闇絵さんとお昼寝


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闇絵さんとお昼寝
  • 作者 2スレ550
  • 投下スレ 2スレ
  • レス番 749-751
  • 備考 紅 小ネタ



749 闇絵さんとお昼寝 1/3 sage 2008/02/06(水) 23:54:13 ID:bg4WyaK4

 五月雨荘の門を入ったところで、ちょっと買い物袋の中身を確かめるために身をかがめてしまったものだから、声をかけられるまで気付くのが遅れた。
「おかえり。少年」
 涼やかな声に真九郎が顔を上げると、黒い帽子と黒いブラウスと黒い革手袋と黒いロングスカートと黒いハイヒールを身にまとった麗人が、けむるような微笑を浮かべながら、門の側の大木の根元に腰を下ろしていた。
「…ええと。ただいま、帰りました」
 とっさにそう答えてしまい、何かが間違っているような気分のまま、闇絵に歩み寄る。その膝の上で、ダビデが早速丸くなっているのを見て、思わず苦笑した。まあ、どれだけ間があいたとて、やはり飼い主は飼い主ということらしい。
「今日は、早いな」
「はあ…試験期間なもので」
「そうか。それなら、時間はあるかな」
 そう言いながら、闇絵は自分の傍らの地面を軽く掌で叩いた。その意味を把握しかねた真九郎は、
「えっと…珍しいですね。今日は木の上じゃないんですか」
「少年」
 再び、同じ動作が繰り返される。それでようやく、闇絵の意図を悟った。だが、そう言われても真九郎にも都合というものがある。
「その…買ってきたものを先に冷蔵庫とかにしまってきたいんですが」
 それでも、闇絵は頬笑んだままだった。真九郎はため息をついて諦める。闇絵と触れ合わないぎりぎりの距離を保って、その隣に腰を下ろした。冬とはいえ、まだこの時間なら陽射しはけっこう暖かいが、地面から尻伝いに昇ってくる冷気には多少閉口する。
「今晩は、何かな」
「一応、寄せ鍋のつもりで…」
「そうか。楽しみだ」
 当然のようにうそぶかれ、はて食材の量は足りるだろうかと、真九郎は買い物袋の中をもう一度覗き込んだ。まあ、何とかなるだろう。いつものことなのだから。
 闇絵はといえば、もう別のことを話し始めている。
「ここに腰を下ろすのは初めてだが、なかなかに新鮮な眺めだな」
「…はあ」
 これもいつものことながら、闇絵のセリフの奥にあるものは、真九郎には半分も分からない。もしかすると何も意味などないのかもしれないし、もしかするととてつもなく深い意味があるのかもしれないのだが、真九郎としては適当な相づちを打つのが精一杯だった。
「いつもは見下ろしていたものが、自分と同じ高さにあるというのも、なかなかに乙なものだ」
「…そうですか」
「というわけでな。ちょっと肩を借りるよ。少年」
「はあ…はあっ?」
 惰性で頷いてから、とんでもないことを言われた気がして、闇絵の方を見ようとした矢先に、真九郎の肩先に丸い重みが寄りかかった。


