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BATMAN:Tales of the Devil ◆JR/R2C5uDs



 それはただの気まぐれであった。
 血の匂い、闘争の影に誘われ、市街地の海岸近くの道路の脇で、貧弱な人間の死体をみつけたときに、ふと思いついたのだ。
 トロフィー。即ち戦利品として、この首輪を集めてみよう、と。
 勿論、ここにある小さな者を屠ったのは自分ではない。
 だが先程、自分自身が屠った人間の首輪は、確認のため爆発させてしまっている。
 だから、これをその代用にしておくか、と、そう思ったのだ。
 勿論、爆発物を持ち歩くと言うことの危険性は十分分かっている。
 分かっているが、それも一興。
 圧倒的強者である自分にとって、その程度はちょっとしたハンデキャップというものだ。
 さくりと、その死んで間もない者の首を切り裂き、首輪を外す。
 鈍い銀色のそれは艶やかで、光沢がある。
 その前面、首の丁度のど仏にあたるであろう場所に、指先大ほどの小さなくぼみがあり、そう言えば、「3人殺した後に首輪の前面に指を当てて確認しろ」というような事がルールにあったのを思い出す。
 このたわけた実験とやらの主催者に、頭を垂れて願い事をするなどという気はさらさら無いから、さして気にもとめない。
 ただしその裏側、つまり、首輪の内側に、やはり同じくらいの大きさ形で、灰色に鈍く耀いているのを見たときは、これは何の印だろうかとは考えた。
 考えたが、やはりそのこと自体にさして関心を持たずに、すぐに忘れた。
 そう、全ては些事だ。

 この悪魔将軍が。
 この場にいる数多の者達を屠り、血に染め、阿鼻叫喚の地獄を生み出すことに較べれば、全てが些事に過ぎないのだ。

 そしてこの黒衣の男もまた些事。ただの生け贄に過ぎない。
 ビルの屋上に隠れていた、貧弱で、脆弱な人間よ。
 その小さな身体で、健気に抗うが良い。
 ただ蹂躙されるためだけに。

◆◆◆

 殴る。
 右フック。
 左ジャブ。
 身体を押し込むように、体重を乗せたストレート。
 全てをその身体にたたき込むも、白銀の騎士はそれらを嘲笑うかの様に全てを受け止め、それでもビクともしない。
 組み、打ち、投げる。
 あらゆる手を試し、それでもこの巨躯を跪かせることすら適わない。
 巨大で、一見して異様なその風貌。
 仮面の奥にある双眼は、鈍く耀き、あらゆる人間性を拒絶したかの如き光を放つ。
 上体への攻撃に注意を引き寄せ、そのままローキックを放つ。
 しかし弾かれるのは己の脛。
 人の身体のような弾力を持ちつつ、それでいて微動だにせぬ山脈のようだ。

「ククク……。
 どうした、人間よ。もう奥の手はないのか? ただ殴り蹴るだけか?」

 その声は、地獄から響く哄笑。
 人の世の摂理とは決して相容れない、悪魔の声そのものである。
 そう、人ではない。
 機械か? 異星人か? 魔界から来た魔物か何かか?
 その正体は分からぬが、確実に、はっきりと分かるのはその一つ。
 これは、人間ではない。まるで違う、異質な存在だ。
 何気ない風な動きで、白銀の騎士はバットマンの拳を受ける。
 そのまま左手の手刀を水平に打ち込んだ。
 肺腑から、空気が吐き出される。
 重い。
 なんという重さか。
 スーツの防護があったとはいえ、胸骨が折れなかったのが不思議なくらいだ。

 その勢いに押され、数歩、ステップバック。
 後ろに下がり、距離を取る。
 間合いがはずれる。
 この距離では手は届かぬ。
 足も届かぬ。
 そう、文字通りに手も足も出せない。
 白銀の騎士は、それを見て更に哄う。

「くだらん相手だ。もう逃げの機会を伺うのか?
 だがしかし、それも仕方あるまい。
 たかが知れた人間。この悪魔将軍に立ち向かう気概を見せただけでも上等なものだ…」

