『常識を破るモノ』3


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『常識を破るモノ』

  • 作者 1スレ651
  • 投下スレ 2スレ
  • レス番 630-632
  • 備考 電波的な彼女世界でのクロスオーバー的な何か

630 常識を破るモノ-流転 sage 2008/01/08(火) 00:07:17 ID:V2LOwsqW
 幼い頃から自分は闇の世界に生きてきた。
 別にそれが幸とも不幸とも感じなかった。それが自分にとっての「日常」であり「常識」であったのだから。
 『常識破り』。気づけば、そんなあだ名で呼ばれていた。だが私はそれをいつの間にか気に入っていた。
 自分だけが特別、そんな錯覚に陥ることができたから。その点だけは自分でも歪んでいるな、という感情は持ち合わせていたのだが。
 私は別に特殊能力の保持者でもなければ、斬島の一族のように刃物の扱いに長けているわけではない。

 だが唯一、他人と変わっているところがあるとするなら…そう、「あらゆる状況から未来を予測すること」が出来るくらいだろうか。

 当然、それは予測は予測であって予知能力ではない。後者が超常能力に対し、前者は立派な『予測』というデータに基づくものであった。
 故に直接私自身手を下すことはそう多くはない。だが、もちろん最低限の『殺し』の技術は会得している。
 そう、人を殺すのに派手な技や人を超える力など不要なのだ。首に両手を沿え、ほんの少し力を込めれば……人は死ぬ。
 代々、そうして私の家系は裏で汚い仕事を担ってきた。この日もちょうど人を殺したばかりだった。
 別に私は人を殺すことに悦楽を感じているわけではない。それなりの倫理観も持ち合わせてはいるつもりだ。…ただ「人を殺す」という点以外については、だが。

 しかし、意外なところで私の邪魔をした人間がいた。柔沢紅香。対峙したのは初めてだったが、成る程、全盛期よりは力を衰えていると聞いたことはあったが、
 全くそんなことを感じさせないくらい彼女は若かったし、むしろその凶暴性は磨きがかかっているとも思えた。
「悪いが、このままあんたを野放しにしていたら、ウチの悪餓鬼にも被害を及ぼしそうなんでね。
 あれでも一応はあたしの息子だ。あれでなかなか厄介ごとに首を突っ込むみたいでさ、あんたが関わりあう前に歯止めかけさせてもらった」
 私を打ちのめした時、彼女はそう言った。成る程、彼女の凶暴性に磨きがかかった理由が何となく分かったような気がする。
 陳腐な言葉だが『守りたいものがあるから』なのだろう。私には到底理解の出来ない理由ではあったが。私はずっと独りだった。
 守られることはなかったし、守りたいと思うものもなかった。ただ単に私は、『私』として生きることが出来ればそれで十分だった。

 ―――なんという空虚さ。笑ってしまう。自分自身、『生きる』という意味を理解していないではないか。

 もしも、『生きる』ということを大切にしているのであれば、他人の命の重みも分かるものだ。
 だが――、私にはそれが感じられない。ならば、私は、ただ単に何も理解していないと言うことになる。
 守りたいものもない私には、何もない。ただ生命活動を維持している人形に過ぎないということだ。
 結局、家の者に操られているだけのからくり人形。

 しかし、奇遇にも柔沢紅香は本人も意図しない内に、その人形に『興味』という種を植え付けた。
 孤高だった彼女が『守りたい』と感じられるものは一体何なのか、という『種』――柔沢ジュウを。



「ん、んっ………」
「やあ、目覚めたかい。堕花雨君?」
「…」
 廃工場。少女は自分のことながら、陳腐な場所を選んだなと感じつつも、自ら縄で縛り上げ地面に転がしている少女に視線を向けた。
 堕花雨―――、あの『柔沢ジュウ』の最も近い場所にいる人間、それが彼女であった。
 雨はその鬱陶しい髪の間から、ただジッと目の前の少女に視線をぶつけていた。

 年の頃は自分と同じぐらいだろうか。中性的な顔立ちで、一見しただけでは男か女かははっきりと区別できない。
 それでも女だと分かったのはその声と体つきであった。
 声は高いものの、耳をつくような甲高さではなくどこか甘く蕩けるような優しい声色だった。
 体つきも、雨より若干背が高いぐらいなのに、黒いシャツの上から見ても分かるぐらいにそのラインははっきりとしている。

