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BOY meets BAT , or Call of Duty ◆yCCMqGf/Qs







話は極めてシンプルだ。
何一つ難しい話じゃない。
為すべき事を為すだけだ。







――時々考える事がある
――自分のやっている事に、果たして意味などあるのかと…




私の名前はブルース・ウェイン。
アメリカ合衆国が一都市、ゴッサムシティーの郊外に住む、
ゴッサム一の、いや、アメリカ全土でも有数の億万長者だ。

幼少時に死んだ両親より受け継いだ莫大な遺産を、
薄っぺらな善意と、気まぐれと、色恋沙汰に浪費する放蕩者の孤児……
――そういう人間ということに私は“なっている”。

私にはもう一つの顔がある。
それは昼の私とは似ても似つかぬ本当の私の顔。
夜になると姿を現す、包み隠さぬ、しかし巧妙に偽装されたもう一人の私。
――バットマン
それがもう一人の私だ。

今、私が問題にしているのはバットマンについてだ。
もっと言えば、バットマンの活動の意義についてだ。

バットマンは夜になると、
ゴッサムの街に繰り出して、悪党(ヴィラン)どもと果ての無い闘いを続けて来た。
ティーンエイジのストリートギャングからマフィアの大ボス、
果てはアーカムからの出入りを繰り返すフリークスどもまで、あらゆる敵を闘ってきた。

決しても短くも、平坦でも無い、凄絶なる闘いの日々であった…
しかし、その闘いに、一体何の意味があったというのだ?

確かにゴッサムの犯罪数の低下には少しは貢献したかもしれない。
しかし、そんな僅かな統計上の数字の引き換えにこの街が得たモノは、
バットマンの姿を恐れて、より慎ましく、そして狡猾になった小悪党たちと、
バットマンを挑発するように、より大胆に、より大仰になったヴィラン達だ。
バットマンの闘争は所詮、対症療法に過ぎない。
この街の病根は未だ根深く強大で、この街がこの世の屑をかき集めた二十世紀のソドムである事は、
何一つ変わってなどいない。私が闘い始めたその日から、何一つ……

昔、テレビをぼんやりと見ていた時に、
映っていたニュース番組のコメンテーターの一人―たしか精神科医で、バットマンに批判的な人物だった―が、
こんな言葉をキャスターに向かって話していた。

『バットマンの存在は社会に確実に悪影響を与えています!事実、彼の存在が誘発した犯罪も少なく無い』

なるほど、一理ある――
ジョーカー、ペンギン、キャットウーマン、トゥーフェイス、ポイズンアイビー、スケアクロウ、
リドラー、ベイン、キラークロック、マッドハッター、ミスター・フリーズ、クレイフェイス…
ゴッサムシティのドブ川の中を蠢く怪人たち…
彼らの犯行は、もしも私がいなかったならば、現状ほどエスカレートしなかったかもしれない。
少なくとも、キャットウーマンを生んだのは私だし、
ジョーカー、リドラー、ベインの三人は最初から私を狙ってゴッサムに出現した。
ある意味彼らの生み親もまた、私だとも言えなくは無い。

だとすれば奴らによって作られた屍の山の責任の一端は、私にもあると言う事か?
……くそったれ

ああ、そういえば件の精神科医は、こんな事も言っていたな…

『バットマンは正義のヒーローなのではありません!ファシストか、さもなくば
 自身の性的、あるいは社会的抑圧を口実付きの暴力で発散させている精神病質者に違いありません!』

なるほど、御名答。先生、あんた名医だぜ。
確かに私の、僕の精神は抑圧されてるし、バットマンが生まれた原因の大半はそれだと言っていい。
いや、抑圧とは少し違うな。これは代償行為だ。失ったモノを埋め合わせようとする代償行為だ。

――僕が7歳の時、両親が血だまりに沈み、冷たくなって死んだあの日から
――永遠に失ってしまった人生の意味を求めて、その身を焼かれながら僕は闘ってきた

――父と母を殺したあの男への復讐の代償として
――僕はこの街の悪徳に見当違いの八つ当たりを続けて来た
                               ・・・・
そうだ、バットマンとはつまるところ、とるに足りない、ちっぽけなみなしごの代償行為だ。
もしもジョーカーがバットマンの正体を、僕の事を知ったなら、こう言って嗤うだろう。

