声に、真九郎は酔い痴れていた。
 自らは無意識のまま、舌を銀子の胸、その桜色の中心に這わす。
「んんっ……」
 突起を舌先で弾く、潰す、こねる。
 その度、銀子の唇から押し殺したような声が零れた。
「声、我慢するなよ」
 そう言ってやる。五月雨荘の壁は薄く、音は漏れやすい。
 それでも構うものか、と思った。
 歯を立て、強く吸い立てる。
「ひぁぁ……っ! しん……くろぉっ!」


387 伊南屋 sage 2006/10/14(土) 19:23:12 ID:fS6Nk2Pf
 銀子が矯声を上げ、悶える。
 それを聞き届け、真九郎は口を離した。
 自分をとろんとした目で見つめる銀子に、何度目だろう。口付けをしようとして、今更ながら真九郎は気付いた。
「……銀子、眼鏡……外していいか?」
 その言葉に銀子は少し考えて答えた。
「ダメ」
 と。
「外すと、真九郎が見えなくなるから。だから外したくない」
「そうか……」
 眼鏡はそのままに、キスをする。
「ねえ……真九郎」
 銀子が真九郎の手を取った。
「ここ……触って」
 誘われたのは、銀子の下半身。胸と同様。白い下着に覆われた中心だった。
 真九郎は躊躇わない。
 指先をそこに触れる。
 下着越しに触れたそこは、それだけで熱いと分かった。
 くち、と音がした。
 既に潤っているらしい。
 下着の上から指の腹を擦り付ける。上下する指の動きに合わせ、銀子が躰を痙攣させ、声を上げる。
 徐々に潤いは増し、下着からは水分が染み出し始めた。
 指先にぬめる液体が絡みつく。
 直に触れたい。
 真九郎は指先を銀子の下着、その端に掛け、ゆっくりと引いた。
 覆われた最後の部分が露わになっていく。
 白い下腹、その下には薄い陰毛。そして、既に濡れそぼり、月の光を淫らに照り返す秘裂。
 それらに真九郎の目が釘付けになる。
 僅かにひくつく中央の割れ目。そこから止めどなく溢れる淫水。
 不意に頭が叩かれた。
 視線を上に向けると銀子が顔を羞恥に真っ赤にしていた。
「あんまり、見るなバカ」
「悪い」
 そう言ってまたキス。指先は銀子の下半身へ。一番敏感な部分を刺激する。
 絡みつく舌と、指を這わす淫裂。
 二重の水音が耳朶をくすぐる。
「はっ……、ふはっ、ん……」
 動かす舌と唇の隙間から銀子の声が漏れる。
 それも加わり、至高の、淫らなオーケストラが完成する。
 快感に身を震わす銀子の体を片腕で支え、真九郎は指先と舌先をより一層激しく蠢かす。
「んっ……! ふっ、ひぅっ! うんんっ!」
 加速度的に銀子の息が荒げられていく。それすら意に介さず、真九郎は更に苛烈に責め立てる。
「はっ……! ぅぁあ! あ、あ、あ!」
 びくん! と銀子の躰が大きく跳ね上がった。
 脱力し、真九郎の胸元に身を預ける。
 はぁはぁと荒い息をつく銀子。
 イッたのは明らかだった。
「しんくろぉ……」
 微かに涙を浮かべる銀子は、本人の意に関係なく、真九郎の理性を奪い去った。


