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「CHILDHOOD'S END」(2010/09/11 (土) 00:26:48) の最新版変更点
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*CHILDHOOD'S END ◆JR/R2C5uDs
小さな子どもが佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
熱い、乾いた風が、彼女の鼻腔に鉄錆びた匂いと、火薬の匂いを運ぶ。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
赤黒い血に塗れた、肉の塊の前に、小さな子どもが佇んでいる。
背後には、キャタピラの音を響かせ、戦車が廃墟と化した街を進んでいる。
「要するに、何も変わってねぇって事だな」
左目の眼帯の位置を軽く直しながら、彼女、雨流みねねは独り、薄汚れた路地裏でそう確認する。
テロリストであり、爆弾魔。そして大量殺人犯。
神の後継者選びのバトルロワイアルに選ばれた9人目の存在でもある彼女は、両親を失った幼少期から、犯罪と殺人を繰り返し、爆薬の知識を得てからはそれをテロリズムの手段としていた。
テロリズム。いや、国際的テロリストとして知られる彼女だが、厳密にテロリストかというと難しいところだ。
彼女の標的は、常に宗教関係者である。
そしてそれは、彼女自身の幼少期の経験に由来する。
テロリズム、即ち、「恐怖によって政治的目的を果たす行為」というのとは、やや異なる。
敢えて言えば、彼女に政治信条などは、無い。
だがそれでも、彼女はまだ若い人生の大半を、破壊と殺戮に費やしてきた。
後継者候補であり、みねね同様未来日記の持ち主である1st、天野雪輝を襲撃する際も、彼一人を追いつめるためだけに、学校中に爆弾を仕掛け、大量の死傷者を出している。
欠落しているのだ。
殺人への忌避、暴力への忌避という、多くの人間が当たり前に身につけ育つべき感覚が、彼女には欠落している。
そのときは、奇しくも彼女同様、雪輝の為であれば殺人に対する忌避感が一切無い我妻由乃が居たために計画が狂い、目的を達成することは出来なかった。
しかし。
「何も変わっていない」
のだ。
自らの運命に対する復讐として、目的のためであれば、周りの全てを傷つけ、殺すことが当たり前であった殺人者としての人生。
神の後継者候補として"逃亡日記"――― 未来において自分がいかに窮地を脱したかが書かれている未来日記 ――― を手に入れてから行ってきた、他の後継者候補全てを殺して神の座を勝ち取るための戦い。
現状、そのどちらとも「何も変わっていない」 のだ。
ただ単に、出会った者全てを殺し尽くせば、そこにたどり着く。
問題は、二つ。
手持ちの武器が、少ないこと。
そして何より、みねねの切り札である、"逃亡日記"の様子が、思わしくない事だ。
思わしくない。端的に言えば、短い。
みねねは、バッグの中にあった携帯を再び確認する。
それは本来の自分の携帯、自らがこれから行う逃亡劇について書かれる"逃亡日記"が表示されるはずのもの。
しかし、最初に取り出したとき、その画面にはこう説明書きが書かれていた。
『支給品名:みねねの逃亡日記のレプリカ
雨流みねねの逃亡日記のレプリカ。
読める未来は短く限定的。
ただし壊れてもみねねは死なない』
本来ならば、より先の逃亡経緯が分かるはずのそれが、どうやらかなり限定的な短い未来しか見通せていないらしいのだ。
戦略を、少々考える必要がある。
唯一、そして最大の利点は、「壊れてもみねねは死なない」の1点。
今までであれば、この携帯を壊されれば即死亡だったという弱点が緩和されている。
それにしても、だ。
今、みねねの持っている携帯には、
「黒衣の男からバイクで逃げる。厄介だ」
とだけ書かれている。
みねねは辺りを見回す。
暗い夜の中、生命の気配は感じられない。
だがここは、おそらくはニューヨークか何処か。古く、猥雑で、汚らしい路地。
或いは、それを模したミニチュアセットのようであった。
再び、携帯の画面に目を戻す。
この情報量の少なさは、一体何だ?
何故こんなにも少ないのか? それは彼女には分からない。
そもそもこの新しいルールは何なのか。それも、彼女には分からない。
彼女たちを後継者候補として選んだ神、デウスがルールを変えたのか?
或いはその戦いに、何者かが介入してルールが変わったのか?
