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「手に入らない遠き夢」(2011/02/20 (日) 02:37:58) の最新版変更点
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**手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c
薄汚れた道路の一角を、古い街灯が照らす。歓楽街から離れた、人通りの少ない場所であった。
そこを一目で裕福そうだとわかる家族が通る。
「勇敢だったね、ママ」
映画を見た帰り道、少年はうれしそうに話題をふる。
一方、母親の方は少しだけ眉をしかめていた。
映画がやや乱暴だったのが気に入らないらしい。
父親は穏やかに、男の子だからしょうがないさ、と苦笑交じりに告げていた。
この後は食事をして家路につき、興奮する子どもをなだめながら、両親は眠りにつかせるだろう。
穏やかで力強い父親。優しく包容力のある母親。
大好きな二人に囲まれたまま、明日もまた来るのだと、少年は無邪気に信じていた。
だからこそ、そこを通るのはやめるんだ、と姿の見えない誰かは叫んだ。
彼はこの顛末を知っていた。家族に振りかかる不幸を知っていた。
だけど容赦なく、曲がり角の向こうから不幸は這い寄ってくる。
影は懐に手を入れた大柄の男だ。
「その真珠を渡してもらおうか」
なんども聞き慣れた粗暴な声。男は銃を突きつけ、家族を脅す。狙いは母親の持つ真珠のネックレスだ。
彼は父親が抵抗するのを知っていた。
駄目だ、父さん。それ以上は――。
誰かは祈る。ただの一度だけでいい。
家族を見逃して欲しい。父親が悪漢を撃退して欲しい。母親の真珠を諦めて欲しい。
夢でもいいから、自分を一人にしないで欲しい。
置いて行かないで、父さん、母さん。
無慈悲に銃声が二つ、轟いた。
愛していた両親は足許に崩れ落ちる。殺した男は一目散に逃げていった。
願っていた彼――その時はまだ少年の彼はただ、静かに涙を流す。その瞳には……。
□
目を覚ましたところは、見たことある薄汚れた部屋だった。
地下水路らしく、パイプがむき出しになっている。どこからかドブの臭いが漂っていた。
この部屋は見覚えがある。
いつか、アーカムからの脱走者が“フリーク”と呼ばれて徒党を組んでいたときに使われていたアジトだ。
潰れたはずの場所が残っていることに違和感を覚えつつ、バットマンは頭を振って思考を明確にする。
どうやら気を失っていたらしい。
直前の指示を思い出し、不審に思った。ここはバットケイブではない。
どういうことか問い詰めようとして、バットマンはベッドを軋ませながら天野雪輝の姿を探す。
「あ、雪輝くん。バットマンさんが起きたよー」
返ってきたのは少年の声ではなく、明るい少女のものであった。
疑問をさらに深める。いったい少女は誰なのか。
「君はいったい……それに少年がいたはずだが」
バットマンが彼女に問うと、探していた少年が声をかけた。
「僕はここです。彼女は……」
「私は武藤まひろです! よろしくお願いします!
えーと、応急処置をしましたけど、体の方はどうですか? 辛いところありませんか?」
そういうことか、とバットマンは疑念を解く。
よく自らの身体を見下ろせば、手当のあとが発見できた。
包帯を巻きすぎている気もするが、問題はない。マスクには手をかけられていなかった。幸運だ。
彼らに聞かねばならぬことは多くある。
バットケイブは見つからなかったのか。
ロングヘアの彼女――武藤まひろは何者なのか。
ここはどこなのか。
そして、矢を射る支援者はわかったのか。
悪魔将軍から完全に逃げ切れたのか。
一瞬で整理しながら、バットマンは短く問う。
「現状の説明を頼む」
□
時間は悪魔将軍に爆発する矢が放たれた頃だ。
結論から言うと、武藤まひろはアーチャーの言いつけを守らず、後を追ってしまった。
足手まといになるのはわかっていたが、それでも『もしかして』という気持ちは抑えられない。
彼女の兄、武藤カズキがいるのではないか、という期待は。
くじけてはいけない、とまひろは己を叱咤する。
瞬間、爆発音に思わず首をすくめた。音の大きさからして、音源とはある程度距離があるだろう。
だけど、ここが殺し合いの場だと自覚を促す音に、まひろは心音を高めていた。
「周囲の警戒を頼むといったが……ここは私に任せて欲しかったのだがな」
やや呆れを含んだ、皮肉げな声にホッとする。
白髪に赤い衣装の青年が弓を片手に、曲がり角から現れたのだ。
「アーチャーさん、今の音は……」
「ああ、安心していい。あれは私が起こした」
こともなげに告げるアーチャーの顔を、そっと見上げた。
彼は自分を助けてくれた。ならば、誰かを傷つけるため、というわけではないだろう。
まひろは察しのいい少女である。ゆえに彼がなんのために弓矢を使ったのか、理解ができた。
「誰か……襲われていました?」
「…………」
アーチャーは手を顎に当てて沈黙をする。どう告げるべきか考えているのだろうか。
まひろがもう一度問い直そうと思ったとき、答えは返ってきた。
「勘が鋭いな。それがいいか悪いかは、さておき」
弓兵の顔はどこか寂しそうに見えた。ふと、いつかの兄を思い出す。
不安になる自分に、「二度と恐い思いはしない」と告げた兄の顔を。
おそらく、アーチャーは優しい人間だ。襲われた人を助けたいのだろう。
だが、自分が足かせになって助けに向かいたい気持ちを押し殺している。
もっとも、これはまひろの勝手な推測だ。勘違いかもしれない。
それでも、彼女は告げる。
「じゃあ、助けに向かいましょう!」
「そうしたいのは山々だが……」
「私なら大丈夫! なにを隠そう、私は隠れん坊の名人よ!」
どこからか取り出したダンボールを手に、瞳を輝かせて告げた。
震えそうになる足に喝を入れ、恐怖は決して見せない。
きっと、自分と誰かを助けに向かうことを秤にかけた場合の兄にも同じことを言うだろうから。
「まったく、少しは緊張感を――」
「だから、アーチャーさんが誰かを助けに向かっても構いません。
なにより私がそうして欲しいから」
ため息混じりで忠告しようとするアーチャーに向かって、まひろはたたみかける。
「襲われた人の……みんなの味方をしてください」
みんなを守った、兄のように。
まひろは願いを込めて、そう嘆願した。
アーチャーはしばし呆然としていた。
なにかおかしなことを言っただろうか、まひろは思索する。
「君は……いや、いい。仰せのままに」