 ぐ、っと、身体が僅かに沈む。
 姿勢が前傾になる。
 そのまま、ゆらり。

「褒美をやろう!!」

 薄汚れたビルの屋上を、白銀の闇が駆けだした。
 狙いは当然、目の前の対戦者、闇の騎士バットマン。
 轟音が響く。
 そのまま巨体は、屋上入り口の壁に激突。
 コンクリートに亀裂が走り、もうもうと立ち上がる塵芥。
 そのなかで鈍く光る巨躯。

 危ういタイミングだ。
 白銀の騎士…悪魔将軍の攻撃を誘い、素早くクラップリングフックを射出し、隣のビルへと移る。
 この相手には勝てない。
 バットマンはその事実を悟る。
 キラークロック、ベイン、ソロモングランディ。
 バットマンが戦ってきた敵は、ジョーカーやリドラー、スケアクロウの様な才知に長けた狡猾な犯罪者ばかりではない。
 また、レディシヴァ、ラーズ・アル・グールの様な、数多の殺人技に通じた恐るべき達人や、植物人間のポイズンアイビーや蝙蝠怪人マンバット、蛾人間のキャラックスのような、人間から変異した、特殊能力を持つ怪人ばかりでもない。
 純粋なパワー。ただそれ一つでも人類の範囲を軽く凌駕した者達とも、長年渡り合い、戦ってきている。
 そのバットマンにとっても、この悪魔将軍のもつパワーは圧倒的といえた。
 この相手を倒すためには、まだ手が足りない。
 一手、二手…いや、三手…それ以上か?
 この状況、この場所では、さらなる手数が必要となる。
 目だけで、背後にあるその影を確認する。
 この程度の目くらましに引っかかるほど愚かではない。
 フックを手元に引き寄せ、再び投げ、次のビルへと飛び移る。
 空中戦だ。
 白銀の巨躯は、腰を沈めて飛び上がる。
 それだけで、軽々とこのビルの間を飛んだ。
 高い。予想以上の跳躍力。
 影がバットマンの頭上を越える。
 不味い。このままでは先回りをされる。
 良いタイミングで、ビルの上の看板を蹴り飛ばし、軌道を変える。
 フックを引き戻し、別の方角へ。
 それに対し、壁を蹴ってそのままの勢いで追いかけてくる悪魔将軍。
 早い。早すぎる。想定していたよりも遙かに早い。
 ロープを持つ腕に力を込め、身体を高く持ち上げる。
 丁度弾丸のようにやってきた悪魔将軍の身体の上に乗るかたちになった。
 両足でその太い胴を蹴る。
 ビルの壁に激突する白銀の弾丸を尻目に、バットマンは着地して、再び距離を開ける。
 しかしその代償は、足の先の痛み。
 先程殴っていたときとは違う、異常な硬さに足先が痺れた。
 足からの着地に失敗する。ごろりと身体を回転させ衝撃を分散。しかし、立ち止まらない。再びワイヤーを手繰り、次へと飛ぶ。
 闇夜を飛翔する、巨大な蝙蝠の化身が、月の光に映し出された。

◆◆◆

 崩れた瓦礫の山から再び身体を起こす。
 視界の隅に、真っ黒のケープが飛び去るのが見える。
 ダイヤモンドの硬度を誇るボディは、この程度の事ではかすり傷一つ負うことはない。
 だが、二度。
 二度、同じ手を喰らったことが、悪魔将軍の怒りに火を灯した。
 たしかに。たしかに、黒衣の男の事を舐めてかかっていたのは事実。
 最初に戦った東洋人の様に、奇怪な超能力を使う様な素振りもなく、徒手空拳。より容易い相手と決めてかかっていた。
 だが、ここに来て悪魔将軍は、先程の東洋人とこの黒衣の男にある差は、特殊能力の有無だけではないと言うことが分かってきていた。
 言うなれば、戦歴。経験の差だ。
 あの東洋人は、確かに常人の範疇を越えたパワーの持ち主だった。
 しかし、訓練されていない。言うなれば、「ばかでかいショットガンを持った、素人」 だ。
 だがこの男は違う。
 例えるならば、武器は小さなナイフ一本。
 しかしそのナイフで幾多もの敵と渡り合い、自らの長所と短所、相手の力量とそのいなし方。
 それらを熟知した、歴戦の戦士だ。
「なるほど、それは認めてやろう……」
 ただの人間に過ぎなかったジェロニモが、悪魔騎士二強の一人であったサンシャインを打ち倒した例があるように、弛まぬ訓練とその精神の強靱さによっては、圧倒的不利を覆す奇跡は、起こりうる。
 だがしかし ―――。
 それは、相手がサンシャイン程度であったから起きえたのだ。
 六人の悪魔騎士全ての力を兼ね備えた悪魔将軍を相手に、たかが人間の訓練と精神力だけで立ち向かえるか?
 答えは、Noだ。
 例え熟練であっても、ナイフはナイフ。
 それが人相手であれば致命傷も与えうるが、超人相手では無意味だ。