他に思いつく可能性はない。可能性はないが、不自然にも思う。
とはいえ、やはり。
やるべき事は変わらないのだ。
障害たる者全てを取り除き、殺しつくし、神の後継者となり ――― 神を殺すこと。
ただそれだけだ。
◆◆◆
少年が佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
廃墟と化したタワーから降りてきたときに見た、母の細い腕。
不意に現れた男達の手で、目の前で死んだ父の顔。
そして少年は選んだ。
少年は、少年であった時間を捨てて、殺戮者となることを選んだ。
神の後継者となり、全てを、元に戻すために。
「何故だ―――?」
天野雪輝は誰に問うでもなくそう呟く。
本当にその問いをぶつけたい相手は、勿論居る。
彼を自らの後継者候補として選び、同様に未来の一部を知る事の出来る、"未来日記"を与えられた人間達との殺し合いを計画した、神、デウス・エクス・マキナ、"機械仕掛けの神"に対してだ。
デウスは常に、妄想の世界にいる。この場合の妄想、というのは、非常にややこしい概念だが、後継者候補として選ばれた人間全ての精神世界と繋がった別次元、と言えば分かりやすいかも知れない。
だから、後継者候補の人間は、基本的にいつでも、その意識をデウスの住む場所へと飛ばすことが出来る。
出来るはずだが、今はそれが出来ない。
接続が絶たれているのだ。
何より、彼の持っている携帯、そこに書かれていた文言…。
「雪輝の無差別日記のレプリカ」
という言葉とその注意書き。
「何故、今になってルールを変えるんだ……?」
かつての勝利条件は、「他の未来日記の持ち主を全員殺す」というものだった。
最初は3rdこと、英語教師で連続殺人鬼であった、火山高夫の携帯を壊して、「殺した」。
これは、先に相手から命を狙われたが故であり、いわば正当防衛だったといえる。
それからしばらくは、雪輝を 「ユッキー」 と呼んでストーキングしていた、同じく未来日記の所持者、2ndの我妻由乃が、雪輝の代わりに彼の敵を殺しまくった。
その間、雪輝はただ状況に流され続けていた。
由乃が部屋に死体を隠していたことや、躊躇無く人を殺す狂人であること、爆弾魔に襲撃された際にも学校の多くの人間(彼らは雨流みねねに脅され、雪輝を引き渡したのだが)を平然と見殺しにした事、事故とはいえ自分の母の頭部を強打し入院させたことなどに、直面しては恐怖していた。
だというのに、暫く経つとまるでそんな事は無かったかのように忘れ、由乃と共に行動し、彼女の暴走を看過し、或いはそれに助けられ、挙げ句心を許した結果、監禁されるはめにまでなった。
監禁される少し前に、警察署で未来日記所持者の4thでもある、刑事の来栖圭吾の罠にはめられたため、逃げだそうとした雪輝はやむなく一人の警官を誤射し、またその後来栖の事も日記を破壊して殺している。
そして何よりも、いち早く来須の不審さを察した我妻由乃は、雪輝を助けるために、それ以上に多くの警官等を殺して回った。
結果として、来栖が雪輝を抹殺するために仕組んだ計略自体も公になり問題とはなったのだが、同時に由乃が多数の警察官を殺したのも事実で、そちらは雪輝の来栖殺しとは違い、完全に衆目の元行われ、記録されていた。
当たり前だ。
雪輝が誤射した刑事は命に別状はなかったが、由乃の方は違う。
警察署内で警官を襲い銃を強奪し、そのまま来栖を銃撃し、雪輝を連れて逃亡。
病院に立てこもってからも、明確な殺意でもって、何人もの警察を殺している姿を、警察自体にしっかりと見られていたのだ。
どう考えても、その背景に来栖の陰謀があったというだけで、無罪放免となるわけがない。
何より、御目方教本部で信者達を殺戮しまくったときに、その事実をもみ消してくれた来栖を、今回は殺してしまったのだ。
それなのに、雪輝はそんな事に何ら危機感も持たず、由乃と旅行に出かけてしまった。
雪輝は、ただ自分はこのセカイの傍観者で居たいと思っていた。
それは言うなればただの現実逃避だ。
ただ誰からも干渉されず、誰にも干渉せず、まるでテレビの向こうの出来事を記録するように、日々目にしたものを無差別に日記につける。
だから、なのかもしれない。
雪輝の思考には、自己の有様を客観視するという能力が、驚くほど欠落しているとも言える。
どんな事を体験し、当事者となっていても、結果それが過ぎてしまうと、もうただの記録なのだ。
そこに、連続性が無い。
ただ反射的に恐れ、ただ反射的に共感し、ただ反射的に誰かを助けようとし、ただ反射的に逃げる。
連続性のない記憶は、ただの記録にしかならない。
記録の、情報の集積の中から、意味を見いだすことが出来ない。
記憶とは。自我とは何か。
ただの出来事、その記録の中に、連続した意味を与え、自分独自の物語を作ることだ。
それがその人個人の記憶であり、その人の持つ自我の現れである。
雪輝には、それが欠落している。
ただ傍観者として、無差別に記録しているだけだからだ。
だからいつも、連続したパターンの中にあるものを、見過ごして同じ失敗を繰り返す。
結果として、常に彼の思考や行動は場当たり的で、逃避的だ。
はたから見ると、全く一貫性がない。
目の前にある何かから、反射的に反応し、その後はただ傍観し、現実逃避するだけ。
ある時点までは、それで済んでいた。
偶発的な出来事によって、父が母を刺し殺してしまい、またその父も、他の未来日記所持者である11thの部下に殺された。
否応なく、どうしようもなく、もはや 「傍観者」として振る舞う事の出来ぬ現実が、雪輝の身に降りかかってしまった。
由乃が自分の代わりにどれだけの人を殺そうが、自分の身の回りの人間がどれほど死のうが、それら全てを「傍観者」として処理してきたのに、それはもう不可能だった。
母が、父が、死んだのだ。
雪輝のセカイが、音を立て崩れ落ちて行く。
ただそのそばには、由乃だけが居た。
崩れゆくセカイの中で、唯一確固たる存在として、由乃が居た。
携帯の他にバッグに入っていたものの一つ、ハンドガンを右手に持つ。
左手には携帯を持ち、常に画面を確認している。
『汚い路地。日本には見えない。足音がする。汚れた水たまりがある。見たことのある人影―――』
今、雪輝はその人物を待っている。
殺すつもりで、ではない。
共闘を持ちかけるためだ。
デウスの新しいルールは、グループ戦だ。
参加者が増えたが、代わりに「全員を殺す」必要はない。
だから、出会ったハナから殺して回る必要はないのだ。
その事に、雪輝は多少安堵している。
もしかたら、由乃も殺さないで良いかもしれない。
自分が、「ただ生き延びるだけ」のグループであれば、誰も殺さないで済むかも知れない。
そして、神となって、今まで殺してしまった人たちも、両親も、全てを蘇らせ ―――。
雪輝は、ここに来てもまだ、逃避的思考にすがりついていた。
グループ戦、の意味を、きちんと考えていない。
果たして、グループ戦で勝ち残った者全てが、神の後継者になるのだろうか?
