魂の試金石
突然、視界が開けた。
突き刺さるような光が瞳を刺す。
少年は思わず、目を細めた。
「ここは…」
突き刺さるような光が瞳を刺す。
少年は思わず、目を細めた。
「ここは…」
「皆さん…初めまして…」
聞き覚えのある少年の声。安らぎを与えるような柔和な声。この声の主は——
聞き覚えのある少年の声。安らぎを与えるような柔和な声。この声の主は——
「アローンッ!!!」
ペガサスの聖闘士、テンマが声を張り上げた。
テンマは周囲を見渡す。
清楚さを感じさせる白壁、部屋の中央を縦断するように敷かれた赤い絨毯、その絨毯を境に均一に並べられた椅子、そして、その絨毯の先にある祭壇と十字架。
そこは礼拝堂だった。
アローンはその祭壇の上に立っていた。
「アローン…」
なぜ、アローンが自分の目の前にいるのか。
全く以って理解できない。
それ以上に理解できないのは、自分と同じように多くの人間が戸惑いの表情を浮かべながら、祭壇を呆然と見上げていることだ。
その数は約60人ほど。
しかも、そのほとんどが見覚えのない者ばかり。
分からないことだらけである。しかし、これだけは言える。
「…いや…お前はハーデスッ…!」
テンマはキッと親友を睨みつけた。
アローンはテンマの親友であった。しかし、世界で最も清らかな魂を持っているがために、その肉体を冥王ハーデスに乗っ取られた。
つまり、今、目の前にいるのは肉体こそ親友であるが、その中身は親友を乗っ取った宿敵なのだ。
「テンマ…」
テンマの怒りを否定するかのように、親友は首を横に振る。
「僕はハーデスじゃない…アローンだ…」
「えっ…」
ペガサスの聖闘士、テンマが声を張り上げた。
テンマは周囲を見渡す。
清楚さを感じさせる白壁、部屋の中央を縦断するように敷かれた赤い絨毯、その絨毯を境に均一に並べられた椅子、そして、その絨毯の先にある祭壇と十字架。
そこは礼拝堂だった。
アローンはその祭壇の上に立っていた。
「アローン…」
なぜ、アローンが自分の目の前にいるのか。
全く以って理解できない。
それ以上に理解できないのは、自分と同じように多くの人間が戸惑いの表情を浮かべながら、祭壇を呆然と見上げていることだ。
その数は約60人ほど。
しかも、そのほとんどが見覚えのない者ばかり。
分からないことだらけである。しかし、これだけは言える。
「…いや…お前はハーデスッ…!」
テンマはキッと親友を睨みつけた。
アローンはテンマの親友であった。しかし、世界で最も清らかな魂を持っているがために、その肉体を冥王ハーデスに乗っ取られた。
つまり、今、目の前にいるのは肉体こそ親友であるが、その中身は親友を乗っ取った宿敵なのだ。
「テンマ…」
テンマの怒りを否定するかのように、親友は首を横に振る。
「僕はハーデスじゃない…アローンだ…」
「えっ…」
この回答にテンマは言葉を失った。
どうやって、冥王ハーデスの強大な呪縛から解放されたのか。
それを問おうとした次の瞬間だった。
「これから、君たちには“魂の試金石”——殺し合いをしてもらう…」
どうやって、冥王ハーデスの強大な呪縛から解放されたのか。
それを問おうとした次の瞬間だった。
「これから、君たちには“魂の試金石”——殺し合いをしてもらう…」
アローンの一声。
あの穏やかな声色のからは想像もつかない内容に、会場が水を打ったように静まり返った。
皆、目の前にいる少年の言葉を受けいれることができないのだ。
「困惑して…当然だよね…」
アローンはその情景を愛おしそうにほほ笑む。そして、そのほほ笑みをテンマに向けた。
「テンマ…単刀直入に言う…ロストキャンバスは君によって潰される…」
「なんだって…」
ロストキャンバス——ハーデスが起こした計画。アローンの身体を乗っ取ったハーデスは人物の絵を描くことで、その人物を殺すことができる。
この能力を利用し、空をキャンバスに全人類を描き、安らぎという名の“死の救済”を与えようとしていた。
テンマの記憶が正しければ、テンマは今まで、このロストキャンバスという計画を防ぐために戦っていた。
しかし、アローンはその結末を口にした——未来の事象を告白したのだ。
なぜ、未来を知りえているのか。
なぜ、そのことをこの場で言うのか。
テンマに再び、多くの疑問が湧きあがる。
しかし、その疑問はやはり別の力によって、妨害される。
「ふざけるなっ!」
一人の少女が怒声を発するや否や、アローンに向かって走り出した。
少女は東洋人独特の真っ直ぐな黒髪をしており、顔には横一線の傷、そして、その脚には死神の鎌を連想させるような武器が装着されていた。
「ま…待ってく…」
テンマが手を伸ばし、少女を止めようとする。
しかし、少女はそんなテンマのことなど眼中にはなく、高々と跳び上がり、アローンに突撃する。
あの穏やかな声色のからは想像もつかない内容に、会場が水を打ったように静まり返った。
皆、目の前にいる少年の言葉を受けいれることができないのだ。
「困惑して…当然だよね…」
アローンはその情景を愛おしそうにほほ笑む。そして、そのほほ笑みをテンマに向けた。
「テンマ…単刀直入に言う…ロストキャンバスは君によって潰される…」
「なんだって…」
ロストキャンバス——ハーデスが起こした計画。アローンの身体を乗っ取ったハーデスは人物の絵を描くことで、その人物を殺すことができる。
