嵐之夜之夢 2

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127 嵐之夜之夢 陸ノ前 sage 2008/05/13(火) 23:27:52 ID:vknOqU1P   「真九郎さん」  普段は清楚な美貌が、恥じらいと期待に彩られて紅潮するさまは、蠱惑的とさえ言えた。緑なす長い黒髪の上に横たわる、美しく張りつめた若々しい裸身が、真九郎を誘うようにうねる。 「さあ。わたし、ずっと待ってたんですよ? …本当に、長いあいだ。ひどい、ひと」  怨ずるように云うひとを、真九郎は知っていた。姉のように教師のように、いつも優しく厳しく、己を教え導き支えてくれる存在。いつもその姿が傍らにあって叱咤し見守ってくれていたからこそ、この荒涼とした世界で生きる意志を保ち続けることができたのだった。  だから、いつも、真九郎の心の中でも最も神聖な場所に、そのひとは居る。そのひとのことを思い浮かべるだけで、真摯な願いと痛みが、胸を満たす。そのひとに相応しくなりたいという想いと、そのひとに相応しくなどなり得ないという畏れが、せめぎ合う。  だが…今、そのひとは、真九郎の腕の中にいた。真九郎を抱き寄せ、軽い口づけを繰り返し浴びせ、耳元に秘めやかに囁いてきた。 「好き。…です」  あまりのいじらしさと愛らしさに、自分を抑えることなどできなかった。その豊かな胸に唇を寄せ、既に充血しきって勃起した桜色の突端を口に含んだ。 「あ、は…は、く、あ」  途端にそのひとは鋭敏に反応し、背中が跳ねる。真九郎が唇と舌と歯で乳首への愛撫を続け、柔らかく弾む双丘を根元から揉みしだくと、そのひとはのけ反ったまま、上体を左右にのたうたせた。 「や、はっ…あ、しん、くろう、さあ…んっ、く、は、や、やあ、は、あ、あんっ」  真九郎に組み敷かれながらも、しきりにくねる腰が、真九郎の理性を失わせる。乳房への玩弄を続けながら、そのひとのすらりとした脚を持ち上げて押し開くなり、真九郎は容赦なくその中へ己を突き入れた。とてつもなく熱くて滑らかだった。 「は、や…や、あ…い、いっ…っ」  それだけで、そのひとは達したらしい。きれいにアーチを描く背中が硬直し、うねるような締め付けが真九郎を襲った。真九郎も耐えきれず、射精する。その勢いに押されるかのように、そのひとは白い裸体を何度も痙攣させ、やがてくずおれた。 「…ふっ、ふっ、は…あ…あ」  荒い呼吸の下で、苦悶するかのように眉を寄せ目を閉じた上品な容貌とは裏腹に、そのひとの秘所は、すぐに復活した真九郎に完全に呼応して、やんわりと真九郎を包み込んでくる。  その感覚に全身を引き込まれそうになりながら、真九郎はそのひとの滑らかな頬を撫でた。そのひとも、薄く瞳を開き、真九郎の掌に顔をすりつけるようにして、微笑う。 128 嵐之夜之夢 陸ノ後 sage 2008/05/13(火) 23:29:09 ID:vknOqU1P   「真九郎さん。…うれしい」  姉とも女神とも慕うそのひとが、自分などに身を委ねて悦楽に酔う様に、圧倒的な歓喜に、いくばくかの畏怖と不信、そしてかすかな背徳感と嗜虐心がないまぜになって、眩暈さえ誘う。うつつのこととは思えず茫然とする真九郎に、そのひとは窘めるように云った。 「ね。…もっと。お願いです」  その言葉に、真九郎の悟性はあえなく溶けた。そのひとの最も深いところに到達することだけを目指し、真九郎は、その引き締まっていながらも生命そのものを感じさせる柔腰を持ち上げ、脚を大の字に開かせると、上から一気に貫き通した。 「は…あああっ、ん、ああっ」  真九郎に上からのしかかられてのけ反ることもできず、そのひとはようやっと僅かに顎を跳ね上げると、透き通るようでいながら、この上なく艶っぽい叫びを上げた。