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4人のイカれる男たち  ◆JR/R2C5uDs



「なんというか…信じがたいことですが、この仮説を受け入れるのが、最も理に適った推論と言わざるを得ません。
 勿論、こんな事を……そうですね……まるで、この世界に死神など言う者が実在し、人を自在に殺す事が出来るとでも言うような、荒唐無稽で、まるでマンガチックな仮説ですが…」
 上体を丸めたまま、痩せた不健康そうな青年がそう言葉を続ける。
 まるで漫画のような、というのは言い得て妙だ。
 だが、とはいえ。
 この実験等というふざけた殺し合い。
 それだって十分に、漫画みたいなものじゃないか。

◆◆◆

「待った!」
 通りの向こう、闇の中から鋭く声が響く。
 鋭いが、大声ではなく、こちらに聞こえるか否かのぎりぎりのところだ。
「止まれ、そこで止まってくれ。
 こちらには……攻撃の意志はない。
 そちらにもその意志がないなら、まずは止まってくれ!」
 L、は一端ロールシャッハの方を見る。見るが、動くのはマスクの模様だけで、表情などはくみ取れない。
 何を問いたかったか、或いは示唆したかったか、再び顔を声の主に戻すと、やはり先程までと同じ調子で、
「はい。私はLといいます。
 私にも攻撃の意志はありません。
 それより、その方は、まだ生きていますか?」
 その方、というのは、よくよく目をこらせば分かるが、声を発した男が抱えているもう一人の男の事だ。
 暗い闇の中、さらに闇よりも黒い衣服を着ている。やもすれば闇にとけ込み存在すら分からない。
 暫し、ひと呼吸かふた呼吸の間が空いて、
「…大丈夫だ、死んではいない。
 多分…わからんが、うなされているだけで…ううむ…。
 命に、別状は無いと思うが…」
「HUNH...
 確かに、死んではいないし、外傷も無さそうだ」
 声の主が気がついたときには、ロールシャッハは既にその横で、抱えられていた男の様子を看ている。
 息を呑んで何事か声に出そうとするより早く、Lが続ける。
「まずは、この建物…裁判所の中に移動しましょう。
 今は幸いでしたが、こんな目立つ建物の前に居続けるのはあまり感心しません」
 声の主、剣持勇は結局その合理的な提案に従い、賀来神父の身体を、妖しげな覆面男、ロールシャッハとともに中へと運び入れた。