388 伊南屋 sage 2006/10/14(土) 19:49:48 ID:fS6Nk2Pf
 ぽすっ、と布団に銀子の体を横たえる。立てられた膝を割り、そこに真九郎は膝を着いた。
「……良いか?」
 我慢の限界だった。
 愛しい人の淫らな姿を見せられ、そしてそうしたのが自分で。我慢出来る筈がなかった。
 それでも、塵芥に散った理性の、ほんの少し残った部分が、真九郎に確認を取らせた。
 銀子は、涙目のまま、頷いて見せる。
 真九郎は、銀子の中心。未だに痙攣し、絶頂の余韻を見せる其処へ狙いを定めると、一息に貫いた。
「――っぐ……!」
 声にならない悲鳴を銀子が上げる。
 腕は真九郎を掴み、必死でしがみついた。
 真九郎はそれでも止まらなかった。止まることが出来なかった。
 銀子の膣中の熱が、ひくつく膣壁が、絡みつく淫液が真九郎に残された微かな理性すら洗い流す。
 頭が真っ白だった。
 ただ最愛の人、その体から与えられる快感を貪欲に貪る。
 幸いだったのは銀子の膣が十分に濡れていたことだ。
 引っ掛かる事なく、銀子の膣は初めての真九郎を受け入れた。
 膜が破られた痛みはあれど、それも引きつつある。
 その証拠に銀子が上げる悲鳴には、徐々に甘いものが混じりつつあった。
「くっ……! んっ! あっ……ぐぅ」
 声の割合はやがて甘い矯声が増え、確かな快感に銀子が溺れて行くのを示した。
「あぁっ! しん……くろっ……ぉ、しんく、ろお! ひぁっ! はっ、あん!」
 銀子の内は、更に深く真九郎を求め、誘う動きで蠢き、締め付ける。
 互いに高みへと昇り詰めて行く。
 押し寄せる射精感に真九郎は更に腰を速める。その激しい突き込みに銀子が翻弄され、快感に耽る。
「銀……子っ」
「しん……しんくろぉっ!」
 それまでで一番強く、銀子の膣中が締まり、真九郎にとどめを刺した。
 一番深くまで自らを差し込み、真九郎は精を放った。
 どくどくと、脈打つ陰茎から濃厚な精液が流れ込む。
 体の奥にそれを受け止めながら、銀子も絶頂を味わう。
 びくびくと膣が痙攣し、流れ込む精液を更に奥へと運ぶ。
 やがて精を放ち終えた。真九郎は銀子の内から自らを引き抜いた。
 どろり。と破瓜の証である血液混じりの精液が銀子から零れ落ちた。
「銀子……」
「真九郎……」
 互いに名を呼び合い。二人は何度も口付けあった。
 改めて、二人の繋がりを感じ、いつまでも、いつまでも口付けあった――。


389 伊南屋 sage 2006/10/14(土) 20:04:37 ID:fS6Nk2Pf
 月灯りだけが照らす部屋。真九郎と銀子は重なるように腰を降ろしている。
 共に見上げるのは二人を照らす、大きな月。
「真九郎は、弱くないよ」
 銀子がぽつりとこぼした。
「そうかな?」
「だって、真九郎は私を守ってくれるんでしょ? だったらきっと真九郎は絶対に私を守ってくれる。そう信じてる」
「……ああ」
「だから真九郎は弱くない。誰かのためならいくらでも強くなれるもの」
「……ありがとうな」
「ううん……」
 ぎゅっと、銀子を抱き締める。
 そうだ。自分は約束した。銀子を守ると。
 それだけじゃない。二人で平和に生きていくと。
 守るのは何も敵を倒す事だけではない。
 闘わないという守り方もある。
 かつて銀子の父である銀正がそうしたように。
「銀子……」
「なに?」
「好きだよ」
「……知ってる」
「銀子は?」
「知ってるでしょ?」
「でも聞きたい」
「……好き」
 ――大丈夫だ。自分は守れる。これで守れなかったら嘘だ。
 だって、此処に愛する人が居る。
 それは大きな支えだ。大きな力だ。
 そして、自分は弱くなどない。そう思える。
 根拠なんか要らない。守れると信じる。
 銀子が信じてくれるのだ。なら自分も信じられる。
「銀子……」
「なに?」
「ずっと一緒に居よう」

 これは、約束。一人、勝手な約束。
 ずっと一緒に居る。
 ずっと変わらずいつまでも。
 この月に誓おう。この銀色の月に。

 銀子が小さく呟いた。

「そんなの、当たり前」

 空に浮かぶ銀色の月が、二人をいつまでも照らし続けていた――。

Fin.
ツールボックス

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