この能力を利用し、空をキャンバスに全人類を描き、安らぎという名の“死の救済”を与えようとしていた。
テンマの記憶が正しければ、テンマは今まで、このロストキャンバスという計画を防ぐために戦っていた。
しかし、アローンはその結末を口にした——未来の事象を告白したのだ。
なぜ、未来を知りえているのか。
なぜ、そのことをこの場で言うのか。
テンマに再び、多くの疑問が湧きあがる。
しかし、その疑問はやはり別の力によって、妨害される。
「ふざけるなっ!」
一人の少女が怒声を発するや否や、アローンに向かって走り出した。
少女は東洋人独特の真っ直ぐな黒髪をしており、顔には横一線の傷、そして、その脚には死神の鎌を連想させるような武器が装着されていた。
「ま…待ってく…」
テンマが手を伸ばし、少女を止めようとする。
しかし、少女はそんなテンマのことなど眼中にはなく、高々と跳び上がり、アローンに突撃する。
少女は直感的に感じ取っていた。
アローンという少年はいつか自分の大切な男性の前に立ちはだかる敵だと。
傍から見れば少女の行動は軽率に受け取られていたかもしれない。
しかし、アローンがテンマと言葉を交わしている中、彼女は周囲の伏兵の数を目算していた。
結果、祭壇上にいるのはアローン一人と結論付けた。
しかも、今、アローンの視点はテンマにのみ注がれている。
アローンが隙を晒している今こそ、最大の好機。
アローンを殺すには今しかない。
もし、アローンが主催であれば、“魂の試金石”は開催される前に終了。
また、仮にアローンの他にも主催者がいれば、主催者の一人を瞬殺できる程の戦闘能力を持つ者が存在することを示すチャンス。
(これは全て…カズキのためっ…!!)
少女は雄叫びをあげる。
「臓物をブチ撒けろっ!!!!!」
少女の足の鎌がまるで意思を持っているかのように、アローンの身体を一斉に狙った。
少女のスピード、武器の鋭利さ、その全てを照らし合わせても、少女の武器がアローンの身体を貫くのは明白であった。
しかし、アローンはあいさつをするかのように軽く手をかざすと、その武器を受け止めたのだ。
「なっ…」
その場にいた全員が絶句する。
アローンの行為は物理の法則から外れていた。
アローンという少年はいつか自分の大切な男性の前に立ちはだかる敵だと。
傍から見れば少女の行動は軽率に受け取られていたかもしれない。
しかし、アローンがテンマと言葉を交わしている中、彼女は周囲の伏兵の数を目算していた。
結果、祭壇上にいるのはアローン一人と結論付けた。
しかも、今、アローンの視点はテンマにのみ注がれている。
アローンが隙を晒している今こそ、最大の好機。
アローンを殺すには今しかない。
もし、アローンが主催であれば、“魂の試金石”は開催される前に終了。
また、仮にアローンの他にも主催者がいれば、主催者の一人を瞬殺できる程の戦闘能力を持つ者が存在することを示すチャンス。
(これは全て…カズキのためっ…!!)
少女は雄叫びをあげる。
「臓物をブチ撒けろっ!!!!!」
少女の足の鎌がまるで意思を持っているかのように、アローンの身体を一斉に狙った。
少女のスピード、武器の鋭利さ、その全てを照らし合わせても、少女の武器がアローンの身体を貫くのは明白であった。
しかし、アローンはあいさつをするかのように軽く手をかざすと、その武器を受け止めたのだ。
「なっ…」
その場にいた全員が絶句する。
アローンの行為は物理の法則から外れていた。
その驚愕はアローンに攻撃した少女も同じであった。
少女とアローンはまさに鍔迫り合い状態。
仮に相手が剣などの武器で少女に抵抗していたならまだ分かる。
しかし、対峙する少年は素手だった。
「何…だと…!」
条理の埒外の出来事を理解することができず、少女の顔から血の気が引いていく。
少女の驚愕などアローンは別段気にも留めていない様子で、ふっとため息をつく。
「やはり…一定の参加者には制限をつけなければならないか…」
アローンは空いている手をゆっくりとあげ、まるで指揮者が演奏を始める瞬間のようにその手を振り下ろした。
振り下ろされた手からヘドロ状の物体が吐き出された。
全ての闇を吸い取ったかのような漆黒のヘドロ。
そのヘドロは吸い寄せられるように少女の首に絡んだ。
「な…」
少女の視線がアローンから己の首に移った瞬間だった。
少女の頭部がボンと打ち砕かれたように爆ぜた。
少女の鮮血が周囲に飛び散り、礼拝堂を汚す。
「なっ…」
理解しがたい異形の力による惨殺劇。
「い…いやぁ!!!」
誰かが恐怖に泣き叫んだ。
それを合図とするように、礼拝堂内がさざ波のようにざわめく。
そんな混乱の中、頭部を失った少女の胴体は力なく地に落ちた。
「斗貴子さんっ!!!!」
少女——斗貴子の身内の者だろう。
テンマと同じくらいの年齢の少年が斗貴子の死体を抱きかかえる。
「どうして…」
少年の瞳から涙が頬を伝って流れ落ち、斗貴子の制服に落ちていく。
少年——カズキの核鉄の心は慟哭に震えていた。
カズキが錬金の戦士になってから、常に自分の傍らで戦い続けてくれた女性——斗貴子。
戦いの中で、斗貴子は様々な表情を見せてくれた、拗ねた顔、苛立った顔、そして、笑顔。