どこか茶化すような物言いに対して、首を傾げた。
呆れたような、ほっとしたようなため息をついて、アーチャーはまひろに近寄る。
「ならば役割分担だ。彼らは地下水路に逃げていった。途中までは私が送ろう。合流後、彼らの手当てを頼む」
「場所はわかるんですか?」
「彼らは怪我をしていてな。血の跡を追えばなんとかなるはずだ」
「それは構いませんが……アーチャーさんはどうするんですか?」
弓兵は一瞬だけ獰猛な顔を見せ、すぐに消す。
肩越しに振り返り、真っ直ぐ伸びる道路の先を鋭く見た。
「なに、少し足止めをするだけさ」
まひろは顔を曇らせる。誰かが襲われたということは、襲った誰かがいることだ。
アーチャーは戦うことになる。
ならば、まひろはこころよく送り出すことしかできない。
「わかりました、その人達は私に任せてください!」
「ああ、頼んだ」
アーチャーはまひろを抱き上げながら赤い外套をひるがえした。
まひろは尋常でない脚力に驚きながらも、頼もしげな顔を見つめた。
「もう……運べない……」
雪輝はバットマンをおろし、弱音を吐く。
そもそも、中学生としてもひ弱な彼が、鍛えられた成人男性を運ぶなど無理な話であった。
さらに場所は地下水路だ。薄汚れた通路に下水の臭い。
精神面を疲れさせるには充分だ。
とはいえ、上の都市が無人のためか、臭いはまだマシである。
臭いを吸い込まないように口元を抑え、呼吸を整える。
しばらく休もう。そう考える雪輝の傍で、寝言が聞こえてきた。
「……父さん……母さん……僕を……一人にしないで……」
雪輝は思わず彼の顔を見た。ものものしい覆面はいつもと変わらない。
だが鍛えられた肉体を持ってバケモノと戦った姿と、今の弱々しいつぶやきが一致しなかった。
その声はまるで、父親が刺されたときの自分のような――。
ありえない、と雪輝は首を振る。
バットマンは正義の味方で、バケモノと渡り合う戦士だ。
確かに自分はすべてを殺し、それをなかったことにすることで皆を救う決意をした。
だけど、未来日記により神を知り、願いを叶えることが可能だとわかっているからこその行動なのだ。
それに、由乃がいた。未来日記があった。厄介な敵がいた。
バットマンのように、自分の身一つで戦えるほど心は強くない、と自覚をしている。
だから、彼が自分と似たような想いをしている、などとは想像ができないのだ。
「でも……」
彼のような正義の味方でも、自分と似たような哀しみを持つのだろうか。
それでも屈しない強さの元とはなんだろうか。
雪輝の心中に答えのでない疑問がわく。
自分と同じ傷を持った上で、人は強く在れるのだろうか。
グルグルと答えのでない袋小路にはまり、雪輝はため息を一つ吐いた。
そんな彼の思考を、携帯のノイズ音が中断させる。
未来が変わったのだ。雪輝は周囲を警戒しながら、未来日記を覗き込む。
その画面にあったのは――。
□
「――そのあと、雪輝くんを見つけて、バットマンさんをここまで運びました」
「日記を見る限り、彼女たちに敵意はないと判断して……。
それに僕一人だと運べなかったし、バットケイブは見つからなかったから……」
「なるほど。だいたい理解した」
自分の知るゴッサムシティとの差異はさておき、少女については納得した。
まだ若い、子どもと言っていい雪輝に自分を運べ、というのも酷な話だ。
バットマンは座っていたベッドから静かに立ち上がり、体の調子を確認する。
動きに問題はない。バットマンの方針は決まっていた。
「私がアーチャーという青年の援護に向かう。君たちはここに隠れていて……いや、それもまずいな。
……二時間経って私が戻らなければ、ここから移動してくれ。
ウェイン邸に向かえば、いずれ合流が可能だと覚えてくれればいい」
離れるように指示したのは、かつてここを根城にしたことがあるジョーカーを考慮してである。
あの時はトゥーフェイスと組んでいた。たちの悪い道化王子がそのことに思い至り、訪れないとも限らない。
バットマンは必要最低限の指示を出して、地下水路を出ようと準備をした。
そこを、天野雪輝に呼び止められる。
「ちょっと待ってください!」
「何?」
「え……と……一つ、聞かせてください」
「……手短に頼む」
雪輝は緊張しているのか、ゴクリとつばを飲み込んだ。
話を切り出したのを後悔しているのか、それとも自分の目が怖いのか、少しためらっている。
呼び止めたのも、計画的なものというわけではないだろう。
「もしかして……両親が亡くなっていたり……するんですか?」
雪輝の疑問にバットマンは目を細める。
いつ知ったのか、単純に疑問だったためだ。
「あ、え……と。寝言で……言っていたから……その……」
「そうか。気にする必要はない」
バットマンは答えながら、なぜ彼が問いているのか理由を察し始めていた。
目がなにより雄弁に語っている。あなたも同じなのかと。
「僕は……わからないんです。あなたが正義の味方をやる理由が……」
痛みを堪らえるように、雪輝は胸元を抑えていた。
何かに耐えるように、歯を食いしばっている。
バットマンは――ブルースはその瞳をよく知っていた。
「大切な人を失って……どうしてそんなに強くなれるんですか!?」
雪輝の質問を受けて、ブルースはいつかの日を思い出す。
サーカスを見に行ったその日、一人の少年がみなしごとなった。
自分と同じ傷を持つ、その少年を理解したい、とブルースは思ったのだ。
両親を失った頃のディックと、雪輝が重なる。
ディックは大きい哀しみの感情をもてあました。
雪輝は哀しみの大きさを知っているためか、自分の自警活動を理解できないと言っている。
彼とディックはまったく重ならないはずだ。なのに、ブルースは懐かしい気持ちになった。
雪輝はおそらく、自分やディックと同じく、両親を失っている。
正直、ブルース自身は自らの精神を強靭だとは思っていない。
スーパーマンのように、誰かの平穏だけを望んでいるとも言い切れない。
確かに自分やディックのように、犯罪の犠牲者を減らすことはこの上ない喜びだ。
だが、自らの胸にある感情は無視しきれない。
犯罪者に対する憎悪を。
もしも、ヒーローとして殺人を封印しなければどうなっていただろうか。
ジョーカーは自分のことを狂人だと嘲笑っている。
否定をしても、あの宿敵の笑い声が耳から消えることはない。
ヒーローであることで、かろうじて自分を保っているのかも知れない。
だからこそ、バットマンであり続ける。
その生きざまだけは、変えたくない。
「長居しすぎた。私は行かせてもらうぞ」