「その絶望」
 腰を沈める。
「その痛み」
 再びの跳躍。
「その恐怖!!」
 銀の弾丸は、再び黒衣の男を射程に捉える。
「まずは貴様に刻みつけてやろう!! 血反吐と共にな!」 

 再び猛る悪魔将軍の咆吼が、闇夜に木魂する。

 鉄骨の組まれた、建設途中のビル。
 およそ地上からは5mほどの足場の位置だ。
 その柱の陰に隠れる黒衣の男。
 また小細工か。
 確かに、あのすばしっこい黒衣の男にとって、開けた場所より戦いやすいだろう。
 しかし、その程度の浅知恵で、この彼我の差を埋められると思うのは思い上がりというものだ。
 特にこれといった技を使わずに相手をしていたのは、超常の力もない非力なただの人間相手に使うまでもないという意識からだ。
 だが、ちょこまかと逃げ回るだけの小物に、あまり長く付き合うのも飽きてくる。
 最初はまだ良かったが、こう逃げの一手では詰まらぬもの。
 ならば、それなりの研鑽への恩賞として、そろそろとどめを刺してやる事こそ、悪魔としての寛大なる慈悲であろう。

「フフフフ…。貴様の死ぬべきこの場…。さしづめ、"鉄骨高層デスマッチ"と言うところか。
 最後に名前を聞いてやろう。
 お前は "クウジョウジョウタロウ" か? まさか、そうではあるまい。
 さっきの東洋人より弱い、取るに足らぬ相手だからな。
 この悪魔将軍の、二番目の獲物として、しばらくは記憶しておいてやろうではないか」
 その巨体から信じられぬほどのバランスで、細い鉄骨をゆっくりと、堂々と移動する。 
 視線の先には、黒いケープの端。
「どうした? 臆して声も出ぬか!?」
 再び、一気に跳躍して蹴りかかる…が、足刀は虚しく空を切った。
 そこに黒衣の男の姿はなく、鉄骨の柱に、ただ黒い布だけが打ち付けてあるのみだったのだ。
 しかし、目測を誤る事無く、その近くの鉄骨に着地する悪魔将軍。
 またも小賢しい真似をと視線をぐるり巡らせようとしたとき、その白銀の巨躯が宙に浮く。
「なに!?」
 鉄骨の足場は、既に何本かボトルが抜かれており、ある程度の加重ではずれ、落下するよう細工がされていたのだ。
 この瞬間にそこまで状況を把握し切れては居ないが、それでも罠に掛けられた事は分かる。
 中空で身体を回転させ、すぐ側の鉄骨に捕まろうとするが、今度は更に上方から数多の瓦礫やドラム缶、建築機材などが降り注いでくる。
 落ちた鉄骨は、ワイヤーで上階に仕掛けた罠とさらに連動し、追撃を与える。
「この悪魔将軍を舐めおってっ…!!」
 剣状に硬直化させた右手の手刀が、落下してくる廃材機材をバラバラにする。
 この程度の飛沫が悪魔将軍のボディに当たったところで毛ほどのダメージは与えられぬが、それよりも怒りが行動に移させた。
 バラバラになった破片が、周囲に飛び散る。
 しかしその次に、大きなドラム缶を切り裂いたときには、今度は粘液状のどろりとした物体が降り注いできた。
 真っ黒な、闇の如き液体。
 コールタールだった。
「ぬおぉおおおおお~~~~~~!!」
 再び、悪魔が咆吼した。