その全てがカズキにとって、愛おしかった。
自分の命に代えても守り抜きたかった。
しかし、自分は彼女を守ることができなかった。
カズキは身体を震わせ、アローンを燃えあげるような殺気で射抜いた。
「オレはあんたを許さないっ!!!」
カズキは手を天に向かって翳した。
カズキの手の中に山吹色の光が密集し、礼拝堂の薄暗い闇を切り裂く。
その光はかつて斗貴子が評した“太陽の光”。
光が形作るのは、悪を断絶し、希望を照らす、正義のランス——サンライト・ハート。
そのランスが今、カズキの手の中に——
「くらえっ!!!武装錬…」
「甘いな…」
アローンは失笑を洩らすと、光が形作られるよりも早く手を振った。
アローンの手から飛び出したのは、やはりあのヘドロ。
斗貴子の時と同じようにカズキの首に絡みつく。
「えっ!!」
カズキが首に注意を向けてしまった直後、太陽の如き輝きは空気と溶け合い、消滅してしまった。
再び、礼拝堂は薄暗い闇に戻る。
「何っ!!!」
動揺したカズキは己の首に巻きつかれたヘドロを掴もうとする。
しかし、ヘドロはすでに銀の首輪に姿を変えてしまっていた。
「これは…」
その変化にカズキの顔が蒼白する。
ヘドロが銀の首輪に変化したという超常現象のこともそうであるが、それ以上の事実をカズキは感じていた。
カズキは震える自身の手を見つめる。
「サンライト・ハートが…出現しない…」
アローンはいちいち説明しなければならないのかと言わんばかりの不満の表情を見せる。
「さっき、僕は言った…制限をつけると…制限を発動させるのがその首輪だ…今の君は普通の少年…」
「アローン…どういうことなんだっ…!」
テンマはカズキを守るように、アローンの眼前に進み出た。
「目的は何なんだ…女の子一人殺してまで成し遂げなくちゃいけないことなのかよ…!!」
テンマの記憶のアローンは誰かが傷つくことを悲しみ、他者の幸せのためならば進んで自己犠牲を払う少年であった。
その少年が自らの計画のために、見ず知らずの少女を殺害したのだ。
テンマは確信した。
「お前は…オレの知っているアローンじゃねぇ…!!」
そう結論付けるテンマの声は怒りと震えが入り混じっていた。
テンマは拳を構えた。
「オレは…お前を…倒すっ!!」
「いや…それはオレの役目だ…」
カズキがテンマの肩を掴み、立ち上がった。
「オレがここで目の前の敵を倒さなくちゃ…斗貴子さんに顔向けできないんだ…」
カズキの表情は今にも号泣しそうなほどに歪んでいた。
テンマはそんなカズキの顔を呆然と眺める。
カズキの様子から察して、カズキと亡くなった少女は深い絆で結ばれていた。
その最愛のパートナーを失ってしまったのだ。
本来なら己を見失うほどに心は掻き毟られているはずだ。
実際にカズキの顔にはその感情が溢れている。
それでもカズキはその感情を抑え、今、なすべきことのために立ち向かおうとしている。
少女とアローンはまさに鍔迫り合い状態。
仮に相手が剣などの武器で少女に抵抗していたならまだ分かる。
しかし、対峙する少年は素手だった。
「何…だと…!」
条理の埒外の出来事を理解することができず、少女の顔から血の気が引いていく。
少女の驚愕などアローンは別段気にも留めていない様子で、ふっとため息をつく。
「やはり…一定の参加者には制限をつけなければならないか…」
アローンは空いている手をゆっくりとあげ、まるで指揮者が演奏を始める瞬間のようにその手を振り下ろした。
振り下ろされた手からヘドロ状の物体が吐き出された。
全ての闇を吸い取ったかのような漆黒のヘドロ。
そのヘドロは吸い寄せられるように少女の首に絡んだ。
「な…」
少女の視線がアローンから己の首に移った瞬間だった。
少女の頭部がボンと打ち砕かれたように爆ぜた。
少女の鮮血が周囲に飛び散り、礼拝堂を汚す。
「なっ…」
理解しがたい異形の力による惨殺劇。
「い…いやぁ!!!」
誰かが恐怖に泣き叫んだ。
それを合図とするように、礼拝堂内がさざ波のようにざわめく。
そんな混乱の中、頭部を失った少女の胴体は力なく地に落ちた。
「斗貴子さんっ!!!!」
少女——斗貴子の身内の者だろう。
テンマと同じくらいの年齢の少年が斗貴子の死体を抱きかかえる。
「どうして…」
少年の瞳から涙が頬を伝って流れ落ち、斗貴子の制服に落ちていく。
少年——カズキの核鉄の心は慟哭に震えていた。
カズキが錬金の戦士になってから、常に自分の傍らで戦い続けてくれた女性——斗貴子。
戦いの中で、斗貴子は様々な表情を見せてくれた、拗ねた顔、苛立った顔、そして、笑顔。
その全てがカズキにとって、愛おしかった。
自分の命に代えても守り抜きたかった。
しかし、自分は彼女を守ることができなかった。
カズキは身体を震わせ、アローンを燃えあげるような殺気で射抜いた。
「オレはあんたを許さないっ!!!」
カズキは手を天に向かって翳した。
カズキの手の中に山吹色の光が密集し、礼拝堂の薄暗い闇を切り裂く。
その光はかつて斗貴子が評した“太陽の光”。
光が形作るのは、悪を断絶し、希望を照らす、正義のランス——サンライト・ハート。
そのランスが今、カズキの手の中に——
「くらえっ!!!武装錬…」
「甘いな…」
アローンは失笑を洩らすと、光が形作られるよりも早く手を振った。