以前は、たった一人の後継者を決めるために、全員で殺し合いをさせたというのに?
これは、全く別の戦いなのだ。
連続した記録からパターンを抜き出せば分かることが、雪輝には見えていない。
この戦いに勝ち残っても、雪輝は神の後継者になどなれない。
◆◆◆
「待って、僕だ!」
雪輝が小さく叫ぶ。
その声に返ってくるのは、鋭い斬撃。
一度、二度と空を切るそれが、雪輝の左腕を鋭く抉り、血飛沫を飛ばす。
「初っぱなに出会ったのが1stとは、幸先が良い!
このみねね様の最初の獲物になることに感謝しな!」
狂気を孕んだ右目で、雪輝にさらなる追撃を加えるべく、雨流みねねは手にした日本刀を振り上げる。
爆薬と、あらゆる銃器類を使いこなすテロリストだが、日本刀にはそれほど慣れては居ない。
それでも、子ども一人を殺すには十分だ、と考える。
今ここには、どうやらあのイカレた由乃も居ない。
未だうずく左目の借りと一緒に、1stを血祭りに上げてやろう。
みねねは昂揚を隠せずに笑う。
左側、今の死角のどこかに、先程雪輝が落としたハンドガンがある。
それを拾われないように間合いを詰める。
雪輝は戸惑ったような、怯えたような目でみねねを見て、後じさる。
何故?
今更ながら、そう問うているかの様な顔だ。
自分が命を狙われていたことすら、忘れているのか?
だが、そうでも無いらしい。
震える声を振り絞り、雪輝はまだ言葉を続ける。
「ど…同盟を組もう。これからは、一人で全員を殺して回らなくたって良いんだ…! だから…」
ざん、と振るわれた刀が、雪輝の喉を切り裂く。
切り裂くと、そう思ったとき、その軌道が止まった。
闇が、そこに降り立っていた。
◆◆◆
少年が佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
暗く、汚い路地に、ただ物言わぬ肉塊と化した物体が転がっている。
家族でそろって映画を見た帰りに、3人は強盗に襲われる。
父は、少年と母を護ろうとし、母も又少年を護ろうとして、強盗の放った銃弾により死んだ。
そのときから、彼の幼年期は終わりを告げた。
ブルース・ウェインは、まだ幼い内に両親を亡くし、億万長者となった。
彼は両親の死を切欠に、それまでとはまるで異なる世界の住人となることを決定づけられたのだ。
荒ぶる野生を、黒い仮面の下に押さえ込む鉄壁の理性。
ウェイン邸の地下に潜む、巨大なコウモリの化身。
昼は社交界で浮き名を流すプレイボーイを演じながら、夜は終わり無き闘争に身を投じる。
二度と、自分のような悲劇を生まぬ為に。
二度とあのような思いをせぬ為に。
彼はゴッサムの夜を犯罪から護る、闇の騎士、バットマンとなった。
犯罪者を恐れさせるために、コウモリを模した装束を着、身体を鍛え、書を読み、様々な装置を発明し、あらゆる武術をマスターした。
全ては、あの日に始まったことだ。
クライムアレイの片隅で、両親を失った幼き少年の涙。
ここから、全てが始まった。
左目に眼帯をした、長い刀を振るう女の腕を受け、そのまま捻り上げる。
女はすかさず身体を半回転させ、するりと抜けだし、地面に転がって起きあがる。
「くっ…」
女はこちらを見て、一瞬躊躇した。
しかし判断は素早い。
手にしたに刀を鞘にしまうと、脱兎の如く駆け出す。
闇をまとったまま、バットマンはその後を追う。
走るだけならこちらが早い。まして、ここは自分のホームグラウンド、ゴッサムシティによく似ている。
角を曲がって姿を消した女は、しかし間もなく爆音と共に現れた。
隠していたのか、そこにたまたまあったのか、バイクを全速力で走らせて、そのまま闇の中に消え去る。
黒衣の男、バットマンは仕方なくその姿を目で追うが、諦めて元の路地へ戻る。
そこには既に、先程襲われていた少年の姿はなく、ただ闇の中へと点々と血が続いていた。
◆◆◆
暫く闇夜を疾走し、後を追ってこないことを確かめると、雨流みねねはバイクを止める。
"逃亡日記のレプリカ"に書かれていた通りに、黒衣の男からバイクで逃げ切ったのだ。
このバイクは別に支給品でも何でもない。
注意深く辺りの様子を確認しながら路地を進むと、放置されたままのバイクを発見した。
ここにバイクがあると言うことは、つまり未来日記によれば、「黒衣の男」に襲われるのはこの近く、という可能性が高い。
だからみねねは、そこでひとまず放置されていたバイクの配線を弄り、エンジンを起動させ、いつでもそれに乗って逃走できる準備をしておいたのだ。
勝てたか? と考える。
日記に記述があったため、みねねはまず逃げることにした。
黒衣の男が、厄介な敵であることは分かる。
戦い慣れしている。