◆◆◆

 掛かった。
 しかしまだ足りない。
 ここまで手を尽くしたが、これであの怪物を倒せるとはまるで思えない。
 倒すためには、さらなる手、さらなる追撃が必要だ。
 天野雪輝は、身を潜め隠れていた路地から、建設途中のビルのある区画を、細心の注意でうかがいつつ、同時に周囲の様子も確認する。
 ここまで、雪輝の働きは見事だったと言える。
 未来日記。そのレプリカには、ある程度先の未来で、雪輝が目にする物目にする光景が書き出される。
 だから、"悪魔将軍"と自ら名乗ったあの白銀の怪物の来襲も、その後のある程度の展開も予知できた。
 書かれていた記述をバットマンに説明すると、彼は驚くほど詳細に、雪輝が「成すべき事」を指示してきた。
 雪輝と遭遇するよりも前に、彼はこの辺り一帯をある程度調べていたという。
 それらの情報と組み合わせて、雪輝は即席の罠作りをしてみたのだ。
 かなり粗い罠だったが、暗闇に、バットマンの誘導の巧さが幸いしてか、雪輝が思っていた以上にはまっていた。

 未来日記のこと。デウスの仕掛けた殺し合いの事。雨流みねねの事。
 雪輝はそれらについてかなりの事を、バットマンに話している。
 この男には嘘は通じない。それが雪輝にも分かったからだ。
 唯一、なんとか隠し通せたのは、由乃の犯してきた殺戮の事くらい。その辺りの曖昧さに、もしかしたら彼には気付かれているかも知れない。
 だが、それでも。雪輝自身確証のない、「この実験の主催はデウス・エクス・マキナかもしれない」という推論はバットマンの関心を引けたようだったし、また結果として未来日記の性能についても、今では疑う余地もないだろう。
 雪輝は新たな日記の表示を見る。
 ここから先は、バットマンも知らない。
 だから、彼はあの怪物相手に、何の情報もない状態で立ち向かわねばならないのだ。
 そう、怪物。
 かつての「神の後継者選びの殺し合い」では、存在しえなかった、文字通りの化け物と、だ。
 その恐れを飲み込んで、雪輝は表示された内容を読む。読んで、さらに雪輝は震えた。
 辺りを見回す。
 不味い。まずは移動して、場所を確認しないと。いや、その前にバットマンの位置を確認しないと…。
 目が泳ぎ、脂汗が出てくる。
 神の後継者となる決意をしてからは多くの人たちを直接、間接的に殺してきたが、それでもまだ、雪輝は自分の恩人を見殺しに出来るほどに、その心が渇いてはいない。
 後で助けるから、神となって死んだ人たちを蘇らせるから、と、必死で自分に言い聞かせることで、なんとか残虐な行為を繰り返せたのだ。
 さらに表示を確認する。
 何処だ? そこでどうすれば? いや…その前に、誰だ……?
『バットマンがうずくまり怪我をしている。その上には―――』

◆◆◆

 ビルの上からその姿を見たときには、黒衣の男は力なく鉄骨から落下していくところだった。
 直前に、大きな瓦礫が投げつけられ、強かに打ち付けられていた。
 いや、投げつけられたのではないのかも知れない。多数の破片や飛沫が、辺りに飛び散っている。
 運の悪い偶然か。
 アーチャーは、素早く足場を移動して、より様子が分かる位置へと飛び移る。
 実際には、彼ら二人のやりとり、戦闘の様子は、暫く前から隠れつつ確認していた。
 知りたかったのは、どちらが「殺戮者(Set)」で、どちらが「庇護者(Hor)」か、という事だった。
 いや、或いは、どちらも殺戮者だったかも知れない。
 又はどちらも庇護者だが、主張の食い違いか誤解から戦闘に至ったという事も考えられた。
 だが、白銀の化け物が何度か口にした言葉は、アーチャーの認識からすれば、言うまでもなく殺戮者。悪そのものだ。
 何せ自ら、"悪魔将軍"等と名乗り、対峙していた黒衣の男を殺すと宣言していたのだから。
 しかし、かといってそこで即座に妙な横やりを入れようとは思わなかった。
 かつての…そう、遙か昔の自分であれば、或いはそうしただろう。何も考えずに、だ。
 しかし今のアーチャーは違う。
 ただの短慮は、自分のみならず周りの人間すら傷つけかねないことを識っているからだ。
 離れた位置で待機させている少女、まひろの事を思う。