アローンの手から飛び出したのは、やはりあのヘドロ。
斗貴子の時と同じようにカズキの首に絡みつく。
「えっ!!」
カズキが首に注意を向けてしまった直後、太陽の如き輝きは空気と溶け合い、消滅してしまった。
再び、礼拝堂は薄暗い闇に戻る。
「何っ!!!」
動揺したカズキは己の首に巻きつかれたヘドロを掴もうとする。
しかし、ヘドロはすでに銀の首輪に姿を変えてしまっていた。
「これは…」
その変化にカズキの顔が蒼白する。
ヘドロが銀の首輪に変化したという超常現象のこともそうであるが、それ以上の事実をカズキは感じていた。
カズキは震える自身の手を見つめる。
「サンライト・ハートが…出現しない…」
アローンはいちいち説明しなければならないのかと言わんばかりの不満の表情を見せる。
「さっき、僕は言った…制限をつけると…制限を発動させるのがその首輪だ…今の君は普通の少年…」
「アローン…どういうことなんだっ…!」
テンマはカズキを守るように、アローンの眼前に進み出た。
「目的は何なんだ…女の子一人殺してまで成し遂げなくちゃいけないことなのかよ…!!」
テンマの記憶のアローンは誰かが傷つくことを悲しみ、他者の幸せのためならば進んで自己犠牲を払う少年であった。
その少年が自らの計画のために、見ず知らずの少女を殺害したのだ。
テンマは確信した。
「お前は…オレの知っているアローンじゃねぇ…!!」
そう結論付けるテンマの声は怒りと震えが入り混じっていた。
テンマは拳を構えた。
「オレは…お前を…倒すっ!!」
「いや…それはオレの役目だ…」
カズキがテンマの肩を掴み、立ち上がった。
「オレがここで目の前の敵を倒さなくちゃ…斗貴子さんに顔向けできないんだ…」
カズキの表情は今にも号泣しそうなほどに歪んでいた。
テンマはそんなカズキの顔を呆然と眺める。
カズキの様子から察して、カズキと亡くなった少女は深い絆で結ばれていた。
その最愛のパートナーを失ってしまったのだ。
本来なら己を見失うほどに心は掻き毟られているはずだ。
実際にカズキの顔にはその感情が溢れている。
それでもカズキはその感情を抑え、今、なすべきことのために立ち向かおうとしている。
「アンタは…」
「オレの名は武藤カズキ…」
「カズキ…」
テンマは心の底から感嘆する。
何と鋼のような心を持つ少年なのだろうと。
「分かった、カズキ…一緒にアローンを…!!」
二人の少年は拳を振り上げ、アローンに向かって駈け出した。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
礼拝堂内に少年たちの喊声が響き渡る。
一人の少年は親友の目を覚まさせるために。
もう一人の少年は最愛の女性の仇を討つために。
二人の呼応はまるで示し合わせていたかのように一致し、その拳はアローンの眼下にまで迫る。
うねりをあげた拳がアローンの顎を狙い討とうとした瞬間だった。
アローンと二人を隔たるように黒い壁が現れたのだ。
「何っ!!!」
二人は突然のことに思わず、その動きを止める。
目の前に現れた壁は壁ではなかった。
あの漆黒のヘドロだった。
ヘドロがテンマとカズキの目の前で逆噴射する滝を作っていたのだ。
どういう仕掛けなのかは分からない。
しかし、少年たちが危うさを感じた時、滝は少年たちに覆いかぶさっていた。
「何だこれ…!!」
「身動きがっ…!!!」
先程、水のようだったヘドロは途端に粘着性を増し、少年たちの身体に絡みつく。
ヘドロは少年たちの手足を塞ぎ、口を塞ぎ、その身体を床に押し付ける。
その姿は粘着型害虫駆除器に捕まったゴキブリのように無様なものだった。
アローンはその哀れな二人を見下ろし、囁く。
「君たちをここで殺しても構わないけど…これ以上、人数を偏らせたくないんだ…」
アローンは参加者達に告げた。
「僕の話に今後、口出しをするようであれば、これ以上の制裁が降りかかると思ってくれ…」
アローンは仕切り直しと言わんばかりに話を続ける。
「首輪のことについてだが…」
「その首輪の説明…私にさせていただけませんか…」
初老の男性が祭壇にゆったりした足取りで上がってきた。
斗貴子が結論付けていたように、祭壇には今までアローンしかいなかった。
それにもかかわらず、初老の男性は突如として表れたのだ。
それはまるで影が実態を帯びたかのような不気味さを醸し出していた。
アローンは老人の存在を確認し、頷く。
「確かに…君の方が適切だ…」
アローンは“よろしく頼む”と呟くと、祭壇の端へ移動した。
初老の男性は品のよさを示すように深々と頭を下げた。
「私は…」
「アルフレッドっ!!!!」
一人の偉丈夫の男性が立ちあがった。
蝙蝠を連想させるような黒ずくめのマントに黒ずくめのスーツ、そして、素顔を隠す黒ずくめのマスク。
そのような黒ずくめの出で立ちであっても、その肉体が鋼鉄のように鍛え抜かれたものであることが見て取れる。
この手の筋肉質の男は得てして粗野な人物が多いが、この男性に限って言えば、マスクの奥の瞳には知性の光が宿っていた。
その男性の叫びはその初老の男性の名——アルフレッドを呼んだだけである。
しかし、その声には“なぜ、お前がここにいて、その少年に加担するのだ…!”という悲痛な訴えがあった。
「これは“バットマン殿”…」