◆◆◆

「ずいぶん…その、目が良いんだな」
 おそらく、裁判所内の陪審員室か何かと思われる一室。
 赤い上質な絨毯が敷かれ、部屋の真ん中に机があり、ぐるりと椅子が囲んでいる。
 部屋の片隅にはカウンターがあり、コーヒーメーカーが据えられている。
 その片隅に、賀来の身体は寝かせられている。
 別の場所からブランケットを探してきて一枚を下に敷き、もう一枚をかけてある。
 覆面男のロールシャッハは、窓際に陣取り外に顔を向ける。
 Lはやはり膝を抱えて椅子に座り、既に煎れていたコーヒーにたっぷりの砂糖を溶かしてちびちび啜っている。
 ドアの近くで部屋全体に目を配りながら、何から話して良いものかという気まずさの中、剣持が他愛もない風を装ってそう聞いた。
「それほどでもありません。
 彼の事が分かったのは、声と、あなたの姿勢です」
 姿勢、はまだ剣持にもなんとなく分かった。確かに、膝をついて賀来の上体を抱えていたからだ。
「声そのものは比較的落ち着いていましたが、完全に冷静という風でもありません。
 何か問題が起きているが、しかし狼狽せずそれに対処しようという意志がある。
 敵意があり手段があれば警告より先に攻撃してますし、敵意があり手段がないなら、もっと慌てているか、もっと落ち着いているかのどちらかでしたでしょう。
 交渉の意志があり、そうすべき責任感があり、そして精神力もある」
 奇妙な調子の分析に、
「名探偵だな」
 と返すも、
「はい。そう言われています」
 と、そっけなく返される。
「まあ、それでももし、今しがた人を殺したばかりで、それを誤魔化すか、さらなる攻撃の手を探っている最中だったというのであれば、ロールシャッハ氏が対処してくれたでしょうし」
 ちらりと、窓際へと目を向ける。
 ロールシャッハ。
 基本的に肉体派で、学問的な事に詳しくない剣持でも、そう呼ばれた奇怪なマスクの顔に浮かぶ白黒模様が、その名前の由来であろう事は分かった。
 ロールシャッハテスト。
 絵の具を落として二枚に折った紙に描かれる、左右対称の模様。
 それを見て、何を連想し、何を発想するかで、その人物の内面を映し出すという精神分析のテストだ。
 正しく、いったいどういう原理なのか見当もつかないが、不気味に変化する、白地に黒く浮かび上がるマスクの模様は、ロールシャッハテストのそれそのものだ。
 そのロールシャッハが、剣持の意識をすり抜けて側に来ていたのは、別に速度の問題ではない。
 端的に言えば、剣持の意識の隙をついた。
 不意に、抱えている賀来の容体について問われ、賀来とLへと意識を向けているうちに、気配を殺して忍び寄っていた。
 剣持とて、警察としての一通りの訓練を積んでいるし、柔道には特に自信はある。
 その剣持すら、出し抜かれた。
 気絶し、うなされた男を抱えているという状態だったとは言え、むしろ彼らに敵意があれば、そこで殺されていたとしてもおかしくはない。
 その意味で、やはり今回、剣持は幸運だったのだ。
 とはいえ、無条件にこの二人を信用できるかというと、そうはいかない。
 今、目に見えて敵意や害意がないからと言って、その相手が心底信用できるかというと、そうではない。
 経験上、惨劇の舞台においては、素知らぬ顔でいる誰かの中にこそ、真犯人は潜んでいる。

「剣持警部」
 再び、Lと名乗った不健康そうな青年が口を開く。
「もう一度確認しますが、あなたは日本の警察で、そしてこの実験に連れられて来たときの記憶はなく、名簿には知り合い、さらにはあなたが追っている犯罪者も居る。
 ここまではまちがいありませんね?」
「…ああ、そうだ。高遠遙一。まあ海外まで伝わっているかは分からないが、日本じゃ"地獄の傀儡師"として知られた連続殺人犯だ」
 連続殺人犯、という言葉に、窓際にいたロールシャッハが微かに反応を示したようだったが、高遠遙一自体をこの二人が知らないであろう事は剣持にも読み取れた。
「剣持警部は、キラの事件には?」
「いや、その名前は知らん」
 再び、Lが奇妙に悩ましげな表情を作った…ように感じられたが、部屋は僅かにつけた懐中電灯の明かりのみで、詳しくは読み取れない。
「そちらの神父さんは」
「見つけたときからうなされているよ。さっき意識を戻しかけたようだったんだが…」
 そう言って視線をやると、のっそりと、その屈強な体躯を動かし、くぐもった唸りを上げ近くにいた剣持にのしかかってくる姿。
「おい、神父さ…」
 言うより早く、神父は朦朧としたような顔で、何事かを口にしながら、剣持の首に手を伸ばし…その手を捻り上げられ、地面に打ち倒される。
「くそ…、おい、神父さん。
 目は覚めたか? 意識は?
 全く…どうしてこうなるんだか…」
 腕を見事に決めながら、悲鳴を上げる神父に剣持が聞く。
 それで、賀来神父はなんとか、ひとまずは正気に戻ったようだった。 