 マンションの中の一室で話をしていた途中に、窓の外に鈍く光る巨躯を見かけ、その禍々しい気配を感じとった。
 そのあまりの不穏さを捨て置くことが出来ず、慎重に気配を隠し、その跡を着けてきた。
 跡を追う前、まひろにはここに残れ、と言ったが、なかなかどうしてあの少女、意を決したと思うと自らついてくると言い張った。
 気丈だな、とつい柄にもなく微笑みそうになる。
「命を助けて貰っておいて、あなただけをまた危険な目に遭わせるわけにはいきません!」
 震えているくせに、そうきっぱりと言ってのけたのだ。
 以前、戦いと運命を共にした少女の面影を思い出し、即座に「いいや、似ていないか」と否定した。
 似ているか、似ていないか。そんな事は関係ないのだ。
 ただ、今ここにはまひろが居て、自分は彼女を守ると決めた。
 それだけに、意味がある。
 かといって乱闘の最中にまで彼女を連れてくるわけにはいかない。
「周囲の警戒を頼む」と言って、離れた、安全な位置に待機させている。
 確認したら、なるべくすぐに戻るつもりで居たが、状況はそう簡単でもなかった。
 アーチャーはそれをしっかと握る。
 まひろの持っていた支給品の一つ。それを借り受けて、ここに来ている。
 それはアーチャーにとって、ある意味運命的で、そしてある種のほろ苦い思いももたらす支給品だった。

 しっかりと、それらが見える位置へと行く。
 黒いタールに塗れた巨躯が歩いている。
 視界が塞がれているのは分かる。
 それでも、周囲の気配を察知してか、或いは恐るべき執念からか。
 建設途中のビルの敷地内。さほど広くない地面にうずくまる黒衣の男へと、次第に近づいていく。
 近くに見れば、異様な存在感だった。
 強力なサーヴァントですら、あのような禍々しさと、あのようなパワーの片鱗を感じさせる事はない。
 サーヴァントとしては決して強靱な方ではないアーチャーではあるが、それでもこの白銀の巨体から放たれる威圧感や禍々しさが、例えばバーサーカーやアサシンの持つそれらとは、まるで異質なものであると感じ取れる。
 今、自分はこれに勝てるだろうか?
 いや、付け加えて言えば、まひろを助けつつ、という条件付きで、だ。
 決め手もなく猪突猛進で当たれる相手ではない。
 最初に行き会った、ただのチンピラとはわけが違う。
 しかし―――。

 思案するアーチャーの下で、大きな音がした。
 エンジン音。それから破壊音。
 視界の効かぬ白銀の巨体に、ライトバンが体当たりをしていた。
 しかし、斃れない。
 膝を着きはしたが、それは一時的な事のようだ。
 むしろ、ぶつかったバンの方がへこんでいる。
 そんなにスピードを出していなかったのだろう。
 しかし、ただぶつかるだけでもこの有様だ。信じられぬ身体のつくりをしている。
 そのすぐ脇を、転がるようにして少年が駆けている。
 このバンをぶつけたのは、どうやらその少年のようだ。
 エンジンをかけ、発進させてから、即座に降りて駆けたのだろう。
 彼はうずくまっている黒衣の男へと近寄り、肩を貸して逃げだそうとしているようだった。
「ぬおぉおおおおお ―――!!」
 再び、怪物が吼えた。
 視界は効かないが、やはり気配は察知している。
 あまり正確ではないが、やはり少年と黒衣の男へと走り寄ろうとしていた。
 そこで、アーチャーはようやく矢を放った。

 緑色をしたこの弓は、合金製で長さはおよそ60cmほどとあまり大きくはないが、引くのにはなかなか力がいる。
 素人にも扱えるような遊戯用でもなく、また狩猟用でもない。
 特殊な目的の為に作られているようだが、確かに街中でとり回すのには丁度良い。
 元々は、オリバー・クィーン…又の名をグリーンアローと名乗るヒーローの使っている武器であるこの弓矢のセットには、何種類かの特殊な矢が付属していた。
 もともと洋弓ではなく和弓に慣れているアーチャーにとって、少しばかり扱いに難はある。難はあるが、それでもこれはこれで、この上ない武器と言える。