深奥まで己自身を埋めきった瞬間に暴発しそうになった真九郎がしばらく動きを止めると、 「ふ…ふ、あ、あ…っ、く、は…あ」  そのひとは清らかな柳眉をかすかに震わせながら、形良く整った唇を噛みしめ、それでもなお堪えきれない様子で、切なげな吐息を漏らす。 「あっ、は、は…あ、し…しんくろう、さ、あん…ふ、はう、く、あ、は…や…や、やあ…も…もう、わ、たし…いっ…お、おねが、い…ですうっ、ん、んくうっ、ふ」  真九郎の先端に自らの胎内をこすりつけるように、そのひとの腰がうねる。真九郎は、その動きから逃れるようにして、そろそろと一旦半ばまで引き抜いたが、そこで一息つくやいなや、あらためて強引に突き入れた。 「ふ…あ、あ…っ、い、あ…っ…っ」  その瞬間、そのひとは甲高い悲鳴を発した後に声を失い、口を大きく開け、全身を硬直させる。だが今度の真九郎はそこで止まらず、容赦なく激しい上下動を開始した。それに合わせて、そのひとも、身をもがきよじりながら、絶え間なく妙なる音色を響かせ始める。 「あ、や、いや、そこ、そこ、いや、だめ、しん、くろう、さん、だめ、いや、あ、く、は、だめ、あた、あたる、あたる、わたし、だめ、あたる、いや、わたし、いや、いや、だめ、あ、もう、だめ、あ…は…く、は、いや、は…っ…あ…っ…お、は…あ、あ…」  首を左右に打ち振り、手が空を押しやり掴もうとし、前胸部を鮮やかに紅潮させながら、真九郎に翻弄されるがままに、腰が何度もくねり、締め付ける。やがて一切の抵抗を失い痙攣するだけになった奥底に、堪えていたものを全て放ち終わると、真九郎はのめり倒れた。 129 嵐之夜之夢 漆ノ前 sage 2008/05/13(火) 23:30:37 ID:vknOqU1P   「…バカ」  そっと放たれた囁きが、真九郎の耳朶を打った。顔を上げた真九郎を、普段と違って眼鏡を外し、物柔らかな表情をした少女が覗き込む。やっぱりいつ見ても美人だな、と素直に感嘆する真九郎の眼差しをどう受け取ったのか、 「バカ」  少女は生まれたままの姿で、もう一度、頬をあかあかと染めて呟くと、上体を起こして座り込んだ真九郎と正面から向かい合って、腰を下ろした。真九郎の首に両腕を回し、その太腿の上に自らの尻を落ち着かせる。潤んだ双眸で、真九郎と視線を絡み合わせ、 「全くあんたは…あたしのことなんか、どうだっていいんでしょ。いつだって、そう」  そんなことはない、と云いたかった。幼いころから、共に人生を歩んできた。真九郎にとって、少女はいつだって、二無き親友で同志で共謀者で協力者で理解者で、何者にも替え難いパートナーだった。  正直なところ、少女がなぜこんな自分などの側にいてくれるのか、真九郎には良く分からない。だから、少女の存在は、いつ失われるともしれない奇蹟のようなものだったし、少女がいつ自分の許を去ってもいいように、心の準備だけはしているつもりだった。  それでも、実際にその日が訪れれば、真九郎の心にはぽっかりと大きな穴があくに違いない。それほどに、少女は真九郎にとって、ごくごく当たり前で、そのくせ、あり得ないくらいに稀有で大事な存在なのだった。  それを、どうだっていいなどと。思うはずがない。天地がひっくり返っても。  その想いをうまく言葉にできないまま、少女の肉の薄い背中に腕を回して引き寄せる。それだけで、待ちかねたかのように少女は軽く目を閉じ、熱い吐息を漏らした。 「ん、もう…バカ」  思い切り、唇を重ねてくる。何かをもぎ取ろうとするような、激しいキスだった。同時に、スレンダーな裸体の全てを真九郎に添わせようとするかのように、ぴったりと体をすり合わせてくる。真九郎の胸板の上で、固く屹立した突起を自ら押しつけ、こね回した。 「ん、は…あっ」  少女の喘ぎが、直接、真九郎の口の中に吹き込まれ、そのかぐわしさに陶然となる。