4スレ 845(2)


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第10話 20090912 16:43
星領学園高校 新聞部



「…何か分かった?」 
「だめね。どこにも《歪空》の動向についての情報はない」
ほとんどの生徒が下校した後の閑散とした校舎に響くのは、キーボードを叩く音。
真九郎は、今日転校してきた一人の生徒―――歪空一成についての情報を銀子に集めてもらおうとしていた。
自分にもなじみ深い《裏十三家》。
その関係者―――おそらくは血族がこの高校にやってきたことを、銀子はどうしても「偶然」と割り切ることができなかったのだろう。
真九郎も少しはそういう気持ちがあったので、銀子の提案を受け入れたのだ。
しかし、それは徒労に終わった。
おそらく国内でも指折りの情報屋である銀子の情報網をもってしても、《歪空》の情報はほとんど得られなかった。
それは銀子の腕が未熟であるというよりは、裏に流れている情報量そのものが少なすぎるということなのだろう。
わかったことはごくわずか。
まず、《歪空》は《円堂》程ではないにしろ、衰退することは防げている家であること。
そして、『歪空一成』は、本家の直系の人間である(らしい)こと。
あとはすべて闇の中。
今も裏稼業を続けているのか。どのような特徴を持った家なのか。
まったくわからない。
「…あんた、本当に心当たりはないの?何か恨みを買うことしたとか」
「ないと思う。ここしばらくは、ろくに仕事してないし」
「でも、おかしいでしょ。崩月先輩もいるこの高校に、さらにもう一人。絶対に偶然じゃないと思うんだけど…」
確かに、おかしいとは思う。
だが、少なくとも、自分や銀子の命を狙っているわけではないだろう、とも思う。
絶対的な証拠はないが、そんな気がする。
理由は、朝のこと。
あの時、自分は完全にあいつの存在に気付いていなかった。
銀子がどうだったかはわからないが、おそらく同じだろう。
あそこなら、彼にはいくらでもチャンスがあった。さっさと殺して、その場から立ち去ればよかったのだ。
けれど、一成はただ静かに見ていた。興味深いものを見るような目で。
だから、あいつは少なくとも刺客ではない。
そう言うと、
「バカ」
一言のもとに斬り捨てられた。
「今日は様子見で、明日実行ということも十分ありうるわ。どこまでお人よしなのよ、あんた」



確かに、銀子の言う事のほうが理にかなっているのだろう。普通に考えれば。
そして、自分の直感を貫き通せるほどの強い根拠を、真九郎は持っていなかった。
だから真九郎は、銀子に真面目な顔で
「とにかく、気をつけなさい。あいつ、信じちゃだめよ。今のところは」
と言われた時、とりあえず
「ああ。お前もな」
と言ってしまったのだろう。

通いなれた道を通り、真九郎は五月雨荘へ。
最後の角を曲がって五月雨荘の正面に出た時、真九郎は自分の部屋の明かりがついていることに気付いた。
(ヤバ、消し忘れたかな。それとも環さんかな)
とりあえず真相を確かめるため、真九郎は小走りで自分の部屋へ。
部屋の前まで来て、あとは扉を開けるだけとなった時、しかし真九郎は足を止める。
何故か。
「…え?」
真九郎の部屋の流しは廊下と接しており、その窓は磨りガラスとなっている。
だから、向こうがぼやけて見えるのだ。
おまけに、ここの壁は薄い。
そして、わずかに窓はあいていた。
向こうに見えたもの。それは人影。
向こうから聞こえたもの。それは何かを炒める音。
向こうから匂ってきた香り。それはおそらく焼きそばの香り。
真九郎は、考える。
料理人は誰だ。闇絵は絶対にありえない。あの人がそんなことするのは地球最後の日ぐらいだろう。
となると―――
まさか、あの人が。
日ごろから飲んだくれてて、下ネタ好きのダメ大学生が。
ついに。
ついに。
真九郎は、胸から湧き出すものを抑えられなかった。
扉を勢いよく開け、声をかける。
「環さ」
「おかえりー!」
「お帰り。少年」
「よう。遅かったな」
フリーズ。
おかえりとは、ちゃぶ台の前でだらしなく座る環の声。
お帰りとは、その隣で上品に茶をすする、いつの間にか帰っていた闇絵の声。
では、もう一人のは?
その声は、まだ少ししか聞いていなかったのにもかかわらず。
真九郎の脳に、しっかり焼き付いていた。
台所に立って、フライパンをふるっていたのは――――
Yシャツを着た、歪空一成だった。
彼は真九郎の目を見ると、陽気な声で言った。
「今度、ここの3号室に引っ越してきたんだ。よろしくな」
その時、真九郎が思ったこと。
―――やっぱり、こいつ変わってるな。










