「理性と感情の差異」(2010/11/02 (火) 12:02:21) の最新版変更点
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**理性と感情の差異 ◆PesJMLsHAA
ジョーカーから離れてからある程度時間が経ち、めだかの体力も少しは戻ってきた。しかし会話はともかく、動き回るのは厳しいところだ。
そこで、まずは今後の行動について相談することになった。
「まあ、考え方としてはいくつかあるよな」
まず一つ目、いいなりになってバットマンという男――――名前からして男だろう。バットウーマンではないのだから――――を連れてくる。
「バットマンと会えれば、ジョーカーに対しての助言も頼めるかもしれない。
ジョーカーがバットマンに対して因縁があるのなら、その逆も同じことだからな」
「単純ですが妥当な手でもありますね。問題点はバットマンを発見できるかどうかですか」
「だから、これはそこまで優先しなくてもいい。誰かに会った時に軽く質問する程度でいいだろ。
並行して別のやり方も試せばいいだろ」
誰かを探すことに専念するのは効率もあまりよくない。
ジョーカーだけではなく、この殺し合いも許せないのだから、あの狂人相手にだけ集中することはできない。
極論、首輪を外すことができれば無視してもいい相手だ。
「正しい意見でしょうね。この実験とやらの主催者は、あの男よりもなお脅威です」
「まあ、まずはジョーカー相手のやり方を考えなきゃならないだろうけどな」
無視してもいいのは、首輪を外せればという話だ。
そもそもこの二人にとっては、自分が安全でもジョーカーは見過ごせない。
黒神めだかの信念と、衛宮士郎の夢。そのどちらから見ても、あの男を放置することはできない。
そしてジョーカーに命を握られている現状を変えなければならないのも当然のこと。
いつ殺されるか分からない危険な状態から脱しなければ、精神的な負担も大きくなる。
「いつでも殺せるというのが、単なるハッタリという可能性もありますが」
「言い切るだけの根拠もないから、楽観したくないけどな」
そうであれば助かる。しかし実証することができない以上、ジョーカーの言葉を事実と仮定する他はない。
「二つ目――――あいつと例の装置をなんとかする。
正面から戦うのは難しいけど、奇襲や狙撃ならなんとかなるかもしれない」
自分達だと気付かれずに、ジョーカーを倒す。危険な相手だからこそ、すぐにでも無力化しておきたい。
「また単純ですね。しかも、あまりいい方法とは思えない」
奇襲も狙撃も、そう簡単なことではない。
相手に気付かれずに接近することは、黒神めだかにとっては不可能なことではない。
そしてその上で、相手を一撃で気絶させることもやろうと思えばできるかもしれない。
しかしそれでも不可能ではないというだけの話。確実ではないのだ。
「狙撃も同じことでしょう。何か手段があるのですか?」
「残念なことに、銃も何も支給されてない。狙撃なら、何度か失敗しても取り返しはつくと思ったんだけどな。
生きているうちはともかく、死んでからじゃ脅迫もできないだろ。もっとも、銃なんて使ったこともないけど」
そう口に出した言葉は、めだかにとっては聞き逃せない言葉だった。
残念なことに。生きているうちはともかく。死んでからじゃ。
そのすべてが、彼女にとっての禁忌に触れていた。
「……待ってください。それは、どういう意味です」
「どういう意味って……それこそどういう意味だよ」
あえて確認する。衛宮士郎は善人だと彼女は見た。
そして日本の学生である。偽装などではないと彼女は既に判断している。
その彼が、軽々しく人を殺すと口にした。その意味は分かっている。
だとしても、聞かないわけにはいかないのだ。
「私には、あの男を殺す気だという風に聞こえましたが」
「いや、殺すしかないだろ。あれは説得できる相手じゃない。
あいつは壊れている。しかも壊れてるだけじゃなく、その方向性が致命的だ」
壊れた人間は、その方向性を変えることはない。変わったように見えたとしても、芯の部分は変わらない。
そう主張する衛宮士郎に対し、黒神めだかは反論する。
「殺すべきではないでしょう。そもそも、銃があっても私達は学生だ。銃刀法というものがある。
なにより、人を殺すのは悪いことだ」
「法的なことか? そりゃあ、殺人はよくないけどさ。
状況的には正当防衛ってことになるんじゃないのか」
「そういうことを言っているのではありません」
そう。法律の問題ではない。人が人を殺すのは、そんな簡単なものではないのだ。