ほどなく、呼吸が苦しくなった二人は、いったん唇を離した。 「ふ…」  少しきつめに見えなくもない切れ長の瞳が、この時ばかりは僅かに目尻を下げて細められると、少女の上気した容貌は、真九郎の目に神々しいまでに美しく映った。その細腰をかき寄せ、背を反らせ気味にすると、なだらかな膨らみの上に舌を這わせる。 「あ、やっ…だ、しん…くろお…」  少女がやや躊躇いがちの声を上げる。引け目を感じることなど何もないのに、と真九郎は思う。こんなに綺麗で、柔らかくて、暖かくて、魅力的なのに。真九郎はそれを伝えたくて、優しく熱をこめて、唇で吸い舌でなぶり歯で甘噛みすることを繰り返す。 130 嵐之夜之夢 漆ノ後 sage 2008/05/13(火) 23:31:51 ID:vknOqU1P   「ん、やあっ、あ、はあ、は…や、やん、や、や、あ…はあ、あ…や、やだ、も、や…だ…あ…ん…あ…あ、く…ふ、は、ふ、うぅっ…ふ、や、あ、はう、はんっ、や、は、あっ」  少女は背を丸めて愛撫から逃れようとしたが、真九郎が背中に回した腕のゆえに果たせないと悟ると、逆に首をのけ反らせ、与えられる悦楽の全てを受け入れて何度も背筋を震わせた。しばらくして漸く解放されると、ぐったりと上体を真九郎にもたせかける。  肩の上に顔を横倒しにした少女の甘い息が首筋にかかる中で、真九郎は少女の腰を両手で持ち上げ、己のそそり立ったものの上にあてがうと、ゆっくりとだが容赦なく押し沈めた。 「や、は…あ、く…や、い、いっ…い」  その細い体に、あまりに巨大なものを打ち込まれたせいか、少女は苦しげな表情になって背筋を強張らせた。それでも、一度呑み込んでしまうと、その滑らかに潤った内部は、真九郎を溶かしてしまおうとするかのごとく、収縮と蠕動をやめなかった。  そのまま少しの間、二人は凝固したように動きを止める。そうするうちに少女は、体の中から何かに炙られてでもいるかのように全身を紅潮させつつ、蕩けきっていながらも真剣極まりない眼差しで、真九郎の眼を正面から見据えると、 「は…あ、う…し…ん…くろお、おうっ…あ…あい、し、てる、うっ…ふ、うっ、く…しん、くろ、お、あ…あたし…あ、い…してる、の…お、ふ、あっ…ねえ、しんくろ…しんくろ…う…っく、は」  荒い息の下から切れ切れに、だが堪え切れぬ何かがあふれ出すようにせわしなく、熱くて優しい睦言を囁いた。  その様子があまりに可憐すぎて、危うく我を失いそうになりながら、真九郎はゆっくりと律動を開始する。と同時に、少女は背骨が折れるのではないかと思うくらいに反り返り、悲鳴を迸らせた。 「あ、はう、あ、しん、くろう、あ、あ、いい、いい、イく、いい、イく、イっちゃう、あたし、もう、あ、あ…あ、は…く…あ、や、やだ、し、んくろ、あ、た、あた、しいぃっ…も、い、や…やあ…あ…は、は、ふ、も、や、あ、ま…た…あぁっ…あ…っ…」  細い首に筋を浮かせながら、腰を真九郎に擦りつけるようにして何度もしゃくり上げる。真九郎が、少女の秘奥を確かめたいばかりに、その折れそうに細い腰をがっしりと掴まえて突き上げると、 「あ、やっ…やだっ…あ…あううっ、も、イ…イ…く…う、ううっ…っ」  真九郎の腕の中で、少女は身も世もなくひときわ高い絶頂を迎え、やがて上体も腕も弛緩させて真九郎の腕に仰向けざまにもたれかかった。それでも動くことを止めない真九郎の上で、少女は、声も出ないまま高みから降りることも許されず、硬直と脱力を繰り返す。  やがて真九郎は、最後に強烈な何撃かを少女の華奢な下半身に叩き込むと、脈打つものを、少女の蜜壺が導くままに、幾重もの波に乗せて流し込んだ。そして、それが尽きると、少女のか細い体を固く抱きしめながら、のけぞり倒れた。 