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「Forest Of The Red(後編)」(2011/02/10 (木) 09:07:45) の最新版変更点
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**Forest Of The Red(後編) ◆CMd1jz6iP2
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パンドラ。
ハーデスの姉の役目にして、冥王軍を纏める者。
しかし、彼女の人生は不幸の連続であった。
その幼少時代、彼女は幸せな人生を信じていた。
世界はバラ色で、永遠に光に満ちているものだと。
しかし、それは「母親の胎内にいた弟が消える」という異常をキッカケに崩れ去った。
人生とは、一瞬の不幸が起こるかどうかで、幸せではなくなる。
バットマンが、その幼少時代に両親を失ったように。
天野雪輝が、神をめぐる闘いの末に、両親を失ったように。
衛宮士郎が、大火災で全てを失ったように。
テンマが、親友と闘う宿命を負ったように。
本郷猛が、ショッカーに改造されたように。
蝶野攻爵が、病魔を患ったために、人間の超越を考えたように。
DIOですら、母が死に、父が人間のクズでなければ、違う人生もあったであろう。
では、パンドラの今の状態を語ろう。
海藻巻いてパンツ一丁、しかもお子様サイズのかわいいパンツ。
これは不幸か、まぁ不幸であろうが、笑い話の類である。
触手陵辱の末に心臓を潰されたり、ゴッサムタワーを建設するのに比べれば全然である。
だがしかし、だがしかしである。
「な、なんなのだっ、この森は!!」
不幸とは、連鎖するものでもあるのだ。
パンドラの現状更新。
海藻=喪失。
大事な杖=喪失。
パンツ=健在。
現状詳細=森内部……ツタに絡まり逆さ吊りで手ブラ。
「まったく……何が掛かったかと思えば」
その様子を、下から眺める、植物の愛好者、アイビー。
森への侵入者を感知し、来てみればヒョコヒョコ歩くストリークイーン。
あっさりとツタを絡ませた拍子に杖を落とし、無力化に成功したのだった。
「ゴッサムにも、色々いるけど……ここまでストレートな痴女も珍しいわね」
「何ぃ!? 誰が痴女だ! 貴様、この私にこのような恥辱を……万死で済むと思うなッ!!」
ツタを千切る勢いで、体を震わせるパンドラ。
「ツタが痛むでしょ。やめなきゃ……」
新たに伸びてきたツタが、パンドラのパンツの端に絡み、ゆっくりと引っ張り出す。
「ナァ!? キ、キサマ、やめろ千切れる!! さ、最後の生命線を奪うつもりかぁ!!」
「それが嫌なら大人しくしなさい。まったく、テンマたちの方がよっぽど大人しかったわ……」
「テンマ……だと!?」
その名に、パンドラの表情が変わる。
「あら、知り合い……というには、怖い顔じゃない」
「テンマはどこだ! あいつは、私が殺さねばならない!」
その言語に、アイビーは自分とバットマンの関係を思い浮かべた。
「(それとも、ジョーカーとバットマンの方が近いかしらね)
もう居ないわ。今頃、森を抜けてるはずよ」
「ならば、こんな奇怪な森に要はない! 今離せば、この一刻はその生命を見逃してやっても良いぞ!」
パンドラの態度に、アイビーはストレスの溜まる一方だ。
別に我慢する必要はなく、殺してやればいい。
だが、それをたけるは嫌がるだろうことを考えると、少しその決断が鈍る。
そんな時——
「えっ!?」
森の中心で起きている異常に、アイビーが気づいたのは、そんな時だった。
「なっ、なんだ?」
アイビーの様子にパンドラも気が付き、訝しげに眺める。
すると、まるでパンドラのことなど眼中がないようにアイビーは森の奥へ走り去ってしまった。
「ま、待てキサマ! このツタをどうにかし……アーッ!?」
もがいた途端、あっさりとツタが解け、地面へとパンドラの体が落下する。
「ぐっは、っ〜〜〜〜お、おのれぇぇ……!」
勢いより尻から落ち、痛みと屈辱に震えるパンドラ。
「ぬう、おのれ奇怪な肌をした女め……! だが、テンマの奴が森を抜けたとなれば……」
杖を拾い、怒りに震えるが、テンマを追うことの重要度が圧倒的に上。
「次に会った時が最後だ。今はせいぜい、その生命を謳歌しておくがいい!」
捨て台詞を吐くも、ほぼ全裸なこともあり締まらない。
ヒョコヒョコと、情けない姿を晒しながらパンドラは森を後にするのだった。
————————————————————————
「ああ……なんてことなの!? どうしてこんなことに!」
走り続け、目的の中心部に戻ったアイビー。
そこに広がる光景は、僅か前とは完全に異なっていた。
緑生い茂る植物たちが、悶え苦しんでいる……赤く染まって。
植物に取って、最大の敵である炎が、中心部を飲み込んでいたのだ。
鬱蒼とした森は、秒刻みで燃え広がり、その範囲を広げていく。
「なんとか火を消さないと、この子たちが……この、子……た、たける!?」
思い出した。植物を偏愛するアイビーとしては、むしろ思い出しただけ素晴らしい変化ともいえた。
この中心部には……たけるがいるはずなのだ。
「たける、返事をして! みんな、たけるを、たけるを見つけて!」
植物を操ろうとするアイビー。だが、炎に包まれようとしている植物たちは、そのコントロールを失っていた。
人間や動物で言えば、恐慌状態。アイビーとて、この場に長く居たいと感じない。
「ああ、たける……もう、今頃は……」
「アイビー!!」
悲しみに沈むアイビーの耳に、誰かの声が聞こえる。たけるではなかった。
「その声……マッティー?」
声のする方角から駆けてくるのは、数時間前に別れたばかりの松田だった。
「良かった、アイビーに怪我がないかと心配だったんだよ!」
「ええ、ありがとうマッティー……そうだわ」