たとえどのような状況であれ、あっさりとその選択肢を選ぶことは許容できない。
「……なあ、黒神。抵抗があるのは分かるけど、そんなことを言ってられる状況じゃないだろ。
別にお前にやれとは言わない。というか、やらせない。黒神はいい奴だし、人殺しができるなんて思えないからな」
「自分は人を殺すことができるとでも言いたげですね」
「死体には慣れてるよ。それに、これは必要なことじゃないのか」
ジョーカーは人殺しをためらうまい。この殺し合いに参加させられた者達全員の命。そして、黒神めだかの命。
それらを考えれば、あの男を殺さざるを得ない。衛宮士郎は、殺さなければならない場合になればためらわない。
本来はその殺すという判断は、かなりゆるいものなのだが――しかしそれでも、ジョーカーは規格外だ。
衛宮士郎をして、初対面で殺すべきだと判断させた。それほどの純粋さを、あの男は持っている。
そんなことは黒神めだかにだってわかっていたし、そういう相手を知らないわけでもない。
しかしそれでも、即断で殺すほどではないと考えるのが彼女だった。
「あれが危険な男であるというのは認めます。殺した方がいいという理屈も。
しかしそれでも、私は人を殺さないし、殺させるつもりもありません」
誰も殺さず、殺させずにこの場を脱する。それが理想的な展開だと、衛宮士郎も理解している。
否、理解しているのではなく、目指している。だが、そういった理想とはまた別にして断言しなければならない。
「軽く言葉を交わしただけでも、殺さなくちゃならないと断言できる。
あいつはそこまで危険なヤツだ。だから黒神、納得できないならここで別れよう」
「別れる? 殺人を行うと宣言したあなたを見過ごせと言うのですか」
片目をつむりながら、士郎を睨む。当然のことだと言うかのように。
殺人を許容しないのだから止めるしかないと。
「違う。そもそも今のままじゃ殺せない。手段がないってのはもう言ったじゃないか。
やり方が合わないんだ。このまま一緒にいても意味ないだろ。それにバットマンを探すには手分けした方がいい」
「衛宮上級生、誤魔化さないでもらえますか。今の論点はそこではない。
殺人を許容するか否かでしょう」
「誤魔化してなんかいない。このまま一緒にいたって時間の無駄だ。
ジョーカーを殺すかどうかについては――――」
「私は誰も殺させない。つまり、あなたを見逃すこともできないということです」
その言葉を最後に、お互いに無言になった。
平行線だ。説得はできない。そもそも議論にすらならない。
衛宮士郎は黒神めだかの決意を正しいと思っているし、黒神めだかは衛宮士郎の考えを正しいと認めている。
その上ですれ違うのであれば、これはもう言葉を交わしても意味はない。
◆
それが少し前のこと。今はお互いにカフェの中で休んでいる。
あの言い合いで精神的な疲れが出たのだろう。めだかの消耗が表に出来ていた。
それでも彼女は冷静であり、抜け目はない。座席は離れているが、めだかは士郎が姿を消せばすぐにわかる位置を確保している。
そして疲労があるのは、士郎も同じことだった。
(……失敗した)
そもそも殺すなどと口にする必要はなかったのだ。バットマンを探すために手分けしようと言えば納得しただろう。
それなのにわざわざ宣言してしまった。それが衛宮士郎の失敗だった。
(今はまだ体力も消耗してる。置いていこうと思えば簡単だけど……)
それはできない。こんな場所に一人で置いていくのは、見殺しにするのも同然だ。
行動するのなら彼女か回復してからということになる。だが、それでは逃げられない。
逃げられたとしても意味がない。彼女は士郎を探すだろうし、それではジョーカーから離れることにはならない。
彼女と別行動を取ることはできない。そして彼女がいる限り、ジョーカーの近くにいるわけにもいかない。
選択肢はなくなった。これからの行動はジョーカーから離れることを優先し、バットマンを探すことになるだろう。
(けど、なんであそこまで熱くなってたんだ、俺は)
殺すべきではないという主張に対して、殺すべきだと強く主張した。自分でもらしくないと思う。
正しいのは黒神めだかだと分かっている。そう簡単に人を殺すべきではないと、自分でも思っている。
(黒神が相手だからか? でも、黒神相手に熱くなる理由なんて――――)
ないはずだ。いい奴だと思う。頼りになる奴だとも思う。
強引ではあるけれど、それでも最初に会ったのが彼女のような人でよかったとも思う。
共感すらできる相手だ。なのにどうして、ああも熱くなってしまったのか。
無意識に、気に入らないことでもあったかのように。
◆
黒神めだかは、自らの思考に疑問を抱いた。
