楓味亭


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

33 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:15:51 ID:pb1G8Hzu

「らっしゃい!おっ、シンちゃんじゃねぇか!ちょうど席が空いたところだ!そこ座んな!」

男らしく威勢の良い声が店内に響いた。
昼時を過ぎたせいか、客は一杯だがちょうど食べ終わった客がいたらしく、待つことはなかった。
カウンターではなく、端にあるテーブル席に着く。

しばらく待つと女性の店員が水とおしぼりを持ってきた。
眼鏡を掛けたその女性は何も言わず無愛想に真九郎を見つめ、連れの二人には「いらっしゃい」優しく声を掛ける。
真九郎は女性に向けられた目で「ロリコン」と言われた気がしたのは気のせいだろう。

「あっ、銀子。聞きたいことがあるんだけど…」

「何?」

「いや、後で良いや。とりあえず注文な。もやしラーメン大盛りと…」

「私は塩ラーメンをお願いします。光は?」

「じゃ私はチャーシューの醤油ラーメンで」

「はい。もやし大盛りと塩とチャーシューね。あっ、ちゃんとこのお兄さんに奢ってもらうんだよ」

「いえ、そんな…」

「いいよ。元々そのつもりだから。それにここだったらツケもきくしね」

「……あんた、いくら溜まってると思ってるの?
 こないだの料金もまだ振り込まれてないじゃない。
 プロだったらちゃんと期日は守って支払いなさいよ。
 もし今月中に払えなかったらウチでこき使ってあげるからね。
 いつかみたいに怪我して動けないなんてことにはならないでよね」

「あ、あぁ。もちろん」

「じゃ部屋を用意して待ってるわ。ラーメンはすぐ出来るから待っててね」

小さな頃から聞きなれた、冷たいけど温かい口調は相変わらずだ。
姿勢良く背筋は伸び、全体的に細く引き締まり、無駄な脂肪の全くない身体、
手足も綺麗でまるでモデルのようだった。
冷たそうな眼鏡の奥の瞳にはいつも優しさが詰まっていて何度となく助けられている。

「何度見ても惚れ惚れしてしまうくらい綺麗な人。仲良いんですね」

「まあ、長い付き合いだからね」

「どれくらいですか?」

「幼稚園から、だったかな?あいつがいなきゃ俺はこの仕事をやっていけなかっただろうから、すごく感謝しているんだ」



34 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:17:10 ID:pb1G8Hzu

銀子がいなければ真九郎が本当の意味で頼れる情報屋はいなかっただろう。
いつだったか違う情報屋に依頼した時は必要な情報が足りず、結局銀子に依頼したくらいだ。

情報が足りないと仕事も上手く回せない。
情報の価値、というものの重さを知っているし、身に染みている。
どれだけ早く仕事を終えられるかということも情報の質に左右されるし、情報の真偽も大きく関わってくる。
今まで銀子の情報が間違っていたのは九鳳院の件だけだった。
九鳳院は特殊な体質のためどうしようもなかったのだろう。
極少数の人間しか知ることの出来ない奥の院。
噂で耳にすることはあるかもしれないが真実がどうかは九鳳院の人間と
九鳳院に密接に関わった人間にしかわからないことだった。

その上、友人としても大切な存在だ。
保育園では手をとって一緒に遊ぶようになってから、
その後色々あったけど何も言わず、ただずっと傍にいてくれた。
ずっと味方でいてくれた。
今でもちゃんと叱ってくれる。
銀子がいなければ今の真九郎はいなかっただろう。
銀子は相変わらず揉め事処理屋のことをよく思っていないが、
今でも続けていられることだけは評価しているようだった。

綾はいつの間にか母親にメールを打っていた。
綾の携帯が鳴り、電話に出ると綾は真九郎に替わるように促されたようで、
「母と話してもらえませんか?」と小さく言う。
携帯を渡された真九郎が電話に向かって話しかけた。