『正直言ってオマエにはがっかりだよブルース…
 サンタクロースの中身が自分の親父だと知っちまった子供の心境さぁ…
 正義の味方を気取ってたみたいだが、結局の所、ヒーローごっこしてパパ、ママって叫ぶガキじゃないか。
 ここまで痛々しいと正直笑えないね……
 いや、構うもんか、 笑ってやれ!HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!』

ジョーカー…貴様の言うとおりだ。
これは子供の八つ当たりだ。ヒーローごっこしてパパ、ママって叫ぶガキの八つ当たりだ。
バットマンとは、人に嗤われたとしても文句は言えない、空飛ぶ鼠の恰好をした滑稽な大きな子供なのだ…

でも…
それでも…

ここまで自分で解っていながら…何故僕はバットマンを続けている?
止める機会ならば何度だってあった。止めようと思えば何時だって止められたんだ。
そうさ何時だって止められたんだ…なのに何故…?
僕は…

―バサ
――バサバサ
―――バサバサバサ
――――バサバサバサバサ
―――――バサバサバサバサバサ

黒く、大きな影が空を覆い、『それ』は窓を突き破って飛来する。
ああ…
彼が…来る…

紹介しよう、彼を。
太古から生き続けて来た、大いなる生粋の戦士を。偉大なる獣神を。
僕がまだ6歳だったころに、僕は彼に出会った。バットケイヴで。あの洞窟で。
その出会いの意味をその時は理解しなかったが、今ではハッキリとその意味を理解できている。
彼は僕の胸に入り込み、僕の心に向かって囁く。
愛も哀しみも喜びも知らぬ、憎悪に燃えた瞳で僕を見て、
屠った獲物達の死臭漂う、鋭い牙の生えた口で告げるのだ。

――お前は私の物だ

と。

彼と僕は融合し、一匹の怪物となる。
身長約二メートル、黒い大きな翼の吸血鬼。
ゴッサムの屑山に産み落とされた、時代の鬼子、イカレタ怪人……

彼が僕へと告げる。

――闘え

彼が僕へと告げる

――闘え
――戦え

彼が私に告げる

――闘え
――戦え
――闘い、戦って、そして死ね

彼が私に告げる

――闘って、戦って、そして死ね
――矢弾尽き、鎧は破れ、体躯は傷つき、牙は折れ、翼は破れ、己のが血の池に伏すまで闘って
――そして死ね

彼が私に告げる

――逃げることなど許されぬ
――闘え、貴様の敵と
――戦え、貴様の仇と
――闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
―― タ タ カ エ !


――貴様なぞに言われなくても解っている!
――自分の為すべきことぐらいは

そうだ…何も難しい話じゃない
資金もある、体力もある、技術もある、覚悟は言わずもがな…
だとすれば何を躊躇う必要がある?何を考える必要がある?
これで実行に移さないと者がいるとすれば、為すべき事を為さない者がいるとすれば、それは臆病者だけだ。
そうだ…何一つ難しい話じゃない。

必要な事だ。誰かがやらねばならぬ事だ。
9歳の狂えるみなしごは、自分一人でたくさんだ。
そうなりうる誰かを救えると言うのならば、充分に為すに値する。命を掛けるに値する。

――そうだ…何一つ難しい話じゃない

これは義務だ。
始めたのは自分だ、だとすれば全うせねばならぬ。
この街に怪物を産み落としたのは自分だ、だとすれば前に進まねばならぬ。
行かねばならぬ。闘わねばならぬ。立ち向かわねばならぬ。
拳を振り上げ、叩きつけろ。
必要な事だ。やらねばならぬ。
この命にかえてでも。

――闇夜で蝙蝠が一人妖しく微笑む
――黒いマスクの下の双眸は秋の湖の如く澄んで、尚且つ底知れぬ暗い深さを湛え
――柔らかな微笑みの弧を描く唇は、その実、微塵も笑ってはいない