アイビーは、良い方法を思いついた。
「マッティー、大変なの! たけるがこの炎の中に取り残されてしまって……お願い、助けてあげて!!」
「そりゃ大変だ! 任せてくれ、アイビー!」
何の迷いもなく、炎の中に飛び込んでいく松田。
その姿を見て、ほくそ笑み……しかし、すぐに表情を暗くする。
「ああ、でも生きているとは思えないわ……とにかく、火の勢いを止める方法を考えないと」
たけるの身を案じながら、アイビーは火の手の上がっていない方面へと身を翻す。
パンッ、パンッ
「……?」
地面が、アイビーに向かって迫ってくる。
「あ……なにこ、れ……?」
「……君が、子どもだけは大切にしていることは、良くわかったよ、愛しのアイビー」
その背後から、足音が聞こえる。ゆっくりと近づいてくる。
「……マ……ティー……」
「でも残念だ。君が、キラと同類の人間であることが」
松田が、そこに立っていた。硝煙の匂いを纏う、拳銃を片手に。
「彼に言われて、少し考えたけど、ようやくわかったよ」
アイビーは気がついた。
「粧裕ちゃんを好きか、なんてわからないけど……少なくとも、君を好きになる理由なんて、ないはずなんだ」
自分のフェロモンの効果が……切れている。
「君は、キラと同じだ! 人の行動を操って、その命を自分の目的に利用しようとした!!」
「人間……みんなそうでしょ。自分の為に、誰か、を利用して、る……植物も、動、物も……人間、さえ、も……」
そして、自分の状態にも気がついた。撃たれたのだ、拳銃で。
「それは否定しない……だけど、その力は、死神の力と同じ、人には過ぎた力だ!」
ぼやける視界が、松田の目を捉える。
そこに映るものは……恐怖。
「操られてわかった……キラが、なんて恐ろしい犯罪者なのか……それに類するお前も、同じ……殺すしか無い、悪魔だ!」
「ひとつだけ……聞かせて。たけ、る……たけるは、無事なの……まさか、殺したの……?」
拳銃を突きつけたまま、松田はその答えを教える。
「……無事だ。今、巴が森の外へと運んでいる」
「そう……それで、安心したわ!!」
突如、松田の体が宙に舞う。
アイビーは、コントロールできたツタで松田の足を絡めとったのだ。
「(生きていることがわかれば、もう用はないわ、マッティー!)」
重い体を動かし、松田へトドメを刺すべくツタを操作するアイビー。
カチャ
鈍い金属音に、アイビーは顔を上げる。
松田は、前回と異なり、未だアイビーへの照準を外してはいなかった。
逆さ吊りのまま、その銃口はアイビーへと向けられたまま。
パンッ
乾いた音が耳に届いたと同時に、その脳天の、穴が空いていた。
「(ああ……でも。アサイラムの無機質な部屋よりも……森で死ねることは幸福なのよ、ね……)」
最期に、愛する植物の胸の中で逝けることを、まだ幸せなのかもと。
しかし、僅かに残されたたけるの事を考え……その思考は、永遠に霧散した。
「ハァ、ハァ……う、オェ……!」
松田は、燃える森から逃れながら、嗚咽していた。
キラに匹敵する犯罪者とはいえ、殺人を犯してしまったことに。
「いや、違う……正しいんだ! これは、正義……僕は正義を執行したんだ!!」
今まで、キラ事件は同僚や世間の死を受けながらも、自分には及ばない世界での出来事だった。
しかし、アイビーに操られたことで、キラ事件での被害者たちへの共感を松田に与えてしまった。
被害者たちとの違いは、それが生死に関わったか否か。
「殺すしか、ないんだ! あんな恐ろしい力を持った奴は、殺すしか……人を守る方法はない!」
Lは頼れる探偵だ。月くんも、もちろん……だが、それがここで何の役に立つ?
首輪を外す、なんてことをやっている内に、人はたくさん死んでいく。
今、なにより力を持つのは……この拳銃でしかないのだ。
「いや、それでも頼りない。……結果は同じなら、これも使うか……」
笑いガス噴霧器……毒ガスによる殺人なんて、考えただけでも非道であり、実行などしたくない。
だが、それが悪なら構わない、と松田は思いを変えた。
操られた恐怖を、人々を守るという使命感……正義漢にすり替えて。
「待っていてくれ、粧裕ちゃん、たけるくん……僕が、君たちを守って見せる!!」
そう決意し、松田は走る。
既に逃がしてある、たけるが待つ場所。
511キンダーハイムへと。
&color(red){【ポイズンアイビー@バットマン 死亡】}
【D-9 森(火災)/一日目・深夜】
【松田桃太@DEATH NOTE】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:背広と革靴、コルト・ニューサービス(弾数2/6)@バットマン
[道具]:基本支給品一式*2、ジョーカーベノムガス噴霧器@バットマン、巴の笛@MW、松田桃太の遺言書、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針: 謎を解き、実験を辞めさせ、犯人を捕まえる。
1:キラのような悪は殺害する。
2:たける、巴と511キンダーハイムで合流
3:弱者を守る。
[備考] おそらく、月がキラの捜査に加わってから、監禁されていた時期を除く、ヨツバキラとの対決時期までの何れかより参戦。
※D-9の森中心部で、火災が発生しています。
————————————————————————
ところで、何故森は燃えたのか。
松田が燃やした、わけではない。
森に火をつけたのは——たけるである。
話は、冒頭の荷物を探るたけるへと戻る。
「うわー、なんだろうこれ! カッコイイなぁ!」
出てきたのは、黄金色の篭手だった。
腕にはめてみるが、たけるには大きくブカブカであった。
「あ、でもこういうのって、アニメとかで観たことあるなぁ。こう、隙間から剣とかがズバーッって……」
漫画や特撮で、ヒーローがそうするように、何かを斬るように振り下ろしてみる。
すると、それは実現した。
ザシュ!
