闇絵さんとお酒

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闇絵さんとお酒 -作者 2スレ550 -投下スレ 2スレ -レス番 752-754 -備考 紅 小ネタ 752 闇絵さんとお酒 1/3 sage 2008/02/06(水) 23:57:14 ID:bg4WyaK4    喉の渇きで、目が覚めた。 「あー…」  濁点つきの声を上げながら、真九郎は頭を少し持ち上げて、部屋の中を見渡す。  すぐに環の寝姿が目に入ったが、ぼさぼさ頭の寝癖やら、だらしなく開いて涎を垂らす大口やら、胸までめくれ上がったTシャツやら、腹を掻いたままの恰好の手やら、大股を開いたジャージ姿やら、女というか人として色々終わった姿を見るに忍びず、目をそらす。 「ええと…」  いつの間にか、意識を失ってしまっていたらしい。体を動かそうとした途端に襲ってきた鋭い頭痛に呻きながら、ゆっくりと上体を起こした真九郎に、涼しげな声がかけられた。 「起きたかね。少年」  闇絵が、窓辺に腰掛けてタバコをくゆらせていた。見慣れた、懐かしい光景だった。 「はあ…」 「少し、水を飲んだ方がいい。持ってきてあげよう」 「あー…すみません…」  ずきずきする頭に指を当てていると、目の前にミネラルウォーターのペットボトルがどすんと置かれた。今まで冷蔵庫に入れてあったのか、喉に心地よく冷えた水を、心ゆくまで飲み干し、一息つく。 「はあ…」 「だいぶ、飲んだようだな」  闇絵は再び窓辺に陣取り、ほんの少しだけ唇の両端を持ち上げて真九郎を眺めていた。 「そのようで…」  何とか、昨晩の記憶を蘇らせようと努力する。  最初は、ただの鍋パーティーだった。「人数は多い方がいいに決まってるよねー」という環の一言により、紫や夕乃、銀子まで呼び出して、食材も足りないからまた真九郎が買い出しに走って、なんだかよく分からないまま盛大な会が催された。  集まった三人とも、そこに闇絵がいることに驚いたとしても、それを色に出したりはしなかった。闇絵の方も、特に何を語るわけでもなく、話の輪に積極的に入るでもなく、いつものように淡々と飲み食いをしていた。  三人が帰ったのは、九時ごろだったと真九郎は記憶している。九鳳院家の車が迎えに来て、紫だけでなく夕乃や銀子まで送ってくれるというので、有り難くお願いすることにした。  去り際に、紫は「…また魔女憑きの心配をせねばならぬな」と呟き、夕乃は「姉さん女房といってもあまり年上はよくないのです分かりましたか真九郎さん?」と念を押し、銀子は「…スケコマシ。バカ」と耳に鋭く囁いた。どれも今一つ意味不明だが、まあよしとする。  問題はその後で、三人を見送って部屋に戻ると、どこから取り出したか泡盛だの焼酎だのの一升瓶をずらりと並べた環が「今日は飲むからねっ」と宣言したのだった。「いや、自分未成年なんで…」という真九郎の真っ当な主張など、一顧だにされなかった。 753 闇絵さんとお酒 2/3 sage 2008/02/06(水) 23:58:16 ID:bg4WyaK4    そこから後の記憶は、途切れ途切れになっている。環に勧められるまま、杯を重ねた。最初はそれでもおそるおそる舐める程度だったが、いつ頃からだったか結構なペースで付き合ってしまった。よくぞ急性アルコール中毒にならずに済んだものだと思う。  それでも、そんなに時間が経たないうちに、真九郎はへろへろになって沈んでしまったはずだった。その頃には環が闇絵に飲み比べを挑んでいたような気もするが、はっきりしない。まあ、そのとおりだとしても、勝敗のほどは、眼前に明らかだった。 「今、何時ですか…?」 「四時は回っているはずだが」  時計など持っていないはずが、勘で分かるらしいあたりが、いかにも闇絵らしい。真九郎は呻いた。 「やばいな…学校が…」  多少はアルコールを抜いておかないと、この体調では登校もおぼつかないし、仮に行けたとしても酒臭い息を吐いているようでは話にならない。だが闇絵は容赦なく、 「まあ、諦めた方がいいと思うがね。もう暫く横になっていたまえ」 「いや、そういう訳にも…」  このまま二日酔いで学校を休んだりしたら、夕乃や銀子に何を言われるか知れたものではない。這ってでも行っておいた方がいい。  