 彼女は長い髪をひとつのお下げに束ねた髪の房を手に取り、退屈そうに弄る。
「やっぱり私の『予測』したとおりだ。君は柔沢ジュウ君のこととなるといささか冷静さを欠くようだね。
 どうだった? 私の嘘は。あれぐらいの脅迫文ならば、小学生にも書けるとは思うけれど、効果覿面だったようだね」
「……」
 雨は少女の言葉に耳を貸さず、身動きが取れない身体の代わりに、その視線で殺してしまいそうな程に殺気を込めて睨み続けていた。



631 常識を破るモノ-流転 sage 2008/01/08(火) 00:13:31 ID:zPVXxlSS
 少女はおどけたように肩を軽く竦ませて、溜息をつく。
「やれやれ、そこまで怒られるとは思ってもいなかったよ。
 『柔沢ジュウの身柄は預かった。彼を無事で返して欲しければ、独りで廃工場に来い』
 ……ふふふ、あまりにも典型的な脅迫文にしては」
「雪姫を襲ったのも貴女ですか」
 少女の言葉をさえぎる様に、雨は殺意を視線に乗せてぶつける。

 そんな雨の様子が面白かったのか、少女はくすくすと笑みをこぼし、首を縦に振る。あっさりとした肯定。
「ご名答。その通り私が彼女を襲った。驚いたかい?『斬島』が相手なら、確かに私の方が不利だろう。
 ただし、それは刃物を手にしているという前提条件の下でのことだ。刃物を手にしていない『雪姫』という少女ならば、話は別だ。
 確かに、刃物を手にしていない『雪姫』でも、一般人よりも、体力・反射神経・運動能力・体術ともに劣りはしないだろう。
 そう柔沢ジュウ君よりはね。いやいや、そう怖い顔をしないでくれ。別に彼のことを馬鹿にしているわけではないよ?
 柔沢紅香の息子。なるほどなかなかに度量があるみたいだね。少し冷静さが欠けているようにも思えるが、行動力と決断力、そして打たれ強さは流石と褒めるべきだろう。
 おっと、話が逸れてしまった。つまり、『雪姫』のスイッチが切り替わるその瞬間までに彼女を狙えばいい。
 そのスイッチのキーである『刃物』だが、取り出してそれを握るにはどうしても僅かな隙が生じてしまう。
 彼女の行動を『予測』すれば、そんなものどうにでも防ぐことが出来る。これでも一応は『殺し』の技を持っているのでね。
 まあ、『斬島』に成り変わった時のリスクへの恐怖を取り除けば、簡単だと言えば簡単だったかもしれないね」

 朗々と詩吟を詠むかのように、すらすらと言葉が出てくる少女。雨はその内容に興味を持つことはなく、ただひたすら睨み続ける。
「貴女は一体何者ですか? そして、その目的は?」
 少女の上機嫌な表情はすぐに崩れ、興味が冷めてしまったかのようにやれやれとため息をこぼした。
「君は思ったよりもせっかちのようだね。何事にも時の流れとタイミングというものがある。
 まあ、そういう意味では、このタイミングでそれを訊ねてきた君にも興味があるが、それはおいておこう。

 歪空 亜月(ゆがみそら あつき)。

 『歪空』――『空を歪める』ことさえ可能とする非常識な『常識破り』。
 『亜月』――『空を歪める』ことから生じて見える二つ目の『偽りの月』。
 それが私の名が表す意味だ。どうだい、なかなか洒落ているだろう?」

 そして少女、歪空亜月は微笑んで口にした。

「私の目的は、柔沢紅香の息子――柔沢ジュウを絶望に陥れること。それが目的さ」


632 常識を破るモノ-流転 sage 2008/01/08(火) 00:17:50 ID:zPVXxlSS
 その頃、ジュウは雨の中を走り回っていた。びしょ濡れになったシャツが身体に張り付いて気持ち悪い。
 だが、そんなことを自覚的に感じられないほど、彼には余裕がなかった。思い当たる場所はすべて回ってみた。
 そんな行動とは裏腹に、彼女の姿はなく、絶望感と焦りが彼の思考を黒く塗りつぶしていた。