雪輝は意気消沈し、心に壁を作ったように少し距離をとった。
ブルースは構わず、コウモリの覆面に手をかけた。
相手が驚くのも構わず、素顔をあらわにする。
「だが、アマノ……いや、ユキテル。戻ったら、もっと君と話をしたい」
同じ傷を持つ者同士として。
自分の思いを素直に伝えるのは苦手だ。
だから、ブルースは素顔を見せることで、本気で話をしたいと示した。
【F-9/下水道内:早朝】
【バットマン@バットマン】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:瓦礫による怪我、落下によるダメージ
[装備]:バットスーツ
[道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
1:アーチャーの援護。
2:雪輝と再合流した際、話がしたい。
3:ジョーカー、悪魔将軍等の動向に注意。
【天野雪輝@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:左腕に裂傷(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0~1、拾った工具類
[思考・状況]
基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
1:まひろと共にバットマンたちを待つ。
2:由乃と合流…?
3:悪魔将軍怖いっ! でも死んだのか…?
【武藤まひろ@武装錬金】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ワルサーP99(16/16)@DEATH NOTE ワルサーP99の予備マガジン1
[思考・状況]
基本行動方針:人は殺したくない
1:アーチャー、バットマンを待つ。
2:お兄ちゃん………
【備考】
※参戦時期は原作5~6巻。カズキ達の逃避行前。
□
自分たちが追えるということは、あの白銀の鎧を着たバケモノも追えるということだ。
地下水路の一番広い空間でアーチャーは敵を待ち続けた。
あのバケモノは余裕なのか、ゆっくりと歩いてきている。
先回りができたのはそのせいだろう。
敵が近づいてくる気配を感じ取る。水路は複雑だが、必ずこの広い空間にたどり着くためだ。
出口は背に向けている。入り口は前のみ。
アーチャーは双剣を持ちながらも、らしくないと自嘲した。
あの白銀の鎧を着こむバケモノは容易ならざる敵だ。
遠目から見ても常識外の強さを感じ取れる。平均的なサーヴァントが複数人で相手にして互角に戦えるかどうか。
必勝の策を持つか、戦闘可能な人物と数人組むかしない限り、敵対すべき存在ではない。
もちろん、まひろ達を連れて逃れる、という道も考えてみた。
ネックとなるのはまひろとあの少年。こちらが本気で逃げているとわかれば、鎧のバケモノも本気で追うだろう。
そうなれば追いつかれるのは必定だ。
一番効率がいいのは、ケガ人であるコウモリ衣装の男と、天野雪輝という少年を囮にする手段だ。
非情のようだが、鎧のバケモノを倒すために逃げ延び、戦力を募るのは長期的に見れば犠牲を少なくする。
つまり彼らには巨悪を倒すために犠牲になってもらう、ということだ。生前にしてきたことと大差ない。
そう、アーチャーは何度も小を殺し、大を生かしてきた。
ある時は家族のために窃盗を行うしかなかった集団を一方的に虐殺した。
またある時は危険なウィルスに侵された旅客機を撃ち落とした。
すべては数が多いか少ないかの違いしかない。
ただより多く人を助けたい、と願った男は、多くの人を見捨てた上で願いを叶えた。
その原因は力がないためでないか、と勘違いした時期もあった。
だから英霊になれば、より大きな力に委ねれば、すべてを救えると思って――いや、願っていた。
だが、結果はより多く殺し続ける死後の運命だけだ。
守護者は弱者を守らない。霊長類の滅亡を阻止するためだ。
悠久の刻を殺し続け、やがてアーチャーはかつての自分を憎んだ。
正義の味方を志さなければ。借り物の、歪な願いさえ抱かなければ。
「さて、と」
アーチャーは一歩踏み出した。長く考えすぎたらしい。
敵の足音が聞こえてくる。不思議と落ち着いていた。
今のアーチャーはかつての自分、衛宮士郎を憎んではいない。
昔は歪な願いを持つ自分を許せず、八つ当たり気味に殺しかかった。
だが、かつての自分だった彼は「間違いなんかじゃない!」と叫んだ。
自分がもたらした戦闘技術も捨て、未熟な、稚拙な一撃を届かせた。
その姿を、一生懸命に理想を捨てないとがむしゃらに進む衛宮士郎を見て思ったのだ。
自分は間違っていなかった。
それだけでいいと思った。それ以上は贅沢のはずであった。
なのに、武藤まひろは言ったのだ。
『みんなの味方をしてください』
自分は自他ともに認める『正義の味方』という機能だ。
だけど、その道を、昆虫的なほどに機械的な正義の秤を――恋人や数少ない友人はいたもの――肯定されたことは数少ない。
何より、まひろは本来、『切り捨てるべき弱者』にいつ類されるかわからない少女だ。
だからだろう。アーチャーは誰かに肯定される喜びを思い出した。
噛み締めるように一歩一歩前に進む。
「ほほう、このわたしを前にして歩みを止めぬか」
「悪いが、用があってね」
アーチャーはそう言って、爆薬のついた矢を見せた。
鎧のバケモノは思い至ったのか、こちらに視線を送る。
「あの時、邪魔をしたのはキサマだったか」
「違うな。貴様を邪魔しているのではない。貴様が邪魔なんだ」
変わらず皮肉を返すと、相手はいきなり笑い出す。
「グワッハッハッハ! あの戦いを見ておきながら、このわたしを倒すつもりか!」
悪魔将軍が言い終えると同時に、アーチャーは双剣を投げ飛ばした。
黒の短剣が銀の鎧と衝突し、爆破する。空間が震える中、アーチャーは鋭い瞳を爆煙に向けていた。
「この程度でわたしを倒せると思うとは、舐められたものだな」
「何、最初から期待はしていないさ」
アーチャーの返しに、敵は問うような視線を向けてた。答えはすぐにでも返ってくる。
部屋が再度振動し、瓦礫が落ちた。爆発が二つあったことは、同時に壊すことで気づかせなかった。
ガラガラと盛大な音ともに、出口が閉鎖された。アーチャーは前と後ろ、同時に投げたのだ。
敵はしばらく呆然としていたが、やがて肩を大きく揺らす。
「クックック……ハハッハハ! わたしを狙うと見せかけ、出口の破壊が目的か。
しかし、この悪魔将軍と戦えばただですまないと知っておきながら、デスマッチの場を整えるとは!