「あの…」

「こんにちは、綾の母の泰子といいます。
 あの時は、綾を助けていただいて本当にありがとうございました」

「あ、こんにちは。紅です。
 すみません。まだよく思い出せないんですけど、どんな事件だったんですか?」

「えっ、あぁ、そうですね。綾はどんな事件かは説明できませんからね。
 綾が巻き込まれたのは九年くらい前にあった事件です」

「…九年前?」

「老夫婦が幼い子どもの子宮を食べるという事件が全国各地で起きていて…。
 同じマンションにその人たちいたらしくて、綾が誘拐され、部屋に監禁されたそうです。
 なんとか逃げたらしいのですが外で捕まってしまって、そこで紅さんに助けてもらったと聞きました」

「老夫婦…?」

…聞いたことある気がする。
…たしか切彦ちゃんに巻き込まれる前くらいかな。

………。

………。

………。

「あぁ、あの時のっ!?」



35 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:18:46 ID:pb1G8Hzu

やっと思い出すことが出来た。
『揉め事処理屋をやっていけるのか』『自分に向いているのか』『これは適職なのか』『天職なのか』と
将来のことを案じていた時期にあった事件だ。
昼飯を食べに行こうと楓味亭へ向かっている途中に見つけた様子のおかしい老夫婦が傍にいる
幼い少女に殺気を向けていることを感じ、ただ助けた。
真九郎にとってはそれだけのことだが、やはり少女にとっては命の恩人ということになる。

真九郎は綾と光に「ちょっと失礼するね」と声を掛け、足早に席を立ち、店の外へ出た。
もちろん綾に配慮しての行動だ。

「…あの、娘さんは事件のこと覚えているんですか?」

「覚えているというか、覚えていないというか…。
 事件の詳細は覚えていませんけど事件に巻き込まれたという記憶はあるみたいで。
 今でもなんとなく思い出すようで…」

「全部忘れることは出来なかったわけですか…。
 出来れば忘れてしまって、あんな事件なかったことになれば、って思っていたんですけど…。
 やっぱりあんな体験は忘れることは出来ませんよね…」

真九郎は自分の過去と照らし合わせてみる。
家族がいなくなった原因を作ったテロ。

爆音、
悲鳴、
瓦礫、
暗闇、
廃墟、
血の味、
焦げた臭い、
繋いだ手、
死臭、
救助、
絶望。

紫と会うまで誰にも言えないトラウマとなってずっと忘れることは出来なかった。
頭にこびりつき消えることはなかった。
悪夢に何度もうなされた。
全く向き合うことが出来なかった。

綾はそこまで酷い状態でない様子。
あんな酷い事件に巻き込まれた割には随分と良い精神状態のようで安心できた。


36 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:19:39 ID:pb1G8Hzu

「いえ、思い出すのは助けてくれた男の子の部分がほとんどのようです。
 事件自体は思い出さないように話題にはしていませんが、
 綾はずっと助けてくれた高校生に会いたがっていたようで…。
 さっきすごく嬉しそうなメールで『あの人、見つかった!』って私の携帯に入ってきました。
 相当嬉しかったんでしょうね。ふふ。
 もし紅さんさえよければ、たまに会ってやってもらえませんか?」

「あ、はい、俺なんかでよければいつでも。
 でも、俺と関わるとますます忘れられなくなりそうですが」

「それは大丈夫だと思います。
 本来ならトラウマになるような事件のはずが綾が話題にする時はいつも笑顔ですから。
 『あの人に会いたい』って、ずっとそればかり言ってましたし」