衛宮士郎の言い分は理解できるものだったし、ジョーカーに対する印象も同じだった。
それでも殺さずに済ませた方がいいというのは、自分の方針としては何の間違いもない。
だがしかし、あの反論はらしくなかった。彼の意見が正しいと、口に出して認める。
その上で行動をもって自分のやり方を示すのが自分ではなかったのか。
(まあ、理由はおおよそ把握できてはいるが)
黒神めだかは異常である。彼女は反射神経持たないがゆえの学習速度を誇っていた。
それが異常な反射神経を持つ相手と向き合うことで、異常な反射神経すら手に入れる。
他者の能力を相手以上の完成度で習得する。それこそが彼女の異常性である完成――――ジ・エンド。
アブノーマルの異常性は心理面の影響も大きい。殺意すらも習得する彼女の異常は、相手の精神面を察することにも通ずる。
つまり彼女は察したのだ。衛宮士郎は壊れている、と。彼の感性は常識的だ。しかしその上で秤がずれている。
それはいい。判断基準に個人差があるのは当然で、それがまっとうな人間というものだ。
めだかとて、親しい相手と見知らぬ相手では優先順位に大きな違いが出る。
しかしそのズレは、彼女にとって不快なものだった。壊れていると断言してもいいほどに。
(自分より他人を優先するのはいい。危険な相手だから排除すべきだと考えるのもいい。
だが排除すべきだと考えた相手さえ、本音では救いたいというのは……)
その差異が不愉快だった。中途半端だと攻める気にはなれない。
人を殺すことはよくないことで、だからそれを避けるべきだと主張するのがめだかならば。
殺したくない相手でも殺すと決めたならば殺す。その思考が、彼女には不自然に思えるのだ。
人間なのだから感情をもてあますのは当然であり、それでも理性で判断したとは言える。
自分ではなく、他者とって危険だから殺すべきだという判断。
できることなら殺したくはないという感情。表面上だけ見ればまっとうで、彼女が不快に感じる余地はない。
しかしその感情。本音の部分で殺したくないと考える。その殺したくないという度合いの大きさ。
誰であっても、死なない方がいいという感情を抱いている。その感情を無視して殺すべきだと考えている。
そしてその押し殺した感情は、親しい相手に死んで欲しくないという感情にすら匹敵する。
彼は親しい相手さえ、殺すべきなら殺せる人間だ。それを察したからこその不快感なのだろう。
(……ああ、そうか。関わりたくないのか、私は)
気持ち悪い。関わりたくない。そう思える相手と会ったことがある。
ジョーカーの狂気よりも、衛宮士郎の方が気に入らない。
自分と似通っている部分が少なからずあるからこそ、その差異が目につく。
それでも見逃すわけにはいかないという思いが、めだかにはある。
彼が人を殺すと言うなら、止めなければならない。それが誰であっても、止める。
自分はみんなを幸せにする為に生れてきた。そう言われたのだ。
黒神めだかは、理性でそう断じていた。
【E-6/市街・カフェテリア:黎明】
【黒神めだか@めだかボックス】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康、電撃による体力の消耗
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
1:衛宮上級生と行動を共にする
2:ジョーカーを殺させない
3:バットマンを探す
4:衛宮上級生に不快感
[備考]
※第37箱にて、宗像形と別れた直後からの参戦です。
※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、現在地他多くの情報が筒抜けになっていますが、本人は気付いていません。
※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、1kmの範囲内では、ジョーカーによって電撃、または首輪の爆発をさせられる、と聞かされています。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
1:めだかと行動を共にする
2:めだかの回復を待つ
3:バットマンを探す
4:ジョーカーを生かしてはおけない
[備考]
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
*時系列順で読む
Back:[[BATMAN:Tales of the Devil]] Next:[[仮面の下のバラッド]]
*投下順で読む