どうやら人間ではないようだな。いいだろう、その挑戦を受けよう。見知らぬ正義超人よ!」
『正義』超人か、とアーチャーは皮肉に唇を歪めた。
同じ肯定だというのに、まひろと違って嫌悪感しか浮かばない。
だけど不思議と気分は悪くない。
アーチャーは答えを得て、『切り捨てるべき弱者』から肯定された。
ゆえに今は――ただ双剣を手に取るのみ。
「ああ、受けてもらうぞ! 悪魔の将!!」
【G-9/地下空洞:早朝】
【アーチャー@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:干将・莫耶
[道具]:基本支給品、高級お茶会セット、グリーンアローの弓矢、不明支給品0~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:目に映る限りの人を救う
1:目の前の悪魔将軍を倒す。
2:情報を収集し参加者とのパイプを作り、疑心による同士撃ちを防ぐ。
3:当面は武藤まひろを守り抜く。信頼できる相手がいたらそこに託す。
4:Horは人を守る者、Setは人を殺す者、Isiは力を持たない者?
[備考]
※登場時期はUBW終了後(但し記憶は継続されています)
※投影に関しては干将・莫耶は若干疲労が強く、微妙に遅い程度です。
※他の武器の投影に関する制限は未定です。
※悪魔将軍をSet、黒衣の男(バットマン)はHorではないかと推測。
【悪魔将軍@キン肉マン】
[属性]:Set(悪)
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:メロの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:悪を為す
1:無名の正義超人(アーチャー)を倒す。
2:空条承太郎を見つけ出して殺す。
3:黒衣の男(バットマン)を殺す。
4:殺し合いを楽しみ、トロフィーとして首輪を集め、それが終わった後は主催者を殺す。
※基本支給品2、不明支給品2~6が、H-9、ビル建設現場に、破壊されたか使える状態で散乱しているかもしれません。
□
「ん……?」
雨流みねねは今、街灯が一つしかない薄汚れた路地にいた。
足許のかすかな振動と、何かが崩れる音。
爆発のスペシャリストであるみねねにとって、聞き慣れた物である。
「いったい何が起きているやら……」
みねねは楽しそうに独りごちて、顎に手を当てる。
大型バイク、HONDA FIREBLADEの上でみねねは地下水路の入り口になる、マンホールへ視線を向けていた。
振動と音から察するに、発生源は地下以外ありえない。
さすがにバイクで侵入するのは無理だろう。他に入り口があるかもしれないが、さがすのも手間だ。
中に入って、退路が限定されるのもまずい。
「とはいえ、何が起きているか確認しないのも、私らしくない」
結局、逃亡日記だよりになるというわけだ。
ここは12thたちが争っているところとそう離れてはいない。
早く結論を下さないといけないだろう。
ちょうど日記が変化を示すノイズを発する。
みねねの日記に描かれた未来は――。
【G-9/工場地帯 /一日目 早朝】
【雨流みねね@未来日記】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康、参戦前に左目を失明
[装備]:日本刀、シルクスペクターのコスチューム@ウォッチメンで顔を隠しています。
HONDA FIREBLADE(登場話で拾ったもの)
[道具]:基本支給品一式、みねねの逃亡日記のレプリカ、
雨流みねねの爆弾セット(中量)@未来日記、ロビンマスクの基本支給品一式、不明支給品1~3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:基本は皆殺しで勝ち狙い。殺せる相手は殺し、厄介ならば逃げる。逃亡日記の記述には基本従う。宗教関係者は優先して殺す。
黄泉の言うとおり、少しは情報収集にも努める(?)