「えっ……う、うわぁ!!」
思ったとおり、篭手からは剣が飛び出していた。
しかし、それはたけるの思うような玩具ではなく本物。更に言えば、それは炎を纏う剣だった。
かつて、バットマンはヴィランの一人、ヴェノムによって半身不随に陥ったことがある。
その間、二代目のバットマンとして戦った、アズラエルという人物がいた。
結局、バットマンの職務に押しつぶされ、暴走を始めてしまうのだが……その人物の武器こそ、このガントレット。
オーバーテクノロジーで作成された、伸縮自在の炎を纏う刃である。
そんなものだとは知らないたけるの目の前で、炎は繭に燃え移り、瞬く間に広がっていく。
「う、うわぁ! 大変だ、早く、早く消さないと!!」
篭手を閉まっても、炎は消えない。
周りの植物が苦しむように暴れだすが、たけるには炎を消す手段がない。
「どうしよう、どうしよう! アイビー姉ちゃんが大好きな植物が燃えちゃうよ!!」
半狂乱になるたける。その耳に、犬の鳴き声らしき声が聞こえる。
「君……こ、これはいったい!?」
「あ……兄ちゃんは……」
そこにいたのは、松田と、その犬、巴だった。
「に、兄ちゃん、ごめんなさい! ひ、火が、バーって燃え広がって、それで……」
「君がやったのか……大丈夫、気にしなくてもいい。今すぐ、たける君を助けてあげるからね」
松田は、たけるの頭を撫で……そのまま流れるような動作で、その襟首を絞めた。
「うっ」
たけるは、一瞬呻き声を上げ……そのまま、気を失った。
「……子どもに、殺人の現場なんて見せるわけにはいかないからな」
気絶したたけるを、巴の背に乗せる。
松田は、承太郎との会話の後、疑問に襲われた。
——なぜ、自分はこんなにアイビーを愛しているのか、と。
そして、徐々に不安が増すにつれ、フェロモンの効果は急速に薄れ———
自分の意思が操られていることに気づき、この地に戻ってきたのだった。
「いいか、511キンダーハイムへ行くんだ。そこで、たける君を守っているんだ。
僕以外の人間がたけるくんに近くにいたら、必ず遠ざけるんだぞ」
巴に命令し、笛を吹き行動を実行させた。
そうして、松田はアイビーを仕留めるチャンスを得るため、一時その場を離れた。
そして、その望みは成功するのだった。
————————————————————————
「うう……ん?」
僅かな頭痛と共に、たけるは意識を取り戻した。
「ここ、どこ?」
目の前には、森とは縁遠そうな施設。
一体自分はどうしてしまったのか、たけるが考えていると……
ザクッ、ザクッと、視角になって見えない場所から音が聞こえた。
「誰かいるのー?」
テクテクと、その音の方角へと進んでいくたける。
徐々に、音の現場に近づいていく……そこには、犬がいた。
「あっ、この犬って……松田の兄ちゃんの?」
巴は、たけるを気にする様子もなく、地面を掘っている。
「どうしたの? 骨でも埋ま、て……」
無邪気なたけるの声が、凍る。
地面をある程度掘った巴は、土の中から何かを力強く引っ張り出す。
引き出されるにつれ、付着した砂や泥が落ち……現れたのは。
「ねー……ちゃん?」
目を閉じたまま、動かない姉。
力尽くで引っ張られても、何一つ文句の声もない。
ドンドンたけるから、姉を引き離そうと巴が引っ張っていく。
「たけるの近くの人間を遠ざけるんだ」
その、命令を忠実に守るために、生死問わず人間をたけるから離すために。
「う、うわあああああ!!」
大声を上げ、姉の体を、巴と反対側に引っ張る。
「離せ、離してよー! わぁっ!」
巴とたけるの力では、巴の方が上。
そのため、たけるは引き摺られ、倒れてしまった。
その姿に、たけるを守るという命令を違反すると思ったのか、巴は口を離す。
少しでも犬から離れるため、その——体温のない——手を引っ張り、その体を引き釣りながら建物の中へと避難するたける。
「姉ちゃん、大丈夫!? 姉ちゃん、姉ちゃんってば!」
いくら揺さぶっても、その体は反応を示さない。
頬をたたこうと、悪口を言おうと、その反応は返ってこない。
「ねえ……っちゃんってばぁ……」
ポロリと、涙がこぼれ、もう止まらない。
怪我などでも、病気などでもないと、認めてしまった。
「う……うわぁぁぁぁん!!」
もう、姉は死んでしまったのだ、と。
後ろから、巴がやってきても気にもせず。
たけるは、姉の遺骸にすがり、泣き続けた——
————————————————————————
「ひ、酷い森だった……この姿ではまるで歩けぬ……」
森で撤退をしていたパンドラ。
テンマを探しながら歩いて行くと、なにやら施設が見えてきた。
「ふむ……寒いし、とりあえず中に入るか」
服が見つかるかもしれない、と期待も込めて中に入る。
「うわぁぁぁぁん!!」
「くっ!?」
突然の声に、パンドラは警戒を強める。
だが、よく考えれば今のは子どもの、しかも泣き声。
その方角へと向かい、ゆっくりと歩みを進める。
「姉ちゃん、目を開けてよ、姉ちゃんーー!!
そっと部屋を覗くと、そこには倒れている人物……否、死体に泣き叫ぶ少年の姿があった。
「(墓場では感じなかった、本当の死……あれは、死者の弟、か……)」
姉の死に、泣き叫ぶ子ども……ああ、とパンドラの脳裏に過去のトラウマがよぎる。
「(生まれるはずだった弟か妹……それが母の体より消えた時……あの時の私も、あのように泣いたな……)」
一瞬、生まれた感情をかき消し、杖を構え部屋に踏み入る。
「ガウッ!!」
「ハァッ!!」
侵入者に気が付き、跳びかかる巴。
それに対し、杖より放つ雷を放つパンドラ。
「ギャイン!!」
「ひっ……!?」
僅かな閃光の直後、壁に叩きつけられた巴は、ビクンビクンと跳ね、動かなくなった。
「うっく……姉ちゃん、誰……?」
「……そこに転がっているのは、貴様の姉か?」
質問には答えず、逆に質問してきたパンドラに、たけるは弱々しく首を縦に振る。
「ふっ……恐怖に絶え切れず、弟を残し自殺か……流石は人間、罪深い生き物……」
「姉ちゃんは……しない」
パンドラの言葉に、たけるは小さく言葉を発する。
「……なんだ?」
「姉ちゃんは、自殺なんてするもんか!!」
ボロボロと涙をこぼし、叫ぶたける。
その姿に、パンドラも僅かに狼狽える。
「ふ、まぁたしかに凶器も見当たらんところを見ると、殺されたのかもしれんが……いや、確かに妙、だな」
死体に首輪がついていないこと、凶器がないこと。
これは、殺害後に誰かがここに来たことを示している。
さらに、その死体の表情が、パンドラは気に入らなかった。
「随分に楽しげに死んでいるではないか……」
「……死んじゃったのに、楽しくもなんともないよ……」
死体は、笑顔だった。
まるで、死ぬことに安らぎを得たかのように。
そして、パンドラにはそれに相応しい言葉が浮かんでいた。
「……救済、か」
アローン。ハーデス様を押し込め、冥王軍を救済と称して全滅させた真なる邪悪。
あいつは言った。死は断罪ではなく、救済。すべての人を救わなくてはならない、と。
この死に様は、まるでそれを体現しているかのようで、パンドラにとって気に食わないどころではない。
「(まさか……アローンが、参加者に? いや、それはない……だとすれば、つまり……)」
———アローンのような人間が、参加者にいる?