本当に大丈夫なのだろうか…。
その後またお礼を言われ、電話を切った。
嘆息し、店に入って行く真九郎。

「はい、携帯。ありがとう。綾ちゃんのこと思い出したよ」

「そうですか。嬉しいです。あ、私のことは呼び捨てにしてください」

「呼び捨てでいいの?」

「はい。ちゃん付けだと嫌な感じがするんです。だから…」

「そっか、わかった。綾、だね」

「はい、お願いします。
 事件のこと、私はあまり覚えてないので説明も出来なくて…。
 でも真九郎さんのことだけは覚えてて。
 助けてくれた後も警察行ってもずっと一緒にいてくれたんですよね。
 それだけで、なんていうか…、すごく救われたんです」

「そう、役に立てて良かったよ」

「役に立てただなんて…。真九郎さんがあの時、
 助けてくれなかったら私は今ここにいることは出来ませんでした。
 私もお母さんも感謝の気持ちで一杯です」

「ありがとう。そんなに言ってもらえるとちょっと照れるね」

「でも本心ですから」

「でも、ま、元気でなによりだね」

「はいっ、真九郎さんのおかげです」



37 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:20:44 ID:pb1G8Hzu

いつになく積極的な綾に驚いている光。
初対面の男の人に名前で呼びかけるなんて光の知っている綾ではありえない。
それほど感謝しているのだろう。
でもそれだけではないような気もする。

「あれはたまたま通りがかっただけだからね。俺の方こそ君に感謝しなきゃいけないな。
 俺が今でも揉め事処理屋なんて仕事やれているのは、君のおかげでもあるんだ」


「…どういうことですか?」

当然の疑問を口にする綾。
真九郎はその疑問に丁寧に答える。

「あの時、迷ってたんだ。このままやっていけるのかって。
 君を助けた後、すぐだったかな。危ない会社に誘われてね。
 将来のことを考えたらそこに入ったほうがいいのか…、とか悩んでいたりしてたんだ。
 で、軽率な行動をとって何度も殺されかけて…」

「…やっぱり大変なお仕事なんですね…」

「まぁね。で、その仕事が終わった後に
 俺が揉め事処理屋を始めるキッカケになった人に偶然出会って相談したんだ。
 そうしたらその人は大声で笑った後、俺に新聞記事を見せて言ったんだよ。
 『偶然で人を救えるなんて最高じゃないか』って。
 それが君の記事だった。
 もちろん俺の名前は書いてなくて一般人だか学生だかが少女を助けたって書いてあったけどね。
 なんか嬉しくなって。
 で、そのまま続けるって決めて今に至るんだけど、俺、要領悪くてその後も何度も死にかけてね」

「それは相手をちゃんと見ないで突っ走って、人の注意もろくに聞かずに、
 いつまで経っても引き際を覚えないからでしょう?
 はい、もやしラーメン大盛りに、塩ラーメンね。
 チャーシューもすぐに持ってくるからちょっと待ってね」

物騒なことを笑って話す真九郎に、タイミング良くラーメンを持ってきた銀子が付け加える。
今の真九郎の説明だけだとバカな揉め事処理屋だと思われるだろうから、
と一応のフォローをしたのだろう。
フォローになっているのかは不明だけど。
相手を見ないで無謀な行動に出たのは事実だから否定できない。
それが恩人である紅香に迷惑がかかりそうになったりもしたから、なお悪い。

銀子は真九郎と綾の前に丼を置いた後、すぐに戻っていった。

綾は動揺しながらも少し感動しているようだ。
自分を護ってくれた人が、自分を助けたことがキッカケで仕事を辞めずに、
もっとたくさんの人を助けていた。
胸が熱くなる。
嬉しくなる。
涙が溢れてくる。



38 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:21:24 ID:pb1G8Hzu

「はい、チャーシューね。…えっ、ちょっと、真九郎。何、女の子泣かせてんのよ?」

銀子は光の前に丼を置いた後、真九郎を睨みつける。
真九郎は胸の前で右手を振り、慌てて否定した。

「俺は何も…」

「すみません。私、ずっとずっと会いたかったんです。私を助けてくれたのに
 連絡先も聞けずにお礼も出来なかったってお母さん言ってました。
 どんな人かって聞いても曖昧にしか覚えてなかったようですし。
 警察の人に聞いても個人情報がどうとかって言って、教えてくれなくて…。
 私が覚えていたのは外見と笑顔と名前の一部で…。
 さっき真九郎さんを見てた時、知ってるような不思議な感じがしたんです」