眼帯をした女が、一人の少年を殺さんとしている。
巨大な蝙蝠が降り立ち、女を退ける。
少年の残した血の跡を追って、蝙蝠は――





――正直に言えば
――僕は生まれてこのかた、義務だとか、為すべき事だとか
――そんな事については、一度たりとも考えた事は無かった
――ただの一度も……
――今までは……



僕の名前は天野雪輝。
日本国桜見市に住む、ごくごく普通の中学2年生…だった。

『時空王デウス・エクス・マキナ』の仕掛けた、
十二人の『未来日記』所有者達によるデスゲームに巻き込まれ、
僕の静かで不変なる「傍観者」としての生活は崩れ落ち、
その果てに僕は、

母と

父を

永遠に失った。


これは夢なんだろうか?
いいや現実だ。変えようのない現実だ。
ちくしょう。なんなんだよ――
どうしてこうなる?
今までの人生は、風の向くまま、気の向くまま、
「傍観者」として流されるままにやってきた。
それでうまくやってこれたんだ。

神の座を決める闘いに巻き込まれてからもそうだ。
大勢の未来日記所有者達が、僕の命を狙ってきた。

“3rd-火山高夫”、“4th-来須圭悟”、“5th-豊穣礼佑”、
“6th-春日野椿”、“7th-戦場マルコそして美神愛”
“10th-月島狩人”、“12th-平坂黄泉”……

でもなんとかなってきた。
沢山の出来事があった。何回も死に掛けた。
それでも…それでも何とかなって来たじゃないか…

それなのに、
母さんは父さんに刺されて死んで、
父さんも胸を刺されて死んだ。

ちくしょう…
まるで地崩れが起こったみたいだ。
僕の『世界』が、ガラガラと音を立てて崩れて行く。
いや違う。本当はとっくの昔に崩れていたんだ。
ただそれに気づこうとしなかっただけなんだ。

僕は外の世界に関わらずに生きて来た。
小さな小さな子供の世界に生きて来た。

『お前がガキでいていい時間はもう終わりだよ』

知っていた筈だ、いつかはこうなるかも知れない事を。
でも、気が付いてないふりをしていた。考えないようにしていた。
だからやってこれたんだ、あの異常でオゾマシイ殺し合いの最中で、
風の向くまま、気の向くまま、流される様に生き残ってきた。

そして、父さんと母さんは死んだ。

互いに、時には疎ましいと思い、利用し合い、憎み合い、疑い合、騙し合う事もあった。
でも、それでもなお

――僕は父さんと母さんを愛していた
――僕は父さんと母さんに愛されていた

でも父さんと母さんは死んだ。
望遠鏡はもう役には立たない。
空の星は残らず落っこちて、世界は永遠に真っ暗闇だ。


――いや…
――違う…
――今ならまだ間に合う…

そうだ…何も難しい話じゃない。
為すべき事を為せばいい。自分の両手を汚す覚悟を決めればいい。
まだ間に合う。今ならまだ取り戻せる。
ただ、僕の両手を汚しさえすれば。

僕は籠の中の鳥だった。
籠の隙間から見える景色を眺めながら、ただぼんやりと生きて来た。
今や、籠は残らず崩れ、一人外の世界に放りだされた。
もう傍観者ではいられない。一人で、一人で何とかしなくっちゃ…

――ユッキー…
――ユッキー…
――ユッキー…

違う。一人じゃない。
彼女がいる。
紹介しよう、彼女を。
綺麗な髪と、豊かな肢体。
優れた知性と、超人的な身体能力。
僕のピンチには何時でも駆けつけ、僕を守ってくれる人。
僕を独占したがって、時には僕にとって大切な人々を傷つけてしまう人。
幾つも隠し事を持っている人。それでも決して嘘はつかない人。