身体能力はみねねの遙か上を行くだろう。
格闘技術もそうだ。
その上、つい最近左目を失ったみねねにとって、白兵戦はかなり不得手になったといえる。遠近感が掴めないのだ。
銃か、爆薬があれば又違ったろうが、無い物ねだりに意味はない。
みねねは現在の火力不足を痛感する。
何処かで探さねばなるまい。
それにまた、一つ、黒衣の男についてハッキリしたこともある。
あの男には、決定的に欠けているモノがある事を。
それは、殺意。
漆黒の闇を身にまといつつ、あの男の一挙手一投足、全てにおいて殺意が感じられなかった。
「殺す気で来ないってんなら……やりようはいくらでもあるさ」
みねねは再び携帯の画面を見る。そこに現れてるはずの、新たな逃亡経路を確認するために。
雪輝は、薄暗い路地裏を、血に濡れた腕を押さえながら歩いている。
走りたい気持ちだったが、痛みが邪魔をしてそれが出来ない。
何処かで、治療をしなくてはならない。
何故、みねねは躊躇無く襲ってきたのか?
しかも、出会った当初の頃の様な殺意をむき出しにして。
雪輝の無差別日記は、もとより「雪輝の周りのもの」しか書かれない。
雪輝自身がどうするか、どうなるか、は、この日記では分からないのだ。
(それが克明に書かれるのは、我妻由乃の『雪輝日記』の方だ)
その上、表示件数が本来のそれよりとてつもなく少なくなっている。
今回表示されていたのは、あの路地でみねねと会うところまで。
それ以降のことは分からない状況だった。
とはいえ、雪輝はここでも見落としている。
確かに雪輝は、学校での襲撃の後に、病院等で何度かみねねと遭遇し、共闘している。
だが、それはあくまで一時的な利害故だ。
一時的な利害故の共闘をしただけで、雪輝は簡単に、彼女の本質的狂気を忘れてしまっていたのだ。
雨流みねねは、いついかなるときであっても、爆弾を使い、その場にいるあらゆる人間を構わず巻き込んで殺すことに、何ら躊躇しない。
そんな人間なのだ。
目下、同じ敵と対峙しているでもなければ、緊急避難的に共闘する必要のない雪輝であれば、その命を刈り取ることに何の問題があろうか?
雪輝は痛みを必死で堪え、携帯電話を見る。
そこに表示されている、"雪輝の無差別日記のレプリカ" に、新しい未来が書き込まれている。
それを見て、雪輝は ―――。
◆◆◆
子どもたちが佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
その日を期に、彼らは幼年期を終えた。
一人は神を呪い。
一人は神になることを欲し。
一人は、ただ終わる事なき悪との闘争に身を投じた。
【H-9/クライムアレイ:深夜】
【バットマン@バットマン】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:バットスーツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
1:怪我をした少年を助けに行くか? 眼帯の女を追跡するか?
2:ジョーカーの動向に注意。
【雨流みねね@未来日記】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康、参戦前に左目を失明
[装備]:日本刀
[道具]:基本支給品一式、みねねの逃亡日記のレプリカ、不明支給品0~1(火器、爆薬を除く)
[思考・状況]
基本行動方針:基本は皆殺しで勝ち狙い。殺せる相手は殺し、厄介ならば逃げる。逃亡日記の記述には基本従う。宗教関係者は優先して殺す。
1:火器、爆弾が欲しい。それを持っている人間を殺して奪うか、何処かから探し出したい。
2:黒衣の男は敵と認識。
※みねねの逃亡日記のレプリカ
みねねが未来において成す予定の「逃亡経路」が、僅かに書かれる。
壊れてもみねねは死なない。
【天野雪輝@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:左腕に裂傷、混乱
[装備]:ハンドガン
[道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
1:みねねから逃げる。
2:由乃と合流したい。
※雪輝の無差別日記のレプリカ
未来において、雪輝が目にするはずの周りの風景や状況が、ごく限定的に書かれる。雪輝自身のことは書かれない。
壊れても雪輝は死なない。
*時系列順で読む
Back:[[より強き世界]] Next:[[一般人、道に惑う/異常者、わらう]]
*投下順で読む
Back:[[より強き世界]] Next:[[一般人、道に惑う/異常者、わらう]]