「そうなんだ。でも凄い偶然だよね。今日は光ちゃんの付き添いで来たの?」

「はい、一人じゃ寂し…、いえ、心配だったらしくて。
 それで少しで良いから時間を作ってほしいって言われて…。ね、光」

「えっ、う、うん!お母さんを通してるけどやっぱり怖くて…。すみません」

「いや、いいよ。当然の行動だと思う。何にも警戒しない方が異常だよ」

三人とも目の前のラーメンに箸を伸ばす。
真九郎はいつも通りに、綾は感動が収まらないようで少し震えていた。
光は何かを真剣に考えているようだった。

ラーメンを食べ終わった頃には客もまばらになっていた。
空になった丼を下げに来た銀子に真九郎は話しかける。

「そうだ、銀子」

「何?」

「お前なにやってんだよ」

「何が?」

「環さんに頼まれてなんかしなかったか」

「…ちょっとお邪魔するわね」

銀子は、光と綾に声を掛けて真九郎の席の隣に座った。
間近にある銀子の冷酷な目が真九郎を射抜いている。



39 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:22:33 ID:pb1G8Hzu

「…聞いた?」

「あぁ、よく引き受けたな」

「…忘れなさい」

「なんで?」

「忘れなさい」

銀子は、長い付き合いの中でも見たことの無いような凄みのある非情な目をして真九郎で睨んでいた。
元々鋭い目つきをする銀子だが、今の目には色んな葛藤が入り混じっているようにも感じる。
真九郎は圧倒され、息苦しささえ覚えた。
改めて意思の強さというモノがどんなに凄いものなのかと実感してしまう。

「そ、そうだ!真九郎さん、携帯の番号を教えてもらっても良いですか?」

「あ、あぁ、いいよ。番号言うから掛けてくれる?
 赤外線とかよく使い方がわからないんだ」

良い娘だ。
話題を変えて、ラーメン屋の隅のテーブル席に突如発生した張り詰めた空気を砕いてくれた。
真九郎は綾に番号を教えて電話を掛けてもらう。
携帯からは…、

『今すぐ死になさい!!』

………。

………。

………。

今までの流れを考えてみたら容易に想像がつくことだった。
色んな人に、個人に専用の着信音が設定してあるなら、設定していない人間から掛かってきたときも
何か特徴ある着信音が使われることくらいは考えておくべきだった。

まずはこの声の感想でも…。

「な、なぁ、なんか気合入ってないか?」

「…そうね」

柄にも無く銀子が顔を朱に染めて目を大きく開いて真九郎を見つめていた。
「死になさい」という言葉を発した自分が恥ずかしいのだろうか。
もっと他に恥ずかしい着信音があった気がするけど…。



40 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:25:03 ID:pb1G8Hzu

いつもなら平然としているか、感情を出して叱りつけるはずだけど、
今日会ったばかりの娘たちの前ではさすがに恥ずかしかったのか?
それとも自分の声に迫力がありすぎて驚いてしまったとか。

何も言わず銀子が真九郎の携帯を取り上げる。
躊躇なくそのままバキッと半分に折り、「はい」と笑顔で真九郎に優しく返してくれた。

その後銀子は席を立って店の奥へ入っていく。
きっと自分の部屋に戻ったのだろう。
こんな状況になったらやっぱり逃げ出したいよな。

でも環さんがマスター音源を確保しているんだからいくらでもコピーできるんだ。
またもらっておこう。
さすがの銀子も焦ったのか。
あとでメールに添付して送ってあげようか。