第11話 20090912 18:35
五月雨荘 5号室



なぜしっかり鍵をかけておいたはずの俺の部屋に、勝手に侵入してやがるのかとか。
なぜその状況を環や闇絵は見過ごし、あまつさえ夕飯を作ってもらってるのかとか。
そもそもお前が上機嫌で作ってやがる焼きそばは、俺の部屋の冷蔵庫から盗った食材を使ってるんじゃないのかとか。
色々と言いたいことや問い質したいことはあったのだが、聞く前に一成と環と闇絵が答えてくれた。
「お前の部屋、ずいぶん簡単なカギだな。針金突っ込んだら普通に開いたぞ?」
「…いや、あのs」
「食材代と不法侵入の慰謝料なら冷蔵庫に貼っといた」
見ると、磁石でくっつけられたしわひとつ無い二千円札。
「真九郎くん、この子凄いんだよー!AVとか裏ビデオとか、めっちゃ詳しいの!わたしもびっくり!」
「そりゃすごいですね…」
「なかなかに興味深い青年だよ、少年。どこで知り合ったんだ?君の友人だと言っていたが」
「一成君のことは『青年』って呼ぶんですか…って、え?」
なぜか、友人ということにされているようだ。
「まあいいからとりあえず座れ、真九郎。もうできるぞ」
「…あ、ああ」
「ああ」と言ってしまった以上、真九郎は座るという行動をとるしかなくなった。
とりあえず、右隣の環に小声で聞く。
「環さん、あいつどんな感じでしたか?」
環は、不思議そうな顔をして真九郎を見る。
「なんで?あの子、真九郎くんのお友達でしょ?」
「違いますよ、今日俺のクラスに急に転校してきたんです」
「あ、そうなの。ふーん…悪い子じゃないと思うんだけどな。なんで嘘ついたんだろ」
環は、少し考え込む。
「…それより、あいつの名字に気づきました?」
「うん。自己紹介してもらったもん。歪空君っていうんでしょ?」
どうやら、気づいていないらしい。
「あの、《歪空》っていうのは」
「裏十三家だろう?」
突然、左から声がかかった。
「…闇絵さん」
「それも、おそらく直系だ」
「え?」
「雰囲気でわかるさ。相変わらず鈍いな、少年」
そんな事、と言いかけた時に、環がぼそりと呟いた。
「…ああ、だからか。妙に隙がなかったんだよね。普通の高校生じゃないとは思ったけど」
真九郎はまだ、ひょっとしたら同じ名字なだけで本家とは縁もゆかりもない人間なのではないかと少し期待していたのだが。
やはり、それは無かった。



歪空一成は、間違いなく裏十三家の一人。
さて、どうしたものかと考える真九郎に、声をかけたのは闇絵。
それは、闇絵からすれば当然な、しかし真九郎から見れば思ってもみない一言。
「で、だからなんだというのだ?」
「…え?」
思わず闇絵の顔を見る真九郎。
美しい顔は、無表情だった。
「彼はおそらく《歪空》の人間だろう。それで?」
「いや、だって」
「人間は家柄では絶対に量れない。それを一番よく知っているのは君ではないのかね?」
あ。
真九郎は、一成を『裏十三家』として評価しようとし、しかもそれの愚かさに今の今まで気付かなかった自分に愕然とした。
家柄からでは人の本当の姿は見えないと、今までの経験から心底わかっていたはずなのに。
「…そうですね」
つくづく自分は馬鹿だと思った。今までの経験を、何一つ活かせていない。
うつむく真九郎に、闇絵は少し微笑んで言う。
「君は大丈夫だよ、少年。少なくとも、君は自分が愚か者だと知っている。真の愚者は、自分が愚かだということにすら気づかないものだからね」
それは闇絵なりの、励ましだったのかもしれない。
顔をあげ、闇絵の顔を見る真九郎。
「闇絵さん…」
真九郎の胸に広がる、心地よい気持ち。
それは、一撃で吹っ飛ばされた。
ちゃぶ台に何かが叩きつけられる音とともに。
びっくりした真九郎は、音の正体を見る。
ホカホカと湯気を上げる大量の焼きそばを乗せた、1枚の大きな白い皿。
それを作った主は、真九郎の前に腰を下ろすと、言った。
「さ、食おうか。腹ペコだ」
文字通り、山のようにそびえたつそれを呆然と見る真九郎。
環と闇絵は、すでに箸を持ち、今にも食べ始めようとしている。
確かに腹ペコだ。が、この量は…
まあ、言ってもしょうがないか。
真九郎も、箸をとった。