1:放送まで511キンダーハイムで黄泉を待つか、爆発現場を確かめるか、日記で決める。
2:黒衣の男は敵と認識。
3:黄泉も機を見て殺す。出来れば強者と道連れにしたい。
4:悪魔将軍……殺してやるよ
[備考]
※悪魔将軍の容姿、技などを知りました。
*時系列順で読む
Back:[[幼気]] Next:[[ほほえみの爆弾]]
*投下順で読む
Back:[[幼気]] Next:[[ほほえみの爆弾]]
|[[BATMAN:Tales of the Devil]]|[[バットマン]]|[[]]|
|~|[[天野雪輝]]|[[]]|
|~|[[アーチャー]]|[[]]|
|~|[[武藤まひろ]]|[[]]|
|~|[[悪魔将軍]]|[[]]|
|[[それぞれの信じるモノ]]|[[雨流みねね]]|[[]]|
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**手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c
薄汚れた道路の一角を、古い街灯が照らす。歓楽街から離れた、人通りの少ない場所であった。
そこを一目で裕福そうだとわかる家族が通る。
「勇敢だったね、ママ」
映画を見た帰り道、少年はうれしそうに話題をふる。
一方、母親の方は少しだけ眉をしかめていた。
映画がやや乱暴だったのが気に入らないらしい。
父親は穏やかに、男の子だからしょうがないさ、と苦笑交じりに告げていた。
この後は食事をして家路につき、興奮する子どもをなだめながら、両親は眠りにつかせるだろう。
穏やかで力強い父親。優しく包容力のある母親。
大好きな二人に囲まれたまま、明日もまた来るのだと、少年は無邪気に信じていた。
だからこそ、そこを通るのはやめるんだ、と姿の見えない誰かは叫んだ。
彼はこの顛末を知っていた。家族に振りかかる不幸を知っていた。
だけど容赦なく、曲がり角の向こうから不幸は這い寄ってくる。
影は懐に手を入れた大柄の男だ。
「その真珠を渡してもらおうか」
なんども聞き慣れた粗暴な声。男は銃を突きつけ、家族を脅す。狙いは母親の持つ真珠のネックレスだ。
彼は父親が抵抗するのを知っていた。
駄目だ、父さん。それ以上は――。
誰かは祈る。ただの一度だけでいい。
家族を見逃して欲しい。父親が悪漢を撃退して欲しい。母親の真珠を諦めて欲しい。
夢でもいいから、自分を一人にしないで欲しい。
置いて行かないで、父さん、母さん。
無慈悲に銃声が二つ、轟いた。
愛していた両親は足許に崩れ落ちる。殺した男は一目散に逃げていった。
願っていた彼――その時はまだ少年の彼はただ、静かに涙を流す。その瞳には……。
□
目を覚ましたところは、見たことある薄汚れた部屋だった。
地下水路らしく、パイプがむき出しになっている。どこからかドブの臭いが漂っていた。
この部屋は見覚えがある。
いつか、アーカムからの脱走者が“フリーク”と呼ばれて徒党を組んでいたときに使われていたアジトだ。
潰れたはずの場所が残っていることに違和感を覚えつつ、バットマンは頭を振って思考を明確にする。
どうやら気を失っていたらしい。
直前の指示を思い出し、不審に思った。ここはバットケイブではない。
どういうことか問い詰めようとして、バットマンはベッドを軋ませながら天野雪輝の姿を探す。
「あ、雪輝くん。バットマンさんが起きたよー」
返ってきたのは少年の声ではなく、明るい少女のものであった。
疑問をさらに深める。いったい少女は誰なのか。
「君はいったい……それに少年がいたはずだが」
バットマンが彼女に問うと、探していた少年が声をかけた。
「僕はここです。彼女は……」
「私は武藤まひろです! よろしくお願いします!
えーと、応急処置をしましたけど、体の方はどうですか? 辛いところありませんか?」
そういうことか、とバットマンは疑念を解く。
よく自らの身体を見下ろせば、手当のあとが発見できた。
包帯を巻きすぎている気もするが、問題はない。マスクには手をかけられていなかった。幸運だ。
彼らに聞かねばならぬことは多くある。
バットケイブは見つからなかったのか。
ロングヘアの彼女――武藤まひろは何者なのか。
ここはどこなのか。
そして、矢を射る支援者はわかったのか。
悪魔将軍から完全に逃げ切れたのか。
一瞬で整理しながら、バットマンは短く問う。
「現状の説明を頼む」
□
時間は悪魔将軍に爆発する矢が放たれた頃だ。
結論から言うと、武藤まひろはアーチャーの言いつけを守らず、後を追ってしまった。
足手まといになるのはわかっていたが、それでも『もしかして』という気持ちは抑えられない。
彼女の兄、武藤カズキがいるのではないか、という期待は。
くじけてはいけない、とまひろは己を叱咤する。
瞬間、爆発音に思わず首をすくめた。音の大きさからして、音源とはある程度距離があるだろう。
だけど、ここが殺し合いの場だと自覚を促す音に、まひろは心音を高めていた。
「周囲の警戒を頼むといったが……ここは私に任せて欲しかったのだがな」
やや呆れを含んだ、皮肉げな声にホッとする。
白髪に赤い衣装の青年が弓を片手に、曲がり角から現れたのだ。
「アーチャーさん、今の音は……」
「ああ、安心していい。あれは私が起こした」
こともなげに告げるアーチャーの顔を、そっと見上げた。
彼は自分を助けてくれた。ならば、誰かを傷つけるため、というわけではないだろう。
まひろは察しのいい少女である。ゆえに彼がなんのために弓矢を使ったのか、理解ができた。
「誰か……襲われていました?」
「…………」
アーチャーは手を顎に当てて沈黙をする。どう告げるべきか考えているのだろうか。
まひろがもう一度問い直そうと思ったとき、答えは返ってきた。
「勘が鋭いな。それがいいか悪いかは、さておき」
弓兵の顔はどこか寂しそうに見えた。ふと、いつかの兄を思い出す。
不安になる自分に、「二度と恐い思いはしない」と告げた兄の顔を。
おそらく、アーチャーは優しい人間だ。襲われた人を助けたいのだろう。
だが、自分が足かせになって助けに向かいたい気持ちを押し殺している。
もっとも、これはまひろの勝手な推測だ。勘違いかもしれない。
それでも、彼女は告げる。
「じゃあ、助けに向かいましょう!」
「そうしたいのは山々だが……」
「私なら大丈夫! なにを隠そう、私は隠れん坊の名人よ!」
どこからか取り出したダンボールを手に、瞳を輝かせて告げた。
震えそうになる足に喝を入れ、恐怖は決して見せない。
きっと、自分と誰かを助けに向かうことを秤にかけた場合の兄にも同じことを言うだろうから。
「まったく、少しは緊張感を――」
「だから、アーチャーさんが誰かを助けに向かっても構いません。
