「王と道化師」(2010/10/18 (月) 21:32:42) の最新版変更点
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**王と道化師 ◆SQSRwo.D0c
土を踏み進み、白い道化師は月光を浴びた。
円環状に広がるコロッセオの中央に立ち、真っ赤に染まった唇の端を持ち上げる。
白い石を切り崩し、作られた客席はからっぽだ。名簿にいる人物を全員集めても、客席は埋められないだろう。
古代ローマの人々は奴隷同士、あるいは奴隷と獣を戦わせて、血に酔い、最大の娯楽として楽しんだ。
殺し合え、と言われた会場にこのような施設があることは、主催者による皮肉だろうか。
ならば乗ってやろう、とジョーカーは思う。そのためにゴッサムタワーではなく、このコロッセオに来たのだから。
下見くらいはしておくべきだろう。おかげで、彼と出会えた。
「やぁやぁ、よく来てくれた。あいにく、まだ準備中でね。
おかげで招待状なくても入れるが……おめぇさんは出演希望かい? それとも見物希望?
おっと、通りすがりなんて寒いジョークはよしてくれよ」
軽快な口調でジョーカーは入り口より現れた影に話しかける。
顔面いっぱいに道化の笑顔を浮かべたまま、歓迎するように両手を左右に広げた。
対して相手は微笑を返し、無造作に歩みを続ける。
幼い顔立ちだが、見た目通りの年齢ではないとジョーカーはあたりをつけた。
「ねぇ、ここで何をしているの?」
世界が歪んだような錯覚をジョーカーはおこした。
腹の底がキュッとなり、全身を締め付けられたような不快感が自らを襲う。
クウガすら膝を付かせた殺気だ。なのに、ジョーカーは笑みを深めた。
「HA HA HA! いいね、いいねぇ! おめぇさん、一流の出演者になれるぜ!」
相手はゆら、と幽鬼のごとく前に出たかと思えば、光りに包まれて姿を変える。
白い全身を覆うコスチュームを一瞬でまとい、ジョーカーの眼前に迫った。
ジョーカーは危険を察知し、身を捻る。唸りを上げる剛拳が脇を掠め、体が浮き上がる。
防刃防弾仕様のコスチュームを前にしても、衝撃は殺せず吹き飛ばされた。
口元から血が一筋流れ落ちる。掠めただけでこの威力だ。
ジョーカーは確信を抱いた。目の前の存在はスーパーパワーを持っている、と。
相手はスッと右手を前にかざす。スーパーパワーを持つものは距離が空いていても何らかの攻撃手段を持つ。
ジョーカーはとっさにワイヤーガンの引き金を引き、観客席にひっかけてワイヤーを巻く。
体が引き上げられる中、ジョーカーは自分がいた地点が燃えたのを目撃した。
「派手でいい~見せもんだ」
「へぇ、少しは楽しませてくれるかな?」
互いに会話と言えないような言葉を交わし、ジョーカーは距離を開いていった。
ワイヤーガンの射程は長く、高層ビルの屋上にも届きかねないほどだ。
スーパーパワーを持つ相手でも、簡単に追いつけない距離を稼げるはずだ。
だが、目の前の存在は身をかがめると、地面を跳んだ。
ジョーカーが石畳を踏むと同時に、追いかけてきた相手も着地する。
スーパーパワーで空を飛んだのではない。跳んだのだ。信じられない瞬発力である。
互いの距離は数メートルもない。深い闇色の瞳がジョーカーを射た。
「HA HA HA HA! 動くと怪我するぜ!」
ジョーカーはそう言いながらも、銃に似たコントローラーのボタンを押す。
ロックオンはすでに終えていた。電撃が相手を襲い、行動不能に陥らせる。そのはずだった。
「……何をしたの?」
相手は平然とそう問う。たかが一度の電流でどうにかなると思うほど、ジョーカーも愚鈍ではない。
電流を上げるため何度もボタンを押した。すると、相手は合点いったのか、フフ、と笑みを漏らす。
「電圧を最大まで上げなよ。待ってあげるからさ」
悠然と、白いコスチュームの怪人は両手を広げた。
ジョーカーは淡々とボタンを連打する。やがて、外観からも電圧が上がったことを確認できた。
青白いスパークが首輪からほとばしったのだ。その光景は怪人の体を焼くために、高圧電流が流れているのを理解させる。
「この程度?」
僅かな痛みすら見せず、怪人は話しかける。
ジョーカーは圧倒的な存在に……
「なあ、キング。こいつで首輪を爆破できるって言ったら、どうする?」
戦慄せず、ジョークを告げるように問いかけた。
キング、と思わず呼んだ理由は特にない。しいて言うなら、金の四本角が冠のように見えたから、くらいだ。
キングと呼ばれた相手は、気にした様子もなく答える。
「いいよ、やってみなよ。少しは楽しめるかな?」
少年のような声だ、とジョーカーはいまさら気づく。
瞳は闇を宿すが、山奥の泉のごとく澄んでいる。ただ、ある種の感情を宿していた。
滑ったコメディアンを見るのと同じ、感情を。
その感情はジョーカーに向けられていない。この世のすべてに向けているものだ。
「HA! わりいな、爆破できるってのはちょっとしたジョ~クさ」