|&color(cyan){実験開始}|[[バットマン]]|[[]]|
|&color(cyan){実験開始}|[[雨流みねね]]|[[未来日記モザイク:Diary■■:隠し砦の三覆面(+α+β)]]|
|&color(cyan){実験開始}|[[天野雪輝]]|[[]]|
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*CHILDHOOD'S END ◆JR/R2C5uDs
小さな子どもが佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
熱い、乾いた風が、彼女の鼻腔に鉄錆びた匂いと、火薬の匂いを運ぶ。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
赤黒い血に塗れた、肉の塊の前に、小さな子どもが佇んでいる。
背後には、キャタピラの音を響かせ、戦車が廃墟と化した街を進んでいる。
「要するに、何も変わってねぇって事だな」
左目の眼帯の位置を軽く直しながら、彼女、雨流みねねは独り、薄汚れた路地裏でそう確認する。
テロリストであり、爆弾魔。そして大量殺人犯。
神の後継者選びのバトルロワイアルに選ばれた9人目の存在でもある彼女は、両親を失った幼少期から、犯罪と殺人を繰り返し、爆薬の知識を得てからはそれをテロリズムの手段としていた。
テロリズム。いや、国際的テロリストとして知られる彼女だが、厳密にテロリストかというと難しいところだ。
彼女の標的は、常に宗教関係者である。
そしてそれは、彼女自身の幼少期の経験に由来する。
テロリズム、即ち、「恐怖によって政治的目的を果たす行為」というのとは、やや異なる。
敢えて言えば、彼女に政治信条などは、無い。
だがそれでも、彼女はまだ若い人生の大半を、破壊と殺戮に費やしてきた。
後継者候補であり、みねね同様未来日記の持ち主である1st、天野雪輝を襲撃する際も、彼一人を追いつめるためだけに、学校中に爆弾を仕掛け、大量の死傷者を出している。
欠落しているのだ。
殺人への忌避、暴力への忌避という、多くの人間が当たり前に身につけ育つべき感覚が、彼女には欠落している。
そのときは、奇しくも彼女同様、雪輝の為であれば殺人に対する忌避感が一切無い我妻由乃が居たために計画が狂い、目的を達成することは出来なかった。
しかし。
「何も変わっていない」
のだ。
自らの運命に対する復讐として、目的のためであれば、周りの全てを傷つけ、殺すことが当たり前であった殺人者としての人生。
神の後継者候補として"逃亡日記"――― 未来において自分がいかに窮地を脱したかが書かれている未来日記 ――― を手に入れてから行ってきた、他の後継者候補全てを殺して神の座を勝ち取るための戦い。
現状、そのどちらとも「何も変わっていない」 のだ。
ただ単に、出会った者全てを殺し尽くせば、そこにたどり着く。
問題は、二つ。
手持ちの武器が、少ないこと。
そして何より、みねねの切り札である、"逃亡日記"の様子が、思わしくない事だ。
思わしくない。端的に言えば、短い。
みねねは、バッグの中にあった携帯を再び確認する。
それは本来の自分の携帯、自らがこれから行う逃亡劇について書かれる"逃亡日記"が表示されるはずのもの。
しかし、最初に取り出したとき、その画面にはこう説明書きが書かれていた。
『支給品名:みねねの逃亡日記のレプリカ
雨流みねねの逃亡日記のレプリカ。
読める未来は短く限定的。
ただし壊れてもみねねは死なない』
本来ならば、より先の逃亡経緯が分かるはずのそれが、どうやらかなり限定的な短い未来しか見通せていないらしいのだ。
戦略を、少々考える必要がある。
唯一、そして最大の利点は、「壊れてもみねねは死なない」の1点。
今までであれば、この携帯を壊されれば即死亡だったという弱点が緩和されている。
それにしても、だ。
今、みねねの持っている携帯には、
「黒衣の男からバイクで逃げる。厄介だ」
とだけ書かれている。
みねねは辺りを見回す。
暗い夜の中、生命の気配は感じられない。
だがここは、おそらくはニューヨークか何処か。古く、猥雑で、汚らしい路地。
或いは、それを模したミニチュアセットのようであった。
再び、携帯の画面に目を戻す。
この情報量の少なさは、一体何だ?
何故こんなにも少ないのか? それは彼女には分からない。
そもそもこの新しいルールは何なのか。それも、彼女には分からない。
彼女たちを後継者候補として選んだ神、デウスがルールを変えたのか?
或いはその戦いに、何者かが介入してルールが変わったのか?