アルフレッドはその叫びを無視するどころか、アローンに顔を向け、こう言い放った。
「彼にも首輪を…」
男性——バットマンの首にもヘドロが巻きついたのはこの直後だった。
「なっ…」
バットマンは困惑する。
なぜなら、アルフレッドはバットマン——ブルース・ウェインが最も信頼と愛情を抱いていた人物なのだから。
アルフレッド・ペニーワース——バットマンことブルースの忠実な執事であり、孤児であったブルースを幼き頃から育て上げた。
言わば、父親も同然、否、父親であった。
ブルースの正義感は強盗に両親を殺されたことへの怒りが根本にあるが、根本を育て上げたのはアルフレッドの功績と言ってもよい。
皮肉屋のため、なかなか口には出さないが、ブルース以上に悪を憎んでいたのはアルフレッド自身である。
もし、ブルースがバットマンとして取り繕う必要がなければ、今すぐにでもアルフレッドの胸倉を掴んで真意を問い質していただろう。
しかし、今のブルースは正体を隠さなくてならない身であり、そのような感情的な行動をとれるはずがない。
ブルースは苦々しくアローンとアルフレッドの双方を睨みつけながらも、それ以上動くことができなかった。
「オレの名は武藤カズキ…」
「カズキ…」
テンマは心の底から感嘆する。
何と鋼のような心を持つ少年なのだろうと。
「分かった、カズキ…一緒にアローンを…!!」
二人の少年は拳を振り上げ、アローンに向かって駈け出した。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
礼拝堂内に少年たちの喊声が響き渡る。
一人の少年は親友の目を覚まさせるために。
もう一人の少年は最愛の女性の仇を討つために。
二人の呼応はまるで示し合わせていたかのように一致し、その拳はアローンの眼下にまで迫る。
うねりをあげた拳がアローンの顎を狙い討とうとした瞬間だった。
アローンと二人を隔たるように黒い壁が現れたのだ。
「何っ!!!」
二人は突然のことに思わず、その動きを止める。
目の前に現れた壁は壁ではなかった。
あの漆黒のヘドロだった。
ヘドロがテンマとカズキの目の前で逆噴射する滝を作っていたのだ。
どういう仕掛けなのかは分からない。
しかし、少年たちが危うさを感じた時、滝は少年たちに覆いかぶさっていた。
「何だこれ…!!」
「身動きがっ…!!!」
先程、水のようだったヘドロは途端に粘着性を増し、少年たちの身体に絡みつく。
ヘドロは少年たちの手足を塞ぎ、口を塞ぎ、その身体を床に押し付ける。
その姿は粘着型害虫駆除器に捕まったゴキブリのように無様なものだった。
アローンはその哀れな二人を見下ろし、囁く。
「君たちをここで殺しても構わないけど…これ以上、人数を偏らせたくないんだ…」
アローンは参加者達に告げた。
「僕の話に今後、口出しをするようであれば、これ以上の制裁が降りかかると思ってくれ…」
アローンは仕切り直しと言わんばかりに話を続ける。
「首輪のことについてだが…」
「その首輪の説明…私にさせていただけませんか…」
初老の男性が祭壇にゆったりした足取りで上がってきた。
斗貴子が結論付けていたように、祭壇には今までアローンしかいなかった。
それにもかかわらず、初老の男性は突如として表れたのだ。
それはまるで影が実態を帯びたかのような不気味さを醸し出していた。
アローンは老人の存在を確認し、頷く。
「確かに…君の方が適切だ…」
アローンは“よろしく頼む”と呟くと、祭壇の端へ移動した。
初老の男性は品のよさを示すように深々と頭を下げた。
「私は…」
「アルフレッドっ!!!!」
一人の偉丈夫の男性が立ちあがった。
蝙蝠を連想させるような黒ずくめのマントに黒ずくめのスーツ、そして、素顔を隠す黒ずくめのマスク。
そのような黒ずくめの出で立ちであっても、その肉体が鋼鉄のように鍛え抜かれたものであることが見て取れる。
この手の筋肉質の男は得てして粗野な人物が多いが、この男性に限って言えば、マスクの奥の瞳には知性の光が宿っていた。
その男性の叫びはその初老の男性の名——アルフレッドを呼んだだけである。
しかし、その声には“なぜ、お前がここにいて、その少年に加担するのだ…!”という悲痛な訴えがあった。
「これは“バットマン殿”…」
アルフレッドはその叫びを無視するどころか、アローンに顔を向け、こう言い放った。
「彼にも首輪を…」
男性——バットマンの首にもヘドロが巻きついたのはこの直後だった。
「なっ…」
バットマンは困惑する。
なぜなら、アルフレッドはバットマン——ブルース・ウェインが最も信頼と愛情を抱いていた人物なのだから。
アルフレッド・ペニーワース——バットマンことブルースの忠実な執事であり、孤児であったブルースを幼き頃から育て上げた。
言わば、父親も同然、否、父親であった。
ブルースの正義感は強盗に両親を殺されたことへの怒りが根本にあるが、根本を育て上げたのはアルフレッドの功績と言ってもよい。
皮肉屋のため、なかなか口には出さないが、ブルース以上に悪を憎んでいたのはアルフレッド自身である。
もし、ブルースがバットマンとして取り繕う必要がなければ、今すぐにでもアルフレッドの胸倉を掴んで真意を問い質していただろう。
しかし、今のブルースは正体を隠さなくてならない身であり、そのような感情的な行動をとれるはずがない。