 剣持にとって、賀来の話す内容は荒唐無稽の絵空事そのものであった。
 某国の残した毒ガス兵器"MW"。それに纏わる政治スキャンダルに、結城という男の連続殺人事件。
 賀来は自らその罪を知りながら看過し、或いは協力してしまったこともあるという。
 しかし最後に、その毒ガスを結城が世界中にばらまくつもりであると知って、ついに彼は、結城と決別を誓い、命を賭けても防ぐべきと行動を起こした。
 そして実際に、飛行機から毒ガスの入ったチューブを奪い飛び降りて、死んだ…いや、意識を失ったのだという。
 賀来神父は真剣に熱弁を振るってはいたが、その全ては剣持の知らぬ事。
 警察機構に身を置く剣持が、そんな大事件が起きていたとして、知らないはずがない。
 まして、賀来に言わせれば、与党の大物まで関わっていた大スキャンダルだというのだ。
 さて、これをどう解釈すべきか?
 剣持に考え得る唯一の解答は、「賀来は混乱して夢や妄想と現実がごっちゃになっているか、狂人であるかの何れか」である。
 しかし、先程出会った二人の感想は、剣持のそれとはまた異なるようだった。
 もとより、ロールシャッハと名乗る男は得体が知れない。
 まず恰好が怪しいし、覆面も怪しい。至る所で何かごそごそと周囲を漁っている風で、手癖もひどい。
 こんな情況でさえなければ、締め上げて覆面をはぎ取り正体を明かせと詰め寄るところだが、流石の剣持も、今それが不味いことは分かる。
 この街は明らかにアメリカか、それを摸して作られた箱庭で、ここが日本かどうかも分からない。
 成り行きとはいえお互い害意がないことを前提に今こうしている以上、その辺りは警戒しつつも後回しにする方が良いだろう。
 自分より先に出会っているLという青年も、覆面男の本名も素顔も知らぬらしいし、かなりの拘りか、或いはそう、顔に大火傷を負っているなどのコンプレックスがあるのかもしれない。
 そのLの方は(そう言えば、こいつのLというのはイニシャルか? こいつも偽名なのか?)、相も変わらずのとぼけた調子でそれぞれに問いかけてくる。
「剣持警部は、今の事件には…」
 皆まで言うな、と首を振る剣持。下手に否定の言葉を言って、賀来を興奮させては不味い。
「ロールシャッハさん。先程、街並みを見て何か考えていましたね」
 賀来に話を振らず、急に窓際にいた覆面男へ問いかける。
「…ああ」
「剣持警部、賀来神父、ニューヨークは?」
「いや、俺は無いが」
 再び別方向へと向けられ、戸惑う剣持に、賀来。
 それでも剣持ははっきりと、賀来は、なんとか意識をLに向けて、口の中でもごもごと否定らしき言葉を返す。
 そこで、少しの沈黙。
 手にしたコーヒー入り紙コップを、飲むでもなくくるくる弄り回し、何か思案している。
 ここで始めて、剣持はLの表情に、ある種人間的な悩ましげなものを垣間見た気がした。 
「…これは、困りましたね」
 それでも、その後に出てきたLの言葉には、剣持も些か気が抜ける。
「いや、おい、それは今更言っても仕方ないだろう」
 拉致、誘拐の挙げ句に、厄介な首輪などを填められ、こんなご大層な都市を丸々使って、実験だ、殺し合えだのと言われているのだ。
 数々の難事件、怪事件、殺人事件に遭遇してきた剣持ですら、こんな途方もない犯罪に巻き込まれるのは初めてだ。
 しかし、だ。