優秀で、狡猾で、そして壊れいる人。
間違っていて、歪んでいて、狂っている人。
それでも、確かに、僕を愛してくれている人。
我妻由乃――僕の『恋人』。

彼女とならやっていける。
一人では出来ない事も、彼女となら出来る筈だ。

彼女は僕の望みに応えてくれるだろう。
だとすれば――後は僕が覚悟を決めればいい。

――そうだ…何一つ難しい話じゃない

これは僕の“義務”だ。僕がやらなきゃならない事だ。
“目的”じゃなくて“義務”だ。やりたい事じゃない、やらなきゃいけない事だ。
僕が、やらなきゃいけない事だ。全てを取り戻す為に。
全てをHappyEndで終わらせるために。

――天野雪輝の世界は崩れ
――今初めて、雪輝はこの世界に一人で足を踏み出す
――おっかなびっくり、おぼつかない足取りで
――生まれて初めて感じる義務の重さに喘ぎながら


ゲームのルールが変わった。
でも関係ない。むしろ事態は好転している。
少なくとも、由乃を殺さずに済む公算が高くなっている。

――大丈夫だ何とかなる。何とかしてみせる。
――そうだ…何一つ難しい話じゃない
――ただ覚悟を決めて、為すべき事を為すだけだ


しかし早くも事態は悪転し、
血の跡を残し、腕を押さえながら、
少年は路地裏へと消えていく。
そこで少年は――


かくして二人は邂逅する。
片や、永きに渡って義務に生きて来た大きな子供
片や、生まれて初めて義務と向き合う小さな子供

場所はクライムアレイの路地裏
そこからこの話は始まる


『上から黒い大男が飛んでくる。目と、胸の紋章以外は真黒だ』

“飛んでくる”を含めて、一見意味不明なその一文に一瞬眉を顰めた雪輝を、暗い影が背後より包みあげる。
ぎょっとして振り向いた時、成程、彼はレプリカ日記の内容が確かに正しい事を認識した。

吸血鬼か、蝙蝠男の様に、マントを翼の如く広げた大男が、
宙を滑空しながら雪輝の一歩前に音も無く降り立ったのである。
男は全身は闇にとけ、そのことごとくが黒く、ただ輝くのは炯々たるその双眸と、
胸に染め抜かれた蝙蝠の紋章のみ。

「う…うわぁっ!?」

雪輝はとっさに右手のオートマチック拳銃を大男に向けた。
殺意があった訳ではない。突如背後に出現した大男に恐怖を抱いたが故の、反射的行動である。
それもいたしかたあるまい。この大男バットマンのスーツは、“そういうもの”を意図してデザインされている。
すなわち恐怖を――

「!?…ああっ!?」

雪輝の拳銃の動きは、恐怖故か素人にしては素早かったが、
雪輝が認識する間もなく、バットマンは拳銃を握った彼の右手首を自身の右手で掴み上げていた。
素早く、静かで、精確で、そして力強い動きであった。

「ああっ…痛っ!?」
(しまった…!?)

万力の様な恐ろしく強い力が雪輝の右手首を締めあげて、雪輝は拳銃を思わず取り落とす。
その拳銃が地面に落下するより先に、バットマンの左手が拳銃を受け止める。

雪輝の右手首が万力の様な力より解放される。
強烈な力からのいきなりの解放故か、雪輝は思わず尻もちをついてしまった。

彼が見上げる前で、バットマンは両手で拳銃を弄びながら、
雪輝の頬笑みかけて言った。

「まだ年も若いし、恐慌していたのも理解できるが…」

静かで落ち着いた、感情を一切感じさせない恐ろしい声色であった。
バットマンの言葉は続く。

「大の男が“こんなもの”に頼るのは関心せんな」

雪輝の目の前でバットマンは拳銃をしばしカチャカチャと弄んでいたが。

「拳銃は臆病者の武器だ。嘘つきの武器だ」

瞬く間、ものの数秒の間で、拳銃はバラバラに解体される。
最早、何の用も為さなくなった金属とプラスチックのガラクタとなって、
バラバラにアスファルトの路上に広がる。

「簡単すぎるからだ。余りに簡単に、容易に人を殺せるからだ」

――少年が佇んでいる。
――目の前には二つの死体。
――かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
――暗く、汚い路地に、ただ物言わぬ肉塊と化した物体が転がっている。
――家族でそろって映画を見た帰りに、3人は強盗に襲われる。
――父は、少年と母を護ろうとし、母も又少年を護ろうとして、強盗の放った銃弾により死んだ。