第11話:後編
20090912 19:07
五月雨荘 5号室



結論から言うと、それは美味だった。
真九郎は、満たされた腹を抑えつつ、目の前の空になった皿を見る。
「ふは~っ、ごちそう様!一成くん、料理も上手なんだね!」
「ふむ、なかなか個性的な味だな。美味だったぞ、青年」
「おいしかったよ。ありがとう」
それが、三人の感想。
「まあ、普通に作っただけだったんですがね。喜んでもらえたのならよかった」
それが、一成のコメント。
そうなのだ。
一成の作った大量の焼きそばは、どこにでもある普通の焼きそばだったはずなのだが。
何故かそれは、真九郎の胃袋にするすると入っていった。なんというか、飽きが来ないのだ。
何か隠し味でもあるのかと気になった。なので、本当に口に出した。
返答は。
「バラしちゃったら隠し味になんねえだろ」
ますます気になったが、たぶん言わないだろうと思ったので黙っていた。
かわりに、いくつか質問をしてみることにした。
それは、揉め事処理屋としての情報収集ではなかった。
目の前の一成という男に、人間として純粋に興味がわいた。
真九郎は、ちゃぶ台を挟んだ向こう側で眠そうな顔をしている一成に向き直り、話しかける。
「なあ、一成君…」
「呼び捨てろ。同い年だろ?」
いきなり出鼻をくじかれた。
しかし、ここでは引き下がらなかった。
「じゃあ、一成」
「何だ?」
「好きな食べ物って何?」
「ピーマン」
「好きな食べ物は?」と聞かれたときに、ピーマンと即答する人間は、これまで真九郎の周囲にはいなかった。
やはり、変わっている。
少し驚く真九郎を、一成は楽しそうに見る。そして、言った。
「初対面の人間へのアプローチとしては、まあ妥当かな。転校生の自己紹介コーナーって訳だ」
そして、部屋を見渡す。



闇絵はすでに帰った後だが、環は隅っこで漫画を読みながら寝っころがっている。
「…まあ、あの人なら大丈夫か」
つぶやき、真九郎に向き直る。
「で?」
「え?」
「好きな食べ物だけ聞いて終わりか?」
あ。
「じゃあ…」
その先に発しようとした言葉を一成はさえぎり、言う。
「嫌いな食べ物は酢、好きなことはゲーム、AV観賞、睡眠、読書。
嫌いなことは退屈なこと。得意なことはボードゲーム、物を記憶すること、パルクール、読心術。
あと、なんかある?」
一本調子に続けた一成を、真九郎はまじまじと見つめる。
「お前…」
「ん?」
「やっぱり変わってるな」
恥ずかしげもなく真顔でAV観賞と言ってしまえるあたり、やはり普通の高校生とは違う。
もっとも、特に驚きはしない。普通じゃないものへの耐性は、その辺の高校生よりは断然上だろうと思っている。
それは過去の経験から得たものであり、仕事から得たものだった。
「パルクール」というのが何か、少し気になる。
真九郎は、ふと思った。
この男なら、普通なら答えにくいような質問にも、今のように平気で答えてしまうのではないか、と。
だから。
真九郎は、珍しく直球で訊いてみた。
「…お前は《歪空》の直系なのか?」
「ああ」
こともなげに、あっさり即答。
一成は続けて何か言うことはせず、愉快そうに微笑みながら見つめてくる。
そして。
一成の表情がすとんと消えた。真っ直ぐ真九郎の目を見てくる。その目から、一成の感情をうかがい知る事は真九郎にはできなかった。
―――あれ?
一成の顔を見ているうちに、真九郎は不思議な既視感を覚えた。一成と会ったのは、これが初めてのはず。なのに、同じような眼差しを、どこかで見た気がする。
誰かに似ている。誰だったか。
しかし一成は、真九郎のことなどおかまいなしに尋ねてくる。
「…オレの苗字が何を意味するか知ってるってことは、お前も『こっち』の人間なのか?」
『こっち』とは何か。
真九郎は、正確に理解していた。ゆえに、正直に言った。
「ああ」
と。
一成の様子につられて思わず平然と答えてしまったが、内心ではかなり緊張していた。
目の前の男は、自分で裏社会の人間だと明かした。後ろ暗さなど全く感じさせぬ、堂々とした声で。
そいつに対して、自分は「自分もだ」といってしまった。もしこの場に銀子がいたら、「不注意だ」と怒られるだろう。とはいえ、そんなことを今更気にするわけにもいかない。真九郎は、一成の次の言葉を待つ。
「そうか、なにしてるんだ?」
一成は、真九郎の予想に反し、気軽に訊いてきた。
「…揉め事処理屋」
答えると、そこで初めて一成が驚いたような顔をした。
「ほお、おまえがか!」
そして、一成は薄く笑って言った。
「オレは運び屋だ」