ブルースは苦々しくアローンとアルフレッドの双方を睨みつけながらも、それ以上動くことができなかった。
バットマンが押し黙ったことを確認すると、アルフレッドはこほんと軽く咳払いし、淡々と事務的に説明する。
「その首輪はこれからの“魂の試金石”にとって重要な役割を示すものです…
その役割の一つは先程、アローン様の説明もあった通り、この首輪は一定の参加者の能力を制限させるもの…参加者の一部は人外の能力者もいらっしゃるので…
ただ、その制限は人によって異なります…それは各自、“魂の試金石”が始まってから確認してください…
それからもう一つ…この首輪はゲームで違反行為をした場合、爆発するようにできております…爆発した場合どのようになるかは…そちらの少女を見ていただければご理解頂けると思うのですが…」
ここでアルフレッドは思いだしたかのようにアローンに尋ねる。
「アローン様…首輪の説明をするよりも“魂の試金石”について説明した方がきっと彼らも理解が早いと思うのですが…」
アローンは再び、壇上の中央に立つ。
「では、“魂の試金石”の経緯から説明しよう…」
アローンは思い出に耽るかのように遠くを見つめる。
「僕は全ての者に死を…死という安らぎを与えるため、安らぎの中で争いなどない世界を構築するため…ロストキャンバスを完成させようとした…
けれど…それはテンマ達の手によって阻止された…無論、阻止されたのは未来のことだが、それは曲げようのない事実らしい…」
アローンは瞳に悲しげな色を浮かべる。
「この世界ではね…正しいことが残るようにできている…もし、テンマ達の選択の方が正しいのであったならば、僕も諦めがついた…けれど…」
この直後、アローンは目を血走らせた。
その表情には、かつての慈愛に満ちた穏やかさは存在していなかった。
アローンは参加者全員に憎悪の感情をぶつける。
「争いはなくならなかったっ!!!
それどころか、その先、人類は更なる兵器を生み出し、多くの苦しみ、不幸を生み出し続けるっ!!!
終止符を打つどころか、悪化させているんだっ!!!!」
アローンの口調は更に悲痛さ、激憤が色濃くなる。
「僕は人間の気持ちが分からないっ!!!!なぜ、苦しみを減らそうとないのかっ!!なぜ、対立し続けるのかっ!!!!」
さすがに横にいたアルフレッドもアローンの激情に不安を覚えたのか、自分が代わりに説明しようかと提案する。
しかし、アローンはその心遣いに感謝しながらも、再び、落ち着き払った口調で続ける。
「僕は気付いたんだ…争いは対立があるからこそ起こるもの…
その争いには一種の引き金があることを…
では、その引き金は変化することができるのか、いや、“変化させる”ことができるのか、その変化はどういう段階を踏めばいいのか…
それを知るために僕はこの“魂の試金石”を考えた…」
アローンは会場を一望した。
「ここに集まっている者達はその“引き金”が色濃いんだ…だから、変化の過程が掴みやすい…」
アローンは天に祈りを捧げるように両手を広げる。
「もし、その引き金の原理が知ることができれば、再び、僕が世界に安らぎを与える時、僕と対立するだろう引き金への対策を立てることができる…
これは人間の心を知るための僕の実験であり、世界を救済するための準備というわけなんだ…」
アローンは天へとあげた手を静かに下した。
「この“魂の試金石”には二つのグループが存在する…
どんなグループ分けがされているか、君たちがどのグループに属するものなのかはここでは言及しない…
けど、そのグループに名前をつけるとしたら、“オット”と“クインディチ”というのはどうかな…」
アローンはクスリと笑いをこぼす。
「ルールは簡単、このオットとクインディチが戦いを繰り広げ、そのどちらかの勢力が全滅しだい、“魂の試金石”は終了…実に明瞭だよね…」
アローンはここで困惑を浮かべた。
「僕はオットとクインディチだけいればいいと思っていたが、それだけでは心の変化を読み取ることができないと訴える者がいた…
そこで第三の勢力が生まれた…“ゼロ”だ…」
アローンは申し訳なさげにため息をつく。
「このゼロの勢力はあくまでオットとクインディチの戦いに新たな流れを吹きこむための材料…
だから、オットとクインディチの戦いが終わった時点で、ゼロの勢力も戦いから解放される…
不本意に感じるかもしれないが許してほしい…」
アローンの憂いを帯びた表情は更に陰りを見せる。
「正直、僕はゼロの存在どころか、このオットとクインディチのグループ分けにも不満を持っている…
だが、“彼”がこのグループ分けがベストなのだと言った…今回は彼の意見によってグループが決まっている…」
アローンは“これが彼さ…”と手を軽く上げた。
すると、その手に絡みつくようにヘドロが指先に向かって這い上がってきた。ヘドロは明らかに意思を持っていた。
「生き物の姿をしていないが、彼は“アンリマユ”…
ゼロの勢力があるのも、オットとクインディチを決めたのも彼…
今回、君たちはアンリマユによって選ばれた聖戦士なんだっ…!」
と、ここでアルフレッドが少々しゃべりすぎだと、アローンを諌める。
アローンもそれを感じていたらしく、アルフレッドの忠告を素直に聞き入れ、舞台の主役をアルフレッドに譲った。