そんな真九郎の考えを見抜いたのか、闇絵ははっきりと苦笑を浮かべた。 「全く、よく仕込んである。あの娘たちも、なかなかに健気なものだ。よくよくの果報者だな、君は。少年」 「は…?」 「仕方がないな」  闇絵はタバコをもみ消し、真九郎の側に寄ってきたかと思うと、後ろ側に回り込んで真九郎の視界から消えてしまう。 「え」  真九郎の肩にひんやりとした手がかかり、有無を言わさぬ力で仰向けに引き倒した。後頭部が、何か柔らかいものに受け止められる。 「大人しく寝ていろと言うのに」  見上げると、闇絵の玲瓏とした相貌が、すぐ上から真九郎を覗き込んでいた。真九郎は何度か瞬きを繰り返してから、ようやく自分がどんな体勢にあるかを理解する。これは、いわゆるひとつの、膝枕というものであるらしかった。 「あ…」  慌てて起きあがろうとする肩を、細い指が押さえつけて離さない。どういう力の入れ具合なのか、決して強い力が込められているとは思えないのに、真九郎はどうにも身動きできなかった。 「いや、闇絵さん…?」  どういうつもりなのか全く理解できず、闇絵の顔を再び見上げる。闇絵はやや目を細め気味に、そっと言った。 「昼間の礼だよ。少年」 754 闇絵さんとお酒 3/3 sage 2008/02/06(水) 23:59:20 ID:bg4WyaK4   「…ああ…」  そう言われて、自然と真九郎の体から力が抜けた。  あの後、ふと目覚めてからずっと、闇絵はそのことについていっさい触れず、まるで午後の一幕などなかったかのように振る舞っていたのだった。まあ、今の一言の後の澄ました表情からして、二度とあの一件について言及するつもりもなさそうだったが。  それでも、とりあえず今暫くは、素直にこの恩恵に与っていても良さそうだった。 「闇絵さんは…飲んだんですか」 「ああ。近年にないほどにな」  底なしの環が轟沈するほどの飲みっぷりだった筈なのに、アルコールの余韻など微塵も感じさせない様子で、さらりと言ってくれる。真九郎としては弱々しく笑うしかない。 「酒、強いんですね」 「強いというのかな。いくら飲んでも酔えないんだ。そういう体質らしい」 「はあ…それは、いいですね」  今の真九郎から見れば羨ましい限りの話だったが、 「そうかね。まあ、そういう見方もあるかもしれないな」  闇絵は素っ気なかった。真九郎がこのまま大人しくしていそうだと見極めをつけたのか、その手を真九郎の肩から頭へと移動させる。こめかみに感じる冷たい指の感触が心地よくて、酔いがそこからすうっと抜けていくようですらあった。 「いつもは、負けず嫌いと飲むことが多いからな。あまり飲んでみせないようにしているのだがね」 「はあ」 「わたしが居なかった間の話をいろいろと聞いているうちに、これは少し懲らしめておいた方がいいだろうと思ったのさ」 「はあ…」  淡々と言う笑顔が、かなり怖い。いったい環はどんな話をしたというのか。興味がないわけではなかったが、確かめずにおく方がよさそうだった。 「闇絵さんは…」  真九郎の呼びかけに、闇絵は声を出さずに、少しだけ首を傾げてみせる。その無表情で怜悧な美貌を眺めるうちに、真九郎は我知らず微笑った。  いろいろ、訊きたいことはあった。あの手紙は何だったのか。なぜ、自分にあんな話をしたのか。どこへ行って、何をしていたのか。戻ってくるなり、あんなに正体もなく眠り込んでしまうほど、なぜ消耗していたのか。そして…なぜ、ここに戻ってきてくれたのか。  どうでもいい、と思った。五月雨荘の住人は相互不干渉だとか、闇絵が自分について語ることを好むまいとか、知らない方がこちらにとってもいいだろうとか、そんな当たり前の理由からではない。闇絵が闇絵でいてくれるなら、それで十分だと、紅真九郎は思うのだ。  だから、言うべきことは、たった一言だけだった。本来なら、あの庭先で再会したときに最初に口にすべき言葉だったが、まずは遅すぎるということもあるまい。真九郎は目を閉じて、ゆっくりと口を開いた。 「…おかえりなさい。闇絵さん」  ほんの少しだけ、沈黙があった。それから、ごくさり気ない声で、真九郎の望むいらえが、花びらのように落ちてきた。 「ああ。ただいま。少年」 .

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