【A(happy-end)】上着を投げつけた。


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【A】
 真九郎は上着を投げつけた。
 視界が途切れた一瞬の隙を突いて、スタンガンを蹴り上げる。
 だいぶ体が動くようになってきたのは、時間がたったせいかな、なんて思いつつもすばやく行動。
 目的は、さっき麻縄の切るのにつかって、放置されたままのバタフライナイフ。
 それをすばやく取って、放心状態で呼吸の荒い切彦の手に押し付けた――芽吹きの様に虚ろな目が一瞬にして強みを帯びた。
 あとはもう万事心配ない。
――刃物があればこの少女は無敵だ。
 バサッバサッ、という音がして貼り付け装置が一閃された後、切彦は音も立てず地面に着地した。
「紅……もっと早く取ってくれると、うれしかったんだがな」
 そういう彼女の口調がいつもどおりで真九郎は内申ほっとする。――のもつかの間、サングラスは上着を振り払い、
「貴様ら……」
ポケットからピストルを取り出した。
そして躊躇無く引き金を引いた。轟音が反響して何重にも響く。
しかしまるで打ち合わせたかの様に、同時に二人は瞬動。真九郎は駆け寄ってきたザコどもを食い止め、切彦は、
「ぐぁァァァアアア」
 サングラスのもったピストルを、腕ごと切り落とす。戦意喪失したサングラスは無くなって腕と共にガクリとひざを折った。
 いつにも増して容赦ないな、なんて思っていると、真九郎の上着を拾って肩を通し、ワンピースの要領で恥部を覆うと、真九郎に歩み寄る。
「一気に片付けんぞ。……ああ、それと」
 切彦はバタフライナイフをかまえたのが見えて、真九郎もかまえる。そして切彦は語頭をダブらせ、告げる。
「……あ、ああっ、あとで覚えとけよ」



 船上から眺める朝日というのもまた格別だった。
 切彦はそこらへんにあった服を適当にきて、今は刃物なしバージョンでぼんやりと登ってくる太陽を眺めていた。
 あの後、残りのやつらをものの一分で先頭不能にし、――仕事ではないので、死人は出さない、んだそうだ――そのまま船内をさまよった挙句、ハッチをこじ開けてここへ出た。
 案の定、船だったが、驚きはしない。先ほど携帯で銀子に要請した救助はあと一時間でくるらしい。……つまり一時間が彼女への言い訳を考えるリミットなのだ。
 真九郎はゆっくりと切彦に視線をやる。
 切彦の足のケガは本当に切れただけで、あの時フラフラしてうたのは、誰かが彼女の飲み物になにか薬を入れたからなんだそうだ。今は出血も止まって、痛みはほとんどないらしい。
「紅さん……」
 真九郎がそんなことを考えていると、切彦は真九郎と視線を交わらせる。
「なに?」
「責任とってくれますよね?」
「は?」
「忘れたとは言わせません、」
 彼女は真九郎を見つめる。
「処女の一番恥ずかしいとこを見られて……さらに……その、な、なめたんですから」
 彼女はちぐはぐに言って、顔を赤らめあと、開き直ったように目を凝視される。
「責任、です」
「えと……いつか、ね?」
 真九郎は誤魔化そうと試みる。正直、真九郎としてもアレだけのことをしていたため、少しつらい。座っているので見えないとは思うが、現在進行形で元気な状態だ。だが、彼女にそんなことをするわけにはいかない――切彦が放った一言が無ければ、の話だ。
じゃあ、と切彦は再び視線を朝日へ向ける。
「これだけは言わせてください……」
「………?」
 切彦は必殺の一言を放った。
「恥ずかしかったですけど……その、気持ちよかったです」
 ガラガラ、と理性が音を立てて崩れ落ちた。

 一時間後、海で一人の揉め事処理屋が浮いていた。 <おわり>
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