このごろ・・・3人の・・・・・2分の1

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 このごろ、三人の会話の中でその名前が出てくることが、めっきりなくなった。  いつごろからそうなったのか、さだかではないのだが。 「最近ですか。図書館にいることが多いですね」と雨が言う。「勉強したり、本を読んだり、寝たり。とても静かで充実した時間です。ああいうのを至福のひととき、というのでしょう」と。  雨ったら最近付き合いわるーい! 何してんのナニしちゃってたりしないよねっ、と雪姫が絡んだのに対して、淡々と答えたのだった。  そして、珍しくもふと少し不安そうに付け加える。「わたしの方ばかりが幸せなようで、なんだかこれではいけないような気がしてならない時があります」と。  けれども他の二人は、かぶりを振ったりしない。図書館とやらで仏頂面で頬杖を突きながら傍らにいるであろう男の子を前にして抱くその気持ちを、分からないでもないから。  ただ、誰一人(とりわけ、バカで不器用な王様が)あまり傷つかずにいられる、そうしたひとときの情景を、一幅の絵のように思い描くのだ。そんな脆くてはかない安寧が、いつ失われたとしても何の不思議もないことなど、よく分かっているはずなのに。  そしてそっと静かに、雨も他の二人もその名前を口にしない。  そんなことをしなくても、その存在をいつでもありありと感じることができるので。 「あーん煮詰まっちゃったよう」と雪姫が言う。「いやーネームがさあ。一応想い叶ってハッピーエンド! に、したいんだけど、相手の男の子が主人公の女の子なんかに振り向いちゃうのが、どーにもウソっぽいんだよねえ。うーんどーしよう?」と。  たまに寄稿するサークル本の原稿に、「今回はリアル思春期路線でいくからねっ」と意気込んで取りかかった割に、どうやら手を焼いているのだった。  そして、こめかみの辺りに指先なぞ当てながら、ふかぶかとため息をついてみせる。「モデルが悪かったかなあ。テキは手強いよう」と。  けれども他の二人は、いたわりの言葉などかけたりしない。そんな風にぼやく雪姫が、とても嬉しそうに微笑っているから。  ただ、そんな微妙なバランスが醸し出す不可思議なあたたかさが失われたときの荒涼とした世界から、僅かな間だけだが目をそらすのだ。現実など元来そういう寒々しいものだと、重々承知しているはずなのに。  そしてやっぱり、雪姫も他の二人もその名前を口にしない。  まるで、自分たちが不用意に触れれば簡単に毀れてしまう、とでもいうように。
366 :このごろ、三人の…… 1/2:2008/08/15(金)  このごろ、三人の会話の中でその名前が出てくることが、めっきりなくなった。  いつごろからそうなったのか、さだかではないのだが。 「最近ですか。図書館にいることが多いですね」と雨が言う。「勉強したり、本を読んだり、寝たり。とても静かで充実した時間です。ああいうのを至福のひととき、というのでしょう」と。  雨ったら最近付き合いわるーい! 何してんのナニしちゃってたりしないよねっ、と雪姫が絡んだのに対して、淡々と答えたのだった。  そして、珍しくもふと少し不安そうに付け加える。「わたしの方ばかりが幸せなようで、なんだかこれではいけないような気がしてならない時があります」と。  けれども他の二人は、かぶりを振ったりしない。図書館とやらで仏頂面で頬杖を突きながら傍らにいるであろう男の子を前にして抱くその気持ちを、分からないでもないから。  ただ、誰一人(とりわけ、バカで不器用な王様が)あまり傷つかずにいられる、そうしたひとときの情景を、一幅の絵のように思い描くのだ。そんな脆くてはかない安寧が、いつ失われたとしても何の不思議もないことなど、よく分かっているはずなのに。  そしてそっと静かに、雨も他の二人もその名前を口にしない。  そんなことをしなくても、その存在をいつでもありありと感じることができるので。 「あーん煮詰まっちゃったよう」と雪姫が言う。「いやーネームがさあ。一応想い叶ってハッピーエンド! に、したいんだけど、相手の男の子が主人公の女の子なんかに振り向いちゃうのが、どーにもウソっぽいんだよねえ。