131 嵐之夜之夢 捌ノ前 sage 2008/05/13(火) 23:34:51 ID:vknOqU1P   「真九郎」  見知らぬ娘が、仰向けに横たわった真九郎を真上から覗き込んでいた。年の頃は真九郎と同じくらいだろうか。その容貌は、繊細に整った造形でありながら、内面に宿した毅い強靱な意志を存分に窺わせる。どこにいても衆目を独占するに違いない、稀有の美形だった。  真九郎は瞬きした。目の前の相手を知らないのに知っている筈だ、という奇妙な感覚に囚われたまま、ひたすらに手がかりを求めて相手を凝視する。娘は、その視線を平然と受け止めながら、息遣いすら感じられそうな近くにまで顔を寄せてきた。 「わたしだ。真九郎」  その一言だけで了解されるはずだという、無邪気な自信に満ちた声。その瞳に煌めく、誇り高くも真っ直ぐな魂と、真実と虚偽とを見晴るかす鋭い光。真九郎は、その全てを知っていた。これは、真九郎自身が、何があろうと守ると誓った相手だった。 「ああ」  真九郎の顔に広がった理解の色を認めたのか、娘はいっそう艶やかに笑った。 「そうだ。わたしたちは、ひとつになる。焦がれたぞ」  いつだって、そうだった。真九郎の絶望も孤独も怯えも、悔恨も逡巡も迷いも、この娘のあけっぴろげな好意と信頼の前では、陽光に照らされた残雪のごとく消え去ってしまうのだ。そして残るのは、あらゆる悪意や害毒から娘を守り抜くための、堅忍不抜の意志のみ。  だが、真九郎の知る娘は、まだ稚い少女の筈だった。成長の暁には、いま目の当たりにする佳麗さを約束されてはいても、それはまだ何年も先のことだ。ならば、これは夢か。  真九郎の遅疑など気に掛ける様子もなく、娘は真九郎の上に、眩しいほどに麗しい裸身を重ねる。紅潮した顔にとろけるような笑みを浮かべながら、すでにたっぷりと蜜に濡れて熱くうごめく襞の中へ、真九郎を自らの手でためらいもなく導き入れた。 「く、は…あ」  眉をひそめ目を伏せ唇を噛んだのも束の間、娘は、至上の歓喜に満ちた笑顔を開く。 「ああ…これが…しんくろう、なのだ…な」  云うなり、憚ることなく動き始めた。二人のつながりはごく自然で当たり前で、天地に恥じることなど何もないとでも云うかのように。 「しんくろう…しんくろう、しんくろう、しんくろう…しん、くろう…しん、く、ろうっ…し…ん…く、ろ…お…ぉっ…っ…」  娘は、絶妙な線を描く顎をのけぞらせ、乳白色の喉首から豊かな胸をさらけだしながら、後ろへ突き出した腰と太腿全体で真九郎を挟み込み搾め上げるようにして、エクスタシーを迎えた。数瞬の硬直に続いて、その長い黒髪を流し落とすように真九郎の上へ崩れ込む。 「し…ん、くろう…」 132 嵐之夜之夢 捌ノ後 sage 2008/05/13(火) 23:36:20 ID:vknOqU1P    息を整えるのもそこそこに、甘えるように真九郎の胸から首筋へと頭をこすりつけてくる娘に、真九郎は、それまで懸命に抑えようとしたものが勃然と興ってくるのを止められなかった。その命ずるがままに体を起こし、仰向けに横たわった娘の上にのしかかる。 「しんくろう…」  娘は、両腕を差し伸ばして掌を真九郎の頬に当て、莞爾と笑った。これから蹂躙し尽くされるであろうことを知りながら、それでも娘が真九郎に寄せる信頼は、毫も揺るがないのだった。その純粋さの前に、真九郎は一瞬動きを止める。 (俺は…何を) 「さあ。ひとつになろう。しんくろう」  しかし、娘の魅惑的な表情と誘うような腰の動きに、真九郎の肉体は勝手に呼応した。腰のみならず全身を叩き込むようにして、娘の内奥へと突き進む。同時に、娘の丸く充実した美乳を遠慮会釈なく掌と指でこね回すと、娘は首を打ち振りながら上体をくねらせた。 「しんくろうっ。