その推測はパンドラにとって許せるものではなかった。
「……ん? なんだ、これは」
パンドラは、床に何か煌く物を見つけた。
何か、細長い……毛。
パンドラの物ではなく、たけるの物でもなく、倒れた犬の物でもない。
———金色の、見覚えのある、髪の毛。
「フ……クハハハハハハ!!」
突然、狂ったように笑うパンドラに、たけるは身をすくませる。
「ク、ハハ……おい、小僧……名をなんという?」
「え、と……相沢たける、だよ」
「———たけるよ、私はお前を殺す」
突然の殺害予告に、たけるはそれも仕方ないか……という思いが過ぎっていた。
姉が死に、それに着いて行っても良いのではないか、と。
「……だがな、それは後にしておこう。金髪の女を殺すまでは、な」
その言葉に、目をパチクリさせるたける。
「どうやら、キサマの姉の仇と、私の敵は共通しているようだ」
この髪の毛は、間違いなくあの船を沈め、パンドラを罠に嵌めた者と同一だった。
テンマを、そして杳馬への憎しみと同等までに、あの女への怒りは高まっていた。
「どうせ、人間すべてが最後には断罪すべき存在。か細い首をへし折ることなど容易い。
ならば、キサマの姉殺しの女への断罪を見続け、それを冥界での語り部となるべく見届けさせるのも一興」
そう言い、たけるに向かって手を伸ばす。
「二度は言わぬ。私に着いてくるがいい、たける」
「う、うん……」
有無を言わせぬ口調に、手を伸ばすたける。
「ええと、ひとつだけ、いい? ええと……」
「パンドラだ。くだらない質問はするな」
「パンドラ姉ちゃん、あのね……」
意を決して、たけるは口を開く。
「———前くらい、隠したほうがいいよ?」
数分後、そこには全裸の、否、かわいいパンツのパンドラ様は居なかった。
そこにいたのは、漆黒の蝙蝠。
「フフフ、気に入ったぞたける。先程の無礼はこれで許してやっても良い」
たけるの支給品を全て奪い、その中から念願の服を見つけていた。
それは、バットガールのコスチューム。ただしマスクは装着していない。
漆黒のボンテージに身を包んだパンドラは、甚くご満悦だった。
——それが、正義の味方の服だと知れば、酷く怒っていただろうが。
「なら、殴んなくてもいいのにさ……」
頭にたんこぶを作ったたけるがボヤく。
「ふむ、この炎の魔剣も素晴らしいではないか」
炎の剣を出し入れしている様子に、アイビーの事を思い出すたける。
今頃、怒っているのではないだろうか、怪我をしているのではないだろうか。
どちらにせよ、パンドラに着いていくと約束したのだから、戻ることは出来ない。
そして……
「姉ちゃん……ごめん、ちょっと待っててね」
悲痛な顔で、たけるは姉に別れを言う。
それが、自分が死ぬことを待てということか、埋めたりすることを意味しているのか、たける自身にもわからない。
「……行くぞ。あの女は墓地の方角にいるはずだ」
その別れを待っていたかのように、パンドラは外へと歩き出す。
『———たけるを、弟を、よろしく』
「なんだ、なにか言ったか?」
パンドラは振り向くが、たけるはキョトンと首を傾げている。
「……なんでもない、早く着いて来い」
早足で歩くパンドラを、小走りでたけるは後を追う。
もう数刻で、日の出。
その時、死を告げる放送に、幼き少年は何を思うのだろうか。
【E-9 平地(511キンダーハイム付近)/一日目・早朝】
【パンドラ@聖闘士星矢 冥王神話】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康、上機嫌、バットガールスタイル
[装備]:パンドラの杖、アズラエルの篭手@バットマン、バットガールのコスチューム(マスク以外)@バットマン
[持物]:基本支給品、フェイトちゃんのぱんつ@魔法少女リリカルなのは、バットガールのマスク@バットマン
[方針/目的]
基本方針:実験を勝ち抜き、主催者をハーデスの名の下に断罪する
1:金髪の女を探すため、墓地の方へ戻る。
2:テンマと杳馬を探しだして殺す
3:他の参加者も発見次第殺す
4:たけるは金髪の女を殺す姿を見せた後に殺す予定
【相沢たける@侵略! イカ娘】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、深い悲しみ
[装備]:特になし
[道具]:基本支給品一式、ハーレイ&アイビーのDVDとバッテリー付き再生機セット
[思考・状況]
基本行動方針:パンドラ姉ちゃんについていく
1:姉ちゃん……
2:アイビー姉ちゃんはどうしたかな……
※バットガールのコスチューム
バットマンの仲間の一人、バットガールのコスチューム。
何代目かによって、多少異なるが、漆黒のボディラインの判るスーツ。
※アズラエルの篭手
復讐の天使アズラエルの武器である、黄金色の篭手。中から伸縮自在の炎をまとった刃が飛び出す。
本来両手に装着されているが、片手分の篭手しかない。
パンドラたちが、511キンダーハイムを去って少し後。
巴は、ムクリと起き上がった。
パンドラの雷が本来の威力でなかったために、その心臓がしばらく止まっていただけだったのだ。
たけるが居ないことに気が付き、その行方も臭いでわかっていた。
しかし、松田の命令で511キンダーハイムから離れることはできなかった。
巴は待つ、現在の主人である松田を。
そこに感情もなにもなく、まるで機械のように、忠実に入り口に立つのだった。
※巴は、命令があるまで511キンダーハイムで待機します。
その際、命令者以外の敵対行為には攻撃します。
*時系列順で読む
Back:[[悲秘喜奇交交イン・ホスピタル]] Next:[[Deus Irae, or The Men in the High Castle]]
*投下順で読む
Back:[[悲秘喜奇交交イン・ホスピタル]] Next:[[Deus Irae, or The Men in the High Castle]]
|[[Angel Heart]]|[[テンマ]]|[[]]|