もしかして情報屋銀子の本領発揮した姿が見れるかも。
環さんのところから音源を探し、無理矢理奪い取る姿は目に浮かばない。
ネットからハックしてデータを壊すのだろうか。
でも環さんは、というか五月雨荘にネット環境なんてなかったと思うけど。
もしかして光でも入ってたりしてないかな。

しばらくすると銀子が戻ってきた。

何も言わず、何もなかったかのように真九郎の隣の席に座る。
感情を出さない平顔はいつもの銀子そのものだ。

興味があったので、なんであんな声を録音したのか、経緯を聞いてみた。


少し前に銀子は環に簡単な仕事の依頼をしたらしい。
環は仕事を終えるとすぐに銀子に連絡し、報酬は違うもので支払ってほしいと要求した。
その報酬が銀子の声の録音だったようだ。
環は、どこからか調達した高感度のマイクを使い、誰もいない静かな道場に銀子を連れて行き、録音したという。
初めは照れていたが、これは仕事の報酬である以上、プロとして開き直った銀子。
「今すぐ死になさい!!」と言ったときには銀子の目は輝いていたんだろうな。
何度か録り直し、使えそうなものを環がチョイスして、真九郎の携帯に入れて設定したようだ。

これは余談だが、闇絵はこれを機に携帯を持とうかと真剣に悩んでいるらしい。
相当気に入ったようだ。



41 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:26:12 ID:pb1G8Hzu

今、目の前では危険と縁の無い話をしている。
けど、ここにいる光以外の三人は死の恐怖を知っている。
死を身近に感じたことがある人間ばかりだ。

今日まで知らなかったけど、綾は小さな頃に何かの事件に巻き込まれたらしい。
真九郎は失敗したら死と隣り合わせの仕事をしている。
銀子は真九郎のことをずっとサポートしているようだった。

今日の会話の話だけで、綾と真九郎は自分が死ぬ恐怖を、銀子は大切な人がいなくなるかも
しれない恐怖を味わったことがある、ということがわかった。

光は知らなかった。
一歩足でも踏み外したら奈落の底に落ちてしまうかもしれない世界があるなんて…。
ほんの小さなのミスで命に危険が及ぶかもしれない世界があるなんて…。
そんなものがこんなにも身近にあるなんて思いもしなかった。
実感も湧かない。
自分の身に何も降りかかっていないのはただの幸運なのだろうか。
当たり前のことが当たり前であるうちは、その大切な価値を感じることが出来ない。
失ってからその価値を感じる人間が大多数だろう。

仲の良い綾の命の恩人で、いかにも優男のような外見をしている目の前の男はそんな世界で何年も生きているらしい。
そんな世界には出来れば関わりたくはない。
でもあるのは事実。
否定は出来ない。

自分一人が否定したところでいつかどこかで巻き込まれるかもしれない。
これから先、自分や周りの人間に何かあったときのため見ておくのも何か勉強になるかもしれない。
危険に対する対処の仕方を学べるかもしれない。

光は一度目を閉じ、決意と覚悟を胸に秘め、真九郎の眼を見た。

「あのっ!私に紅さんの仕事を手伝わさせてもらえませんか?」

「え?さっき言ってた男の子のことがそんなに気になってるの?」

真九郎は光の意外な言葉に戸惑い、光は真九郎の言っている言葉の意味が理解できなかった。
光の思いを知らない真九郎としては当然の反応なんだが…。
思い込みの激しい光にはわかるはずもない。

「えっ!?ちょっ。ち、違います!!」

「でも、顔、真っ赤だよ」

「真っ赤ね」

「光、認めちゃおう」



42 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:27:07 ID:pb1G8Hzu

ちょっと意気込んで顔が赤くなっただけなのに…。
綾まで…。
私、そんなに赤くなってるの?
あれっ、さっきの決意は?
覚悟はどこに行ったの?
かなり重かったよ?
そんなに簡単に流しちゃうの?