Back:[[王と道化師]] Next:[[仮面の下のバラッド]]
|[[「Lights! Camera! Action!」]]|黒神めだか|[[]]|
|~|衛宮士郎|[[]]|
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**理性と感情の差異 ◆PesJMLsHAA
ジョーカーから離れてからある程度時間が経ち、めだかの体力も少しは戻ってきた。しかし会話はともかく、動き回るのは厳しいところだ。
そこで、まずは今後の行動について相談することになった。
「まあ、考え方としてはいくつかあるよな」
まず一つ目、いいなりになってバットマンという男――――名前からして男だろう。バットウーマンではないのだから――――を連れてくる。
「バットマンと会えれば、ジョーカーに対しての助言も頼めるかもしれない。
ジョーカーがバットマンに対して因縁があるのなら、その逆も同じことだからな」
「単純ですが妥当な手でもありますね。問題点はバットマンを発見できるかどうかですか」
「だから、これはそこまで優先しなくてもいい。誰かに会った時に軽く質問する程度でいいだろ。
並行して別のやり方も試せばいいだろ」
誰かを探すことに専念するのは効率もあまりよくない。
ジョーカーだけではなく、この殺し合いも許せないのだから、あの狂人相手にだけ集中することはできない。
極論、首輪を外すことができれば無視してもいい相手だ。
「正しい意見でしょうね。この実験とやらの主催者は、あの男よりもなお脅威です」
「まあ、まずはジョーカー相手のやり方を考えなきゃならないだろうけどな」
無視してもいいのは、首輪を外せればという話だ。
そもそもこの二人にとっては、自分が安全でもジョーカーは見過ごせない。
黒神めだかの信念と、衛宮士郎の夢。そのどちらから見ても、あの男を放置することはできない。
そしてジョーカーに命を握られている現状を変えなければならないのも当然のこと。
いつ殺されるか分からない危険な状態から脱しなければ、精神的な負担も大きくなる。
「いつでも殺せるというのが、単なるハッタリという可能性もありますが」
「言い切るだけの根拠もないから、楽観したくないけどな」
そうであれば助かる。しかし実証することができない以上、ジョーカーの言葉を事実と仮定する他はない。
「二つ目――――あいつと例の装置をなんとかする。
正面から戦うのは難しいけど、奇襲や狙撃ならなんとかなるかもしれない」
自分達だと気付かれずに、ジョーカーを倒す。危険な相手だからこそ、すぐにでも無力化しておきたい。
「また単純ですね。しかも、あまりいい方法とは思えない」
奇襲も狙撃も、そう簡単なことではない。
相手に気付かれずに接近することは、黒神めだかにとっては不可能なことではない。
そしてその上で、相手を一撃で気絶させることもやろうと思えばできるかもしれない。
しかしそれでも不可能ではないというだけの話。確実ではないのだ。
「狙撃も同じことでしょう。何か手段があるのですか?」
「残念なことに、銃も何も支給されてない。狙撃なら、何度か失敗しても取り返しはつくと思ったんだけどな。
生きているうちはともかく、死んでからじゃ脅迫もできないだろ。もっとも、銃なんて使ったこともないけど」
そう口に出した言葉は、めだかにとっては聞き逃せない言葉だった。
残念なことに。生きているうちはともかく。死んでからじゃ。
そのすべてが、彼女にとっての禁忌に触れていた。
「……待ってください。それは、どういう意味です」
「どういう意味って……それこそどういう意味だよ」
あえて確認する。衛宮士郎は善人だと彼女は見た。
そして日本の学生である。偽装などではないと彼女は既に判断している。
その彼が、軽々しく人を殺すと口にした。その意味は分かっている。
だとしても、聞かないわけにはいかないのだ。
「私には、あの男を殺す気だという風に聞こえましたが」
「いや、殺すしかないだろ。あれは説得できる相手じゃない。
あいつは壊れている。しかも壊れてるだけじゃなく、その方向性が致命的だ」
壊れた人間は、その方向性を変えることはない。変わったように見えたとしても、芯の部分は変わらない。
そう主張する衛宮士郎に対し、黒神めだかは反論する。
「殺すべきではないでしょう。そもそも、銃があっても私達は学生だ。銃刀法というものがある。
なにより、人を殺すのは悪いことだ」
「法的なことか? そりゃあ、殺人はよくないけどさ。
状況的には正当防衛ってことになるんじゃないのか」
「そういうことを言っているのではありません」