|~|[[藤村大河]]|[[]]|
|~|[[ポイズン・アイビー]]|&color(red){死亡}|
|~|[[相沢たける]]|[[]]|
|[[〜悪意は極力隠すこと、それが……〜大宇宙の真理]]|[[パンドラ]]|[[]]|
|[[この世界に反逆を開始せよ]]|[[松田桃太]]|[[早合点]]|
|~|[[空条承太郎]]|[[]]|
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**Forest Of The Red(後編) ◆CMd1jz6iP2
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パンドラ。
ハーデスの姉の役目にして、冥王軍を纏める者。
しかし、彼女の人生は不幸の連続であった。
その幼少時代、彼女は幸せな人生を信じていた。
世界はバラ色で、永遠に光に満ちているものだと。
しかし、それは「母親の胎内にいた弟が消える」という異常をキッカケに崩れ去った。
人生とは、一瞬の不幸が起こるかどうかで、幸せではなくなる。
バットマンが、その幼少時代に両親を失ったように。
天野雪輝が、神をめぐる闘いの末に、両親を失ったように。
衛宮士郎が、大火災で全てを失ったように。
テンマが、親友と闘う宿命を負ったように。
本郷猛が、ショッカーに改造されたように。
蝶野攻爵が、病魔を患ったために、人間の超越を考えたように。
DIOですら、母が死に、父が人間のクズでなければ、違う人生もあったであろう。
では、パンドラの今の状態を語ろう。
海藻巻いてパンツ一丁、しかもお子様サイズのかわいいパンツ。
これは不幸か、まぁ不幸であろうが、笑い話の類である。
触手陵辱の末に心臓を潰されたり、ゴッサムタワーを建設するのに比べれば全然である。
だがしかし、だがしかしである。
「な、なんなのだっ、この森は!!」
不幸とは、連鎖するものでもあるのだ。
パンドラの現状更新。
海藻=喪失。
大事な杖=喪失。
パンツ=健在。
現状詳細=森内部……ツタに絡まり逆さ吊りで手ブラ。
「まったく……何が掛かったかと思えば」
その様子を、下から眺める、植物の愛好者、アイビー。
森への侵入者を感知し、来てみればヒョコヒョコ歩くストリークイーン。
あっさりとツタを絡ませた拍子に杖を落とし、無力化に成功したのだった。
「ゴッサムにも、色々いるけど……ここまでストレートな痴女も珍しいわね」
「何ぃ!? 誰が痴女だ! 貴様、この私にこのような恥辱を……万死で済むと思うなッ!!」
ツタを千切る勢いで、体を震わせるパンドラ。
「ツタが痛むでしょ。やめなきゃ……」
新たに伸びてきたツタが、パンドラのパンツの端に絡み、ゆっくりと引っ張り出す。
「ナァ!? キ、キサマ、やめろ千切れる!! さ、最後の生命線を奪うつもりかぁ!!」
「それが嫌なら大人しくしなさい。まったく、テンマたちの方がよっぽど大人しかったわ……」
「テンマ……だと!?」
その名に、パンドラの表情が変わる。
「あら、知り合い……というには、怖い顔じゃない」
「テンマはどこだ! あいつは、私が殺さねばならない!」
その言語に、アイビーは自分とバットマンの関係を思い浮かべた。
「(それとも、ジョーカーとバットマンの方が近いかしらね)
もう居ないわ。今頃、森を抜けてるはずよ」
「ならば、こんな奇怪な森に要はない! 今離せば、この一刻はその生命を見逃してやっても良いぞ!」
パンドラの態度に、アイビーはストレスの溜まる一方だ。
別に我慢する必要はなく、殺してやればいい。
だが、それをたけるは嫌がるだろうことを考えると、少しその決断が鈍る。
そんな時——
「えっ!?」
森の中心で起きている異常に、アイビーが気づいたのは、そんな時だった。
「なっ、なんだ?」
アイビーの様子にパンドラも気が付き、訝しげに眺める。
すると、まるでパンドラのことなど眼中がないようにアイビーは森の奥へ走り去ってしまった。
「ま、待てキサマ! このツタをどうにかし……アーッ!?」
もがいた途端、あっさりとツタが解け、地面へとパンドラの体が落下する。
「ぐっは、っ〜〜〜〜お、おのれぇぇ……!」
勢いより尻から落ち、痛みと屈辱に震えるパンドラ。
「ぬう、おのれ奇怪な肌をした女め……! だが、テンマの奴が森を抜けたとなれば……」
杖を拾い、怒りに震えるが、テンマを追うことの重要度が圧倒的に上。
「次に会った時が最後だ。今はせいぜい、その生命を謳歌しておくがいい!」
捨て台詞を吐くも、ほぼ全裸なこともあり締まらない。
ヒョコヒョコと、情けない姿を晒しながらパンドラは森を後にするのだった。
————————————————————————
「ああ……なんてことなの!? どうしてこんなことに!」
走り続け、目的の中心部に戻ったアイビー。
そこに広がる光景は、僅か前とは完全に異なっていた。
緑生い茂る植物たちが、悶え苦しんでいる……赤く染まって。
植物に取って、最大の敵である炎が、中心部を飲み込んでいたのだ。
鬱蒼とした森は、秒刻みで燃え広がり、その範囲を広げていく。
「なんとか火を消さないと、この子たちが……この、子……た、たける!?」
思い出した。植物を偏愛するアイビーとしては、むしろ思い出しただけ素晴らしい変化ともいえた。
この中心部には……たけるがいるはずなのだ。
「たける、返事をして! みんな、たけるを、たけるを見つけて!」
植物を操ろうとするアイビー。だが、炎に包まれようとしている植物たちは、そのコントロールを失っていた。
人間や動物で言えば、恐慌状態。アイビーとて、この場に長く居たいと感じない。
「ああ、たける……もう、今頃は……」
「アイビー!!」
悲しみに沈むアイビーの耳に、誰かの声が聞こえる。たけるではなかった。
「その声……マッティー?」
声のする方角から駆けてくるのは、数時間前に別れたばかりの松田だった。
「良かった、アイビーに怪我がないかと心配だったんだよ!」