なにより私がそうして欲しいから」
ため息混じりで忠告しようとするアーチャーに向かって、まひろはたたみかける。
「襲われた人の……みんなの味方をしてください」
みんなを守った、兄のように。
まひろは願いを込めて、そう嘆願した。
アーチャーはしばし呆然としていた。
なにかおかしなことを言っただろうか、まひろは思索する。
「君は……いや、いい。仰せのままに」
どこか茶化すような物言いに対して、首を傾げた。
呆れたような、ほっとしたようなため息をついて、アーチャーはまひろに近寄る。
「ならば役割分担だ。彼らは地下水路に逃げていった。途中までは私が送ろう。合流後、彼らの手当てを頼む」
「場所はわかるんですか?」
「彼らは怪我をしていてな。血の跡を追えばなんとかなるはずだ」
「それは構いませんが……アーチャーさんはどうするんですか?」
弓兵は一瞬だけ獰猛な顔を見せ、すぐに消す。
肩越しに振り返り、真っ直ぐ伸びる道路の先を鋭く見た。
「なに、少し足止めをするだけさ」
まひろは顔を曇らせる。誰かが襲われたということは、襲った誰かがいることだ。
アーチャーは戦うことになる。
ならば、まひろはこころよく送り出すことしかできない。
「わかりました、その人達は私に任せてください!」
「ああ、頼んだ」
アーチャーはまひろを抱き上げながら赤い外套をひるがえした。
まひろは尋常でない脚力に驚きながらも、頼もしげな顔を見つめた。
「もう……運べない……」
雪輝はバットマンをおろし、弱音を吐く。
そもそも、中学生としてもひ弱な彼が、鍛えられた成人男性を運ぶなど無理な話であった。
さらに場所は地下水路だ。薄汚れた通路に下水の臭い。
精神面を疲れさせるには充分だ。
とはいえ、上の都市が無人のためか、臭いはまだマシである。
臭いを吸い込まないように口元を抑え、呼吸を整える。
しばらく休もう。そう考える雪輝の傍で、寝言が聞こえてきた。
「……父さん……母さん……僕を……一人にしないで……」
雪輝は思わず彼の顔を見た。ものものしい覆面はいつもと変わらない。
だが鍛えられた肉体を持ってバケモノと戦った姿と、今の弱々しいつぶやきが一致しなかった。
その声はまるで、父親が刺されたときの自分のような――。
ありえない、と雪輝は首を振る。
バットマンは正義の味方で、バケモノと渡り合う戦士だ。
確かに自分はすべてを殺し、それをなかったことにすることで皆を救う決意をした。
だけど、未来日記により神を知り、願いを叶えることが可能だとわかっているからこその行動なのだ。
それに、由乃がいた。未来日記があった。厄介な敵がいた。
バットマンのように、自分の身一つで戦えるほど心は強くない、と自覚をしている。
だから、彼が自分と似たような想いをしている、などとは想像ができないのだ。
「でも……」
彼のような正義の味方でも、自分と似たような哀しみを持つのだろうか。
それでも屈しない強さの元とはなんだろうか。
雪輝の心中に答えのでない疑問がわく。
自分と同じ傷を持った上で、人は強く在れるのだろうか。
グルグルと答えのでない袋小路にはまり、雪輝はため息を一つ吐いた。
そんな彼の思考を、携帯のノイズ音が中断させる。
未来が変わったのだ。雪輝は周囲を警戒しながら、未来日記を覗き込む。
その画面にあったのは――。
□
「――そのあと、雪輝くんを見つけて、バットマンさんをここまで運びました」
「日記を見る限り、彼女たちに敵意はないと判断して……。
それに僕一人だと運べなかったし、バットケイブは見つからなかったから……」
「なるほど。だいたい理解した」
自分の知るゴッサムシティとの差異はさておき、少女については納得した。
まだ若い、子どもと言っていい雪輝に自分を運べ、というのも酷な話だ。
バットマンは座っていたベッドから静かに立ち上がり、体の調子を確認する。
動きに問題はない。バットマンの方針は決まっていた。
「私がアーチャーという青年の援護に向かう。君たちはここに隠れていて……いや、それもまずいな。
……二時間経って私が戻らなければ、ここから移動してくれ。
ウェイン邸に向かえば、いずれ合流が可能だと覚えてくれればいい」
離れるように指示したのは、かつてここを根城にしたことがあるジョーカーを考慮してである。
あの時はトゥーフェイスと組んでいた。たちの悪い道化王子がそのことに思い至り、訪れないとも限らない。
バットマンは必要最低限の指示を出して、地下水路を出ようと準備をした。
そこを、天野雪輝に呼び止められる。
「ちょっと待ってください!」
「何?」
「え……と……一つ、聞かせてください」
「……手短に頼む」
雪輝は緊張しているのか、ゴクリとつばを飲み込んだ。
話を切り出したのを後悔しているのか、それとも自分の目が怖いのか、少しためらっている。
呼び止めたのも、計画的なものというわけではないだろう。
「もしかして……両親が亡くなっていたり……するんですか?」
雪輝の疑問にバットマンは目を細める。
いつ知ったのか、単純に疑問だったためだ。
「あ、え……と。寝言で……言っていたから……その……」
「そうか。気にする必要はない」
バットマンは答えながら、なぜ彼が問いているのか理由を察し始めていた。
目がなにより雄弁に語っている。あなたも同じなのかと。
「僕は……わからないんです。あなたが正義の味方をやる理由が……」
痛みを堪らえるように、雪輝は胸元を抑えていた。
何かに耐えるように、歯を食いしばっている。
バットマンは――ブルースはその瞳をよく知っていた。
「大切な人を失って……どうしてそんなに強くなれるんですか!?」
雪輝の質問を受けて、ブルースはいつかの日を思い出す。
サーカスを見に行ったその日、一人の少年がみなしごとなった。
自分と同じ傷を持つ、その少年を理解したい、とブルースは思ったのだ。
両親を失った頃のディックと、雪輝が重なる。
ディックは大きい哀しみの感情をもてあました。
雪輝は哀しみの大きさを知っているためか、自分の自警活動を理解できないと言っている。
彼とディックはまったく重ならないはずだ。なのに、ブルースは懐かしい気持ちになった。
雪輝はおそらく、自分やディックと同じく、両親を失っている。
正直、ブルース自身は自らの精神を強靭だとは思っていない。
スーパーマンのように、誰かの平穏だけを望んでいるとも言い切れない。
確かに自分やディックのように、犯罪の犠牲者を減らすことはこの上ない喜びだ。
だが、自らの胸にある感情は無視しきれない。
犯罪者に対する憎悪を。
もしも、ヒーローとして殺人を封印しなければどうなっていただろうか。
ジョーカーは自分のことを狂人だと嘲笑っている。
否定をしても、あの宿敵の笑い声が耳から消えることはない。
ヒーローであることで、かろうじて自分を保っているのかも知れない。