 放った矢は、爆弾付きの矢であった。
 それがどの程度の威力かは分からない。小さなものだから、そうたいした破壊力は無いだろうと思う。
 思うが、それでも彼らが逃げ出す時間を稼ぐ程度の役には立つだろう。
 放ってすぐに、その後を確認もせずアーチャーは立ち去る。
 効いたか、倒せたか、或いは彼らが逃げ出せたか。
 それは背後に聞こえる爆音と叫びで判断するしかない。
 今の時点で、あの怪物と決着をつけようとするのは無謀だ。
 何より、まずはまひろの安全を確保しないといけない。
 黒衣の男と少年には、幸運がある事を祈る事しかできない。
 もし再び出会えたら、あるいはもっときちんとした共闘が出来るかも知れないが、それは今ではないだろう。
 かつての自分なら、一も二もなく彼らに駆け寄っていたかも知れないとアーチャーは思い返し、即座にそれを振り切った。

◆◆◆

「ロビ…ン…。その…先だ…そこを…曲がれ…」
 些か意識が混濁しているのか、バットマンはそううなされたように指示を出す。
 確かに悪魔将軍に較べれば見劣りはするが、バットマン自身もかなりの身体だ。
 同年代の少年と較べても些か貧弱な雪輝が運ぶのには、かなり骨が折れる。
 まして、ほとんど暗闇で、さらには曲がりくねった臭い下水の中。
 何故こう指示を出せるのか分からないが、今はバットマンの言うとおりに進むしかない。
 何せ、雪輝にはほとんど見えていない。見えない物は、未来日記にも書かれないのだ。

 あのとき。
 デッドエンドの文字の有無を確認する間もなく訪れた、死の予感のとき。
 不意に、悪魔将軍の身体が爆ぜた。
 いや、爆発は悪魔将軍の身体自体ではなく、その身体に当たった何かだったが、雪輝にそこまで確認する余裕はない。
 そのまま、バットマンの身体を引きずるようにして奥へと這い進む。
 頭を打っていた。墜落のダメージもある。
 触ると分かるが、このスーツはだのぴちぴちタイツではなく、特殊な繊維が使われているのか、硬く弾力もあり、身体を守る性能があるようだ。
 それでも、今この状態を襲われれば、バットマンも雪輝も、ひとたまりもなくやられてしまうだろう。
 背後では怒号と激しい熱気。
 その光を頼りにして、暗闇の奥にそれを探す。
 手を伸ばし、その冷たい感触に触れたとき、雪輝はようやく少しだけ安堵した。
 マンホールの、蓋。
 未来日記から察するに、ここから二人は逃げられるはずだ。
 燃えている。背後であの怪物が燃えている。爆発のもたらした火が、コールタールを包んで燃えさかっている。
 何故爆発したのか。偶然か? バットマンの奥の手か? 或いは、微かに目にとめた人影が手助けしてくれたのか? 視界に入らぬ事は、分かりようがない。
 これで奴は死ぬか? 死ぬだろう。普通なら。それでも、何故か雪輝は、今にもあの怪物に襲われるかのような恐怖から、まるで解放されていない。

 だから、雪輝は遮二無二足を動かし、一刻も早くあの怪物から離れようとしている。
「その…先に…バット…ケイブ…」
 バットマンの言うことは分からない。ロビンとは、名簿に書かれていたロビンマスクという人物だろうか? その人物とバットマンは知り合いなのだろうか? そして今、意識が混濁し、その男と自分のことを勘違いしているのだろうか? 
 それでも、雪輝は何よりもまず、彼を救わなければと考えている。
 彼は、バットマンは、紛れもなく「ヒーロー」だ。
 それが雪輝にも、明確に理解できたからだ。
 明らかに勝ち目のない相手に、知力と勇気で立ち向かってゆく。
 彼の身体能力や、洞察力や、判断力も、勿論雪輝に敵うものは何もない。
 しかしそれ以上に、違うのだ。
 そう。精神、が。
 誰がなんと言おうと、その精神は紛れもなく、ヒーローそのものであった。
 たしかに、あの怪物には勝てなかった。勝てなかったが、それでも負けては居ない。そう思う。
 唯一、雪輝にだけある利点。つまり、未来日記。
 この未来日記の予知と、バットマンの持つ力。
 その二つを合わせれば、或いは……。
 雪輝は、そのことを考えている。
 ただ一つ、ただ一つ今気がかりなのは。
 自分とバットマンが、ルール上殺し合わねばならないグループだとしたら?
 そのとき、自分はどうすれば良いのだろうか。そのことだけであった。