「ええ、ありがとうマッティー……そうだわ」
アイビーは、良い方法を思いついた。
「マッティー、大変なの! たけるがこの炎の中に取り残されてしまって……お願い、助けてあげて!!」
「そりゃ大変だ! 任せてくれ、アイビー!」
何の迷いもなく、炎の中に飛び込んでいく松田。
その姿を見て、ほくそ笑み……しかし、すぐに表情を暗くする。
「ああ、でも生きているとは思えないわ……とにかく、火の勢いを止める方法を考えないと」
たけるの身を案じながら、アイビーは火の手の上がっていない方面へと身を翻す。
パンッ、パンッ
「……?」
地面が、アイビーに向かって迫ってくる。
「あ……なにこ、れ……?」
「……君が、子どもだけは大切にしていることは、良くわかったよ、愛しのアイビー」
その背後から、足音が聞こえる。ゆっくりと近づいてくる。
「……マ……ティー……」
「でも残念だ。君が、キラと同類の人間であることが」
松田が、そこに立っていた。硝煙の匂いを纏う、拳銃を片手に。
「彼に言われて、少し考えたけど、ようやくわかったよ」
アイビーは気がついた。
「粧裕ちゃんを好きか、なんてわからないけど……少なくとも、君を好きになる理由なんて、ないはずなんだ」
自分のフェロモンの効果が……切れている。
「君は、キラと同じだ! 人の行動を操って、その命を自分の目的に利用しようとした!!」
「人間……みんなそうでしょ。自分の為に、誰か、を利用して、る……植物も、動、物も……人間、さえ、も……」
そして、自分の状態にも気がついた。撃たれたのだ、拳銃で。
「それは否定しない……だけど、その力は、死神の力と同じ、人には過ぎた力だ!」
ぼやける視界が、松田の目を捉える。
そこに映るものは……恐怖。
「操られてわかった……キラが、なんて恐ろしい犯罪者なのか……それに類するお前も、同じ……殺すしか無い、悪魔だ!」
「ひとつだけ……聞かせて。たけ、る……たけるは、無事なの……まさか、殺したの……?」
拳銃を突きつけたまま、松田はその答えを教える。
「……無事だ。今、巴が森の外へと運んでいる」
「そう……それで、安心したわ!!」
突如、松田の体が宙に舞う。
アイビーは、コントロールできたツタで松田の足を絡めとったのだ。
「(生きていることがわかれば、もう用はないわ、マッティー!)」
重い体を動かし、松田へトドメを刺すべくツタを操作するアイビー。
カチャ
鈍い金属音に、アイビーは顔を上げる。
松田は、前回と異なり、未だアイビーへの照準を外してはいなかった。
逆さ吊りのまま、その銃口はアイビーへと向けられたまま。
パンッ
乾いた音が耳に届いたと同時に、その脳天の、穴が空いていた。
「(ああ……でも。アサイラムの無機質な部屋よりも……森で死ねることは幸福なのよ、ね……)」
最期に、愛する植物の胸の中で逝けることを、まだ幸せなのかもと。
しかし、僅かに残されたたけるの事を考え……その思考は、永遠に霧散した。
「ハァ、ハァ……う、オェ……!」
松田は、燃える森から逃れながら、嗚咽していた。
キラに匹敵する犯罪者とはいえ、殺人を犯してしまったことに。
「いや、違う……正しいんだ! これは、正義……僕は正義を執行したんだ!!」
今まで、キラ事件は同僚や世間の死を受けながらも、自分には及ばない世界での出来事だった。
しかし、アイビーに操られたことで、キラ事件での被害者たちへの共感を松田に与えてしまった。
被害者たちとの違いは、それが生死に関わったか否か。
「殺すしか、ないんだ! あんな恐ろしい力を持った奴は、殺すしか……人を守る方法はない!」
Lは頼れる探偵だ。月くんも、もちろん……だが、それがここで何の役に立つ?
首輪を外す、なんてことをやっている内に、人はたくさん死んでいく。
今、なにより力を持つのは……この拳銃でしかないのだ。
「いや、それでも頼りない。……結果は同じなら、これも使うか……」
笑いガス噴霧器……毒ガスによる殺人なんて、考えただけでも非道であり、実行などしたくない。
だが、それが悪なら構わない、と松田は思いを変えた。
操られた恐怖を、人々を守るという使命感……正義漢にすり替えて。
「待っていてくれ、粧裕ちゃん、たけるくん……僕が、君たちを守って見せる!!」
そう決意し、松田は走る。
既に逃がしてある、たけるが待つ場所。
511キンダーハイムへと。
&color(red){【ポイズンアイビー@バットマン 死亡】}
【D-9 森(火災)/一日目・深夜】
【松田桃太@DEATH NOTE】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:背広と革靴、コルト・ニューサービス(弾数2/6)@バットマン
[道具]:基本支給品一式*2、ジョーカーベノムガス噴霧器@バットマン、巴の笛@MW、松田桃太の遺言書、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針: 謎を解き、実験を辞めさせ、犯人を捕まえる。
1:キラのような悪は殺害する。
2:たける、巴と511キンダーハイムで合流
3:弱者を守る。
[備考] おそらく、月がキラの捜査に加わってから、監禁されていた時期を除く、ヨツバキラとの対決時期までの何れかより参戦。
※D-9の森中心部で、火災が発生しています。
————————————————————————
ところで、何故森は燃えたのか。
松田が燃やした、わけではない。
森に火をつけたのは——たけるである。
話は、冒頭の荷物を探るたけるへと戻る。
「うわー、なんだろうこれ! カッコイイなぁ!」
出てきたのは、黄金色の篭手だった。
腕にはめてみるが、たけるには大きくブカブカであった。
「あ、でもこういうのって、アニメとかで観たことあるなぁ。こう、隙間から剣とかがズバーッって……」
漫画や特撮で、ヒーローがそうするように、何かを斬るように振り下ろしてみる。
すると、それは実現した。
ザシュ!