うーんどーしよう?」と。  たまに寄稿するサークル本の原稿に、「今回はリアル思春期路線でいくからねっ」と意気込んで取りかかった割に、どうやら手を焼いているのだった。  そして、こめかみの辺りに指先なぞ当てながら、ふかぶかとため息をついてみせる。「モデルが悪かったかなあ。テキは手強いよう」と。  けれども他の二人は、いたわりの言葉などかけたりしない。そんな風にぼやく雪姫が、とても嬉しそうに微笑っているから。  ただ、そんな微妙なバランスが醸し出す不可思議なあたたかさが失われたときの荒涼とした世界から、僅かな間だけだが目をそらすのだ。現実など元来そういう寒々しいものだと、重々承知しているはずなのに。  そしてやっぱり、雪姫も他の二人もその名前を口にしない。  まるで、自分たちが不用意に触れれば簡単に毀れてしまう、とでもいうように。 367 :このごろ、三人の…… 2/2:2008/08/15(金) 「男ってのは、例外なくバカね」と円が言う。「うぬぼれてて、傲慢で、無神経で、鼻持ちならなくて、お子様で、スケベで、頭がからっぽで、アレのことしか考えてなくて、だらしなくて、役立たずで、うっとうしくて、不愉快で」と。  何を勘違いしたか、空手の大会で円を見初めてしつこくつきまとうなどという蛮勇を発揮したイケメン体育大生を、心理的にも(最後は無理矢理ことに及ぼうとしたので)肉体的にも叩きのめしてきたのだった。  そして、曖昧な温さを伴った苦笑を浮かべる。「……もっとも、中にはバカの度がすぎる例外もいるわね」と。  けれども他の二人は、うなずいたりしない。その必要も感じないくらいに良く知っている、当然の事実であるから。  ただ、これからもずっとそんなバカが(できれば自分たちと一緒に)この世に居てくれますように、と心の底から祈り願うのだ。こんな自分たちが、そんな大それた空しい望みを抱いていいものかどうか、自信も確信も全くありはしないのに。  そして結局、円も他の二人もその名前を口にしない。  本当に大事なことは、かるがるしく言葉にしたりせず胸の裡に蔵っておくものだと、賢明にもわきまえているから。  そんなわけで、このごろ、三人の会話の中でその名前が出てくることが、めっきりなくなった。  それは、そう、たぶん、そうしていれば、特に話題にすることもないくらいあたりまえに男の子がいる穏やかな日々が、これからもずっと続いていくなんて、そんなことを信じてしまってもよさそうに思えてくるからなのかもしれない。  それに、当人にはいつでも会えるのだから。そうすれば、名前だっていくらでも呼べるのだから。努めて冷静に。努めて賑やかに。努めて素っ気なく。舌に乗せたその名と響きあう、胸の奥の微かなざわめきも密やかなおののきも、決して相手に気取られぬように。 「おかえりなさいジュウ様。なかなか、よい茶葉を置いておられますね。さすがです。ところで僭越ながらジュウ様、ピッキング対策として、カードキーが無理ならせめて、ディンプルロックを二重に付けられた方がよろしいかと」 「……他人の家のカギこじ開けて勝手に上がり込んでのんびり茶なんか飲んでるお前らを前にそれで俺に何をどう納得しろと」 「おかえり柔沢くんお腹すいたー! またトースト焼いてくれたらチューしたげる! 優しい柔沢くんはかあいそうな腹ぺこの女の子見捨てたりしないよね? そんなことしたら暴れちゃうぞっ」 「って聞いちゃいねえよなんで俺がそんなもん作らにゃならねえんだ食いたきゃ自分で焼けこらホントに暴れるなナイフに手を伸ばすなってかおいまさかそのカップラーメンは晩メシにとっといた」 「あら、柔沢くん。これが夕食ですって。ふうん。そう。ずいぶん貧しい食生活ね。軽食としては、まあまあだったけど。やっぱり、男なんて生活能力のかけらもないろくでなしばかりだってことかしら。柔沢くんもそう思わない?」 「なああんたまでなんだってここにいやそのなんだええとだからそんな生温い視線で見るんじゃねえよってかお前ら俺になんか恨みでもあんのかよそうなのかそうなんだな?」

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