だからこそ、バットマンであり続ける。
その生きざまだけは、変えたくない。
「長居しすぎた。私は行かせてもらうぞ」
雪輝は意気消沈し、心に壁を作ったように少し距離をとった。
ブルースは構わず、コウモリの覆面に手をかけた。
相手が驚くのも構わず、素顔をあらわにする。
「だが、アマノ……いや、ユキテル。戻ったら、もっと君と話をしたい」
同じ傷を持つ者同士として。
自分の思いを素直に伝えるのは苦手だ。
だから、ブルースは素顔を見せることで、本気で話をしたいと示した。
【F-9/下水道内:早朝】
【バットマン@バットマン】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:瓦礫による怪我、落下によるダメージ
[装備]:バットスーツ
[道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
1:アーチャーの援護。
2:雪輝と再合流した際、話がしたい。
3:ジョーカー、悪魔将軍等の動向に注意。
【天野雪輝@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:左腕に裂傷(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0~1、拾った工具類
[思考・状況]
基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
1:まひろと共にバットマンたちを待つ。
2:由乃と合流…?
3:悪魔将軍怖いっ! でも死んだのか…?
【武藤まひろ@武装錬金】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ワルサーP99(16/16)@DEATH NOTE ワルサーP99の予備マガジン1
[思考・状況]
基本行動方針:人は殺したくない
1:アーチャー、バットマンを待つ。
2:お兄ちゃん………
【備考】
※参戦時期は原作5~6巻。カズキ達の逃避行前。
□
自分たちが追えるということは、あの白銀の鎧を着たバケモノも追えるということだ。
地下水路の一番広い空間でアーチャーは敵を待ち続けた。
あのバケモノは余裕なのか、ゆっくりと歩いてきている。
先回りができたのはそのせいだろう。
敵が近づいてくる気配を感じ取る。水路は複雑だが、必ずこの広い空間にたどり着くためだ。
出口は背に向けている。入り口は前のみ。
アーチャーは双剣を持ちながらも、らしくないと自嘲した。
あの白銀の鎧を着こむバケモノは容易ならざる敵だ。
遠目から見ても常識外の強さを感じ取れる。平均的なサーヴァントが複数人で相手にして互角に戦えるかどうか。
必勝の策を持つか、戦闘可能な人物と数人組むかしない限り、敵対すべき存在ではない。
もちろん、まひろ達を連れて逃れる、という道も考えてみた。
ネックとなるのはまひろとあの少年。こちらが本気で逃げているとわかれば、鎧のバケモノも本気で追うだろう。
そうなれば追いつかれるのは必定だ。
一番効率がいいのは、ケガ人であるコウモリ衣装の男と、天野雪輝という少年を囮にする手段だ。
非情のようだが、鎧のバケモノを倒すために逃げ延び、戦力を募るのは長期的に見れば犠牲を少なくする。
つまり彼らには巨悪を倒すために犠牲になってもらう、ということだ。生前にしてきたことと大差ない。
そう、アーチャーは何度も小を殺し、大を生かしてきた。
ある時は家族のために窃盗を行うしかなかった集団を一方的に虐殺した。
またある時は危険なウィルスに侵された旅客機を撃ち落とした。
すべては数が多いか少ないかの違いしかない。
ただより多く人を助けたい、と願った男は、多くの人を見捨てた上で願いを叶えた。
その原因は力がないためでないか、と勘違いした時期もあった。
だから英霊になれば、より大きな力に委ねれば、すべてを救えると思って――いや、願っていた。
だが、結果はより多く殺し続ける死後の運命だけだ。
守護者は弱者を守らない。霊長類の滅亡を阻止するためだ。
悠久の刻を殺し続け、やがてアーチャーはかつての自分を憎んだ。
正義の味方を志さなければ。借り物の、歪な願いさえ抱かなければ。
「さて、と」
アーチャーは一歩踏み出した。長く考えすぎたらしい。
敵の足音が聞こえてくる。不思議と落ち着いていた。
今のアーチャーはかつての自分、衛宮士郎を憎んではいない。
昔は歪な願いを持つ自分を許せず、八つ当たり気味に殺しかかった。
だが、かつての自分だった彼は「間違いなんかじゃない!」と叫んだ。
自分がもたらした戦闘技術も捨て、未熟な、稚拙な一撃を届かせた。
その姿を、一生懸命に理想を捨てないとがむしゃらに進む衛宮士郎を見て思ったのだ。
自分は間違っていなかった。
それだけでいいと思った。それ以上は贅沢のはずであった。
なのに、武藤まひろは言ったのだ。
『みんなの味方をしてください』
自分は自他ともに認める『正義の味方』という機能だ。
だけど、その道を、昆虫的なほどに機械的な正義の秤を――恋人や数少ない友人はいたもの――肯定されたことは数少ない。
何より、まひろは本来、『切り捨てるべき弱者』にいつ類されるかわからない少女だ。
だからだろう。アーチャーは誰かに肯定される喜びを思い出した。
噛み締めるように一歩一歩前に進む。
「ほほう、このわたしを前にして歩みを止めぬか」
「悪いが、用があってね」
アーチャーはそう言って、爆薬のついた矢を見せた。
鎧のバケモノは思い至ったのか、こちらに視線を送る。
「あの時、邪魔をしたのはキサマだったか」
「違うな。貴様を邪魔しているのではない。貴様が邪魔なんだ」
変わらず皮肉を返すと、相手はいきなり笑い出す。
「グワッハッハッハ! あの戦いを見ておきながら、このわたしを倒すつもりか!」
悪魔将軍が言い終えると同時に、アーチャーは双剣を投げ飛ばした。
黒の短剣が銀の鎧と衝突し、爆破する。空間が震える中、アーチャーは鋭い瞳を爆煙に向けていた。
「この程度でわたしを倒せると思うとは、舐められたものだな」
「何、最初から期待はしていないさ」
アーチャーの返しに、敵は問うような視線を向けてた。答えはすぐにでも返ってくる。
部屋が再度振動し、瓦礫が落ちた。爆発が二つあったことは、同時に壊すことで気づかせなかった。
ガラガラと盛大な音ともに、出口が閉鎖された。アーチャーは前と後ろ、同時に投げたのだ。
敵はしばらく呆然としていたが、やがて肩を大きく揺らす。
「クックック……ハハッハハ! わたしを狙うと見せかけ、出口の破壊が目的か。
しかし、この悪魔将軍と戦えばただですまないと知っておきながら、デスマッチの場を整えるとは!