「こんなのは、死神の実在を信じたとき以上の衝撃です」

 さらに続いたLの言葉に、今度こそは剣持も、言葉を見失った。

◆◆◆

 夢、だったのだろう。
 賀来が今そう解釈するのは、それが取りあえず合理的な判断だから、でしかない。
 今も又別の夢ではないという保証は何一つ無い。
 だが、先程結城に死んでいないと言われ、そしてまた口論となり、賀来は思いあまって結城の首を絞めた。
 締めたつもりが、瞬く間に剣持という強面の男によって、地面に叩き伏せられていたのだ。
 意識を戻した暗い部屋には、3人の男が居た。
 剣持は賀来に対して、自分は警察だと言った。
 不健康そうな青年はLと名乗り、窓際に居た奇妙な覆面をしたトレンチコートの男はロールシャッハだ、という。
 ここが何処で、彼らが何者か、という事よりも、彼らの「何があったのか、どうして気絶していたのか」という問いに、賀来はどうしようもなく全ての過去 ――― いや、全ての罪を告白せねばならぬ衝動に駆られ、一気に吐き出した。
 日本の警察だという剣持なら、結城の起こした事件はよく知っているだろう、と思ったが、奇妙に悩ましげな表情をするだけで、特に言葉がない。
 それから、Lという青年が、まるで別の事を聞いてくる。
 いったい、それがどうしたというのか?
 賀来は戸惑う、というよりも、はっきりと混乱していた。

「こんなのは、死神の実在を信じたとき以上の衝撃です」

 Lがそう続ける。
 一体、何の話だ?

「この建物は、ニューヨーク郡裁判所です。厳密には、良くできたそれのレプリカ、という所でしょうか。
 剣持警部、賀来神父は始めてきた場所でしょうけれど、ロールシャッハ氏は御存じですね」
「HUNH...」
 確かに賀来はこの建物を知らない。というよりもそもそも日本から出たことはない。
「この辺り一帯は、ニューヨークを摸した建物が配置されています。地図によると、この区域はマンハッタン島に似た島の様です。
 サイズが違いますから、配置などもおおまかにしか再現されていないでしょうが、それだけではない奇妙な点があります」
 剣持が遮る。
「待て、待て待て。もっと分かるところから話してくれ。一体何について話したいんだ?
 さっきの死神がどうのとかと関係があるのか? 
 探偵を自称する奴らってのはなんでこう、俺たちに分かる順番で話さんのだ」
 混乱しているのは賀来だけではないようだ。剣持も流れが分かっていない。そのことに些か安堵する。
 覆面男の方はわからないが、話の流れに興味を持っているのか、幾分身体をこちらに向けている。
「すみません、死神の話は一端忘れてください。余計でした」
 Lの言葉に重なり気味に、覆面男が、くぐもったようなしわがれたような声で、
「充電器か」
 と、そう言った。
 3人が、窓際のロールシャッハに注目する。
「ああ、先程探していたのは、充電器、というものだったのですか。了解しました」
「最初にいた通りには、ちゃんと路地に充電器がある、見慣れた街並みだったが、この裁判所の前には無い。
 似ているが、違っている。他にも、色々あるが……」
 やはり、剣持と賀来には、この二人の会話の意味が分からない。
「ロールシャッハ氏の既知のニューヨークらしい区画と、似ているが違う区画がそれぞれにある。そうですね」
 ロールシャッハが同意を示す。
「それは…その、犯人に繋がる事か何かか?」
「はい。そしてそれ以上です。
 今、私たちは二つの信じがたい事実について明らかにせねばなりません。
 …いえ、一つはそれほど問題では無いのですが…。
 そうですね、それをまず片付けます」
 そう言って、コーヒーメーカーの脇から取ってきていたナプキンに、手帳についていたペンで何事かを書き連ねて、こちらへ見せる。
「何だ? 剣を取る…いや、まて、どういう事だ、これは……?」
 剣持が困惑する。
 ロールシャッハが唸る。
 そして、賀来が嗚咽を漏らす。
「…成る程、文字も読めますか。
 『剣を取る者は、剣で滅びる』
 聖書よりの引用ですが、これを、日本語、英語、イタリア語、ドイツ語、フランス語で書いてみました。
 私も語学はそれほど専門ではないので、あまり長い文章が書けるわけでもありませんが、けれども皆さん、この文は全て理解できた…ですね?」
「どういうトリックだ、おい…?」
「私が仕掛けたのではありませんよ、剣持警部。
 もともと、私はロールシャッハ氏と会ったときは英語で会話をしました。二人ともそれで意思疎通できたので、そこで違和感はありませんでした。
 しかし次に剣持警部と会ったとき、私は貴方が日本人と思ったので、日本語で対応しました。賀来神父にも同様です。
 しかし、お二人とロールシャッハ氏の間でも、意思疎通が出来ている。つまり、あなた達の間で、言語の違いが認識されていない、という事です」
 賀来は混乱して何も言葉が無いが、剣持は持ち前のしぶとさからか、なおも食い下がる。
「それじゃ、俺は無自覚に日本語で会話していると思いこんでいるだけで、この覆面とは別の言語で会話している、ってー事か!?」
「そのようです。
 というか…そうですね、それぞれが分かる言語で相手の言葉を認識している…という事でしょうか。
 のみならず、知らないはずの言語で書かれた文字も、理解できてしまう」
 誰もが、どう反応すべきかを決めかねている。
「…ほぼ確実に、この実験の主催者によるものでしょう。ですので、一つ考えられるのは、これです」
 言いつつ、首輪を指さす。
「最先端科学についてそれほど詳しくありません。ですがあくまで推論の一つとして、この首輪の機能の一つに、同時通訳のような機能があり、即座に目にした言語耳にした言葉を、自分の認識できる言語へと変換し、認識させる…」
「国際会議とかで使っているような、あれか…」
 やや持ち直した剣持が返すが、それでも声に勢いがない。
「こんな高性能なものは、私の知っている限りでは、有り得ないオーバーテクノロジーです。
 従って、私の世界にあったものではないでしょう。そしてみなさんも…ご存じない」
 知らない。
 賀来はそんなテクノロジーは知らない。
 剣持も同様、黙って首を振るしかない。
「ですので、このテクノロジーは、我々の、それぞれの世界とは異なる世界のモノ、と考えるしかありません。それが、現状を受け入れる一つの仮説です。
 我々四人が、それぞれ異なる歴史、異なる時代背景を持つ別の世界から、さらに別の世界に呼び出されている」
 押し黙る。
 賀来はただ、言葉を聞いてはいるが、何も理解しては居ない。
 理解できるわけもないのだ。
 ただ、ぐらぐらと世界が揺れるのを、身を固くして耐えるほか無いのだ。