そう。法律の問題ではない。人が人を殺すのは、そんな簡単なものではないのだ。
たとえどのような状況であれ、あっさりとその選択肢を選ぶことは許容できない。
「……なあ、黒神。抵抗があるのは分かるけど、そんなことを言ってられる状況じゃないだろ。
別にお前にやれとは言わない。というか、やらせない。黒神はいい奴だし、人殺しができるなんて思えないからな」
「自分は人を殺すことができるとでも言いたげですね」
「死体には慣れてるよ。それに、これは必要なことじゃないのか」
ジョーカーは人殺しをためらうまい。この殺し合いに参加させられた者達全員の命。そして、黒神めだかの命。
それらを考えれば、あの男を殺さざるを得ない。衛宮士郎は、殺さなければならない場合になればためらわない。
本来はその殺すという判断は、かなりゆるいものなのだが――しかしそれでも、ジョーカーは規格外だ。
衛宮士郎をして、初対面で殺すべきだと判断させた。それほどの純粋さを、あの男は持っている。
そんなことは黒神めだかにだってわかっていたし、そういう相手を知らないわけでもない。
しかしそれでも、即断で殺すほどではないと考えるのが彼女だった。
「あれが危険な男であるというのは認めます。殺した方がいいという理屈も。
しかしそれでも、私は人を殺さないし、殺させるつもりもありません」
誰も殺さず、殺させずにこの場を脱する。それが理想的な展開だと、衛宮士郎も理解している。
否、理解しているのではなく、目指している。だが、そういった理想とはまた別にして断言しなければならない。
「軽く言葉を交わしただけでも、殺さなくちゃならないと断言できる。
あいつはそこまで危険なヤツだ。だから黒神、納得できないならここで別れよう」
「別れる? 殺人を行うと宣言したあなたを見過ごせと言うのですか」
片目をつむりながら、士郎を睨む。当然のことだと言うかのように。
殺人を許容しないのだから止めるしかないと。
「違う。そもそも今のままじゃ殺せない。手段がないってのはもう言ったじゃないか。
やり方が合わないんだ。このまま一緒にいても意味ないだろ。それにバットマンを探すには手分けした方がいい」
「衛宮上級生、誤魔化さないでもらえますか。今の論点はそこではない。
殺人を許容するか否かでしょう」
「誤魔化してなんかいない。このまま一緒にいたって時間の無駄だ。
ジョーカーを殺すかどうかについては――――」
「私は誰も殺させない。つまり、あなたを見逃すこともできないということです」
その言葉を最後に、お互いに無言になった。
平行線だ。説得はできない。そもそも議論にすらならない。
衛宮士郎は黒神めだかの決意を正しいと思っているし、黒神めだかは衛宮士郎の考えを正しいと認めている。
その上ですれ違うのであれば、これはもう言葉を交わしても意味はない。
◆
それが少し前のこと。今はお互いにカフェの中で休んでいる。
あの言い合いで精神的な疲れが出たのだろう。めだかの消耗が表に出来ていた。
それでも彼女は冷静であり、抜け目はない。座席は離れているが、めだかは士郎が姿を消せばすぐにわかる位置を確保している。
そして疲労があるのは、士郎も同じことだった。
(……失敗した)
そもそも殺すなどと口にする必要はなかったのだ。バットマンを探すために手分けしようと言えば納得しただろう。
それなのにわざわざ宣言してしまった。それが衛宮士郎の失敗だった。
(今はまだ体力も消耗してる。置いていこうと思えば簡単だけど……)
それはできない。こんな場所に一人で置いていくのは、見殺しにするのも同然だ。
行動するのなら彼女か回復してからということになる。だが、それでは逃げられない。
逃げられたとしても意味がない。彼女は士郎を探すだろうし、それではジョーカーから離れることにはならない。
彼女と別行動を取ることはできない。そして彼女がいる限り、ジョーカーの近くにいるわけにもいかない。
選択肢はなくなった。これからの行動はジョーカーから離れることを優先し、バットマンを探すことになるだろう。
(けど、なんであそこまで熱くなってたんだ、俺は)
殺すべきではないという主張に対して、殺すべきだと強く主張した。自分でもらしくないと思う。
正しいのは黒神めだかだと分かっている。そう簡単に人を殺すべきではないと、自分でも思っている。
(黒神が相手だからか? でも、黒神相手に熱くなる理由なんて――――)
ないはずだ。いい奴だと思う。頼りになる奴だとも思う。
強引ではあるけれど、それでも最初に会ったのが彼女のような人でよかったとも思う。
共感すらできる相手だ。なのにどうして、ああも熱くなってしまったのか。