どうやら人間ではないようだな。いいだろう、その挑戦を受けよう。見知らぬ正義超人よ!」
『正義』超人か、とアーチャーは皮肉に唇を歪めた。
同じ肯定だというのに、まひろと違って嫌悪感しか浮かばない。
だけど不思議と気分は悪くない。
アーチャーは答えを得て、『切り捨てるべき弱者』から肯定された。
ゆえに今は――ただ双剣を手に取るのみ。
「ああ、受けてもらうぞ! 悪魔の将!!」
【G-9/地下空洞:早朝】
【アーチャー@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:干将・莫耶
[道具]:基本支給品、高級お茶会セット、グリーンアローの弓矢、不明支給品0~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:目に映る限りの人を救う
1:目の前の悪魔将軍を倒す。
2:情報を収集し参加者とのパイプを作り、疑心による同士撃ちを防ぐ。
3:当面は武藤まひろを守り抜く。信頼できる相手がいたらそこに託す。
4:Horは人を守る者、Setは人を殺す者、Isiは力を持たない者?
[備考]
※登場時期はUBW終了後(但し記憶は継続されています)
※投影に関しては干将・莫耶は若干疲労が強く、微妙に遅い程度です。
※他の武器の投影に関する制限は未定です。
※悪魔将軍をSet、黒衣の男(バットマン)はHorではないかと推測。
【悪魔将軍@キン肉マン】
[属性]:Set(悪)
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:メロの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:悪を為す
1:無名の正義超人(アーチャー)を倒す。
2:空条承太郎を見つけ出して殺す。
3:黒衣の男(バットマン)を殺す。
4:殺し合いを楽しみ、トロフィーとして首輪を集め、それが終わった後は主催者を殺す。
※基本支給品2、不明支給品2~6が、H-9、ビル建設現場に、破壊されたか使える状態で散乱しているかもしれません。
□
「ん……?」
雨流みねねは今、街灯が一つしかない薄汚れた路地にいた。
足許のかすかな振動と、何かが崩れる音。
爆発のスペシャリストであるみねねにとって、聞き慣れた物である。
「いったい何が起きているやら……」
みねねは楽しそうに独りごちて、顎に手を当てる。
大型バイク、HONDA FIREBLADEの上でみねねは地下水路の入り口になる、マンホールへ視線を向けていた。
振動と音から察するに、発生源は地下以外ありえない。
さすがにバイクで侵入するのは無理だろう。他に入り口があるかもしれないが、さがすのも手間だ。
中に入って、退路が限定されるのもまずい。
「とはいえ、何が起きているか確認しないのも、私らしくない」
結局、逃亡日記だよりになるというわけだ。
ここは12thたちが争っているところとそう離れてはいない。
早く結論を下さないといけないだろう。
ちょうど日記が変化を示すノイズを発する。
みねねの日記に描かれた未来は――。
【G-9/工場地帯 /一日目 早朝】
【雨流みねね@未来日記】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康、参戦前に左目を失明
[装備]:日本刀、シルクスペクターのコスチューム@ウォッチメンで顔を隠しています。
HONDA FIREBLADE(登場話で拾ったもの)
[道具]:基本支給品一式、みねねの逃亡日記のレプリカ、
雨流みねねの爆弾セット(中量)@未来日記、ロビンマスクの基本支給品一式、不明支給品1~3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:基本は皆殺しで勝ち狙い。殺せる相手は殺し、厄介ならば逃げる。逃亡日記の記述には基本従う。宗教関係者は優先して殺す。
黄泉の言うとおり、少しは情報収集にも努める(?)
1:放送まで511キンダーハイムで黄泉を待つか、爆発現場を確かめるか、日記で決める。
2:黒衣の男は敵と認識。
3:黄泉も機を見て殺す。出来れば強者と道連れにしたい。
4:悪魔将軍……殺してやるよ
[備考]
※悪魔将軍の容姿、技などを知りました。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|~|[[アーチャー]]|[[]]|
|~|[[武藤まひろ]]|[[正義戦隊ゴ12th 第五話 熱烈歓迎新たな仲間!]]|
|~|[[悪魔将軍]]|[[]]|
|[[それぞれの信じるモノ]]|[[雨流みねね]]|[[]]|
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