◆◆◆

「なんというか…信じがたいことですが、この仮説を受け入れるのが、最も理に適った推論と言わざるを得ません。
 勿論、こんな事を……そうですね……まるで、この世界に死神など言う者が実在し、人を自在に殺す事が出来るとでも言うような、荒唐無稽で、まるでマンガチックな仮説ですが…」
 上体を丸めたまま、痩せた不健康そうな青年がそう言葉を続ける。
 まるで漫画のような、というのは言い得て妙だ。
 だが、とはいえ。
 この実験等というふざけた殺し合い。
 それだって十分に、漫画みたいなものじゃないか。
 いや。漫画のような現実の中で、我々全員が狂ってしまっているのかもしれない。
 それでも。
 剣持にとって、Lの語った"仮説"は、やはりあまりにも荒唐無稽で子供じみていた。
 さしてSFに等に興味もなく、漫画やアニメなども観はしない。
 だから、平行世界だとか異次元だとか言われたところで、そんなのは作り事の戯言でしかない。
 成る程、剣持の知らない最先端テクノロジーで、知らぬはずの言葉が理解できるのだという。それは、飲み込んだ。
 しかし、賀来の言う、「毒ガス兵器の存在により日本中が混乱した歴史を持つ世界」や「死神が実在する世界」 が存在するだの、覆面男の居たアメリカでは、剣持やLの知るモノとは異なる街並みや科学技術が使われているだのというのは、妄言の類としか思えない。
 ぐねぐね模様が変わるゴム生地なんて、たしかに剣持の知識にはない。しかし剣持はそもそも、科学技術になんか詳しくはないのだ。
 所詮、子どもか、と、剣持は思う。
 確かに、出会い頭の推理力や洞察力、それに言葉の件などを考えても、知り合いの若き少年探偵、金田一を彷彿とさせる鋭さを感じた。
 自分自身、たたき上げの肉体派と自認しているし、金田一にイヤミな眼鏡の明智という、どう逆立ちしても太刀打ちできない頭脳派を、ある意味で見慣れすぎてしまった剣持にとって、Lが「そちら側の人間」だという事は、理解できている。
 それはもう、理屈というより、肌で、だ。
 だが、だからといって言うに事欠いて、「異次元」とこられて、それをすんなり受け入れられるほど、剣持はイカれてはいない。
 そうだ。
 そんな異常な仮説をすんなり受け入れるとしたら、そいつはハナから狂っている。これは、狂人か…子どもの理屈だ。
 賀来は、混乱している。
 覆面男は、見るからにマトモではない。
 そして、それらの戯言から、異次元だとか何だとかの狂った仮説を語るLも、その意味においてイカれている。
 剣持に理解できるのは、そのことだけだ。