八年間受けた苛烈な修行の賜物か、真九郎の体内時計は一般的な高校生のそれに比べてかなり正確だ。
今朝も真九郎はいつも通りの時間に(時計が合っていれば、だが)起床し、いつも通りに三人分の朝食を用意し、制服に着替えた。
自分の分は先に手早く食べてしまい、残り二人の分はいつも通りにラップをかけておく。
あとは、各々好きにするだろう。
そう考えて、真九郎は部屋から出て階段を下りる。
そして、靴を片方だけ履いた時、初めて昨日ここに来たクラスメイトのことを思い出したのである。
(そういえば、あいつはどうするのだろう)
昨日の料理の腕を見る限り、おそらく自分の朝食を作るのには不自由しないだろうが。
念のため、三人分作っておくべきだっただろうか。
(戻って、もう一人分作っとこうかな)
一瞬だけ迷う。
結論は。
(まあ、今さら言っても仕方ないか)
昨日来たばかりの得体のしれない新参者のために、遅刻する気にはさすがになれない。
真九郎は一瞬部屋に戻ろうとした足を返し、そのまま玄関へと向かった。









第12話 『サボり男と眠り姫』
20090913 07:49
星領学園高校 一年一組



がらりと、通いなれた教室の扉を開ける。
いつも通りの、日常の光景。

静かな教室には、カタカタというテンポの良い軽い音が響き続けている。
無愛想な幼馴染の背中に向かって、真九郎は声をかけた。
「…きのう、一成が五月雨荘に引っ越してきた」
昨日の会話の重要な部分も一緒に伝える。
といっても、二つだけ。
一成が《歪空》の直系だと認めたこと。
どうやら、運び屋をやっているらしいこと。
「!…そう」
それが、教室で朝一番に交わされた言葉だった。
意外と薄い幼馴染の反応に、一瞬拍子抜けする真九郎。
しかし、自分が声をかけた瞬間から、あきらかにキーボードを叩くスピードは上がっていた。
訊くまでもない。彼女は、一成に関する情報を集めているのだ。
「そんなに疑うことないじゃないか」
そう言いかけて、やめた。
裏社会の事情を知らない者には、おそらく銀子の対応は過敏すぎるように見えていることだろう。
しかし、そんなことは全くない。というか、おそらく真九郎のほうがおかしいのだろう。
≪裏十三家≫とは、呪われた血。
夜の闇に暗躍し、数多くの命を奪ってきた家。
今ではその半数近くが断絶、あるいは廃業しているとはいえ、長年培われてきた様々な技術は、今もなお次代へと伝えられ続けていることだろう。
八年間も自分を優しく厳しく育ててくれた、《崩月》のように。
その上、半数は廃業しているということは、半数は存続しているということ。
その半数に《歪空》が入っていないという保証はどこにもないのだ。
しかも情報が全く入ってこないとなれば、厳重に警戒されるのは至極当然である。
だが、真九郎は一成のことを≪裏十三家≫であるという理由で警戒することがどうしてもできなかった。
「人や書物から得た知識だけでは、真実はわからぬものだ」
自分が守ると心に誓った少女の言葉が、そうさせているのかも知れない。
そんなことを考えているうちに、どうやら銀子は情報の海を一通りさらい終えたらしい。
結果は、不機嫌そうな顔を見れば、一目瞭然である。

とまあ、こんな具合に、世間一般の常識からは少し外れているとしても、真九郎の日常は今日も以前と変わらず続けられた。
以前とは、すなわち三日前から。
昨日は一成がいた、隣の席。
そこは、結局放課後を迎えるまで、誰も座ることがなかった。
早い話が、一成は学校に来なかったのである。

終業のベルが鳴り、真九郎は急いで玄関へと向かった。
今日は新聞部には寄らない。銀子には、もう伝えた。
特に表情を変えることもなく、銀子は「そう」とだけ言った。
こんなにも家路を急ぐ理由は一つ。
きょうは、紫が五月雨荘に遊びに来ることになっているのである。彼女を待たせたくはない。
なにより、彼女の声を聴くことを、真九郎は内心楽しみにしているのだ。
一緒にいて楽しい相手という条件には、年齢はほとんど関係ないと思う。
そんな思いを天が助けたか、真九郎は実にスムーズに公共交通機関に乗り、五月雨荘に着く事ができたのである。
いよいよ五月雨荘が見えてきて、真九郎は少し小走りになる。
そして、門に入ったところで。
真九郎は、目を丸くした。
まず見えたのは、大量のトランプで作られたピラミッド。
それと、その傍らで膝立ちになり、一心不乱にカードを積み上げていく、なぜか制服姿の一成。
そして、一成の背中にもたれかかるようにして、天使のような顔で眠る九鳳院紫だった。
―――とりあえず、話を聞くか。
真九郎は、トランプを積み上げている一成に歩み寄った。
ツールボックス

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