他に思いつく可能性はない。可能性はないが、不自然にも思う。
とはいえ、やはり。
やるべき事は変わらないのだ。
障害たる者全てを取り除き、殺しつくし、神の後継者となり ――― 神を殺すこと。
ただそれだけだ。
◆◆◆
少年が佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
廃墟と化したタワーから降りてきたときに見た、母の細い腕。
不意に現れた男達の手で、目の前で死んだ父の顔。
そして少年は選んだ。
少年は、少年であった時間を捨てて、殺戮者となることを選んだ。
神の後継者となり、全てを、元に戻すために。
「何故だ―――?」
天野雪輝は誰に問うでもなくそう呟く。
本当にその問いをぶつけたい相手は、勿論居る。
彼を自らの後継者候補として選び、同様に未来の一部を知る事の出来る、"未来日記"を与えられた人間達との殺し合いを計画した、神、デウス・エクス・マキナ、"機械仕掛けの神"に対してだ。
デウスは常に、妄想の世界にいる。この場合の妄想、というのは、非常にややこしい概念だが、後継者候補として選ばれた人間全ての精神世界と繋がった別次元、と言えば分かりやすいかも知れない。
だから、後継者候補の人間は、基本的にいつでも、その意識をデウスの住む場所へと飛ばすことが出来る。
出来るはずだが、今はそれが出来ない。
接続が絶たれているのだ。
何より、彼の持っている携帯、そこに書かれていた文言…。
「雪輝の無差別日記のレプリカ」
という言葉とその注意書き。
「何故、今になってルールを変えるんだ……?」
かつての勝利条件は、「他の未来日記の持ち主を全員殺す」というものだった。
最初は3rdこと、英語教師で連続殺人鬼であった、火山高夫の携帯を壊して、「殺した」。
これは、先に相手から命を狙われたが故であり、いわば正当防衛だったといえる。
それからしばらくは、雪輝を 「ユッキー」 と呼んでストーキングしていた、同じく未来日記の所持者、2ndの我妻由乃が、雪輝の代わりに彼の敵を殺しまくった。
その間、雪輝はただ状況に流され続けていた。
由乃が部屋に死体を隠していたことや、躊躇無く人を殺す狂人であること、爆弾魔に襲撃された際にも学校の多くの人間(彼らは雨流みねねに脅され、雪輝を引き渡したのだが)を平然と見殺しにした事、事故とはいえ自分の母の頭部を強打し入院させたことなどに、直面しては恐怖していた。
だというのに、暫く経つとまるでそんな事は無かったかのように忘れ、由乃と共に行動し、彼女の暴走を看過し、或いはそれに助けられ、挙げ句心を許した結果、監禁されるはめにまでなった。
監禁される少し前に、警察署で未来日記所持者の4thでもある、刑事の来栖圭吾の罠にはめられたため、逃げだそうとした雪輝はやむなく一人の警官を誤射し、またその後来栖の事も日記を破壊して殺している。
そして何よりも、いち早く来須の不審さを察した我妻由乃は、雪輝を助けるために、それ以上に多くの警官等を殺して回った。
結果として、来栖が雪輝を抹殺するために仕組んだ計略自体も公になり問題とはなったのだが、同時に由乃が多数の警察官を殺したのも事実で、そちらは雪輝の来栖殺しとは違い、完全に衆目の元行われ、記録されていた。
当たり前だ。
雪輝が誤射した刑事は命に別状はなかったが、由乃の方は違う。
警察署内で警官を襲い銃を強奪し、そのまま来栖を銃撃し、雪輝を連れて逃亡。
病院に立てこもってからも、明確な殺意でもって、何人もの警察を殺している姿を、警察自体にしっかりと見られていたのだ。
どう考えても、その背景に来栖の陰謀があったというだけで、無罪放免となるわけがない。
何より、御目方教本部で信者達を殺戮しまくったときに、その事実をもみ消してくれた来栖を、今回は殺してしまったのだ。
それなのに、雪輝はそんな事に何ら危機感も持たず、由乃と旅行に出かけてしまった。
雪輝は、ただ自分はこのセカイの傍観者で居たいと思っていた。
それは言うなればただの現実逃避だ。
ただ誰からも干渉されず、誰にも干渉せず、まるでテレビの向こうの出来事を記録するように、日々目にしたものを無差別に日記につける。
だから、なのかもしれない。
雪輝の思考には、自己の有様を客観視するという能力が、驚くほど欠落しているとも言える。
どんな事を体験し、当事者となっていても、結果それが過ぎてしまうと、もうただの記録なのだ。
そこに、連続性が無い。
ただ反射的に恐れ、ただ反射的に共感し、ただ反射的に誰かを助けようとし、ただ反射的に逃げる。
連続性のない記憶は、ただの記録にしかならない。
記録の、情報の集積の中から、意味を見いだすことが出来ない。
記憶とは。自我とは何か。
ただの出来事、その記録の中に、連続した意味を与え、自分独自の物語を作ることだ。
それがその人個人の記憶であり、その人の持つ自我の現れである。
雪輝には、それが欠落している。
ただ傍観者として、無差別に記録しているだけだからだ。
だからいつも、連続したパターンの中にあるものを、見過ごして同じ失敗を繰り返す。
結果として、常に彼の思考や行動は場当たり的で、逃避的だ。
はたから見ると、全く一貫性がない。
目の前にある何かから、反射的に反応し、その後はただ傍観し、現実逃避するだけ。
ある時点までは、それで済んでいた。
偶発的な出来事によって、父が母を刺し殺してしまい、またその父も、他の未来日記所持者である11thの部下に殺された。
否応なく、どうしようもなく、もはや 「傍観者」として振る舞う事の出来ぬ現実が、雪輝の身に降りかかってしまった。
由乃が自分の代わりにどれだけの人を殺そうが、自分の身の回りの人間がどれほど死のうが、それら全てを「傍観者」として処理してきたのに、それはもう不可能だった。
母が、父が、死んだのだ。
雪輝のセカイが、音を立て崩れ落ちて行く。
ただそのそばには、由乃だけが居た。
崩れゆくセカイの中で、唯一確固たる存在として、由乃が居た。
携帯の他にバッグに入っていたものの一つ、ハンドガンを右手に持つ。
左手には携帯を持ち、常に画面を確認している。
『汚い路地。日本には見えない。足音がする。汚れた水たまりがある。見たことのある人影―――』
今、雪輝はその人物を待っている。
殺すつもりで、ではない。
共闘を持ちかけるためだ。
デウスの新しいルールは、グループ戦だ。
参加者が増えたが、代わりに「全員を殺す」必要はない。
だから、出会ったハナから殺して回る必要はないのだ。
その事に、雪輝は多少安堵している。
もしかたら、由乃も殺さないで良いかもしれない。
自分が、「ただ生き延びるだけ」のグループであれば、誰も殺さないで済むかも知れない。
そして、神となって、今まで殺してしまった人たちも、両親も、全てを蘇らせ ―――。
雪輝は、ここに来てもまだ、逃避的思考にすがりついていた。
グループ戦、の意味を、きちんと考えていない。
果たして、グループ戦で勝ち残った者全てが、神の後継者になるのだろうか?