「おい、それは、"本気で言っている"のか?」
 並べ立てられた"マンガチックな仮説"を語る言葉の隙間に、なんとか剣持が言葉をねじ込む。
「はい。そうですね…5%くらいは」
 そう返されて、またも剣持は分からなくなる。ふざけているのか、真面目なのか?
「我々全員、気が狂っているのか、或いは強力な催眠術か何かでそれぞれに異なった歴史を信じ込まされている…というのも、あり得ます。
 私の知るベトナム戦争はアメリカの負けですが、ロールシャッハ氏の知るベトナム戦争はアメリカの勝利である、というのもそれで説明は出来ます。
 ですが…」
 剣持がLを見返す。
「自分の記憶が全てデタラメかもしれない、という仮説の方が、私には恐ろしいです」
 急に、剣持の背筋に冷たいものが走った。
 その言葉の意味が、剣持にもある程度理解できたからだ。
 世界の根底が覆されることと、己の根底が覆されること。どちらがより恐ろしいだろうか?
「それに、ロールシャッハ氏によると、この主催…」
 続けるLの言葉が、くぐもった笑い声に遮られた。

「ウフフフフ……。

 アハハハハ……。

 ワハハハハハハ………!!」

 黒衣の神父が、初めは小さく、それから次第に大きな声で、笑い始めたのだ。
 賀来は椅子を蹴って立ち上がっている。
 そして、気が触れたように笑い続けている。
「おい、神父さん…」
 剣持は再び、落ち着かせようと、肩に手を添えるが、勢いよく振りほどかれ、今度は強かに床に尻餅をつく。
「異次元? 別の世界?
 そうだ! 私には分かったぞ!」
 目が血走り、明らかに錯乱しているようだった。
「ここは、煉獄だ!
 ダンテの神曲に書かれたそれとはまるで違うが、死んだ者が神の裁きを待つための場所だ!
 その証拠に、飛行機から太平洋に落ちて死んだ私が、生前と変わらず此処にいる……!」
 身振り手振りも大きくなり、まるで演説のようになって行く。
「実験、というのは誤りだ。これは、試練なのだ。
 我々全員が、裁かれるべき悪なのか、或いは神の身許へ赴くことの許された身なのか……。
 最後の審判の前に与えられた、試練なのだ!」
 そう言って、ふいに今度は、震えたか細い声。
「……主よ……。そうまでして、私の犯した看過の罪を問われるのですか……?
 確かに私は、罪を犯しました……。悪を知り、悪を見逃し、何より悪に荷担しました……」
 再び、その大柄な身体を、さらに大きく見せるように両手を挙げて反り返り、
「ならば……!
 今度こそ、私は自らの手で、悪を打ち倒しましょう!
 結城美知夫を………! あの悪魔を倒しましょう………!!」
 そう叫ぶと、賀来はそのまま、部屋のドアを開けて走り去る。
「あ…、おい、待てよ、神父さん……!
 くそ…!! お前がくだらないことを言うからだぞ!」
 尻餅をついていた剣持は、そうLに吐き捨てる様に言ってから、自分の荷物と賀来の分を手にして後を追いかける。
 なんて面倒な事になったのだろうか。