「そう、ならいいや」
何がいいのか、キングは告げなかった。壊れたおもちゃを見る子供のように、冷たい瞳を向けた。そのまま無造作に拳を振るう。
とっさに飛び退いたジョーカーの眼前が、観客席ごと爆ぜた。
観客席を構成する石畳みに亀裂が広がり、足場が隆起する。亀裂は周囲百メートルほど広がっていた。
衝撃に翻弄されるしかなかったジョーカーは、襲いかかる瓦礫の礫に体を打たれる。
ロビンのコスチュームがなければ、致命傷を負っただろう。
グッ、と四つん這いのまま痛みをこらえていたジョーカーに、影が覆いかぶさった。
顔だけ向けると、キングはこちらを見下ろしている。
声をかけることもない。ただ静かに右手を向けてきた。
このまま燃やされる運命しか待っていないだろう。
なのに、ジョーカーは不敵に笑った。
「グ……クッ、キング、退屈そうだな」
「そうだよ。退屈だ」
ニィ、と真っ赤な唇が三日月を描く。ジョーカーは理解をしていた。
人間を狂わせることは簡単だ。不幸な一日をくれてやればいい。
恋人をギャングに殺される。
弟を強盗にバラされる。
両親を不慮の事故で亡くす。
人はそんなありふれた不幸で、簡単に狂える。ジョーカーと世間の違いは、たった一日不幸の日があったかどうかだ。
だからこそ、自らのオリジンすらトッピング扱いするほど、道化と化せる。
対して超人を狂わせるのは簡単ではない。
悠久の時を生きて、超常的な力を持つからこそ、人が狂うような一日程度では狂えない。
だが、目の前の存在は狂っている。
命を軽んじることは簡単だが、自らの命を軽んじるのは難しい。
キングは自らの命を持って、楽しめるかどうか見極めようとした。まさしく狂気の沙汰だ。
ジョーカーは彼が持つ狂気を理解できる。自身とて、バットマンをからかうためなら命を賭けれる。
目の前の存在が持つ狂気は、自分と同じ種類のものだと理解できた。
だからこそヘドが出る。
そのスーパーパワーをもってすれば、どれだけのジョークを彩れるか。
どれだけの悲劇を生めるか。
キングは知らないのだ。やり方も、楽しみ方も、笑い方も、何もかも。
自らと似た狂気を持ちながら、燻らせている。
キングの無様な姿が、どうしてかもどかしい。
「オレぁおめぇさんにイカレちまったぜぇ……」
だったら、自分が教えてやる。
狂気の爆発のさせ方。コメディアンとして、笑えるジョーク。その何もかも。
「オレがお前を、もっと笑顔にしてやる」
何のことはない。これこそジョーカーであり、コメディアンであり、ブラックジョークなのだ。
ピク、とダグバの右手が反応を示す。
聞き間違えではない。今、目の前の男は、ダグバがもっとも望むものを告げた。
なぜ自分の望みを知っているだろうか。心を読まれたか?
ありえない。読心術があるのなら、自分の攻撃を避けれるはずだ。その程度の速度でしか動かなかった。
ならば、なぜ当てれたのだろうか。
いや、本来は疑問に持つまでもなかった。ダグバは一つ確信を持っている。
その確信を確かめるために右手をおろすと、乾いた風が体表を撫でた。
「どういうこと?」
いつでも殺せる。ダグバはそう思っていたし、真実そうである。
目の前の男は吹けば飛ぶよな男だ。圧倒的な自分を前に、ただ潰えるしかない弱者。
だが、もしかしたら。
「HA HA HA……簡単なことさ。キングは地獄も絶望も悲鳴も何も知らなすぎる。
甘ーいサクランボを食ったことのないボーイってものさ。正しくチェリーボーイだ」
何をするのか、ダグバは値踏みするように視線を向けた。
対して、相手はおどけながら立ち上がり、軽快なステップを踏んだ。
滑稽な仕草に、ダグバはクスリともしない。
「いいか、キィイング! もう一度言うぜ。おめぇは何もかも知らなすぎる!
楽しみ方ってもんがない。いってみれば生まれたてのベイビーだ!
もっと地獄を演出しろ! 絶望に染め上げろ! 悲鳴を聞け!
やり方が知らない? ならこのオレ様が教えてやるぜ!」
クルッとターンを決めて、相手は白い指をダグバの胸元につきつけた。
覗き込むように見上げられた顔が、不気味に笑む。
「そう! 地獄の作り方を、絶望を与える方法も、悲鳴を挙げさせる楽しみも、このオレが教えてやる!
この丸いコロッセオはい~ぃスタジオだ。
世界はブラックジョーク。この狭い箱庭でオレがパロディしてやるよ。それで理解しろ。そして……」
彼はダグバを引き寄せた。愛しい人へと囁くように続ける。
「バカになるのさ、キィイング。
焚き火に飛び込む虫みたいに! ヤク中みたいに、テレビで怒鳴る宗教屋みたいに!
おめぇはすでに狂っている! 後は世界の大きさにぶち潰される哀れな魂を知ればいい! 感じればいい! 理解すればいい!
そうしてやぁあっとおめぇはバカになれる! 楽しい楽しい幻想の世界が待っている!
笑いたいならオレの演出に乗れ! ヒーローを、正義や道徳や希望を後生大事に抱えている連中を、叩き潰せ!
世界を地獄に変えろ! 希望を絶望に変えてみせろ! 悲鳴は喜劇のBGMだ!