「えっ……う、うわぁ!!」
思ったとおり、篭手からは剣が飛び出していた。
しかし、それはたけるの思うような玩具ではなく本物。更に言えば、それは炎を纏う剣だった。
かつて、バットマンはヴィランの一人、ヴェノムによって半身不随に陥ったことがある。
その間、二代目のバットマンとして戦った、アズラエルという人物がいた。
結局、バットマンの職務に押しつぶされ、暴走を始めてしまうのだが……その人物の武器こそ、このガントレット。
オーバーテクノロジーで作成された、伸縮自在の炎を纏う刃である。
そんなものだとは知らないたけるの目の前で、炎は繭に燃え移り、瞬く間に広がっていく。
「う、うわぁ! 大変だ、早く、早く消さないと!!」
篭手を閉まっても、炎は消えない。
周りの植物が苦しむように暴れだすが、たけるには炎を消す手段がない。
「どうしよう、どうしよう! アイビー姉ちゃんが大好きな植物が燃えちゃうよ!!」
半狂乱になるたける。その耳に、犬の鳴き声らしき声が聞こえる。
「君……こ、これはいったい!?」
「あ……兄ちゃんは……」
そこにいたのは、松田と、その犬、巴だった。
「に、兄ちゃん、ごめんなさい! ひ、火が、バーって燃え広がって、それで……」
「君がやったのか……大丈夫、気にしなくてもいい。今すぐ、たける君を助けてあげるからね」
松田は、たけるの頭を撫で……そのまま流れるような動作で、その襟首を絞めた。
「うっ」
たけるは、一瞬呻き声を上げ……そのまま、気を失った。
「……子どもに、殺人の現場なんて見せるわけにはいかないからな」
気絶したたけるを、巴の背に乗せる。
松田は、承太郎との会話の後、疑問に襲われた。
——なぜ、自分はこんなにアイビーを愛しているのか、と。
そして、徐々に不安が増すにつれ、フェロモンの効果は急速に薄れ———
自分の意思が操られていることに気づき、この地に戻ってきたのだった。
「いいか、511キンダーハイムへ行くんだ。そこで、たける君を守っているんだ。
僕以外の人間がたけるくんに近くにいたら、必ず遠ざけるんだぞ」
巴に命令し、笛を吹き行動を実行させた。
そうして、松田はアイビーを仕留めるチャンスを得るため、一時その場を離れた。
そして、その望みは成功するのだった。
————————————————————————
「うう……ん?」
僅かな頭痛と共に、たけるは意識を取り戻した。
「ここ、どこ?」
目の前には、森とは縁遠そうな施設。
一体自分はどうしてしまったのか、たけるが考えていると……
ザクッ、ザクッと、視角になって見えない場所から音が聞こえた。
「誰かいるのー?」
テクテクと、その音の方角へと進んでいくたける。
徐々に、音の現場に近づいていく……そこには、犬がいた。
「あっ、この犬って……松田の兄ちゃんの?」
巴は、たけるを気にする様子もなく、地面を掘っている。
「どうしたの? 骨でも埋ま、て……」
無邪気なたけるの声が、凍る。
地面をある程度掘った巴は、土の中から何かを力強く引っ張り出す。
引き出されるにつれ、付着した砂や泥が落ち……現れたのは。
「ねー……ちゃん?」
目を閉じたまま、動かない姉。
力尽くで引っ張られても、何一つ文句の声もない。
ドンドンたけるから、姉を引き離そうと巴が引っ張っていく。
「たけるの近くの人間を遠ざけるんだ」
その、命令を忠実に守るために、生死問わず人間をたけるから離すために。
「う、うわあああああ!!」
大声を上げ、姉の体を、巴と反対側に引っ張る。
「離せ、離してよー! わぁっ!」
巴とたけるの力では、巴の方が上。
そのため、たけるは引き摺られ、倒れてしまった。
その姿に、たけるを守るという命令を違反すると思ったのか、巴は口を離す。
少しでも犬から離れるため、その——体温のない——手を引っ張り、その体を引き釣りながら建物の中へと避難するたける。
「姉ちゃん、大丈夫!? 姉ちゃん、姉ちゃんってば!」
いくら揺さぶっても、その体は反応を示さない。
頬をたたこうと、悪口を言おうと、その反応は返ってこない。
「ねえ……っちゃんってばぁ……」
ポロリと、涙がこぼれ、もう止まらない。
怪我などでも、病気などでもないと、認めてしまった。
「う……うわぁぁぁぁん!!」
もう、姉は死んでしまったのだ、と。
後ろから、巴がやってきても気にもせず。
たけるは、姉の遺骸にすがり、泣き続けた——
————————————————————————
「ひ、酷い森だった……この姿ではまるで歩けぬ……」
森で撤退をしていたパンドラ。
テンマを探しながら歩いて行くと、なにやら施設が見えてきた。
「ふむ……寒いし、とりあえず中に入るか」
服が見つかるかもしれない、と期待も込めて中に入る。
「うわぁぁぁぁん!!」
「くっ!?」
突然の声に、パンドラは警戒を強める。
だが、よく考えれば今のは子どもの、しかも泣き声。
その方角へと向かい、ゆっくりと歩みを進める。
「姉ちゃん、目を開けてよ、姉ちゃんーー!!
そっと部屋を覗くと、そこには倒れている人物……否、死体に泣き叫ぶ少年の姿があった。
「(墓場では感じなかった、本当の死……あれは、死者の弟、か……)」
姉の死に、泣き叫ぶ子ども……ああ、とパンドラの脳裏に過去のトラウマがよぎる。
「(生まれるはずだった弟か妹……それが母の体より消えた時……あの時の私も、あのように泣いたな……)」
一瞬、生まれた感情をかき消し、杖を構え部屋に踏み入る。
「ガウッ!!」
「ハァッ!!」
侵入者に気が付き、跳びかかる巴。
それに対し、杖より放つ雷を放つパンドラ。
「ギャイン!!」
「ひっ……!?」
僅かな閃光の直後、壁に叩きつけられた巴は、ビクンビクンと跳ね、動かなくなった。
「うっく……姉ちゃん、誰……?」
「……そこに転がっているのは、貴様の姉か?」
質問には答えず、逆に質問してきたパンドラに、たけるは弱々しく首を縦に振る。
「ふっ……恐怖に絶え切れず、弟を残し自殺か……流石は人間、罪深い生き物……」
「姉ちゃんは……しない」
パンドラの言葉に、たけるは小さく言葉を発する。
「……なんだ?」
「姉ちゃんは、自殺なんてするもんか!!」
ボロボロと涙をこぼし、叫ぶたける。
その姿に、パンドラも僅かに狼狽える。
「ふ、まぁたしかに凶器も見当たらんところを見ると、殺されたのかもしれんが……いや、確かに妙、だな」
死体に首輪がついていないこと、凶器がないこと。
これは、殺害後に誰かがここに来たことを示している。
さらに、その死体の表情が、パンドラは気に入らなかった。
「随分に楽しげに死んでいるではないか……」
「……死んじゃったのに、楽しくもなんともないよ……」
死体は、笑顔だった。
まるで、死ぬことに安らぎを得たかのように。
そして、パンドラにはそれに相応しい言葉が浮かんでいた。
「……救済、か」
アローン。ハーデス様を押し込め、冥王軍を救済と称して全滅させた真なる邪悪。
あいつは言った。死は断罪ではなく、救済。すべての人を救わなくてはならない、と。
この死に様は、まるでそれを体現しているかのようで、パンドラにとって気に食わないどころではない。
「(まさか……アローンが、参加者に? いや、それはない……だとすれば、つまり……)」
———アローンのような人間が、参加者にいる?