◆◆◆

 残された建設現場には、凍てつくような静寂と、くすぶった火の跡だけがある。
 悪魔将軍は痛みも熱も感じない。だから、火に巻かれたところで熱くもない。
 また、呼吸も必要ない。伽藍堂の鎧のみを依り代とする、純粋なる悪意の結晶である悪魔将軍に、窒息などはない。
 しかし、熱そのものには、まるでダメージを受けないわけではない。
 能力的には圧倒しているはずの悪魔将軍が、何故バットマンに ――― たかが人間如きに ――― してやられたのか。
 一つには、バットマン自身の経験と戦術にもある。
 事前に未来日記で予知していた内容を作戦に役立て、又、彼自身、ただの人間でありながら、数多の怪人、超人類等と共闘、或いは闘争を繰り広げてきている。
 パワー一つ取っても、おそらくは悪魔将軍すら凌ぐであろうスーパーマンとも、技術と駆け引きで互角かそれ以上にやり合うことが出来るのだ。
 その事を、悪魔将軍は知らない。
 舐めてかかるべきでないと考えを改めても尚、悪魔将軍にとって、"超人類と互角に渡り合える人間"等というものは、想像の埒外なのだ。
 そしてもう一つ、悪魔将軍自身が戦いの最中に放った言葉、「鉄骨高層デスマッチ」というところにも、悪魔将軍の無意識の弱点が見て取れる。
 悪魔将軍は、無意識のうちに、自らの戦いを超人レスリングの範疇に限定して考えてしまう、思考の癖がついているのだ。
 これは、あらゆる争いの決着をレスリングでつけるという、悪魔も正義も無関係な、彼ら超人レスラー達の魂に染みこんだルールによるものだ。
 だから、例えば仗助との戦いのような、1対1の正面切っての戦いならば、バットマンが如何に歴戦の強者であっても、全く手も足も出ずに翻弄されていただろう。
 しかし今は逆。
 超人レスリングの思考から抜け出すことの出来ない悪魔将軍に対して、あらゆるタイプの悪漢、犯罪者、超人類等と様々な状況でやり合ってきたバットマンが、一手も二手も先回りして、自分のフィールドへと持ち込んだのだ。
 運悪く ――― と、アーチャーは見た、あの破片の衝突による墜落も、実際の所どう出たか分からない、ぎりぎりの線であった。
 例えば、事前に悪魔将軍の胴を蹴ったとき、悪魔将軍がボディの硬度を高くしておらず、バットマンが足にダメージを受けて居なければ、かわしていたか、ぶつかっても墜落していなかったかもしれない。
 そしてもしそうであれば、駆けつけていたアーチャーとの連携で、或いは全く違う展開になっていたかもしれない。
 勿論それは、二人が悪魔将軍に惨殺される未来であったかもしれないが ―――。

 だが…。
 それはやはり結果論でしかなく、そしてまた悪魔将軍には分かりようのないことであった。
 バットマンに自分の想像の範囲を遙かに超えた戦歴があることも、自身が超人レスリングの思考に囚われていることも、分かりようがないし、分かることもない。
 悪魔将軍に分かることはただ一つ。
 自分が、ただの人間に後れを取ったという屈辱の事実。ただそれだけである。