オレなら演出のしかたを教えてやれる」
道化の笑みを伏せ、彼はダグバから離れた。
逃げるつもりはないと思う。事実、相手は数歩だけ歩いて、振り返った。
「どうする? キング」
すでにダグバは変身を解いていた。
理解したのだと思う。自分だけではクウガの、武藤カズキの究極の闇を見ることは難しいと。
自分は絶望も哀しみも知らない。
退屈と快楽の二つしかなかった。
だから他者の闇の引き出し方など理解できっこない。
何より、彼のショーは面白そうだった。
「クウガと武藤カズキ……」
ダグバは道化師に歩み寄る。古来より王は道化師と共にある。
王を揶揄した道化師を見て、王は自ら行うべき道を見つける場合もある。
まるでその王と道化師のあり方のように、ダグバは自ら進む道を知った。
「彼らにも出演してもらわないとね」
「なら、バットマンはオレのもんだぜ?」
自分が肩をすくめてから頷くのを確認し、道化師は大きく肩を揺らして笑う。
ダグバはただ、冷たい笑みをいずれまみえるクウガと武藤カズキに向けていた。
□
「これはあげるよ」
キングはそう言って、ジョーカーに二つのデイバックを渡した。
何か演出に使えそうなものがないか探ると、ヒーローのコスチュームを一つ発見する。
赤く、フルフェイスマスクを持った豪華なコスチュームだ。
説明書には『ファイアーバードフォーム』とあり、細かい説明もあったがバックに押し込んだ。
今は出番がない。
ふと、ジョーカーは空を見上げる。藍色の星空は薄くなっていた。
一回目の放送はあと一時間程度だろう。
「じゃあ、準備が終わったら呼んでね」
キングはそう言って観客席の一つに横になり、寝息をたてる。ジョーカーでは殺せないとたかをくくっているのだ。
事実だからしかたないのだが。
どちらにしろ、このチームは即席のものだ。
ジョーカーはキングのスーパーパワーを演出に使えるとして。
キングはジョーカーの演出で退屈を紛らせれると見て。
互いに利益があったため、手を組んだのだ。少なくとも、表面的にはそうだ。
ジョーカーはこの王の狂気をもったいないとして、爆発する道を、笑える演出を教えてやろうと考えた。
だが、その自分の気持ちは気まぐれだ。同じように、王は気まぐれでジョーカーを殺すときもあるだろう。
何しろ、互いに名前すら名乗っていない。
それに自分だって、気まぐれに殺す。本質的に自分たちは同類なのだ。
だが、ジョーカーは構わなかった。
「HA HA HA! 命がけくらいでなくちゃ、お前を笑わせることもできねぇ~よなぁ! バァァァッツ!」
ジョーカーはキングに殺されてもいいと思っている。
なぜなら、彼のスーパーパワーさえあればバットマンに自分が正しいと証明できる可能性が上がるのだ。
どうしようもない巨大な力を叩きつけられ、自分がちっぽけな存在だと自覚させられた哀れな群れを作り上げれる。
悪のスーパーパワーに追い詰められた人々を見せ、笑うのだ。
「なあ、この世はブラックジョークだろう?」と。
ジョーカーは笑いたいのだ。バットマンがなすことは価値がないと。
この世の中はすべてが無意味。ただの肥だめであるのだと。
そのためなら自らの命を捨てることくらい、なんてことない。
彼の信念を折るためなら、バットマンに殺されても構いはしない。
途中で果てるなら、それが自分の器だというものだ。
「だから、きっとお前は笑ってくれるよな。バッツ」
静かに、恋する乙女のように、ジョーカーは寂しげな表情のままつぶやいた。
ダグバは準備を整えるのを道化師に任せて、横になった。ただ、疲れてはいない。
究極の闇を引き出すためには、クウガを追い詰めるのが手っ取り早いと知っている。
知ってはいても、どうすれば追い詰めれるかまでは理解が及んでいなかった。
リントを殺せばクウガが邪魔しに来る、程度の認識で万単位の人間を殺した。ただそれだけだ。
今はその手はあまり使えない。もしも追い詰めるのに数が必要だというなら、人が少なすぎる。
たかが六〇人程度でクウガの闇を引き出せるのか、自信はない。
だが、ダグバは道化師と出会い、二つ思い出した。
一つはリントは戦え、グロンギに近くなっていること。
もし闇を普通のリントに与えれば、クウガのように力を得てダグバの前に現れるかもしれない。
事実、武藤カズキはリントでありながら、グロンギと同じく霊石を宿していた。
クウガほど笑えるかは謎だが、相応に快楽を味わえる可能性はある。
ならば、道化師と付き合ってその手の人間に出会うのもいいだろう。
もう一つはグロンギが行っていたゲゲルだ。
クウガはズの階級から続くゲゲルを乗り越え、強くなっていった。
自分の部族であるグロンギが繰り出す、多種多様なゲゲルはクウガを追い詰めていった。
特にジャラジはいい線をいったと聞く。
ならば、あの道化師がしかけるゲゲルでクウガを追い詰めるのもいい。
ダグバはそう結論をつけた。
同時に、道化師を不思議な存在だと思う。
最初は白い肌にケバケバしいスーツと、グロンギなのか疑った。
戦っているうちに、やはりリントだと確信して落胆した。
だが、あの男は自分を前にしても言い切ったのだ。
笑顔にしてやる、と。
その瞬間、ダグバはこの男が自分と似ていることに気がついた。
彼と手を組むのも悪くない、と考えたのはその時だ。
正直、ダグバは道化師の言葉を一割も理解していない。
彼の持つ持論など、興味はない。
ただ、リントでありながら自分と同種の狂気を持つに至った。
そんな特異性がひどく興味を引いたのだ。
彼は快楽を得るためなら、他人どころか自分を犠牲にしても構わない、と思っている。自分と一緒だ。
だけど、笑い方を知っていた。道化師は似ているだけだ。究極的なところで自分とは違う。