その推測はパンドラにとって許せるものではなかった。
「……ん? なんだ、これは」
パンドラは、床に何か煌く物を見つけた。
何か、細長い……毛。
パンドラの物ではなく、たけるの物でもなく、倒れた犬の物でもない。
———金色の、見覚えのある、髪の毛。
「フ……クハハハハハハ!!」
突然、狂ったように笑うパンドラに、たけるは身をすくませる。
「ク、ハハ……おい、小僧……名をなんという?」
「え、と……相沢たける、だよ」
「———たけるよ、私はお前を殺す」
突然の殺害予告に、たけるはそれも仕方ないか……という思いが過ぎっていた。
姉が死に、それに着いて行っても良いのではないか、と。
「……だがな、それは後にしておこう。金髪の女を殺すまでは、な」
その言葉に、目をパチクリさせるたける。
「どうやら、キサマの姉の仇と、私の敵は共通しているようだ」
この髪の毛は、間違いなくあの船を沈め、パンドラを罠に嵌めた者と同一だった。
テンマを、そして杳馬への憎しみと同等までに、あの女への怒りは高まっていた。
「どうせ、人間すべてが最後には断罪すべき存在。か細い首をへし折ることなど容易い。
ならば、キサマの姉殺しの女への断罪を見続け、それを冥界での語り部となるべく見届けさせるのも一興」
そう言い、たけるに向かって手を伸ばす。
「二度は言わぬ。私に着いてくるがいい、たける」
「う、うん……」
有無を言わせぬ口調に、手を伸ばすたける。
「ええと、ひとつだけ、いい? ええと……」
「パンドラだ。くだらない質問はするな」
「パンドラ姉ちゃん、あのね……」
意を決して、たけるは口を開く。
「———前くらい、隠したほうがいいよ?」
数分後、そこには全裸の、否、かわいいパンツのパンドラ様は居なかった。
そこにいたのは、漆黒の蝙蝠。
「フフフ、気に入ったぞたける。先程の無礼はこれで許してやっても良い」
たけるの支給品を全て奪い、その中から念願の服を見つけていた。
それは、バットガールのコスチューム。ただしマスクは装着していない。
漆黒のボンテージに身を包んだパンドラは、甚くご満悦だった。
——それが、正義の味方の服だと知れば、酷く怒っていただろうが。
「なら、殴んなくてもいいのにさ……」
頭にたんこぶを作ったたけるがボヤく。
「ふむ、この炎の魔剣も素晴らしいではないか」
炎の剣を出し入れしている様子に、アイビーの事を思い出すたける。
今頃、怒っているのではないだろうか、怪我をしているのではないだろうか。
どちらにせよ、パンドラに着いていくと約束したのだから、戻ることは出来ない。
そして……
「姉ちゃん……ごめん、ちょっと待っててね」
悲痛な顔で、たけるは姉に別れを言う。
それが、自分が死ぬことを待てということか、埋めたりすることを意味しているのか、たける自身にもわからない。
「……行くぞ。あの女は墓地の方角にいるはずだ」
その別れを待っていたかのように、パンドラは外へと歩き出す。
『———たけるを、弟を、よろしく』
「なんだ、なにか言ったか?」
パンドラは振り向くが、たけるはキョトンと首を傾げている。
「……なんでもない、早く着いて来い」
早足で歩くパンドラを、小走りでたけるは後を追う。
もう数刻で、日の出。
その時、死を告げる放送に、幼き少年は何を思うのだろうか。
【E-9 平地(511キンダーハイム付近)/一日目・早朝】
【パンドラ@聖闘士星矢 冥王神話】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康、上機嫌、バットガールスタイル
[装備]:パンドラの杖、アズラエルの篭手@バットマン、バットガールのコスチューム(マスク以外)@バットマン
[持物]:基本支給品、フェイトちゃんのぱんつ@魔法少女リリカルなのは、バットガールのマスク@バットマン
[方針/目的]
基本方針:実験を勝ち抜き、主催者をハーデスの名の下に断罪する
1:金髪の女を探すため、墓地の方へ戻る。
2:テンマと杳馬を探しだして殺す
3:他の参加者も発見次第殺す
4:たけるは金髪の女を殺す姿を見せた後に殺す予定
【相沢たける@侵略! イカ娘】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、深い悲しみ
[装備]:特になし
[道具]:基本支給品一式、ハーレイ&アイビーのDVDとバッテリー付き再生機セット
[思考・状況]
基本行動方針:パンドラ姉ちゃんについていく
1:姉ちゃん……
2:アイビー姉ちゃんはどうしたかな……
※バットガールのコスチューム
バットマンの仲間の一人、バットガールのコスチューム。
何代目かによって、多少異なるが、漆黒のボディラインの判るスーツ。
※アズラエルの篭手
復讐の天使アズラエルの武器である、黄金色の篭手。中から伸縮自在の炎をまとった刃が飛び出す。
本来両手に装着されているが、片手分の篭手しかない。
パンドラたちが、511キンダーハイムを去って少し後。
巴は、ムクリと起き上がった。
パンドラの雷が本来の威力でなかったために、その心臓がしばらく止まっていただけだったのだ。
たけるが居ないことに気が付き、その行方も臭いでわかっていた。
しかし、松田の命令で511キンダーハイムから離れることはできなかった。
巴は待つ、現在の主人である松田を。
そこに感情もなにもなく、まるで機械のように、忠実に入り口に立つのだった。
※巴は、命令があるまで511キンダーハイムで待機します。
その際、命令者以外の敵対行為には攻撃します。
*時系列順で読む
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