「そっか、調べて欲しい一番の理由って、気になる男の人、だからなんだね。
 でもお姉さんも彼のこと好きなんでしょ?
 若いのになかなか難しい恋愛するんだね」

「あ、いえ。えっ!?」

「ん~、好きになったんだから仕方ないか…。
 でもプライバシーに関わるから一緒には連れて行けないね。
 あ、調べたら報告するんだから関係ないかな」

「で、でもっ」

「好きな人が気になるからっていっても、やっぱりしちゃいけないことがあると思うからさ」

「そ、そういう意味じゃなくて…」

「シンちゃん、そんなこと言わずに連れてってやったらどうだい?
 やっぱり好きな奴のことは気になるもんさ。
 なっ、銀子」

銀正が餃子を持ってきて一言挟んでいった。
餃子はただでサービスしてくれるらしい。
お礼を言い、ありがたく好意に甘える。
なぜ銀子に話を振ったかはわからなかったが…。
銀子はムッとした顔をしていたが、真九郎は特に気にせず話を続ける。

「そうか~、まぁ危ないことはないだろうから大丈夫だとは思うけど…」

『堕花が揉め事処理屋の手伝いをする』
これはどうなのだろうか。
まぁ、裏十三家の一つ、と言っても何も知らないようなので問題はないか。
でももし何かあってこっちの世界に引きずり込まれたら…。
彼女の人生がめちゃくちゃになってしまう恐れもある。

調査対象は『柔沢ジュウ』。
最悪だ。
『柔沢ジュウ』を調べること自体が大問題だから、もし裏で何かに巻き込まれたら重大なことになる。
命に関わる危険がある。
そういえばこの依頼は引き受けるって決めてないはず…。



43 :楓味亭:2009/05/24(日) 22:28:01 ID:pb1G8Hzu

「光ちゃんは、今、何年生だっけ?」

「中学三年です」

「ついて来ると危ない目に遭うかもしれないよ。
 まだ中三で命の危険のある場所に望んで行くのはおかしいと思う」

「あんたが人のこと言えんの?」

辛辣な銀子の言葉が真九郎の耳に入った。
いつもの銀子なら揉め事処理屋の手伝いなんてさせるわけがないが、
さっきまでの話を聞いて安全だと判断したのかもしれない。
調べる相手がどんな人物かを知ってたら絶対にこんなことを言わないはずだ。

「はは、言えないかもな。
 あとさっき光ちゃんが言ってた依頼だけどね、
 俺が探偵のようなことをやるよりも、光ちゃんが堂々と調べた方が成功する確率は高いと思うよ。
 俺が調べると、もしかして何も調べられないうちに終わるかもしれないからね」

真九郎が秘密裏にジュウのことを調べると弥生か他の誰かに妨害される恐れもある。
多分警告はしてくれるだろうが、してくれない場合は最悪即死だ。
恩人の息子の素行調査なんてするもんじゃないし、もしするとしたら紅香さんに許可を取ったほうが確実か…。
情けないな…。

隣で銀子が不思議そうにしているが、気にしてはいけない。
依頼の内容も話さないほうが良いだろう。
銀子は紅香さんの息子のことは知ってたんだっけな。
言った覚えはないけど、ま、確認する必要なんて無いか。

「なんでですか?」

「ま、色んなしがらみがあってさ。
 依頼受けるかの返事は保留にして数日以内にその依頼を受けるかどうか連絡するってことで良い?」

「はい、お願いします」

「ありがとう、光ちゃんも一緒に調べられるかはその時に連絡するね」

「は、はいっ」

光は、揉め事処理屋の仕事ぶりが見られる可能性が残ったことに喜んでいた。
その姿をなぜか羨ましそうな目で見ていた綾。

その後は、雑談。
綾が興味を示した真九郎の話や光に聞いた環の話で盛り上がっていた。

しばらく時間が経ち、落ち着いたところで真九郎が支払いを済ませ、楓味亭を後にした。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。