トゥルル!トゥルル!
トゥルル!トゥルル!
通信音が鳴り響く。
「こちらまべにめ、どうしたバイオレット!」
『まべにめ、その先の廊下では警備員が見回りをしている。
遠回りになるが、昇降口付近にある階段を利用して回避しろ!』
遠回りになるが、昇降口付近にある階段を利用して回避しろ!』
「分かった、任務を続行する!」
通信が切れた。
「聞いた通りだ。いっすぃ、階段を使って回避するぞ」
「了解」
二人、音をたてずにひっそりと行動する。
いま、僕…東一樹―と池谷真紅は夜の小等部校舎に潜入していた。
こんな真夜中に、しかも小等部校舎に潜入するなんて、普通に停学モノだ。
なんで僕たちはこんなことをしているんだろうか?
事のはじまりを話そう…。
「集まったな」
真紅の満足そうな声。
放課後、僕と教諭は校舎裏に集められていた。
もちろん、ロリロリハンターズのメンバーだ。
「うん、一体なんの用?」
「俺も一応仕事がある。なるべく手短にしてくれ」
僕らはそれぞれ真紅を催促する。
「ふっ、まぁ聞け。お前らを呼んだのは他でもない」
足を組みなおしながら真紅がいい顔で言う。
「近日中に小等部が『(株)海馬コーポレーション』に社会見学にいくのは知ってるな?」
「うん、知ってるよ。随分と豪勢だよね」
「あぁ、知っている。小等部にいい経験をさせたい、とかいうことで、校長が一肌脱いだらしいが」
そう。いつなのかは知らないが、小等部が『(株)海馬コーポレーション』に社会見学へいくらしい。
「そうだ。だが、いつ行くのか、は小等部及びその教員…そして校長しか知らされていない」
「うむ、確かにこちらには情報が届いていない」
そうなんだ…教諭にも届いてないなんて、今年は今までより情報が制限されてるんだなぁ。
「そうだ…相当に情報制限が行なわれている。計画の実行は困難だ…」
そう、僕は詳しく聞いてないが…ロリロリハンターズで社会見学へついていく計画があったらしい。
結局、ガードが固くて日程が掴めず、計画は失敗に終わりそうなわけだが。
「非常に残念だが、今回は難しいだろう、ということで…だ」
そういうと、真紅はカッと目を見開く。
「次のチャンスを狙う」
「え、でもガードが固くて日程が掴めないんじゃ…」
そう言うと、チッチッと指を振る。
「日程が分からないなら、手に入れればいいだろう?」
またもいい顔でいう。
「ま、まさか池谷、お前…」
教諭がなにか察したようだ…が、僕には分からない。
「つまりだな…」
真紅は一旦を息を吸い込み、
「ミッション№1…今週の日曜日の深夜、小等部の行事予定表を入手せよ!」
高らかに告げた。
―付近に気配は感じられない。なんとかやりすごしたみたいだ。
「こちらまべにめ、警備員の回避に成功した。これよりターゲットのある職員室へ向かう」
真紅が状況を報告する。
まべにめとは真紅のことで、バイオレットは教諭、いっすぃとは僕のことだ。
由来はよく分からないが、今回の作戦の際に真紅がつけたコードネームだ。
『了解した。職員室は目の前だが油断はするな、油断は作戦の失敗を招くぞ』
ちなみに、教諭には僕らのサポートをしてもらっている。
教職である身の教諭が小等部に潜入…などとバレたら解雇は免れないだろうからだ。
でも…初めてのミッション(なぜか他の呼び方をすると真紅に怒られる、何故だ)に、緊張が収まらない。
「分かってるさ、通信を切るぞ」
そう言って一旦通信を切る。
「よし、いくぞいっすぃ」
「うん、分かった」
でも、ここまで来てしまったんだ、やるだけやるしかない。
「オレは後ろで警備員の確認と殿をする、正面は任せたぜ」
「了解」
そうして僕らは進んでいく…。
いくつかのアクシデントを乗り越え、職員室を目の前にまでしたとき、
「いっすぃ、すまんが先に進んでくれ」
「え?」
突然、真紅がそんなことを言いだす。
