美夜救済SS

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白い壁。白い天井。窓のない部屋。 ジュウ君を刺して、自分で招いたこの結果。 結局、何もかも失敗しちゃった。 …わたしが間違えたのは、どこだったのかな? ジュウ君に何と言おうとしたのか、わたしにもわからない。 お腹の傷。大丈夫かな…一命を取り留めたのは知っている。夏休みが終わる前に退院した事も。 でも、ずっと傷跡は残るだろう。死んで、灰になるまで。 少年法の適用で多分10年もしたら社会に放り出されるだろう。情状酌量の余地とかで、もっと短いかも知れない。 償える罪でもないのに。 『あなたが償うべき場所は塀の中にはありませんよ?』 聴こえるのは、堕花さんの声。 「そんな事、わかってるよ…」 幻聴かな…自分で思っているより追い詰められてるのかも知れない。 『命を捨て、自分を棄てる覚悟があるならそこから出してあげます。勿論、条件付きですが』 「条件?」 『柔沢ジュウ様に、お仕えしなさい』 「今更、会える訳ないじゃん…」 『あなたが償うべき人はジュウ様です。自らを棄て、償う気はないのですか?』 「…出来る事なら、したいよ。でも、出来る訳ないじゃん…」 『したいのですね?』 確認する声音は、命令に近い鋭さがあった。 堕花さんなら、ジュウ君のために何でもやるんだろうな… 「そうだね…謝れるなら、何でもするかも」 『かも?』 「する。するよ。何でも」 出来ることなら、謝りたい。謝って伝えたい事があるのかも知れない。 生きる人形のわたしが代価なら、不釣り合いなほどだ。 「そうですか。安心しましたよ」 がちゃり、とかたい音と共に扉が開く。 現れるのは堕花雨。 「そんな…どうして…」 「紗月美夜は今、死にました。ジュウ様がお待ちかねです。ついてきなさい」 有無を云わさぬ口調。 小柄な体躯をただ、追いかけるしかなかった。 ―――――――― 「堕花さん。どこに行くの?」 拘置所から出て、近くの駅までついた。 堕花さんは荷物の入ったソフトキャリーバックと人1人は入る空のハードキャリーバックをロッカーから出してる。 「これから、ジュウ様と旅行ですから」 「ふーん…」 「あなたも行くのですよ?」 堕花さんが荷物から出した大人用オムツをこちらに投げつけた。 反射的に受け取ったけど… 「もしかして、そのバックの中に?」 「そうですが?」 交通費がもったいないですから。と事も無げに言ってくれる。 オムツは、丸1日近くは出れない為。 本当にモノ扱いされるんだなぁ…と思ったが、何でもすると言った手前反論しにくい。 拒否されるなんて微塵も思ってない顔だ。目は隠れてるけど 「早くして下さい。ジュウ様がお待ちなのです」 「ちょ、まだ履いてないし、押し込まないで!」 前途多難…なのかな。 ―――――――― 一時間後、ジュウ君が現れた。 ハードキャリーバックには小さな覗き穴と空気穴が用意されてる。 でも、約束一時間前に詰め込む事ないんじゃない? 「おはようございます。ジュウ様」 死角で見えないけど、堕花さんの声は弾んでいる。 「あぁ…おはよ」 ジュウ君は欠伸を噛み殺し、相変わらず無気力に応えた。 変わってないな、なんて何でもない事でも胸が熱くなってしまう。 でも、堕花さんからは喋らないように厳命されてる。 待ってる間、声をかけようとする度に蹴飛ばされたし、仕舞には。 『ジュウ様にお渡しする前に、ラッピングが必要でしょうか?』 と呟いていた。多分、口をきいたら縛られる。 彼女の事だ。ロープくらいは事前に用意してるだろう。 電車が走る音が聞こえる。 「いくぞ。