しんくろうしんくろうしんくろう、しんくろうっ、しんっ、くろうっ…お…あ、は…しん、く、ろお…し、ん、く、ろ…う…ぅっ、し…しん、く…は…ろ、お…う、ううっ…う…は、…あ、は…あ、あ、しんくろ、お…お、しん、くろおおおっ…く、は」  娘が達し、真九郎を締め付け、真九郎が放ち、それがまた娘を押し上げ、その中が真九郎をさらに奥へと引き込み、再び真九郎の精に打たれる。その無限の繰り返しだった。  だが、意識が半ば飛ぶような法悦境にあって、娘と交わり続ける自分を遠くに見るような奇妙な感覚が、唐突に真九郎を襲った。 (これは…違う。俺は)  違うのだ。この娘を…娘だけではなく、かのひとも、あの少女も、我が物として獲ち得たい訳ではなかった。ましてや、野放図に貪りたい訳でもなかった。真九郎は、彼女たちを守りたいのだった。その為なら、いくらでも身を擲つ覚悟だった。ただ、それだけなのだ。  それだけなのに。 「お…れ、は…」  真九郎は、血肉ともに融け合った何かから無理矢理に己を引き剥がすようにして、律動を止めた。そんな意志の力が自分の何処に潜んでいたのか、見当もつかない。だが、とにかくもやりおおせた己自身に、真九郎は心の底から感謝した。  ふいごのように熱気を吐き、己の裡で暴れ出そうとする何かを必死で押さえ込みながら、真九郎は、息も絶え絶えに肢体を投げ出した娘にこわごわと腕を伸ばし、そっと掻い抱く。こんな自分などが不用意に触れれば、毀れてしまうのではないかと心底怯えながら。 「…俺は」 133 嵐之夜之夢 玖ノ前 sage 2008/05/13(火) 23:38:07 ID:vknOqU1P    不意に、窓を激しく叩く雨滴と、大気を切り裂く疾風とが、真九郎の聴覚をしたたかに打った。瞬きをした真九郎の視界の中で、折しも轟いた雷霆の閃きが、床の上に散り広がった黒髪を背景に、青白く浮き上がる幻想的な裸身を照らし出す。 「あ…?」  凝然とする真九郎の目の前で、玲瓏とした美貌が、何か不思議なものを目にしたかのような妙に真剣な面持ちから、ふと含羞を帯びた微笑に転じた。 「少年。君は」 「や…闇絵…さん?」  おぼろげな記憶が蘇ってくる。崩月の角が暴走して、環を犯し尽くし、闇絵までも手にかけようとするのを何とか思いとどまろうとしていたはずだった。それなのに、闇絵はいま、真九郎に根元まで貫き通されて、その妖美な肢体を微かにうねらせ続けている。 「お、俺…」  咄嗟に体を引こうとして、果たせなかった。闇絵とつながった部分が痺れたように動かず、真九郎にそれを許さない。闇絵は真九郎の腰にそっと両手を添え、 「すべてを化天のうちに済ませようと思ったが。わざわざ好んで穢土に舞い戻るとは、酔狂なことだ」 「俺…こんな」 「ふ。わたしも淫しすぎたかもしれん」  淫楽の残響にけむる闇絵の瞳は、だが同時に冷たく厳しい光を放った。 「仕方がない。少年、分かるな」 「…それは、…はい…」  真九郎は歯を食いしばった。自分の体内を、何かが轟々と音を立てて流れ、ともすれば心ごと己を持って行かれそうになる。ただ、先程までは荒々しく逆巻いて真九郎を翻弄するばかりだったのが、今はそれなりにまとまった大きな流れとして捉えることができた。 「そうだ。少年。流れをつかむがいい。勢いは、わたしが逸らしてやる」 「闇絵さん…でも、俺は」  云いかけた唇は、しかしながら、しなやかな指によって封じられた。 「これ以上、わたしに野暮を云わせるな」  真九郎は、目だけで詫びた。闇絵も、目元だけでそれを受け入れると、四肢を大の字に広げ、全てを真九郎に委ねた。真九郎は、その折れそうに細い腰を両手で抱え上げると、その下に自分の膝を差し入れ、己自身をさらに深くまで押し込む。 134 嵐之夜之夢 玖ノ後 sage 2008/05/13(火) 23:39:29 ID:vknOqU1P   「…ふっ…く…」  闇絵が密やかに吐息を漏らし、その肉壺が細やかでありながら大胆に蠕動して、真九郎を奥へと引き入れる。