「ちょっと財布を落としちまったみたいでな…あれがバレると色々とヤバい」
そう言いながら
…確か真紅の財布には秘蔵のベストショットが隠してあったはず。
バレたらホントにまずい…お金も入ってるだろうし。
「しっかりしてよ…。分かった、僕は一人で行くよ…気をつけてね」
「あぁ。ターゲットの回収は任せる、バイオレットの所で落ち合おう」
そう言うと、真紅は来た道を戻っていった。
「し、しつれいします」
誰もいない職員室に、わざわざ断りをいれて入る。
もちろん職員室には誰もいないわけだが、いつもの癖というヤツみたいだ。
さて、ターゲットの捜索を開始しますか…。
探し続けること15分、全然見つからない。
一応全部の机を探し回ったけど、どこにもない。
「はぁ・・・どうしよう…」
「・・・ん?」
そのとき、ホワイトボードの隅に光るものを見つけた。
「なんだろ…」
気になったので、手にとって見る。
どうやらデッキケースみたいだ。
「デッキか…誰かの忘れ物かな?」
そう思い、元の場所に戻そうとしたとき―
「そういえば、まだ職員室の見回りが済んでいなかったな…」
声が聞こえた。
「これで最後だし、これ終わったら帰るか…」
僕は咄嗟に気付く―この声の主が警備員であると!
まずい、ここでバレたらこれからの僕のあだ名が『英雄(笑)王』になってしまう!
僕は職員室の窓を開けて飛び出し、全速力で逃げ出した。
「ご苦労様だったな、一樹」
先に戻ってきていた真紅から労いの言葉を受ける。
「うん、お疲れ真紅。財布は無事だった?」
「あ、あぁ…無事だったぞ」
それはよかった。
「で、東…そのデッキはどうしたんだ?」
教諭が身を乗り出して
デッキ?
今回、僕はデッキなんて持ってきて―
「・・・あっ!」
僕の手には拾ったデッキが握られていた。
急いで逃げたから、返しそびれたみたいだ…。
「なんだ、拾いでもしたのか?ほどほどにしておけよ」
そう教諭から軽く窘められる。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。早く予定表を見せるんDA!」
ネコババをそんなこと、で済ます教師はどうかと思ったが、今更なのでやめておいた。
だが、しかし。
「・・・・・・」
そう、僕は結局持って来ることが出来なかったのだ。
しかし、そんなことを言ったら…想像できない。怖すぎる。
「え、えっと…」
どうやって誤魔化そうかと考えていたとき、デッキからカードが零れ落ちる。
「おいおい、落とすなよ…」
そう言ってカードを拾ってくれる。
と、そのとき。
「・・・こ、コイツは予定表じゃねぇか!でかしたぞ一樹!!」
…何故か予定表がデッキの中から出てきた。
「おぉ、でかした東!これで次の計画が練れるぞ!」
「あぁ!さっそく計画を練るぜ!」
興奮した声でそう言うと、二人はさっそく計画を練りだした。
…でも、なんでデッキの中に予定表が入ってるんだろう?
…ま、いいか。結局見つかったことだし。
真紅が拾ってくれたカードを見る。
『魔法少女 HOMURA』と書いてある…ってほむほむ!?
ど、どうしてまどマギのカードが…。
………。
ちょ、ちょっとぐらいなら、借りていいよね?
………。
か、勘違いしないでよ!?
べ、別にまどマギのカードに惚れたわけじゃなくて、ただの気まぐれなんだからっ!?
少しでもいらなくなったらすぐに返すんだからねっ!?
…ってなんで僕は一人でツンデレ劇場をしてるんだ!?
結局、その日は二人の計画思案に手伝って夜が明けた。
旅「つまり、一樹君はネコババに手を染めましたとさ。おしまい」
一「ちょ、仕方ないでしょ!?まどマギだよ!?」
旅「・・・それが?」
一「(つ、突っ込んでくれないとか、やりにくい…)」
旅「・・・」
一「か、勘違いしないでよ!?べ、別にm」
旅「やめろ、男のツンデレは気持ちが悪い」
一「さいですか…」