ダグバには理解出来ない。なぜそう笑えるのか。楽しめるのか。
ずるい、と思った。自分と似た狂気を持つのに、楽しめている。
だから、より強くともにいようと考えた。
彼がなぜ笑えるか知れば、似た狂気を持つ自分も笑えるのでないか。
そんな期待を持って。
彼らは『同類』ではあったが、『同族』ではなかった。
ダグバは超人ゆえに笑顔を失い、快楽を得るために笑顔を求めた。
ジョーカーはバットマンに無価値を伝えるために、笑いという手段をとった。
そしてダグバは圧倒的なスーパーパワーを。
ジョーカーは人を追い詰め、狂わせる手段を。
互いにない物を、二人はそれぞれ持っている。
ゆえに二人の狂気は結びつき、互いを利用する道を選んだ。
だが、その狂気によるつながりは、絆より脆いものだろうか。
日米の最狂ヴィランが手を組んだ。そうなったのは、はたして偶然だったのか。
彼ら自身にもわからないだろう。
□
「なあ、キング」
なに、とダグバは返す。
「一つジョークを思い出したよ」
ふぅん、と興味なさげに返した。実際興味はない。
それでも道化師は気にしない。
「ある男が溺れた子供を助けたのさ。感謝をする子供の両親を前に、奴は名乗らず消え去った。
男は感謝をされたよ。新聞にも英雄扱いされた。
だが、一人だけ怒る存在がいた。子供の祖母が『偽名を載せるなんてけしからん』と新聞社に抗議したのさ。
そして、新聞社は誠実に応えた。結果はどうなったと思う?
逮捕されたのさ、その英雄は」
HEHEHEと何がおかしいのか彼は笑った。
「男は犯罪者だった。子どもがもうすぐ生まれるから、それまではと警察に行けなかった。
だが、赤の他人を助けたばっかりにブタ箱にぶち込まれてしまい、出産には立ち会えなかった。
誰かを助けるためだ。笑えるだろう」
HAHAHAとあまり愉快そうには思えない笑い声はまだ続いている。
笑うべきところかどうか、ダグバには判断できない。
道化師のジョークが何かを揶揄しているのか。
自分の過去を語っているのか。
それとも本当にただジョークが言いたかっただけなのか。
ダグバは意味を問うように白く不気味な道化師の顔を見た。
「何。どこかのお嬢ちゃんに聞かせるべきかもしれない、ただのジョークさ。そう、今のところはな」
「なら、僕も笑うべきかい?」
道化師は真っ赤な唇の端を吊り上げる。
「笑うべきさ。これから訪れる運命を、踊ろうとする演出者を、笑ってあげないのは失礼ってものだろ?
HA HA HA HA! さあ、キングも笑いな! HA! HA! HA! HA! HA! HA HA HA HA!」
ダグバは最初は気にしなかったが、やがて少しだけ笑えてきた。
悠久の時を生きてきた中で、いったいいつ以来だろうか。快楽以外の笑みを、僅かながらに蘇らせていた。
「少しだけ……少しだけ笑えるよ」
【E-5/コロッセオ:早朝】
【ジョーカー@バットマン】
[属性]:悪(Set)
[状態]:軽い打撲、打ち身
[装備]:アンカーガン、ロビンのチュニック
[道具]:基本支給品一式×3、カーラーコントローラー(2/4ロックオン済み)
不明支給品1~5(本人確認済み)、ファイアーバードフォーム@天体戦士サンレッド
[思考・状況]
基本行動方針:このゲームをとびっきりのジョークにプロデュースする。
1:他に面白そうなヤツがいたらちょっかいをかけて、「バットマンをコロッセオにおびき出す伝言」をしてみる。
2:バッツ(バットマン)をからかって遊ぶ。
3:面白そうな、使えそうなヤツは、ロックオンしてみる。
4:キング(ダグバ、名前は知らない)としばらく組むのもいい。
5:後でゴッサムタワーにでも向かう。
[備考]
※黒神めだか、ダグバを「ロックオン」済み。
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康 ベルトに傷(極小)
[装備]:なし
[持物]:なし
[方針/目的]
基本方針:好きなように遊ぶ
1:クウガとカズキの究極の闇に期待。
2:道化師(ジョーカー、名前は知らない)のゲゲルにつき合う。
[備考]
※参戦時期は九郎ヶ岳山中で五代を待っている最中(EPISODE48)
※ファイアーバードフォーム@天体戦士サンレッド
サンレッドが相手を強敵と認めたときのみ発動する究極フォーム。
普段は普段は押入れの一番奥にしまわれている。
*時系列順で読む
Back:[[この世界に反逆を開始せよ]] Next:[[混沌の落とし子たちに捧ぐ僕からの鎮魂歌]]
*投下順で読む
Back:[[BATMAN:Tales of the Devil]] Next:[[理性と感情の差異]]
|[[〜悪意は極力隠すこと、それが……〜大宇宙の真理]]|[[ン・ダグバ・ゼバ]]|[[]]|
|[[「Lights! Camera! Action!」]]|ジョーカー|[[]]|
**王と道化師 ◆SQSRwo.D0c
土を踏み進み、白い道化師は月光を浴びた。
円環状に広がるコロッセオの中央に立ち、真っ赤に染まった唇の端を持ち上げる。
白い石を切り崩し、作られた客席はからっぽだ。名簿にいる人物を全員集めても、客席は埋められないだろう。
古代ローマの人々は奴隷同士、あるいは奴隷と獣を戦わせて、血に酔い、最大の娯楽として楽しんだ。
殺し合え、と言われた会場にこのような施設があることは、主催者による皮肉だろうか。
ならば乗ってやろう、とジョーカーは思う。そのためにゴッサムタワーではなく、このコロッセオに来たのだから。
下見くらいはしておくべきだろう。おかげで、彼と出会えた。
「やぁやぁ、よく来てくれた。あいにく、まだ準備中でね。
おかげで招待状なくても入れるが……おめぇさんは出演希望かい? それとも見物希望?