――お前は私の物だ

一瞬浮かんだ赤黒い風景と、古い獣を一瞬で意識の外に飛ばし、
雪輝の両眼を見ながらバットマンは言葉をしめくくる。

「物の道理の解る年頃の、大の男の頼る様な武器じゃない」

そう言って再び雪輝に微笑みかける。
雪輝はそれを見て、蒼褪めていた相貌に冷や汗を加えた。

(何なんだコイツ…!?)

雪輝は混乱していた。
目の前の黒い大男。恐らくは、さっき9thに襲われた時に、自身を救ってくれた黒い影だ。
自分を追ってきたという事か?

(拳銃を…)

自身の命綱とも言える拳銃は、文字通り瞬く間に大男によって解体されたしまった。
今、雪輝は寸鉄一つ帯びていない。身を守るすべは、逃げる以外に無い。

(何なんだ?何を言ってるんだ?)

バットマンの言葉の意味は理解できるが、その意図する所を理解できない。
頭が正しく機能していない。傷の痛みと、予期せぬ9thの襲撃の事実が、雪輝の脳髄をかき乱す。
状況を改善する有効策を割り出せていない。

「ふむ」

拳銃を解体しおえたバットマンが、雪輝へと向けて足を詰める。
思わず、雪輝は尻もちついたまま、後ろへ後ずさる。

「怪我をしているようだな」

長い大きな体躯を折り曲げて、バットマンは雪輝の左腕を覗き込む。
突如眼前に迫ってきた不気味な黒いマスクに、雪輝はギョッとして再び後ずさった。

「治療した方がよさそうだが、ここは少し明るさと見晴らしに欠けるな」

そう言うとバットマンは、ずずいと静かに、素早く雪輝に手を伸ばす。
雪輝が逃げる間も身じろぎする間も無いままに、雪輝はバットマンの小脇に抱えられ、
そのまま、

「う、うわあっ!?」

宙を飛んだ。


「とりあえず止血は済んだ。大した怪我では無くて幸運だったな。少なくとも縫合は必要あるまい」

自身のシャツの裾を破いて即席で作られた包帯と、
バットマンの持っていた瞬間接着剤で治療された左腕を眺めていた雪輝は、
傍らに立つ巨大な怪人に視線を向けた。

(何なんだよコイツ…)

――困惑
天野雪輝がバットマンに抱いた印象はそれだ。
敵か味方か、9thの襲撃より自身を救い、いまこうして怪我も治療してくれたわけだから、
少なくとも当面の敵であるまい。貴重な武器である拳銃を使い物にならくしてくれたりはしたが…

(何なんだコイツは)

しかしそれにしても容姿が異様だ。
二メートル近い長身を、足まですっぽりと覆ってしまう真黒のマントで隠し、
同色のマスクで顔を包み、外に出ているのは顔の下半分と、炯々輝く両目以外は、一切肌を露出させていない。
雪輝が着れば、コスプレか、ハロウィンの仮装にしか見えない様な奇怪な衣装だが、
この男が着れば、まるでこの姿で生まれて来たかと思う程に様になっている。
まるで銀幕か、絵本の中から飛び出してきた蝙蝠男だ。

(由乃も大概だと思ってたけど…こいつはある意味それ以上だ…)

雪輝が言っているのは、バットマンの身体能力の事だ。
今、彼らがいるのは、クライムアレイにある五階建ての雑居ビルの一つの屋上だ。
バットマンは雪輝を小脇に抱えるや否や、何処からともなく取り出したワイヤーガン、
“グラップリングフック”をビル壁から突き出したポールに引っ掛けるや、
それで飛ぶように宙へと飛びあがる、その後は、跳躍と軽業だけでビル壁の出っ張りなどを掴んで、
瞬く間にビルの屋上へと昇り切ってしまったのである。
彼の『恋人』である由乃の身体能力も相当に超人的であるが、目の前の怪人物の超人っぷりも大概の物である。