以前は、たった一人の後継者を決めるために、全員で殺し合いをさせたというのに?
これは、全く別の戦いなのだ。
連続した記録からパターンを抜き出せば分かることが、雪輝には見えていない。
この戦いに勝ち残っても、雪輝は神の後継者になどなれない。
◆◆◆
「待って、僕だ!」
雪輝が小さく叫ぶ。
その声に返ってくるのは、鋭い斬撃。
一度、二度と空を切るそれが、雪輝の左腕を鋭く抉り、血飛沫を飛ばす。
「初っぱなに出会ったのが1stとは、幸先が良い!
このみねね様の最初の獲物になることに感謝しな!」
狂気を孕んだ右目で、雪輝にさらなる追撃を加えるべく、雨流みねねは手にした日本刀を振り上げる。
爆薬と、あらゆる銃器類を使いこなすテロリストだが、日本刀にはそれほど慣れては居ない。
それでも、子ども一人を殺すには十分だ、と考える。
今ここには、どうやらあのイカレた由乃も居ない。
未だうずく左目の借りと一緒に、1stを血祭りに上げてやろう。
みねねは昂揚を隠せずに笑う。
左側、今の死角のどこかに、先程雪輝が落としたハンドガンがある。
それを拾われないように間合いを詰める。
雪輝は戸惑ったような、怯えたような目でみねねを見て、後じさる。
何故?
今更ながら、そう問うているかの様な顔だ。
自分が命を狙われていたことすら、忘れているのか?
だが、そうでも無いらしい。
震える声を振り絞り、雪輝はまだ言葉を続ける。
「ど…同盟を組もう。これからは、一人で全員を殺して回らなくたって良いんだ…! だから…」
ざん、と振るわれた刀が、雪輝の喉を切り裂く。
切り裂くと、そう思ったとき、その軌道が止まった。
闇が、そこに降り立っていた。
◆◆◆
少年が佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
暗く、汚い路地に、ただ物言わぬ肉塊と化した物体が転がっている。
家族でそろって映画を見た帰りに、3人は強盗に襲われる。
父は、少年と母を護ろうとし、母も又少年を護ろうとして、強盗の放った銃弾により死んだ。
そのときから、彼の幼年期は終わりを告げた。
ブルース・ウェインは、まだ幼い内に両親を亡くし、億万長者となった。
彼は両親の死を切欠に、それまでとはまるで異なる世界の住人となることを決定づけられたのだ。
荒ぶる野生を、黒い仮面の下に押さえ込む鉄壁の理性。
ウェイン邸の地下に潜む、巨大なコウモリの化身。
昼は社交界で浮き名を流すプレイボーイを演じながら、夜は終わり無き闘争に身を投じる。
二度と、自分のような悲劇を生まぬ為に。
二度とあのような思いをせぬ為に。
彼はゴッサムの夜を犯罪から護る、闇の騎士、バットマンとなった。
犯罪者を恐れさせるために、コウモリを模した装束を着、身体を鍛え、書を読み、様々な装置を発明し、あらゆる武術をマスターした。
全ては、あの日に始まったことだ。
クライムアレイの片隅で、両親を失った幼き少年の涙。
ここから、全てが始まった。
左目に眼帯をした、長い刀を振るう女の腕を受け、そのまま捻り上げる。
女はすかさず身体を半回転させ、するりと抜けだし、地面に転がって起きあがる。
「くっ…」
女はこちらを見て、一瞬躊躇した。
しかし判断は素早い。
手にしたに刀を鞘にしまうと、脱兎の如く駆け出す。
闇をまとったまま、バットマンはその後を追う。
走るだけならこちらが早い。まして、ここは自分のホームグラウンド、ゴッサムシティによく似ている。
角を曲がって姿を消した女は、しかし間もなく爆音と共に現れた。
隠していたのか、そこにたまたまあったのか、バイクを全速力で走らせて、そのまま闇の中に消え去る。
黒衣の男、バットマンは仕方なくその姿を目で追うが、諦めて元の路地へ戻る。
そこには既に、先程襲われていた少年の姿はなく、ただ闇の中へと点々と血が続いていた。
◆◆◆
暫く闇夜を疾走し、後を追ってこないことを確かめると、雨流みねねはバイクを止める。
"逃亡日記のレプリカ"に書かれていた通りに、黒衣の男からバイクで逃げ切ったのだ。
このバイクは別に支給品でも何でもない。
注意深く辺りの様子を確認しながら路地を進むと、放置されたままのバイクを発見した。
ここにバイクがあると言うことは、つまり未来日記によれば、「黒衣の男」に襲われるのはこの近く、という可能性が高い。
だからみねねは、そこでひとまず放置されていたバイクの配線を弄り、エンジンを起動させ、いつでもそれに乗って逃走できる準備をしておいたのだ。
勝てたか? と考える。
日記に記述があったため、みねねはまず逃げることにした。
黒衣の男が、厄介な敵であることは分かる。
戦い慣れしている。
身体能力はみねねの遙か上を行くだろう。
格闘技術もそうだ。
その上、つい最近左目を失ったみねねにとって、白兵戦はかなり不得手になったといえる。遠近感が掴めないのだ。
銃か、爆薬があれば又違ったろうが、無い物ねだりに意味はない。