おっと、通りすがりなんて寒いジョークはよしてくれよ」
軽快な口調でジョーカーは入り口より現れた影に話しかける。
顔面いっぱいに道化の笑顔を浮かべたまま、歓迎するように両手を左右に広げた。
対して相手は微笑を返し、無造作に歩みを続ける。
幼い顔立ちだが、見た目通りの年齢ではないとジョーカーはあたりをつけた。
「ねぇ、ここで何をしているの?」
世界が歪んだような錯覚をジョーカーはおこした。
腹の底がキュッとなり、全身を締め付けられたような不快感が自らを襲う。
クウガすら膝を付かせた殺気だ。なのに、ジョーカーは笑みを深めた。
「HA HA HA! いいね、いいねぇ! おめぇさん、一流の出演者になれるぜ!」
相手はゆら、と幽鬼のごとく前に出たかと思えば、光りに包まれて姿を変える。
白い全身を覆うコスチュームを一瞬でまとい、ジョーカーの眼前に迫った。
ジョーカーは危険を察知し、身を捻る。唸りを上げる剛拳が脇を掠め、体が浮き上がる。
防刃防弾仕様のコスチュームを前にしても、衝撃は殺せず吹き飛ばされた。
口元から血が一筋流れ落ちる。掠めただけでこの威力だ。
ジョーカーは確信を抱いた。目の前の存在はスーパーパワーを持っている、と。
相手はスッと右手を前にかざす。スーパーパワーを持つものは距離が空いていても何らかの攻撃手段を持つ。
ジョーカーはとっさにワイヤーガンの引き金を引き、観客席にひっかけてワイヤーを巻く。
体が引き上げられる中、ジョーカーは自分がいた地点が燃えたのを目撃した。
「派手でいい~見せもんだ」
「へぇ、少しは楽しませてくれるかな?」
互いに会話と言えないような言葉を交わし、ジョーカーは距離を開いていった。
ワイヤーガンの射程は長く、高層ビルの屋上にも届きかねないほどだ。
スーパーパワーを持つ相手でも、簡単に追いつけない距離を稼げるはずだ。
だが、目の前の存在は身をかがめると、地面を跳んだ。
ジョーカーが石畳を踏むと同時に、追いかけてきた相手も着地する。
スーパーパワーで空を飛んだのではない。跳んだのだ。信じられない瞬発力である。
互いの距離は数メートルもない。深い闇色の瞳がジョーカーを射た。
「HA HA HA HA! 動くと怪我するぜ!」
ジョーカーはそう言いながらも、銃に似たコントローラーのボタンを押す。
ロックオンはすでに終えていた。電撃が相手を襲い、行動不能に陥らせる。そのはずだった。
「……何をしたの?」
相手は平然とそう問う。たかが一度の電流でどうにかなると思うほど、ジョーカーも愚鈍ではない。
電流を上げるため何度もボタンを押した。すると、相手は合点いったのか、フフ、と笑みを漏らす。
「電圧を最大まで上げなよ。待ってあげるからさ」
悠然と、白いコスチュームの怪人は両手を広げた。
ジョーカーは淡々とボタンを連打する。やがて、外観からも電圧が上がったことを確認できた。
青白いスパークが首輪からほとばしったのだ。その光景は怪人の体を焼くために、高圧電流が流れているのを理解させる。
「この程度?」
僅かな痛みすら見せず、怪人は話しかける。
ジョーカーは圧倒的な存在に……
「なあ、キング。こいつで首輪を爆破できるって言ったら、どうする?」
戦慄せず、ジョークを告げるように問いかけた。
キング、と思わず呼んだ理由は特にない。しいて言うなら、金の四本角が冠のように見えたから、くらいだ。
キングと呼ばれた相手は、気にした様子もなく答える。
「いいよ、やってみなよ。少しは楽しめるかな?」
少年のような声だ、とジョーカーはいまさら気づく。
瞳は闇を宿すが、山奥の泉のごとく澄んでいる。ただ、ある種の感情を宿していた。
滑ったコメディアンを見るのと同じ、感情を。
その感情はジョーカーに向けられていない。この世のすべてに向けているものだ。
「HA! わりいな、爆破できるってのはちょっとしたジョ~クさ」
「そう、ならいいや」
何がいいのか、キングは告げなかった。壊れたおもちゃを見る子供のように、冷たい瞳を向けた。そのまま無造作に拳を振るう。
とっさに飛び退いたジョーカーの眼前が、観客席ごと爆ぜた。
観客席を構成する石畳みに亀裂が広がり、足場が隆起する。亀裂は周囲百メートルほど広がっていた。
衝撃に翻弄されるしかなかったジョーカーは、襲いかかる瓦礫の礫に体を打たれる。