◆◆◆

「困りましたね…」
 本当にそう思っているのか、声の調子からは分からないが、Lはぼそりとそう呟いた。
「まさか、あそこまで反応されるとは。戻ってきてくれれば良いのですが……」
 その表情から、心配しているのかどうか本当のところは読み取れないが、それを言うならばもう一人はさらに読めない。
「戻ってくれば?
 いや、違うな」
 だがその声はきっぱりと、そして力強い。
「あの神父は悪を知り、その悪と決別し、悪を倒すと行動を始めた。
 どこまで貫けるかはわからんが、ならばそうさせるべきだ」
 ロールシャッハの視線と、Lの視線が、奇妙に絡み合う。
「L。お前は探偵だという。
 推理するのがお前の仕事かもしれん。
 だが、俺は違う」
 ゆっくり、ロールシャッハがLの方へと歩み寄る。
「俺は、ヒーローだ」
 椅子に座り込むLの前で、微かな光源の中直立するシルエットは、圧倒的存在感を持ってそこに在った。
「ヒーローのやるべき事は、椅子に座って頭を使うことじゃない。
 悪を見つけ出し、それを討つこと。
 必要なのは、―――行動だ」
 ロールシャッハも又、自分のパッグを肩に掛け、この部屋のドアから外へと向かう。
「さっきも言ったが、ジョンは本物のスーパーヒーローだし、ヴェイトは世界最高の頭脳を持つ男だ。
 その二人が関わっている以上、何が起きていても俺は驚かん。
 お前の推理とやらもだ」
 ドアの所で立ち止まり、ゆっくりと首だけ向けて振り返り、
「進むか―――待つか。
 お前の行動は、お前が決めろ。
 俺は、決して妥協しない」
 薄暗い一室から、さらなる闇の奥へと続く扉が、Lの、そしてロールシャッハの目の前で、大きく開かれている。
 微かな光に反射して鈍く耀くは、その胸につけられたピースバッチ。こびり付いた赤黒い血の跡。


【H-8/ニューヨーク郡裁判所内部、またはその周辺:深夜】


【剣持勇@金田一少年の事件簿】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式×2、不明支給品2~6(うち1~3は、賀来の分)
 [思考・状況]
  基本行動方針:この事件を金田一一と共に解決する
 1:神父(賀来巌)を追い、落ち着かせる。
 2:金田一一、七瀬美雪との合流
 3:異次元? MWという毒ガス兵器? 死神? ばかばかしい…。
 [備考]
 ※参戦時期は少なくとも高遠遙一の正体を知っている時期から。厳密な時期は未定。
 ※Lの仮説を聞いています。

【賀来巌@MW】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、錯乱中
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考・状況]
  基本行動方針:結城美智雄を倒す…?
 1:やっぱりロワは地獄…いや、煉獄だぜー!
 2:悪魔である、結城美智雄を倒す…?
 [備考]
 ※参戦時期はMWを持って海に飛び込んだ直後。

【ロールシャッハ@ウォッチメン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:ロールシャッハの手帳@ウォッチメン、スマイリーフェイスの缶バッチ@ウォッチメン、
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3、角砂糖、いくつかの日用品類
 [思考・状況]
  基本行動方針:この実験を停止/破壊させ、オジマンディアスに真意を問う。
 1:地図上の施設などをあたり、情報を集め事態を解決する糸口を見つける。
 [備考]
  ※参戦時期は、10月12日。コメディアンの部屋からダンの家に向かう途中です。

【L@DEATH NOTE 】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、シュガーポット、不明支給品1~3
 [思考・状況]
 基本行動方針:この事件を出来る限り被害者が少なくなるように解決する。
 1:情報を集め事態を解決する糸口を見つける。
 [備考]
  ※ロールシャッハより、ジョン・オスターマン、エイドリアン・ヴェイトなどについて大まかに聞いています。
  ※参戦時期は、夜神月と一緒にキラ事件を捜査していた時期です。






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Monochrome clearness ロールシャッハ Deus Irae, or The Men in the High Castle
20世紀中年 剣持勇
賀来巌







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