無意識に、気に入らないことでもあったかのように。
◆
黒神めだかは、自らの思考に疑問を抱いた。
衛宮士郎の言い分は理解できるものだったし、ジョーカーに対する印象も同じだった。
それでも殺さずに済ませた方がいいというのは、自分の方針としては何の間違いもない。
だがしかし、あの反論はらしくなかった。彼の意見が正しいと、口に出して認める。
その上で行動をもって自分のやり方を示すのが自分ではなかったのか。
(まあ、理由はおおよそ把握できてはいるが)
黒神めだかは異常である。彼女は反射神経持たないがゆえの学習速度を誇っていた。
それが異常な反射神経を持つ相手と向き合うことで、異常な反射神経すら手に入れる。
他者の能力を相手以上の完成度で習得する。それこそが彼女の異常性である完成――――ジ・エンド。
アブノーマルの異常性は心理面の影響も大きい。殺意すらも習得する彼女の異常は、相手の精神面を察することにも通ずる。
つまり彼女は察したのだ。衛宮士郎は壊れている、と。彼の感性は常識的だ。しかしその上で秤がずれている。
それはいい。判断基準に個人差があるのは当然で、それがまっとうな人間というものだ。
めだかとて、親しい相手と見知らぬ相手では優先順位に大きな違いが出る。
しかしそのズレは、彼女にとって不快なものだった。壊れていると断言してもいいほどに。
(自分より他人を優先するのはいい。危険な相手だから排除すべきだと考えるのもいい。
だが排除すべきだと考えた相手さえ、本音では救いたいというのは……)
その差異が不愉快だった。中途半端だと攻める気にはなれない。
人を殺すことはよくないことで、だからそれを避けるべきだと主張するのがめだかならば。
殺したくない相手でも殺すと決めたならば殺す。その思考が、彼女には不自然に思えるのだ。
人間なのだから感情をもてあますのは当然であり、それでも理性で判断したとは言える。
自分ではなく、他者とって危険だから殺すべきだという判断。
できることなら殺したくはないという感情。表面上だけ見ればまっとうで、彼女が不快に感じる余地はない。
しかしその感情。本音の部分で殺したくないと考える。その殺したくないという度合いの大きさ。
誰であっても、死なない方がいいという感情を抱いている。その感情を無視して殺すべきだと考えている。
そしてその押し殺した感情は、親しい相手に死んで欲しくないという感情にすら匹敵する。
彼は親しい相手さえ、殺すべきなら殺せる人間だ。それを察したからこその不快感なのだろう。
(……ああ、そうか。関わりたくないのか、私は)
気持ち悪い。関わりたくない。そう思える相手と会ったことがある。
ジョーカーの狂気よりも、衛宮士郎の方が気に入らない。
自分と似通っている部分が少なからずあるからこそ、その差異が目につく。
それでも見逃すわけにはいかないという思いが、めだかにはある。
彼が人を殺すと言うなら、止めなければならない。それが誰であっても、止める。
自分はみんなを幸せにする為に生れてきた。そう言われたのだ。
黒神めだかは、理性でそう断じていた。
【E-6/市街・カフェテリア:黎明】
【黒神めだか@めだかボックス】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康、電撃による体力の消耗
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
1:衛宮上級生と行動を共にする
2:ジョーカーを殺させない
3:バットマンを探す
4:衛宮上級生に不快感
[備考]
※第37箱にて、宗像形と別れた直後からの参戦です。
※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、現在地他多くの情報が筒抜けになっていますが、本人は気付いていません。
※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、1kmの範囲内では、ジョーカーによって電撃、または首輪の爆発をさせられる、と聞かされています。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
1:めだかと行動を共にする
2:めだかの回復を待つ
3:バットマンを探す
4:ジョーカーを生かしてはおけない
[備考]
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
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