ロビンのコスチュームがなければ、致命傷を負っただろう。
グッ、と四つん這いのまま痛みをこらえていたジョーカーに、影が覆いかぶさった。
顔だけ向けると、キングはこちらを見下ろしている。
声をかけることもない。ただ静かに右手を向けてきた。
このまま燃やされる運命しか待っていないだろう。
なのに、ジョーカーは不敵に笑った。
「グ……クッ、キング、退屈そうだな」
「そうだよ。退屈だ」
ニィ、と真っ赤な唇が三日月を描く。ジョーカーは理解をしていた。
人間を狂わせることは簡単だ。不幸な一日をくれてやればいい。
恋人をギャングに殺される。
弟を強盗にバラされる。
両親を不慮の事故で亡くす。
人はそんなありふれた不幸で、簡単に狂える。ジョーカーと世間の違いは、たった一日不幸の日があったかどうかだ。
だからこそ、自らのオリジンすらトッピング扱いするほど、道化と化せる。
対して超人を狂わせるのは簡単ではない。
悠久の時を生きて、超常的な力を持つからこそ、人が狂うような一日程度では狂えない。
だが、目の前の存在は狂っている。
命を軽んじることは簡単だが、自らの命を軽んじるのは難しい。
キングは自らの命を持って、楽しめるかどうか見極めようとした。まさしく狂気の沙汰だ。
ジョーカーは彼が持つ狂気を理解できる。自身とて、バットマンをからかうためなら命を賭けれる。
目の前の存在が持つ狂気は、自分と同じ種類のものだと理解できた。
だからこそヘドが出る。
そのスーパーパワーをもってすれば、どれだけのジョークを彩れるか。
どれだけの悲劇を生めるか。
キングは知らないのだ。やり方も、楽しみ方も、笑い方も、何もかも。
自らと似た狂気を持ちながら、燻らせている。
キングの無様な姿が、どうしてかもどかしい。
「オレぁおめぇさんにイカレちまったぜぇ……」
だったら、自分が教えてやる。
狂気の爆発のさせ方。コメディアンとして、笑えるジョーク。その何もかも。
「オレがお前を、もっと笑顔にしてやる」
何のことはない。これこそジョーカーであり、コメディアンであり、ブラックジョークなのだ。
ピク、とダグバの右手が反応を示す。
聞き間違えではない。今、目の前の男は、ダグバがもっとも望むものを告げた。
なぜ自分の望みを知っているだろうか。心を読まれたか?
ありえない。読心術があるのなら、自分の攻撃を避けれるはずだ。その程度の速度でしか動かなかった。
ならば、なぜ当てれたのだろうか。
いや、本来は疑問に持つまでもなかった。ダグバは一つ確信を持っている。
その確信を確かめるために右手をおろすと、乾いた風が体表を撫でた。
「どういうこと?」
いつでも殺せる。ダグバはそう思っていたし、真実そうである。
目の前の男は吹けば飛ぶよな男だ。圧倒的な自分を前に、ただ潰えるしかない弱者。
だが、もしかしたら。
「HA HA HA……簡単なことさ。キングは地獄も絶望も悲鳴も何も知らなすぎる。
甘ーいサクランボを食ったことのないボーイってものさ。正しくチェリーボーイだ」
何をするのか、ダグバは値踏みするように視線を向けた。
対して、相手はおどけながら立ち上がり、軽快なステップを踏んだ。
滑稽な仕草に、ダグバはクスリともしない。
「いいか、キィイング! もう一度言うぜ。おめぇは何もかも知らなすぎる!
楽しみ方ってもんがない。いってみれば生まれたてのベイビーだ!
もっと地獄を演出しろ! 絶望に染め上げろ! 悲鳴を聞け!
やり方が知らない? ならこのオレ様が教えてやるぜ!」
クルッとターンを決めて、相手は白い指をダグバの胸元につきつけた。
覗き込むように見上げられた顔が、不気味に笑む。
「そう! 地獄の作り方を、絶望を与える方法も、悲鳴を挙げさせる楽しみも、このオレが教えてやる!
この丸いコロッセオはい~ぃスタジオだ。
世界はブラックジョーク。この狭い箱庭でオレがパロディしてやるよ。それで理解しろ。そして……」
彼はダグバを引き寄せた。愛しい人へと囁くように続ける。
「バカになるのさ、キィイング。
焚き火に飛び込む虫みたいに! ヤク中みたいに、テレビで怒鳴る宗教屋みたいに!
おめぇはすでに狂っている! 後は世界の大きさにぶち潰される哀れな魂を知ればいい! 感じればいい! 理解すればいい!
そうしてやぁあっとおめぇはバカになれる! 楽しい楽しい幻想の世界が待っている!