「では、簡単にルールの説明を行わせていただきます…
“魂の試金石”の勝敗はオットとクインディチどちらかの勢力が全滅するまで…
皆さまには先程申しましたように、参加者全員には首輪が付けられております。
この首輪によって一部の参加者の能力が制限されます…今回の目的は人間の心の変化の探求…
それを確認する前に無双の力を持った者が参加者全員を殺してしまっては意味がありませんので…
また、この首輪はアローン様の加護を受けており、ここにいる人間は住む国も違えば、生きた時代も違いますが、全て共通の言語で会話できるようにできております…」
更にアルフレッドは細やかなルールについても言及した。
「その首輪はこれからの“魂の試金石”にとって重要な役割を示すものです…
その役割の一つは先程、アローン様の説明もあった通り、この首輪は一定の参加者の能力を制限させるもの…参加者の一部は人外の能力者もいらっしゃるので…
ただ、その制限は人によって異なります…それは各自、“魂の試金石”が始まってから確認してください…
それからもう一つ…この首輪はゲームで違反行為をした場合、爆発するようにできております…爆発した場合どのようになるかは…そちらの少女を見ていただければご理解頂けると思うのですが…」
ここでアルフレッドは思いだしたかのようにアローンに尋ねる。
「アローン様…首輪の説明をするよりも“魂の試金石”について説明した方がきっと彼らも理解が早いと思うのですが…」
アローンは再び、壇上の中央に立つ。
「では、“魂の試金石”の経緯から説明しよう…」
アローンは思い出に耽るかのように遠くを見つめる。
「僕は全ての者に死を…死という安らぎを与えるため、安らぎの中で争いなどない世界を構築するため…ロストキャンバスを完成させようとした…
けれど…それはテンマ達の手によって阻止された…無論、阻止されたのは未来のことだが、それは曲げようのない事実らしい…」
アローンは瞳に悲しげな色を浮かべる。
「この世界ではね…正しいことが残るようにできている…もし、テンマ達の選択の方が正しいのであったならば、僕も諦めがついた…けれど…」
この直後、アローンは目を血走らせた。
その表情には、かつての慈愛に満ちた穏やかさは存在していなかった。
アローンは参加者全員に憎悪の感情をぶつける。
「争いはなくならなかったっ!!!
それどころか、その先、人類は更なる兵器を生み出し、多くの苦しみ、不幸を生み出し続けるっ!!!
終止符を打つどころか、悪化させているんだっ!!!!」
アローンの口調は更に悲痛さ、激憤が色濃くなる。
「僕は人間の気持ちが分からないっ!!!!なぜ、苦しみを減らそうとないのかっ!!なぜ、対立し続けるのかっ!!!!」
さすがに横にいたアルフレッドもアローンの激情に不安を覚えたのか、自分が代わりに説明しようかと提案する。
しかし、アローンはその心遣いに感謝しながらも、再び、落ち着き払った口調で続ける。
「僕は気付いたんだ…争いは対立があるからこそ起こるもの…
その争いには一種の引き金があることを…
では、その引き金は変化することができるのか、いや、“変化させる”ことができるのか、その変化はどういう段階を踏めばいいのか…
それを知るために僕はこの“魂の試金石”を考えた…」
アローンは会場を一望した。
「ここに集まっている者達はその“引き金”が色濃いんだ…だから、変化の過程が掴みやすい…」
アローンは天に祈りを捧げるように両手を広げる。
「もし、その引き金の原理が知ることができれば、再び、僕が世界に安らぎを与える時、僕と対立するだろう引き金への対策を立てることができる…
これは人間の心を知るための僕の実験であり、世界を救済するための準備というわけなんだ…」
アローンは天へとあげた手を静かに下した。
「この“魂の試金石”には二つのグループが存在する…
どんなグループ分けがされているか、君たちがどのグループに属するものなのかはここでは言及しない…
けど、そのグループに名前をつけるとしたら、“オット”と“クインディチ”というのはどうかな…」
アローンはクスリと笑いをこぼす。
「ルールは簡単、このオットとクインディチが戦いを繰り広げ、そのどちらかの勢力が全滅しだい、“魂の試金石”は終了…実に明瞭だよね…」
アローンはここで困惑を浮かべた。
「僕はオットとクインディチだけいればいいと思っていたが、それだけでは心の変化を読み取ることができないと訴える者がいた…
そこで第三の勢力が生まれた…“ゼロ”だ…」
アローンは申し訳なさげにため息をつく。
「このゼロの勢力はあくまでオットとクインディチの戦いに新たな流れを吹きこむための材料…
だから、オットとクインディチの戦いが終わった時点で、ゼロの勢力も戦いから解放される…
不本意に感じるかもしれないが許してほしい…」
アローンの憂いを帯びた表情は更に陰りを見せる。
「正直、僕はゼロの存在どころか、このオットとクインディチのグループ分けにも不満を持っている…
だが、“彼”がこのグループ分けがベストなのだと言った…今回は彼の意見によってグループが決まっている…」
アローンは“これが彼さ…”と手を軽く上げた。
すると、その手に絡みつくようにヘドロが指先に向かって這い上がってきた。ヘドロは明らかに意思を持っていた。