 白銀のきらめきが、今は煤けた鈍い色に覆われている。
 悪魔将軍はおもむろに、自らの空洞の胴体の中に手を突っ込み、中に入れてあったデイバッグを取り出して、それを引き裂き、バラバラにした。
 か弱き人間のために用意されたものなど、必要ない。
 食事も、水も、武器も防具も、そもそも悪魔将軍にとっては全て不要なもの。文字通りにただの荷物に過ぎない。
 そんなものをさっさと捨てもせず取っておいた事すら、屈辱である。

 成る程、考えを改めよう。
 確かにこの実験とやらには、自分とロビンマスク以外に、超人は居ないようだった。
 しかし、例えただの人間であっても、それなりの強者達を、あの主催者は集めている。
 それらか弱き人間どもが、果敢にも武器や策略を駆使して立ち向かってくる。
 それは、猛獣相手になんとか互角になろうとして、重火器を手にし罠をはるようなものなのだ。
 改めて悪魔将軍は思う。
 そう言った者達全てを、蹂躙し尽くすのだ。
 黒衣の男も、爆弾を投げてきた乱入者も、全てを。   



【G-9/下水道内:黎明】

【バットマン@バットマン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:瓦礫による怪我、落下によるダメージ、意識がやや混乱
 [装備]:バットスーツ
 [道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
 1:ひとまずバットケイブに避難。
 2:ジョーカー、悪魔将軍等の動向に注意。

※ゴッサム同様に、下水の地下に緊急用バットケイブがあると思っていますが、実際にあるかどうかは不明。

【天野雪輝@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:左腕に裂傷(治療済み)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0~1、拾った工具類
 [思考・状況]
 基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
 1:バットマンと共に下水を使って避難
 2:由乃と合流…?
 3:悪魔将軍怖いっ! でも死んだのか…? 

※拾った工具類
 ビル建設現場に落ちていたもの。

【H-9/クライムアレイ:黎明】

【アーチャー@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、高級お茶会セット、グリーンアローの弓矢、不明支給品0~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:目に映る限りの人を救う
 1:武藤まひろと共に一端安全な場所へ移動するか、黒衣の男を捜すか…?
 2:情報を収集し参加者とのパイプを作り、疑心による同士撃ちを防ぐ。
 3:当面は武藤まひろを守り抜く。信頼できる相手がいたらそこに託す。
 4:Horは人を守る者、Setは人を殺す者、Isiは力を持たない者?
[備考]
※登場時期はUBW終了後(但し記憶は継続されています)
※投影に関しては干将・莫耶は若干疲労が強く、微妙に遅い程度です。
※他の武器の投影に関する制限は未定です。
※武藤まひろと何らかの情報交換をしています。
※悪魔将軍をSet、黒衣の男(バットマン)はHorではないかと推測。

※グリーンアローの弓矢@バットマン
 軽くしなやかな合金製で、60cmほどの洋弓。緑色。
 特殊矢は何種類か有り、爆薬の他、催涙ガスや電気ショック、麻痺薬など色々と考えられる。

【武藤まひろ@武装錬金】
[属性]:一般(Isi)
[状態]:健康
[装備]:無し 
[道具]:基本支給品、ワルサーP99(16/16)@DEATH NOTE ワルサーP99の予備マガジン1
[思考・状況]
基本行動方針:人は殺したくない
1:アーチャーさんと共に行動する
2:お兄ちゃん………
【備考】
※参戦時期は原作5~6巻。カズキ達の逃避行前。
※アーチャーと何らかの情報交換をしています。

【H-9/ビル建設現場:黎明】

【悪魔将軍@キン肉マン】
 [属性]:Set(悪)
 [状態]:疲労(中~大?)
 [装備]:なし
 [道具]:メロの首輪
 [思考・状況]
 基本行動方針:悪を為す
 1:空条承太郎を見つけ出して殺す。
 2:黒衣の男(バットマン)、爆弾を投げた者(アーチャー、未確認)を殺す。
 3:殺し合いを楽しみ、トロフィーとして首輪を集め、それが終わった後は主催者を殺す。

※基本支給品2、不明支給品2~6が、H-9、ビル建設現場に、破壊されたか使える状態で散乱しているかもしれません。



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BOY meets BAT , or Call of Duty バットマン 手に入らない遠き夢
天野雪輝
夢の続き アーチャー
武藤まひろ
ダイヤモンドvsダイヤモンド 悪魔将軍






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