笑いたいならオレの演出に乗れ! ヒーローを、正義や道徳や希望を後生大事に抱えている連中を、叩き潰せ!
世界を地獄に変えろ! 希望を絶望に変えてみせろ! 悲鳴は喜劇のBGMだ!
オレなら演出のしかたを教えてやれる」
道化の笑みを伏せ、彼はダグバから離れた。
逃げるつもりはないと思う。事実、相手は数歩だけ歩いて、振り返った。
「どうする? キング」
すでにダグバは変身を解いていた。
理解したのだと思う。自分だけではクウガの、武藤カズキの究極の闇を見ることは難しいと。
自分は絶望も哀しみも知らない。
退屈と快楽の二つしかなかった。
だから他者の闇の引き出し方など理解できっこない。
何より、彼のショーは面白そうだった。
「クウガと武藤カズキ……」
ダグバは道化師に歩み寄る。古来より王は道化師と共にある。
王を揶揄した道化師を見て、王は自ら行うべき道を見つける場合もある。
まるでその王と道化師のあり方のように、ダグバは自ら進む道を知った。
「彼らにも出演してもらわないとね」
「なら、バットマンはオレのもんだぜ?」
自分が肩をすくめてから頷くのを確認し、道化師は大きく肩を揺らして笑う。
ダグバはただ、冷たい笑みをいずれまみえるクウガと武藤カズキに向けていた。
□
「これはあげるよ」
キングはそう言って、ジョーカーに二つのデイバックを渡した。
何か演出に使えそうなものがないか探ると、ヒーローのコスチュームを一つ発見する。
赤く、フルフェイスマスクを持った豪華なコスチュームだ。
説明書には『ファイアーバードフォーム』とあり、細かい説明もあったがバックに押し込んだ。
今は出番がない。
ふと、ジョーカーは空を見上げる。藍色の星空は薄くなっていた。
一回目の放送はあと一時間程度だろう。
「じゃあ、準備が終わったら呼んでね」
キングはそう言って観客席の一つに横になり、寝息をたてる。ジョーカーでは殺せないとたかをくくっているのだ。
事実だからしかたないのだが。
どちらにしろ、このチームは即席のものだ。
ジョーカーはキングのスーパーパワーを演出に使えるとして。
キングはジョーカーの演出で退屈を紛らせれると見て。
互いに利益があったため、手を組んだのだ。少なくとも、表面的にはそうだ。
ジョーカーはこの王の狂気をもったいないとして、爆発する道を、笑える演出を教えてやろうと考えた。
だが、その自分の気持ちは気まぐれだ。同じように、王は気まぐれでジョーカーを殺すときもあるだろう。
何しろ、互いに名前すら名乗っていない。
それに自分だって、気まぐれに殺す。本質的に自分たちは同類なのだ。
だが、ジョーカーは構わなかった。
「HA HA HA! 命がけくらいでなくちゃ、お前を笑わせることもできねぇ~よなぁ! バァァァッツ!」
ジョーカーはキングに殺されてもいいと思っている。
なぜなら、彼のスーパーパワーさえあればバットマンに自分が正しいと証明できる可能性が上がるのだ。
どうしようもない巨大な力を叩きつけられ、自分がちっぽけな存在だと自覚させられた哀れな群れを作り上げれる。
悪のスーパーパワーに追い詰められた人々を見せ、笑うのだ。
「なあ、この世はブラックジョークだろう?」と。
ジョーカーは笑いたいのだ。バットマンがなすことは価値がないと。
この世の中はすべてが無意味。ただの肥だめであるのだと。
そのためなら自らの命を捨てることくらい、なんてことない。
彼の信念を折るためなら、バットマンに殺されても構いはしない。
途中で果てるなら、それが自分の器だというものだ。
「だから、きっとお前は笑ってくれるよな。バッツ」
静かに、恋する乙女のように、ジョーカーは寂しげな表情のままつぶやいた。
ダグバは準備を整えるのを道化師に任せて、横になった。ただ、疲れてはいない。
究極の闇を引き出すためには、クウガを追い詰めるのが手っ取り早いと知っている。
知ってはいても、どうすれば追い詰めれるかまでは理解が及んでいなかった。
リントを殺せばクウガが邪魔しに来る、程度の認識で万単位の人間を殺した。ただそれだけだ。
今はその手はあまり使えない。もしも追い詰めるのに数が必要だというなら、人が少なすぎる。
たかが六〇人程度でクウガの闇を引き出せるのか、自信はない。
だが、ダグバは道化師と出会い、二つ思い出した。
一つはリントは戦え、グロンギに近くなっていること。
もし闇を普通のリントに与えれば、クウガのように力を得てダグバの前に現れるかもしれない。
事実、武藤カズキはリントでありながら、グロンギと同じく霊石を宿していた。
クウガほど笑えるかは謎だが、相応に快楽を味わえる可能性はある。
ならば、道化師と付き合ってその手の人間に出会うのもいいだろう。
もう一つはグロンギが行っていたゲゲルだ。
クウガはズの階級から続くゲゲルを乗り越え、強くなっていった。
自分の部族であるグロンギが繰り出す、多種多様なゲゲルはクウガを追い詰めていった。
特にジャラジはいい線をいったと聞く。
ならば、あの道化師がしかけるゲゲルでクウガを追い詰めるのもいい。
ダグバはそう結論をつけた。
同時に、道化師を不思議な存在だと思う。
最初は白い肌にケバケバしいスーツと、グロンギなのか疑った。
戦っているうちに、やはりリントだと確信して落胆した。