真九郎は、闇絵を自分の腰の上で跳ねさせるようにして、その胎内を遠慮なく荒らし始めた。 「…く…ふ…っ…っ…く…、は…ふ…く…ふ、…は…あ…くぅっ、く…く、は」  闇絵の何かを押し殺すような息遣いと苦嗚に惑乱しそうになりながら、真九郎は自分の腰の奥深くでうねる奔流を束ねることに全精力を傾ける。その甲斐あってか、幾筋もに別れて絡み合っていた流れが、ある瞬間に奇蹟のように揃った。 「お、俺っ…もう、う」 「ふ、う、く…は、あ…く…っ…ん、ん…んっ…っ」  思い切り引き寄せた闇絵の中に全てを解き放ち、闇絵がその激しさに全身を震わせる中、真九郎は確かに感じた。己の中に脈打つものが、闇絵が広げた四肢を通して、大地とつながるのを。  それは、空虚に吸い込まれるようでありながら、満ち満ちたものに受け止められ包み込まれるような、絶奇の瞬間だった。滔々とたゆたう乾坤の狭間で、ちっぽけな己が森羅万象の悉くと通じ合っていることを、真九郎は知った。  それらが織りなす綾目模様のパターンを見て取ったとき、その小さな織り目の一つにすぎない自分自身を御する術もまた、明らかだった。あれほど手に負えなかったはずのことが、一度分かってしまえば、これほど平易なことはないように思えた。 「あ…」  真九郎は肉体がかるがると浮き上がるようにすら感じながら、闇絵の上にのしかかった。両腕を広げて、闇絵と両手をしっかりと握り合わせ、その秀麗な貌を覗き込む。闇絵は僅かに眉をひそめ、苦悶するように慄えながら、だが確かに唇をつぼめるようにして、笑んだ。 「闇絵さん」  真九郎は、その美しい唇に自らのそれを寄せた。精一杯の敬意と感謝と労りと、そして、自分などがおこがましいとは思いつつも、ごくささやかな優しさと親しさをこめて。闇絵も、それを拒まずに受けた。さり気ないが固い口づけだった。闇絵が、切なげに体を捩る。 「う、ふ…ふっ、く」  闇絵のため息に促されるように、二人の腰がぴったりと沿って動き、あらためて真九郎の生命を闇絵へと導く。それが闇絵の背筋を伝わるうちに練り上げられ、甘やかな呼気を通じて真九郎へと還され、そしてまた闇絵へと注ぎ込まれ、幾度となく二人の間を巡り環った。  そのリズムに合わせるようにして、真九郎の強靱な肉体の下で、闇絵の柔らかな裸身が小刻みに痙攣しながらうねる。すぐに真九郎もその動きに同調し、全き合一のうちに循環するものに縒り合わされ融け合った果てに、全てが処を得て収まったことを真九郎は知った。  たとえようもない安楽と十全感に包まれて意識を喪う直前、真九郎は辛うじて薄目を開く。そこで真九郎が目にしたのは、はっきりと上気した妖艶な相貌にほのかに浮かんだ穏やかな微苦笑で、それは、眠りに落ちる少年を、この上なく安堵させた。 135 嵐之夜之夢 拾 sage 2008/05/13(火) 23:40:51 ID:vknOqU1P    闇絵は暗い天井を見上げたまま、豊かな胸の上で穏やかな寝息を立てる少年の髪を一度だけ撫でた。その呼吸が落ち着いて、体熱が平常に戻り、肘からも角が失せていることを確かめる。  それから、いつもどおりの怜悧な口調で一言を発した。低く抑えているにも関わらず、激しい風雨の音の中でも、よく通る声だった。 「環」 「はいはい。起きてますよー」  環が、あっさりと肘をついて上体を起こす。薄闇の中でも明らかなにやにや笑いを顔に貼り付けて、 「いやあ。珍しいもん見せてもらっちゃいました。眼福眼福」  からかうように云う環のセリフには、闇絵は当然のように取り合わない。だが、 「部屋の片づけは任せるよ」  その物言いは半ば意趣返しってことなんだろうなあ、と環は思い、賢明にもそれ以上の挑発は避けることにした。代わりに、不満げに抗議してみる。 「ええー。あたしがやるんですかあ」 「わたしは肉体労働はしない。