750 闇絵さんとお昼寝 2/3 sage 2008/02/06(水) 23:55:12 ID:bg4WyaK4

 どれくらい、そのまま硬直していただろう。無意識のうちに呼吸まで止めていたらしく、窒息間際でようやく気付いて、ゆるゆると息を吐き出し、吸った。できるだけ、自分に寄りかかっているものに響かないように、細心の注意を払いながら。
 そして闇絵は、人の気も知らぬげに穏やかな表情で、真九郎の肩に頭をあずけ、静かな寝息を立てている。いつものつば広の帽子は傍らに落ちてしまっていて、横目で見ると闇絵の白いつむじを窺うことさえできた。
(ええと…)
 何とか落ち着いてものを考えようとするのだが、肩に覚える重みと暖かみが、それを阻んで許さない。いったいぜんたい、自分の身に何が起こっているのか。なぜこんなことになっているのか。
「はあ…」
 一度大きく深呼吸し、動悸を鎮め、一つずつ状況を確認していく。しばらく行方不明だった闇絵が、唐突に戻ってきた。よし。強引に、自分を隣に座らせた。それも、よし。どうやら、いつもどおりに夕食をたかりに来るらしい。それも、まあ、よし。
 そして、真九郎にもたれかかって、あっさり、あっという間に眠りに落ちてしまった。これは…了解不能だった。何か、あり得ないことが起きている。
 だが、それは現実だった。目を覚ます気配すらなく、まるであたかも、疲れ切ったあまりにそうせずにはいられなかったかのように、闇絵は真九郎に体をあずけている。
「…どこで何してきたんですか。闇絵さん」
 呟いてはみたものの、答えが返るはずもない。このあと目を覚ましても、たぶん何も教えてはくれないだろう。だったら、観念して枕代わりを努めるしかないな、と思う。それが、自分にできる精々のことなら、それはそれで仕方がない。
「闇絵さん」
 せめてのこと、闇絵の黒髪に自分も頭を寄せて、囁いてみる。少しでも闇絵が安心できればいいな、と思いながら。
「闇絵さんがいない間は、まあ、いつもどおりでしたよ」
 時折紫が遊びにやって来て、たまに夕乃がご飯を作りに来て、まあ大概は環が食べ物をたかりがてら入り浸っていて、概ね賑やかな日々だった。闇絵の不在については、誰も語らなかった。もしかすると、真九郎が触れたがらないのに気を遣ってくれたのかもしれない。
「ダビデも大人しくしてましたし。キャットフードを食わないのには困りましたけど」
 それよりも、真九郎の食べ残しのご飯に味噌汁をぶっかけた猫まんまの方が、ダビデの口に合うらしかった。おかげで、少なからぬ金額を支払ったキャットフードの缶が、まだいくつも手つかずのまま、真九郎の部屋に転がっている。
 そしてダビデもまた、闇絵を待つ素振りを一切見せなかった。そんな人間などはじめから居なかったかのように、食べて寝て日々を過ごしていた。
「俺も…まあ、いつもどおりで」
 学校へ行き、銀子と他愛もない話をし、たまさか入る揉め事処理屋の仕事をこなし、紫や夕乃や環とそれなりに騒がしくて穏やかな時間を過ごした。闇絵の部屋の前で足を止めたりすることもなかった。
 いったんそこで足を止めたら、扉を開けてみる誘惑に勝てる自信がなかった。扉を開けたとき、そこには誰一人住んだ形跡のないがらんとした空室があるだけではないかという、ほぼ確信に近い疑念を意識したくなかった。
 それもしかし、今となっては全て過ぎたことだ。
「まあ…これからも、またいつもどおりなんでしょうね」
「ふーん。そうなんだ」


751 闇絵さんとお昼寝 3/3 sage 2008/02/06(水) 23:56:10 ID:bg4WyaK4

 目を上げると、環が満面に笑みを浮かべながら立っていた。ただ、心なしかこめかみのあたりがひきつり、気のせいか目が笑っていない。
「そのどこが、いつもどおりなのかなあー?」
「え、いやこれは…その…闇絵さんがいきなり」
「ほおーう?」
 環は、しげしげと闇絵の顔を覗き込む。それでも、闇絵は目覚めない。
「まあ、闇絵さんたら平和な顔しちゃってえー。なんか憎たらしいねー、すんごーく」
「ま、まあそう言わず…なんか疲れてるみたいで」
「ふーん。ナニしてきたんだかねー。おお、いいこと考えちゃった」
 言うなり、環は闇絵と反対側の真九郎の隣に座り込むと、闇絵同様に真九郎に寄りかかった。真九郎が逃げられないよう、その腕をがっしりと自分の胸に抱え込む。
「な何してんですかっ」
 とんでもなく強力なくせにこの上なく柔らかい感触にうろたえる真九郎に、環はにやにやしながら、
「えー、いーじゃんかーえこひいきはなしっ」
「えこひいきって、これはそういうことじゃ」
 真九郎の抗議にも、環は耳を貸さない。有無を言わさず、
「闇絵さんが目え覚ますまでは、このままねっ」
「勘弁してくださいよ…」
「むふふー真九郎くんとお昼寝お昼寝っ。ところで、今晩は何かなあ?」
 買い物袋に目を止めて、闇絵と同じことを訊いてくるので、仕様ことなしに、同じ答えを返す。
「まあ、寄せ鍋をしようかと…」
「じゃあ、今日は宴会だねー。…いいよね?」
 なぜか少し顔をそむけ気味にしながら、不意にふと優しげになって訊ねる声に、真九郎は少しだけ体の力を抜いて、空を見上げた。
「…はい。そうしましょう」








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