だが、あの男は自分を前にしても言い切ったのだ。
笑顔にしてやる、と。
その瞬間、ダグバはこの男が自分と似ていることに気がついた。
彼と手を組むのも悪くない、と考えたのはその時だ。
正直、ダグバは道化師の言葉を一割も理解していない。
彼の持つ持論など、興味はない。
ただ、リントでありながら自分と同種の狂気を持つに至った。
そんな特異性がひどく興味を引いたのだ。
彼は快楽を得るためなら、他人どころか自分を犠牲にしても構わない、と思っている。自分と一緒だ。
だけど、笑い方を知っていた。道化師は似ているだけだ。究極的なところで自分とは違う。
ダグバには理解出来ない。なぜそう笑えるのか。楽しめるのか。
ずるい、と思った。自分と似た狂気を持つのに、楽しめている。
だから、より強くともにいようと考えた。
彼がなぜ笑えるか知れば、似た狂気を持つ自分も笑えるのでないか。
そんな期待を持って。
彼らは『同類』ではあったが、『同族』ではなかった。
ダグバは超人ゆえに笑顔を失い、快楽を得るために笑顔を求めた。
ジョーカーはバットマンに無価値を伝えるために、笑いという手段をとった。
そしてダグバは圧倒的なスーパーパワーを。
ジョーカーは人を追い詰め、狂わせる手段を。
互いにない物を、二人はそれぞれ持っている。
ゆえに二人の狂気は結びつき、互いを利用する道を選んだ。
だが、その狂気によるつながりは、絆より脆いものだろうか。
日米の最狂ヴィランが手を組んだ。そうなったのは、はたして偶然だったのか。
彼ら自身にもわからないだろう。
□
「なあ、キング」
なに、とダグバは返す。
「一つジョークを思い出したよ」
ふぅん、と興味なさげに返した。実際興味はない。
それでも道化師は気にしない。
「ある男が溺れた子供を助けたのさ。感謝をする子供の両親を前に、奴は名乗らず消え去った。
男は感謝をされたよ。新聞にも英雄扱いされた。
だが、一人だけ怒る存在がいた。子供の祖母が『偽名を載せるなんてけしからん』と新聞社に抗議したのさ。
そして、新聞社は誠実に応えた。結果はどうなったと思う?
逮捕されたのさ、その英雄は」
HEHEHEと何がおかしいのか彼は笑った。
「男は犯罪者だった。子どもがもうすぐ生まれるから、それまではと警察に行けなかった。
だが、赤の他人を助けたばっかりにブタ箱にぶち込まれてしまい、出産には立ち会えなかった。
誰かを助けるためだ。笑えるだろう」
HAHAHAとあまり愉快そうには思えない笑い声はまだ続いている。
笑うべきところかどうか、ダグバには判断できない。
道化師のジョークが何かを揶揄しているのか。
自分の過去を語っているのか。
それとも本当にただジョークが言いたかっただけなのか。
ダグバは意味を問うように白く不気味な道化師の顔を見た。
「何。どこかのお嬢ちゃんに聞かせるべきかもしれない、ただのジョークさ。そう、今のところはな」
「なら、僕も笑うべきかい?」
道化師は真っ赤な唇の端を吊り上げる。
「笑うべきさ。これから訪れる運命を、踊ろうとする演出者を、笑ってあげないのは失礼ってものだろ?
HA HA HA HA! さあ、キングも笑いな! HA! HA! HA! HA! HA! HA HA HA HA!」
ダグバは最初は気にしなかったが、やがて少しだけ笑えてきた。
悠久の時を生きてきた中で、いったいいつ以来だろうか。快楽以外の笑みを、僅かながらに蘇らせていた。
「少しだけ……少しだけ笑えるよ」
【E-5/コロッセオ:早朝】
【ジョーカー@バットマン】
[属性]:悪(Set)
[状態]:軽い打撲、打ち身
[装備]:アンカーガン、ロビンのチュニック
[道具]:基本支給品一式×3、カーラーコントローラー(2/4ロックオン済み)
不明支給品1~5(本人確認済み)、ファイアーバードフォーム@天体戦士サンレッド
[思考・状況]
基本行動方針:このゲームをとびっきりのジョークにプロデュースする。
1:他に面白そうなヤツがいたらちょっかいをかけて、「バットマンをコロッセオにおびき出す伝言」をしてみる。
2:バッツ(バットマン)をからかって遊ぶ。
3:面白そうな、使えそうなヤツは、ロックオンしてみる。
4:キング(ダグバ、名前は知らない)としばらく組むのもいい。
5:後でゴッサムタワーにでも向かう。
[備考]
※黒神めだか、ダグバを「ロックオン」済み。
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康 ベルトに傷(極小)
[装備]:なし
[持物]:なし
[方針/目的]
基本方針:好きなように遊ぶ
1:クウガとカズキの究極の闇に期待。
2:道化師(ジョーカー、名前は知らない)のゲゲルにつき合う。
[備考]
※参戦時期は九郎ヶ岳山中で五代を待っている最中(EPISODE48)
※ファイアーバードフォーム@天体戦士サンレッド
サンレッドが相手を強敵と認めたときのみ発動する究極フォーム。
普段は普段は押入れの一番奥にしまわれている。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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