「あ、あなたは…」
「バットマン…」

未だ名も知らぬこの怪人の、一先ず名前を聞くべく、話しかけようとして、
相手から先に名乗ってきた。男は再び名乗り、雪輝の胸にその名を刻み付ける。

「――I'm Batman」
――我が名はバットマン

バットマン。
すなわち蝙蝠男。成程、名は体を表すとは良く言ったものだ。

「僕は…天野雪輝といいます…」

一先ず雪輝もまた名乗り返した。

邂逅はここに完了する。
永きに渡って義務に生きて来た大きな子供と、
生まれて初めて義務と向き合う小さな子供との出会いが。


「バットマン…さんもこの『実験』の参加者なんですよね?」
「…不本意ながらそうだ」

“バットマン”と言う如何にも偽名、というか称号的なその名前に、
一瞬“さん”を付けるべきか戸惑うが、雪輝は一先ず付けて置く事とする。
今、自分に戦う手段も無く、頼れる我妻由乃も傍らにいない。
ましてや、相手は明らかに超人的能力を誇る怪人物。下手に出ておいた方がいいだろう。

「だ、だったら…協力し合いませんか?……生き残るために」
「……生き残る為?」
「はい!そうです」

雪輝は知っている。自分は口が上手い方じゃない。
そもそも対人交渉に慣れていない。だとすれば小細工するより、直接的な物言いの方がいいだろう。
幸い、相手にはこちらの話を聞く意思はあるようだ。

マスクの下の目を細めるバットマンを余所に、雪輝は話を続ける。

「僕は…この実験に参加するつもりはまったくないんです。
バットマンさんも、今の所この実験に参加する意思は全くないんでしょう?」

嘘である。
雪輝は、今では自身がどの陣営に所属しているが解らないが、
もし判明して、もしそれが「Setグループ」であった場合は、
由乃と合流して残りの参加者を…殺して…回る『つもり』でいる。

未だ迷いが無い訳では無いが、もう決めた事だ。
必要ならば為さねばなるまい。失われた日常を取り戻す為に。

ただ、雪輝は由乃や雨流みねねと違って殺人に忌避感が無いわけではない。
彼女達と違い、ついこの間までは極々普通の内向的な中学生に過ぎなかった雪輝だ。
殺人を犯したくないと言う思いは、ある意味当然だと言えるだろう。

だから彼は自分が「Isiグループ」である事にぎりぎりまで賭けたかった。
そうすれば、誰も殺さなくて済む…
未だ残った「逃げ」の思考を、優柔不断の臆病と評すか、
それとも未だ捨てきれぬ「人間性」の呼び声と見るべきか、それは余人に譲る。

一先ず、重要なのは情報収集と由乃との合流だ。
しかしそれを為すにしても、雪輝には戦闘能力が致命的に欠けている。
雨流みねねの様な危険人物と遭遇した場合、雪輝一人ならまず間違いなく『DEAD END』だ。
無差別日記も性能が下がっている為、全面的に頼みを置くわけにもいかない。
だから、何とかうまくバットマンを味方につける必要がある。
バットマンの戦闘能力の高さは既に見た。当座の安全を買うには充分な力量だろう。

問題はどうやって彼の協力を取り付けるか、である。

「実は…」

雪輝の交渉が始まる。


クライムアレイの一角で、二人の子供が対峙する。
その行く末は知れずとも、確かな事も一つあり。
二人が懸けるは我が命。その所以いずこになり。
二人を呼ぶは同じ声。
狂おしいまでの義務の呼び声。


【H-9/クライムアレイ五階建て雑居ビル屋上:深夜】

【バットマン@バットマン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:バットスーツ
 [道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
 1: 雪輝の話を聞く。
 2:ジョーカー動向に注意。

【天野雪輝@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:左腕に裂傷(治療済み)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0~1
 [思考・状況]
 基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
 1:バットマンを当座の護衛とすべく交渉する
 2:由乃と合流したい

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CHILDHOOD'S END バットマン BATMAN:Tales of the Devil
天野雪輝






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