「「電波的な彼女 ~ 幸運ゲーム エピローグ ~」」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**「電波的な彼女 ~ 幸運ゲーム エピローグ ~」
-作者 牛男
-投下スレ 1スレ
-レス番 98-101
-備考
98 牛男 2006/07/02(日) 00:20:58 ID:ae79nUNt
(1)
大きく息をついてから、ジュウはゆっくり身体を起こした。
自分の胸にすがりつく少女の嗚咽はまだとまらず、服から手を離そうともしない。
ジュウは雨の耳元で、ささやくように呟いた。
「もう、泣くな。俺は、大丈夫だから」
自分でも驚いてしまうくらい、優しい声。
それでようやく雨の泣き声がとまり、ジュウの胸からそっと顔を離した。前髪の隙間から覗く深い瞳が、ジュウの姿を映し、潤んでいる。吸い込まれそうな瞳だ。
「ジュウ様……」
濡れた頬に思わず手を当てたところで、ジュウははっと我に返った。
なんだ、この、ドラマのような展開は。
柄にもないことをして急に気恥ずかしくなったジュウは、何気ない仕草で周囲を見渡した。
「警察、来ちまったな。説明が大変だぞ、こりゃ」
道路に突き飛ばされて、絶体絶命だったジュウ。しかし、危ういところでトラックがよけ、白石香里とともにブティックに突っ込んだ。
事実としてはそうだのだが、何故、白石香里がジュウを突き飛ばしたのか。どのように説明したものか。まさか幸福値うんぬんの話をして、警察を納得させられるとは思えない。
99 牛男 sage 2006/07/02(日) 00:22:04 ID:ae79nUNt
(2)
だが、ジュウの心配は杞憂に終わった。
当事者であるはずのジュウは、警察署に連れて行かれることもなく、簡単な事情を説明するだけで、開放されたのだ。もちろん、住所と電話番号を知らせる必要はあったが、それにしても破格の扱いである。
おそらく円堂円が警察の上層部に話をつけたのだろう。よくは分からないが、あの男嫌いの少女は警察を意のままに操ることができるようだ。
十分な礼を言う間もなく、ジュウは帰宅することになった。
全身傷だらけで、精神的にもショックを受けている。今日は早く家に帰って、ゆっくりとお休みになる必要がありますと、雨に説得されたのだ。
ひとりで帰ることもできたのだが、今回ばかりは雨が許してくれなかった。
「わたしがついていなかったばかりに、ジュウの命を危険にさらしてしまいました」
もちろん、雨に責任などあるはずがない。ジュウ自身にしてみれば、馬鹿げた話である。
だが、雨は深く後悔したようだ。まるで我侭な子供のような頑迷さで、ジュウのそばから離れることを頑なに拒否した。
仕方がない。今日くらいはいいだろう。
雪姫と円に別れを告げ、二人はジュウのマンションに向かった。
100 牛男 sage 2006/07/02(日) 00:23:03 ID:ae79nUNt
(3)
傷だらけで土ぼこりにまみれたジュウを、道行く人たちが注目したが、何故か気にはならなかった。
ジュウの身体を支えるように、しっかりと寄り添い、心配そうな瞳で見上げてくる少女。そんな姿を見ていると、これまで経験したこともないような、不思議な感情が沸き起こってきた。この気持ちはなんなのだろう。やはり、錯覚にすぎないのだろうか。
おそらく、他人どころか身内にすら優しくされたことがないので、心が戸惑っているだけなのだろう。無理やりそう思うことにした。
人知れず葛藤しているうちに、マンションに到着した。
「今日はすまなかったな。もう大丈夫だから。また、明日、な」
「いえ、お部屋までお供いたします。傷の手当も必要ですから」
こんなのつばをつけときゃ治ると答えたものの、やはり押し切られてしまう。
雨の迫力に負けたということもあるが、今日くらいはまあ、こいつに甘えてもいいかと、妥協した結果でもあった。
雨に聞かれないように、そっとため息をつく。
やれやれ、自分はいつからこんな軟弱者になったのだろうか。
101 牛男 sage 2006/07/02(日) 00:24:08 ID:ae79nUNt
4)
部屋に入り電気をつけたが、当然のことながらそこには誰もいなかった。
今日も紅香は戻らないらしい。こんな情けない姿をあの母親にだけは見せたくなかったので、正直、ジュウはほっとした。
「とりあえず、ソファーにでも座ってくれ。お茶くらい出してやる」
「いえ、ジュウ様。それはわたしが……」
「いいから、座ってろ」
以前も同じようなやりとりをしたような気もするが、家の中の仕事を客人に任せる気にはなれなかった。冷蔵庫で冷やしていた麦茶をグラスに注ぎ、テーブルに置く。
「ありがとうございます」
「別に礼をいうほどのもんじゃねぇよ」
時計の針は午後六時三〇分を少し回ったところ。雨の家では夕食の支度がされているだろう。年頃の女の子を、あまり遅くまで引き止めておくわけにはいかない。
「家の人が心配してるんじゃないのか?」
そう言ってジュウは「お茶を飲んだら帰るんだぞ」と続けるつもりだったのだが、
「いえ。今日は両親ともに旅行に出かけていますので。光ちゃんには遅くなるから先に夕食を食べておくようにと伝えてありますし、じっくりと手当てをすることができますよ」
……やぶへびだったか。
この少女の頑固さは、ジュウが一番よく知っている。こうなったら、さっさと手当てをさせて、帰らせるしかないようだ。