「くそ、冷静になれよ、柔沢ジュウ!」
 それを理性で押しとどめようとする。感情的に身を任せて、今までに功を奏したことはない。

 それは今までの事件からも学習したことだった。だが、雨に危険が迫っていることは確実だ。
 あの雨が自分に言伝なく姿を消すなどありえない。そして、彼女はこうも約束した。
 『ジュウ様の目の前から勝手に消えるようなことは致しませんから』と。

 …本当に軟弱になったものだ。たった一人の人間が目の前からいなくなっただけで、こんなに取り乱してしまうなど。
 そう、こんな不安な気持ちを抱えたくがないために、ジュウは今まで親密な友人は作ってこなかった。
 自分のために誰かが危険に晒されるなど、そんなことが起きるなら彼女と出会わなければ良かった。

「何を言ってやがる……馬鹿か、俺は」
 あまりにも情けない思考が浮き出てきた自分に苦笑をこぼした。そんなことを考えている場合ではない。結論を出すには早すぎる。
「俺が犯人なら、どうする?」
 そう、そこだ。最終的なターゲットはジュウだと円は言った。
 もし雨を殺したとするなら、彼女の遺体なり何なり、その痕跡をジュウに見せ付けるはずである。
 それが未だ見つからないということは、最悪の状況はまだ訪れていないということだ。しかし、のんびりとはしていられない。
 最悪な状況が訪れていないだけで、現時点においてジュウは後手に回っている。
 このままでは、雨を探すどころかいつジュウも襲われるか分からない。

 早く、手がかりを見つけ出し、雨を助け出さなければ。

 しかし、どうする? 手がかりと言っても、これと言ったものはない。
 電話越しの光の様子を考えるに、呼び出した証拠などは堕花家には残ってないだろう。
 円に連絡するか? 一番現実的な手段ではあるが、彼女もまた危険に晒される可能性もある。
 それは最後の手段ぐらいに考えておこう。それに彼女と連絡を取ったからといって、手がかりが見つかる保証があるわけではない。
 八方塞がりだな。やはり、円に連絡をするか。今はプライドや見栄を張っている場合ではない。
 軽蔑されるかもしれないが、雨を救い出すには一刻を急ぐ。携帯を取り出して電話しようとしたその時、その円から電話がかかってきた。

『柔沢くん?』
「円堂か! 実は、雨が……」
『分かってる。「常識破り」が何かしらの手を使って雨に干渉したみたいね』
「おまえ、どうしてそれを…それに、病院にいるんじゃないのか?」
『馬鹿ね、雨が消えたと知って自分だけじっとしていられるわけないじゃない。今は自宅。
 すぐに折り返してメールを送るから、そこに行ってみて。たぶん…ヒットすると思うわ』
 早口にまくしたてると、円は電話を切ってしまった。不思議に思っていると、すぐに彼女からのメールが送られてきた。
 そこには、町外れの廃工場名の文字と簡単な場所の案内。行ったことなどないが、場所なら分かる。
 ―――ここに雨がいると言うのだろうか? しかし、どうして円が知っているのだろうか。
 確かに彼女の情報網は、これまでにも頼りにしたことがある。だが、流石の彼女もこんな短時間で調べがつくわけがない。

 だが、今更だった。
 ジュウは、彼女からの情報を疑うほど賢くはなかった。いや、疑おうと思えば幾らでも疑えただろう。
 しかし、冷静になってみればなるほど、彼女のことを疑うことは出来なくなってしまっていた。
 それがなぜだか、彼にはわからない。それでもジュウは、行動を起こすことを決心した。
 不確定要素は幾らでもある。両手の指を使っても数え切れないほどだ。

「……やってやろうじゃねえか」

 ―――『常識破り』? ハッ、それがどうした。
 雨と出会ってから、既に、俺は『常識』という枠の外に足を突っ込んでいるんだ。
 『危険』や『不安』なんて『常識』、こっちからぶっ壊してやる。

 雨、待ってろ。 お前が俺を主と呼ぶなら、俺は主としての義務を果たしてやる……!











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