片方、持ってやるよ」 とわたしが入ったバックを取り、歩き出した。 「…ありがとうごさいます」 今、こっち睨んだよね?堕花さん 「結構重いな。20キロはあるんじゃないか?」 …そんなに軽くないよ? 「いえ60キロ程はある筈です」 そんなに重くないよ… 和やかな会話を交わしながら、3人(1人荷物)は電車へ乗り込んだ。 ――――― 6時間かけて、ついたのは北海道のとある旅館。 わたしのいるカバンの中は寒いけど、外の2人は色々な意味で暖かそうだ。 「ジュウ様…申し訳ないです」 「いいから、口をあけろ。結構うまいぞ?」 旅館にいく途中、堕花さんが滑って転んでしまった。 その時に手を挫いてしまったようで、うまくお箸が持てないみたいだった。 そして、それを見かねたジュウ君が堕花さんにごはんを食べさせてあげてる。 所謂『あーん』 もう7時間以上、カバンの中で体を丸めて入ってるから、節々が痛い。 あと、時々勝ち誇るような堕花さんの目線が憎たらしい。 「飯くったら、風呂にいくか?」 「露天風呂があるそうですよ」 「そうか…デカい風呂に入るのは初めてかも知れん」 「楽しみですね」 「そうだな…ところで、おまえは風呂は長いか?」 「いえ、普通だと思いますが…」 「出る時の合図とか、決めた方がよくないか?」 「その必要はないでしょう」 「なんで?」 「いけば、わかると思います」 「そうか」 ジュウ君と堕花さんは食事しながら和やかに話してる。 ジュウ君。デザートはフォークで食べられるんだから食べさせてあげる必要はないんだよ? …あと、テレビで見た事あるけど、ここって確か脱衣場は別だけど露天風呂は共通の予約混浴がある旅館だ。 流石、堕花さん計算通りか。 考えを巡らしているうちに、2人は連れ添ってお風呂にいってしまった。 ……なんだろ。この敗北感。 色々と馬鹿馬鹿しくなったわたしは、とりあえずふて寝する事にした。 「おきなさい」 「ん…堕花さん?」 「これから、あなたをテストします。さっさときなさい」 目が覚めたばかりのわたしを引っ張り出し、もう先に歩き出した。 目の前に広がるのは大雪原。 「うわぁ…」 思わず、感嘆の声が漏れる。空には月が浮かび、白い絨毯を照らしている。 「丁度、いいのがいますね」 堕花さんが指したのは一匹の鹿っぽい動物。 北海道にいるんだしね。多分鹿。ちょっと遠いけど 「…でアレがどうしたの?」 「見ていなさい」 一言言いおき、駆け出す堕花さん。 とても明るい昼間に雪に足を取られた人だとは思えない。 鹿っぽい生き物に、いきなり右手で掌ていを放つ。 「ちょっ…かわいそうでっ」 最後までは、言えなかった。 仰け反った鹿っぽい生き物に全身のバネを使った肘うち。 軽く浮かび上がった鹿っぽい生き物の頭を掴み、体をほぼ一回転捻って雪の積もる地面に叩きつけた。 「…すごい」 「あなたに、覚えてもらう技です」 「無理だよ?!」 「出来ない事はないでしょう」 堕花さんは、テストだと言った。 つまり、出来なければ… 「あちらのペンションに、とりあえずの荷物があります」 食料と衣料品。約4日分。 旅行の間に出来なければ、それまでという事か 「…うん。やるよ。堕花さんに出来たんだしね」 決意を込めていう。やってやる。こんな小柄な女の子に出来るのだ。 「わたしは、ジュウ様の元へ戻ります。では」 きびすを返し、去っていく。 「ところで、堕花さん」 「…なんでしょう?」 「右手、挫いてたんじゃなかった?」 にやり、と擬音が聞こえそうな笑みを浮かべ堕花さんはそのまま旅館に戻って言った。 ……ジュウ君。彼女、怖いよ…

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