みねねは現在の火力不足を痛感する。
何処かで探さねばなるまい。
それにまた、一つ、黒衣の男についてハッキリしたこともある。
あの男には、決定的に欠けているモノがある事を。
それは、殺意。
漆黒の闇を身にまといつつ、あの男の一挙手一投足、全てにおいて殺意が感じられなかった。
「殺す気で来ないってんなら……やりようはいくらでもあるさ」
みねねは再び携帯の画面を見る。そこに現れてるはずの、新たな逃亡経路を確認するために。
雪輝は、薄暗い路地裏を、血に濡れた腕を押さえながら歩いている。
走りたい気持ちだったが、痛みが邪魔をしてそれが出来ない。
何処かで、治療をしなくてはならない。
何故、みねねは躊躇無く襲ってきたのか?
しかも、出会った当初の頃の様な殺意をむき出しにして。
雪輝の無差別日記は、もとより「雪輝の周りのもの」しか書かれない。
雪輝自身がどうするか、どうなるか、は、この日記では分からないのだ。
(それが克明に書かれるのは、我妻由乃の『雪輝日記』の方だ)
その上、表示件数が本来のそれよりとてつもなく少なくなっている。
今回表示されていたのは、あの路地でみねねと会うところまで。
それ以降のことは分からない状況だった。
とはいえ、雪輝はここでも見落としている。
確かに雪輝は、学校での襲撃の後に、病院等で何度かみねねと遭遇し、共闘している。
だが、それはあくまで一時的な利害故だ。
一時的な利害故の共闘をしただけで、雪輝は簡単に、彼女の本質的狂気を忘れてしまっていたのだ。
雨流みねねは、いついかなるときであっても、爆弾を使い、その場にいるあらゆる人間を構わず巻き込んで殺すことに、何ら躊躇しない。
そんな人間なのだ。
目下、同じ敵と対峙しているでもなければ、緊急避難的に共闘する必要のない雪輝であれば、その命を刈り取ることに何の問題があろうか?
雪輝は痛みを必死で堪え、携帯電話を見る。
そこに表示されている、"雪輝の無差別日記のレプリカ" に、新しい未来が書き込まれている。
それを見て、雪輝は ―――。
◆◆◆
子どもたちが佇んでいる。
目の前には二つの死体。
かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
その日を期に、彼らは幼年期を終えた。
一人は神を呪い。
一人は神になることを欲し。
一人は、ただ終わる事なき悪との闘争に身を投じた。
【H-9/クライムアレイ:深夜】
【バットマン@バットマン】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:バットスーツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
1:怪我をした少年を助けに行くか? 眼帯の女を追跡するか?
2:ジョーカーの動向に注意。
【雨流みねね@未来日記】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康、参戦前に左目を失明
[装備]:日本刀
[道具]:基本支給品一式、みねねの逃亡日記のレプリカ、不明支給品0~1(火器、爆薬を除く)
[思考・状況]
基本行動方針:基本は皆殺しで勝ち狙い。殺せる相手は殺し、厄介ならば逃げる。逃亡日記の記述には基本従う。宗教関係者は優先して殺す。
1:火器、爆弾が欲しい。それを持っている人間を殺して奪うか、何処かから探し出したい。
2:黒衣の男は敵と認識。
※みねねの逃亡日記のレプリカ
みねねが未来において成す予定の「逃亡経路」が、僅かに書かれる。
壊れてもみねねは死なない。
【天野雪輝@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:左腕に裂傷、混乱
[装備]:ハンドガン
[道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
1:みねねから逃げる。
2:由乃と合流したい。
※雪輝の無差別日記のレプリカ
未来において、雪輝が目にするはずの周りの風景や状況が、ごく限定的に書かれる。雪輝自身のことは書かれない。
壊れても雪輝は死なない。
*時系列順で読む
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|&color(cyan){実験開始}|[[バットマン]]|[[BOY meets BAT , or Call of Duty ]]|
|&color(cyan){実験開始}|[[天野雪輝]]|~|
|&color(cyan){実験開始}|[[雨流みねね]]|[[未来日記モザイク:Diary■■:隠し砦の三覆面(+α+β)]]|
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