「生き物の姿をしていないが、彼は“アンリマユ”…
ゼロの勢力があるのも、オットとクインディチを決めたのも彼…
今回、君たちはアンリマユによって選ばれた聖戦士なんだっ…!」
と、ここでアルフレッドが少々しゃべりすぎだと、アローンを諌める。
アローンもそれを感じていたらしく、アルフレッドの忠告を素直に聞き入れ、舞台の主役をアルフレッドに譲った。
「では、簡単にルールの説明を行わせていただきます…
“魂の試金石”の勝敗はオットとクインディチどちらかの勢力が全滅するまで…
皆さまには先程申しましたように、参加者全員には首輪が付けられております。
この首輪によって一部の参加者の能力が制限されます…今回の目的は人間の心の変化の探求…
それを確認する前に無双の力を持った者が参加者全員を殺してしまっては意味がありませんので…
また、この首輪はアローン様の加護を受けており、ここにいる人間は住む国も違えば、生きた時代も違いますが、全て共通の言語で会話できるようにできております…」
更にアルフレッドは細やかなルールについても言及した。
- 6時間ごとに退場者の名前を放送。
- その際に、禁止エリアも発表。放送の一時間後にはエリア封鎖。もし、エリア封鎖後、そのエリアに侵入した場合、首輪が爆破。
- 首輪を無理やり外そうとした場合、会場から逃亡しようとした場合も首輪は爆破。
- 食料、水、参加者名簿、地図、コンパス、筆記用具、時計が全員に均等に振り分けられる。
- また、これとは別に支給品が配られる。その支給品は武器であったり、道具であったりするが、その支給品の内容も数もランダムであること。
「——こちらで、以上です」
アルフレッドは仰々しく頭を下げると、舞台の下座へ移動した。アローンが再び進み出る。
「今回は世界の民を救うための実験…だから、皆を巻き込むことには少々罪悪感もある…
そこで、もし、この“魂の試金石”が終了した時、生き残った者がいれば、その各自が願う人間を一人生き返らせよう…冥王の力でね…」
アローンはアンリマユが纏わりつく手を参加者に向けた。
「さぁ、“魂の試金石”の開始だっ!!!!」
この直後、アンリマユが礼拝堂全体を覆うように広がった。
一瞬で礼拝堂は墨汁をぶちまけたかのような闇に包まれる。
会場を覆ったアンリマユは津波のように参加者全員に降り注いだ。
恐怖の余り金切り声をあげる者、アンリマユに抵抗し、振り払おうとする者。
その阿鼻叫喚をアンリマユはどす黒い闇で押し潰してしまった。
やがてアンリマユが一つのヘドロに姿を戻した時、礼拝堂は静謐の空間を取り戻していた。
アルフレッドはその閑散さなどには興味がないのか、ポケットから三枚のカードを取り出し、それを眺めていた。
アルフレッドが見つめていたカードはタロットであった。
「8(オット)は正義、15(クインディチ)は悪魔、そして、0(ゼロ)は愚者…
タロットで勢力を名付ける…人間の表裏を表わしているようで…
中々洒落た名前ではありませんか…」
アローンは“君にそう認めてもらえて光栄だよ…”と照れ笑いしながら、遠くを見つめる。
「ねぇ、アルフレッド…この実験は上手くいくかな…」
アルフレッドは静かに跪いた。
「貴方は貴方が信じるままに“魂の試金石”を見守ればいいのです…私もそして、他の“協力者”も…貴方の言う“救済”に共感したのですから…」
アルフレッドは仰々しく頭を下げると、舞台の下座へ移動した。アローンが再び進み出る。
「今回は世界の民を救うための実験…だから、皆を巻き込むことには少々罪悪感もある…
そこで、もし、この“魂の試金石”が終了した時、生き残った者がいれば、その各自が願う人間を一人生き返らせよう…冥王の力でね…」
アローンはアンリマユが纏わりつく手を参加者に向けた。
「さぁ、“魂の試金石”の開始だっ!!!!」
この直後、アンリマユが礼拝堂全体を覆うように広がった。
一瞬で礼拝堂は墨汁をぶちまけたかのような闇に包まれる。
会場を覆ったアンリマユは津波のように参加者全員に降り注いだ。
恐怖の余り金切り声をあげる者、アンリマユに抵抗し、振り払おうとする者。
その阿鼻叫喚をアンリマユはどす黒い闇で押し潰してしまった。
やがてアンリマユが一つのヘドロに姿を戻した時、礼拝堂は静謐の空間を取り戻していた。
アルフレッドはその閑散さなどには興味がないのか、ポケットから三枚のカードを取り出し、それを眺めていた。
アルフレッドが見つめていたカードはタロットであった。
「8(オット)は正義、15(クインディチ)は悪魔、そして、0(ゼロ)は愚者…
タロットで勢力を名付ける…人間の表裏を表わしているようで…
中々洒落た名前ではありませんか…」
アローンは“君にそう認めてもらえて光栄だよ…”と照れ笑いしながら、遠くを見つめる。
「ねぇ、アルフレッド…この実験は上手くいくかな…」
アルフレッドは静かに跪いた。
「貴方は貴方が信じるままに“魂の試金石”を見守ればいいのです…私もそして、他の“協力者”も…貴方の言う“救済”に共感したのですから…」
【津村斗貴子@武装錬金 死亡】
【残り60人】
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