ひとつため息をついて、ジュウは救急箱を出すために立ち上がった。
**「電波的な彼女 ~ 幸運ゲーム エピローグ ~」
-作者 牛男
-投下スレ 1スレ
-レス番 98-101
-備考 電波
98 牛男 2006/07/02(日) 00:20:58 ID:ae79nUNt
(1)
大きく息をついてから、ジュウはゆっくり身体を起こした。
自分の胸にすがりつく少女の嗚咽はまだとまらず、服から手を離そうともしない。
ジュウは雨の耳元で、ささやくように呟いた。
「もう、泣くな。俺は、大丈夫だから」
自分でも驚いてしまうくらい、優しい声。
それでようやく雨の泣き声がとまり、ジュウの胸からそっと顔を離した。前髪の隙間から覗く深い瞳が、ジュウの姿を映し、潤んでいる。吸い込まれそうな瞳だ。
「ジュウ様……」
濡れた頬に思わず手を当てたところで、ジュウははっと我に返った。
なんだ、この、ドラマのような展開は。
柄にもないことをして急に気恥ずかしくなったジュウは、何気ない仕草で周囲を見渡した。
「警察、来ちまったな。説明が大変だぞ、こりゃ」
道路に突き飛ばされて、絶体絶命だったジュウ。しかし、危ういところでトラックがよけ、白石香里とともにブティックに突っ込んだ。
事実としてはそうだのだが、何故、白石香里がジュウを突き飛ばしたのか。どのように説明したものか。まさか幸福値うんぬんの話をして、警察を納得させられるとは思えない。
99 牛男 sage 2006/07/02(日) 00:22:04 ID:ae79nUNt
(2)
だが、ジュウの心配は杞憂に終わった。
当事者であるはずのジュウは、警察署に連れて行かれることもなく、簡単な事情を説明するだけで、開放されたのだ。もちろん、住所と電話番号を知らせる必要はあったが、それにしても破格の扱いである。
おそらく円堂円が警察の上層部に話をつけたのだろう。よくは分からないが、あの男嫌いの少女は警察を意のままに操ることができるようだ。
十分な礼を言う間もなく、ジュウは帰宅することになった。
全身傷だらけで、精神的にもショックを受けている。今日は早く家に帰って、ゆっくりとお休みになる必要がありますと、雨に説得されたのだ。
ひとりで帰ることもできたのだが、今回ばかりは雨が許してくれなかった。
「わたしがついていなかったばかりに、ジュウの命を危険にさらしてしまいました」
もちろん、雨に責任などあるはずがない。ジュウ自身にしてみれば、馬鹿げた話である。
だが、雨は深く後悔したようだ。まるで我侭な子供のような頑迷さで、ジュウのそばから離れることを頑なに拒否した。
仕方がない。今日くらいはいいだろう。
雪姫と円に別れを告げ、二人はジュウのマンションに向かった。
100 牛男 sage 2006/07/02(日) 00:23:03 ID:ae79nUNt
(3)
傷だらけで土ぼこりにまみれたジュウを、道行く人たちが注目したが、何故か気にはならなかった。
ジュウの身体を支えるように、しっかりと寄り添い、心配そうな瞳で見上げてくる少女。そんな姿を見ていると、これまで経験したこともないような、不思議な感情が沸き起こってきた。この気持ちはなんなのだろう。やはり、錯覚にすぎないのだろうか。
おそらく、他人どころか身内にすら優しくされたことがないので、心が戸惑っているだけなのだろう。無理やりそう思うことにした。
人知れず葛藤しているうちに、マンションに到着した。
「今日はすまなかったな。もう大丈夫だから。また、明日、な」
「いえ、お部屋までお供いたします。傷の手当も必要ですから」
こんなのつばをつけときゃ治ると答えたものの、やはり押し切られてしまう。
雨の迫力に負けたということもあるが、今日くらいはまあ、こいつに甘えてもいいかと、妥協した結果でもあった。
雨に聞かれないように、そっとため息をつく。
やれやれ、自分はいつからこんな軟弱者になったのだろうか。
101 牛男 sage 2006/07/02(日) 00:24:08 ID:ae79nUNt
4)
部屋に入り電気をつけたが、当然のことながらそこには誰もいなかった。
今日も紅香は戻らないらしい。こんな情けない姿をあの母親にだけは見せたくなかったので、正直、ジュウはほっとした。
「とりあえず、ソファーにでも座ってくれ。お茶くらい出してやる」
「いえ、ジュウ様。それはわたしが……」
「いいから、座ってろ」
以前も同じようなやりとりをしたような気もするが、家の中の仕事を客人に任せる気にはなれなかった。冷蔵庫で冷やしていた麦茶をグラスに注ぎ、テーブルに置く。
「ありがとうございます」
「別に礼をいうほどのもんじゃねぇよ」
時計の針は午後六時三〇分を少し回ったところ。雨の家では夕食の支度がされているだろう。年頃の女の子を、あまり遅くまで引き止めておくわけにはいかない。
「家の人が心配してるんじゃないのか?」
そう言ってジュウは「お茶を飲んだら帰るんだぞ」と続けるつもりだったのだが、
「いえ。今日は両親ともに旅行に出かけていますので。光ちゃんには遅くなるから先に夕食を食べておくようにと伝えてありますし、じっくりと手当てをすることができますよ」
……やぶへびだったか。
この少女の頑固さは、ジュウが一番よく知っている。こうなったら、さっさと手当てをさせて、帰らせるしかないようだ。
ひとつため息をついて、ジュウは救急箱を出すために立ち上がった。