それとも、このままにしておいて、あちこちから恨みを買うかね」 「うーん」  環は、少しの間とはいえ真面目に悩んでいるようだったが、そのうちにからりと笑って、 「ま、それはまたのお楽しみってことにしときますよ。ただ、その」  ふと言いよどみ、視線だけで先を促す闇絵に向かって、環は頬を染めた。 「ええと、あたし、まだちょっと腰が立たなくって。まいりましたよ、ほんと」 「若いんだろう。頑張りたまえ。わたしは、もう少しやることがある」  闇絵は物憂げにゆっくりと体を起こし、少年の頭をそっと持ち上げて、その額に自分の額を近づける。それを見て、ちえー結局美味しいとこ全部持ってかれちゃったようっ、と口の中で不貞腐れながら、環は畳の上にもう一度転がり寝そべった。    * * * * *  既によく分かっていたつもりではあったのだが、それにしても自分が住んでいる五月雨荘というところは妙な場所だ、と真九郎は思う。  ある朝など、やけにすっきりと体が軽い感じで爽やかに目覚めたと思ったら、部屋の中の畳が全て取り払われ、床板の上に直接、全裸で毛布にくるまれて転がっていた。かてて加えて、部屋の中も自分の体も、オキシドールか何かの匂いをふんぷんとさせていた。  さらにおかしいことに、その前日、学校で体調が少しおかしいのを感じてからの記憶が、すっぽりと抜け落ちてしまっていた。風邪か何かで倒れ込んで意識を失ったのかもしれないとも思ったが、それにしても一体誰が、その間にこんなことをしでかしたのか。  真九郎としては、どうも隣室の酔いどれ大学生が怪しいと睨んでいるのだが、当人は「ええっ何これっ。ヒドいことするやつもいるもんだねー。真九郎くんも何も気付かなかったの?」などとぬかしつつ、けらけらと笑うばかりだった。  そのうちに絶対白状させてやろう、と心に誓う。  そのエロ大学生も、妙だった。いや、変人なのは元からなのだが、最近はそれに輪を掛けておかしい。先日など、秘蔵していた大量のビデオをいきなり不燃ゴミに出して、真九郎を驚愕させた。  何か悪いもんでも食べたんじゃないか、と疑わしげに見守る真九郎に向かって、「いやー。最近何観ても、あれ思い出しちゃうと、ぬるくってさー。燃えないんだよねー。あれ、撮っときゃよかったなー」などと相づちに困る妄言を口走り、全くもって意味不明だった。  そうなんですか残念でしたね、と、さしあたり差し障りのなさそうなコメントをしてみたら、いやにまじまじと人の顔を見つめながら、「そうなんだよねー。困るよねー。責任取ってほしいよねー」などと愚痴たれていたのも、理解を絶する言動だった。  だいいち、その表情と声が、どことなく悩ましくも恥ずかしげだったなどというところからして、何かが大きく間違っている。自らの心の平安のためにも、絶対に目と耳の錯覚だったに違いない、と思うことにした。  だが、一番妙なのは、そんな此処にいつの間にか慣れてしまった自分かもしれない、とも、真九郎は思う。多少変わった出来事も扱いに困る隣人も、そんなものだと受け入れてしまえば、何ということもない。  逆に、それがない人生というのもちょっと味気ないかもしれない、とさえ思ってしまう自分は、きっと骨の髄まで毒されたんだろう、と諦めることにする。夕乃や銀子に云うと、とことんお説教されそうなので、そんな感想は自分独りの胸におさめておくことにしたが。  そんなわけで、少年は思うのだ。最近、闇絵とすれ違ったり短い言葉を交わしたりする度に、鼻腔をかすめるタバコの匂い混じりのかすかな芳香が、ひどく懐かしくて胸を熱くするのも、そんな心境の変化がもたらす、たぶん何かの気の迷いみたいなものなんだろう、と。 .

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